特許第6565891号(P6565891)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6565891
(24)【登録日】2019年8月9日
(45)【発行日】2019年8月28日
(54)【発明の名称】電動車両の駆動装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 3/72 20060101AFI20190819BHJP
   B60K 1/02 20060101ALI20190819BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20190819BHJP
   B60K 17/12 20060101ALI20190819BHJP
【FI】
   F16H3/72 A
   B60K1/02
   B60L15/20 S
   B60K17/12
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-246596(P2016-246596)
(22)【出願日】2016年12月20日
(65)【公開番号】特開2018-100709(P2018-100709A)
(43)【公開日】2018年6月28日
【審査請求日】2018年4月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中澤 輝彦
(72)【発明者】
【氏名】西澤 博幸
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 篤史
(72)【発明者】
【氏名】長田 育充
【審査官】 岡本 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−282070(JP,A)
【文献】 実開昭62−013255(JP,U)
【文献】 特開平11−170881(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 3/72
B60K 1/02
B60K 17/12
B60L 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動車両の駆動装置であって、
第1電動機と、
第2電動機と、
第1電動機が接続される第1入力要素と、第2電動機が接続される第2入力要素と、出力要素とを有する遊星歯車機構と、
第2入力要素の、当該電動車両の前進方向の回転を許容し、後進方向の回転を阻止するクラッチ機構と、
を有し、
遊星歯車機構は、
第1入力要素である第1サンギアと、
第2入力要素である第2サンギアと、
出力要素であるプラネタリキャリアと、
プラネタリキャリアに回転可能に支持され、第1サンギアと噛み合う側プラネタリピニオンと、
プラネタリキャリアに回転可能に支持され、第2サンギアおよび側プラネタリピニオンと噛み合う側プラネタリピンオンと、
から構成され、
遊星歯車機構が、当該電動車両が最高速度で走行し、かつ第2電動機が最高出力かつ最高速度で動作しているときにおいて第1サンギアに入力されるトルクと第2サンギアに入力されるトルクとの比以下の遊星歯車比を有する、
電動車両の駆動装置。
【請求項2】
電動車両の駆動装置であって、
第1電動機と、
第2電動機と、
第1電動機が接続される第1入力要素と、第2電動機が接続される第2入力要素と、出力要素とを有する遊星歯車機構と、
第2入力要素の、当該電動車両の前進方向の回転を許容し、後進方向の回転を阻止するクラッチ機構と、
を有し、
遊星歯車機構は、
第1入力要素である第1サンギアと、
第2入力要素である第2サンギアと、
出力要素であるプラネタリキャリアと、
プラネタリキャリアに回転可能に支持され、第1サンギアと噛み合う側プラネタリピニオンと、
プラネタリキャリアに回転可能に支持され、第2サンギアおよび側プラネタリピニオンと噛み合う側プラネタリピンオンと、
から構成され、
遊星歯車機構が、第1電動機の最大トルク時の第1サンギアに入力されるトルクと、第2電動機の最大トルク時の第2サンギアに入力されるトルクとの比以上の遊星歯車比を有する、
電動車両の駆動装置。
【請求項3】
電動車両の駆動装置であって、
第1電動機と、
第2電動機と、
第1電動機が接続される第1入力要素と、第2電動機が接続される第2入力要素と、出力要素とを有する遊星歯車機構と、
当該電動車両の前進時には、第2入力要素の、当該電動車両の前進方向の回転を許容し、後進方向の回転を阻止し、後進時には、第2入力要素の、当該電動車両の後進方向の回転を許容し、前進方向の回転を阻止するクラッチ機構と、
を有し、
遊星歯車機構は、
第1入力要素である第1サンギアと、
第2入力要素である第2サンギアと、
出力要素であるプラネタリキャリアと、
プラネタリキャリアに回転可能に支持され、第1サンギアと噛み合う側プラネタリピニオンと、
プラネタリキャリアに回転可能に支持され、第2サンギアおよび側プラネタリピニオンと噛み合う側プラネタリピンオンと、
とから構成される、
電動車両の駆動装置。
【請求項4】
請求項に記載の電動車両の駆動装置であって、
遊星歯車機構が、当該電動車両が最高速度で走行し、かつ第2電動機が最高出力かつ最高速度で動作しているときにおいて第1サンギアに入力されるトルクと第2サンギアに入力されるトルクとの比以下の遊星歯車比を有する、
電動車両の駆動装置。
【請求項5】
請求項3または4に記載の電動車両の駆動装置であって、
遊星歯車機構が、第1電動機の最大トルク時の第1サンギアに入力されるトルクと、第2電動機の最大トルク時の第2サンギアに入力されるトルクとの比以上の遊星歯車比を有する、
電動車両の駆動装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の電動車両の駆動装置であって、第1電動機と第1サンギアは第1減速機構を介して接続される、電動車両の駆動装置。
【請求項7】
請求項1からのいずれか1項に記載の電動車両の駆動装置であって、第2電動機と第2サンギアは第2減速機構を介して接続される、電動車両の駆動装置。
【請求項8】
請求項1からのいずれか1項に記載の電動車両の駆動装置であって、第1電動機の駆動力のみを出力する第1モードと、第1電動機と第2電動機の駆動力を出力する第2モードとを切り換え可能な電動車両の駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両の駆動装置に関し、特に2個の電動機を備えた装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両を駆動する原動機として複数の電動機を備えた車両が知られている。下記特許文献1,2には、2機の電動機と1機の内燃機関を備えた車両の駆動装置が示されている。
【0003】
下記特許文献1の駆動装置では、2個の電動機(2,3)が、それぞれ第2の遊星歯車機構(5)の2個のサンギア(11,16)に接続されている。また、内燃機関(1)が、第2の遊星歯車機構(5)のリングギア(12)に第1の遊星歯車機構(4)を介して接続されている。第2の遊星歯車機構(5)は、一方のサンギア(11)に噛み合う内側プラネタリピニオン(13)と、内側プラネタリピニオン(13)と他方のサンギア(16)に噛み合う外側プラネタリピニオン(14)を有し、さらに外側プラネタリピニオン(14)は、リングギア(12)に噛み合っている。第2の遊星歯車機構(5)のプラネタリキャリアが出力要素となっている。
【0004】
下記特許文献2の駆動装置では、2個の電動機(23,24)が、それぞれ遊星歯車機構(20)の2個のサンギア(S1,S2)に接続されている。また、内燃機関(12)が、遊星歯車機構(20)のプラネタリキャリア(C)に接続されている。プラネタリキャリア(C)は、出力軸(17)にも接続されている。遊星歯車機構(5)は、一方のサンギア(S2)に噛み合う内側プラネタリピニオン(P2)と、内側プラネタリピニオン(P2)と他方のサンギア(S1)に噛み合う外側プラネタリピニオン(P1)を有し、さらに外側プラネタリピニオン(P1)は、リングギア(R)に噛み合っている。リングギア(R)はフライホイール(FW)に接続されている。
【0005】
なお、上記において、( )内の符号は、下記特許文献1,2にて使用される符号であり、本願の実施の形態で使用される符号とは関連しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−282070号公報
【特許文献2】特開2010−6306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
内燃機関と2機の電動機が遊星歯車機構に接続された駆動装置においては、内燃機関の回転速度範囲が狭いために、電動機の回転速度が制約を受け、使用可能な回転速度範囲を有効に利用できないという問題があった。また、遊星歯車機構にリングギアがある場合、リングギアを支持する軸受構造等が複雑であり、装置が大型化、重量化する傾向がある。さらに、リングギアが存在すると、各プラネタリピニオンのギア比に制約が生じるという問題があった。さらに、一方の電動機の駆動力により走行しようとすると、他方の電動機が接続された入力要素の回転を止めるために他方の電動機に電力を供給する必要があるという問題があった。
【0008】
本発明は、上記の問題点の少なくとも一つを解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の電動車両の駆動装置は、第1電動機と、第2電動機と、遊星歯車機構とを有する。第1電動機は遊星歯車機構の第1入力要素に接続され、第2電動機は遊星歯車機構の第2入力要素に接続される。駆動装置は、第2入力要素の、電動車両の前進方向の回転を許容し、後進方向の回転を阻止するクラッチ機構をさらに有する。遊星歯車機構は、第1入力要素である第1サンギアと、第2入力要素である第2サンギアと、出力要素であるプラネタリキャリアと、プラネタリキャリアに回転可能に支持され、第1サンギアと噛み合う側プラネタリピニオンと、プラネタリキャリアに回転可能に支持され、第2サンギアおよび側プラネタリピニオンと噛み合う側プラネタリピンオンとから構成される。
【0010】
前記のクラッチ機構は、電動車両の前進時には、第2入力要素の、電動車両の前進方向の回転を許容し、後進方向の回転を阻止し、後進時には、第2入力要素の、電動車両の後進方向の回転を許容し、前進方向の回転を阻止するクラッチ機構と置き換えることができる。
【0011】
また、第1電動機と第1サンギア、および第2電動機と第2サンギアの一方または両方が減速機構を介して接続されるようにすることができる。
【0012】
また、遊星歯車機構が、電動車両の最高速度時において第1サンギアに入力されるトルクと第2サンギアに入力されるトルクとの比以下の遊星歯車比を有するようにすることができる。
【0013】
また、遊星歯車機構が、第1電動機の最大トルク時の第1サンギアに入力されるトルクと、第2電動機の最大トルク時の第2サンギアに入力されるトルクとの比以上の遊星歯車比を有するようにすることができる。
【0014】
また、前述の電動車両の駆動装置は、第1電動機の駆動力のみを出力する第1モードと、第1電動機と第2電動機の駆動力を出力する第2モードとを切り換え可能とすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、内燃機関の回転速度の制約を受けずに電動機を運転することができる。また、リングギアを支持する軸受を設ける必要がない。また、リングギアによる制約を受けずに外側および内側プラネタリピニオンのギア比を設定することができる。また、第2電動機に電力を供給せずに、第1電動機により車両を駆動することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態の駆動装置の構成を示す模式図である。
図2】第1モードにおける駆動装置の動力の流れを示す図である。
図3】第2モードにおける駆動装置の動力の流れを示す図である。
図4】式(15)を満たす駆動装置のトルク特性を示す図である。
図5】式(16)を満たす駆動装置のトルク特性を示す図である。
図6】式(16)および式(23)を満たす駆動装置のトルク特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を、図面に従って説明する。図1は、この実施形態の電動車両の駆動装置10の構成を示す模式図である。駆動装置10は、第1電動機M1と第2電動機M2を備え、第1電動機M1と第2電動機M2は、それぞれ遊星歯車機構12の別個の入力要素に接続されている。遊星歯車機構12の出力要素は差動装置を含む最終減速機14を介して左右の駆動輪16に接続されている。
【0018】
遊星歯車機構12は、2個の入力要素として、第1電動機M1が接続される第1サンギア18と、第2電動機M2が接続される第2サンギア20とを有する。第2サンギア20は、プラネタリキャリア22(以下、キャリア22と記す。)に回転可能に支持された複数の外側プラネタリピニオン24(以下、外側ピニオン24と記す。)と噛み合っている。第1サンギア18は、キャリア22に回転可能に支持された複数の内側プラネタリピニオン26(以下、内側ピニオン26と記す。)と噛み合っている。各内側ピニオン26は、それぞれ1個の外側ピニオン24とも噛み合っている。第1サンギア18、第2サンギア20およびキャリア22は共通の軸線周りに回動可能である。キャリア22は、出力要素として出力ギア28を備える。この出力ギア28は、差動装置と一体に回転する被駆動ギア30と共に最終減速歯車対32を構成する。
【0019】
遊星歯車機構12は、第1サンギア18と外側ピニオン24と内側ピニオン26からなる第1遊星歯車列34と、第2サンギア20と外側ピニオン24からなる第2遊星歯車列36とを含む複合型の遊星歯車機構である。第1遊星歯車列34はダブルピニオン型の遊星歯車列であり、第2遊星歯車列36はシングルピニオン型の遊星歯車列である。
【0020】
第1サンギア18は第1入力軸38に固定され、さらに第1入力軸38は第1入力歯車対40を介して第1電動機M1の出力軸である第1電動機軸42に接続されている。また、第1電動機軸42そのものを第1入力軸38としてもよい。第2サンギア20は第2入力軸44に固定され、さらに第2入力軸44は第2入力歯車対46を介して第2電動機M2の出力軸である第2電動機軸48に接続されている。また、第2電動機軸48そのものを第2入力軸44としてもよい。第1および第2入力歯車対40,46は、第1および第2電動機軸42,48と第1および第2入力軸38,44の間の伝達機構を代表するものであり、他の構成、例えば3個以上の歯車から構成される歯車列としてもよい。また、第1および第2入力歯車対40,46に替えて他の速度変換機構、例えばチェーンとスプロケットを含んが伝達機構としてもよい。
【0021】
この遊星歯車機構12は、3要素2自由度機構であり、3つの要素のうち2つの要素の回転速度が定まると、残りの1つの要素の回転速度が一意に決定する。例えば、第1サンギア18と第2サンギア20の回転速度が定まると、これに応じてキャリア22の回転速度が決定する。
【0022】
第2電動機M2から第2サンギア20に至る伝達系に、この車両が前進するときの第2サンギア20の回転方向の回転を許容し、後進方向の回転を阻止するクラッチ要素が設けられている。クラッチ要素は、例えば第2入力軸44上に設けられたワンウェイクラッチ50である。
【0023】
駆動装置10は、第1電動機M1の出力のみで車両を駆動する第1モードと、第1電動機M1と第2電動機M2の両者の出力により車両を駆動する第2モードとの2つのモードで走行することができる。第1モードは、低速、低負荷の条件で使用され、第2モードは、高速、高負荷の条件で使用される。
【0024】
図2は、第1モードのときの動力の流れを示す図である。第1電動機M1の出力は、第1入力歯車対40を介して第1入力軸38および第1サンギア18に伝わり第1遊星歯車列34を動作させる。第1遊星歯車列34の動作に伴い、第2遊星歯車列36にもトルクが伝わり、第2サンギア20を回転させようとするが、車両前進時においては、この回転はワンウェイクラッチ50により阻止される。これにより、3つの要素のうち、2つの要素(第1サンギア18、第2サンギア20)の回転速度が定まり、残りの1つの要素(キャリア22)の回転速度が定まる。キャリア22の回転は、最終減速機14を介して駆動輪16に伝わる。
【0025】
車両後進時においては、第2サンギア20をワンウェイクラッチ50によって固定することができないので、第2電動機M2を動作させて第2サンギア20を固定するか、または極低速で駆動する。
【0026】
図3は、第2モードのときの動力の流れを示す図である。第1電動機M1の出力は、第1入力歯車対40を介して第1入力軸38および第1サンギア18に伝わる。一方、第2電動機M2の出力は、第2入力歯車対46を介して第2入力軸44および第2サンギア20に伝わる。2つの要素(第1サンギア18、第2サンギア20)の回転速度が決定するので、残りの1つの要素(キャリア22)の回転速度が定まる。
【0027】
また、車両が、ある速度で走行中においては、キャリア22の回転速度が車両の速度に応じて決定する。第1電動機M1と第2電動機M2の回転速度は、相互に制約を受けるが変更可能である。したがって、2機の電動機の効率がよい回転速度で運転することで、駆動装置10の電力消費を少なくすることができる。
【0028】
第2電動機M2は、ワンウェイクラッチ50により後進方向の回転が阻止されているので、第2モードは後進時には使用できない。
【0029】
クラッチ要素として、ワンウェイクラッチ50を、回転阻止方向を切り換えられるツーウェイクラッチとすることで後進時にも第2モードを使用することができるようになる。また、クラッチ要素として、油圧クラッチや、凹凸を噛み合わせて回転を阻止するドグクラッチを単独で、またはワンウェイクラッチやツーウェイクラッチと併用して採用してもよい。
【0030】
図1に示されるように、遊星歯車機構12は、外側ピニオン24を取り囲むように配置されるリングギアを有していない。リングギアが無いこと、およびリングギアを支持する軸受構造が無いことにより、装置の構成を簡略化できる。リングギアを設けた場合と同様の装置外形であれば、リングギアを設けない分、遊星歯車機構12の各ギアの外径の自由度が増し、ギア比の設定幅が拡がる。
【0031】
次に、駆動装置10の運用に有利な諸元について説明する。各パラメータを以下のように定める。
1out 第1電動機の最高出力[kW]
2out 第2電動機の最高出力[kW]
ωM1 第1電動機の回転速度[rpm]
ωM2 第2電動機の回転速度[rpm]
ωM1max 第1電動機の最高回転速度[rpm]
ωM2max 第2電動機の最高回転速度[rpm]
M1 第1電動機のトルク[Nm]
M2 第2電動機のトルク[Nm]
M1max 第1電動機の最大トルク[Nm]
M2max 第2電動機の最大トルク[Nm]
γM1 第1入力歯車対の減速比
γM2 第2入力歯車対の減速比
ωs1 第1サンギアの回転速度[rpm]
ωs2 第2サンギアの回転速度[rpm]
ωc キャリアの回転速度[rpm]
s1 第1サンギアのトルク[Nm]
s2 第2サンギアのトルク[Nm]
c キャリアのトルク[Nm]
s1 第1サンギアの歯数
s2 第2サンギアの歯数
λ=Zs1/Zs2 遊星歯車比
γf 最終減速比(出力要素減速比)
d 駆動輪の動半径[mm]
max 設定時最高車速[km/h]
なお、第1および第2の電動機の最高回転速度ωM1max,ωM2maxは、各電動機の効率のよい範囲で設定された使用される速度範囲の上限値である。
【0032】
第1モードにおいては、第2サンギアの回転速度ωs2が0であるから、回転速度の拘束条件は、下記の(1),(2)式となる。
λωs1=(1+λ)ωc ・・・(1)
ωs1=ωM1M1 ・・・(2)
また、トルクの拘束条件は、次式(3),(4)となる。
λTc=(1+λ)Ts1 ・・・(3)
s1=γM1M1 ・・・(4)
【0033】
第2モードの回転速度、および定常状態のトルクの拘束条件は、次式(5)〜(11)となる。
λωs1+ωs2=(1+λ)ωc ・・・(5)
ωs1=ωM1M1 ・・・(6)
ωs2=ωM2M2 ・・・(7)
c=Ts1+Ts2 ・・・(8)
s1=λTs2 ・・・(9)
s1=γM1M1 ・・・(10)
s2=γM2M2 ・・・(11)
【0034】
駆動輪の回転速度およびトルクは次式(12),(13)となる。
駆動輪の回転速度 ωcf ・・・(12)
駆動輪のトルク γfc ・・・(13)
【0035】
電動機の出力トルクは、ある回転速度まで一定で、その後低下する。第1電動機M1のトルクが一定の回転速度範囲で第1モードを選択し、トルクが低下する範囲で第2モードを選択し、モードが切り替わったとき車両の駆動トルクが変化しないようにする場合を考える。モードの切り替わり前後で駆動トルクが同じになるためには、第1電動機M1のトルクが維持される必要がある(TM1=TM1max)。このことと、式(9)〜(11)から次式を得る。
γM1M1max=λγM2M2
さらに、TM2≦TM2maxであるので、式(14)となる。
γM1M1max≦λγM2M2max ・・・(14)
【0036】
第1および第2電動機の最大トルクTM1max,TM2maxと、第1および第2入力歯車対の減速比γM1,γM2とが式(14)の関係を満たせば、第1モードと第2モードの切り替え時における車両の駆動トルクを連続的にすることができる。
【0037】
一方、式(14)を満たさない場合は、式(15)となる。
【数1】
各諸元が、式(15)を満たす場合、第1モードの最大駆動トルクが第2モードの最大トルクより大きくなる。このときのトルク特性を図4に示す。この場合、モード切替え時に駆動トルクが不連続になる場合があるが発進時に大きな駆動力を得ることができる。
【0038】
また、式(15)を変形すると式(15)’となる。
【数2】
式(15)’の右辺の分子は第1サンギア18に入力される最大トルクであり、分母は第2サンギア20に入力される最大トルクである。したがって、遊星歯車比λを、第1電動機M1が最大トルクTM1maxで運転しているときの第1サンギア18に入力されるトルクと、第2電動機M2が最大トルクTM2maxで運転しているときの第2サンギア20に入力されるトルクの比よりも小さい値とすることで図4に示すトルク特性を得ることができる。
【0039】
式(14)を変形すると式(16),(16)’となる。
【数3】
第1および第2電動機の最大トルクTM1max,TM2maxと、第1および第2入力歯車対の減速比γM1,γM2とが式(16)を満たす場合、最大出力時において第1モードから第2モードに切り替えた際、駆動トルクが変化せず、ショックなくモードが切り替わる。式(16)’の右辺の分子は第1サンギア18に入力される最大トルクであり、分母は第2サンギア20に入力される最大トルクである。したがって、遊星歯車比λを、第1サンギア18に入力される最大トルクと第2サンギア20に入力される最大トルクの比以上の値とすることで、図5に示すトルク特性を得ることができる。図5のトルク特性が示すように、最大出力時におけるモード切り替え時のショックを抑えることができる。
【0040】
次に、車両が最高速度で走行しているときを考える。このとき、第2電動機M2が最高回転速度で回転し、この回転速度での最高のトルクTM2(u)を出力するためには、このトルクTM2(u)に見合ったトルクを第1電動機M1が出力する必要がある。この第2電動機M2の最高のトルクTM2(u)に対応する第2サンギアのトルクをTs2(u)とする。第2電動機M2が最高回転速度、最高のトルクTM2(u)のとき、第1サンギアのトルクTs1(t)は、式(9)より次式で表される。
s1(t)=λTs2(u)
最高速度で走行中に、第1電動機M1が第1サンギア18をトルクTs1(t)以上のトルクで駆動する能力があれば、つまり最高速度走行時の第1サンギアの最高のトルクTs1(u)がTs1(t)以上であれば(Ts1(u)≧Ts1(t))、最高速度を維持することができる。つまり、次式(17)を満たすことにより最高速を維持することができる。
s1(u)≧λTs2(u) ・・・(17)
言い換えれば、式(17)を満たさなければ、車両加速時において第2電動機M2が最高回転速度に達する前に、図6に破線で示すように駆動装置10全体の駆動トルクが低下し、車両が最高速度に達することができなくなる。式(17)を変形して式(17)’を得る。
λ≦Ts1(u)/Ts2(u) ・・・(17)’
式(17)’は、遊星歯車比λをTs1(u)/Ts2(u)以下とすることで、最高速度付近での駆動トルクの低下を抑制することができることを意味している。つまり、車両が最高速度で走行しており、第2電動機が最高出力かつ最高速度で動作しているとき、第1サンギア18に入力されるトルクTs1(u)と第2サンギア20に入力されるTs2(u)の比以下に遊星歯車比λを設定することで、最高速度付近での駆動力の低下を抑制することができる。
【0041】
第2サンギアのトルクTs2(u)は、第2電動機M2が最高出力M2outかつ最高速度ωM2maxで動作しているとき得られるトルクであり、式(11)から式(18)を得る。第1サンギアのトルクTs1(u)は、第1電動機M1が最高出力M1outで動作しているときに得られるトルクであり、式(10)から式(19)を得る。
s2(u)=(M2outγM2M2max)×(6000/2π) ・・・(18)
s1(u)=(M1outγM1M1)×(6000/2π) ・・・(19)
【0042】
車両最高速度のときのキャリアの回転速度をωcmaxとし、式(5)〜(7)から次式(20)を得る。
【数4】
【0043】
式(17)〜(20)から次式(21)を得る。
【数5】
【0044】
さらに、車両の最高速度Vmaxにおけるキャリアの回転速度は次式(22)で表される。
ωcmax=(Vmaxγf/Rd)×[1000000/(2π・60)] ・・・(22)
式(21),(22)から次式(23)を得る。
【数6】
式(23)を満たすように遊星歯車機構等のギア比および電動機の出力を設定することにより、最高速近傍での駆動力の低下(図6破線)を抑制できる。
【0045】
式(16)および式(23)を満たすように各諸元が設定されることにより、つまり次式(24),(25)を満たすことにより、最大出力時におけるモード切替の際に、駆動トルクが連続的につながり、かつ最高速度付近での駆動トルクの落ち込みが抑制される。なお、式(25)は、式(24)の左右両辺から導かれる。
【数7】
【符号の説明】
【0046】
10 駆動装置、12 遊星歯車機構、14 最終減速機、16 駆動輪、18 第1サンギア、20 第2サンギア、22 プラネタリキャリア、24 外側プラネタリピニオン、26 内側プラネタリピニオン、28 出力ギア、30 被駆動ギア、32 最終減速歯車対、34 第1遊星歯車列、36 第2遊星歯車列、38 第1入力軸、40 第1入力歯車対、42 第1電動機軸、44 第2入力軸、46 第2入力歯車対、48 第2電動機軸、50 ワンウェイクラッチ、M1 第1電動機、M2 第2電動機。
図1
図2
図3
図4
図5
図6