特許第6565992号(P6565992)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6565992α−フルオロアクリル酸エステルの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6565992
(24)【登録日】2019年8月9日
(45)【発行日】2019年8月28日
(54)【発明の名称】α−フルオロアクリル酸エステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/327 20060101AFI20190819BHJP
   C07C 69/653 20060101ALI20190819BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20190819BHJP
【FI】
   C07C67/327
   C07C69/653
   !C07B61/00 300
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-177445(P2017-177445)
(22)【出願日】2017年9月15日
(62)【分割の表示】特願2013-269489(P2013-269489)の分割
【原出願日】2013年12月26日
(65)【公開番号】特開2018-30857(P2018-30857A)
(43)【公開日】2018年3月1日
【審査請求日】2017年9月15日
(31)【優先権主張番号】特願2012-288095(P2012-288095)
(32)【優先日】2012年12月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神原 將
(72)【発明者】
【氏名】日高 麻衣
(72)【発明者】
【氏名】大塚 達也
(72)【発明者】
【氏名】石原 寿美
(72)【発明者】
【氏名】黒木 克親
(72)【発明者】
【氏名】山本 明典
(72)【発明者】
【氏名】岸川 洋介
【審査官】 山本 昌広
(56)【参考文献】
【文献】 英国特許出願公告第01115287(GB,A)
【文献】 特開昭62−026247(JP,A)
【文献】 特開2001−172223(JP,A)
【文献】 特開平05−201921(JP,A)
【文献】 特開昭60−078941(JP,A)
【文献】 特開2010−285350(JP,A)
【文献】 特公昭47−039089(JP,B1)
【文献】 CHEMISTRY LETTERS,1981年,pp. 1259-1260
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
【化1】
[式中、
はアルキル基を表し、
は、水素を表す。]
で表される化合物の製造方法であって、
式(2):
【化2】
[式中、
は、アルキル基を表し、
その他の記号は前記と同意義を表す。]
で表される化合物を、アルカリ金属ハロゲン化物と接触させて、前記式(1)で表される化合物を得る工程Aを含む
製造方法。
【請求項2】
前記アルカリ金属ハロゲン化物が、ハロゲン化カリウムである請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記アルカリ金属ハロゲン化物が、フッ化カリウムである請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
工程Aが、有機溶媒中で実施される請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記有機溶媒が、極性有機溶媒である請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記有機溶媒が、100℃以上の沸点を有する有機溶媒である請求項4に記載の製造方法。
【請求項7】
前記有機溶媒が、スルフォラン、ジメチルスルホキシド、グライム、ジグライム、メチルピロリドン、プロピレンカーボネート、又はエチレンカーボネートである請求項4〜6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
工程Aが、工程Aの反応混合物の水含有量が反応開始時に1.0%(w/w)以下で実施される請求項1〜7のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α−フルオロアクリル酸エステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
α−フルオロアクリル酸エステルは、医薬(例えば、抗生物質)の合成中間体、光学繊維のさや材料用の合成中間体、塗料用材料の合成中間体、半導体レジスト材料の合成中間体、及び機能性高分子の単量体等として有用である。
従来、α−フルオロアクリル酸エステルの製法としては、例えば、強塩基の存在下で、フルオロ酢酸エステルとホルムアルデヒドとを反応させてα−フルオロアクリル酸エステルを得る方法であって、ジ(低級)オキサレートをフルオロ酢酸エステルと混合し、当該混合物をホルムアルデヒドアルデヒドと反応させる方法が知られている(特許文献1)。
一方、β置換された当該α-フルオロアクリレートの製造方法としては、スプレードラ
イしたフッ化カリウムを用いて、クロロマロン酸と、ホルムアルデヒド以外のアルデヒドとから、β置換されたα−アクリル酸エステルをワンポットで製造する方法が知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第3262968号明細書
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Chemistry Letters, 1981, p. 1259-1260
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の方法には、原料化合物の毒性が高い等の問題があった。
一方、非特許文献1に記載の方法に準じて、仮に、ホルムアルデヒド以外のアルデヒドに換えて、ホルムアルデヒド水溶液であるホルマリンを使用できれば、特許文献1に記載の中間体を経由すること無しに、α−フルオロアクリル酸エステルが得られる。しかし、実際には、当該反応では、水が存在するとα−フルオロアクリル酸エステルはほとんど得られないので、非特許文献1に記載の方法に準じて、ホルマリンを使用してα−フルオロアクリル酸エステルを製造することはできない。従って、本発明者らは、ホルムアルデヒドガス、及びパラホルムアルデヒドを使用して、非特許文献1に記載の方法に準じた方法で、α−フルオロアクリル酸エステルの製造を試みた。しかし、いずれの場合でも、α−フルオロアクリル酸エステルは、ほとんど得られなかった。
従って、本発明は、毒性が高い原料化合物を使用すること無く、低い製造コストでα−フルオロアクリル酸エステルを製造できる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、次の態様を含む。
【0007】
項1.
式(1):
【化1】
[式中、
はアルキル基を表し、
は、水素、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、又は置換されていてもよいヘテロアリール基を表す。]
で表される化合物の製造方法であって、
式(2):
【化2】
[式中、
は、アルキル基を表し、
その他の記号は前記と同意義を表す。]
で表される化合物を、アルカリ金属ハロゲン化物と接触させて、前記式(1)で表される化合物を得る工程Aを含む
製造方法。
項2.
前記アルカリ金属ハロゲン化物が、ハロゲン化カリウムである項1に記載の製造方法。
項3.
前記アルカリ金属ハロゲン化物が、フッ化カリウムである項1に記載の製造方法。
項4.
工程Aが、有機溶媒中で実施される項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
項5.
前記有機溶媒が、極性有機溶媒である項4に記載の製造方法。
項6.
前記有機溶媒が、100℃以上の沸点を有する有機溶媒である項4に記載の製造方法。
項7.
前記有機溶媒が、スルフォラン、ジメチルスルホキシド、グライム、ジグライム、メチルピロリドン、プロピレンカーボネート、又はエチレンカーボネートである項4〜6のいずれか一項に記載の製造方法。
項8.
工程Aが、実質的に水不存在下で実施される項1〜7のいずれか一項に記載の製造方法。項9.
式(1):
【化3】
[式中、
はアルキル基を表し、
は、水素、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、又は置換されていてもよいヘテロアリール基を表す。]
で表される化合物、及び
式(3):
【化4】
[式中、
及びRは、同一又は異なって、水素、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、又は置換されていてもよいヘテロアリール基を表し、
その他の記号は、前記と同意義を表す。]
で表される化合物を
含有し、
前記(1)で表される化合物の質量に対する前記(3)で表される化合物の質量の比が、0.01〜10%(w/w)の範囲内である、
組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、毒性が高い原料化合物を使用すること無く、低い製造コストでα−フルオロアクリル酸エステルを製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書中、「アルキル基」(「モノ−アルキルアミノ基」等の置換基中の「アルキル基」を包含する)としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基等のC1−6アルキル基が挙げられる。
本明細書中、「C1−3アルキル基」としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等が挙げられる。
本明細書中、「アルコキシ基」としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基等のC1−6アルコキシ基が挙げられる。
本明細書中、「ハロゲン」としては、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。
本明細書中、「アリール基」としては、フェニル基、ビフェニリル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、アセナフチレニル基等のC6−18アリール基が挙げられる。
本明細書中「ヘテロアリール基」としては、例えば、環構成原子として、炭素原子以外に窒素原子、硫黄原子、及び酸素原子からなる群より選ばれる1〜4個のヘテロ原子を含
む5〜14員(単環、2環、又は3環式)複素環基が挙げられる。
本明細書中、「ヘテロアリール基」として、具体的には例えば、
(1)フリル基、チエニル基、ピリジル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、ピラジニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、オキサジアゾリル基、チアジアゾリル基、トリアゾリル基、テトラゾリル基、トリアジニル基等の単環式芳香族複素環基;並びに
(2)キノリル基、イソキノリル基、キナゾリル基、キノキサリル基、ベンゾフリル基、ベンゾチエニル基、ベンズオキサゾリル基、ベンズイソオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、ベンズイミダゾリル基、ベンゾトリアゾリル基、インドリル基、インダゾリル基、ピロロピラジニル基、イミダゾピリジニル基、イミダゾピラジニル基、イミダゾチアゾリルピラゾロピリジニル基、ピラゾロチエニル基、ピラゾロトリアジニル基等の多環式(例、二環式)芳香族複素環基が挙げられる。
【0010】
本発明の製造方法は、
式(1):
【化5】
[式中、
はアルキル基を表し、
は、水素、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、又は置換されていてもよいヘテロアリール基を表す。]
で表される化合物の製造方法であって、
式(2):
【化6】
[式中、
は、アルキル基を表し、
その他の記号は前記と同意義を表す。]
で表される化合物を、アルカリ金属ハロゲン化物と接触させて、前記式(1)で表される化合物を得る工程Aを含む。
【0011】
は、好ましくはメチル基、又はエチル基、より好ましくはメチル基である。
【0012】
で表される「置換されていてもよいアルキル基」は、例えば、ハロゲン、アルキル基(好ましくは、C1−6アルキル基)、アルコキシ基(好ましくは、C1−6アルコキシ基)、アミノ基、モノ−アルキルアミノ基(好ましくは、モノ−C1−6アルキルアミノ基)、及びジ−アルキルアミノ基(好ましくは、ジ−C1−6アルキルアミノ基)からなる群より選択される1個以上(例、1〜3個)の置換基で置換されていてもよいアルキ
ル基である。
で表される「置換されていてもよいアリール基」は、例えば、ハロゲン、アルキル基(好ましくは、C1−6アルキル基)、アルコキシ基(好ましくは、C1−6アルコキシ基)、アミノ基、モノ−アルキルアミノ基(好ましくは、モノ−C1−6アルキルアミノ基)、及びジ−アルキルアミノ基(好ましくは、ジ−C1−6アルキルアミノ基)からなる群より選択される1個以上(例、1〜3個)の置換基で置換されていてもよいアリール基である。
で表される「置換されていてもよいヘテロアリール基」は、例えば、ハロゲン、アルキル基(好ましくは、C1−6アルキル基)、アルコキシ基(好ましくは、C1−6アルコキシ基)、アミノ基、モノ−アルキルアミノ基(好ましくは、モノ−C1−6アルキルアミノ基)、及びジ−アルキルアミノ基(好ましくは、ジ−C1−6アルキルアミノ基)からなる群より選択される1個以上(例、1〜3個)の置換基で置換されていてもよいヘテロアリール基である。
は、好ましくは水素、又はアルキル基であり、特に好ましくは水素である。
【0013】
前記式(1)で表される化合物は、好ましくはメチル−2−フルオロアクリレート、又はエチル−2−フルオロアクリレートであり、特に好ましくはメチル−2−フルオロアクリレートである。
【0014】
は、好ましくはC1−3アルキル基、より好ましくはメチル基、又はエチル基、特
に好ましくはメチル基である。
前記式(2)で表される化合物は、特に好ましくはR及びRが共にメチル基であり、Rが水素である化合物である。
【0015】
前記式(2)で表される化合物は公知の化合物であり、特開平6−184234号公報に記載の方法等の公知の方法、すなわち具体的には、α−フルオロマロン酸−ジメチルエステルをホルムアルデヒドと反応させる方法、又はそれに準じる方法によって製造することができる。
【0016】
工程Aで用いられるアルカリ金属ハロゲン化物としては、例えば、ハロゲン化リチウム(例えば、フッ化リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム等)、ハロゲン化ナトリウム(例えば、フッ化ナトリウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム等)、ハロゲン化カリウム(例えば、フッ化カリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム等)、ハロゲン化セシウム(例えば、フッ化セシウム、塩化セシウム、臭化セシウム、ヨウ化セシウム等)等が挙げられる。
なかでも、好ましくは、例えば、ハロゲン化ナトリウム、ハロゲン化カリウムであり、より好ましくは、例えば、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、フッ化カリウム、塩化カリウム、臭化カリウムである。
当該アルカリ金属ハロゲン化物の量は、前記式(2)で表される化合物1モルに対して、通常0.001〜5モルの範囲内であり、好ましくは0.01〜1モルの範囲内である。
【0017】
工程Aは、好ましくは有機溶媒中、又は無溶媒下(ニート)で実施される。
工程Aが有機溶媒中で実施される場合、前記式(2)で表される化合物の、前記アルカリ金属ハロゲン化物との接触は、例えば、前記有機溶媒中に、これらを投入し、必要に応じて混合することによって、実施できる。
【0018】
工程Aで用いられる有機溶媒は、極性有機溶媒、又は非極性有機溶媒であることができる。工程Aで用いられる有機溶媒は、好ましくは極性有機溶媒である。
工程Aで用いられる有機溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド、ジメチルホル
ムアミド、ジメチルアセトアミド、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール誘導体(例:エチレングリコールジメチルエ
ーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル)、キノリン、テトラヒドロキノリン、メチルピロリドン、ジメチルイミダゾリジノ
ン、ヘキサメチルホスホルアミド、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、キシレン、メシチレン、アルカン類(例:デカン、ドデカン)等が挙げられる。
なかでも、好ましくは、例えば、スルフォラン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレンカーボネートであり、より好ましくは、例えば、スルフォラン、ジメチルスルホキシド、グライム、ジグライム、メチルピロリドン、プロピレンカーボネート、又はエチレンカーボネートである。
当該有機溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
当該有機溶媒は、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、更に好ましくは150℃以上の沸点を有する有機溶媒である。当該沸点の上限は、限定されないが、通常、300℃である。
当該有機溶媒が、このように高い沸点を有することにより、比較的沸点が低い式(1)の化合物を減圧蒸留して、高い収率で得ることができる。
当該有機溶媒として特に好ましくは、例えば、スルフォランである。
当該有機溶媒の量は、前記式(2)で表される化合物1gに対して、通常0〜100mLの範囲内、好ましくは0.01〜10mLの範囲内、より好ましくは0.1〜1mLの
範囲内である。
【0019】
工程Aは、好ましくは実質的に水不存在下で実施される。
ここで「実質的に水不存在」とは、工程Aの反応混合物の水含有量が反応開始時に1.0%(w/w)以下であることを意味する。
工程Aの反応系中に水が存在する場合、式(1)で表される化合物の収率が低下する。
【0020】
工程Aの反応では、所望により、重合禁止剤を用いてもよい。重合禁止剤の例として、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、4−メトキシフェノール、ハイドロキノン、フェノチアジン、ベンゾキノン、フェノチアジン等が挙げられる。
当該重合禁止剤の量は、前記式(2)で表される化合物1重量部に対して、通常0.0003〜0.25重量部の範囲内、好ましくは0.0005〜0.05重量部の範囲内、より好ましくは0.001〜0.01重量部の範囲内である。
【0021】
工程Aの反応の反応温度は、通常60〜160℃の範囲内であり、好ましくは70〜150℃の範囲内であり、より好ましくは80〜140℃の範囲内である。
より高い反応温度を採用することにより、反応時間をより短くすることができる。
【0022】
工程Aの反応の反応時間は、例えば、収率が最大になる時間に設定すればよく、具体的には通常1〜24時間の範囲内であり、より好ましくは1〜12時間の範囲内であり、更に好ましくは2〜12時間の範囲内である。
【0023】
本発明の製造方法において、生成した式(1)で表される化合物は、反応を進行させながら、減圧蒸留等の方法で、反応系から取り出してもよい。
【0024】
本発明の製造方法における原料の収率は好ましくは40%以上であり、より好ましくは50%以上であり、更に好ましくは60%以上である。
【0025】
本発明の製造方法においては、式(1)で表される化合物と共に、
式(3):
【化7】
[式中、
及びRは、同一又は異なって、水素、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、又は置換されていてもよいヘテロアリール基を表し、
その他の記号は、前記と同意義を表す。]
で表される化合物が得られる。
ここで、R、及びRは、同一又は異なって、前記のR、R、又はRに由来し、及びこれらのいずれかと同一でありうる。
当該化合物としては、例えば、ジメトキシメタンが挙げられる。
【0026】
本発明の組成物は、前記式(1)で表される化合物、及び前記式(3)で表される化合物を含有し、
前記(1)で表される化合物の質量に対する前記(3)で表される化合物の質量の比が、0.01〜10%(w/w)の範囲内である。
当該質量の比は、以下の条件によるガスクロマトグラフィーにより求められる。
[ガスクロマトグラィーの条件]
カラム:DB−5MS 60m, 0.25mm, 0.25μm
キャリアーガス:He
気化室温度:300℃
カラムオーブン:40℃(10分) 昇温8℃/分 200℃
検出器温度 320℃
検出器 FID
【0027】
本発明の組成物は、前記(1)で表される化合物の質量に対する前記(3)で表される化合物の質量の比が、0.01〜10%(w/w)、好ましくは0.01〜5%(w/w)の範囲内、より好ましくは0.01〜3%(w/w)の範囲内、更に好ましくは0.01〜1%(w/w)の範囲内、より更に好ましくは0.01〜0.5%(w/w)の範囲内であることにより、例えば、医薬(例えば、抗生物質)の合成中間体、光学繊維のさや材料用の合成中間体、塗料用材料の合成中間体、半導体レジスト材料の合成中間体、及び機能性高分子の単量体等の合成中間体組成物として好適に使用することができ、かつ当該組成物の製造コストの点で有利であり、それにより、最終製品の製造コストの点でも有利である。
【0028】
本発明の製造方法で得られた式(1)で表される化合物は、所望により、溶媒抽出、乾燥、濾過、蒸留、濃縮、及びこれらの組み合わせ等の公知の精製方法によって精製することができる。
【実施例】
【0029】
実施例1
100mL ナスフラスコに、フッ化カリウム2.91g(50mmol)、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT) 55.1mg(0.250mmol)、ジメチル 2−フルオロ−2−ヒドロキシメチルマロネート 45.0g(250mmol)、及びスルホラン11.5mL(14.5g)を投入、及び混合した。常圧下、90℃で15分間、続いて減圧下、105℃で1時間加熱して、反応と同時に蒸留し、メチル−2−フルオロアクリレートをメタノールとの混合物として得た。
収量は18.2g(メタノールとの混合物として、26.8g)であり、収率は70%であった。
当該混合物は、ジメトキシメタンを含有した。以下の条件によるガスクロマトグラフィーにより算出したメチル−2−フルオロアクリレートの質量に対するジメトキシメタンの質量の比は、0.16%(w/w)であった。
[ガスクロマトグラィーの条件]
カラム:DB−5MS 60m, 0.25mm, 0.25μm
キャリアーガス:He
気化室温度:300℃
カラムオーブン:40℃(10分) 昇温8℃/分 200℃
検出器温度 320℃
検出器 FID
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明によれば、単離が困難な中間体を経由すること無く、低い製造コスト、かつ高い収率でα−フルオロアクリル酸エステルを製造できる。