(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6566036
(24)【登録日】2019年8月9日
(45)【発行日】2019年8月28日
(54)【発明の名称】マイコトキシンの分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 30/88 20060101AFI20190819BHJP
G01N 30/78 20060101ALI20190819BHJP
G01N 30/74 20060101ALI20190819BHJP
G01N 30/26 20060101ALI20190819BHJP
【FI】
G01N30/88 A
G01N30/78
G01N30/74 F
G01N30/74 E
G01N30/26 A
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-537068(P2017-537068)
(86)(22)【出願日】2015年8月28日
(86)【国際出願番号】JP2015074523
(87)【国際公開番号】WO2017037802
(87)【国際公開日】20170309
【審査請求日】2018年1月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100141852
【弁理士】
【氏名又は名称】吉本 力
(74)【代理人】
【識別番号】100152571
【弁理士】
【氏名又は名称】新宅 将人
(72)【発明者】
【氏名】内田 あずさ
(72)【発明者】
【氏名】岩田 奈津紀
(72)【発明者】
【氏名】中島 みのり
【審査官】
磯田 真美
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2007/0117219(US,A1)
【文献】
特開2012−220401(JP,A)
【文献】
特開2013−083479(JP,A)
【文献】
特開平01−244342(JP,A)
【文献】
米国特許第05178832(US,A)
【文献】
Agilent 6410 による13 種カビ毒の一斉分析法,アプリケーションノート,日本,Agilent Technologies,2008年 7月,LCMS-200807TK-002,全文全図,URL,http://www.agilent.com/cs/library/applications/LCMS-200807TK-002.pdf
【文献】
TAMURA, M. et al.,Development of a Multi-mycotoxin Analysis in Beer-based Drinks by a Modified QuEChERS Method and Ultra-High-Performance Liquid Chromatography Coupled with Tandem Mass Spectrometry,ANALYTICAL SCIENCES,2011年 6月,Vol. 27,pp. 629-635
【文献】
SCHENZEL, J. et al.,Development, validation and application of a multi-mycotoxin method for the analysis of whole wheat plants,Mycotoxin Research,2012年,Vol. 28,pp. 135-147
【文献】
五十畑悦子ほか,高速液体クロマトグラフィーによる穀類中の複数マイコトキシンの同時分析,日本食品工業学会誌,1992年,Vol. 39, No. 7,pp. 632-640
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00 − 30/96
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
緩衝液とアセトニトリル及びメタノールを含む有機溶媒との混合液を移動相とし、アセトニトリルの混合率及びメタノールの混合率を時間経過とともに上昇させながら、移動相を前記カラムに供給することにより、液体試料に含まれる総アフラトキシン、デオキシニバレノール、ニバレノール及びパツリンをカラムで分離させる分離ステップと、
前記分離ステップにより分離された各成分を同一分析条件で少なくとも2つの検出器で検出する検出ステップと、
前記検出ステップによる検出結果に基づいて各成分を同定する同定ステップとを備え、
前記少なくとも2つの検出器には、蛍光検出器が含まれており、
前記同定ステップでは、前記同一分析条件による1回の前記検出ステップの結果に基づいて、前記蛍光検出器からの検出信号に基づいて総アフラトキシンを同定するとともに、前記蛍光検出器以外の検出器からの検出信号に基づいてデオキシニバレノール、ニバレノール及びパツリンを同定することを特徴とするマイコトキシンの分析方法。
【請求項2】
前記少なくとも2つの検出器には、フォトダイオードアレイ検出器が含まれており、
前記同定ステップでは、前記フォトダイオードアレイ検出器からの検出信号に基づいてデオキシニバレノール、ニバレノール及びパツリンを同定することを特徴とする請求項1に記載のマイコトキシンの分析方法。
【請求項3】
前記検出ステップでは、前記蛍光検出器で検出する蛍光の波長を予め設定されたタイミングで切り替えることを特徴とする請求項1に記載のマイコトキシンの分析方法。
【請求項4】
デオキシニバレノール、ニバレノール及びパツリンの同定は、前記フォトダイオードアレイ検出器からの検出信号に基づく各波長のクロマトグラムの各ピークにおける波長と吸光度との関係を表わすスペクトルが、予め作成されているデオキシニバレノール、ニバレノール及びパツリンの各スペクトルライブラリと比較され、一致度が求められることにより、求められた一致度に基づいて判定される、請求項2に記載のマイコトキシンの分析方法。
【請求項5】
液体試料に含まれる各成分をカラムで分離させる分離ステップと、
前記分離ステップにより分離された各成分を同一分析条件で少なくとも2つの検出器で検出する検出ステップと、
前記検出ステップによる検出結果に基づいて各成分を同定する同定ステップとを備え、
前記少なくとも2つの検出器には、蛍光検出器及びフォトダイオードアレイ検出器が含まれており、
前記同定ステップでは、前記同一分析条件による1回の前記検出ステップの結果に基づいて、前記蛍光検出器からの検出信号に基づいて総アフラトキシンを同定するとともに、前記フォトダイオードアレイ検出器からの検出信号に基づいてデオキシニバレノール、ニバレノール及びパツリンを同定し、
デオキシニバレノール、ニバレノール及びパツリンの同定は、前記フォトダイオードアレイ検出器からの検出信号に基づく各波長のクロマトグラムの各ピークにおける波長と吸光度との関係を表わすスペクトルが、予め作成されているデオキシニバレノール、ニバレノール及びパツリンの各スペクトルライブラリと比較され、一致度が求められることにより、求められた一致度に基づいて判定される、
ことを特徴とするマイコトキシンの分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品や飲料などに産生されるマイコトキシン(かび毒)の分析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば食品や飲料などには、人又は動物に対して毒性を有するマイコトキシンが産生される場合がある。マイコトキシンは、カビが産生する二次代謝産物の中で人又は動物に健康被害を及ぼす化合物であり、その分析方法として種々の方法が提案されている(例えば、下記特許文献1参照)。特に、マイコトキシンの一種であるアフラトキシンは、天然物質の中で最も強い発がん性を有する物質の1つとして知られており、世界中の多くの国や地域で厳しい規制が行われている。
【0003】
小麦などの穀類には、上記アフラトキシンの5成分(B1,B2,G1,G2,M1)のうちの4成分(B1,B2,G1,G2)の他、オクラトキシン、ゼアラレノン、トリコテセン系(デオキシニバレノール、ニバレノール)といったマイコトキシンが産生される場合がある。アフラトキシンの5成分のうち、B1、B2、G1、G2の4成分は、総アフラトキシンと呼ばれている。
【0004】
上記のようなマイコトキシンの各成分については、それぞれ個別の分析方法が確立されている。例えば、総アフラトキシンの分析方法としては、蛍光検出器又は質量分析計を備えた高速液体クロマトグラフを使用して液体試料を分析する方法が、厚生労働省や国際食品規格委員会から通知されている。また、デオキシニバレノールの分析方法としては、紫外分光光度型検出器を備えた高速液体クロマトグラフを使用して液体試料を分析する方法が、同じく厚生労働省や国際食品規格委員会から通知されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−25680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したマイコトキシンの各成分の分析方法は、いずれも異なる条件下で行われる。そのため、複数種類の成分について分析を行う場合には、条件を変更して複数回の分析を行う必要があり、作業が煩雑であった。
【0007】
また、上述したマイコトキシンの各成分の分析方法は、液体試料中の各成分の同定だけでなく、定量も行うことができる方法である。そのため、液体試料中にマイコトキシンの各成分が含まれているか否かを確認できれば十分であるような場合でも、各成分の定量まで行う詳細な分析を行う必要があり、作業に時間がかかるという問題があった。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、液体試料中におけるマイコトキシンの複数成分の有無を短時間で容易に確認することができるマイコトキシンの分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明に係るマイコトキシンの分析方法は、分離ステップと、検出ステップと、同定ステップとを備える。前記分離ステップでは、液体試料に含まれる各成分をカラムで分離させる。前記検出ステップでは、前記分離ステップにより分離された各成分を少なくとも2つの検出器で検出する。前記同定ステップでは、前記検出ステップによる検出結果に基づいて各成分を同定する。前記少なくとも2つの検出器には、蛍光検出器が含まれている。前記同定ステップでは、前記蛍光検出器からの検出信号に基づいて総アフラトキシンを同定するとともに、前記蛍光検出器以外の検出器からの検出信号に基づいてデオキシニバレノールを同定する。
【0010】
このような構成によれば、少なくとも2つの検出器からの検出信号に基づいて、総アフラトキシン及びデオキシニバレノールの同定を1回の分析で行うことができる。総アフラトキシンは、感度が高い蛍光検出器からの検出信号に基づいて、少ない含有量であっても良好に同定することができる。また、デオキシニバレノールは、総アフラトキシンとは分離して、蛍光検出器以外の検出器からの検出信号に基づいて良好に同定することができる。
【0011】
これにより、液体試料中におけるマイコトキシンの複数成分(総アフラトキシン及びデオキシニバレノール)の有無を1回の分析で確認することができる。したがって、成分ごとに条件を変更して複数回の分析を行う場合と比較して、液体試料中におけるマイコトキシンの複数成分の有無を短時間で容易に確認することができる。
【0012】
(2)前記少なくとも2つの検出器には、フォトダイオードアレイ検出器が含まれていてもよい。この場合、前記同定ステップでは、前記フォトダイオードアレイ検出器からの検出信号に基づいてデオキシニバレノールを同定してもよい。
【0013】
このような構成によれば、フォトダイオードアレイ検出器からの検出信号に基づいて、波長と吸光度との関係をスペクトルとして得ることができる。したがって、得られたスペクトルを予め作成されたスペクトルライブラリと比較することにより、デオキシニバレノールなどの各種成分を良好に同定することができる。
【0014】
(3)前記検出ステップでは、前記蛍光検出器で検出する蛍光の波長を予め設定されたタイミングで切り替えてもよい。
【0015】
このような構成によれば、特定の波長の蛍光を蛍光検出器で検出することにより総アフラトキシンを良好に同定することができるとともに、蛍光検出器で検出する蛍光の波長を切り替えることにより、別の成分も蛍光検出器からの検出信号に基づいて良好に同定することができる。したがって、液体試料中のより多くの成分の有無を確認することができる。
【0016】
(4)前記分離ステップでは、緩衝液と有機溶媒との混合液を移動相として前記カラムに供給してもよい。
【0017】
このような構成によれば、緩衝液と有機溶媒との混合液を移動相として用いることにより、液体試料がカラムを通過する過程で総アフラトキシン及びデオキシニバレノールを良好に分離することができる。したがって、液体試料中における総アフラトキシン及びデオキシニバレノールの有無をより精度よく確認することができる。
【0018】
(5)前記分離ステップでは、前記混合液における有機溶媒の混合率を時間経過とともに上昇させながら移動相として前記カラムに供給してもよい。
【0019】
このような構成によれば、移動相としてカラムに供給される混合液における有機溶媒の混合率を時間経過とともに上昇させることにより、液体試料がカラムを通過する過程で総アフラトキシン及びデオキシニバレノールをさらに良好に分離することができる。したがって、液体試料中における総アフラトキシン及びデオキシニバレノールの有無をさらに精度よく確認することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、液体試料中におけるマイコトキシンの複数成分(総アフラトキシン及びデオキシニバレノール)の有無を1回の分析で確認することができるため、短時間で容易に確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態に係る分析方法に用いられる液体クロマトグラフの構成例を示したブロック図である。
【
図2】分析中の制御部による処理の一例を示したフローチャートである。
【
図3A】実施例において蛍光検出器の検出信号から得られたクロマトグラムである。
【
図3B】実施例においてPDAの検出信号から得られたクロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
1.液体クロマトグラフの構成
図1は、本発明の一実施形態に係る分析方法に用いられる液体クロマトグラフ1の構成例を示したブロック図である。この液体クロマトグラフ1は、高速液体クロマトグラフ(HPLC)であり、ポンプ2を用いてカラム3内に移動相を供給しながら、カラム3内に液体試料を導入することにより、液体試料がカラム3内を通過する過程で液体試料中の各成分が分離される。
【0023】
液体クロマトグラフ1には、上述のポンプ2及びカラム3の他、例えば複数の移動相容器4、混合器5、インジェクタ6、フォトダイオードアレイ検出器(PDA)7、蛍光検出器8、制御部9及び表示部10などが備えられている。
【0024】
複数の移動相容器4には、それぞれ異なる移動相が収容されている。移動相としては、例えば緩衝液及び有機溶媒が用いられる。緩衝液としては、リン酸ナトリウムの水溶液からなるものを例示することができるが、これに限らず、他のリン酸塩を含むものであってもよいし、リン酸塩以外の緩衝作用のある溶液からなるものであってもよい。また、有機溶媒としては、アセトニトリル及びメタノールなどを例示することができるが、これらに限られるものではない。
【0025】
この例では、リン酸ナトリウム緩衝液、アセトニトリル及びメタノールがそれぞれ収容された3つの移動相容器4が設けられている。そして、これらの移動相容器4に収容されている移動相が、混合器5において設定された混合率で混合され、ポンプ2によりカラム3へと送られる。カラム3は、例えば逆相カラムからなり、ODS(オクタデシルシリル)基で表面が修飾されたシリカゲルを固定相とするC18カラムなどを例示することができるが、これに限られるものではない。
【0026】
インジェクタ6は、例えばマイクロシリンジなどを用いて、ポンプ2からカラム3へと送られる移動相中に分析対象となる液体試料を注入する。液体試料に含まれる各成分は、移動相とともにカラム3を通過する過程で分離され(分離ステップ)、カラム3の下流側に設けられたPDA7及び蛍光検出器8により検出される(検出ステップ)。このように、本実施形態では、分離された液体試料中の各成分が2つの検出器7,8で検出されるようになっている。
【0027】
ポンプ2、混合器5、インジェクタ6、PDA7及び蛍光検出器8は、それぞれ制御部9に対して電気的に接続されている。制御部9は、設定された分析条件に基づいて、ポンプ2、混合器5及びインジェクタ6の動作を制御する。本実施形態では、混合器5における複数の移動相の混合率を時間経過とともに変化させながら分析を行うことにより、グラジエント分析が行われる。
【0028】
また、制御部9は、PDA7及び蛍光検出器8からの検出信号に基づいて、その検出結果を表示部10に表示させる。表示部10は、例えば液晶表示器からなり、作業者は、表示部10に表示された検出結果に基づいて、液体試料中の各成分を同定することができる(同定ステップ)。
【0029】
PDA7からの検出信号によれば、各波長における吸光度をスペクトルとして得ることができ、そのスペクトルの時間的変化が時間、波長及び吸光度を3軸とする3次元データとして得られる。したがって、目的成分のスペクトルライブラリを予め作成しておけば、そのスペクトルライブラリと分析により得られたスペクトルとの一致度を求めることにより、目的成分を同定することができる。
【0030】
蛍光検出器8は、特定の励起波長の励起光で液体試料中の成分を励起させることにより蛍光させ、特定の蛍光波長の蛍光を検出する。励起波長及び蛍光波長は切替可能となっており、これらの波長を適切なタイミングで切り替えることにより、励起波長及び蛍光波長が異なる複数の成分を1回の分析で検出することができる。
【0031】
2.分析中の液体クロマトグラフの動作
図2は、分析中の制御部9による処理の一例を示したフローチャートである。分析中は、予め設定された分析条件に基づいて制御部9が各部の動作を制御することにより、PDA7及び蛍光検出器8からの検出信号が同時並行で取得される。
【0032】
分析中、制御部9は、まず、各移動相容器4内の移動相を初期混合率として予め設定された混合率で混合させ、その混合液をカラム3に対して連続的に供給させる(ステップS101)。その後、制御部9は、移動相の混合率を切り替えるタイミングであるか否か(ステップS102)、及び、蛍光検出器8の波長を切り替えるタイミングであるか否か(ステップS104)を監視する。
【0033】
そして、移動相の混合率を切り替えるタイミングとして予め設定されたタイミングになった場合には(ステップS102でYes)、制御部9は、そのタイミングにおける混合率として予め設定された混合率に切り替える(ステップS103)。これにより、その後に移動相の混合率を切り替えるタイミングとなるまでは、切り替えられた混合率で混合された混合液が、カラム3に対して連続的に供給されることとなる。
【0034】
本実施形態では、制御部9は、複数のタイミングで移動相の混合率を切り替えるようになっている。具体的には、制御部9は、移動相の混合率を切り替えるタイミング(ステップS102でYes)となるたびに混合率を切り替えることにより(ステップS103)、混合液における有機溶媒の混合率を時間経過とともに上昇させながら移動相としてカラム3に供給させるようになっている。
【0035】
一方、蛍光検出器8の励起波長及び蛍光波長を切り替えるタイミングとして予め設定されたタイミングになった場合には(ステップS104でYes)、制御部9は、蛍光検出器8の波長(励起波長及び蛍光波長)を予め設定された波長に切り替える(ステップS105)。これにより、液体試料中の成分が異なる波長の励起光で励起され、その波長に対応する成分が蛍光するとともに、当該蛍光を検出することができるように、蛍光検出器8で検出する蛍光の波長が切り替えられる。
【0036】
3.液体試料中の各成分の同定
上記のようなグラジエント分析が終了すると(ステップS106でYes)、PDA7及び蛍光検出器8からの検出信号に基づいて、検出結果としてのクロマトグラムが表示部10に表示される。PDA7からの検出信号に基づくクロマトグラム、及び、蛍光検出器8からの検出信号に基づくクロマトグラムは、それぞれ個別に表示部10に表示され、それらのクロマトグラムを用いて作業者が液体試料中の各成分を同定する。
【0037】
このとき、作業者は、PDA7からの検出信号に基づくクロマトグラムを用いて、液体試料中のデオキシニバレノールを同定する。また、作業者は、蛍光検出器8からの検出信号に基づくクロマトグラムを用いて、液体試料中の総アフラトキシンを同定する。
【0038】
デオキシニバレノールの同定は、PDA7からの検出信号に基づく各波長のクロマトグラム、すなわち時間、波長及び吸光度を3軸とする3次元データを用いて行われる。具体的には、各ピークにおける波長と吸光度との関係を表わすスペクトルが、予め作成されている目的成分(デオキシニバレノール)のスペクトルライブラリと比較され、その一致度が求められることにより、求められた一致度に基づいて目的成分のピークであるか否かが判定される。上記スペクトルライブラリには、デオキシニバレノールだけでなく、マイコトキシンに分類される他の各種成分(ニバレノール、パツリンなど)のスペクトルが登録されている。
【0039】
総アフラトキシンの同定は、蛍光検出器8により検出される特定の蛍光波長におけるピークの有無を判定することにより行われる。具体的には、標準試料から得られた総アフラトキシンの各成分の保持時間と、分析対象となる液体試料から得られた各ピークの保持時間とが比較されることにより、液体試料中における総アフラトキシンの各成分の有無が判定される。
【0040】
4.作用効果
(1)本実施形態では、PDA7及び蛍光検出器8からの検出信号に基づいて、総アフラトキシン及びデオキシニバレノールの同定を1回の分析で行うことができる。総アフラトキシンは、感度が高い蛍光検出器8からの検出信号に基づいて、少ない含有量であっても良好に同定することができる。また、デオキシニバレノールは、総アフラトキシンとは分離して、PDA7からの検出信号に基づいて得られたスペクトルを予め作成されたスペクトルライブラリと比較することにより、良好に同定することができる。
【0041】
これにより、液体試料中におけるマイコトキシンの複数成分(総アフラトキシン及びデオキシニバレノール)の有無を1回の分析で確認することができる。したがって、成分ごとに条件を変更して複数回の分析を行う場合と比較して、液体試料中におけるマイコトキシンの複数成分の有無を短時間で容易に確認することができる。
【0042】
(2)また、本実施形態では、特定の波長の蛍光を蛍光検出器8で検出することにより総アフラトキシンを良好に同定することができるとともに、蛍光検出器8で検出する蛍光の波長を切り替えることにより(
図2のステップS104及びS105)、例えばゼアラレノン又はオクラトキシンなどの別の成分も蛍光検出器8からの検出信号に基づいて良好に同定することができる。したがって、液体試料中のより多くの成分の有無を確認することができる。
【0043】
(3)また、本実施形態では、緩衝液と有機溶媒との混合液を移動相として用いることにより、液体試料がカラム3を通過する過程で総アフラトキシン及びデオキシニバレノールを良好に分離することができる。したがって、液体試料中における総アフラトキシン及びデオキシニバレノールの有無をより精度よく確認することができる。
【0044】
(4)また、本実施形態では、移動相としてカラム3に供給される混合液における有機溶媒の混合率を時間経過とともに上昇させることにより(
図2のステップS102及びS103)、液体試料がカラム3を通過する過程で総アフラトキシン及びデオキシニバレノールをさらに良好に分離することができる。したがって、液体試料中における総アフラトキシン及びデオキシニバレノールの有無をさらに精度よく確認することができる。
【0045】
5.実施例
以下では、上記実施形態に係る液体クロマトグラフ1を用いて、液体試料中におけるマイコトキシンの各成分の有無をスクリーニングした結果について説明する。スクリーニングの対象成分は、アフラトキシンの5成分(B1,B2,G1,G2,M1)、ニバレノール、デオキシニバレノール、オクラトキシン、ゼアラレノン及びパツリンである。
【0046】
液体クロマトグラフ1としては、PDA7を備えた「Nexera−i 3D」(株式会社島津製作所製)を使用し、蛍光検出器8として「RF−20Axs」(株式会社島津製作所製)を追加した。また、カラム3としては、逆相カラムである「Shim−pack GIST」(株式会社島津製作所製)を使用した。カラム3は、固定相がC18であり、長さ50cm、内径3.0mm、充填物粒子径2μmである。
【0047】
移動相としては、リン酸ナトリウム緩衝液、アセトニトリル及びメタノールを用いた。リン酸ナトリウム緩衝液は、リン酸の濃度が20mmol/Lであり、pH2.5である。カラム3における移動相の流速は1.0mL/min、カラム3の温度は55℃、インジェクタ6からの液体試料の注入量は5μLである。なお、カラム3の温度は、分析時間の短縮化の観点から、一般的な分析よりも高い温度に設定されており、例えば50〜80℃の範囲内で設定されることが好ましい。
【0048】
グラジエント分析における各移動相の混合率の時間的変化は以下の通りである。
リン酸ナトリウム緩衝液:90%(0.00−0.50min)→70%(0.51min)→60%(2.65min)→50%(2.66−5.10min)→90%(5.11−7.00min)
アセトニトリル:10%(0.00−0.50min)→15%(0.51−2.65min)→35%(2.66−5.10min)→10%(5.11−7.00min)
メタノール:0%(0.00−0.50min)→15%(0.51min)→25%(2.65min)→15%(2.66−5.10min)→0%(5.11−7.00min)
【0049】
PDA7において検出される波長は、ニバレノール及びデオキシニバレノールに対応する220nm、及び、パツリンに対応する276nmの2チャンネルである。蛍光検出器8においては、アフラトキシンの5成分に対応して365nmの励起波長で450nmの蛍光波長を検出する期間(0.00−4.29min)から、オクラトキシン及びゼアラレノンに対応して320nmの励起波長で465nmの蛍光波長を検出する期間(4.30−7.00min)に切り替えられる。
【0050】
図3Aは、実施例において蛍光検出器8の検出信号から得られたクロマトグラムである。
図3Bは、実施例においてPDA7の検出信号から得られたクロマトグラムである。これらのクロマトグラムは、1回の分析により同時並行で取得されたものであり、それぞれ異なる目的成分のピークが現れている。
【0051】
図3Aのクロマトグラムには、アフラトキシンの5成分(AFB1,AFB2,AFG1,AFG2,AFM1)、オクラトキシン(OTA)及びゼアラレノン(ZON)のピークが現れている。このように、蛍光検出器8からの検出信号に基づいて総アフラトキシンを同定することができる。なお、
図3Aのクロマトグラムにおいて、4.30minのタイミングTで励起波長及び蛍光波長が切り替えられている。
【0052】
また、
図3Bのクロマトグラムには、波長220nmにおいてニバレノール(NIV)及びデオキシニバレノール(DON)のピークが現れており、波長276nmにおいてパツリン(PAT)のピークが現れている。このように、PDA7からの検出信号に基づいてデオキシニバレノールを同定することができる。
【0053】
図3A及び
図3Bの例では、保持時間の長い成分が蛍光検出器8からの検出信号に基づいて同定され(
図3A参照)、保持時間の短い成分が蛍光検出器8以外の検出器(PDA7)からの検出信号に基づいて同定される(
図3B参照)。
図3A及び
図3Bの通り、各目的成分が検出されるまでの時間は5〜6分であり、短時間でスクリーニングを行うことができた。
【0054】
6.変形例
以上の実施形態では、蛍光検出器8からの検出信号に基づいて総アフラトキシンを同定し、PDA7からの検出信号に基づいてデオキシニバレノールを同定するようなマイコトキシンの分析方法について説明した。しかし、このような方法に限らず、例えばPDA7以外の検出器からの検出信号に基づいてデオキシニバレノールを同定してもよい。また、PDA7及び蛍光検出器8の2つの検出器を用いるような構成に限らず、蛍光検出器8を含む3つ以上の検出器からの検出信号に基づいて総アフラトキシン及びデオキシニバレノールを同定してもよい。さらに、各検出器を配置する順序は、
図1に示すような順序に限られるものではない。
【符号の説明】
【0055】
1 液体クロマトグラフ
2 ポンプ
3 カラム
4 移動相容器
5 混合器
6 インジェクタ
7 PDA(フォトダイオードアレイ検出器)
8 蛍光検出器
9 制御部
10 表示部