(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
軸の外周に設けられた環状溝に装着され、相対的に回転する前記軸とハウジングとの間の環状隙間を封止して、流体圧力が変化するように構成された密封対象領域の流体圧力を保持するシールリングであって、
周方向の1箇所に合口部が設けられた樹脂製のシールリング本体と、
前記合口部における合わせ面を介して一方側の端部と他方側の端部とを周方向に対して互いに離れる方向に押圧する弾性体と、
を備えることを特徴とするシールリング。
前記合口部は、外周面側及び両側壁面側のいずれから見ても階段状の合わせ面が設けられることにより、合わせ面を介して一方の側の外周側には第1嵌合凸部及び第1嵌合凹部が設けられ、他方の側の外周側には第1嵌合凸部が嵌る第2嵌合凹部と第1嵌合凹部に嵌る第2嵌合凸部が設けられると共に、
第1嵌合凸部における周方向先端の第1先端面と、第2嵌合凹部において第1先端面に対向する第1対向面との間には、これら第1先端面と第1対向面を周方向に対して互いに離れる方向に押圧する前記弾性体である第1弾性体シール部が設けられ、
第2嵌合凸部における周方向先端の第2先端面と、第1嵌合凹部において第2先端面に対向する第2対向面との間には、これら第2先端面と第2対向面を周方向に対して互いに離れる方向に押圧する前記弾性体である第2弾性体シール部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のシールリング。
第1弾性体シール部は第1先端面と第1対向面のうちのいずれか一方に固定されており、第2弾性体シール部は第2先端面と第2対向面のうちのいずれか一方に固定されていることを特徴とする請求項2に記載のシールリング。
前記シールリング本体単体における外周面の周長は、前記ハウジングの軸孔の内周面の周長よりも短く、かつ、前記シールリング本体と第1弾性体シール部及び第2弾性体シール部とを備えるシールリング全体における外周面の周長は、前記ハウジングの軸孔の内周面の周長よりも長く設定されていることを特徴とする請求項2または3に記載のシールリング。
【背景技術】
【0002】
自動車用のAutomatic Transmission(AT)やContinuously Variable Transmission(CVT)においては、油圧を保持させるために、相対的に回転する軸とハウジングとの間の環状隙間を封止するシールリングが設けられている。
図11及び
図12を参照して、従来例に係るシールリングについて説明する。
図11は従来例に係るシールリングにおける油圧を保持していない状態を示す模式的断面図である。
図12は従来例に係るシールリングにおける油圧を保持している状態を示す模式的断面図である。従来例に係るシールリング800の場合、軸600の外周に設けられた環状溝610に装着され、軸600が挿通されるハウジング700の軸孔の内周面と環状溝610の側壁面のそれぞれに摺動自在に接触することで、軸600とハウジング700の軸孔との間の環状隙間を封止するように構成される。
【0003】
上記のような用途で用いられるシールリング800においては、摺動トルクを十分に低くすることが要求される。そのため、シールリング800の外周面の周長はハウジング700の軸孔の内周面の周長よりも短く構成されており、締め代を持たないように構成されている。したがって、自動車のエンジンがかかり油圧が高くなっている状態においては、シールリング800が油圧により拡径し、軸孔の内周面と環状溝610の側壁面に密着して十分に油圧を保持する機能を発揮する(
図12参照)。これに対して、エンジンの停止により油圧がかからない状態においてはシールリング800が軸孔の内周面や環状溝610の側壁面から離れた状態となるように構成されている(
図11参照)。
【0004】
ここで、一般的に、シールリング800には、環状溝610への装着性を高めるために、周方向の1箇所に合口部が設けられている。合口部の構造として、熱膨張収縮によっても安定した密封性を発揮する特殊ステップカットが知られている(特許文献1,2参照)。しかしながら、特殊ステップカットでも、密封対象流体の漏れを確実に防止できる訳ではなく、更なる密封性の向上が求められている。
【0005】
また、上記のように構成されたシールリング800の場合、油圧がかからない状態では封止機能を発揮しない。そのため、ATやCVTのように油圧ポンプによって圧送される油により変速制御が行われる構成においては、油圧ポンプが停止した無負荷状態(例えば、アイドリングストップ時)では、シールリング800がシールしていた油がシールされずにオイルパンに戻って、シールリング800の近傍の油がなくなってしまう。従って、この状態からエンジンを始動(再始動)させると、シールリング800の近傍には油がなく潤滑のない状態で作動が開始されるので、応答性や作動性が悪いという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、流体圧力が低い状態においても封止機能を発揮させることのできるシールリングを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0009】
すなわち、本発明のシールリングは、
軸の外周に設けられた環状溝に装着され、相対的に回転する前記軸とハウジングとの間の環状隙間を封止して、流体圧力が変化するように構成された密封対象領域の流体圧力を保持するシールリングであって、
周方向の1箇所に合口部が設けられた樹脂製のシールリング本体と、
前記合口部における合わせ面を介して一方側の端部と他方側の端部とを周方向に対して互いに離れる方向に押圧する弾性体と、
を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、合口部における合わせ面を介して一方の端部と他方の端部は、弾性体によって、周方向に対して互いに離れる方向に押圧される。これにより、シールリング本体には、径が大きくなる方向に変形する力が作用する。従って、流体圧力が作用してない(差圧が生じていない)、または流体圧力が殆ど作用していない(差圧が殆ど生じていない)状態においても、シールリングを、ハウジングの軸孔の内周面に接した状態とすることが可能となる。これにより、密封機能が発揮されるため、密封対象領域の流体圧力が高まりだした直後から流体圧力を保持させることができる。
【0011】
前記合口部は、外周面側及び両側壁面側のいずれから見ても階段状の合わせ面が設けられることにより、合わせ面を介して一方の側の外周側には第1嵌合凸部及び第1嵌合凹部が設けられ、他方の側の外周側には第1嵌合凸部が嵌る第2嵌合凹部と第1嵌合凹部に嵌る第2嵌合凸部が設けられると共に、
第1嵌合凸部における周方向先端の第1先端面と、第2嵌合凹部において第1先端面に対向する第1対向面との間には、これら第1先端面と第1対向面を周方向に対して互いに離れる方向に押圧する前記弾性体である第1弾性体シール部が設けられ、
第2嵌合凸部における周方向先端の第2先端面と、第1嵌合凹部において第2先端面に対向する第2対向面との間には、これら第2先端面と第2対向面を周方向に対して互いに離れる方向に押圧する前記弾性体である第2弾性体シール部が設けられているとよい。
【0012】
これにより、シールリング本体に合口部が設けられているものの、第1弾性体シール部と第2弾性体シール部が設けられているため、シールリング本体における合口部の隙間から密封対象流体が漏れてしまうことが抑制される。
【0013】
第1弾性体シール部は第1先端面と第1対向面のうちのいずれか一方に固定されており、第2弾性体シール部は第2先端面と第2対向面のうちのいずれか一方に固定されているとよい。
【0014】
これにより、合口部における合わせ面を介して一方の端部と他方の端部との間に隙間を形成させることが可能となるため、シールリングの環状溝への装着作業を容易にすることができる。
【0015】
前記シールリング本体単体における外周面の周長は、前記ハウジングの軸孔の内周面の周長よりも短く、かつ、前記シールリング本体と第1弾性体シール部及び第2弾性体シール部とを備えるシールリング全体における外周面の周長は、前記ハウジングの軸孔の内周面の周長よりも長く設定されているとよい。
【0016】
これにより、シールリングの外周面とハウジングの軸孔内周面との間の摺動トルクを低く抑えつつ、流体圧力が作用してない(差圧が生じていない)状態においても、シールリングを、ハウジングの軸孔の内周面に接した状態とすることが可能となる。
【0017】
前記弾性体は、金属バネ(例えば、コイルスプリングや板バネ)であることも好適である。
【0018】
なお、上記各構成は、可能な限り組み合わせて採用し得る。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明によれば、流体圧力が低い状態においても封止機能を発揮させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。なお、本実施例に係るシールリングは、自動車用のATやCVTなどの変速機において、油圧を保持させるために、相対的に回転する軸とハウジングとの間の環状隙間を封止する用途に用いられるものである。また、以下の説明において、「高圧側」とは、シールリングの両側に差圧が生じた際に高圧となる側を意味し、「低圧側」とは、シールリングの両側に差圧が生じた際に低圧となる側を意味する。
【0022】
(実施例1)
図1〜
図8を参照して、本発明の実施例1に係るシールリングについて説明する。
図1は本発明の実施例1に係るシールリングの側面図(概略的に示した側面図)である。
図2は本発明の実施例1に係るシールリングの側面図の一部拡大図であり、
図1において丸で囲った部分の拡大図である。
図3は本発明の実施例1に係るシールリングの側面図の一部拡大図であり、
図1において丸で囲った部分を反対側から見た拡大図である。
図4は本発明の実施例1に係るシールリングを外周面側から見た図の一部拡大図であり、
図1において丸で囲った部分を外周面側から見た拡大図である。
図5は本発明の実施例1に係るシールリングを内周面側から見た図の一部拡大図であり、
図1において丸で囲った部分を内周面側から見た拡大図である。
図6〜
図8は本発明の実施例1に係る密封構造(シールリングの使用時の状態)を示す模式的断面図である。なお、
図6は無負荷の状態を示し、
図7及び
図8は差圧が生じた状態を示している。また、
図6,7中のシールリングは、
図1中のAA断面図に相当し、
図8中のシールリングは
図2中のBB断面図に相当する。
【0023】
<密封構造及びシールリングの構成>
特に、
図1及び
図6〜
図8を参照して、本発明の実施例1に係る密封構造及びシールリングの構成について説明する。本実施例に係る密封構造は、相対的に回転する軸600及びハウジング700と、軸600とハウジング700(ハウジング700における軸600が挿通される軸孔の内周面)との間の環状隙間を封止するシールリング10とから構成される。本実施例に係るシールリング10は、軸600の外周に設けられた環状溝610に装着され、相対的に回転する軸600とハウジング700との間の環状隙間を封止する。これにより、シールリング10は、流体圧力(本実施例では油圧)が変化するように構成された密封対象領域の流体圧力を保持する。ここで、本実施例においては、
図6〜
図8中の右側の領域の流体圧力が変化するように構成されており、シールリング10は図中右側の密封対象領域の流体圧力を保持する役割を担っている。なお、自動車のエンジンが停止した状態においては、密封対象領域の流体圧力は低く、無負荷の状態となっており、エンジンをかけると密封対象領域の流体圧力は高くなる。
【0024】
そして、本実施例に係るシールリング10は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの樹脂製のシールリング本体100と、アクリルゴム(ACM)、フッ素ゴム(FKM)、水素化ニトリルゴム(HNBR)などのゴム状弾性体製の第1弾性体シール部200X及び第2弾性体シール部200Yとから構成される。
【0025】
また、シールリング本体100単体における外周面の周長は、ハウジング700の軸孔の内周面の周長よりも短く設定されている。そして、シールリング本体100と第1弾性体シール部200X及び第2弾性体シール部200Yとを備えるシールリング10全体における外周面の周長は、ハウジング700の軸孔の内周面の周長よりも長く設定されている。
【0026】
<シールリング本体>
特に、
図1〜
図5を参照して、本発明の実施例に係るシールリング本体100について、より詳細に説明する。シールリング本体100には、周方向の1箇所に合口部110が設けられている。本実施例に係るシールリング本体100は、断面が矩形の環状部材に対して、この合口部110が形成された構成である。ただし、これは形状についての説明に過ぎず、必ずしも、断面が矩形の環状部材を素材として、合口部110を形成する加工を施すことを意味するものではない。勿論、断面が矩形の環状部材を成形した後に、合口部110を切削加工により得ることもできるが、樹脂材料によっては、合口部110を有したものを成形することもでき、製法は特に限定されるものではない。
【0027】
合口部110は、外周面側及び両側壁面側のいずれから見ても階段状の合わせ面(切断面)が設けられた、いわゆる特殊ステップカットを採用している。これにより、シールリング本体100においては、合わせ面を介して一方の側の外周側には第1嵌合凸部111X及び第1嵌合凹部112Xが設けられ、他方の側の外周側には第1嵌合凸部111Xが嵌る第2嵌合凹部112Yと第1嵌合凹部112Xに嵌る第2嵌合凸部111Yが設けられている。なお、合わせ面を介して一方の側の内周面側の端面113Xと他方の側の内周側の端面113Yは互いに対向している。特殊ステップカットに関しては公知技術であるので、その詳細な説明は省略するが、熱膨張収縮によりシールリング本体100の周長が変化しても安定した密封性を維持する特性を有する。なお、「合わせ面(切断面)」については、切削加工により得られる場合だけでなく、成形により得られる場合も含まれる。
【0028】
<第1弾性体シール部及び第2弾性体シール部>
特に、
図1〜
図4を参照して、第1弾性体シール部200X及び第2弾性体シール部200Yについて、より詳細に説明する。
【0029】
第1嵌合凸部111Xにおける周方向先端の第1先端面111Xaと、第2嵌合凹部112Yにおいて第1先端面111Xaに対向する第1対向面112Yaとの間に、第1弾性体シール部200Xが設けられている。この第1弾性体シール部200Xは、第1先端面111Xaと第1対向面112Yaとの間の隙間を封止すると共に、第1先端面111Xaと第1対向面112Yaを周方向に対して互いに離れる方向に押圧する役割を担っている。また、第1弾性体シール部200Xは第1先端面111Xaと第1対向面112Yaのうちのいずれか一方に接着などにより固定されており、他方には固定されていない。
【0030】
第2嵌合凸部111Yにおける周方向先端の第2先端面111Yaと、第1嵌合凹部112Xにおいて第2先端面111Yaに対向する第2対向面112Xaとの間に、第2弾性体シール部200Yが設けられている。この第2弾性体シール部200Yは、第2先端面111Yaと第2対向面112Xaとの間の隙間を封止すると共に、第2先端面111Yaと第2対向面112Xaを周方向に対して互いに離れる方向に押圧する役割を担っている。また、第2弾性体シール部200Yは第2先端面111Yaと第2対向面112Xaのうちのいずれか一方に、接着などにより固定されており、他方には固定されていない。
【0031】
以上のように構成される第1弾性体シール部200Xと第2弾性体シール部200Yは、シールリング本体100の合口部110における合わせ面を介して一方の端部と他方の端部に対し、これらの端部を周方向に対して互いに離れる方向に押圧する。これにより、シールリング本体100には、径が大きくなる方向に変形する力が作用する。
【0032】
なお、本実施例に係るシールリング10においては、第1嵌合凸部111Xと第2嵌合凸部111Yと第1嵌合凹部112Xと第2嵌合凹部112Yの周方向の長さはいずれも同一となるように設定されている。そして、第1弾性体シール部200Xと第2弾性体シール部200Yの周方向の長さは同一となるように設定され、かつ第1嵌合凸部111Xの周方向の長さよりも長くなるように設定されている。これにより、合口部110における合わせ面を介して一方の側の内周面側の端面113Xと他方の側の内周側の端面113Yとの間には、シールリング本体100の熱膨張伸縮に拘わらず、隙間が確保される。
【0033】
<シールリングの使用時のメカニズム>
特に、
図6〜
図8を参照して、本実施例に係るシールリング10の使用時のメカニズムについて説明する。
図6は、エンジンが停止して、シールリング10を介して左右の領域の差圧がなく(または、差圧が殆どなく)、無負荷の状態を示している。なお、
図6中のシールリング本体100は、
図1中のAA断面に相当する。
図7及び
図8は、エンジンがかかり、シールリング10を介して、左側の領域に比べて右側の領域の流体圧力の方が高くなった状態を示している。なお、
図7中のシールリング本体100は
図1中のAA断面に相当し、
図8中のシールリング本体100は
図2中のBB断面に相当する。
【0034】
上記の通り、本実施例に係るシールリング10においては、シールリング本体100単体における外周面の周長は、ハウジング700の軸孔の内周面の周長よりも短く設定されている。しかしながら、シールリング10全体における外周面の周長は、ハウジング700の軸孔の内周面の周長よりも長く設定されている。また、第1弾性体シール部200Xと第2弾性体シール部200Yによって、シールリング本体100には、径が大きくなる方向に変形する力が作用する。従って、無負荷状態においては、左右の領域の差圧がないものの、シールリング10の外周面は、ハウジング700の軸孔の内周面に接した状態を維持する(
図6参照)。
【0035】
そして、エンジンがかかり、差圧が生じた状態においては、高圧側(H)からの流体圧力によって、シールリング10は、環状溝610における低圧側(L)の側壁面に密着した状態となる。なお、シールリング10は、ハウジング700における軸孔の内周面に対して接した(摺動した)状態を維持していることは言うまでもない。従って、軸600とハウジング700との間の環状隙間が封止された状態となる。また、その後、エンジンが停止して、無負荷状態になっても、シールリング本体100には、径が大きくなる方向に変形する力が作用している。そのため、シールリング10の外周面はハウジング700の軸孔の内周面に密着しており、シールリング10は軸線方向(軸600の中心軸線方向)には殆ど移動しない。つまり、シールリング10は、環状溝610における低圧側(L)の側壁面に密着した状態を維持している。従って、無負荷状態においても、軸600とハウジング700との間の環状隙間が封止された状態が維持される。
【0036】
<本実施例に係るシールリングの優れた点>
本実施例に係るシールリング10によれば、シールリング本体100に合口部110が設けられているものの、合口部110における隙間は、第1弾性体シール部200Xと第2弾性体シール部200Yによって封止されている。従って、シールリング本体100における合口部110の隙間から密封対象流体が漏れてしまうことが抑制される。このように、本実施例に係るシールリング10によれば、合口部110を備えていても、密封性を向上させることができる。
【0037】
また、本実施例に係るシールリング本体100の合口部110における合わせ面を介して一方の端部と他方の端部は、第1弾性体シール部200Xと第2弾性体シール部200Yによって、周方向に対して互いに離れる方向に押圧される。これにより、シールリング本体100には、径が大きくなる方向に変形する力が作用する。従って、流体圧力が作用してない(差圧が生じていない)、または流体圧力が殆ど作用していない(差圧が殆ど生じていない)状態においても、シールリング10を、ハウジング700の軸孔の内周面に接した状態とすることが可能となる。これにより、密封機能が発揮されるため、密封対象領域の流体圧力が高まりだした直後から流体圧力を保持させることができる。
【0038】
つまり、アイドリングストップ機能を有するエンジンにおいては、エンジン停止状態からアクセルが踏み込まれることでエンジンが始動することによって、密封対象領域側の油圧が高まりだした直後から油圧を保持させることができる。ここで、一般的には、樹脂製のシールリングの場合、流体の漏れを抑制する機能はあまり発揮されない。しかしながら、本実施例に係るシールリング10においては、無負荷状態においても、軸600とハウジング700との間の環状隙間が封止された状態が維持されるため、流体の漏れを十分抑制する機能が発揮される。そのため、エンジンが停止することでポンプなどによる作用が停止した後も、しばらくの間差圧が生じた状態を維持させることが可能となる。従って、アイドリングストップ機能を有するエンジンにおいて、エンジンの停止状態がそれほど長くない場合には、差圧が生じた状態を維持できるので、エンジンを再始動させた際に、その直後から好適に流体圧力を保持させることができる。
【0039】
また、本実施例に係るシールリング10においては、第1弾性体シール部200Xは第1先端面111Xaと第1対向面112Yaのうちのいずれか一方に固定されており、第2弾性体シール部200Yは第2先端面111Yaと第2対向面112Xaのうちのいずれか一方に固定されている。従って、合口部110における合わせ面を介して一方の端部と他方の端部との間に隙間を形成させることが可能となるため、シールリング10の環状溝610への装着作業を容易にすることができる。
【0040】
また、本実施例に係るシールリング10においては、シールリング本体100単体における外周面の周長は、ハウジング700の軸孔の内周面の周長よりも短く設定されている。そして、シールリング本体100と第1弾性体シール部200X及び第2弾性体シール部200Yとを備えるシールリング10全体における外周面の周長は、ハウジング700の軸孔の内周面の周長よりも長く設定されている。これにより、シールリング10の外周面とハウジング700の軸孔内周面との間の摺動トルクを低く抑えつつ、流体圧力が作用してない(差圧が生じていない)状態においても、シールリング10を、ハウジング700の軸孔の内周面に接した状態とすることが可能となる。
【0041】
なお、本実施例に係るシールリング10は、軸線方向の中心面に対して対称的な形状をなしている。従って、環状溝610内にシールリング10を取り付ける際に、取付方向を気にする必要がなく、装着性に優れている。また、高圧側と低圧側が入れ替わるような環境下でも用いることができる。
【0042】
(実施例2)
図9及び
図10を参照して、本発明の実施例2に係るシールリングについて説明する。
図9は本発明の実施例2に係るシールリングの側面図である。なお、
図9の左上には、一部を拡大した図も示している。
図10は本発明の実施例2に係るシールリングの使用時の状態を示す模式的断面図である。なお、
図10中のシールリングは、
図9中のCC断面図に相当する。
【0043】
<密封構造>
本実施例に係る密封構造においても、実施例1の場合と同様に、相対的に回転する軸600及びハウジング700と、軸600とハウジング700(ハウジング700における軸600が挿通される軸孔の内周面)との間の環状隙間を封止するシールリング30とから構成される。本実施例に係るシールリング30は、軸600の外周に設けられた環状溝610に装着され、相対的に回転する軸600とハウジング700との間の環状隙間を封止する。これにより、シールリング30は、流体圧力(本実施例では油圧)が変化するように構成された密封対象領域の流体圧力を保持する。ここで、本実施例においては、
図10中の右側の領域の流体圧力が変化するように構成されており、シールリング30は図中右側の密封対象領域の流体圧力を保持する役割を担っている。なお、自動車のエンジンが停止した状態においては、密封対象領域の流体圧力は低く、無負荷の状態となっており、エンジンをかけると密封対象領域の流体圧力は高くなる。
【0044】
そして、本実施例に係るシールリング30は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの樹脂製のシールリング本体400と、金属製の弾性体としての金属バネ500とから構成される。なお、本実施例に係る金属バネ500は、図示のようにコイルスプリングを採用しているが、板バネなどを採用することもできる。
【0045】
また、シールリング本体400単体における外周面の周長は、ハウジング700の軸孔の内周面の周長よりも短く設定されている。そして、シールリング本体400と金属バネ500とを備えるシールリング30全体における外周面の周長は、ハウジング700の軸孔の内周面の周長よりも長く設定されている。
【0046】
<シールリング本体>
シールリング本体400には、周方向の1箇所に合口部410が設けられている。本実施例に係るシールリング本体400は、断面が矩形の環状部材に対して、この合口部410が形成された構成である。ただし、これは形状についての説明に過ぎず、必ずしも、断面が矩形の環状部材を素材として、合口部410を形成する加工を施すことを意味するものではない。勿論、断面が矩形の環状部材を成形した後に、合口部410を切削加工により得ることもできるが、樹脂材料によっては、合口部410を有したものを成形することもでき、製法は特に限定されるものではない。
【0047】
合口部410は、両側壁面側のいずれから見ても階段状の合わせ面(切断面)が設けられた、いわゆるステップカットを採用している。これにより、シールリング本体400においては、合わせ面を介して一方の側の内周側に第1嵌合凸部411が設けられ、他方の側の外周側に第2嵌合凸部412が設けられている。なお、「合わせ面(切断面)」については、切削加工により得られる場合だけでなく、成形により得られる場合も含まれる。
【0048】
<金属バネ(弾性体)>
合わせ面を介して一方の側の内周側に設けられた第1嵌合凸部411における周方向先端の第1先端面411Xと、合わせ面を介して他方の側の内周側の端面412Yとの間に、金属バネ500が嵌め込まれている。この金属バネ500は、第1先端面411Xと端面412Yを周方向に対して互いに離れる方向に押圧する役割を担っている。
【0049】
以上のように構成される金属バネ500は、シールリング本体400の合口部410における合わせ面を介して一方の端部と他方の端部に対し、これらの端部を周方向に対して互いに離れる方向に押圧する。これにより、シールリング本体400には、径が大きくなる方向に変形する力が作用する。
【0050】
なお、合わせ面を介して他方側の外周側に設けられた第2嵌合凸部412における周方向先端の第2先端面412Xと、合わせ面を介して一方の側の外周側の端面411Yとの間に、金属バネ500が嵌め込まれる構成を採用することもできる。この場合でも、金属バネ500は、第2先端面412Xと端面411Yを周方向に対して互いに離れる方向に押圧する役割を担うことになる。また、第1先端面411Xと端面412Yとの間に金属バネ500が嵌め込まれ、かつ第2先端面412Xと端面411Yとの間に金属バネ500が嵌め込まれる構成を採用することもできる。
【0051】
また、本実施例に係るシールリング30においては、第1嵌合凸部411と第2嵌合凸部412の周方向の長さはいずれも同一となるように設定されている。これにより、第1先端面411Xと端面412Yとの間にのみ金属バネ500が嵌め込まれている場合には、第2先端面412Xと端面411Yとの間には、シールリング本体400の熱膨張伸縮に拘わらず、隙間が確保される。また、第2先端面412Xと端面411Yとの間にのみ金属バネ500が嵌め込まれている場合には、第1先端面411Xと端面412Yとの間にとの間には、シールリング本体400の熱膨張伸縮に拘わらず、隙間が確保される。
【0052】
シールリング30の使用時のメカニズムについては、上記実施例1の場合と同様であるので、その説明は省略する。
【0053】
本実施例に係るシールリング30の場合には、上記実施例1の場合とは異なり、合口部410からの密封対象流体の漏れを抑制することはできない。しかしながら、本実施例に係るシールリング30においても、上記実施例1の場合と同様に、シールリング本体400の合口部410における合わせ面を介して一方の端部と他方の端部は、金属バネ500によって、周方向に対して互いに離れる方向に押圧される。これにより、シールリング本体400には、径が大きくなる方向に変形する力が作用する。従って、流体圧力が作用してない(差圧が生じていない)、または流体圧力が殆ど作用していない(差圧が殆ど生じていない)状態においても、シールリング30を、ハウジング700の軸孔の内周面に接した状態とすることが可能となる。これにより、密封機能が発揮されるため、密封対象領域の流体圧力が高まりだした直後から流体圧力を保持させることができる。
【0054】
また、本実施例に係るシールリング30においては、金属バネ500は、シールリング本体400の合口部410に嵌合させる構成を採用している。そのため、シールリング本体400については、合口部410における合わせ面を介して一方の端部と他方の端部との間に隙間を形成させることが可能である。従って、シールリング30の環状溝610への装着作業は容易である。
【0055】
更に、本実施例に係るシールリング30においても、シールリング本体400単体における外周面の周長は、ハウジング700の軸孔の内周面の周長よりも短く設定されている。そして、シールリング本体400と金属バネ500とを備えるシールリング30全体における外周面の周長は、ハウジング700の軸孔の内周面の周長よりも長く設定されている。これにより、シールリング30の外周面とハウジング700の軸孔内周面との間の摺動トルクを低く抑えつつ、流体圧力が作用してない(差圧が生じていない)状態においても、シールリング30を、ハウジング700の軸孔の内周面に接した状態とすることが可能となる。
【0056】
なお、本実施例に係るシールリング30においても、軸線方向の中心面に対して対称的な形状をなしている。従って、環状溝610内にシールリング30を取り付ける際に、取付方向を気にする必要がなく、装着性に優れている。また、高圧側と低圧側が入れ替わるような環境下でも用いることができる。
【0057】
上記実施例1においては、弾性体がゴム状弾性体製のシール部(第1弾性体シール部200X及び第2弾性体シール部200Y)の場合を示した。また、実施例2においては、弾性体が金属バネ(コイルスプリングや板バネ)の場合を示した。しかしながら、本願発明における弾性体は、適宜、各種材料を適用し得る。また、弾性体の形状においても、上記実施例で示した形状以外の各種の形状を適用し得る。