(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
車両のステアリング機構にモータの回転力で操舵補助力(アシスト力)を付与する電動パワーステアリング装置(EPS)は、アクチュエータとしてのモータの駆動力を、減速機を介してギア又はベルト等の伝達機構により、ステアリングシャフト或いはラック軸に操舵補助力を付与するようになっている。かかる従来の電動パワーステアリング装置は、操舵補助力のトルクを正確に発生させるため、モータ電流のフィードバック制御を行っている。フィードバック制御は、操舵補助指令値(電流指令値)とモータ電流検出値との差が小さくなるようにモータ印加電圧を調整するものであり、モータ印加電圧の調整は、一般的にPWM(パルス幅変調)制御のDutyの調整で行っている。
【0003】
電動パワーステアリング装置の一般的な構成を
図1に示して説明すると、ハンドル1のコラム軸(ステアリングシャフト、ハンドル軸)2は減速ギア3、ユニバーサルジョイント4a及び4b、ピニオンラック機構5、タイロッド6a,6bを経て、更にハブユニット7a,7bを介して操向車輪8L,8Rに連結されている。また、コラム軸2には、ハンドル1の舵角θを検出する舵角センサ14と、ハンドル1の操舵トルクThを検出するトルクセンサ10とが設けられており、ハンドル1の操舵力を補助するモータ20が減速ギア3を介してコラム軸2に連結されている。電動パワーステアリング装置を制御するコントロールユニット(ECU)30には、バッテリ13から電力が供給されると共に、イグニションキー11を経てイグニションキー信号が入力される。コントロールユニット30は、トルクセンサ10で検出された操舵トルクThと車速センサ12で検出された車速Vsとに基づいてアシスト(操舵補助)指令の電流指令値の演算を行い、演算された電流指令値に補償等を施した電圧制御指令値Vrefによってモータ20に供給する電流を制御する。舵角センサ14は必須のものではなく、配設されていなくても良く、モータ20に連結されたレゾルバ等の回転センサから舵角(モータ回転角)θを得ることもできる。
【0004】
コントロールユニット30には、車両の各種情報を授受するCAN(Controller Area Network)40が接続されており、車速VsはCAN40から受信することも可能である。また、コントロールユニット30には、CAN40以外の通信、アナログ/ディジタル信号、電波等を授受する非CAN41も接続可能である。
【0005】
このような電動パワーステアリング装置において、コントロールユニット30は主としてCPU(Central Processing Unit)(MPU(Micro Processor Unit)やMCU(Micro Controller Unit)等を含む)で構成されるが、そのCPU内部においてプログラムで実行される一般的な機能を示すと、例えば
図2に示されるような構成となっている。
【0006】
図2を参照してコントロールユニット30の機能及び動作を説明すると、トルクセンサ10からの操舵トルクTh及び車速センサ12からの車速Vsは電流指令値演算部31に入力され、電流指令値演算部31は操舵トルクTh及び車速Vsに基づいてアシストマップ等を用いて電流指令値Iref1を演算する。演算された電流指令値Iref1は加算部32Aで、特性を改善するための補償部34からの補償信号CMと加算され、加算された電流指令値Iref2が電流制限部33で最大値を制限され、最大値を制限された電流指令値Irefmが減算部32Bに入力され、モータ電流検出値Imと減算される。
【0007】
減算部32Bでの減算結果である偏差ΔI(=Irefm−Im)はPI(Proportional-Integral)制御部35でPI等の電流制御をされ、電流制御された電圧制御指令値Vrefが変調信号(三角波キャリア)CFと共にPWM制御部36に入力されてDuty指令値を演算され、Duty指令値を演算されたPWM信号でインバータ37を介してモータ20をPWM駆動する。モータ20のモータ電流値Imはモータ電流検出器38で検出され、減算部32Bに入力されてフィードバックされる。
【0008】
補償部34は、検出若しくは推定されたセルフアライニングトルク(SAT)を加算部344で慣性補償値342と加算し、その加算結果に更に加算部345で収れん性制御値341を加算し、その加算結果を補償信号CMとして加算部32Aに入力し、特性改善を実施する。
【0009】
近年、電動パワーステアリング装置のアクチュエータは3相ブラシレスモータが主流となっていると共に、電動パワーステアリング装置は車載製品であるため、稼動温度範囲が広く、フェールセーフの観点からモータを駆動するインバータは家電製品を代表とする一般産業用と比較して、デッドタイムを大きく(産業用機器<EPS)する必要がある。一般にスイッチング素子(例えばFET(Field-Effect Transistor))にはOFFの際に遅れ時間があるため、上下アームのスイッチング素子のOFF/ON切り換えを同時に行うと、直流リンクを短絡する状況になり、これを防ぐため、上下アーム両方のスイッチング素子がOFFになる時間(デッドタイム)を設けている。
【0010】
その結果、電流波形が歪み、電流制御の応答性や操舵感が悪化する。例えばハンドルがオンセンター付近にある状態でゆっくり操舵すると、トルクリップル等による不連続な操舵感などが生じる。また、中・高速操舵時におけるモータの逆起電圧や、巻線間の干渉電圧が電流制御に対して外乱として作用するため、転追性や切り返し操舵時の操舵感を悪化させている。
【0011】
3相ブラシレスモータのロータの座標軸であるトルクを制御するq軸と、磁界の強さを制御するd軸とを独立に設定し、dq軸が90°の関係にあることから、そのベクトルで各軸に相当する電流(d軸電流指令値及びq軸電流指令値)を制御するベクトル制御方式が知られている。
【0012】
図3は、ベクトル制御方式で3相ブラシレスモータ100を駆動制御する場合の構成例を示しており、操舵トルクTh、車速Vs等に基づいて電流指令値演算部(図示せず)で演算された2軸のdq軸座標系のd軸電流指令値i
d*及びq軸電流指令値i
q*はそれぞれ減算部131d及び131qに入力され、減算部131d及び131qで求められた電流偏差Δi
d*及びΔi
q*はそれぞれPI制御部120d及び120qに入力される。PI制御部120d及び120qでPI制御された電圧指令値v
d及びv
qは、それぞれ減算部141d及び加算部141qに入力され、減算部141d及び加算部141qで求められた指令電圧Δv
d及びΔv
qはdq軸/3相交流変換部150に入力される。dq軸/3相交流変換部150で3相に変換された電圧指令値Vu
*,Vv
*,Vw
*はPWM制御部160に入力され、演算された3相のDuty指令値(Duty
u,Duty
v,Duty
w)に基づくPWM信号U
PWM,V
PWM,W
PWMにより、
図4に示すような上下アームのブリッジ構成で成るインバータ(インバータ印加電圧VR)161を介してモータ100が駆動される。上側アームはスイッチング素子としてのFETQ1,Q3,Q5で構成され、下側アームはFETQ2,Q4,Q6で構成されている。
【0013】
モータ100の3相モータ電流i
u,i
v,i
wは電流検出器162で検出され、検出された3相モータ電流i
u,i
v,i
wは3相交流/dq軸変換部130に入力され、3相交流/dq
軸変換部130で変換された2相のフィードバック電流i
d及びi
qはそれぞれ減算部131d及び131qに減算入力されると共に、d−q非干渉制御部140に入力される。d−q非干渉制御部140からの2相の電圧v
d1*及びv
q1*はそれぞれ減算部141d及び加算部141qに入力され、減算部141d及び加算部141qで指令電圧Δv
d及びΔv
qが算出される。指令電圧Δv
d及びΔv
qがdq軸/3相交流変換部150に入力され、PWM制御部160及びインバータ161を介してモータ100が駆動される。
【0014】
また、モータ100にはレゾルバ等の回転センサが取り付けられており、センサ信号を処理する角度検出部110からモータ回転角θ及びモータ回転数(回転速度)ωが出力される。モータ回転角θはdq軸/3相交流換部150及び3相交流/dq軸変換部130に入力され、モータ回転数ωはd−q非干渉制御部140に入力される。
【0015】
このようなベクトル制御方式の電動パワーステアリング装置は、運転者の操舵をアシストする装置であると同時に、モータの音や振動、リップル等はハンドルを介して運転者へ力の感覚として伝達される。インバータを駆動するパワーデバイスは一般的にFETが用いられており、モータへ通電を行うが、3相モータの場合には、
図4に示されるように各相毎に上下アームの直列接続されたFETが用いられている。上下アームのFETは交互にON/OFFを繰り返すが、FETは理想スイッチではなく、ゲート信号の指令通りに瞬時にON/OFFせず、ターンオン時間やターンオフ時間を要する。このため、上側アームFETへのON指令と下側アームのOFF指令が同時になされると、上側アームFETと下側アームFETが同時にONになって、上下アームが短絡する問題がある。FETのターンオン時間とターンオフ時間には差があり、同時にFETに指令を出した場合、上側FETにON指令を出してターンオン時間が短い場合(例えば100ns)、直ぐにFETがONになり、下側FETにOFF指令を出してもターンオフ時間が長い場合(例えば400ns)、直ぐにFETがOFFにならず、瞬間的に上側FETがON、下側FETがONになる状態(例えば、400ns−100ns間、ON−ON)が発生することがある。
【0016】
そこで、上側アームFETと下側アームFETが同時にONすることの無い様に、ゲート駆動回路にデッドタイムという所定時間をおいてON信号を与えることが行われる。このデッドタイムは非線形であるため電流波形は歪み、制御の応答性能が悪化し、音や振動、リップルが発生する。コラム式電動パワーステアリング装置の場合、ハンドルと鋼製のコラム軸で接続されるギアボックスに直結されるモータの配置が、その構造上運転者に極めて近い位置となっているため、モータに起因する音、振動、リップル等には、下流アシスト方式の電動パワーステアリング装置に比べて、特に配慮する必要がある。
【0017】
インバータのデッドタイムを補償する手法として、従来はデッドタイムが発生するタイミングを検出して補償値を足し込んだり、電流制御におけるdq軸上の外乱オブザーバによってデッドタイムを補償している。
【0018】
インバータのデッドタイムを補償する電動パワーステアリング装置は、例えば特許第4681453号公報(特許文献1)、特開2015−171251号公報(特許文献2)に開示されている。特許文献1では、モータ、インバータを含む電流制御ループのリファレンスモデル回路に電流指令値を入力して電流指令値を基にモデル電流を作成し、モデル電流を基にインバータのデッドタイムの影響を補償するデッドバンド補償回路を備えている。また、特許文献2では、Duty指令値に対してデッドタイム補償値に基づく補正を行うデッドタイム補償部を備え、電流指令値に基づいてデッドタイム補償値の基礎値である基本補償値を演算する基本補償値演算部と、基本補償値に対してLPFに対応するフィルタリング処理を施すフィルタ部とを有している。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明は、ECUのインバータのデッドタイムの影響により電流歪みが発生し、トルクリップルの発生や操舵音の悪化などの問題を解消するために、3相端子電圧から3相電圧を推定し、3相Duty指令値とインバータ印加電圧から3相指令電圧を演算し、遅れモデルを経由して差分をとることにより、デッドタイムにより損失した損失電圧を算出する。算出された3相損出電圧を補償量として適切に処理し、デッドタイム補償値としてdq軸上の電圧指令値にフィードバックで補償する構成となっている。また、必要に応じて、算出されたdq軸損失電圧に対してモータ回転角、q軸の操舵補助指令値及びインバータ印加電圧に基づいた改善を行うためのデッドタイム補償量を生成し、このデッドタイム補償量によりdq軸損失電圧を補正して補償量の改善処理を行い、改善処理されたデッドタイム補償値によりインバータのデッドタイムを補償している。
【0033】
更に関数部で理想的なデッドタイム補償値を形成し、補正前のデッドタイム補償値との偏差をゲイン倍して補正している。この場合には、インバータのデッドタイムを遅れなく補償し、電流波形の歪み改善と電流制御の応答性の向上を図ることができる。
【0034】
本発明は、検出した損失電圧から上限値を超える補償量が検出された場合、逆起電圧などによる外乱と判断し、補償値を制限してデッドタイムによる損失を算出する。また、演算された損失電圧をdq軸上に変換し、デッドタイム補償値としてフィードバックすることにより、dq軸上においてもデッドタイム補償することを可能としている。
【0035】
以下に、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。
【0036】
図5は本発明(第1実施形態)の全体構成を
図3に対応させて示しており、dq軸上のデッドタイム補償値v
d*及びv
q*を演算するデッドタイム補償部200が設けられている。デッドタイム補償部200には、モータ回転角θ及びモータ回転数ωが入力されると共に、PWM制御部160内のDuty指令値演算部160Aで演算された3相Duty指令値Duty
u,Duty
v,Duty
w及びモータ100の3相モータ端子電圧Vu,Vv,Vwが入力されている。3相端子電圧Vu,Vv,Vwは、それぞれ高周波ノイズ除去用のLPF163U,163V,163Wを経てデッドタイム補償部200に入力される。また、インバータ161には、PWM制御部160内のPWM制御回路160BからPWM信号(U
PWM、V
PWM、W
PWM)が入力され、インバータ161に印加されているインバータ印加電圧VRが、デッドタイム補償部200に入力されている。
【0037】
電流指令値演算部(図示せず)で演算されたd軸電流指令値i
d*及びq軸電流指令値i
q*はそれぞれ減算部131d及び131qに入力され、減算部131d及び131qでフィードバック電流i
d及びi
qとの電流偏差Δi
d*及びΔi
q*が演算される。演算された電流偏差Δi
d*はPI制御部120dに入力され、演算された電流偏差Δi
q*はPI制御部120qに入力される。PI制御されたd軸電圧指令値v
d及びq軸電圧指令値v
qはそれぞれ加算部121d及び121qに入力され、後述するデッドタイム補償部200からのデッドタイム補償値v
d*及びv
q*を加算されて補償され、それら補償された電圧値がそれぞれ減算部141d及び加算部141qに入力される。減算部141dにはd−q非干渉制御部140からの電圧v
d1*が入力され、その差である電圧指令値v
d**が得られ、加算部141qにはd−q非干渉制御部140からの電圧v
q1*が入力され、その加算結果で電圧指令値v
q**が得られる。デッドタイムを補償された電圧指令値v
d**及びv
q**は、dq軸の2相からU相,V相,W相の3相に変換し、3次高調波を重畳する空間ベクトル変調部300に入力される。空間ベクトル変調部300でベクトル変調された3相の電圧指令値V
u*,V
v*,V
w*はPWM制御部160に入力され、モータ100は前述と同様にPWM制御部160及びインバータ161を介して駆動制御される。
【0038】
次に、デッドタイム補償部200について説明する。
【0039】
デッドタイム補償部200は、減算部201(201U、201V、201W)及び202、中点電圧推定部210、3相指令電圧演算部220、電圧検出遅れモデル230、ゲイン部240、補償量制限部250及び3相交流/dq軸変換部260で構成されている。
【0040】
その詳細構成は
図6であり、モータ回転角θは中点電圧推定部210及び3相交流/dq軸変換部260に入力され、モータ回転数ωは中点電圧推定部210に入力される。モータ端子電圧Vu,Vv,VwはLPF163U〜163Wを経て中点電圧推定部210及び減算部201(201U,201V,201W)に入力されている。また、PWM制御部160内のDuyt指令値演算部160AからのDuty
u,Duty
v,Duty
wは3相印加電圧演算部220に入力され、インバータ印加電圧VRは中点電圧推定部210、3相指令電圧演算部220及び補償量制限部250に入力されている。
【0041】
中点電圧推定部210は、中点電圧の基準電圧をインバータ印加電圧VRにより算出する。詳細は
図7の構成であり、ハードの構成、検出誤差などの影響により中点電圧はズレを生じるため、インバータ印加電圧VRと3相モータ端子電圧Vu〜Vwの差分から補正する。補正するタイミングは、特定のモータ回転角θ及び特定のモータ回転数ωの条件で補正する。
【0042】
即ち、インバータ印加電圧VRは半減部211で半減(VR/2)され、半減値(VR/2)が減算部217及び218に加算入力される。端子電圧Vu〜Vwは加算部216に入力されて加算され、加算結果(Vu+Vv+Vw)が除算部(1/3)212で1/3倍され、1/3倍された電圧“(Vu+Vv+Vw)/3”が減算部217に減算入力される。減算部217は半減値VR/2から電圧“(Vu+Vv+Vw)/3”を減算し、減算結果VR
naを補正値保持部214に入力する。補正タイミング判定部213は、モータ回転角θ及びモータ回転数ωに基づいて補正タイミングを判定し、補正信号CTを補正値保持部214に入力する。補正値保持部214で保持された電圧VR
nbに基づき、補正量制限部215は補正量ΔVmを算出する。
【0043】
補正タイミング判定部213及び補正値保持部214の詳細は
図8に示す構成であり、補正タイミング判定部213は角度判定部213−1、有効回転数判定部213−2及びAND回路213−3で構成され、補正値保持部214は切換部214−1及び保持ユニット(Z
−1)214−2で構成されている。
【0044】
即ち、モータ回転角θは角度判定部213−1に入力され、下記数1の判定が行われる。数1が成立するとき、角度判定部213−1は判定信号JD1を出力する。
(数1)
179[deg]<θ<180[deg]
中点補正値の演算において上記数1のタイミングを補正条件とした場合、ゼロクロスポイントの電圧値を正確にサンプリングできる。このポイント以外では、モータ端子電圧に3次高調波が重畳されており、より正確な値が検出できない。例えば数1の条件で検出された各端子電圧をVu=6.83[V]、Vv=7.55[V]、Vw=5.94[V]、モータ印加電圧を13.52[V]とすると、(Vu+Vv+Vw)/3=6.77[V]、VR/2=6.76[V]となり、VR/2≒(Vu+Vv+Vw)/3となり、中点電圧に近い値となる。また、モータ回転数ωが大きい場合、モータ逆起電圧の影響が大きくなるのとサンプリングの精度が悪化するため、正確な補正演算ができなくなる。このため、有効回転数判定部213−2はモータ回転数ωが補正演算可能な有効回転数ω
0以下であるかを判定し、モータ回転数ωが補正演算可能な有効回転数ω
0以下の時に、判定信号JD2を出力する。
(数2)
ω≦ω
0
判定信号JD1及びJD2はAND回路213−3に入力され、判定信号JD1及びJD2が入力されたAND条件で補正信号CTが出力される。補正信号CTは補正値保持部214内の切換部214−1に切換信号として入力され、接点a,bを切り換える。接点aには減算結果VR
naが入力され、接点bには出力電圧VR
nbが保持ユニット(Z
−1)214−2を経て入力されている。補正値保持部214は次のタイミングまで安定した補正値を出力するため、値を保持する。また、補正量制限部215は、ノイズや逆起電圧、補正タイミング誤判定などにより、補正量が通常よりも明らかに大きい場合、当該補正量が正しくないと判断して最大補正量に制限する。最大補正量に制限された電圧補正値ΔVmは減算部218に入力され、減算部218で下記数3に基づいて演算された中点電圧推定値Vmが出力される。中点電圧推定値Vmは、減算部201(201U,201V,201W)にそれぞれ減算入力される。
【0045】
【数3】
また、3相指令電圧演算部220には3相Duty指令値Duty
u,Duty
v,Duty
w及びインバータ印加電圧VRが入力されており、3相指令電圧演算部220は、3相Duty指令値Duty
u,Duty
v,Duty
w及びインバータ印加電圧VRにより、下記数4を用いて3相指令電圧V
inを算出する。3相指令電圧V
inは、電圧検出遅れモデル230に入力される。なお、数4中のDuty
refは、Duty
u,Duty
v,Duty
wを示している。
【0046】
【数4】
中点電圧推定値Vmは減算部201(201U,201V,201W)に減算入力され、減算部201(201U,201V,201W)にはLPF163U,163V,163Wを経た端子電圧Vu,Vv,Vwが減算入力されている。減算部201U,201V,201Wは3相端子電圧Vu,Vv,Vwから中点電圧推定値Vmを減算部201u,201v、201wで、下記数5に従って減算する。これにより、3相検出電圧V
dn(V
du,V
dv,V
dw)を演算する。3相検出電圧V
dn(V
du,V
dv,V
dw)は、3相損失電圧演算部としての減算部202に入力される。
【0047】
【数5】
端子電圧Vu〜Vwの検出は、ECUのノイズフィルタ等により遅れが生じる。このため、直接3相指令電圧V
inと3相検出電圧V
dnの差分をとって損失電圧を算出した場合、位相差により誤差が生じる。この問題を解決するため、本実施形態では、フィルタ回路等のハードウェアの検出遅れを1次のフィルタモデルとして近似し、位相差を改善する。本実施形態の電圧検出遅れモデル230は、Tをフィルタ時定数として、下記数6の1次フィルタとしている。電圧検出遅れモデル230は、2次以上のフィルタをモデルとした構成でもよい。
【0048】
【数6】
減算部202には、電圧検出遅れモデル230からの3相補正指令電圧V
inpが加算入力され、減算部201からの3相検出電圧V
dnが減算入力されており、3相補正指令電圧V
inpから3相検出電圧V
dnを減算することにより3相損失電圧PLA(V
loss_n)が算出される。即ち、減算部202で下記数7が演算される。
【0049】
【数7】
3相損失電圧PLA(V
loss_n)はゲイン部240でゲインP
G(例えば0.8)を乗算され、ゲインP
Gを乗算された3相損失電圧PLBは補償量制限部250に入力される。ゲインP
Gは基本的に調整する必要はないが、他の補償器との整合や実車チューニング、ECUの部品が変わったときなど、出力調整を必要とする場合には変更する。
【0050】
補償量制限部250はインバータ印加電圧VRに感応しており、その詳細構成は
図9のようになっている。即ち、インバータ印加電圧VRは、補償量制限部250内の補償量上下限値演算部251に入力され、
図10に示すような特性で補償量制限値DTCaが演算される。補償量制限値DTCaは、所定電圧VR1まで一定制限値DTCa1であり、所定電圧VR1から所定電圧VR2(>VR1)まで線形(若しくは非線形)に増加し、所定電圧VR2以上で一定制限値DTCa2を保持する特性である。補償量制限値DTCaは切換部252の接点a1及び比較部255に入力されると共に、反転部254に入力される。また、3相損失電圧PLB(V
loss_u,V
loss_v,V
loss_w)は比較部255及び256に入力されると共に、切換部252の接点b1に入力されている。そして、反転部254の出力−DTCaは切換部253の接点a2に入力されている。切換部252の接点a1及びb1は、比較部255の比較結果CP1に基づいて切り換えられ、切換部253の接点a2及びb2は、比較部256の比較結果CP2に基づいて切り換えられる。
【0051】
比較部255は補償量制限値DTCaと3相損失電圧PLBとを比較し、下記数8に従って切換部252の接点a1及びb1を切り換える。また、比較部256は補償量制限値−DTCaと3相損失電圧PLBとを比較し、下記数9に従って切換部253の接点a2及びb2を切り換える。
(数8)
3相損失電圧PLB≧補償量上限値:(DTCa)のとき、切換部252の接点a1がON
(切換部253の接点b2=DTCa)
3相損失電圧PLB<補償量上限値:(DTCa)のとき、切換部252の接点b1がON
(切換部253の接点b2=3相損失電圧PLB)
(数9)
3相損失電圧PLB≦補償量下限値:(−DTCa)のとき、切換部253の接点a2がON
(デッドタイム補償値DTC=−DTCa)
3相損失電圧PLB>補償量下限値:(−DTCa)のとき、切換部253の接点b2がON
(デッドタイム補償値DTC=切換部252の出力)
このように本実施形態では、モータ端子電圧を検出して3相検出電圧を推定すると共に、3相Duty指令値から3相補正指令電圧を演算し、これらの差分からインバータのデッドタイムによる損失電圧を算出する。算出した損失電圧から、上限値を超える補償量が検出された場合、逆起電圧などによる外乱と判断し、補償値を制限してデッドタイムによる損失を算出する。また、算出された損失電圧をdq軸上に変換し、デッドタイム補償値としてフィードバックすることによりdq軸上においてもデッドタイム補償することが可能である。
【0052】
次に、空間ベクトル変調について説明する。空間ベクトル変調部300は
図11に示すように、dq軸空間の2相電圧(v
d**,V
q**)を3相電圧(V
ua,V
va,V
wa)に変換し、3相電圧(V
ua,V
va,V
wa)に3次高調波を重畳する機能を有していれば良く、例えば本出願人による特開2017−70066、特願2015−239898等で提案している空間ベクトル変調の手法を用いても良い。
【0053】
即ち、空間ベクトル変調は、dq軸空間の電圧指令値v
d**及びV
q**、モータ回転角θ及びセクター番号n(#1〜#6)に基づいて、以下に示すような座標変換を行い、ブリッジ構成のインバータのFET(上側アームQ1、Q3、Q5、下側アームQ2、Q4、Q6)のON/OFFを制御する、セクター#1〜#6に対応したスイッチングパターンS1〜S6をモータに供給することによって、モータの回転を制御する機能を有する。座標変換については、空間ベクトル変調において、電圧指令値v
d**及びV
q**は、数10に基づいて、α−β座標系における電圧ベクトルVα及びVβに座標変換が行われる。この座標変換に用いる座標軸及びモータ回転角θの関係については、
図12に示す。
【0054】
【数10】
そして、d−q座標系における目標電圧ベクトルとα−β座標系における目標電圧ベクトルとの間には、数11のような関係が存在し、目標電圧ベクトルVの絶対値は保存される。
【0055】
【数11】
空間ベクトル制御におけるスイッチングパターンでは、インバータの出力電圧をFET(Q1〜Q6)のスイッチングパターンS1〜S6に応じて、
図13の空間ベクトル図に示す8種類の離散的な基準電圧ベクトルV0〜V7(π/3[rad]ずつ位相の異なる非零電圧ベクトルV1〜V6と零電圧ベクトルV0,V7)で定義する。そして、それら基準出力電圧ベクトルV0〜V7の選択とその発生時間を制御するようにしている。また、隣接する基準出力電圧ベクトルによって挟まれた6つの領域を用いて、空間ベクトルを6つのセクター#1〜#6に分割することができ、目標電圧ベクトルVは、セクター#1〜#6のいずれか1つに属し、セクター番号を割り当てることができる。Vα及びVβの合成ベクトルである目標電圧ベクトルVが、α−β空間において正6角形に区切られた
図13に示されたようなセクター内のいずれに存在するかは、目標電圧ベクトルVのα−β座標系における回転角γに基づいて求めることができる。また、回転角γはモータの回転角θとd−q座標系における電圧指令値v
d**及びv
q**の関係から得られる位相δの和として、γ=θ+δで決定される。
【0056】
図14は、空間ベクトル制御におけるインバータのスイッチングパターンS1、S3,S5によるディジタル制御で、インバータから目標電圧ベクトルVを出力させるために、FETに対するON/OFF信号S1〜S6(スイッチングパターン)におけるスイッチングパルス幅とそのタイミングを決定する基本的なタイミングチャートを示す。空間ベクトル変調は、規定されたサンプリング期間Ts毎に演算などをサンプリング期間Ts内で行い、その演算結果を次のサンプリング期間Tsにて、スイッチングパターンS1〜S6における各スイッチングパルス幅とそのタイミングに変換して出力する。
【0057】
空間ベクトル変調は、目標電圧ベクトルVに基づいて求められたセクター番号に応じたスイッチングパターンS1〜S6を生成する。
図14には、セクター番号#1(n=1)の場合における、インバータのFETのスイッチングパターンS1〜S6の一例が示されている。信号S1、S3及びS5は、上側アームに対応するFETQ1、Q3、Q5のゲート信号を示している。横軸は時間を示しており、Tsはスイッチング周期に対応し、8期間に分割され、T0/4、T1/2、T2/2、T0/4、T0/4、T2/2、T1/2及びT0/4で構成される期間である。また、期間T1及びT2は、それぞれセクター番号n及び回転角γに依存する時間である。
【0058】
空間ベクトル変調がない場合、本発明のデッドタイム補償をdq軸上に適用し、デッドタイム補償値のみdq軸/3相変換したデッドタイム補償値波形(U相波形)は、
図15の破線のような3次成分が除去された波形となってしまう。V相及びW相についても同様である。dq軸/3相変換の代わりに空間ベクトル変調を適用することにより、3相信号に3次高調波を重畳させることが可能となり、3相変換によって欠損してしまう3次成分を補うことができ、
図15の実線のような理想的なデッドタイム補償波形を生成することが可能となる。
【0059】
図16及び
図17は本発明(第1実施形態)の効果を示すシミュレーション結果であり、
図16はデッドタイムの補償がない場合のU相電流、d軸電流及びq軸電流を示している。本実施形態のデッドタイム補償を適用することにより、低速・低負荷でのステアリング操舵状態において、
図17のように相電流及びdq軸電流の波形歪みの改善(dq軸電流波形にリップルが少な、正弦波に近い相電流波形)が確認でき、操舵時のトルクリップルの改善と操舵音の改善がみられた。なお、
図16及び
図17では、代表してU相電流を示している。
【0060】
次に、本発明の第2実施形態を
図18に示して説明する。
【0061】
図18は第2実施形態の全体構成を
図5に対応させて示しており、dq軸上のデッドタイム補償値v
d*及びv
q*を演算するデッドタイム補償部200Aが設けられている。デッドタイム補償部200Aは主にdq軸の2相で処理され、主に3相で処理されている第1実施形態のデッドタイム補償部200と相違している。そのため、第1実施形態の3相交流/dq軸変換部260及び中点電圧推定部210が削除され、新たに3相交流/dq軸変換部261及び262が設けられている。
【0062】
モータ110の端子電圧Vu,Vv,Vwは、それぞれノイズ除去用のLPF163U,163V,163Wを経て3相交流/dq軸変換部261に入力され、3相交流/dq軸変換部261においてモータ回転角θに同期してdq軸検出電圧V
dn(V
d,V
q)に変換される。dq軸検出電圧V
dn(V
d,V
q)は、減算部202に減算入力される。また、3相指令電圧演算部220には3相Duty指令値Duty
u,Duty
v,Duty
w及びインバータ印加電圧VRが入力されており、3相指令電圧演算部220は、前記数4を用いて3相指令電圧V
inを演算する。3相指令電圧V
inは3相交流/dq軸変換部262に入力され、モータ回転角θに同期してdq軸指令電圧V
inaに変換され、dq軸指令電圧V
inaは電圧検出遅れモデル230に入力される。
【0063】
電圧検出遅れモデル230は2相である点を除いて、第1実施形態と全く同一の動作であり、前記数6で示されるような1次のフィルタモデルとして近似し、位相差を改善している。電圧検出遅れモデル230からのdq軸補正指令電圧V
inpは、損失電圧演算部としての減算部202に加算入力され、3相交流/dq軸変換部261からのdq軸指令電圧V
inを減算することにより、dq軸損失電圧PLA(V
loss_d、V
loss_q)が算出される。即ち、減算部202で下記数12が演算される。
【0064】
【数12】
dq軸損失電圧PLA(V
loss_d、V
loss_q)はゲイン部240でゲインP
G(例えば0.8)を乗算され、ゲインP
Gを乗算されたdq軸損失電圧PLBは補償量制限部250に入力される。ゲインP
Gは基本的に調整する必要はないが、他の補償器との整合や実車チューニング、ECUの部品が変わったときなど、出力調整を必要とする場合には変更する。補償量制限部250は2相である点を除いて、第1実施形態と同一の構成及び動作であり、
図9の3相損失電圧PLB(V
loss_u,V
loss_v,V
loss_w)に代えて、
図19に示すように2相のdq軸損失電圧PLB(V
loss_d、V
loss_q)が入力されている。他の構成は
図9と
図19で同一であり、本実施形態の補償量制限部250は、下記数13及び数14並びに
図13の特性に従ってデッドタイム補償値V
d*及びv
q*を出力し、デッドタイム補償値V
d*及びv
q*はそれぞれdq軸上の加算部121d及び121qに入力される。
(数13)
dq軸損失電圧PLB≧補償量上限値:(DTCa)のとき、切換部252の接点a1がON
(切換部253の接点b2=DTCa)
dq軸損失電圧PLB<補償量上限値:(DTCa)のとき、切換部252の接点b1がON
(切換部253の接点b2=dq軸損失電圧PLB)
(数14)
dq軸損失電圧PLB≦補償量下限値:(−DTCa)のとき、切換部253の接点a2がON
(デッドタイム補償値DTC=−DTCa)
dq軸損失電圧PLB>補償量下限値:(−DTCa)のとき、切換部253の接点b2がON
(デッドタイム補償値DTC=切換部252の出力)
このように本実施形態では、モータ端子電圧を検出してdq軸検出電圧を検出すると共に、3相Duty指令値からdq軸補正指令電圧を演算し、これらの差分からインバータのデッドタイムによる損失電圧を算出する。算出した損失電圧から、上限値を超える補償量が検出された場合、逆起電圧などによる外乱と判断し、補償値を制限してデッドタイムによる損失を補償する。また、算出された損失電圧をデッドタイム補償値としてフィードバックすることにより、dq軸上においてデッドタイム補償することが可能である。
【0065】
図20及び
図21は本発明(第2実施形態)の効果を、U相について示すシミュレーション結果であり、
図20はデッドタイムの補償がない場合のU相電流、d軸電流及びq軸電流を示している。本実施形態のデッドタイム補償を適用することにより、低速・低負荷でのステアリング操舵状態において、
図21のように相電流及びdq軸電流の波形歪みの改善(dq軸電流波形にリップルが少ない、正弦波に近い相電流波形)が確認でき、操舵時のトルクリップルの改善と操舵音の改善がみられた。
【0066】
次に、本発明の第3実施形態を説明する。
【0067】
図22は第3実施形態の全体構成を
図18に対応させて示しており、dq軸上のデッドタイム補償値v
d*及びv
q*を演算するデッドタイム補償部200Bが設けられている。デッドタイム補償部200Bは、第2実施形態と同様に主にdq軸の2相で処理され、第2実施形態の3相交流/dq軸変換部262及び3相指令電圧演算部220が削除され、電圧指令値v
d**及びv
q**を入力する電圧比率補正演算部270が新たに設けられている。
【0068】
モータ110の端子電圧Vu,Vv,Vwは、それぞれノイズ除去用のLPF163U,163V,163Wを経て3相交流/dq軸変換部261に入力され、3相交流/dq軸変換部261においてモータ回転角θに同期してdq軸検出電圧V
dn(V
d,V
q)に変換される。dq軸検出電圧
mdn(V
d,V
q)は、損失電圧検出部としての減算部202に減算入力される。電圧比率補正演算部270にはd軸電圧指令値v
d**及びq軸電圧指令値v
q**が入力されており、電圧比率補正演算部270は、PWM周期をPWM_Time、DTをデッドタイムとして、下記数15を用いてdq軸指令電圧V
comp(V
comp_d,V
comp_q)を演算する。dq軸指令電圧V
comp(V
comp_d,V
comp_q)は、電圧検出遅れモデル230に入力される。
【0069】
【数15】
電圧検出遅れモデル230は第2実施形態と全く同一の動作であり、前記数6で示されるような1次のフィルタモデルとして近似し、位相差を改善している。電圧検出遅れモデル230からのdq軸補正指令電圧V
inp(V
ind,V
inq)は、損失電圧演算部としての減算部202に加算入力され、前記数12のように、dq軸補正指令電圧V
inpからdq軸検出電圧V
dnを減算することにより、dq軸損失電圧PLA(V
loss_d、V
loss_q)が算出される。dq軸損失電圧PLAは、第2実施形態と同様にゲイン部240でゲインP
Gを乗算され、補償量制限部250で前記数13及び数14の演算処理をされ、デッドタイム補償値v
d*,v
q*が出力される。
【0070】
このように本実施形態では、モータ端子電圧を検出してdq軸検出電圧を検出すると共に、dq軸電圧指令値からdq軸指令電圧を演算し、更にdq軸補正指令電圧を演算し、dq軸検出電圧との差分からインバータのデッドタイムによる損失電圧を算出する。算出した損失電圧から、上限値を超える補償量が検出された場合、逆起電圧などによる外乱と判断し、補償値を制限してデッドタイムによる損失を補償する。また、算出された損失電圧をデッドタイム補償値としてフィードバックすることにより、dq軸上においてデッドタイム補償することが可能である。
【0071】
図23及び
図24は本実施形態の効果をU相について示すシミュレーション結果であり、
図23はデッドタイムの補償がない場合のU相電流、d軸電流及びq軸電流を示している。本発明のデッドタイム補償を提起用することにより、低速・低負荷でのステアリング操舵状態において、
図24のように相電流及びdq軸電流の波形歪みの改善(dq軸電流波形にリップルが少ない、正弦波に近い相電流波形)が確認でき、操舵時のトルクリップルの改善と操舵音の改善がみられた。
【0072】
次に、本発明の第4実施形態を説明する。
【0073】
図25は第4実施形態の全体構成を
図5に対応させて示しており、dq軸上のデッドタイム補償値v
d*及びv
q*を演算するデッドタイム補償部200Cが設けられている。第1実施形態のデッドタイム補償部200と比較し、デッドタイム補償部200Cは新たに補償量改善部280を具備しており、他の構成要素は共通している。補償量改善部280には、モータ回転角θ、インバータ印加電圧VR、
図2の操舵補助指令値Iref2に相当するq軸の操舵補助指令値i
qrefが入力されると共に、減算部202からの3相損失電圧PLAが入力されている。
【0074】
デッドタイム補償部200Cの詳細構成は
図26であり、中点電圧推定部210は
図7の構成であり、前述と同様な方法で中点電圧推定値Vmを推定する。中点電圧推定値Vmは減算部201に入力され、モータ端子電圧との差が3相検出電圧V
dnとして減算部202に減算入力されている。また、3相指令電圧演算部220及び電圧検出遅れモデル230も第1実施形態と同様であり、電圧検出遅れモデル230からの3相補正指令電圧V
inpは減算部202に加算入力され、3相検出電圧V
dnとの偏差が3相損失電圧PLAとして補償量改善部280及び加算部203に入力されている。
【0075】
補償量改善部280は
図26に示すような構成であり、操舵補助指令値i
qref、モータ回転角θ及びインバータ印加電圧VRを入力するデッドタイム補償値関数部281と、デッドタイム補償値関数部281からの補正用デッドタイム補償値DTCと減算部202からの3相損失電圧PLAとの偏差であるデッドタイム補償値DTDを求める減算部282と、デッドタイム補償値DTDに操舵補助指令値i
qrefに感応する電流ゲインG
iを乗算してデッドタイム補償量CRを出力するゲイン部283とで構成されている。
【0076】
デッドタイム補償値関数部281は、
図27に詳細を示すようにモータ回転角θに対して、電気角0〜359[deg]の範囲で120[deg]ずつ位相のずれた矩形波の3相デッドタイム基準補償値U
dt,V
dt,W
dtを出力するU相角度−デッドタイム補償値関数部281FU,V相角度−デッドタイム補償値関数部281FV,W相角度−デッドタイム補償値関数部281FWと、インバータ印加電圧VRに感応して電圧感応ゲインG
vを出力するインバータ印加電圧感応ゲイン演算部281Gと、3相デッドタイム基準補償値U
dt,V
dt,W
dtに電圧感応ゲインG
vを乗算して3相のデッドタイム補償値U
dtc(= G
v・U
dt),V
dtc(= G
v・V
dt),W
dtc(= G
v・W
dt)を出力する乗算部281MU〜281MWと、操舵補助指令値i
qrefの正負符号を判定して補償のための正負符号PMSを出力する補償符号判定部281Sとで構成されている。
【0077】
角度−デッドタイム補償値関数部281FU,281FV,281FWは、3相で必要とされるデッドタイム補償値を角度による関数とし、ECUの実時間上で計算し、デッドタイム基準補償値U
dt,V
dt,W
dtを出力する。デッドタイム基準補償値の角度関数は、ECUのデッドタイムの特性により異なる。また、最適なデッドタイム補償量はインバータ印加電圧VRに応じて変化するので、本実施形態ではインバータ印加電圧VRに応じたデッドタイム補償量を演算し、可変するようにしている。インバータ印加電圧VRを入力して電圧感応ゲインG
vを出力するインバータ印加電圧感応ゲイン部281Gは
図28に示す構成であり、インバータ印加電圧VRは入力制限部281G−1で正負最大値を制限され、最大値を制限されたインバータ印加電圧VR
lはインバータ印加電圧/デッドタイム補償ゲイン変換テーブル281G−2に入力される。インバータ印加電圧/デッドタイム補償ゲイン変換テーブル281G−2の特性は、例えば
図29のようになっている。変曲点のインバータ印加電圧9.0V及び15.0Vと、電圧感応ゲイン“0.7”及び“1.2”は一例であり、適宜変更可能である。
【0078】
電圧感応ゲインG
vを乗算されたデッドタイム補償値U
dtc (= G
v・U
dt),V
dtc(= G
v・V
dt),W
dtc(= G
v・W
dt)はそれぞれ乗算部281NU,281NV,281NWに入力される。また、操舵補助指令値
iqrefは補償符号判定部281Sに入力され、判定された正負符号PMSは乗算部281NU,281NV,281NWに入力される。乗算部281NU,281NV,281NWで、デッドタイム補償値U
dtc,V
dtc ,W
dtcに正負符号PMSを乗算して補正用デッドタイム基準補償値DTC(U
dt,V
dt,W
dt)を演算する。
【0079】
デッドタイム補償値関数部281で演算された補正用デッドタイム基準補償値DTC(U
dt,V
dt,W
dt)は減算部282に加算入力され、減算部202からの各相損失電圧PLAは減算部282に減算入力され、減算部282において偏差であるデッドタイム補償値DTDが算出される。デッドタイム補償値DTDはゲイン部283に入力され、デッドタイム補償値DTDが操舵補助指令値i
qrefに感応する電流ゲインG
iでゲイン倍されてデッドタイム補償量CRを出力する。
【0080】
ゲイン部283は、操舵補助指令値i
qrefに対して例えば
図30に示すような特性であり、電流ゲインG
iを乗算されたデッドタイム補償量CRは加算部203に入力されて3相損失電圧PLAと加算される。加算結果である補正された3相損失電圧PLB(V
loss_n)は、前述の第1実施形態と同様に、ゲイン部240でゲインP
Gを乗算され、ゲインP
Gを乗算された各相損失電圧PLBは補償量制限部250に入力される。
【0081】
電流ゲインG
iの感応動作に関係している入力信号は、操舵補助指令値i
qref(若しくはその絶対値|i
qref|)だけである。操舵補助指令値i
qrefの符号が変わるゼロクロス付近の微小電流領域では、理想との差分をとった補正をしない方が、精度が高い(操舵補助指令値i
qrefのチャタリングにより誤補正し易い)。このため、
図12に一例を示すように、ある一定の電流値(例えば0.25[A])までは電流ゲインG
iを“0”にし、一定値(0.25[A])を超えた電流値に対し電流量に応じて徐々に電流ゲインG
iを上げ、上限電流(例えば3.0[A])以上になった場合は電流ゲインG
iを一定(例えば0.75)にしている。
【0082】
補償量制限部250はインバータ印加電圧VRに感応しており、その構成は
図9のようになっており、前記数8及び数9の判定に基づいてデッドタイム補償値DTCが出力される。デッドタイム補償値DTCは3相交流/dq軸変換部260に入力され、モータ角度θに同期して2相のデッドタイム補償値v
d*,v
q*に変換される。
【0083】
このように本実施形態では、モータ端子電圧を検出して3相検出電圧を推定すると共に、3相Duty指令値から3相指令電圧を演算し、更に3相補正指令電圧を演算し、3相検出電圧との差分からインバータのデッドタイムによる損失電圧を算出し、デッドタイム補償量CRにより補正する。補正された損失電圧から、上限値を超える補償量が検出された場合、逆起電圧などによる外乱と判断し、補償値を制限してデッドタイムによる損失を算出する。また、算出された損失電圧をdq軸上に変換し、デッドタイム補償値としてフィードバックすることによりdq軸上においてもデッドタイム補償することが可能である。
【0084】
ここで、補償量改善部280の各部における波形例を示すと、
図31(A)〜(D)のようになっており、理想のデッドタイム補償波形に近い形に補正され、操舵時のトルクリップルが低減された。即ち、
図31(A)は各相損失電圧PLAの波形を示しており、
図31(B)に示す理想的なデッドタイム補償値DTCとの偏差は
図31(C)のような波形(デッドタイム補償値DTD)となる。デッドタイム補償値DTDに操舵電流指令値i
qrefに感応した電流ゲインG
iを乗算して各相損失電圧PLAに加算することにより、
図31(D)に示すような理想形に近いデッドタイム補償波形を得ることができる。なお、
図31ではU相のみについて示しているが、他の相についても同様である。
【0085】
図32及び
図33は、U相について、第4実施形態の効果を示す実車を模擬した台上試験装置による結果であり、
図32はデッドタイムの補償がない場合のU相電流、d軸電流及びq軸電流を示している。本実施形態のデッドタイム補償を適用することにより、低速・低負荷でのステアリング操舵状態において、
図33のように相電流及びdq軸電流の波形歪みの改善(dq軸電流波形にリップルが少な、正弦波に近い相電流波形)が確認でき、操舵時のトルクリップルの改善と操舵音の改善がみられた。
【0086】
次に、本発明の第5実施形態を説明する。
【0087】
前述した第2実施形態では、モータ端子電圧を検出してdq軸検出電圧を検出すると共に、3相Duty指令値からdq軸指令電圧を演算し、更にdq軸補正指令電圧を演算し、dq軸補正指令電圧とdq軸検出電圧の差分からインバータのデッドタイムによる損失電圧を算出している。算出した損失電圧から、上限値を超える補償量が検出された場合、逆起電圧などによる外乱と判断し、補償値を制限してデッドタイムによる損失を補償している。また、算出された損失電圧をデッドタイム補償値としてフィードバックし、dq軸上においてデッドタイム補償を行っている。
【0088】
しかしながら、第2実施形態では、デッドタイムによる損失電圧を検出して反映するまでの遅れなどにより、理想とされる補償量よりも若干少ないので、第5実施形態のデッドタイム補償部200Dでは
図34に示すように、第4実施形態で説明した補償量改善部280を2相化した補償量改善部280Aを、
図18に構成に付加している。即ち、本実施形態の補償量改善部280Aは、
図2の操舵補助指令値Iref2に相当するq軸の操舵補助指令値I
qref、モータ回転角θ及びインバータ印加電圧VRに基づいて、理想的なデッドタイム補償値DTCを出力するdq軸デッドタイム補償理想モデル281Aと、デッドタイム補償値DTC及びdq軸損失電圧PLAの偏差DTDを算出する減算部282と、偏差DTDを操舵補助指令値I
qrefに基づいて電流ゲインG
i倍するゲイン部283とで構成されている。ゲイン部283からの改善補償量CRは、加算部203でdq軸損失電圧PLAと加算されて戻し補正され、補正された補償量PLA1がゲイン部240に入力される。
【0089】
dq軸デッドタイム補償理想モデル281Aは、角度によるデッドタイム補償値を出力する関数を使用しており、
図35に示されるような出力波形のdq軸デッドタイム補償値DT
d、DT
qに変換される。
図35のdq軸出力波形を元に、モータ回転角(θ)入力による角度−デッドタイム補償値基準テーブル281−2d及び281−2qを生成する。デッドタイム補償値基準テーブル281−2dは
図36(A)に示すように、モータ回転角θ(位相調整後のモータ回転角θ
m)に対して鋸歯波状の出力電圧特性(d軸デッドタイム基準補償値)を有し、デッドタイム補償値基準テーブル281−2qは
図36(B)に示すように、オフセット電圧を上乗せした波状波形の出力電圧特性(q軸デッドタイム基準補償値)を有している。
【0090】
dq軸デッドタイム補償理想モデル281Aからのデッドタイム補償値DTCは減算部282に入力され、dq軸損失電圧PLAとの偏差DTD(=DTC-PLA)が算出される。偏差DTDはゲイン部283に入力され、
図30に示すような特性で、操舵補助指令値i
qrefをパラメータとしてゲインG
i倍したデッドタイム補償量CRを出力する。ゲイン部283の特性は、第4実施形態で説明したものと同様である。即ち、ゲイン部283は
図30に示すように、操舵補助指令値I
qrefの符号が変わるゼロクロス付近の微小電流領域では、補正しない方が、精度が高いため、ある一定の操舵補助指令値I
qrefまでは電流ゲインG
iを“0”にし、一定値を超えた操舵補助指令値I
qrefに対し、電流量に応じて徐々にゲインG
iを上げ、上限電流以上になった場合は、ゲインG
iを一定にする特性である。以降の動作は
図22と同様である。
【0091】
図37及び
図38は、U相について、実車を模擬した台上試験装置による効果を示しており、
図37はデッドタイムの補償がない場合のU相電流、d軸電流及びq軸電流を示している。本実施形態のデッドタイム補償を適用することにより、低速・低負荷でのステアリング操舵状態において、
図38のように相電流及びdq軸電流の波形歪みの改善(dq軸電流波形にリップルが少ない、正弦波に近い相電流波形)が確認でき、操舵時のトルクリップルの改善と操舵音の改善がみられた。
【0092】
また、補償量改善部280Aの各部の波形例を
図39〜
図42に示して説明する。
図39はdq軸損失電圧PLAの波形例を示しており、
図40はdq軸デッドタイム補償理想モデル281Aから出力されるデッドタイム補償値DTCを示している。また、
図41は減算部282で算出される偏差DTDの波形例であり、
図42は加算部203で補正されたデッドタイム補償量PLA1の波形例である。これらの波形図から、補正演算を加えることにより補正前の
図39の波形に比べ、補正後の
図42の波形が理想デッドタイム補償波形に近い波形に補正されていることが分かる。
【0093】
次に、本発明の第6実施形態を説明する。
【0094】
前述した第3実施形態では、モータ端子電圧を検出してdq軸検出電圧V
dnを検出すると共に、dq軸電圧指令値v
d**,v
q**からdq軸補正指令電圧V
ind,V
inqを演算し、dq軸補正指令電圧V
ind,V
inqとdq軸検出電圧V
dd,V
dqの差分からインバータのデッドタイムによる損失電圧PLAを算出する。算出した損失電圧PLAから、上限値を超える補償量が検出された場合、逆起電圧などによる外乱と判断し、補償値を制限してデッドタイムによる損失を補償する。また、算出された損失電圧をデッドタイム補償値としてフィードバックすることにより、dq軸上においてデッドタイム補償することが可能である。
【0095】
しかしながら、第3実施形態では、デッドタイムによる損失電圧を検出して反映するまでの遅れなどにより、理想とされる補償量よりも若干少ないので、第5実施形態のデッドタイム補償部200Eでは
図434に示すように、第4実施形態で説明した補償量改善部280を2相化した補償量改善部280A、つまり第5実施形態で説明した補償量改善部280Aを、
図22の構成に付加している。
【0096】
補償量改善部280Aは第5実施形態で説明した構成及び動作と全く同一であり、dq軸デッドタイム補償理想モデル281Aからのデッドタイム補償値DTCは減算部282に入力され、dq軸損失電圧PLAとの偏差DTD(=DTC-PLA)が算出される。偏差DTDはゲイン部283に入力され、
図30に示すような特性で、操舵補助指令値i
qrefをパラメータとしてゲインG
i倍したデッドタイム補償量CRを出力する。以降の動作は
図22と同様である。ゲイン部283は
図30に示すように、操舵補助指令値I
qrefの符号が変わるゼロクロス付近の微小電流領域では、補正しない方が、精度が高いため、ある一定の操舵補助指令値I
qrefまでは補正ゲインG
iを“0”にし、一定値を超えた操舵補助指令値I
qrefに対し、電流量に応じて徐々にゲインG
iを上げ、上限電流以上になった場合は、ゲインG
iを一定にする特性である。
【0097】
図44及び
図45は、実車を模擬した台上試験装置による効果を示しており、
図44はデッドタイムの補償がない場合のU相電流、d軸電流及びq軸電流を示している。本実施形態のデッドタイム補償を適用することにより、低速・低負荷でのステアリング操舵状態において、
図45のように相電流及びdq軸電流の波形歪みの改善(dq軸電流波形にリップルが少ない、正弦波に近い相電流波形)が確認でき、操舵時のトルクリップルの改善と操舵音の改善がみられた。