(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
少なくとも操舵トルクに基づいて電流指令値を演算し、前記電流指令値に基づいてモータを駆動し、前記モータの駆動制御によって操舵系をアシスト制御する電動パワーステアリング装置において、
舵角、前記操舵トルク、前記電流指令値、車速及び実舵角速度によってハンドル戻し制御電流を演算し、前記ハンドル戻し制御電流で前記電流指令値を補正した補償電流指令値で前記モータを駆動するハンドル戻し制御部を備え、
前記ハンドル戻し制御部が、目標舵角速度及び前記実舵角速度の速度偏差に基づいて前記ハンドル戻し制御電流を演算する構成であり、
前記舵角及び前記車速に基づいて目標戻り速度を演算し、前記操舵トルク及び前記電流指令値から算出されたアシストトルクとの加算値に基づいて、前記目標戻り速度を補正して前記目標舵角速度を求めるようになっており、
前記操舵トルク、若しくは前記電流指令値から算出されたアシストトルク、若しくは前記操舵トルク及び前記アシストトルクの両方、若しくは前記操舵トルク及び前記アシストトルクの加算トルク値に対して、ゲイン調整部によってゲイン調整して、前記加算値を求めて前記目標舵角速度を算出するようになっていることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
前記ゲイン調整部が、前記操舵トルク、若しくは前記アシストトルク、若しくは前記加算トルク値の微小領域で、入力と出力が等しい特性(ゲイン=1)よりも小さな出力値となる特性を有している請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
少なくとも操舵トルクに基づいて電流指令値を演算し、前記電流指令値に基づいてモータを駆動し、前記モータの駆動制御によって操舵系をアシスト制御する電動パワーステアリング装置において、
舵角、前記操舵トルク、前記電流指令値、車速及び実舵角速度によってハンドル戻し制御電流を演算し、前記ハンドル戻し制御電流で前記電流指令値を補正した補償電流指令値で前記モータを駆動するハンドル戻し制御部を備え、
前記ハンドル戻し制御部が、目標舵角速度及び前記実舵角速度の速度偏差に基づいて前記ハンドル戻し制御電流を演算する構成であり、
前記舵角及び前記車速に基づいて目標戻り速度を演算し、前記操舵トルク及び前記電流指令値から算出されたアシストトルクとの加算値に基づいて、前記目標戻り速度を補正して前記目標舵角速度を求めるようになっており、
前記操舵トルク、若しくは前記電流指令値から算出されたアシストトルク、若しくは前記操舵トルク及び前記アシストトルクの両方、若しくは前記操舵トルク及び前記アシストトルクの加算トルク値に対して、不感帯を有する不感帯部によって調整して、前記加算値を求めて前記目標舵角速度を算出するようになっていることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
前記不感帯部が、前記操舵トルク、若しくは前記アシストトルク、若しくは前記加算トルク値の微小領域で不感帯幅を有している請求項4に記載の電動パワーステアリング装置。
【背景技術】
【0002】
車両のステアリング機構にモータの回転力でアシストトルクを付与する電動パワーステアリング装置(EPS)は、モータの駆動力を減速機構を介してギア又はベルト等の伝達機構により、ステアリングシャフト或いはラック軸に操舵補助力を付与するようになっている。かかる従来の電動パワーステアリング装置(EPS)は、アシストトルクを正確に発生させるため、モータ電流のフィードバック制御を行っている。フィードバック制御は、操舵補助指令値(電流指令値)とモータ電流検出値との差が小さくなるようにモータ印加電圧を調整するものであり、モータ印加電圧の調整は、一般的にPWM(パルス幅変調)制御のデューティの調整で行っている。
【0003】
電動パワーステアリング装置の一般的な構成を
図1に示して説明すると、ハンドル1のコラム軸(ステアリングシャフト、ハンドル軸)2は減速ギア3、ユニバーサルジョイント4a及び4b、ラック・ピニオン機構5、タイロッド6a,6bを経て、更にハブユニット7a,7bを介して操向車輪8L,8Rに連結されている。また、コラム軸2には、ハンドル1の操舵トルクTdを検出するトルクセンサ10及び操舵角θを検出する舵角センサ14が設けられており、ハンドル1の操舵力を補助するモータ20が減速ギア3を介してコラム軸2に連結されている。電動パワーステアリング装置を制御するコントロールユニット(ECU)30には、バッテリ13から電力が供給されると共に、イグニションキー11を経てイグニションキー信号が入力される。コントロールユニット30は、トルクセンサ10で検出された操舵トルクTdと車速センサ12で検出された車速Vsとに基づいてアシスト(操舵補助)指令の電流指令値の演算を行い、電流指令値に補償等を施した電圧制御指令値Vrefによってモータ20に供給する電流を制御する。舵角センサ14は必須のものではなく、配設されていなくても良い。
【0004】
コントロールユニット30には、車両の各種情報を授受するCAN(Controller Area Network)50が接続されており、車速VsはCAN50から受信することも可能である。また、コントロールユニット30には、CAN50以外の通信、アナログ/ディジタル信号、電波等を授受する非CAN51も接続可能である。
【0005】
コントロールユニット30は主としてCPU(Central Processing Unit)(MCU(Micro Controller Unit)、MPU(Micro Processor Unit)等も含む)で構成されるが、そのCPU内部においてプログラムで実行される一般的な機能を示すと
図2のようになる。
【0006】
図2を参照してコントロールユニット30の機能及び動作を説明すると、トルクセンサ10で検出された操舵トルクTd及び車速センサ12で検出された(若しくはCAN50からの)車速Vsは、電流指令値Iref1を演算する電流指令値演算部31に入力される。電流指令値演算部31は、入力された操舵トルクTd及び車速Vsに基づいてアシストマップ等を用いて、モータ20に供給する電流の制御目標値である電流指令値Iref1を演算する。電流指令値Iref1は加算部32Aを経て電流制限部33に入力され、最大電流を制限された電流指令値Irefmが減算部32Bに入力され、フィードバックされているモータ電流値Imとの電流偏差ΔI(=Irefm−Im)が演算され、その電流偏差ΔIが操舵動作の特性改善のためのPI制御部35に入力される。PI制御部35で特性改善された電圧制御指令値VrefがPWM制御部36に入力され、更に駆動部としてのインバータ37を介してモータ20がPWM駆動される。モータ20の電流値Imはモータ電流検出器38で検出され、減算部32Bにフィードバックされる。インバータ37は駆動素子としてFETが用いられ、FETのブリッジ回路で構成されている。
【0007】
加算部32Aには補償信号生成部34からの補償信号CMが加算されており、補償信号CMの加算によって操舵システム系の特性補償を行い、収れん性や慣性特性等を改善するようになっている。補償信号生成部34は、セルフアライニングトルク(SAT)343と慣性342を加算部344で加算し、その加算結果に更に収れん性341を加算部345で加算し、加算部345の加算結果を補償信号CMとしている。
【0008】
このような電動パワーステアリング装置では、減速ギアやラック・ピニオンにより摩擦が大きく、また、アシストトルクを発生させるためのモータによりステアリング軸回りの等価慣性モーメントが大きい。そのため、セルフアライニングトルク(SAT)が小さい低車速域などでは、摩擦の方がSATよりも大きいことによりハンドル戻りが悪くなる。つまり、低車速域で直進状態に戻す際に、SATのみでは舵角が中立点まで戻ってこない。そのため、運転者の操舵介入により中立点まで戻す必要があり、運転者の負担となる。
【0009】
一方、SATが大きい高車速域ではSATが大きいため、ハンドル戻りの舵角速度は低車速に比べて速くなる傾向にある。しかし、慣性モーメントが大きいため慣性トルクが大きく、舵角の中立点でハンドルが収束せず、オーバーシュートしてしまう。このような状況では、運転者は車両特性を不安定と感じる。
【0010】
従って、低車速ではハンドル戻りを補助するため、また、高車速では車両特性を安定にするために収れん性を増加させることが必要となる。それらを達成するために様々なハンドル戻り時に適度なアシストをするための制御手法が提案されている。それらのハンドル戻し制御の中でも、運転者による操舵介入時でも滑らかなハンドル戻し制御を行うことを目的とした先行技術として、特許第4685557号公報(特許文献1)に示される電動パワーステアリング装置がある。
【0011】
特許文献1の装置では、目標舵角速度に追従するように構成された制御器において、ベース目標舵角速度を車速及びトルクによる乗算及び加算の補正で、目標舵角速度を算出している。運転者による操舵介入時には、トルクが加わった方向に目標舵角速度を補正することで、運転者操舵時の違和感を減少させている。
【発明を実施するための形態】
【0021】
電動パワーステアリング装置において、アシスト力を伝達するための減速ギアやラック・ピニオンの摩擦により動作が阻害され、直進状態に戻したい走行状態であるにも拘わらずハンドルが中立点まで戻らず、車両が直進状態になり難いことがある。舵角及び車速に応じたハンドル戻し制御電流により電流指令値を補正(補償)することで、直進状態に戻す走行状態においてハンドルを積極的に中立点に戻すことができる。
【0022】
本発明では、舵角及び車速に応じて目標戻り速度(目標値)を定義し、コラム軸に付加される操舵トルク及びアシストトルク(電流指令値)から算出される目標速度値を目標戻り速度に加算し、その加算結果に、仮想的な操舵系特性に応じた伝達特性を乗算することで目標舵角速度を算出する。その目標舵角速度と実舵角速度との速度偏差に対して比例(P)制御、積分(I)制御、微分(D)制御のうちの少なくとも1つの制御を実施する。目標戻り速度を、操舵トルク及びアシストトルクを粘性係数で除算して算出された目標速度値で補正して求めた目標舵角速度を用いて、フィードバック制御を行う。或いは操舵系の粘性係数を切増し/切戻し状態に応じて変更若しくは切り換え、目標戻り速度を、操舵トルク及びアシストトルクを粘性係数で除算して算出された目標速度値で補正して求めた目標舵角速度を用いて、フィードバック制御を行う。或いは目標速度値を求めるときに、操舵トルク又はアシストトルク或いはその両方(若しくはその加算トルク値)に、出力が小さくなるようなゲイン調整処理か不感帯処理をして、目標舵角速度を算出してフィードバック制御を行う。或いは、目標舵角速度と実舵角速度との速度偏差を位相補償して、フィードバック制御を行う。これらにより、運転者による操舵介入時にも自然なフィーリングのハンドル戻し制御を実現することができる。
【0023】
本発明の基本構成では、操舵トルクと電流指令値(アシスト電流)を用いてステアリング軸トルクを算出し、目標舵角速度と実舵角速度の速度偏差に基づいてハンドル戻し制御電流を付与する電動パワーステアリング装置(EPS)に関し、主たる運転者の意図した操舵入力以上若しくは操舵入力に基づく車両運動特性以上の周波数(例えば10[Hz]〜)を減衰させるように、ステアリング軸トルクから目標舵角速度を算出する経路にLPF(ローパスフィルタ)を介挿している。これにより、EPSの持つノイズ成分や共振による振動、不要なロードノイズ成分や運転者が意図しないトルク変動や車両変動などをカットし、より滑らかなハンドル戻し性能を提供する。
【0024】
本発明における仮想操舵系(車両)モデルとは、舵角θ及び車速Vsから求めた目標戻り速度ωt(−ωt)と、操舵トルクTd及びアシストトルクTaとから求めた目標速度値の合計である補正後目標戻り速度に、操舵系の仮想的な慣性モーメントJ及び仮想的な粘性係数Cに応じた操舵系伝達関数を適用することで、目標舵角速度ω
0を算出するモデルである。
【0025】
仮想操舵系(車両)モデルを用いることで、操舵系の仮想的な慣性モーメントJ、仮想的な粘性係数Cを設定することができるため、操舵系(車両)特性を任意に決めることが可能となる。また、仮想操舵系(車両)モデルにはアシストトルクTaも加味した運転者の操舵介入も考慮されているため、運転者が操舵している状態でも滑らかなハンドル戻りを提供することができる。
【0026】
ここにおいて、操舵系に静止摩擦、クーロン摩擦及び弾性項がないと仮定した場合、セルフアライニングトルクSAT、操舵トルクTd、アシストトルクTaの力の釣り合い方程式は、下記数1となる。
【0027】
【数1】
ここで、Jは仮想的な操舵系の慣性モーメント、Cは仮想的な操舵系の粘性係数である。
そして、実舵角速度ωは舵角θの時間微分であるので、下記数2が成立する。
【0028】
【数2】
よって、目標舵角速度をω
0とすると、下記数3が成立する。
【0029】
【数3】
そして、sをラプラス演算子とすると下記数4となり、数4を整理すると下記数5となる。
【0031】
【数5】
よって、目標舵角速度ω
0は上記数5より、下記数6となる。
【0032】
【数6】
数6を整理すると下記数7となる。
【0033】
【数7】
上記数7より、目標舵角速度ω
0が求まる。ここで、SAT/CはセルフアライニングトルクSATによって発生する舵角速度として、車両特性に応じて設定する戻り舵角速度として考えることができる。
【0034】
【数8】
上記数8は仮想操舵系(車両)モデルから求められる伝達特性である。
【0035】
【数9】
また、上記数9は操舵トルクTd、アシストトルクTaによって発生する舵角速度である。
【0036】
セルフアライニングトルクSATは一般的に舵角θ及び車速Vsによって決まるため、戻り舵角速度は車速Vs及び舵角θに応じて設定できるように構成する。数7を目標舵角速度ω
0と戻り舵角速度ωtを用いて表すと、下記数10となる。操舵トルクTdはトルクセンサによって検出でき、アシストトルクTaは電流指令値からモータトルク定数、ギア比及びギア効率の乗算値Ktを考慮して算出可能である。操舵トルクTdとアシストトルクTaの合計に対して仮想的なステアリングの粘性係数Cで除算することで、操舵トルクTdとアシストトルクTaによって発生する舵角速度ω
1を算出する。戻り舵角速度ωtと舵角速度ω
1を加算し、加算値に数8の伝達関数を乗算することで目標舵角速度ω
0を得る。
【0037】
本発明では、目標舵角速度ω
0と実舵角速度ωの速度偏差に応じてPID制御(少なくともPI)を行うが、PID制御の前の速度偏差に位相補償を施すことにより最適なハンドル戻し制御性能を達成する。
【0038】
【数10】
位相補償として、位相進み補償を施した場合、その前段の実舵角速度に施したノイズ除去などのためのフィルタ(図示せず)、数10の第2項の算出経路に施したフィルタや仮想操舵系(車両)モデルによる位相遅れを回復できる。これにより、運転者は快適なハンドル戻り性能を得ることができる。また、1次遅れを含む位相遅れ補償を施した場合は、高周波の偏差が抑制されるため、滑らかな制御出力となる。これにより、特に直進状態に近いときに、軽くハンドルに手を添えている状態のときなどにザワザワする振動を感じにくくなる。更に位相進みと位相遅れを組み合わせてもよく、この場合は、一般的に運転者の操舵周波数や運転者の操舵による車両運動は10[Hz]程度までと言われているため、位相進み・遅れフィルタ特性として10[Hz]以内では位相が遅れず、位相遅れは10[Hz]を超えた周波数帯でゲインを落とすように設定する。更に、位相進み・遅れ補償と1次遅れ補償を多段に組み合わせても良い。
【0039】
また、上記数10において粘性係数Cを小さくすると、操舵トルクTd及びアシストトルクTaによって発生する舵角速度ω
1が大きくなり、目標舵角速度に占める比率を相対的に大きくすることができる。従って、運転者の動作が目標舵角速度に反映され易くなる。これにより、運転者の操舵によって制御出力が変化し易くなることで、ハンドル戻し制御が実装されながらも、不自然な抵抗感などが発生することなく操舵することが可能となる。一方、粘性係数Cを大きくすると、目標舵角速度における戻り目標速度ωt の比率が相対的に大きくなる。これにより、運転者の操舵の影響を小さくしつつ、安定したハンドル戻りを実現することできる。例えば、切増し操舵では粘性係数Cを小さく、切戻し操舵では粘性係数Cを大きくすることで、切増し操舵では、運転者が抵抗なく操舵できるようになる。一方、切戻し操舵では、運転者がハンドルに手をかけていたとしても、安定したハンドル戻りを実現することができる。
【0041】
操舵トルクTd、アシストトルクTaには路面外乱による変動成分などが含まれるが、これは運転者の意図によるものではない。これを目標舵角速度ω
0に反映すると、車両は運転者の意図しない挙動となり、違和感となる可能性がある。このため、本発明では、操舵トルクTd及びアシストトルクTaを用いて算出する目標速度値ω
1の後段に、運転者の意図した操舵入力若しくは操舵入力に基づく車両運動特性(ヨーやロールなど)より高い周波数成分を減衰させるフィルタ(LPF)を設ける。これにより、安定した制御、滑らかな戻り、運転者の意図に合った操舵感を実現する。一般的に、運転者の操舵周波数や運転者の操舵による車両運動は10[Hz]程度までと言われているため、フィルタ特性として10[Hz]で、ゲイン0[dB]より3[dB]以上低下する減衰特性を有するものとする。
【0042】
図3は本発明の基本となるハンドル戻し制御部100の構成例を示している。操舵トルクTdは、操舵トルクゲインThを出力する操舵トルクゲイン部110及び加算部102に入力される。舵角θは目標戻り速度ωtを演算する目標戻り速度演算部120に入力される。また、車速Vsは目標戻り速度演算部120、車速ゲインKPを出力する車速ゲイン部130及び粘性係数Cを出力する粘性係数出力部133に入力される。粘性係数出力部133からの粘性係数Cは操舵系特性部150及び操舵系特性部160に入力される。実舵角速度ωは減算部103に減算入力される。電流指令値Irefはゲイン部111で、モータトルク定数、ギア比及びギア効率の乗算値Ktと乗算され、アシストトルクTaとして加算部102に入力される。従って、加算部102の加算結果は、操舵トルクTdとアシストトルクTaの合計トルク値となり、その合計トルク値が伝達関数“1/C”の操舵系特性部150に入力される。操舵系特性部150からの目標速度値ω
1はローパスフィルタ(LPF)151に入力される。LPF151で運転者の操舵入力以上若しくは操舵入力に基づく車両運動特性以上の周波数(例えば10[Hz]〜)を減衰された目標速度値ω
2が加算部101に入力される。
【0043】
舵角θ及び車速Vsに基づいて目標戻り速度演算部120で演算された目標戻り速度ωtは、反転部121で符号を反転(−ωt)されて加算部101に入力される。加算部101での加算結果である目標速度値ω
3が伝達関数“1/(J/Cs+1)”の操舵系特性部160に入力される。操舵系特性部160は、慣性モーメントJ、粘性係数Cから前記数8に従って伝達関数を決め、目標舵角速度ω
0を出力する。目標舵角速度ω
0が減算部103に加算入力される。実舵角速度ωは減算部103に減算入力され、目標舵角速度ω
0と舵角速度ωとの速度偏差SG1が減算部103で算出され、速度偏差SG1が乗算部132に入力される。
【0044】
また、操舵トルクゲイン部110から出力される操舵トルクゲインThは乗算部132及びリミッタ142に入力される。車速ゲイン部130からの車速ゲインKPも乗算部132及びリミッタ142に入力される。
【0045】
乗算部132で、速度偏差SG1が操舵トルクゲインTh及び車速ゲインKPと乗算され、ハンドル戻し制御ゲインSG2(比例制御値)として出力される。ハンドル戻し制御ゲインSG2は、加算部104に入力されると共に、特性改善のため、積分部140及び積分ゲイン部141とからなる積分制御部に入力され、積分制御値がリミッタ142に入力される。積分制御値は、リミッタ142で操舵トルクゲインTh及び車速ゲインKPに応じて出力を制限される。制限された信号SG4が加算部104で、ハンドル戻し制御ゲインSG2と加算され、ハンドル戻し制御電流HRとして出力される。積分部140の積分は、摩擦の影響を受け易い低操舵トルク域を補償し、特に手放しで摩擦に負ける領域で積分を利かせる。加算部105で電流指令値Irefがハンドル戻し制御電流HRと加算されて補正(補償)され、補正された補償電流指令値Irefnがモータ駆動系に入力される。
【0046】
操舵トルクゲイン部110、車速ゲイン部130、減算部103及び乗算部132でハンドル戻し制御ゲイン算出部を構成し、粘性係数出力部133、操舵系特性部150及び操舵系特性部160で操舵系特性部を構成し、積分部140、積分ゲイン部141、リミッタ142、加算部104でハンドル戻し制御電流演算部を構成している。
【0047】
操舵トルクゲイン部110は
図4に示すような特性であり、操舵トルクTdがトルク値Td1までは一定値ゲインTh1を出力し、トルク値Td1を超えると次第に減少し、トルク値Td2以上でゲイン0となる出力特性となっている。
図4では線形に減少しているが、非線形でも良い。また、目標戻り速度演算部120は
図5(A)に示すように、車速Vsをパラメータとして、舵角θが大きくなるに従って目標戻り速度ωtが次第に大きくなる出力特性であり、また、
図5(B)に示すように、車速Vsが高速になるに従って連続して漸増しない出力特性で、目標戻り速度ωtが変化する。即ち、車速Vsが高速になるに従って徐々に増加した後に一旦減少し、その後に車速Vsが増加すると再び増加する特性である。車速ゲイン部130は
図6に示す特性であり、少なくとも車速Vs1までは小さいゲインKP1で一定であり、車速Vs1以上では次第に大きくなり、車速Vs2以上では大きなゲインKP2で一定であるが、このような特性に限定されるものではない。
【0048】
また、車速Vsに応じて粘性係数Cを可変する粘性係数出力部133は
図7に示す特性であり、少なくとも車速Vs3までは小さい粘性係数C1で一定であり、車速Vs3以上で車速Vs4(>Vs3)以下では次第に大きくなり、車速Vs4以上では大きな粘性係数C2で一定であるが、このような特性に限定されるものではない。車速Vs3以上で車速Vs4以下の領域では、非線形に増加しても良い。
【0049】
このような基本構成において、その動作例を
図8及び
図9のフローチャートを参照して説明する。
【0050】
先ず操舵トルクTd、電流指令値Iref、車速Vs、舵角θ、実舵角速度ωを入力(読み取り)し(ステップS1)、操舵トルクゲイン部110は操舵トルクゲインThを出力する(ステップS2)。ゲイン部111は電流指令値Irefにモータトルク定数等の乗算値Ktを乗算してアシストトルクTaを算出する(ステップS3)。加算部102でアシストトルクTaと操舵トルクTdとが加算され、その合計値であるトルク値AD1が操舵系特性部150に入力される(ステップS4)。
【0051】
また、目標戻り速度演算部120は入力された舵角θ及び車速Vsに基づいて目標戻り速度ωtを演算し(ステップS10)、反転部121が目標戻り速度ωtの符号反転を行い(ステップS11)、反転された目標戻り速度“−ωt”を加算部101に入力する。車速ゲイン部130は車速Vsに従った車速ゲインKPを出力する(ステップS12)。粘性係数出力部133は車速Vsに従った粘性係数Cを出力する(ステップS13)。粘性係数Cは操舵系特性部150及び操舵系特性部160に入力される。操舵系特性部150はトルク値AD1を粘性係数Cで除算し(ステップS14)、目標速度値ω
1を出力する(ステップS15)。目標速度値ω
1がLPF151に入力されてフィルタ処理される(ステップS16)。
【0052】
加算部101で、LPF151でフィルタ処理された目標速度値ω
2と目標戻り速度“−ωt”とが加算され、加算結果である目標速度値ω
3が操舵系特性部160に入力される。操舵系特性部160から目標舵角速度ω
0が出力される(ステップS30)。減算部103で目標舵角速度ω
0と実舵角速度ωとの速度偏差SG1が算出される(ステップS31)。速度偏差SG1は乗算部132に入力され、操舵トルクゲインTh及び車速ゲインKPと乗算され(ステップS32)、その乗算によってハンドル戻し制御ゲインSG2が求められる。ハンドル戻し制御ゲインSG2は積分部140で積分処理され(ステップS33)、更に積分ゲイン部141で積分結果が積分ゲインKIと乗算され(ステップS34)、ハンドル戻し制御ゲインSG3が出力される。ハンドル戻し制御ゲインSG3はリミッタ142に入力され、リミッタ142で操舵トルクゲインTh及び車速ゲインKPを用いてリミット処理される(ステップS35)。
【0053】
リミッタ142でリミット処理されたハンドル戻し制御ゲインSG4は加算部104に入力され、ハンドル戻し制御ゲインSG2と加算され(ステップS36)、ハンドル戻し制御電流HRが出力される。加算部105で電流指令値Irefがハンドル戻し制御電流HRと加算されて補正され(ステップS37)、補償電流指令値Irefnを出力する(ステップS38)。
【0054】
操舵トルクTd及びアシストトルクTaによって算出する目標速度値の後段に、運転者の意図した操舵入力若しくは操舵入力に基づく車両運動特性(ヨーやロールなど)より高い周波数成分を減衰させるフィルタ(LPF)を設けることで、安定した制御、滑らかな戻り、運転者の意図に合った操舵感を実現することができる。一般的に、運転者の操舵周波数や運転者の操舵による車両運動は10[Hz]程度までと言われているため、本発明で使用するLPF151の周波数特性は、
図10に示すように10[Hz]で、ゲイン0[dB]より3[dB]以上低下する減衰特性を有するものであれば良く、特性Aに限られず、特性BやCであっても良い。
【0055】
以下に、本発明の種々の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0056】
上述した基本構成において、操舵トルクTd及びアシストトルクTaには路面外乱による変動成分などが含まれるが、これは運転者の意図によるものではない。これを目標舵角速度ω
0に反映すると、車両は運転者の意図しない挙動となり、違和感となる可能性がある。運転者の意図ではない変動成分による違和感を低減させるために、操舵トルクTd又はアシストトルクTa或いはその両方(若しくはその加算トルク値)が小さい微小領域において、出力が小さくなるように不感帯部又はゲインを調整するゲイン調整部を設ける。これにより、算出する目標舵角速度が安定し、ハンドル戻し制御によって滑らかな戻りの操舵感を実現する。特に直進状態走行に近い走行では、運転者は軽く保舵している状況であり、運転者は外乱によるザワザワした振動を感じやすい。小さい領域で出力を小さくするようにゲインを調整するゲイン調整部や不感帯部を設けることで、この振動を感じにくくすることができる。
【0057】
本発明の第1実施形態〜第4実施形態では、目標舵角速度を算出/補正するために用いるアシストトルク(電流指令値Irefにモータトルク定数、減速ギア比及びギア効率を乗算したトルク値)と操舵トルクTdの一方若しくは両方に、或いはアシストトルクと操舵トルクの加算結果であるトルク値に、微小な領域において出力が小さくなるように不感帯部若しくは感度を下げるゲイン調整部を前述した基本構成に加える。これにより、外乱などによる不要な目標舵角速度の補正を防止し、より滑らかなハンドル戻し性能を実現する。
【0058】
図11は本発明に係るハンドル戻し制御部100Aの構成例(第1実施形態)を示しており、
図3に対応しているので、同一部材には同一符号を付して説明を省略する。なお、第1実施形態では、LPF151は無くても良い。
【0059】
第1実施形態では新たにゲイン調整部112が設けられており、加算部102の加算結果であるトルク値AD1がゲイン調整部112に入力され、ゲイン調整部112でゲイン調整されたトルク値AD2は操舵系特性部150に入力される。
【0060】
ゲイン調整部112は
図12(A)に示されるように、出力AD2は、トルク値AD1が小さい±ADrの領域では、入力と出力が等しいゲイン=1.0の特性よりも小さな値である。ここで、所定値ADrは、運転者が路面からの外乱を比較的感じやすい操舵トルク1[Nm]程度と低車速でのアシストトルク10[Nm]程度を考慮した領域となる加算トルク11[Nm]程度までに設定する。所定値±ADrを超える範囲では徐々にゲイン=1.0の特性に近づくようになり、トルク値AD1が±ADr1を超える領域ではゲインが“1.0”となっている特性(補正)で、トルク値AD2を出力する。ここでは、正負各3本の直線でゲインを調整しているが、±ADr1の領域では非線形であっても良い。また、トルク値AD1が±ADr1を超える領域で、ゲイン=1.0の特性と同じ値となる特性を例示したが、ゲイン=1.0の特性よりも小さい値となっていても良い。また、トルク値AD1に対する補正はゲイン調整部112に代え、
図13に特性例を示すような微小不感帯を有する不感帯部であっても良い。その他、トルク値AD1が小さい領域でゲイン=1.0の特性の値よりも小さい値を出力すれば、どのような特性線であっても良い。アシストトルクは車速応じて変化するSATに見合った操舵力となるように、車両試験を行って決定される。このようにアシストトルクは車速に応じて変化するので、外乱抑制と戻り性能のバランスをとりながら、低車速から高車速まで車両試験を行ってADrとADrに対応する出力値AD2を決定する。車両試験の時間や負荷を低減するために、ゲイン調整部112若しくは不感帯部に車速を入力して、ADrとADrに対応する出力値AD2を車速に応じて段階的に若しくは連続的に変化させるようにしても良い。一般的に、アシストトルクは車速が高くなるにつれ小さくなるので、ADrを車速が高くなるほど小さくするように設定することもできる。
図12(B)に設定例を示す。ゲイン調整部112には、車速Vsがパラメータとして入力される。高車速でのADrはADhr、低車速でのADrはADlrであり、ADhr<ADlrとなっている。高車速と低車速との間の車速においては、一般に知られているような補間方法を用いて、出力値AD2を求めることができる。実際には戻り性能のバランスをとりながら、車両試験を行って決定されるため、ADrは車速が高いほど小さくなる特性になるとは限らない。トルク値AD2は、伝達関数“1/C”の操舵系特性部150に入力される。
【0061】
このような構成において、その動作例(第1実施形態)を
図14及び
図15のフローチャートを参照して説明する。
【0062】
先ず操舵トルクTd、電流指令値Iref、車速Vs、舵角θ、実舵角速度ωを入力(読み取り)し(ステップS1)、操舵トルクTdは操舵トルクゲイン部110及び加算部102に入力される。操舵トルクゲイン部110は操舵トルクゲインThを出力する(ステップS2)。ゲイン部111は電流指令値Irefにモータトルク定数、減速ギア比及びギア効率の乗算値Ktを乗算してアシストトルクTaを算出する(ステップS3)。加算部102で操舵トルクTdとアシストトルクTaとが加算され、トルク値AD1が求まる(ステップS4)。ゲイン調整部112でトルク値AD1がゲイン調整され、操舵系特性部150に入力される(ステップS5)。なお、ゲイン調整部112の代わりに不感帯部が設けられている場合には、不感帯処理されたトルク値AD2が操舵系特性部150に入力される。
【0063】
また、目標戻り速度演算部120は入力された舵角θ及び車速Vsに基づいて目標戻り速度ωtを演算し(ステップS10)、反転部121が目標戻り速度ωtの符号反転を行う(ステップS11)。車速ゲイン部130は車速Vsに従った車速ゲインKPを出力する(ステップS12)。粘性係数出力部133は車速Vsに従った粘性係数Cを出力する(ステップS13)。粘性係数Cは操舵系特性部150及び操舵系特性部160に入力される。操舵系特性部150はトルク値AD2を粘性係数Cで除算し(ステップ14)目標速度値ω
1を出力する(ステップ15)。目標速度値ω
1がLPF151に入力されてフィルタ処理される(ステップS16)。
【0064】
加算部101で目標戻り速度“−ωt”とフィルタ処理後の目標速度値ω
2が加算され、加算結果である目標速度値ω
3が操舵系特性部160に入力される。操舵系特性部160から目標舵角速度ω
0が出力される(ステップS30)。減算部103で、目標舵角速度ω
0と実舵角速度ωとの速度偏差SG1が算出される(ステップS31)。速度偏差SG1は乗算部132に入力され、操舵トルクゲインTh及び車速ゲインKPと乗算され(ステップS32)、それらの乗算によってハンドル戻し制御ゲインSG2が求められる。ハンドル戻し制御ゲインSG2は積分部140で積分処理され(ステップS33)、更に積分ゲイン部141で積分結果が積分ゲインKIと乗算処理され(ステップS34)、ハンドル戻し制御ゲインSG3が出力される。ハンドル戻し制御ゲインSG3はリミッタ142に入力され、リミッタ142で操舵トルクゲインTh及び車速ゲインKpを用いてリミット処理される(ステップS35)。
【0065】
リミッタ142でリミット処理されたハンドル戻し制御ゲインSG4は加算部104に入力され、ハンドル戻し制御ゲインSG2と加算され(ステップS36)、ハンドル戻し制御電流HRが出力される。加算部105で電流指令値Irefがハンドル戻し制御電流HRと加算されて補正され(ステップS37)、補償電流指令値Irefnが出力される(ステップS38)。
【0066】
次に、本発明の第2実施形態のハンドル戻し制御部100Bを、
図16に示して説明する。第2実施形態においても、LPF151は無くても良い。
【0067】
図16は
図3及び
図11に対応しており、本第2実施形態では加算部102からのトルク値AD1ではなく、操舵トルクTdの入力を可変するゲイン調整部112Aが設けられている。即ち、操舵トルクTdを入力して、
図17に示すような特性で操舵トルクTdaを出力するゲイン調整部112Aが加算部102の前段に設けられている。ゲイン調整された操舵トルクTdaは加算部102に入力される。
図17の操舵トルクTd
0は、運転者が路面からの外乱を比較的感じやすい操舵トルク1[Nm]程度を含む領域0[Nm]〜1.5[Nm]程度に設定する。第2実施形態においても、ゲイン調整部112Aに代えて、
図13に示すような不感帯特性を有する不感帯部を設けても良い。
【0068】
第2実施形態の動作例は
図18のフローチャートに示されるように、先ず操舵トルクTd、電流指令値Iref、車速Vs、舵角θ、実舵角速度ωを入力(読み取り)し(ステップS1)、操舵トルクゲイン部110は操舵トルクゲインThを出力する(ステップS2)。また、操舵トルクTdはゲイン調整部112Aに入力されてゲイン調整され、ゲイン調整された操舵トルクTdaが加算部102に入力される(ステップS2A)。ゲイン部111は電流指令値Irefにモータトルク定数、ギア比及びギア効率の乗算値Ktを乗算してアシストトルクTaを算出する(ステップS3)。加算部102で操舵トルクTdaとアシストトルクTaとが加算され、加算結果が操舵系特性部150に入力される(ステップS4)。以降は前述の第1実施形態と同様である。即ち、以降は、
図14のステップS10〜
図15のステップS38が実施される。
【0069】
なお、ゲイン調整部112Aの代わりに不感帯部が設けられている場合には、不感帯処理された操舵トルクTdaが加算部102に入力される(ステップS2A)。
【0070】
次に、本発明の第3実施形態のハンドル戻し制御部100Cを、
図19に示して説明する。第3実施形態においても、LPF151は無くても良い。
【0071】
図19は
図16に対応しており、本第3実施形態では操舵トルクTdのゲイン調整ではなく、ゲイン部111からのアシストトルクTaを可変するゲイン調整部112Bが設けられている。即ち、ゲイン部111からのアシストトルクTaを入力して、
図20に示すような特性でアシストトルクTbを出力するゲイン調整部112Bが加算部102の前段に設けられており、ゲイン調整されたアシストトルクTbは加算部102に入力される。
図20のアシストトルクTa
1は、運転者が路面からの外乱を比較的感じやすい操舵トルク1[Nm]程度のときの低車速でのアシストトルク10[Nm]程度を考慮した領域0[Nm]〜10[Nm]程度に設定する。第3実施形態においても、ゲイン調整部112Bに代えて、
図13に示すような不感帯特性の不感帯部を設けても良い。第1実施形態の説明と同様に、車速をゲイン部112B若しくは不感帯部に入力して、Ta
1とTa
1に対応するアシストトルクTbを車速に応じて段階的に若しくは連続的に変化させるようにしても良い。また、ゲイン調整部112Bや不感帯はアシストトルクT
aに施すのではなく、電流指令値Irefに施しても良く、その後に乗算値Ktを乗算しても良い。
【0072】
第3実施形態の動作例は
図21のフローチャートに示されるように、先ず操舵トルクTd、電流指令値Iref、車速Vs、舵角θ、実舵角速度ωを入力(読み取り)し(ステップS1)、操舵トルクTdは操舵トルクゲイン部110及び加算部102に入力される。操舵トルクゲイン部110は操舵トルクゲインThを出力する(ステップS2)。ゲイン部111は電流指令値Irefにモータトルク定数、ギア比及びギア効率の乗算値Ktを乗算してアシストトルクTaを算出する(ステップS3)。アシストトルクTaはゲイン調整部112Bに入力されてゲイン調整され、ゲイン調整されたアシストトルクTbが加算部102に入力される(ステップS3A)。加算部102でゲイン調整されたアシストトルクTbと操舵トルクTdとが加算され、加算結果が操舵系特性部150に入力される(ステップS4)。以降は前述の第1実施形態と同様である。即ち、以降は、
図14のステップS10〜
図15のステップS38が実施される。
【0073】
なお、ゲイン調整部112Bの代わりに不感帯部が設けられている場合には、不感帯処理されたアシストトルクTbが加算部102に入力される(ステップS3A)。
【0074】
また、前述のゲイン調整部若しくは不感帯部を操舵トルクTd及びアシストトルクTaの両方に対して実施することも可能である(第4実施形態)。
【0075】
以上説明したように第1実施形態〜第4実施形態では、操舵トルク又はアシストトルク或いはその両方(若しくはその加算トルク値)が小さい微小領域において、出力が小さくなるようにゲインを調整するゲイン調整部を設けたり、或いは不感帯幅を有する調整部を設けている。これにより、運転者の意図ではない変動成分による違和感を低減させることができ、算出する目標舵角速度が安定し、ハンドル戻し制御によって滑らかな戻りの操舵感を実現することができる。特に直進状態走行に近い走行では、運転者は軽く保舵している状況であり、運転者は外乱によるザワザワした振動を感じやすい。しかし、小さい領域で出力が小さくなるようにゲインを調整するゲイン調整部や不感帯部を設けているので、この振動を感じにくくできる。
【0076】
次に、目標舵角速度と実舵角速度との速度偏差に位相進みなどの位相補償を施し、遅れや外乱成分を取り除き、最適なハンドル戻り性能を達成する第5実施形態を説明する。
【0077】
図22は第5実施形態のハンドル戻し制御部100Dの構成例を、
図3に対応させて示しており、第5実施形態では、減算部103と乗算部132との間に位相補償部170が介挿されている。相補償部170以外は全て
図3に対応しているので、同一部材には同一符号を付して説明を省略する。
【0078】
位相補償部170は
図23に示すような特性であり、
図23(A)は位相進みの補償を実施する場合の特性である。位相補償部170は、減算部103から入力される速度偏差SG1を位相進み処理して補償後速度偏差SG1Pを出力し、補償後速度偏差SG1Pは乗算部132に入力される。また、
図23(B)は位相遅れの補償を実施する場合の特性である。位相補償部170は、減算部103から入力される速度偏差SG1を位相遅れ処理して補償後速度偏差SG1Pを出力し、補償後速度偏差SG1Pは乗算部132に入力される。
図23(C)は位相進みと位相遅れの補償を組み合わせて実施する場合の特性である。位相補償部170は、減算部103から入力される速度偏差SG1に対して位相進みと位相遅れの処理をして補償後速度偏差SG1Pを出力し、補償後速度偏差SG1Pは乗算部132に入力される。なお、位相進みと位相遅れの順番は適宜変更可能である。また、位相遅れは1次遅れ補償でも良い。
【0079】
このような構成において、その動作例を
図8及び
図24のフローチャートを参照して説明する。
【0080】
先ず
図8のフローチャートに示されるように、操舵トルクTd、電流指令値Iref、車速Vs、舵角θ、実舵角速度ωを入力(読み取り)し(ステップS1)、操舵トルクゲイン部110は操舵トルクゲインThを出力する(ステップS2)。ゲイン部111は電流指令値Irefにモータトルク定数、減速ギア比及びギア効率の乗算値Ktを乗算してアシストトルクTaを算出する(ステップS3)。加算部102で操舵トルクTdとアシストトルクTaとが加算され、その合計トルク値ADが操舵系特性部150に入力される(ステップS4)。
【0081】
また、目標戻り速度演算部120は入力された舵角θ及び車速Vsに基づいて目標戻り速度ωtを演算し(ステップS10)、反転部121が目標戻り速度ωtの符号反転を行う(ステップS11)。反転された目標戻り速度“−ωt”を加算部101に入力する。車速ゲイン部130は車速Vsに従った車速ゲインKPを出力する(ステップS12)。粘性係数出力部133は車速Vsに従った粘性係数Cを出力する(ステップS13)。粘性係数Cは操舵系特性部150及び操舵系特性部160に入力される。操舵系特性部150は、トルク値ADを粘性係数Cで除算し(ステップS14)、目標速度値ω
1を出力する(ステップS15)。目標速度値ω
1がLPF151に入力されてフィルタ処理される(ステップS16)。
【0082】
以後は
図24のフローチャートに示されるように、LPF151でフィルタ処理された目標速度値ω
2は加算部101で目標戻り速度“−ωt”と加算され、加算結果である目標速度値ω
3が操舵系特性部160に入力される。操舵系特性部160から目標舵角速度ω
0出力される(ステップS30)。減算部103で目標舵角速度ω
0と実舵角速度ωとの速度偏差SG1が算出される(ステップS31)。
【0083】
速度偏差SG1は位相補償部170に入力されて上述したような位相補償が実施される(ステップS31A)。位相補償部170からの補償後速度偏差SG1Pが乗算部132に入力され、操舵トルクゲインTh及び車速ゲインKPと乗算され(ステップS32)、その乗算によってハンドル戻し制御ゲインSG2が求められる。ハンドル戻し制御ゲインSG2は積分部140で積分処理され(ステップS33)、更に積分ゲイン部141で積分結果が積分ゲインKIと乗算処理され(ステップS34)、ハンドル戻し制御ゲインSG3が出力される。ハンドル戻し制御ゲインSG3はリミッタ142に入力され、リミッタ142で操舵トルクゲインTh及び車速ゲインKPを用いてリミット処理される(ステップS35)。
【0084】
リミッタ142でリミット処理されたハンドル戻し制御ゲインSG4は加算部104に入力され、ハンドル戻し制御ゲインSG2と加算され(ステップS36)、ハンドル戻し制御電流HRが出力される。加算部105で電流指令値Irefがハンドル戻し制御電流HRと加算されて補正され(ステップS37)、補償電流指令値Irefnが出力される(ステップS38)。
【0085】
以上説明したように、第5実施形態では、目標舵角速度と実舵角速度との速度偏差に位相進みなどの位相補償を施しているので、遅れや外乱成分を取り除き、最適なハンドル戻り性能を達成することができる。
【0086】
次に、操舵系の切増し/切戻し状態に応じて粘性係数Cを変更若しくは切り換えるようにして、ハンドル戻り性能と切増操舵フィールの両立を高次元で達成する第6実施形態について説明する。
【0087】
図25は第6実施形態のハンドル戻し制御部100Eの構成例を、
図3に対応させて示しており、新たに切増し/切戻し判定部180が設けられると共に、粘性係数出力部133が粘性係数出力部133Aに変更されている。他の構成は
図3と同様であるが、LPF151は無くても良い。
【0088】
切増し/切戻し判定部180は、本例では舵角θ及び実舵角速度ωに基づいて切増し/切戻しの判定を行い、
図26に示すように実舵角速度ωの所定領域(+ω
r〜−ω
r)を設定して、切増し/切戻し状態に応じた情報として状態量ゲインαを出力する。状態量ゲインαは粘性係数出力部133Aに入力される。切増し/切戻し状態に応じた情報としての状態量ゲインαは、切増しのときに“1”、切戻しのときに“0”のように出力されても良いし、後述するように、“1”と“0”の間を連続的に変化するようにしても良い。切増し/切戻し判定部180は、本例では
図27に示すように、舵角θと舵角速度ωの方向(正負)関係に基づいて切増し/切戻し状態を判定して、切増し/切戻し状態に応じた状態量ゲインαを出力する。切増し/切戻しの判定は操舵トルクTdと舵角速度ωの方向(正負)関係でも良く、他に公知の判定手法を用いることができる。
【0089】
また、粘性係数出力部133Aは、車速Vs及び切増し/切戻し情報としての状態量ゲインαに応じて
図28(A)又は(B)に示すような特性を用いて粘性係数Cを出力し、粘性係数Cを操舵系特性部150及び操舵系特性部160に入力する。即ち、粘性係数出力部133Aは、切増し時に出力する小さい粘性係数と切戻し時に出力する大きな粘性係数を有しており、切増し/切戻し情報としての状態量ゲインαに応じて変更若しくは切り換えて粘性係数Cを出力する。
図28(A)又は(B)ではいずれも細線が切増し時の粘性係数であり、太線が切戻し時の粘性係数である。
図28(A)の特性例では、車速Vs3までは一定の粘性係数C1r及びC1tであり、車速Vs3から車速Vs4までの範囲で粘性係数はいずれも線形に増加し、車速Vs4以上の範囲で一定の粘性係数C2r及びC2tとなっている。また、車速Vs3と車速Vs4を切増しと切戻しで同じ値としているが、異なる値としても良い。また、
図28(B)の特性例では、切増し/切戻し状態のいずれの粘性係数も、車速Vs5までは非線形に減少(漸減)し、車速Vs5以上の範囲で非線形に増加(漸増)する特性となっている。また、
図28(B)では、車速Vs5を切増しと切戻しで同じ値としているが、異なる値としても良い。
【0090】
そして、本発明の粘性係数出力部133Aには車速と状態量ゲインαが入力されており、下記数11に従って最終粘性係数Cを演算し、操舵系特性部150及び160に入力する。
(数11)
最終粘性係数C=切増し状態の粘性係数×α+切戻し状態の粘性係数×(1−α)
ここで、αは、0≦α≦1である。
前述したように、粘性係数Cを小さくすると、操舵トルクTd及びアシストトルクTaによって発生する舵角速度ω
1が大きくなり、目標舵角速度に占める比率を相対的に大きくすることができる。従って、運転者の動作が目標舵角速度に反映され易くなるため、運転者の操舵によって制御出力が変化し易くなることで、ハンドル戻し制御が実装されながらも、不自然な抵抗感などが発生することなく操舵することが可能となる。一方、粘性係数Cを大きくすると、目標舵角速度における戻り目標速度ωtの比率が相対的に大きくなるため、運転者の操舵の影響を小さくしつつ、安定したハンドル戻りを実現することできる。例えば、切増し操舵では粘性係数Cを小さく、切戻し操舵では粘性係数Cを大きくすることで、切増し操舵では、運転者が抵抗なく操舵できるようになる。一方、切戻し操舵では、運転者がハンドルに手をかけていたとしても、安定したハンドル戻りを実現することができる。粘性係数は、上述した操舵感と戻り性能のバランスをとりながら、車両試験を行って決定される。
【0091】
このような構成において、その動作例を
図29及び
図30のフローチャートを参照して説明する。
【0092】
先ず操舵トルクTd、電流指令値Iref、車速Vs、舵角θ、実舵角速度ωを入力(読み取り)し(ステップS1)、操舵トルクゲイン部110は操舵トルクゲインThを出力する(ステップS2)。ゲイン部111は電流指令値Irefにモータトルク定数、減速ギア比及びギア効率の乗算値Ktを乗算してアシストトルクTaを算出する(ステップS3)。加算部102で操舵トルクTdとアシストトルクTaとが加算され、その合計トルク値ADが操舵系特性部150に入力される(ステップS4)。
【0093】
また、目標戻り速度演算部120は入力された舵角θ及び車速Vsに基づいて目標戻り速度ωtを演算し(ステップS10)、反転部121が目標戻り速度ωtの符号反転を行う(ステップS11)。反転された目標戻り速度“−ωt”を加算部101に入力する。車速ゲイン部130は車速Vsに従った車速ゲインKPを出力する(ステップS12)。切増し/切戻し判定部180は舵角θ及び実舵角速度ωに基づいて切増し/切戻し状態を判定し、切増し/切戻し情報としての状態量ゲインαを粘性係数出力部133Aに入力する(ステップS12A)。粘性係数出力部133Aは車速Vs及び切増し/切戻し情報としての状態量ゲインαに従った粘性係数Cを出力する(ステップS13)。粘性係数Cは操舵系特性部150及び操舵系特性部160に入力される。操舵系特性部150はトルク値ADを粘性係数Cで除算し(ステップS14)、目標速度値ω
1を出力する(ステップS15)。目標速度値ω
1がLPF151に入力されてフィルタ処理される(ステップS16)。
【0094】
LPF151でフィルタ処理された目標速度値ω
2は加算部101で目標戻り速度“−ωt”と加算され、加算結果である目標速度値ω
3が操舵系特性部160に入力される。操舵系特性部160から目標舵角速度ω
0が出力される(ステップS30)。減算部103で目標舵角速度ω
0と実舵角速度ωとの速度偏差SG1が算出される(ステップS31)。
【0095】
速度偏差SG1は乗算部132に入力され、操舵トルクゲインTh及び車速ゲインKPが乗算され(ステップS32)、その乗算によってハンドル戻し制御ゲインSG2が求められる。ハンドル戻し制御ゲインSG2は積分部140で積分処理され(ステップS33)、更に積分ゲイン部141で積分結果が積分ゲインKIと乗算処理され(ステップS34)、ハンドル戻し制御ゲインSG3が出力される。ハンドル戻し制御ゲインSG3はリミッタ142に入力され、リミッタ142で操舵トルクゲインTh及び車速ゲインKPを用いてリミット処理される(ステップS35)。
【0096】
リミッタ142でリミット処理されたハンドル戻し制御ゲインSG4は加算部104に入力され、ハンドル戻し制御ゲインSG2と加算され(ステップS36)、ハンドル戻し制御電流HRが出力される。加算部105で電流指令値Irefがハンドル戻し制御電流HRと加算されて補正され(ステップS37)、補償電流指令値Irefnが出力される(ステップS38)。
【0097】
本以上説明したように第6実施形態では、目標舵角速度ω
0 を求めるために用いる粘性係数Cを、操舵系の切増し/切戻し状態に応じて変更若しくは切り換えるようにしているので、ハンドル戻り性能と切増し操舵フィールの両方を高次元で達成することができる。
【0098】
なお、舵角速度ωはモータ角速度×ギア比で求めることも可能であり、仮想操舵系モデルの伝達特性は車速、舵角、切増し/切戻し/保舵状態に応じて可変させても良い。また、
図8及び
図9のデータ入力、演算や処理の順番は適宜変更可能である。