(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0014】
《発明の実施形態1》
図1は、本発明の実施形態1に係る電力変換装置(10)の構成を示すブロック図である。電力変換装置(10)は、入力交流電圧(この例では、単相の交流電源(20)から供給された電源電圧(v
in))を所定の出力交流電圧に変換してモータ(30)に供給する。本実施形態では、
図1に示すように、電力変換装置(10)は、コンバータ回路(11)、直流リンク部(12)、インバータ回路(13)、及び制御部(40)を備えている。なお、モータ(30)は、例えば、IPMモータ(Interior Permanent Magnet Motor)によって構成され、本実施形態では、空気調和機の圧縮機(図示を省略)を駆動する。
【0015】
〈コンバータ回路〉
コンバータ回路(11)は、リアクトル(L)を介して交流電源(20)に接続され、交流電源(20)からの電源電圧(v
in)を全波整流する。この例では、コンバータ回路(11)は、ブリッジ状に結線された4個のダイオード(D1,D2,D3,D4)を備えている。すなわち、コンバータ回路(11)は、ダイオードブリッジ回路によって構成されている。
【0016】
〈直流リンク部〉
直流リンク部(12)は、コンバータ回路(11)の一対の出力ノードの間に接続されたコンデンサ(C)を有し、コンバータ回路(11)の出力(すなわち、全波整流された電源電圧(v
in))を入力して直流電圧(v
dc)を生成する。直流電圧(v
dc)は、電源電圧(v
in)の周波数に応じて脈動する。
【0017】
ここで、電源電圧(v
in)の周波数に応じた脈動成分が直流電圧(v
dc)に含まれている理由について説明する。直流リンク部(12)のコンデンサ(C)の容量値は、コンバータ回路(11)の出力をほとんど平滑化することができない一方で、インバータ回路(13)のスイッチング動作(後述)に起因するリプル電圧(スイッチング周波数に応じた電圧変動)を抑制することができるように、設定されている。具体的には、コンデンサ(C)は、一般的な電力変換装置においてコンバータ回路の出力の平滑化に用いられる平滑コンデンサ(例えば、電解コンデンサ)の容量値の約0.01倍の容量値(例えば、数十μF程度)を有する小容量コンデンサ(例えば、フィルムコンデンサ)によって構成されている。このようにコンデンサ(C)が構成されているので、直流リンク部(12)においてコンバータ回路(11)の出力がほとんど平滑化されず、その結果、電源電圧(v
in)の周波数に応じた脈動成分(この例では、電源電圧(v
in)の周波数の2倍の周波数を有する脈動成分)が直流電圧(v
dc)に残留することになる。例えば、直流電圧(v
dc)は、その最大値がその最小値の2倍以上になるように脈動している。
図2に、電源電圧(v
in)及び直流電圧(v
dc)の波形の一例を示す。
【0018】
〈インバータ回路〉
インバータ回路(13)は、その一対の入力ノードが直流リンク部(12)のコンデンサ(C)の両端に接続され、直流リンク部(12)によって生成された直流電圧(v
dc)をスイッチング動作により出力交流電圧に変換してモータ(30)に供給する。この例では、インバータ回路(13)は、三相の出力交流電圧をモータ(30)に供給するために、ブリッジ結線された6つのスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)と、6つの還流ダイオード(Du,Dv,Dw,Dx,Dy,Dz)とを有している。詳しく説明すると、インバータ回路(13)は、2つのスイッチング素子を互いに直列に接続してなる3つのスイッチングレグを備え、3つのスイッチングレグの各々において、上アームのスイッチング素子(Su,Sv,Sw)と下アームのスイッチング素子(Sx,Sy,Sz)との中点が、モータ(30)の各相のコイル(u相,v相,w相のコイル)にそれぞれ接続されている。また、6つのスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)には、6つの還流ダイオード(Du,Dv,Dw,Dx,Dy,Dz)がそれぞれ逆並列に接続されている。
【0019】
〈制御部〉
制御部(40)は、マイクロコンピュータと、それを制御するソフトウエアが格納されたメモリディバイスを用いて構成されている。制御部(40)は、モータ(30)の回転数(ω)が、与えられた指令値(以下、回転数指令値(ω
*)という)となるように、インバータ回路(13)のスイッチング動作を制御することによってインバータ回路(13)の出力(出力交流電圧)を制御する。これにより、モータ(30)の駆動が制御される。
【0020】
このスイッチング動作の制御に際し、本実施形態の制御部(40)は、コンバータ回路(11)への入力電流(以下、電源電流(i
in)とも呼ぶ)の波形を制御する。より具体的には、コンバータ回路(11)への電源電流(i
in)の波形から交流電源(20)の電圧の基本波周波数に基づく基本波、3次調波、及び5次調波を抽出して合成した波形に対して交流電源(20)の電圧の極性を掛け合わせた波形を見た場合に、電源半周期において極大点が2つ以上出現する波形になっているように、制御部(40)がインバータ回路(13)を制御する。なお、ここで、「電源半周期」とは、交流電源(20)の電圧の周期の半分の期間をいう(以下、同様)。
【0021】
前記制御を実現するため、制御部(40)は、
図1に示すように、速度制御部(41)、電源電流指令生成部(42)、座標変換部(43)、dq軸電流制御部(44)、PWM演算部(45)、電流指令演算部(46)、及び補償量算出部(47)を備えている。
【0022】
速度制御部(41)は、モータ(30)の回転数(ω)と回転数指令値(ω
*)との偏差に基づいて、例えばPID演算(比例、積分、微分)を行って、平均モータトルク(T
m)の指令値(以下、平均トルク指令値(T
m*))を生成する。平均トルク指令値(T
m*)は、電流指令演算部(46)に出力されている。
【0023】
電源電流指令生成部(42)は、電源電圧(v
in)の位相角(以下、電源位相(θ
in))に基づいて、電源電圧(v
in)の周波数(例えば50Hz)に応じて脈動する指令値(以下、電源電流指令値(|i
in*|)という)を生成する。この電源電流指令値(|i
in*|)は、交流電源(20)の電圧の基本波周波数に基づく基本波、3次調波、及び5次調波を抽出して合成した波形に対して交流電源(20)の電圧の極性を掛け合わせたものを見た場合に、電源半周期において極大点が2つ以上出現する波形になっているように生成される。
図3に、電源電流指令値(|i
in*|)の波形の一例を示す。
図3の波形は、電源半周期における電源電流指令値(|i
in*|)をプロットしたものである。
図3に示すように、この電源電流指令値(|i
in*|)では、前半と後半のそれぞれに、前記極大点が1つずつ現れている。
【0024】
参考のため、直流リンク部に比較的小容量のコンデンサを設けて力率の改善を図る従来の電力変換装置(以下、単に「従来の電力変換装置」という)における電源電流の例を
図4に示す。従来の電力変換装置における電源電流指令値(|i
in*|)は、電源半周期において、大きな単一の極大値を有していたが、本実施形態では、電源半周期において、前記極大点が2つ以上(この例では2つ)出現するように電源電流指令値(|i
in*|)を生成する。このように電源電流指令値(|i
in*|)を生成することで、
図5に示す従来の電力変換装置でモータのトルクに見られた大きな単一の極大値が、本実施形態により
図6に示すモータのトルクが抑制された波形(大まかに言えば台形状の波形)を生成できる。なお、
図5と
図6は、いずれも電源半周期のものである。
【0025】
次に、
図7には、
図3の電源電流指令値(|i
in*|)を用いた場合において、交流電源(20)の電圧の基本波周波数に基づく基本波、3次調波、及び5次調波を抽出して合成した波形に対して交流電源(20)の電圧の極性を掛け合わせたものを示す。
図7より、基本波、3次調波、5次調波を重畳すると、確かに極大値が2つ出現していることがわかる。
【0026】
また、基本波、3次調波、5次調波が適切な位相でなければ、モータトルクのピークを最小化することはできない。例えば、
図8に示す電源電流波形においては、電源電流において交流電源(20)の電圧の基本波周波数に基づく基本波、3次調波、及び5次調波を抽出して合成した波形に対して交流電源(20)の電圧の極性を掛け合わせたものが
図9のようになる。また、
図8に示す電源電流波形においては、モータトルクは、
図10のようになる。
図10では、従来の電力変換装置を用いた場合(
図5参照)よりも、モータトルクのピークが高くなっていることを確認できる。すなわち、モータトルクのピークを低減するためには、高調波を適切に重畳して所望の電源電流波形を生成する必要がある。
【0027】
なお、電源電流指令生成部(42)は、ゼロクロス近傍の所定の期間(ここではゼロクロス点を含む所定の期間)において、電源電流(i
in)が非導通の期間が存在するように電源電流指令値(|i
in*|)を生成することも可能である。
図11に、非導通期間が存在する場合の電源電流指令値(|i
in*|)を例示する。
図11に示すように、電源電流指令値(|i
in*|)の波形の両端において、電源電流指令値(|i
in*|)の値がゼロの期間が設けられている。
図11のように、電源電流に非導通の期間が存在することで、
図3の例と比べて、
図2のVdc0を大きくできるため、d軸電流を小さくすることができ、モータ電流実効値を最小化することが可能になる。つまり、非導通の期間の大きさにより、モータ電流のピークを最小化するか、モータ電流実効値を最小化するかを選択できる。
【0028】
前記のような電源電流指令値(|i
in*|)の生成を行うため、本実施形態の電源電流指令生成部(42)は、予めオフラインで種々の電源位相(θ
in)について計算(より具体的には設計時に計算)されて、テーブルや関数(以下、テーブル等という)といった形で前記メモリディバイスに格納されている電源電流指令値(|i
in*|)の値を、電源位相(θ
in)を引数にして読み出すように構成されている。このようにして算出された電源電流指令値(|i
in*|)の電源半周期における波形は
図3又は
図11のようになる。
【0029】
電流指令演算部(46)は、q軸電流(i
q)の指令値(以下、q軸電流指令値(i
q*)という)の基になる脈動指令値(i
p*)を生成する。脈動指令値(i
p*)の生成には、以下に記載の式(1)〜式(8)を利用する。
【0038】
これらの式において、v
inは電源電圧、i
inは電源電流、v
dcはコンデンサ(C)における電圧を、それぞれ示している。また、P
invはインバータ回路(13)の出力電力、Lはリアクトル(L)におけるインダクタンス、Cはコンデンサ(C)の静電容量である。また、i
dはd軸電流、i
qはq軸電流、T
mは平均モータトルク、pnはモータ極対数をそれぞれ示している。なお、これらの式において、各変数の後ろに付与されている「(t)」は、それぞれの変数の値が時刻tにおける値であることを示している。ただし、各式は簡単のために、コンバータ回路(11)とインバータ回路(13)における損失は存在しないものと仮定している。
【0039】
例えば、式(1)〜式(4)は、電力変換装置(10)を構成する回路(
図1参照)の各部における電流や電圧などの関係から導かれる式である。
図12に、これらの式におけるパラメータと回路との関係を示す。式(1)〜式(5)から分かるように、電源電流(i
in)の絶対値の目標値(すなわち電源電流指令値(|i
in*|))からインバータ電力(P
inv)を導出できる。また、インバータ電力(P
inv)とモータ出力(式(6)の右辺を参照)とは、ほぼ等しいので式(6)が成立する。また、平均モータトルク(T
m)は、式(7)のように表せる。式(7)から分かるように、d軸電流(i
d)が一定の条件では、平均モータトルク(T
m)がq軸電流(i
q)に比例することとなる。
【0040】
したがって、式(8)の通り、q軸電流(i
q)は、インバータ電力(P
inv)にほぼ比例することとなる。以上から、例えば、インバータ電力(P
inv)を、平均値が1となるように正規化し、平均トルク指令値(T
m*)に掛けることで、q軸電流(i
q)の基になる指令値(すなわち、脈動指令値(i
p*))を演算できる。
【0041】
補償量算出部(47)は、電源電流指令値(|i
in*|)と、電源電流(i
in)の絶対値の偏差が小さくなるように、補償量(以下、q軸電流指令補償量(i
comp*))を算出して出力している。この例では、補償量算出部(47)は、電源電流指令値(|i
in*|)と電源電流(i
in)の絶対値との偏差に基づいて、例えばPI演算(比例、積分)を行って、q軸電流指令補償量(i
comp*)を求めている。
【0042】
このq軸電流指令補償量(i
comp*)は、脈動指令値(i
p*)と加算され、加算結果がq軸電流指令値(i
q*)としてdq軸電流制御部(44)に出力されている。
図13に、本実施形態における、q軸電流指令値(i
q*)及びd軸電流指令値(i
d*)の波形の一例を示す。この波形は、電源半周期における値をプロットしたものである。また、参考のため、
図14には、従来の電力変換装置におけるq軸電流指令値(i
q*)及びd軸電流指令値(i
d*)の波形の一例を示す。
図14の波形も、電源半周期のものである。
【0043】
図13、
図14から分かるように、本実施形態のq軸電流指令値(i
q*)は、従来の電力変換装置で、電源半周期において見られた大きな単一の極大値が、抑制された波形(大まかに言えば台形状の波形)となっている。なお、この例では、d軸電流指令値(i
d*)は、一定値である。
【0044】
座標変換部(43)は、u相電流(iu)、w相電流(iw)、及びモータ(30)の回転子(図示を省略)の電気角(モータ位相(θm))に基づいて、いわゆるdq変換を行ってモータ(30)のd軸電流(i
d)及びq軸電流(i
q)を導出する。なお、u相電流(iu)及びv相電流(iv)は、例えば、電流センサを設けて直接その値を検出することができる。
【0045】
dq軸電流制御部(44)は、d軸電流指令値(i
d*)、q軸電流指令値(i
q*)、d軸電流(i
d)、及びq軸電流(i
q)に基づいて、d軸電圧指令値(v
d*)及びq軸電圧指令値(v
q*)を導出する。具体的には、dq軸電流制御部(44)は、d軸電流指令値(i
d*)とd軸電流(i
d)との偏差、及びq軸電流指令値とq軸電流(i
q)との偏差がそれぞれ小さくなるように、d軸電圧指令値(v
d*)及びq軸電圧指令値(v
q*)を導出する。
【0046】
PWM演算部(45)は、インバータ回路(13)におけるスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)のオン/オフを制御するための制御信号(G)を生成する。具体的には、PWM演算部(45)は、モータ位相(θm)、直流電圧(v
dc)、d軸電圧指令値(v
d*)、q軸電圧指令値(v
q*)、d軸電圧(v
d)、及びq軸電圧(v
q)に基づいて、スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)の各々に供給される制御信号(G)のデューティー比を設定する。制御信号(G)が出力されると、各スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)は、PWM演算部(45)によって設定されたデューティー比でスイッチング動作(オンオフ動作)を行う。この制御信号(G)は周期的に更新され、インバータ回路(13)におけるスイッチング動作が制御される。
【0047】
〈電力変換装置の動作〉
電力変換装置(10)が動作を開始すると、コンバータ回路(11)が、電源電圧(v
in)を全波整流して直流リンク部(12)へ出力する。直流リンク部(12)は、コンバータ回路(11)の出力を入力として、電源電圧(v
in)の周波数の2倍の周波数で脈動する直流電圧(v
dc)を生成する。なお、直流電圧(v
dc)は、ゼロクロス近傍の所定の期間(以下、ゼロクロス近傍期間(P0)という)において一定値(以下、ゼロクロス電圧値(vdc0))となっているとみなすことができる(
図2参照)。このゼロクロス近傍期間(P0)は、電源電圧(v
in)がゼロとなる時点を含む期間であり、直流電圧(v
dc)の脈動波形の谷間に相当する期間である。
【0048】
また、電力変換装置(10)では、電源電流指令生成部(42)が、電源位相(θ
in)に基づいて、電源電圧(v
in)の周波数(例えば50Hz)に応じて脈動する指令値を生成する。電源電流指令値(|i
in*|)が生成されると、電流指令演算部(46)において、脈動指令値(i
p*)が生成される。一方、補償量算出部(47)では、電源電流指令値(|i
in*|)と、電源電流(i
in)の絶対値との偏差が小さくなるように、q軸電流指令補償量(i
comp*)が算出される。これにより、q軸電流指令値(i
q*)が算出される。
【0049】
このようにしてq軸電流指令値(i
q*)が算出されると、dq軸電流制御部(44)は、d軸電流指令値(i
d*)、q軸電流指令値(i
q*)等に基づき、d軸電圧指令値(v
d*)及びq軸電圧指令値(v
q*)を生成する。それにより、PWM演算部(45)によって制御信号(G)が生成され、インバータ回路(13)において、制御信号(G)に応じたスイッチング動作が行われる。その結果、インバータ回路(13)からは、モータ(30)に所定の交流電力が供給され、該モータ(30)が駆動する。
【0050】
このとき、q軸電流(i
q)の最大値は、従来の電力変換装置よりも抑制されている。このようにq軸電流(i
q)のピークが抑制されると、モータ(30)の出力トルクのピークも抑制される。このときの電源電流(i
in)の波形から交流電源(20)の電圧の周波数に基づく基本波、3次調波、及び5次調波を抽出して合成した波形に対して交流電源(20)の電圧の極性を掛け合わせた波形を見ると、電源半周期において極大点が2つ以上出現する波形(すなわち
図7に示した波形と同様の波形)になっている。
【0051】
また、本実施形態では、モータ電流ベクトルの絶対値の波形は、
図15のようになる。また、
図16は、モータ電流ベクトルの波形から、電源周波数を基本波周波数とする2次、4次、6次調波の各波形を抽出して、その絶対値を求めたものである。なお、モータ電流ベクトルとは、d軸電流ベクトルとq軸電流ベクトルの合成ベクトルであり、モータ電流ベクトルの絶対値は、前記合成ベクトルの絶対値である。また、モータ電流ベクトルの絶対値は、モータ(30)における三相交流を、それと等価な二相交流へ変換して得た電流ベクトル(Iα,Iβ)の絶対値として捕らえてもよい。
【0052】
図15、
図16から分かるように、本実施形態では、制御部(40)の制御によって、モータ電流ベクトルの絶対値の波形から電源周波数を基本波周波数とする2次調波、4次調波、及び6次調波を抽出して合成した波形は、電源半周期において極大点が2つ以上出現する波形となっている。
【0053】
〈本実施形態における効果〉
以上のように、本実施形態では、前記のような極大値を有する電源電流指令値(|i
in *|)を生成することによって、モータの出力トルクのピークが低下する。それにともない、モータ電流の実効値も低下し、モータ効率の向上が可能になる。
【0054】
《発明の実施形態2》
図17は、本発明の実施形態2に係る電力変換装置(10)の構成を示すブロック図である。本実施形態では、電流指令演算部(46)に代えて、乗算器(49)が設けられている。この乗算器(49)には、平均トルク指令値(T
m*)と、電源位相(θ
in)の正弦値の絶対値(すなわち、|sinθ
in|)とが入力され、これらの乗算結果を脈動指令値(i
p*)として出力している。
【0055】
また、本実施形態でも、電源電流指令生成部(42)及び補償量算出部(47)が設けられている。本実施形態の電源電流指令生成部(42)は、実施形態1の電源電流指令生成部(42)と同じ構成であり、実施形態1と同様にして電源電流指令値(|i
in*|)を生成する。また、本実施形態の補償量算出部(47)も実施形態1の補償量算出部(47)と同じ構成であり、電源電流(i
in)と電源電流指令値(|i
in*|)とに基づいて、q軸電流指令補償量(i
comp*)を生成している。そして、本実施形態では、脈動指令値(i
p*)にq軸電流指令補償量(i
comp*)を加算することによって、電源電流(i
in)が電源電流指令値(|i
in*|)に追従しない分を補償している。
【0056】
以上の構成により、本実施形態でも、従来の電力変換装置で、電源半周期において見られた大きな単一の極大値が、抑制された波形(大まかに言えば台形状の波形)となっている。つまり、本実施形態でも、電源電流(i
in)の波形から交流電源(20)の電圧の周波数に基づく基本波、3次調波、及び5次調波を抽出して合成した波形に対して交流電源(20)の電圧の極性を掛け合わせると、電源半周期において極大点が2つ以上出現する波形となる。なお、図示は省略するが、本実施形態でも、制御部(40)の制御によって、モータ電流ベクトルの絶対値の波形から電源周波数を基本波周波数とする2次調波、4次調波、及び6次調波を抽出して合成した波形は、電源半周期において極大点が2つ以上出現する波形となる。
【0057】
以上のようにして、従来よりもモータ電流実効値を低減することができる。
【0058】
《発明の実施形態3》
本発明の実施形態3では、電源電流指令値(|i
in*|)をオンラインで調整(すなわち電力変換装置(10)の動作中に調整)する例を説明する。
図18は、本発明の実施形態3に係る電力変換装置(10)の構成を示すブロック図である。本実施形態の電力変換装置(10)は、実施形態1の電力変換装置(10)にピーク演算部(50)、実効値演算部(51)、セレクタ(52)、及び電源電流指令調整部(53)が追加されている。
【0059】
ピーク演算部(50)は、u相電流(iu)及びw相電流(iw)のピーク値を求めるように構成されている。また、実効値演算部(51)は、u相電流(iu)及びw相電流(iw)の実効値を演算するように構成されている。セレクタ(52)は、u相電流(iu)やw相電流(iw)を、ピーク演算部(50)及び実効値演算部(51)の何れに入力するかを切り換えるものである。このセレクタ(52)は、例えば、モータ電流のピークの低減、もしくはモータ電流実効値の低減のどちらを目的とした動作点かによって切り替わる。
【0060】
電源電流指令調整部(53)は、モータトルク(或いは電流)のピーク、若しくは電流実効値のピークが小さくなるように、電源電流指令値(|i
in*|)を構成するパラメータを調整し、調整結果(以下、調整後の電源電流指令値(|i
in**|)という)を電流指令演算部(46)及び補償量算出部(47)に出力する。ここで、電源電流指令値(|i
in*|)を構成するパラメータとは、電源電流(i
in)の波形を決めるためのパラメータである。より具体的には、前記パラメータは、電源電流指令値(|i
in*|)を生成する際に前記基本波に重畳する高調波(3次調波及び5次調波)や、非導通期間の長さを指している。このように、電源電流指令値(|i
in*|)を構成するパラメータを調整するのは、モータ(30)のトルク波形が電源電流(i
in)に依存するからである(式(5)、式(6)を参照)。
【0061】
前記パラメータの具体的な調整法としては、例えば、山登り法を利用することが考えられる。すなわち、セレクタ(52)でピーク演算部(50)が選択されている場合には、相電流(iu,iw)のピークがより小さくなるように、前記高調波の振幅や前記非導通期間の長さを山登り法で調整し、セレクタ(52)で実効値演算部(51)が選択されている場合には、電流の実効値のピークがより小さくなるように、前記高調波の振幅や前記非導通期間の長さを山登り法で調整するのである。これにより、目的に応じて、電源電流指令値(|i
in*|)の波形を変えることが可能になる。
【0062】
このようにして得られた、調整後の電源電流指令値(|i
in**|)も、概ね電源電流指令値(|i
in*|)と同様の波形を有し、交流電源(20)の電圧の周波数に基づく基本波、3次調波、及び5次調波を抽出して合成した波形に対して交流電源(20)の電圧の極性を掛け合わせた波形を見ると、電源半周期において極大点が2つ以上出現する波形となっている。そして、本実施形態では、電流指令演算部(46)や補償量算出部(47)は、電源電流指令値(|i
in*|)に代えて、調整後の電源電流指令値(|i
in**|)を用いてそれぞれ動作する。
【0063】
したがって、本実施形態でも、モータの出力トルクのピークが低下し、それにともない、モータ電流の実効値も低下し、モータ効率の向上が可能になる。すなわち、本実施形態においても、実施形態1等と同様の効果を得ることが可能になる。
【0064】
なお、電力変換装置(10)の動作中に前記パラメータを調整する代わりに、前記メモリディバイス内に複数種類の前記テーブル等(実施形態1を参照)を設けておいて、それらのテーブル等を、ピーク演算部(50)の演算結果や実効値演算部(51)の演算結果に応じて切り換えるようにしてもよい。その場合には、ピーク演算部(50)の出力や実効値演算部(51)の出力は、電源電流指令生成部(42)に接続し、電源電流指令生成部(42)において、ピーク演算部(50)の出力などに応じて前記テーブル等を切り換えればよい。これにより、インバータ回路(13)の負荷に応じて、電源電流指令値(|i
in*|)の波形を変えることが可能になる。
【0065】
なお、図示は省略するが、本実施形態でも、制御部(40)の制御によって、モータ電流ベクトルの絶対値の波形から電源周波数を基本波周波数とする2次調波、4次調波、及び6次調波を抽出して合成した波形は、電源半周期において極大点が2つ以上出現する波形となる。
【0066】
《発明の実施形態4》
図19は、実施形態4に係る電力変換装置(10)の構成を示すブロック図である。本実施形態では、制御部(40)の構成が実施形態1等と異なっている。本実施形態の制御部(40)は、速度制御部(41)、座標変換部(43)、dq軸電流制御部(44)、PWM演算部(45)、及び高調波成分演算部(54)を備えている。座標変換部(43)とPWM演算部(45)は、実施形態1が備えるものと同じ構成である。
【0067】
速度制御部(41)は、回転数指令値(ω
*)と回転数(ω)との差分に基づいて、いわゆるPI演算を行って、その結果を出力している。ここでは、速度制御部(41)の出力を速度指令値(Ia
**)と命名する。
【0068】
高調波成分演算部(54)は、電源位相(θ
in)が入力されており、その情報を用いて、電源周波数を基本波周波数とする2次調波、4次調波、及び6次調波に相当する信号を合成した波形を有する信号を生成して出力する。高調波成分演算部(54)の出力と、速度制御部(41)出力(速度指令値(Ia
**)と命名する)とは加算され、その加算結果(電流ベクトル指令値(Ia
*)と命名する)は、dq軸電流制御部(44)に入力されている。本実施形態では、電流ベクトル指令値(Ia
*)は、モータ電流ベクトルの絶対値の指令値として用いられる。
【0069】
dq軸電流制御部(44)には、モータ(30)における電流ベクトルの位相の指令値(以下、電流位相指令(β
*)という)と電流ベクトル指令値(Ia
*)とが入力されている。dq軸電流制御部(44)は、これらの入力を用いて、d軸電圧指令値(vd
*)及びq軸電圧指令値(vq
*)を生成している。
【0070】
ここで、
図20に本実施形態におけるモータ電流ベクトルの絶対値の波形(電源半周期分の測定値)を例示する。また、
図21に、モータ電流ベクトルの絶対値の波形から電源周波数を基本波周波数とする2次調波、4次調波、及び6次調波を抽出して合成した波形を示す。
図21に示すように、本実施形態でも、制御部(40)の制御によって、モータ電流ベクトルの絶対値の波形から電源周波数を基本波周波数とする2次調波、4次調波、及び6次調波を抽出して合成した波形は、電源半周期において極大点が2つ以上出現する波形となる。
【0071】
したがって、本実施形態でも、モータの出力トルクのピークが低下する。また、それにともない、モータ電流の実効値も低下し、モータ効率の向上が可能になる。
【0072】
《発明の実施形態5》
図22は、実施形態5に係る電力変換装置(10)の構成を示すブロック図である。本実施形態は、実施形態2の電力変換装置(10)に変更を加えたものである。具体的には、
図22に示すように、制御部(40)にd軸電流指令生成部(55)が追加されている。
【0073】
d軸電流指令生成部(55)は、q軸電流指令値(i
q*)を用いて、d軸電流指令値(i
d*)を生成している。より具体的にd軸電流指令生成部(55)は、q軸電流指令値(i
q*)が含んでいる、電源周波数を基本波周波数とする2次調波、4次調波、及び6次調波を用いて、所定の定数値を変調してd軸電流指令値(i
d*)を生成している。
【0074】
こうすることで、実施形態2の例よりも、より確実に、電源半周期において、モータ電流ベクトルの絶対値の波形から電源周波数を基本波周波数とする2次調波、4次調波、及び6次調波を抽出して合成した波形で、極大点が2つ以上出現するようにできる。したがって、本実施形態においても、モータの出力トルクのピークを低下させることができる。また、それにともない、本実施形態においても、モータ電流の実効値も低下し、モータ効率の向上が可能になる。
【0075】
《その他の実施形態》
なお、補償量算出部(47)の構成は例示であり、前記の構成には限定されない。
図23に補償量算出部(47)の他の構成例を示す。
図23の例では、電源電流指令値(|i
in*|)と直流電圧(v
dc)の指令値(v
dc*)から電力の指令値(P
in*)を生成し、電源電流(i
in)と直流電圧(v
dc)とから現在の電力(P
in)を求めている。そして、この例では、現在の電力(P
in)と電力の指令値(P
in*)との偏差に基づいてPI演算(比例、積分)を行って、q軸電流指令補償量(i
comp*)を求めている。このq軸電流指令補償量(i
comp*)も各実施形態のq軸電流指令補償量(i
comp*)と同様に、電源電流指令値(|i
in*|)と電源電流(i
in)の絶対値との偏差の縮小に使用できる。
【0076】
また、電力変換装置(10)の用途は、空気調和機には限定されない。その他にも、電力変換装置(10)から電力供給を受けるモータを有した種々の機器に適用できる。
【0077】
また、u相電流(iu)やv相電流(iv)等の相電流の値は、例えば、直流リンク電流(idc)から算出してもよい。
【0078】
また、電力変換装置としてはマトリックスコンバータを用いてもよい。