(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の一態様に係るモータロータは、筒状のインナースリーブと、インナースリーブの径方向においてインナースリーブの外側に装着される環状の磁石と、インナースリーブの軸線方向において磁石の外側に配置され、インナースリーブの径方向においてインナースリーブの外側に装着されるリング部材とを備え、インナースリーブの線膨張係数は、磁石の線膨張係数より高く、リング部材は、焼嵌めによってインナースリーブに装着されたものであり、インナースリーブの軸線方向において、リング部材と磁石との間に隙間が設けられている。
【0011】
このモータロータでは、リング部材と磁石との間に隙間が介在する。この構成によれば、リング部材をインナースリーブに焼嵌めする際に、インナースリーブの収縮に伴ってリング部材が磁石側に移動しても、磁石がリング部材によって押圧されない。従って、磁石に圧縮力が生じない。
【0012】
いくつかの態様において、モータロータは、インナースリーブの軸線方向において、磁石を挟んで両側に配置された一対のリング部材と、インナースリーブの径方向外側から、磁石及び一対のリング部材を覆う筒状の外装部材と、を備え、隙間は、インナースリーブの軸線方向において、少なくとも片方に設けられている構成でもよい。この構成によれば、インナースリーブの軸線方向において、少なくとも片側に、隙間が設けられる。従って、磁石は両側から押されない。また、この構成によれば、磁石は、外装部材によって径方向外側から覆われる。さらに、磁石は、一対のリング部材によってインナースリーブの軸線方向の両側から覆われる。従って、磁石を保護することができる。
【0013】
また、本開示の別の態様に係る過給機は、上記のモータロータを含む電動機を備えた過給機であって、回転軸と、回転軸の一端側に連結されたタービン翼車と、回転軸の他端側に連結されたコンプレッサ翼車と、回転軸に装着されたモータロータを含む電動機と、を備える。
【0014】
この過給機は、上記のモータロータを備える。上記のモータロータでは、リング部材と磁石との間に隙間が介在する。この構成によれば、リング部材をインナースリーブに焼嵌めする際に、インナースリーブの収縮に伴ってリング部材が磁石側に移動しても、磁石がリング部材によって押圧されない。従って、磁石に圧縮力が生じない。
【0015】
また、本開示のさらに別の態様に係るモータロータの製造方法は、磁石の開口部にインナースリーブを挿通させて、インナースリーブに磁石を装着する工程と、リング部材の開口部にインナースリーブを挿通させて、インナースリーブの軸線方向において、磁石に隣り合うように、リング部材を配置して、インナースリーブにリング部材を焼嵌めする工程と、を含み、リング部材を焼嵌めする工程では、インナースリーブの軸線方向において、リング部材と磁石との間に隙間を設けてリング部材を焼嵌めする。
【0016】
このモータロータの製造方法では、リング部材と磁石との間に隙間を設けて、リング部材をインナースリーブに対して焼嵌めする。従って、インナースリーブの収縮に伴ってリング部材が磁石側に移動しても、リング部材と磁石と接触が防止される。そのため、磁石がリング部材によって押圧されないので、磁石に圧縮力が生じない。
【0017】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において同一部分又は相当部分には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0018】
(電動過給機)
図1に示される電動過給機1は、車両用の過給機である。電動過給機1は、図示しないエンジンから排出された排気ガスを利用して、エンジンに供給される空気を圧縮する。電動過給機1は、タービン2とコンプレッサ(遠心圧縮機)3と電動機4とを備える。電動機4は、回転軸5に回転駆動力を付加する。回転軸5は、コンプレッサ3のコンプレッサ翼車9に連結される。
【0019】
タービン2は、タービンハウジング6と、タービン翼車8と、を備える。タービン翼車8は、タービンハウジング6に収納される。コンプレッサ3は、コンプレッサハウジング7と、コンプレッサ翼車9と、を備える。コンプレッサ翼車9は、コンプレッサハウジング7に収納される。
【0020】
タービン翼車8は回転軸5の一端に設けられる。コンプレッサ翼車9は、回転軸5の他端に設けられる。また、軸受10及び電動機4は、回転軸5の軸線L
5方向において、タービン翼車8とコンプレッサ翼車9との間に設けられる。
【0021】
軸受ハウジング11は、タービンハウジング6とコンプレッサハウジング7との間に設けられる。回転軸5は、軸受10を介して軸受ハウジング11に回転可能に支持される。
【0022】
タービンハウジング6には、排気ガス流入口(不図示)及び排気ガス流出口13が設けられる。エンジンから排出された排気ガスは、排気ガス流入口を通じてタービンハウジング6内に流入する。そして、排気ガスは、タービン翼車8を回転させる。その後、排気ガスは、排気ガス流出口13を通じてタービンハウジング6外に流出する。
【0023】
コンプレッサハウジング7には、吸入口14及び吐出口(不図示)が設けられる。上記のようにタービン翼車8が回転すると、回転軸5及びコンプレッサ翼車9が回転する。回転するコンプレッサ翼車9は、吸入口14を通じて外部の空気を吸入する。コンプレッサ翼車9は、吸入した空気を圧縮して吐出口から吐出する。吐出口から吐出された圧縮空気は、エンジンに供給される。
【0024】
(電動機)
電動機4は、例えばブラシレスの交流電動機である。電動機4は、回転子であるモータロータ16と、固定子であるモータステータ17とを備える。モータロータ16は、回転軸5に固定される。モータロータ16は、回転軸5と共に軸周りに回転可能である。モータロータ16は、回転軸5の軸線L
5方向において、軸受10とコンプレッサ翼車9との間に配置される。
【0025】
モータステータ17は、複数のコイルと鉄心とを備える。モータステータ17は、モータロータ16を回転軸5の周方向に囲むように配置される。モータステータ17は、軸受ハウジング11に収容される。モータステータ17は、回転軸5の周りに磁場を生じさせて、モータロータ16を回転させる。
【0026】
電動機4は、回転軸5の高速回転(例えば10万rpm〜20万rpm)に対応する。電動機4は、加速時の回転駆動と減速時の回生運転とができてもよい。また、電動機4の駆動電圧は、車両に搭載されたバッテリの直流電圧と同一あるいはそれより高くてもよい。
【0027】
(モータロータ)
次に、
図2を参照して、モータロータ16について説明する。
図2は、
図1中のモータロータ16を拡大して示す断面図である。なお、
図2は、モータロータ16の軸線方向に切った切断面を示す。モータロータ16は、インナースリーブ21と、磁石(環状の磁石)22と、一対のエンドリング(リング部材)23,24と、アーマリング(外装部材)25とを備える。磁石22は、たとえば円筒状を成す。
【0028】
インナースリーブ21の材質として、例えばステンレス鋼などが挙げられる。エンドリング23,24の材質として、例えばステンレス鋼などが挙げられる。アーマリング25の材質として、例えば高合金鋼などが挙げられる。また、磁石22の材質として、例えばネオジム磁石などが挙げられる。また、インナースリーブ21の線膨張係数は、磁石22の線膨張係数より高い。
【0029】
インナースリーブ21は、円筒部26とつば部27とを備える。円筒部26の開口部の内部には、回転軸5が挿通される。円筒部26は、回転軸5の軸線L
5方向に延在する。インナースリーブ21の軸線L
21方向において、円筒部26は、磁石22より長い。円筒部26は、磁石22の外側の位置まで延びる。
【0030】
つば部27は、軸線L
21方向において円筒部26の一端側に設けられる。つば部27は、円筒部26の外周面26aよりも径方向外側に張り出す。つば部27は、軸線L
21方向において、磁石22より外側に配置される。例えば、つば部27の外周面27aは、インナースリーブ21の軸線L
21に対して傾斜する。つば部27の外周面27aは、軸線L
21方向において、一端側(図示左側)から他端側(図示右側)に向かうにつれて、径方向外側に配置される。インナースリーブ21が回転軸5に装着された状態において、インナースリーブ21の一端側は、タービン翼車8側に配置される。インナースリーブ21の他端側は、コンプレッサ翼車9側に配置される。
【0031】
一対のエンドリング23,24は、インナースリーブ21の軸線L
21方向において、磁石22を挟んで磁石22両側に配置される。一対のエンドリング23,24は、軸線L
21方向において磁石22の外側に配置される。一対のエンドリング23,24は、軸線L
21方向における磁石22の端面22a,22bを覆うように配置される。端面22aは、軸線L
21方向における一端側の端面である。端面22bは、軸線L
21方向における他端側の端面である。エンドリング23は、端面22aと対向するように配置される。エンドリング24は、端面22bと対向するように配置される。
【0032】
インナースリーブ21の円筒部26は、磁石22及び一対のエンドリング23,24の開口部の内部に挿通される。磁石22は、インナースリーブ21の径方向においてインナースリーブ21の外側に装着される。一対のエンドリング23,24は、インナースリーブ21に対して焼嵌めされる。一対のエンドリング23,24は、インナースリーブ21の径方向においてインナースリーブ21の外側に装着される。エンドリング23,24の内周面23b,24bは、インナースリーブ21の円筒部26の外周面26aに密着している。
【0033】
エンドリング23は、磁石22のつば部27側の端面22aを覆う。エンドリング24は、磁石22のつば部27とは反対側の端面22bを覆う。
【0034】
磁石22の外周面22c及び一対のエンドリング23,24の外周面23a,24aは、回転軸5の径方向において、略同じ位置に形成されている。
【0035】
アーマリング25は、円筒状を成す。磁石22及び一対のエンドリング23,24は、アーマリング25の開口部の内部に配置される。アーマリング25は、磁石22の外周面22c及び一対のエンドリング23,24の外周面23a,24aを覆う。アーマリング25は、インナースリーブ21の軸線L
21方向において、一対のエンドリング23,24の外側の位置まで延びる。アーマリング25は、全周において磁石22及び一対のエンドリング23,24を覆う。
【0036】
アーマリング25は、一対のエンドリング23,24及び磁石22に対して焼嵌めされる。アーマリング25の内周面25aは、一対のエンドリング23,24の外周面23a,24a及び磁石22の外周面22cに密着する。
【0037】
磁石22は、軸線L
21方向の両側からエンドリング23,24によって覆われる。磁石22は、径方向の外側からアーマリング25によって覆われる。この構成により磁石22は、保護される。
【0038】
ここで、軸線L
21方向において、磁石22とエンドリング24との間に、隙間28が形成される。隙間28は、インナースリーブ21の全周に亘って形成される。すなわち、インナースリーブ21の端面22bは、軸線L
21方向において、エンドリング24の端面に対向する。インナースリーブ21の端面22bは、インナースリーブ21の全周においてエンドリング24の端面に接触しない。なお、もう一方のエンドリング23は、軸線L
21方向において、磁石22と接触してもよい。もう一方のエンドリング23は、軸線L
21方向において、磁石22と接触しなくてもよい。
【0039】
(モータロータの製造方法)
次に、
図3を参照して、モータロータ16の製造方法について説明する。まず、
図3(a)に示されるように、インナースリーブ21を準備する。例えば、つば部27が下方に配置されるように、インナースリーブ21の軸線L
21方向が上下方向に沿うようにインナースリーブの21を配置する。なお、インナースリーブ21の配置は、つば部27を下方に配置する場合に限定されない。インナースリーブ21は、つば部27を上方に配置してもよい。また、インナースリーブ21の軸線L
21方向は、その他の方向に沿うように配置されていてもよい。
【0040】
次に、
図3(b)に示されるように、インナースリーブ21の円筒部26に対して、エンドリング23を焼嵌めする。具体的には、エンドリング23の開口部に円筒部26を挿通させて、エンドリング23をインナースリーブ21の円筒部26に対して焼嵌めする。そして、加熱された状態のエンドリング23が冷却されて収縮することで、エンドリング23がインナースリーブ21に締結される。
【0041】
次に、
図3(c)に示されるように、インナースリーブ21の円筒部26に対して、磁石22を装着する(インナースリーブに対して磁石を装着する工程)。具体的には、磁石22の開口部に、インナースリーブ21の円筒部26を挿通する。このとき、エンドリング23と磁石22とは、インナースリーブ21の軸線L
21方向に隣接して配置される。
【0042】
次に、
図3(d)に示されるように、インナースリーブ21の円筒部26に対して、エンドリング24を焼嵌めする(インナースリーブに対してリング部材を焼嵌めする工程)。具体的には、エンドリング24の開口部に円筒部26を挿通させて、エンドリング24をインナースリーブ21の円筒部26に対して焼嵌めする。このとき、軸線L
21方向において、磁石22とエンドリング24との間に隙間28を設ける。隙間28の軸線L
21方向における長さdは、例えば、焼嵌めの温度、インナースリーブ21の線膨張係数、インナースリーブ21の軸線L
21方向の長さ、磁石22の線膨張係数、磁石22の軸線L
21方向の長さに基づいて算出することができる。
【0043】
インナースリーブ21に対して、エンドリング24を配置する場合には、例えば、専用の治具を用いてもよい。この方法によれば、隙間28が確実に形成される。
【0044】
そして、加熱された状態のエンドリング24が冷却されて収縮することにより、エンドリング24はインナースリーブ21に締結される。
【0045】
次に、
図3(e)に示されるように、エンドリング23,24及び磁石22に対して、アーマリング25を焼嵌めする。アーマリング25の開口部に、インナースリーブ21、磁石22及びエンドリング23,24を挿通させて、アーマリング25を焼嵌めする。加熱された状態のアーマリング25が冷却されて収縮することにより、アーマリング25は一対のエンドリング23,24及び磁石22に締結される。
【0046】
次に、電動過給機1の動作について説明する。
【0047】
排気ガス流入口(不図示)から流入した排気ガスは、タービンスクロール流路12aを通過して、タービン翼車8の入口側に供給される。タービン翼車8は供給された排気ガスの圧力を利用して、回転力を発生させる。この回転力は、回転軸5及びコンプレッサ翼車9をタービン翼車8と一体的に回転させる。これにより、コンプレッサ3の吸入口14から吸入した空気は、コンプレッサ翼車9により圧縮される。コンプレッサ翼車9によって圧縮された空気は、ディフューザー流路7a及びコンプレッサスクロール流路7bを通過して吐出口(不図示)から排出される。吐出口から排出された空気は、エンジンに供給される。
【0048】
この電動過給機1の電動機4は、回転軸5の高速回転(例えば10万rpm〜20万rpm)に対応する。例えば、車両の加速時において、回転軸5の回転トルクが不足している場合に、電動機4は、回転軸5に回転トルクを伝達する。電動機4の駆動源として、車両のバッテリを適用できる。また、車両の減速時において、電動機4は、回転軸5の回転エネルギによって回生発電してもよい。
【0049】
電動機4は、モータステータ17によって磁場を生じさせる。電動機4は、この磁場によりモータロータ16の磁石22に回転力を発生させる。そして、磁石22の回転力は、アーマリング25、一対のエンドリング23,24を介して、回転軸5に伝達される。回転軸5の回転に伴って、コンプレッサ翼車9が回転する。回転するコンプレッサ翼車9は、エンジンに供給される空気を圧縮する。
【0050】
本実施形態のモータロータ16では、エンドリング24をインナースリーブ21に焼嵌めをする際に、磁石22とエンドリング24との間に隙間28が介在する。従って、磁石22は、エンドリング24に接触しない。
【0051】
すなわち、焼嵌めをする際に、エンドリング24の熱がインナースリーブ21に伝達されて、インナースリーブ21が冷却後に収縮しても、磁石22とエンドリング24との間に隙間28が介在しているので、磁石22がエンドリング24によって押圧されない。その結果、磁石22に圧縮力が生じず、磁石22における割れの発生を抑制することができる。
【0052】
なお、モータロータ16が製造された状態において、磁石22及び一対のエンドリング23,24は、アーマリング25によって覆われている。従って、磁石22とエンドリング24と間に隙間28が設けられているか否かを目視によって確認することはできない。
【0053】
磁石22とエンドリング24との間に隙間28が設けられていることを確認する場合には、例えば、非破壊検査を適用することができる。非破壊検査として、例えば、放射線透過試験、超音波探傷試験などを用いることができる。これにより、アーマリング25の外側から、磁石22とエンドリング24との間の隙間28の有無を判別することができる。
【0054】
本開示は、前述した実施形態に限定されず、本開示の要旨を逸脱しない範囲で下記のような種々の変形が可能である。
【0055】
上記実施形態では、インナースリーブ21につば部27が設けられている構成について説明した。インナースリーブ21は、径方向外側に張り出すつば部27が設けられていない構成でもよい。インナースリーブ21は、その他の構成でもよい。例えば、インナースリーブ21は、インナースリーブ21と他の部材とが一体的に形成されていてもよい。例えば、インナースリーブ21は、インナースリーブ21と、一方のエンドリング23と、アーマリング25とが一体的に形成されている構成でもよい。
【0056】
上記実施形態では、磁石22とエンドリング24との間に隙間28が設けられている場合について説明した。磁石22とエンドリング23との間に隙間28が設けられている構成でもよい。インナースリーブ21の軸線L
21方向において、磁石22の両側に隙間28が設けられている構成でもよい。片側のみに隙間28が設けられている構成でもよい。
【0057】
また、上記実施形態では、電動過給機1を車両用として例示した。電動過給機1は車両用に限定されない。電動過給機1は、船舶用のエンジンに用いられてもよい。電動過給機1は、その他のエンジンに用いられてもよい。
【0058】
また、上記実施形態では、電動過給機1はタービン2を備える構成とした。電動過給機1は、タービン2を備えず、電動機4によって駆動されるものでもよい。
【0059】
また、上記実施形態では、モータロータ16を電動過給機1の電動機4に適用する場合について説明した。モータロータ16は、電動過給機ではなく、その他の電動機に使用することができ、発電機の回転子に使用してもよい。