【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成23年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「グリーンセンサ・ネットワークシステム技術開発プロジェクト」共同研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
図1は本発明に基づく電流センサの一実施例を示す構成説明図であり、(A)は外観の正面図、(B)は外観の側面図、(C)は(A)の断面図、(D)は(B)の部分断面図である。
【0018】
図1において、被測定電線10は2芯の撚り線構造であり、2本の導体11aと11bの外周はそれぞれ絶縁体よりなる断面形状が円環形の被覆12aと12bに内包されて撚り合わされ、これら絶縁体12aと12bを含む外周全体は絶縁体よりなる断面形状が円形の保護外被覆13に内包されている。
【0019】
本発明に基づく電流センサ20は、被測定電流が流れる被測定電線10を構成する導体11aと11bよりなる所望の芯線に流れる電流を、磁気センサ素子で非接触に測定するように構成されている。
【0020】
電流センサ20は、フレーム21と、被測定電線10に対して平行になるようにフレーム21の内部に配置されたプリント基板22と、このプリント基板22上に実装された2個の磁気センサモジュール23、24と、プリント基板22上に実装された信号処理回路25とで構成されている。なお、
図1に示す電流センサ20は、ある一定時間内の電流の平均値を測定することができる。
【0021】
フレーム21の被測定電線10と対向する面には被測定電線10の保護外被覆13の外周の少なくとも一部分に嵌め合うようにV字形の溝21aが設けられ、V字形の溝21aの上部にはプリント基板22を被測定電線10に対して平行になるように収納する収納部21bが設けられている。
【0022】
磁気センサモジュール23、24は、実装されるプリント基板22上で、被測定電線10を構成する導体11aと11bの中心を通りかつそのプリント基板22面と垂直な線上に配置される。
【0023】
また、磁気センサモジュール23、24は、その感磁方向がプリント基板22面と接し、かつ、電線の軸方向と直交するように配置される。なお、同一方向の磁界に対する応答は、磁気センサモジュール23と24で逆方向になるようにする。
【0024】
すなわち、同一方向の磁界に対する磁気センサモジュール内の磁気抵抗素子の磁界に対する抵抗増加と抵抗減少の応答が磁気センサモジュール23と24が互いに逆方向になるように磁気センサモジュール23と24の向きを180度変えて設置する。
【0025】
図2は、本発明に基づく電流センサの一実施例を示す回路図である。磁気センサモジュール(MSM)23と24は、いずれも1つの磁気抵抗素子とバイアス磁界を印加するための1つの永久磁石とからなる。
【0026】
磁気センサモジュール23と24は直列に接続され、磁気センサモジュール23の一端は駆動用の電源線Lに接続されるとともに、2個の抵抗26と27が直列接続された抵抗直列回路の一端に接続され、磁気センサモジュール24の他端は抵抗直列回路の他端とともに共通電位点に接続されている。
【0027】
直列接続された磁気センサモジュール23と24の接続点は信号処理回路25に接続され、直列接続された抵抗26と27の接続点も信号処理回路25に接続されている。
【0028】
図3は、信号処理回路25の具体例を示すブロック図である。信号処理回路25は、アナログ信号処理部25a、デジタル信号処理部25b、電流演算部25c、データ格納部25dなどで構成されている。
【0029】
アナログ信号処理部25aは、入力端子IN1、IN2から入力されるアナログ入力信号に対して全波整流処理、差動増幅処理、積分処理および低域通過フィルタ処理などを施してデジタル信号処理部25bに出力するとともに、外部出力端子OUT2にも出力する。
【0030】
デジタル信号処理部25bは、アナログ信号処理部25aから出力された電圧信号をAD変換してデジタル信号に変換し、電流演算部25cに出力する。
【0031】
電流演算部25cは、デジタル信号に変換された電圧信号値から被測定電流値の電流値を算出し、算出した被測定電流の電流値を外部出力端子OUT1に出力する。
【0032】
データ格納部25dには、被測定電線10に関する各種の情報が入力端子IN3から入力され格納される。
【0033】
データ格納部25dに格納される被測定電線10に関する各種の情報としては、
1)芯線数と導体径
2)中心と芯線の中心との距離
3)中心と磁気センサモジュール23と磁気センサモジュール24の中点との距離
4)被覆径
5)保護外被覆厚さ
6)芯線の撚りピッチ
などがある。
ここで、2)と3)は、被測定電線10の芯線数と、導体径、被覆径、保護外被覆厚さから算出される。
【0034】
電流演算部25cは、デジタル信号に変換された電圧信号値から被測定電流値の電流値を算出するのにあたり、より高精度の演算結果が必要な場合にはデータ格納部25dに格納されている被測定電線10に関する各種の情報を参照し、補正処理を行う。
【0035】
ところで、本発明に基づく電流センサを用いて被測定電線10に流れる電流を測定するのにあたっては、被測定電線10に電流センサを設置する位置が一義的に決定できることが望ましい。
【0036】
前述の
図1において、電流センサの設置位置を一義的に決定することは、「2つの芯線11aと11bのうちどちらか一方の芯線の中心」と「磁気センサモジュール23と磁気センサモジュール24の中点」との距離が最小となる位置に本電流センサを設置することである。
【0037】
図4は、被測定電線10に電流センサを設置する位置を一義的に決定する位置決めモジュールの具体例を示すブロック図である。
図4において、アナログ信号処理部25aにはデジタル信号処理部25bが接続されるとともに、位置決めモジュールとして機能するアナログ信号測定部26も接続されている。
【0038】
アナログ信号測定部26は、電流センサ20の信号処理回路25から出力される電圧信号を取得するアナログ信号処理部と、その電圧信号の大きさを表示する表示部とで構成されている。なお、表示部は、数値でデジタル表示するものに限らず、アナログメーターのような指示針の振れ回転角度やバーグラフの伸縮長さなどのメーター表示形式でもよい。
【0039】
図5は、電流センサ20の被測定電線10への取付けから測定開始までの全体の工程を示すフローチャートである。まず、電流センサ20を被測定電線10に取り付けた後(ステップS1)、補正係数を決定し(ステップS2)、電流の計測を開始する(ステップS3)。なお、電流センサ20の電線10への取り付けの工程と補正係数決定の工程は前後してもよい。
【0040】
図6は、
図5のステップS1における電流センサ20を被測定電線10に取り付ける工程の詳細な流れを説明するフローチャートである。まず、電流センサ20を被測定電線10に取り付け(ステップS1)、電流センサ20の出力電流を測定するための位置決めモジュールとして電流測定器を電流センサ20の出力端子に接続する(ステップS2)。
【0041】
電流センサ20を被測定電線10の軸方向あるいは周方向のいずれか一方の方向に移動させながら(ステップS3)、位置決めモジュールの表示値を確認する(ステップS4)。この作業を位置決めモジュールの表示値が極大を示すまで繰り返して続け(ステップS5)、位置決めモジュールの表示値が極大を示す位置で電流センサ20を被測定電線10に固定する(ステップS6)。電流センサ20を被測定電線10に固定するのにあたっては、両面テープや結束バンドなどを用いる。
【0042】
電流センサ20を被測定電線10に固定した後、電流センサ20から位置決めモジュールを外す(ステップS7)。なお、この一連の工程は、被測定電線10に一定の電流が流れている状態で実施する。この一連の工程により、「被測定電線10内の芯線11a、11bのうちいずれか1本の芯線の中心」と「磁気センサモジュール23と磁気センサモジュール24の中点」との距離が最小となる位置に電流センサ20が固定される。
【0043】
図7は、
図5のステップS2における補正係数の決定の流れを説明するフローチャートである。まず、電流センサ20の信号処理回路25の入力端子IN3から、前述のような被測定電線10に関する各種の情報(芯線数と導体径、被覆径、保護外被覆厚さ、撚りピッチなど)を入力する(ステップS1)。
【0044】
電流センサ20の信号処理回路25内の電流演算部25cでは、被測定電線10の情報より、被測定電線10の中心と芯線との距離と、「被測定電線10の中心」と「磁気センサモジュール23と磁気センサモジュール24の中点」との距離などを算出する(ステップS2)。
【0045】
また、格納部25dに格納された数値から、
1)被測定電線の芯線数
2)被測定電線の中心と芯線との距離
3)「被測定電線の中心」と「磁気センサモジュール1と磁気センサモジュール2の中点」との距離
4)芯線の撚りピッチに対応した数値
を取得し、補正係数Kに代入する(ステップS3)。
【0046】
測定動作を説明する。
被測定電線10に流れる電流から生じる磁界が磁気センサモジュール23と磁気センサモジュール24により測定され、その磁界の強度に比例した大きさの電圧信号が信号処理回路25に入力される。
【0047】
信号処理回路25内のアナログ信号処理部25aにおいて、入力された電圧信号を、
1)それぞれ低域通過フィルタにより雑音を低減し、
2)それらを差動増幅した電圧信号を全波整流回路により直流信号に変換し、
3)その直流信号を設定された所定の時間で積分し、
4)その電圧信号の積分値をデジタル信号処理部に出力する。
【0048】
デジタル信号処理部25bでは、積分された電圧信号をデジタル信号に変換し、そのデジタル信号を電流演算部25cに出力する。
【0049】
電流演算部25cでは、(式1)に示すように、あらかじめ設定された補正係数をデジタル信号に変換された電圧信号の積分値に掛けることで、被測定電線10に流れる電流の大きさに変換し、その値を外部端子より出力する。
【0050】
電流演算部25cでの演算方法は次のとおりである。電圧信号の積分値をV、被測定電流に流れる電流の大きさをIとすると、電流の大きさIは、
I=K・V (1)
として算出される。
【0051】
これらにより、被測定電線10が多芯であっても、非接触で電線に流れる電流を計測できる。多芯電線から生じる磁界を検出できない従来の変流器型の電流センサとは異なり、本発明では、磁気抵抗素子により局所的な磁界を検出できるため、多芯電線から生じる磁界を検出できる。
【0052】
多芯電線内の電流の有無を検知する従来の多芯ケーブル電流有無判定器と違い、本発明では、多芯電線10と電流センサ20の相対的な位置を決定する機構と、磁界強度の測定値から電流値を求める演算機能とを有しているため、多芯電線に流れる電流値を計測することができる。
【0053】
本発明の電流センサ20は、被測定電線10の周囲を囲う構造ではないため、電流センサ全体のサイズが被測定電線10の径に依存することなく省スペース化を実現でき、電線同士が近接した場所でも容易に取り付けられる。
【0054】
本発明の電流センサ20は、被測定電線10の周囲を囲う構造ではないことから、シート状に形成することも可能であり、被測定電線10の被覆の表面に貼り付けるだけで取り付けられる。そのため、電流センサ20を設置する際に、被測定電線10を断線しなくてもよく、クランプなどの電流センサ20を固定するための機構も不要であり、取付けコスト(取付工数)を大幅に低減できる。
【0055】
磁気センサモジュール23、24としては、たとえばナノグラニュラ膜と軟磁性膜からなるトンネル磁気抵抗素子を用いる。他にも、磁界の印加に対して電気的抵抗が変化する異方性磁気抵抗素子(AMR)、巨大磁気抵抗素子(GMR)、トンネル磁気抵抗素子(TMR)などの磁気抵抗素子や、磁界の印加に対して電気的インピーダンスが変化する軟磁性材料により構成されるアモルファスワイヤあるいは薄膜からなる磁気インピーダンス素子、ホール効果を利用して磁界を検出するホール素子、フラックスゲート素子を用いることができる。
【0056】
また、本実施例では、1つの磁気センサモジュールが有する磁気センサ素子は1つであるが、2つ以上の磁気センサ素子で1つの磁気センサモジュールを構成してもよい。1つの磁気センサモジュールが有する磁気センサ素子が1つの場合、バイアス磁界の印加方法が容易であるため、磁気センサモジュール1つあたりのコストを抑えることができる。
【0057】
一方で、2つ以上の磁気センサ素子で1つの磁気センサモジュールを構成する場合には、電流センサとして部品点数を抑えることができる。
【0058】
また、本実施例では、直列接続された2つの磁気センサモジュール23、24と直列接続された2つの抵抗26、27で回路を構成しているが、2つの抵抗26、27を2つの磁気センサモジュールに置き換えてもよい。
【0059】
本実施例のように2つの磁気センサモジュール23、24と2つの抵抗26、27で回路を構成した場合、使用する磁気センサモジュールの数量が減るためコストを抑えることができる。これに対し、2つの抵抗も2つの磁気センサモジュールに置き換えることにより、電流センサとしての磁界に対する感度を向上させることができる。
【0060】
フレーム21は、本実施例の形状に限るものではなく、電流センサ20を任意の径の被測定電線10に取り付けた際に、電流センサ20内の磁気センサモジュールの感磁方向と、被測定電線10から発生する磁界の方向とが一義的に決まるように固定できる形状であればよく、本実施例では「V字型」の切欠きを設けている。材質は、被測定電流からの漏電による感電事故を防ぐため絶縁性が比較的高い樹脂が望ましい。本実施例では、ABS樹脂を用いている。フレーム21を被測定電線10に固定する方法として、両面テープや結束バンドを用いることができる。
【0061】
本実施例で用いる信号処理回路25内のアナログ信号処理部25aでは、電圧信号を積分する機能を有していることから、ある一定時間内の電流の平均値が得られる。電流の瞬時値が必要な用途では、積分機能を除くことで電流の瞬時値を測定することもできる。
【0062】
補正係数Kを格納部25dに格納しているが、センサシステムとして使用する場合は、外部出力先に補正係数を格納してもよい。この場合、電流センサ20は補正前の電圧信号の積分値Vを外部出力端子より出力し、受信側のシステムにおいて、式(1)で示した補正を行う。本方式では、計測開始後に補正係数Kが変更できるという利点がある。
【0063】
補正係数Kは、感磁素子の感度と各芯線と磁気センサモジュールとの位置関係により決定される。本実施例では、下記1)〜4)の値ごとに補正係数Kが決められており、その決定方法は、各条件の電線上での実測値より決定するという方法である。他の決定方法として、電磁界シミュレーションにより補正係数Kを決定する方法もある。
1)被測定電線の芯線数
2)被測定電線の中心と芯線との距離
3)「被測定電線の中心」と「磁気センサモジュール1と磁気センサモジュール2の中点」との距離
4)芯線の撚りピッチ
【0064】
被測定電線を構成する芯線の本数については限定していないが、特に被測定電線を電源ラインとして使用する場合には、単相電源電流を流すのにあたり二芯電線あるいは三芯電線を用いると、電流により生じる磁界分布が対称形になり測定精度が向上する。
【0065】
また、三相電源電流を流す場合には、三芯電線あるいは四芯電線を用いると、同様に電流により生じる磁界分布が対称形になり測定精度が向上する。
【0066】
以上説明したように、本発明によれば、多芯電線の所望の芯線に流れる電流の電流値を非接触で測定できる電流センサが実現できる。