特許第6566270号(P6566270)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6566270
(24)【登録日】2019年8月9日
(45)【発行日】2019年8月28日
(54)【発明の名称】ブイヨン濃縮物の鉄補給
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/16 20160101AFI20190819BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20190819BHJP
   A23L 27/10 20160101ALI20190819BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20190819BHJP
   A23L 23/10 20160101ALI20190819BHJP
【FI】
   A23L33/16
   A23L27/00 D
   A23L27/10 C
   A23L27/10 B
   A23L2/00 F
   A23L23/10
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-537201(P2016-537201)
(86)(22)【出願日】2014年8月7日
(65)【公表番号】特表2016-533186(P2016-533186A)
(43)【公表日】2016年10月27日
(86)【国際出願番号】EP2014066977
(87)【国際公開番号】WO2015028272
(87)【国際公開日】20150305
【審査請求日】2017年7月11日
(31)【優先権主張番号】13181928.6
(32)【優先日】2013年8月28日
(33)【優先権主張国】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】503220392
【氏名又は名称】ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ.
【氏名又は名称原語表記】DSM IP ASSETS B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100165526
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 寛
(72)【発明者】
【氏名】ブルバレロ, アンドレア
(72)【発明者】
【氏名】スタイガー, ゲオルク
【審査官】 川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/068378(WO,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第02497380(EP,A1)
【文献】 特開2009−108027(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00,23/00,27/00,33/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブイヨン濃縮物の総重量を基準にして、
5〜30重量%の脂肪、
30〜70重量%の塩化ナトリウム、
10〜45重量%のグルタミン酸ナトリウム、
0.015〜10重量%のピロリン酸第二鉄、
および7.〜40重量%のクエン酸緩衝液を含み、
1〜20重量%の天然又は改質デンプンを含んでもよく、
1〜20重量%のハーブ、香辛料又は香味料を含んでもよく、
クエン酸緩衝液が、クエン酸とクエン酸三ナトリウムの重量比が0.05〜0.45のクエン酸およびクエン酸三ナトリウムであり、
ブイヨン濃縮物中の前記成分の重量の合計が、合計90〜100重量%であり、
ピロリン酸第二鉄と前記クエン酸緩衝液の重量比が、0.005〜1.5の範囲である、ブイヨン濃縮物。
【請求項2】
前記脂肪が、ブタ脂肪、ニワトリ脂肪、牛脂、オリーブ油、パーム油、およびナタネ油またはそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載のブイヨン濃縮物。
【請求項3】
ピロリン酸第二鉄とクエン酸緩衝液の重量比が0.05〜0.7の範囲である、請求項1または2に記載のブイヨン濃縮物。
【請求項4】
前記クエン酸緩衝液が、クエン酸とクエン酸三ナトリウムの重量比が0.20〜0.3のクエン酸およびクエン酸三ナトリウムである、請求項1〜3のいずれか一項に記載のブイヨン濃縮物。
【請求項5】
ピロリン酸第二鉄が、レーザー回折による測定で1〜5μmの範囲の平均粒度を有する粒子の形態である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のブイヨン濃縮物。
【請求項6】
0〜3000ppmの範囲にわたる硬度を有する水を使用して調製された場合、ブイヨン濃縮物の沸騰水への溶解時に、溶解した生物利用可能形態の40重量%を超える鉄があるブイヨンがもたらされる、請求項1〜5のいずれか一項に記載のブイヨン濃縮物。
【請求項7】
a)5〜30重量%の脂肪、30〜70重量%の塩化ナトリウム、10〜45重量%のグルタミン酸ナトリウム、0.015〜10重量%のピロリン酸第二鉄、および7.〜40重量%のクエン酸緩衝液を含み、1〜20重量%の天然又は改質デンプンを含んでもよく、1〜20重量%のハーブ、香辛料又は香味料を含んでもよく、
前記クエン酸緩衝液が、クエン酸とクエン酸三ナトリウムの重量比が0.05〜0.45のクエン酸およびクエン酸三ナトリウムであり、
ピロリン酸第二鉄と前記クエン酸緩衝液の重量比が0.005〜1.5の範囲であり
ブイヨン濃縮物中の前記成分の重量の合計が90〜100重量%になる、
混合物を調製するステップと、
b)ステップa)から得られた混合物を顆粒化または成形するステップと
を含んでなる、請求項1〜6のいずれか一項に記載のブイヨン濃縮物を調製する方法。
【請求項8】
前記成形が圧搾によって実施される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のブイヨン濃縮物を含んでなる、5.2〜8の範囲のpHを有するインスタント食品組成物であって、前記ブイヨン濃縮物が80〜120℃の温度で5〜120分間の加熱によって食品中に溶解されている、インスタント食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、脂肪、塩化ナトリウム、グルタミン酸ナトリウム、ピロリン酸第二鉄、およびクエン酸緩衝液を含んでなる鉄強化ブイヨン濃縮物を対象とする。それは、鉄強化ブイヨン濃縮物を調製する方法を対象とする。このブイヨン濃縮物は、溶解および調理後に、ブイヨンの元の味覚または色のいずれにも影響を及ぼすことなく、低コストで容易に鉄補給ができるようにして、それはブイヨン濃縮物の貯蔵寿命中に変色せず、それはその味覚に影響を及ぼすことなく、前記ブイヨン濃縮物を含んでなる食品の消費者に、生物が利用可能な鉄の最適供給源を提供する。
【0002】
食品強化プログラムは、通常、最も費用効率が高く、鉄(Fe)欠乏症と戦う持続可能なアプローチと見なされる。しかし鉄強化プログラムの成功は、鉄化合物供給源および食品マトリックスの注意深い選択に大幅に依存する。官能的変化を引き起さない安価で高度に生物が利用可能なFe化合物は、理想的な強化化合物であろう。不運にも、例えば硫酸第一鉄などの最も生物が利用可能な水溶性鉄を含有する化合物は、食物ビヒクルに許容できない色または風味変化を引き起こすことが多く、したがって使用されない。他方、中性pHではほぼ水不溶性の既知の鉄化合物であるピロリン酸第二鉄は、乳児用シリアルおよびチョコレート飲料粉末を強化するために、食品工業で頻繁に使用される。その主な利点は、食物ビヒクルに不都合な色変化を引き起こさず、風味変化が限定的なことである。しかし、それはそのままでは、生物利用可能性が不十分である。
【0003】
濃縮ブイヨンを含んでなる固形ブイヨンは、基本的な調理成分として、世界中で、特に、通常の食餌の理由から鉄強化が必要な発展途上国で、ならびに菜食主義者のために利用されている。それらは、通常、食卓塩、グルタミン酸ナトリウム、および任意選択的に脂肪およびデンプンを含んでなる。
【0004】
鉄強化固形ブイヨンは、先行技術(国際公開第2009/068378号パンフレット)に記載される。国際公開第2009/068378号パンフレットの固形ブイヨンは、30〜70重量%の食品等級塩と、10〜45重量%のグルタミン酸ナトリウムと、第二鉄ナトリウムEDTA、還元鉄、乳酸第一鉄、クエン酸第二鉄、ピロリン酸第二鉄、硫酸第一鉄一水和物、およびクエン酸第二鉄アンモニウムブラウンの群から選択される少なくとも1つの鉄化合物とを含んでなる。特に、ピロリン酸第二鉄、FeナトリウムEDTA、クエン酸第二鉄がこの文献に示されて、鉄補給なしに製造されたブイヨンと同一である、ブイヨンの色に関する優れた性能、そしてまた対照と比較して無変化の味覚に関する優れた能力を提供する。
【0005】
したがってピロリン酸第二鉄を含んでなる先行技術の鉄補給固形ブイヨンは、顕著な変色がなく、顕著な異味のないブイヨンをもたらす。
【0006】
しかし国際公開第2009/068378号パンフレットの固形ブイヨンは、これらの固形ブイヨンが使用される国々の家庭の状況の典型例である高温(30℃を超える)多湿(60%を超える相対湿度)条件下で、長期貯蔵寿命時(9ヶ月を超える)に不安定である。この不安定性(貯蔵時変色)は、鉄によって触媒される脂肪の酸化に起因すると考えられる。さらにピロリン酸第二鉄は、水溶液(最終的なブイヨン)に非常に難溶性であり、不溶性形態の鉄を含有するブイヨンをもたらし、したがって鉄補給を必要とする人々に、生物が利用可能な鉄の非常に限定的な供給を提供する。
【0007】
最近、食品強化のために、微粉化分散性ピロリン酸第二鉄が開発されている(米国特許第6616955号明細書)。これは、乳化剤と共に特別に調合された、ピロリン酸第二鉄ナノ粒子をベースとする。この製品は水分散性であるが、それでもなお粒子は真に溶解しないので、製品の生物学的利用能は限定的なままである。さらに補給のコストは、食品産業界が、発展途上国または低収入の標的集団に適した、生物が利用可能な鉄を補給された食品の開発を不可能にする。
【0008】
鉄強化固形ブイヨンは、国際公開第2010/086192号パンフレットで開示されている。これらは、5〜30重量%の脂肪、30〜70重量%の塩化ナトリウム、10〜45重量%のグルタミン酸ナトリウム、およびクエン酸であり得る0.35〜7重量%の酸を含んでなる。この固形ブイヨンの問題は、水性液体への溶解および調理時に、生物が利用可能な鉄の非常に限定的部分のみが放出されることである。
【0009】
(i)(上で定義されるような)高温および多湿度貯蔵寿命中に変色を呈さず、
(ii)水性液体中のブイヨン濃縮物の希釈および調理に際して、食品(ブイヨン)または調理容器に変色をもたらさず、
(iii)非強化ブイヨン濃縮物と比較して、鉄補給コストを顕著に増大させず、
(iv)特に、ブイヨンを調製するのに使用される水が、0〜3000ppmの範囲の水硬度を有して、5.2よりも高いpHを有する場合、水性液体中のブイヨン濃縮物の希釈および調理に際して、得られたブイヨンの消費者に、少なくとも40重量%、より好ましくは少なくとも80重量%の生物が利用可能な鉄を送達できるようにして、ブイヨンのいかなる味覚変化も防止する、
鉄強化ブイヨン濃縮物を提供する必要性が、なおも産業界にある。
【0010】
本出願の発明者らは、水性媒体中で加熱する必要があるブイヨン濃縮物を鉄強化するための新規組成物を今や驚くことに発見した。これらの鉄補給ブイヨン濃縮物は、安価であり、安定しており(すなわち、上で定義されるような高温多湿条件下における製品の貯蔵寿命中に色を失わない)、水性液体(0〜3000ppm)を作成するためにいかなる硬度の水が使用された場合でも、加熱時に、最終的なブイヨンの色または味覚に影響を及ぼすことなく、鉄が可溶性および高度に生物利用可能になる。さらにこの組成物は、世界の大多数の国々で、食品用として容易に認定される成分のみを含んでなる。したがってこの新規組成物は、それを必要とする人々に、確かな量の生物が利用可能な鉄を供給することで、貧血症を予防するための非常にしっかりした方法を提供する。
【0011】
そのため本発明は、ブイヨン濃縮物の総重量を基準にして、
5〜30重量%の脂肪、
30〜70重量%の塩化ナトリウム、
10〜45重量%のグルタミン酸ナトリウム、
0.015〜10重量%のピロリン酸第二鉄、
クエン酸とクエン酸三ナトリウムの重量比が0.05〜0.45のクエン酸およびクエン酸三ナトリウムである、7.1〜40重量%クエン酸緩衝液
を含んでなるブイヨン濃縮物を提供し、
ブイヨン濃縮物中の前記成分の重量の合計は、合計90〜100重量%であり、
ピロリン酸第二鉄と前記クエン酸緩衝液の重量比は、0.005〜1.5の範囲である。
【0012】
本明細書では、特に断りのない限り、ブイヨン濃縮物組成物中の全ての百分率は、ブイヨン濃縮物の総重量を基準にする。
【0013】
ブイヨン濃縮物は、脱水されたブイヨン(ブロスの仏語)またはストック(英語圏のいくつかの国々)である。それは、典型的に、野菜、肉だし汁、小量の脂肪、塩、および調味料を脱水することで製造される。菜食主義者および厳格菜食主義者タイプもまた、製造される。ブイヨン濃縮物は、乾燥されて顆粒形態(コンソメ)で、または様々なサイズであるが通常は約15mm幅の小型立方体に成形されて、提供される。
【0014】
本発明によるブイヨン濃縮物は、5〜30重量%の脂肪を含んでなる。脂肪は結合因子として使用され、脂肪の量は、ブイヨン濃縮物を製造するのに利用される方法に左右される。好ましくは、本発明の全ての実施形態で、ブイヨン濃縮物は、10〜25重量%の脂肪、より好ましくは、15〜20重量%の脂肪を含んでなる。脂肪は、油をはじめとする固体または液体のどちらかである、任意の食品等級脂肪から選択され得る。好ましくは、脂肪は、ブタ脂肪、ニワトリ脂肪、牛脂、オリーブ油、パーム油、およびナタネ油またはそれらの混合物からなる群から選択される。
【0015】
本発明によるブイヨン濃縮物は、30〜70重量%の塩化ナトリウム塩、好ましくは40〜60重量%、より好ましくは45〜55重量%の塩化ナトリウム塩を含んでなる。任意選択的に、塩化ナトリウム塩は、塩化カリウムまたは塩化アンモニウムから選択される別の食品等級塩によって部分的に置換されてもよい。
【0016】
本発明によるブイヨン濃縮物は、風味強化添加剤として、10〜45重量%のグルタミン酸ナトリウムを含んでなる。好ましくは、本発明の全ての実施形態で、グルタミン酸ナトリウムの量は、20〜35重量%の範囲、なおもより好ましくは25〜30重量%の範囲である。
【0017】
本発明によるブイヨン濃縮物中のピロリン酸第二鉄の量は、0.015〜10重量%の範囲、好ましくは0.02重量%〜5重量%の範囲、より好ましくは0.05〜2重量%の範囲である。二リン酸鉄(III)塩(CAS:10058−44−3)とも称されるピロリン酸第二鉄は、Spectrum ChemicalまたはDr.Paul Lohmannから購入され得る。ピロリン酸第二鉄の粒度は、ピロリン酸第二鉄がクエン酸緩衝液によって完全に溶解するのに要する、水性媒体中のブイヨン濃縮物の加熱時間に影響する。粒度が高いほど、より長時間の加熱が必要になる。そのため、本発明による組成物で使用するための好ましいピロリン酸第二鉄粒度は、1〜60μmの平均粒度を有する。なおもより好ましいピロリン酸第二鉄は、当該技術分野で公知のレーザー回折法による測定で1〜5μmの平均粒度の微粉化ピロリン酸第二鉄である。
【0018】
本発明によるブイヨン濃縮物は、7.1〜40重量%、好ましくは7.5〜20%のクエン酸緩衝液を含んでなる。クエン酸緩衝液は、本発明の文脈で使用される場合は常に、クエン酸とクエン酸三ナトリウムとの混合物を意味する。
【0019】
クエン酸三ナトリウム(CAS:68−04−2)は、Spectrum Chemicalから購入され得る。本発明による組成物のための適切なクエン酸緩衝液は、0〜3000ppmの水硬度を有する水の存在下におけるブイヨン濃縮物の加熱時に、ピロリン酸第二鉄を可溶化するその力の観点から選択される。前記クエン酸緩衝液は、クエン酸とクエン酸三ナトリウムの重量比が0.05および0.45であり、好ましくはクエン酸およびクエン酸三ナトリウムの重量比が0.2〜0.3のクエン酸対クエン酸三ナトリウムである、クエン酸およびクエン酸三ナトリウムに限定される。
【0020】
本発明によるブイヨン濃縮物中のピロリン酸第二鉄とクエン酸緩衝液の重量比もまた、ブイヨン中の鉄可溶化を確実にする重要なパラメータである。ピロリン酸第二鉄とクエン酸緩衝液の重量比は、水の存在下におけるブイヨン濃縮物の加熱時に、ピロリン酸第二鉄を可溶化するのに要する最適比率を考慮して、0.005〜1.5の範囲、好ましくは0.01〜1の範囲、より好ましくは0.05〜0.7の範囲でなくてはならない。
【0021】
本発明によるブイヨン濃縮物は、天然(ジャガイモデンプンまたはコーンスターチなど)または改質(マルトデキストリンなど)のいずれかの1〜20重量%のデンプンをさらに含んでなってもよい。さらに、デンプンの代わりに小麦粉もまた使用してもよい。
【0022】
したがって本発明による最も好ましいブイヨン濃縮物は、10〜25重量%の脂肪、40〜60重量%の塩化ナトリウム、20〜35重量%のグルタミン酸ナトリウム、0.02〜5重量%のピロリン酸第二鉄、クエン酸とクエン酸三ナトリウムの重量比が0.2〜0.3のクエン酸およびクエン酸三ナトリウムである、7.1〜20重量%のクエン酸緩衝液を含んでなり、ピロリン酸第二鉄とクエン酸緩衝液の重量比は0.05〜0.7の範囲である。
【0023】
本発明によるブイヨン濃縮物は、1〜20重量%のハーブ、香辛料、およびその他の調味料をさらに含んでなってもよい。ハーブおよび香辛料は、好ましくは、パセリ、オレガノ、ガーリックパウダー、オニオンパウダー、パプリカ、白コショウ、カレーから選択される。
【0024】
別の実施形態では、本発明によるブイヨン濃縮物は、通常このような製品に添加されるビタミンおよびミネラルをさらに含んでなる。量は、1食あたり、1日あたりの推奨摂取量(RDA)の10〜40%を構成する。好ましい追加的なミネラルは、亜鉛であり、好ましい追加的なビタミンは、ビタミンA、ビタミンB2、ビタミンB6、葉酸、ビタミンB12、ビタミンE、ビタミンB1、カルパン、ビオチン、およびナイアシンである。
【0025】
本発明によるブイヨン濃縮物は、0.1〜5ppmのレベルで、乾燥ウコン粉末、および/またはカロテノイド、好ましくはβ−カロテンおよび/またはルテインから選択される天然着色剤をさらに含んでなり、ブイヨン濃縮物に訴求力のある色を提供してもよい。
【0026】
本発明によるブイヨン濃縮物は、好ましくは乾燥形態である。本文脈上で、乾燥とは、0.65より低い水分活性を意味する。濃縮物は、従来の乾燥技術によって粒質物として乾燥され、または立方体形状に成形されてもよい。「立方体」は、典型的な立方体の形状に限定されないが、固形ブイヨンの任意の形状を含んでなることが意図される。好ましくは本発明は、立方体または錠剤の形態の固形ブイヨンに関する。本発明による固形ブイヨンは、約2〜15グラム、好ましくは3〜10グラムの重量を有してもよい。
【0027】
本発明によるブイヨン濃縮物は、高温多湿下の貯蔵時に極めて安定している。さらに水との混合および加熱時に、ピロリン酸第二鉄は、クエン酸緩衝液の助けを借りて完全に溶解する。加熱は、80〜120℃の温度で5〜120分間にわたる、水性食品組成物中のブイヨン濃縮物の加熱によって実施する必要がある。好ましくは、加熱ステップは、ピロリン酸第二鉄がクエン酸緩衝液によって完全に可溶化するまで、大気圧下で100℃前後で沸騰させて実施される。通常は、これは、20〜60分間内に終わる。加熱ステップは、任意選択的に、加圧下で実施し得る。このような場合、当業者は、もちろん適用される圧力および温度に応じて、加熱時間を短縮する。
【0028】
別の実施形態では、本発明は、本発明によるブイヨン濃縮物を提供し、0〜3000ppmの範囲の硬度を有する水を使用して調製された場合に、ブイヨン濃縮物は、沸騰水中での溶解時に、溶解した生物利用可能形態の40重量%を超える鉄、好ましくは80重量%を超える鉄があるブイヨンをもたらす。
【0029】
さらに別の実施形態では、本発明は、本発明によるブイヨン濃縮物を含んでなる、5.2〜8の範囲のpHを有するインスタント食品組成物を提供し、前記ブイヨン濃縮物は80〜120℃の温度で5〜120分間の加熱によって食品中に溶解されている。好ましくは、加熱ステップは、ピロリン酸第二鉄がクエン酸塩によって完全に可溶化するまで、大気圧下で100℃前後で沸騰させて実施される。通常は、これは、20〜60分間内に終わる。
【0030】
ブイヨン濃縮物は、当業者に知られている任意の方法にしたがって調製される。好ましい実施形態では、本発明によるブイヨン濃縮物は、
a)5〜30重量%の脂肪、30〜70重量%の塩化ナトリウム、10〜45重量%のグルタミン酸ナトリウム、0.015〜10重量%のピロリン酸第二鉄、および7.1〜40重量%のクエン酸緩衝液を含んでなり、
クエン酸緩衝液が、クエン酸とクエン酸三ナトリウムの重量比が0.05〜0.45のクエン酸およびクエン酸三ナトリウムであり、
ピロリン酸第二鉄と前記クエン酸緩衝液の重量比が、0.005〜1.5の範囲であり、
ブイヨン濃縮物中の前記成分の重量の合計が90〜100重量%になる、
混合物を調製するステップと、
b)ステップa)から得られた混合物を顆粒化または成形するステップと
を含んでなる方法によって調製される。
【0031】
好ましくは、ブイヨン濃縮物の成形は、圧搾によって実施される。
【0032】
以下の実施例によって、本発明をさらに例証する。
【0033】
[実施例]
[実施例1:4gの一食分(250ml)の固形ブイヨン]
植物性脂肪 7重量%
塩化ナトリウム 47重量%
グルタミン酸ナトリウム 15重量%
砂糖 5.24重量%
加水分解植物タンパク質含有香味料 14重量%
微粉化ピロリン酸第二鉄 0.3重量%
クエン酸 2.11重量%
クエン酸三ナトリウム 9.35重量%
約250mlの水に入れて20分間沸騰させる。次に摂取する。
【0034】
[実施例2:4gの一食分(250ml)の固形ブイヨン]
安定化牛脂 10重量%
植物性脂肪 10重量%
塩化ナトリウム 35重量%
グルタミン酸ナトリウム 10重量%
乾燥ハーブ 1重量%
加水分解植物タンパク質含有香味料 3重量%
微粉化ピロリン酸第二鉄 0.3重量%
クエン酸 1.58重量%
クエン酸三ナトリウム 6.97重量%
マルトデキストリン 22.15重量%
約250mlの水に入れて20分間沸騰させる。次に摂取する。
【0035】
[実施例3:4gの一食分(250ml)の固形ブイヨン]
安定化牛脂 10重量%
植物性脂肪 10重量%
塩化ナトリウム 35重量%
グルタミン酸ナトリウム 10重量%
乾燥ハーブ 1重量%
加水分解植物タンパク質含有香味料 3重量%
微粉化ピロリン酸第二鉄 0.3重量%
クエン酸 1.6重量%
クエン酸三ナトリウム 8.8重量%
ジャガイモデンプン 20.3重量%
約250mlの水に入れて10分間沸騰させる。次に摂取する。
【0036】
[実施例4:鉄放出に対するクエン酸緩衝液の効果]
[ブロス(ブイヨン)調製中の鉄放出の測定]
ブイヨン調製中にFe2+およびFe3+として放出される鉄を検出するために、専用手順が開発された(既存の飲料水中の鉄検出手順を応用;Manual,2008)。手順は、赤色錯体を形成する第一鉄イオンおよび1,10−フェナントロリン間の反応を利用する。錯体のモル吸光係数は、508〜510nmで11100である。色の強さは、2〜9の範囲ではpHから独立しており、さらに複合体は、非常に安定しており、色の強さは長時間にわたってほとんど変化しない。ベールの法則に従う。
【0037】
鉄は、第一鉄の状態でなくてはならないので、発色前に還元剤が添加される。ヒドロキシルアミン塩化物が、還元剤として選択された。
【0038】
[試薬および手順]
酢酸緩衝液:10グラムの酢酸ナトリウム三水和物(Sigma,USA)を秤量して、メスフラスコに注ぎ入れる。次にナノピュア水を1000mLになるまで添加して(溶液pH=8.1)、引き続いてpH6.8に達するまで酢酸(10%溶液)を滴下して所望のpHに補正する(Methrom pHメーターを使用してpH価を継続的にモニターする)。
【0039】
還元剤溶液:1グラムのヒドロキシルアミン塩酸塩(Sigma,USA)を秤量してメスフラスコに注ぎ入れ、引き続いてナノピュア水を添加して100mLにする。
【0040】
色素溶液:100mgの1,10−フェナントロリン(Sigma,USA)を秤量してメスフラスコに注ぎ入れ、引き続いてナノピュア水を添加して100mLにする。1,10−フェナントロリンが完全に溶解するまで、溶液を磁力的に撹拌する。
【0041】
[手順:]
−3種の濾過(シリンジ250μm使い捨てフィルター)ブイヨンを10mlのプラスチック管(Corning 430791またはFalcon 352097)にピペットで入れる
−5mlのナトリウム−酢酸緩衝液(pH6.8)を添加する
−1mlのヒドロキシルアミン塩酸塩溶液を添加する
−1mlの1,10−フェナントロリン溶液を添加する
−管を手で振盪して、時々振盪しながら10分間放置する。
−次に分光光度計(Perkin Elmer Lambda 35)によって390nm〜700nmの波長をスキャニングして、サンプルの分光吸光度を測定する(最大吸光度約508nm)
−ブランク(参照溶液)を調製するために鉄を含まないプレーンブイヨンを使用する
【0042】
[検量線]
それぞれ分析され調製されたタイプのブイヨンを使用して較正曲線を構築した(マトリックス効果における差異を回避するため)。標準鉄1000ppm溶液(Sigma Aldrich,Saint Louis,USA)を添加して、所望の量の鉄イオンを分析されるブイヨンに添加した。
【0043】
各検量線(Fe3+濃度の関数としての510nmにおける吸光度)は、毎回新しいサンプルおよび新しい試薬を調製して異なる日に実施された、3回の反復試験の最終的内挿であった。さらに各反復試験は、各鉄濃度測定値について複製(二連)で実施した。
【0044】
[調理条件における鉄放出(鉄イオンの存在下の1,10−フェナントロリンの色変化に基づく分光光度試験):]
最初に250mLの水を96℃に加熱して、次に固形ブイヨンを撹拌条件下で添加した。全ての固形ブイヨンが溶解したら時間0を設定し、次に15分間毎に1時間まで、1アリコート(3mL)を取り出した。
【0045】
表1は、クエン酸−クエン酸三ナトリウム(Fe)なしの類似組成物と比較した本発明による組成物(Fe;C:TSC)を示す。
【0046】
【表1】
【0047】
次に上の2種の固形ブイヨンを上述のようにナノピュア水(0ppmに近い水硬度)中で調理して、鉄放出を理論的な鉄含有量の百分率として計算した。(表2を参照されたい)。
【0048】
【表2】
【0049】
2種のブイヨン中の最終pHは5.64(Fe)および5.83(Fe;C−TSC)であった。
【0050】
[実施例5:鉄放出に対するクエン酸塩の量の効果]
実験条件は、上の実施例4と全く同じであった。表3は、比較例としての2種の固形ブイヨンを示す。
A:6.9%クエン酸緩衝液添加固形ブイヨン
B:11.5%クエン酸緩衝液添加固形ブイヨン
【0051】
【表3】
【0052】
【表4】
【0053】
2種のブイヨン中の最終pHは、5.13(6.9%クエン酸緩衝液)および5.62(11.5%クエン酸緩衝液)であった。
【0054】
[実施例6:鉄放出に対するクエン酸緩衝液の効果]
[調理条件における鉄放出]
3.5グラムのブイヨン粉末(表5)と、65mgのクエン酸および290mgのクエン酸三ナトリウムおよび12mgの鉄ピロリン酸を含んでなるクエン酸緩衝液成分とを混合して、4gの固形ブイヨンを調製した(250mLの一食分の固形ブイヨンあたり3.3mgの鉄)。完成固形ブイヨン4グラムを得るために、「増量剤」としてジャガイモデンプンを使用した。
【0055】
最初に250mLの水を96℃に加熱して、次に固形ブイヨンを撹拌条件下で添加した。全ての固形ブイヨンが溶解したら時間0を設定し、次に1時間後に1アリコート(3mL)を取り出した。
【0056】
表5は、クエン酸およびクエン酸三ナトリウム(C:TSC)からできたクエン酸緩衝液を含んでなる本発明による組成物を示す。
【0057】
【表5】
【0058】
次に上述したような硬度の異なる水中で、上記固形ブイヨンを1時間調理して、鉄放出を理論的なFe含有量の百分率として計算した(表6を参照されたい)。
【0059】
以下(表6)で示されるように、水のタイプ(硬度)およびクエン酸緩衝液供給源は、1時間の調理手順後に(ピロリン酸鉄から)放出される鉄イオンの百分率に明確に影響を及ぼす。
【0060】
【表6】