【実施例1】
【0013】
本実施例は、本発明を、並列または交差する鉄筋同士を結束固定する鉄筋結束機(結束機)に用いた例である。
【0014】
まず、
図1を用いて、本実施例1における鉄筋結束機10aの概略構造について説明する。
図1に示すように、結束機本体20の下方側にはマガジン50が設けられている。このマガジン50の内部には、例えば直径1mm程度の鉄線からなるワイヤ30が巻装されたワイヤリール52が、取付軸46に回転可能に取り付けられている。ワイヤリール52に巻装されたワイヤ30は、ワイヤ送出部62によって、マガジン50から上方の結束機本体20に送出される。
【0015】
ワイヤ送出部62の上方には、ワイヤ30を円弧を描くように塑性変形させる湾曲形成部39が設けられている。この湾曲形成部39は、ワイヤ30が通過する経路に沿って配置された円弧状に湾曲した溝状の通路36aを有するカールアーム38と、このカールアーム38を通過する際に円弧状に塑性変形されたワイヤの先端を拾い込むカールガイド60からなる。
【0016】
カールアーム38とカールガイド60の間には、先端部にワイヤ挿入溝24を有する捩りフック26が設置されている。この鉄筋結束機10aはカールアーム38とカールガイド60の間に被結束体である鉄筋22を跨ぐように差し入れて、鉄筋22を当接部25に当接させた状態に保持して鉄筋22を結束する。
【0017】
捩りフック26は、捩りモータ28により回転可能とされている。この捩りフック26は、捩りモータ28の回転開始前の待機時に、ワイヤ挿入溝24の中にループ状に塑性変形されたワイヤ30を挿入しやすいように、ワイヤ挿入溝24をループ状のワイヤ30に直交する方向に向けて、ワイヤ30から離れた位置に待機している。
【0018】
結束機本体20の内部には、捩りモータ28の他にギア駆動モータ41(
図3)が設置されている。これらのモータは、電池パック55に内蔵された充電池から給電されて、トリガ32の操作によって、捩りモータ28の正回転、停止およびギア駆動モータ41の正回転、逆回転、停止を順次行う。捩りモータ28とギア駆動モータ41と動作制御は、結束機本体20に内蔵されたコントロールユニット56によって行われる。
【0019】
ギア駆動モータ41(
図3)は正逆両方向に回転可能となっている。ギア駆動モータ41が正回転(
図3において時計回り)したときに、ワイヤ30は結束機本体20の上方側に送出されて、鉄筋22の周りに巻き回される。その後、図示しない送出量検出手段によってワイヤ30が所定の長さだけ引き出されたことが検出されると、ワイヤの先端を掴んだ後にギア駆動モータ41は逆回転(
図3において反時計回り)してワイヤ30をワイヤリール52の方向に引き戻し、その後ギア駆動モータ41は停止する。そして、次に捩りモータ28が回転することによって、鉄筋22に巻き回されたワイヤ30が捩り回されて鉄筋22を結束する。詳しい作用は後述する。
【0020】
ワイヤリール52に巻装されたワイヤ30は、ワイヤ送出部62によってカールアーム38まで送られる。ワイヤ送出部62とカールアーム38の間に設けたワイヤ30の通路(ワイヤ通路35)の途中に次に述べるワイヤ切断部64を設けている。
【0021】
次に、
図2を用いて、鉄筋結束機10aにおけるワイヤ切断部64の詳細構造について説明する。
【0022】
図2は、鉄筋結束機10aの主要な内部構造を示す構造図である。
図2に示すように、カールガイド60の後端には、カッタコンロッド58の一端に連結された可動カッタ66と、
図2において可動カッタ66の裏面側にワイヤ通路35 を挟んで設置された固定カッタ68とが向かい合って設置されている。この可動カッタ66と固定カッタ68が、前記した一対の切断刃からなるワイヤ切断部64を構成している。
【0023】
カッタコンロッド58の他端は、カールガイド60に対して回動可能に設置されたカッタレバー70に連結されている。このカッタレバー70は、捩りフック26の後部に設置されたカッタリング72の前後動に応じて、カッタコンロッド58を前後させる方向に可動する。このカッタレバー70の動きに応じて、カッタコンロッド58に連結された可動カッタ66が回転して、固定カッタ68と摺り合わされることによってワイヤ30が切断される。
【0024】
次に、
図3,
図4を用いて、ワイヤ送出部62の詳細構造について説明する。
図3は、
図2を切断線H−Hで切った断面図であり、
図4は、
図3を切断線N−Nで切った断面図である。
【0025】
カールアーム38 とワイヤリール52の間にはワイヤリール52に巻装されたワイヤ30をカールアーム38に向けて送出するワイヤ送出部62を設けている。ワイヤ送出部62からカールアーム38内に設けたワイヤ通路36aに至る部位は、ワイヤの通過を許容するワイヤ通路35となっている。なお、本実施例1では、ワイヤ30は、ワイヤ30aとワイヤ30bの2本1組(複線)になってほぼ同時に送出される。
【0026】
ワイヤ送出部62は、ギア駆動モータ41から駆動力を伝達されて、ワイヤ30(30a,30b)の送出方向に沿う方向に回転する駆動送りギア42、および駆動送りギア42と噛み合う従動送りギア44を有している。
図4に示すように、駆動送りギア42の歯先の中央部には切欠部90aが設けられている。また、従動送りギア44の歯先の中央部には切欠部90bが設けられている。これらの切欠部90a,90bは、駆動送りギア42と従動送りギア44が噛み合ったときに、ワイヤ30(30a,30b)が内接するサイズを有する開口部92を形成する。
【0027】
ワイヤ30(30a,30b)は、駆動送りギア42の切欠部90aと従動送りギア44の切欠部90bによって押圧力を受けながら挟持される。このため、ギア駆動モータ41が正回転(
図3において時計回り)すると、摩擦力によって結束機本体20の上方側に送出される。また、ギア駆動モータ41が逆回転(
図3において反時計回り)すると、摩擦力によって結束機本体20の下方側に引き戻される。
【0028】
カールアーム38の中心線は、
図3に示すように、駆動送りギア42と従動送りギア44の噛み合い位置に一致している。ワイヤ送出部62から送出されたワイヤ30は、カールアーム38を通過する際に円弧状の軌跡を描くように塑性変形される。すなわち、カールを形成するように癖付けされる。上記カールアーム38内で整形されるワイヤ30の円弧が成す平面(ワイヤ30の円弧とその円弧の中心を含む平面)を、本明細書において仮想平面80と称する。 この仮想平面80は、具体的には、カールアーム38を形成している第1壁部40aまたは第2壁部40bの間を通る平面であり、実質的には第1壁部40aと第2壁部40bの内壁面に平行かつ同2つの壁面の中間を通る平面のことである。
【0029】
ワイヤリール52は、ワイヤ30が巻装される円筒形状のハブ53と、ハブ53の両側にそれぞれ設けられた一対の円板状の第1フランジ部54aと第2フランジ部54bからなる。このワイヤリール52は、摩耗や曲げに対して耐性の高いABS樹脂・ポリエチレン・ポリプロピレン等のプラスチックによって形成されている。
【0030】
なお、
図3に示すように、ワイヤリール52のハブ53の中央位置(Y−Y’線)は、前記した仮想平面80に対して、ワイヤリール52の軸心(Z−Z’線)においてZ’方向にオフセットした位置に配置されている。カールアーム38とワイヤリール52をこのような配置関係とすることによって、カールアーム38から送出されるワイヤ30の振れ方向のばらつきを小さく抑えることができる。詳しくは後述する。
【0031】
次に、
図5を用いて、捩りフック26の詳細構造について説明する。
【0032】
図5は、
図2を切断線A−Aで切った断面図である。
図5に示すように、捩りフック26は、捩りモータ28と、捩りモータ28の回転軸28aに取り付けられた先端軸100と、先端軸100にガイドされた筒状のスリーブ102と、先端軸100の端部に備えられた、センターフック104と一対のフックL106a,フックR106bとからなる。
【0033】
スリーブ102は、先端軸100の回転方向に応じて、一対のフックL106a,フックR106b側に向かって前進し、または逆方向に向かって後退する。
【0034】
センターフック104の先端には、ワイヤ挿入溝24が形成されている。このセンターフック104は、一対のフックL106a,フックR106bの先端側に向かって前進し、または逆方向に向かって後退する。そして、センターフック104が一対のフックL106a,フックR106bの先端側に向かって前進したときに、
図5に非図示のワイヤ30(30a,30b)をワイヤ挿入溝24にある程度フリー状態で係止される。また、センターフック104が後退したときには、
図5に非図示のワイヤ30(30a,30b)を、ワイヤ挿入溝24から離脱させる。
【0035】
一対のフックL106a,フックR106bは、スリーブ102の動きと連動して開閉動作を行う。すなわち、先端軸100が回転してスリーブ102が後退すると、フックL106a,フックR106bが開く。一方、先端軸100が回転してスリーブ102が前進すると、フックL106a,フックR106bが閉じる。
【0036】
図6は、
図2を切断線B−Bで切った断面図である。
図6に示すように、カールアーム38の一方を構成する第1壁部40aと、カールアーム38の他方を構成する第2壁部40bを有しており、これら2つの壁部の間に設けた細幅の通路がワイヤ通路36aを構成している。
【0037】
次に、
図7を用いて、本実施例1におけるカールガイド39とワイヤリール52のレイアウトについて説明する。
図7は、
図2に示した鉄筋結束機10aの要部を矢印Cの方向から見た側面図である。
【0038】
図7に示すように、仮想平面80は、ワイヤリール52の巻心部中央Oをハブ53の軸心(Z−Z’線)と略直交する方向に切断したときの仮想切断面84(Y−Y’線を含む面)に対してオフセットした位置に配置されている。逆を言えば仮想平面80に対してオフセットした位置にワイヤリール52の仮想切断面84が配置されている。本実施例の場合、仮想平面80は、ハブ53の軸方向端部におけるハブ53の軸心(Z−Z’線)と略直交する方向に切断したときの仮想切断面82と一致するように構成している。これは、第1フランジ部54aの内側面と略同一位置に仮想平面80が配置されている状態であり、仮想平面80とハブ53の中間位置におけるハブの軸心と略直交する方向に切断する仮想切断面からの距離pが、ハブ53の軸方向の全長の半分(長さk)と一致する場合である。
【0039】
また、拾い込んだワイヤ30(30a,30b)が通過するカールガイド60の中心位置60aに設けたワイヤ通路36bは、仮想平面80から距離qの位置、すなわち、仮想平面80に対するワイヤリール52の中央位置(Y−Y’線)のオフセット方向とは逆の方向にオフセットして配置されている。このカールガイド60の仮想平面80からの距離q(オフセット量)は、カールガイド60が、カールアーム38から送出されたワイヤ30(30a,30b)を確実に拾い込める位置に適宜設定される。
【0040】
次に、
図8Aから
図8Eを用いて、本実施例1における鉄筋結束機10aの作用について順を追って説明する。なお、
図8Aから
図8Eは、
図2を、鉄筋結束機10aの各動作フェーズにおける状態を明確に示すように変形してそれぞれ図示したものである。
【0041】
図8Aは、鉄筋結束機10aのワイヤ送出動作について説明する図である。トリガ32(
図1)を操作すると、ギア駆動モータ41(
図3)が正方向に回転(
図3において時計回り)して、ワイヤ30(30a,30b)がワイヤリール52から引き出されて、ワイヤ送出部62によって矢印Uの方向に向かって送出される。そして、ワイヤ30(30a,30b)は、カールアーム38に設けられた円弧状の溝によって、円弧状に塑性変形されて巻癖がつけられる。
【0042】
ワイヤ送出部62から所定の長さだけ送出されたワイヤ30(30a,30b)は、カールアーム38を通過した後、カールガイド60に拾い込まれる。そして、カールアーム38とカールガイド60の間に挟み込まれた鉄筋22(被結束体)の周りにワイヤ30のループ110が形成される。
【0043】
図8Bは、鉄筋結束機10aのワイヤ引き戻し動作について説明する図である。
図8Aに示したワイヤ送出動作が完了した後、捩りモータ28の作用によって先端軸100が回転して、スリーブ102が鉄筋22の方向に前進し、フックL106aとフックR106b(
図5)が閉じる。すると、ワイヤ30(30a,30b)が、フックL106aとフックR106bによって把持される。
すると、ギア駆動モータ41(
図3)が逆方向に回転(
図3において反時計回り)して、ワイヤ30が、ワイヤ送出部62によってワイヤリール52の方向(矢印Vの方向)に引き戻される。この引き戻し動作によって、ワイヤ30は、鉄筋22(被結束体)の周囲に巻き付けられる。
【0044】
図8Cは、鉄筋結束機10aのワイヤカット動作について説明する図である。先端軸100が回転して、スリーブ102が鉄筋22の方向に前進すると、スリーブ102に連動したカッタリング72によってカッタレバー70が回転する。
【0045】
すると、カッタレバー70とカッタコンロッド58のリンク機構によって、可動カッタ66が回転して、ワイヤ通路35にあるワイヤ30(30a,30b)を、可動カッタ66と固定カッタ68とで挟み込んで切断する。
【0046】
図8Dは、鉄筋結束機10aのワイヤ捩り動作について説明する図である。スリーブ102が鉄筋22の方向に前進して、フックL106aとフックR106bの前端側の壁でワイヤ30を鉄筋22(被結束体)側に曲げる。
【0047】
スリーブ102がさらに前進すると、スリーブ102の回転方向の規制が外れて、スリーブ102は、先端軸100と一緒に、捩りモータ28の回転軸28aの周りに回転する。すると、捩りフック26がワイヤ30(30a,30b)を把持した状態で回転して、ワイヤ30を捩る。
【0048】
図8Eは、鉄筋結束機10aのワイヤ離し動作について説明する図である。捩りモータ28が逆方向に回転して、先端軸100が捩り動作時と逆方向に回転すると、スリーブ102が鉄筋22から離れる方向に後退する。
【0049】
その後、スリーブ102が後退することによってフックL106aとフックR106bが開いて、ワイヤ30(30a,30b)の把持が解除される。これによって、鉄筋22(被結束体)の結束動作が完了する。
【0050】
次に、
図9(a),
図9(b)を用いて、本実施例1の鉄筋結束機10aにおけるワイヤ30の拾込作用について説明する。
【0051】
図9(a)は、
図2を矢印C方向から見た側面図であり、本実施例1における鉄筋結束機10aのワイヤリール52とカールアーム38の位置関係を示す説明図である。
図9(a)において、ワイヤ30(30a,30b)は、実際には、ワイヤ送出部62(
図3)を経てカールアーム38に進入するが、説明を簡単にするために、ワイヤ送出部62は省略して描いている。 また、カールガイド60も省略している。
図9(b) は、
図2を矢印C方向から見た側面図であり、捩りフック26の先端軸100および仮想平面80とカールガイド60の位置関係を示す図である。
【0052】
ワイヤ30(30a,30b)の送出と引き戻しが繰り返して行われることによって、ワイヤ30(30a,30b)に弛みが生じるため、ワイヤリール52に巻装されたワイヤ30の整列状態が崩れてしまう。これは、ハブ53に密着するように巻装されているワイヤ30が送りや引き戻しを繰り返すうちに次第に弛むからであり、引き戻されるワイヤ30の一部にはカールアーム38に侵入して円弧状の変形を伴ったものもが含まれるからである。このように巻装されているワイヤ30に弛みが生じると、複線であるワイヤ30a,30bそれぞれの引き出し位置が異なってくる。
図9(a)は、ワイヤ送出部62による送り出し動作を行った場合における、引き出し位置がそれぞれ異なったワイヤ30a,30bと仮想平面80との成す角度θ1,θ2を表している。
【0053】
ワイヤ30(30a,30b)が、前記した角度θ1,θ2を伴って仮想平面80の一方の側からワイヤ送出部62を経由してカールアーム38に侵入すると、ワイヤ30(30a,30b)は仮想平面80の他方の側に向かってカールアーム38の先端から放出される。すなわち、仮想平面80と直行する正面側から見た場合にZ’側から角度θ1,θ2を伴ってカールアーム38に侵入すると、カールアーム38で仮想平面80に沿って進行方向を変え(湾曲成形され)、反対側であるZ側に向かう角度を伴ってワイヤ30を放出するようになっている。
【0054】
また、
図9(a)に示した例では、ワイヤ30aが成す角度θ1よりも,ワイヤ30bが成す角度θ2が大きくなっているが、カールアーム38を通過した後のワイヤ30aとワイヤ30bの角度の差は、仮想平面80に対する侵入側の角度差(θ1とθ2の差)よりも小さくなる。すなわち、仮想平面80に対する侵入側の角度が大きくても、カールアーム38を通過した後の放出側では侵入側ほどの角度は大きくならないということである。さらに、仮想平面80の一方から侵入させたワイヤは、仮想平面80の他方側にのみ放出され、侵入した側に放出されることはない。これは、放出される範囲が狭められるということである。
【0055】
上記のように、仮想平面80に対して一方に偏った側からワイヤ30をカールアーム38に侵入させると、仮想平面80の反対側に向かって偏りが減殺された状態でワイヤ30が放出されるようになる。したがって、仮想平面80に対してワイヤリール52のハブを偏った位置に配置するように構成することで、カールアーム38を通過した後のワイヤ30の到達位置を一定の範囲に収束させることができるという効果を有している。
【0056】
図9(a)に示したオフセット量p1が0の場合、仮想平面80とハブ53の中央位置が一致している場合であるから、前述のように仮想平面80の表裏それぞれの方向に向かってワイヤ放出される場合があるので、ワイヤ先端が到達する範囲が広くなる傾向がある。一方、
図9(a)に示したオフセット量p1を大きくしていくと、次第にワイヤ先端が到達する範囲が狭くなる傾向を示すようになっている。
【0057】
上記のように、仮想平面80に対するワイヤ30の入射角が増大しても、カールアーム38からの放出角度はさほど増大しない。これは、次に述べる作用が理由の一つであると推測される。
すなわち、ワイヤ30がカールアーム38に侵入する場合には、侵入する角度の大きさに応じて移動経路の途中でワイヤ30を曲げるような変形力が加わる。しかしながら、この変形力によってワイヤ30が変形しても、カールアーム38のワイヤ通路36aは幅が狭く形成されているのでワイヤの曲がりを矯正する作用が生じるものと考えられる。この矯正作用は、侵入するワイヤの角度が大きければこれに応じて強く作用するものであるから、侵入する角度が増大した場合には矯正力自体も強く働くので、結果としてカールアーム38からの出力角度は、進入角度が増大ほど大きく増大しないものと考えられる。
【0058】
一方、次に
図11を用いて説明する比較例のように、仮想平面80と直行する正面側から見てカールアーム38の中心線(仮想平面80)上にワイヤリール52のハブ53が存在しているような場合、仮想平面80に対する入射角が浅くなるのでカールアーム38による角度の矯正力は強くない。このため、仮想平面80に対する入射角に応じてワイヤの放出角度が変動しやすくなる。このようなカールアーム38の中心線(略仮想平面80)がワイヤリール52のハブ53を通過するような仕様と前述したハブ53の端部を通過するような仕様を比較した場合、明らかに後者のほうがカールアーム38から放出されたワイヤが到達する位置におけるバラツキが少ないものとなっていた。
本実施例にかかる鉄筋結束機10は、このような性質を利用したところに特徴があるものであり、カールアーム38の位置とワイヤリール52(ワイヤを巻装するハブ53)の位置とを適切な位置に配置することによって、カールアーム38から放出されるワイヤ先端のバラツキを一定の範囲に収束させることを特徴の一つとするものである。
【0059】
図11(a),
図11(b)は、それぞれ、比較例における鉄筋結束機10のワイヤリール52とカールアーム38 とカールガイド60の位置関係を示す図である。なお、
図11(a),
図11(b)は、それぞれ、
図9(a),
図9(b)と対応するように描いている。
図11(a)に示す鉄筋結束機10にあっては、仮想平面80と、ワイヤリール52のハブ53の中央位置と、が一致した位置、すなわち、仮想平面80と仮想切断面84との距離が0になるように配置されている。
【0060】
図11(a)に示す鉄筋結束機10にあっても、
図9(a)の説明で述べた通り、ワイヤ30(30a,30b)の送出と引き戻しが繰り返して行われることによって、2本のワイヤ30aと30bがばらけてしまい、ワイヤリール52上の異なる位置から送出される状態となる。すなわち、仮想平面80の一方から角度θ1を伴って進入するワイヤ30aと、これとは反対面の仮想平面80の他方から角度θ2を伴って進入するワイヤ30bがある場合、それぞれのワイヤは仮想平面80を基準として異なる側に放出される。
したがって、この比較例の場合には、
図11(b)に示すカールガイド60の先端の広がり量(幅60b)を大きくし、異なる側に振れたワイヤ30(30a,30b)の先端を確実に拾い込めるようにする必要がある。
【0061】
(実施例1の変形例)
次に、実施例1の変形例について、
図12を用いて説明する。
図12は、実施例1の変形例である鉄筋結束機10c(結束機)の要部の内部構成を示す、前記した
図7に対応する図であり、鉄筋結束機10cを、
図2に示した切断線H−Hと同じ位置で切った断面図である。
図12に示す鉄筋結束機10c(結束機)にあっては、仮想平面80は、
ハブの軸方向端部を前記ハブの軸心と略直交する方向に切断したときの仮想切断面82(第1フランジ部54aの内面)からさらに距離rだけハブ53の外側にオフセットした位置に配置されている。
【0062】
したがって、
図9(a)の構成と同様に、ワイヤ30(30a,30b)は、仮想平面80に対して、常に同じ側からワイヤ送出部62に進入する。そのため、カールアーム38を通過したワイヤ30(30a,30b)の先端は、仮想平面80に対して、常に同じ側に振れた状態で送出される。
【0063】
そのため、
図9(b)に示したのと同様に、カールガイド60(非図示)を、カールアーム38に対して、ワイヤリール52のオフセット方向とは反対方向にオフセットして配置することによって、同じ側に振れた状態で送出されたワイヤ30(30a,30b)の先端を確実に拾い込むことができ、これによって、実施例1と同様の効果を奏する。
【0064】
次に、本発明に係る結束機の具体的な第2の実施形態について、図面を参照して説明する。
【実施例2】
【0065】
本実施例2に示す鉄筋結束機10b(結束機)は、実施例1で示した鉄筋結束機10aとほぼ同じ構造を有しており、仮想平面80に対する、ワイヤリール52のオフセット位置のみが異なっている。以下、実施例2における鉄筋結束機10bの作用について説明する。
【0066】
図10(a),
図10(b)は、それぞれ、実施例2における鉄筋結束機10bのワイヤリール52とカールアーム38とカールガイド60の位置関係を示す図である。なお、
図10(a),
図10(b)は、それぞれ、
図9(a),
図9(b)と対応するように描いている。
【0067】
図10(a)に示すように、鉄筋結束機10bにおいて、仮想平面80は、第2フランジ部54bの内側面と同位置であるハブの軸端と重なる位置に設置されている。すなわち、ワイヤリール52のハブ53の中央位置である仮想切断面84(Y−Y’線を含む面)は、仮想平面80に対して、ワイヤリール52の軸心(Z−Z’線)においてZ方向にオフセットした位置に配置されている。そのオフセット量は、仮想切断面84に対して、距離p2に相当する。
【0068】
また、
図10(b)に示すように、カールガイド60は、捩りフック26の先端軸100の中心位置、すなわち、
図10(a)に示したカールアーム38に対して、ワイヤリール52のオフセット方向とは反対方向にオフセットして配置されている。
【0069】
すなわち、
図10(a)にあっては、ワイヤリール52から送出されるワイヤ30aが仮想平面80となす角度θ1と、ワイヤ30bが仮想平面80となす角度θ2がともに負になるため、実施例1で説明した鉄筋結束機10aと同様に、ワイヤ30(30a,30b)がカールアーム38に送り込まれる際に、仮想平面80に対して同じ方向の巻癖がつけられる。したがって、ワイヤ30(30a,30b)は同じ側に振れた状態でカールアーム38から送出される。そのため、カールガイド60は、ワイヤ30(30a,30b)の先端を確実に拾い込むことができる。
【0070】
以上説明したように、このように構成された実施例1の鉄筋結束機10a(結束機)および実施例2の鉄筋結束機10b(結束機)によれば、塑性変形されるワイヤ30がカールアーム38内において形作る円弧が形成する仮想平面80が、ワイヤリール52の巻心部中央Oをハブ53の軸心(Z−Z’線)と略直交する方向に切断したときの仮想切断面84に対してオフセットした位置に配置されるため、カールアーム38内でカールされたワイヤ30先端の、仮想平面80に直交する方向に対する空間的なばらつきの方向を一定の範囲内に収めることができる。したがって、カールされたワイヤ30の先端部を拾い込むカールガイド60の小型化を図ることができ、これによって鉄筋結束機10a,10b(結束機)の小型化を図ることができる。
【0071】
また、実施例1の鉄筋結束機10a(結束機)および実施例2の鉄筋結束機10b(結束機)によれば、仮想平面80を、ハブ53の軸方向端部をハブ53の軸心(Z−Z’線)と略直交する方向に切断したときの仮想切断面82と略同一に配置したため、カールアーム38によってカールされたワイヤ30先端の、仮想平面80に直交する方向に対する空間的なばらつきの方向をより一層狭い範囲に収めることができる。したがって、カールされたワイヤ30の先端部を拾い込むカールガイド60のより一層の小型化を図ることができる。
【0072】
そして、実施例1の鉄筋結束機10a(結束機)および実施例2の鉄筋結束機10b(結束機)によれば、複数のワイヤ30a,30bが一組とされてほぼ同時に送出されるため、各ワイヤ30a,30b先端の、仮想平面80に直交する方向に対する空間的なばらつきの方向を揃えて、なおかつ、そのばらつきを狭い範囲に収めることができる。したがって、カールガイド60を必要以上に幅広く設計する必要がないため、鉄筋結束機10a,10b(結束機)の小型化を図ることができる。さらに、太いワイヤを使用する必要がないため、ワイヤ30a,30bをカットする際に必要な捩りモータ28の負荷を小さく抑えることができ、鉄筋結束機10a,10b(結束機)の小型化、省電力化を図ることができる。
【0073】
なお、実施例1,2にあっては、ワイヤリール52は、結束機本体20の下方側に備えられる構成として説明したが、これは、ワイヤリール52を結束機本体20の後方側に設けた構成としても同様の作用効果を奏する。
【0074】
また、実施例1,2にあっては、ワイヤ30(30a,30b)を1つのワイヤ送出部62で送出して1つのカールアーム38で円弧状の巻癖をつける構成としたが、この部分は、各ワイヤ30a,30bをそれぞれ異なるワイヤ送出部で送出する構成としてもよく、さらに、各ワイヤ30a,30bにそれぞれ異なるカールアームで巻癖をつける構成としても同様の作用効果を奏する。
【0075】
さらに、実施例1,2にあっては、ワイヤ30(30a,30b)は2本1組で同時に送出されて鉄筋22(被結束体)を結束する構成としたが、ワイヤ30は1本ずつ送出される構成としても同様の作用効果を奏する。
【0076】
また、実施例1にあっては、カールアーム38は第1壁部40aおよび第2壁部40bをそれぞれ内側面として形成されるものとしたが、これは、ワイヤ30(30a,30b)が通過することができ、壁面と同様にワイヤ30の幅方向を規制するワイヤ通路36aが形成することができるのであれば壁面に限定されるものではない。すなわち、壁部の代わりに、例えば離散的に配置された複数のローラを側面とするワイヤ通路であってもよい。
【0077】
以上、本発明の実施例を図面により詳述したが、実施例は本発明の例示にしか過ぎないものであるため、本発明は実施例の構成にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、本発明に含まれることは勿論である。