【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は上記した実施形態や下記の実施例は一例であって、本願の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変形が可能である。
【0040】
[試料米粉の調整]
以下の5品種からなる試料米粉A〜Eを使用してパンの製造、パンの測定、アミロペクチンの鎖構成の構造解析を行った。なお、試料米粉Aはツクシホマレの米粉(澱粉損傷度2.8%、平均粒径46μm)、試料米粉Bはホシユタカの米粉(澱粉損傷度2.7%、平均粒径46μm)、試料米粉Cは品種改良米の米粉(品種名未定、澱粉損傷度2.4%、平均粒径43μm)、試料米粉Dはミズホチカラの米粉(澱粉損傷度2.7%、平均粒径45μm)、試料米粉Eはヒノヒカリの米粉(澱粉損傷度2.6%、平均粒径44μm)である。なお、試料米粉の澱粉損傷度と平均粒径は、試料米粉のパンのボリューム、やわらかさへの影響が少なくなるように同程度とした。試料米粉の澱粉損傷度と平均粒径の測定方法を以下に示す。
【0041】
(澱粉損傷度の測定方法)
澱粉損傷度の測定方法として、Starch Damage Assay Kit(Megazyme社製)を使用して、米粉の澱粉損傷度を測定した。先ず、試験管に米粉100mgを秤り取り、α−アミラーゼ溶液(50U/mL)を1mL加え、これを40℃の環境下で10分間反応させた。次に、硫酸溶液(0.2%V/V)を8mL加えて反応を止めた後、3000rpmで5分間の遠心分離を行った。そして、遠心上清0.1mLを新しい試験管に分取し、これにアミログリコシダーゼ溶液(2U/mL)を0.1mL加えて、40℃の環境下で10分間反応させた。
【0042】
次に、4mLのGOPOD溶液(Total Starch Assay Kit付属のBottle3を水で1Lとした溶液に、Total Starch Assay Kit付属のBottle4を加えて溶解したもの)を加え、40℃の環境下で20分間反応させた。そして、反応溶液の吸光度について、波長510nmで測定した。この測定結果について、測定に用いたStarch Damage Assay Kitの取扱説明書に記載の下記式(1)を用いて、澱粉損傷度を算出した。なお、ブランクの吸光度は、遠心上清の代わりに超純水を0.1mL用いた以外は同様の処理を行って得た。澱粉損傷度(%)=(試料米粉の吸光度―ブランクの吸光度)×(150÷150μg/mLグルコース標準液の吸光度)×8.1 …(1)
【0043】
(平均粒度の測定方法)
平均粒度は、各試料米粉をレーザー回折式粒度分布測定装置(Mastersizer2000、Malvern社製)で測定した。平均粒径は、D[4、3]体積平均径を用いた。
【0044】
[実験1]
上記した試料米粉A〜Eをそれぞれ使用し、それぞれの配合量を、試料米粉410g、小麦グルテン90g、食塩9g、砂糖40g、パン酵母12.5g、油脂40g、水400gとしてパンを製造した。
【0045】
先ず、縦型パンミキサー(AM−20、株式会社愛工舎製作所製)にパン酵母と水を入れ、ホイッパーで撹拌した。次いで、試料米粉、小麦グルテン、食塩、砂糖を入れた後に、低速で3分間、さらにその後に中速で3分間ミキシングした。最後に、ミキシングした材料内に油脂を入れ、再び低速で3分間、そして中速で3〜5分間ミキシングし、パン用の生地を作製した。そして、このミキシング後の生地を250gずつ分割し、乾燥しないようにしつつ、室温で20分間一次発酵させた。この工程を試料米粉A〜Eのそれぞれについて行った。
【0046】
次に、製パン成型機(OSHIKIRI MQ、OSHIKIRI社製)を使用し、上記で製造した生地を山型パンになるように成形した。成形した生地をケースに入れて、38℃の温度と85%の湿度の環境下で60分間二次発酵させた。この発酵が終了した後、オーブン(TOOE STOVEN、ToKuRa社製)で上火、下火ともに210℃で、パワーを上火が2、下火を4にそれぞれ設定して、25分間焼成した。焼成したパンは、すぐに型から外し、室温で3時間放冷した。この放冷の後、ポリ袋に入れて密封保存した。密封保存した翌日に、パンのボリューム、及びやわらかさを測定した。
【0047】
(ボリュームとやわらかさの測定方法)
ボリュームの測定方法としては、非接触式レーザー体積・質量測定器(volscan profiler 600、Stable Micro Systems社製)で測定した。ボリュームの評価は、ベンチマークとしての小麦粉を用いた場合の一般的な体積(2000mLを超える程度)を考慮して、体積が1900mL以上であれば○(良)、1900mL未満且つ1800mL以上であれば△(可)、そして1800mL未満であれば×(不可)とした。ボリュームの測定結果を表1に示す。
【0048】
やわらかさは、焼成7日後まで測定した。やわらかさの測定方法は、パンを厚さ30mmの大きさにカットして、直径36mmのプランジャー(Texture Analyser、Stable Micro Systems社製)で10mm圧縮試験にて測定を行った。測定結果の評価は、10mm圧縮したときの荷重(g)を測定し、一般的な人がほとんど食感に差を感じない範囲の100g未満を◎(優)とし、100g以上150g未満を○(良)とし、150g以上200g未満を△(可)とし、そして200g以上を×(不可)とした。やわらかさの測定結果を表1に示す。
【0049】
ボリュームとやわらかさの評価を基にして総合評価を行った。総合評価は、通常のパンの消費形態(製造後4日〜5日程度が賞味期限とされる場合が多い)を考慮して行った。その結果、試料米粉Aと試料米粉Dが良好であると評価した。総合評価の結果を表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
[実験2]
上記した試料米粉B、D及びEをそれぞれ使用し、それぞれの配合量を、試料米粉100g、食塩1.5g、砂糖8g、パン酵母1g、水100gとしたグルテンフリーのパンを製造した。
【0052】
先ず、ボウルに上記の材料をすべて投入し、ホイッパーで粉気がなくなるまで十分に撹拌して、バッター状の生地を作製した。その後、500mLビーカーに生地を160g投入し、ヘルシオAX−MX2(シャープ株式会社製)にて40℃でビーカーの目盛300mLになるまで発酵させた。発酵後、オーブン(Fine Oven DF62、yamato社製)で210℃の温度で焼成した。次いで、1時間放冷した後に評価した。ボリュームは、実験1と同じ非接触式レーザー体積・質量測定器で測定した。ボリュームの評価は、官能経験値による目視評価で行い、ボリューム感のあるものを○(良)とし、無いものを×(不可)と判断した。また、やわらかさとキメの細かさについても、官能経験値による目視及び触診評価で行い、やわらかさとキメの細かさのあるものを○(良)とし、無いものを×(不可)と判断した。また、それぞれの試料米粉を用いて製造したパンの写真を
図1に示す。これらの結果を表2に示す。
【0053】
ボリュームとやわらかさ・キメの細かさの評価を基にして総合評価を行った。総合評価の結果を表2に示す。グルテンフリーのパンについても、本発明の構成要素を満たす米粉(試料米粉D)を用いた場合に良好な結果が得られた。
【0054】
【表2】
【0055】
[澱粉の単位鎖長分布と見かけのアミロース含量の測定方法]
アミロースの見かけの含量と、澱粉の単位鎖長分布の測定について説明する。これらの測定に際しては、試料米粉5mgを90%ジメチルスルホキシド300μLに懸濁し、沸騰浴中で十分に加熱溶解した。これに等量のエタノールを加えて氷中で2時間冷却し、遠心分離(久保田商事株式会社製、モデル2700、3000rpm、4℃、10分間)して生じた沈殿を回収した。この操作を再度繰り返して試料米粉を脱脂した。この脱脂した試料米粉に超純水1240μLを加え、沸騰浴中で加熱溶解した後、酢酸緩衝液を終濃度10mMとなるように加え、pH3.5に調整した。これにPseudomonasイソアミラーゼを0.03U/mg基質となるように加え、45℃の温度環境下で16時間反応させた。そして、沸騰浴中で加熱して反応を停止させた後、遠心エバポレーターで乾固させた。
【0056】
枝切り試料の蛍光標識は、既報(Hanashiro et al., Carbohydr. Res.,337(2002),p.1211-1215)に従って行った。そして、乾固した試料に90%ジメチルスルホキシド55.5μLを加えて沸騰浴中で加熱した後、超純水44.5μLを加えてさらに加熱して試料米粉を完全に溶解させた。溶解させた試料溶液に2−アミノピリジン溶液(1gを760μLの濃塩酸に溶解したもの)100μLを加えて暗所下で60℃で1時間保持した後、シアノ水素化ホウ素ナトリウム溶液(52.9mgを100μLの超純水に溶解したもの)100μLを加えて同条件下で24時間保持して還元末端基を蛍光標識した。
【0057】
そして、蛍光標識した試料に83%ジメチルスルホキシド300μLを加えてフィルターろ過(孔径0.22μm)し、このろ液30μLをサイズ排除クロマトグラフィーに供した。ここで、このクロマトグラフ一式の構成は以下のとおりである。汎用デガッサ及び汎用HPLCポンプにカラム(昭和電工株式会社製、Shodex OHpak SB-G、OHpak SB-803 HQ、OHpak SB-802.5 HQ(2本)の計4本をこの順に直列に接続し50℃に保持)を接続し、カラム溶出液を蛍光検出器(日本分光株式会社製、FP−2020 Plus、励起波長315nm、測定波長400nm)、示差屈折計(日本分光株式会社製、RI−2031 Plus)の順に導入し、これらの検出器出力をクロマトデータ処理装置(日本分光株式会社製、Jasco-Borwin)により収集しクロマトグラムを得た。
【0058】
クロマトグラムは、ピークの溶出順に見かけのアミロース、短鎖、長鎖の3つの画分に分画した。この際、見かけのアミロース画分の溶出終了位置は屈折計出力によるクロマトグラムにおけるピークの谷の変曲点とし、長鎖画分の溶出終了位置は蛍光光度計出力によるクロマトグラムにおけるピークの谷の変曲点とした。これら3つの画分のそれぞれが溶出ピーク全体に占める割合を百分率により表した。屈折計によるクロマトグラムに関して求められた見かけのアミロース画分の百分率の値を、見かけのアミロース含量とした。
図2は、実験1及び実験2で用いた米粉の鎖長分布を示す図である。
【0059】
[アミロペクチンの単位鎖長分布と超長鎖含量の測定法]
試料米粉からのアミロペクチンの調製は既報(Takeda et al.,Carbohydr. Res., 148 (1986) 299-308)に従って行い、アミロペクチンの枝切りと蛍光標識、及び標識試料のサイズ排除クロマトグラフィーは、前述の澱粉を試料とする場合と同様に行った。ただし、澱粉を試料とした場合に見かけのアミロース画分とした画分を、アミロペクチンの場合には超長鎖画分とした(Hanashiro et al.,Plant Cell Physiol.,49(2008)、p.925-933)。屈折計によるクロマトグラムに関して求められた超長鎖(ELC)画分の百分率の値を、超長鎖(ELC)含量とした。
図3は、実験1及び実験2で用いた米粉に含まれるアミロペクチンの鎖長分布を示す図である。
【0060】
上記のようにして得られた見かけのアミロース含量、アミロペクチン中の超長鎖の含量、及び長鎖と短鎖の割合を表3に示す。
【0061】
【表3】
【0062】
以上より、試料米粉A,Dで好ましい結果が得られた。試料米粉A,Dのアミロース含量、アミロペクチンの超長鎖や短鎖と長鎖の割合より、アミロースの見かけの含量の範囲は15.9質量%以上、20.5質量%以下であり、アミロペクチンの超長鎖の範囲は2.6質量%以上、3.6質量%以下の範囲内であり、アミロペクチンの長鎖の質量%(T)に対する短鎖の質量%(S)の割合(S/T)の範囲は3以上、3.3以下であるということができる。こうした結果を踏まえたそれらの範囲としては、アミロースの見かけの含量の範囲は15質量%以上、30質量%以下、好ましくは15質量%以上、21質量%以下であり、アミロペクチンの超長鎖の範囲は2.5質量%以上、4質量%以下の範囲内であり、アミロペクチンの長鎖の質量%(T)に対する短鎖の質量%(S)の割合(S/T)の範囲は2.5以上、4以下、好ましくは3以上、3.4以下であるということができる。