特許第6566427号(P6566427)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6566427パン用米粉及びパン用ミックス粉の選択方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6566427
(24)【登録日】2019年8月9日
(45)【発行日】2019年8月28日
(54)【発明の名称】パン用米粉及びパン用ミックス粉の選択方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 13/047 20170101AFI20190819BHJP
   A21D 6/00 20060101ALI20190819BHJP
   A21D 10/00 20060101ALI20190819BHJP
   A23L 7/10 20160101ALI20190819BHJP
   A21D 13/00 20170101ALN20190819BHJP
   A21D 13/066 20170101ALN20190819BHJP
【FI】
   A21D13/047
   A21D6/00
   A21D10/00
   A23L7/10 Z
   !A21D13/00
   !A21D13/066
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-47920(P2017-47920)
(22)【出願日】2017年3月13日
(65)【公開番号】特開2018-148851(P2018-148851A)
(43)【公開日】2018年9月27日
【審査請求日】2017年5月30日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年9月14日福山大学において開催された一般社団法人日本応用糖質学会第65回応用糖質シンポジウムで発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000164689
【氏名又は名称】熊本製粉株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100117226
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 俊一
(72)【発明者】
【氏名】堅持 智博
(72)【発明者】
【氏名】松永 幸太郎
(72)【発明者】
【氏名】牛島 雄毅
(72)【発明者】
【氏名】陣野 和佳奈
(72)【発明者】
【氏名】花城 勲
【審査官】 太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−115197(JP,A)
【文献】 特開2013−172710(JP,A)
【文献】 特開2012−019742(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/087011(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0088647(US,A1)
【文献】 宮崎県工業技術センター・宮崎県食品開発センター研究報告,2012年 1月,No. 55,p. 79-82
【文献】 日本調理科学会大会研究発表要旨集,平成23年度日本調理科学会大会,A1a-10,https://doi.org/10.11402/ajscs.23.0.10.0
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D 2/00−13/00
A23L 7/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
AGRICOLA(STN)
FSTA(STN)
SCISEARCH(STN)
TOXCENTER(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボリュームとやわらかさを両立するパンを作るためのパン用米粉の選択方法であって、
複数の米粉を用い、アミロースの見かけの含量と、アミロペクチンの単位鎖長分布及び超長鎖含量とを測定する工程と、
測定した前記アミロースの見かけ含量が15.9質量%以上、20.5質量%以下の範囲内となり、測定した前記アミロペクチンの超長鎖が2.6質量%以上、3.6質量%以下の範囲内であり、且つ、長鎖の質量%(T)と短鎖の質量%(S)の割合(S/T)が3以上、3.3以下の範囲内となる米粉を前記パン用米粉として選択する工程と、を有する、ことを特徴とするパン用米粉の選択方法。
【請求項2】
請求項1に記載の選択方法で選択されたパン用米粉と、グルテンとを含む、パン用ミックス粉の選択方法。
【請求項3】
請求項1に記載の選択方法で選択されたパン用米粉を含み、グルテンを含まない、パン用ミックス粉の選択方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、玄米粉を含むパン用米粉、この米粉を含むパン用ミックス粉、及びこの米粉又はミックス粉を用いて製造されたパン並びにパンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食料自給率向上の一環として米の消費拡大を目的とした様々な取り組みが行われてきている。この取り組みの一つに米粉の用途拡大があり、餅や団子といった和菓子に使われる従来の米粉とは別に、パンや洋菓子といった新しい分野での利用が開発されている(特許文献1,2を参照)。
【0003】
しかし、米粉で製造されたパンは、小麦粉で製造された従来のパンと比較してボリュームが小さく、しかも硬くなりやすいという課題がある。こうした課題に対しては、例えば特許文献1では、米粉のパンのボリュームとやわらかさについてアミロース含量だけで検討されている。この検討によれば、アミロース含量が18%〜22%の「あきたこまち」や「コシヒカリ」等の普通品種からアミロース含量が23%以上の「越のかおり」や「モミロマン」等の高アミロース米を使用すること等で、歯切れの良い食感でかつ優れたボリュームとなる米粉パンを得ることができるとされている。また、非特許文献1では、アミロースの含量とパンの比容積との関係には高い相関があり、比容積が最大(ピーク)となるアミロース含量は25%前後と推定されることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−085513号公報
【特許文献2】特開2009−232800号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】高橋 誠、本間紀之、諸橋敬子、中村幸一、鈴木保宏、日本食品科学工学会誌、第56巻、第7号、394頁〜402頁(2009).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1等に記載された技術を含む現在の技術では、アミロース含量が多いほどボリュームは大きくなる反面、硬くなる傾向があり、やわらかさも期待する市場のニーズを適切に満たしているとは言えなかった。特許文献2にも、「アミロペクチン」に関する記載はあるものの、上記期待に応えることができるアミロペクチンの構造については記載も示唆もない。非特許文献1では、パンの比容積はアミロース含量と高い相関があることが報告されているが、アミロペクチンについては言及されていない。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、ボリュームが大きく、且つ、やわらかさもあるパンの製造を可能とする、玄米粉を含むパン用米粉、この米粉を含むパン用ミックス粉、及びこの米粉又はミックス粉を用いて製造されたパン並びにパンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者の研究によれば、異なる品種間の米粉で同程度のアミロース含量にもかかわらず、製造されたパンのボリュームややわらかさに差があることが認められた。言い換えれば、米粉で製造されるパンのボリュームとやわらかさは、アミロース含量だけに起因していないことを見出し、さらにこれを基に、アミロペクチンの構造(鎖構成)も影響していることを突きとめた上で本発明を完成するに至った。
【0009】
(1)本発明に係るパン用米粉は、見かけの含量が15質量%以上、30質量%以下の範囲内のアミロースと、超長鎖が2.5質量%以上、5.0質量%以下の範囲内であり、且つ、長鎖の質量%(T)と短鎖の質量%(S)の割合(S/T)が2.5以上、4以下の範囲内であるアミロペクチンと、を含むことを特徴とする。
【0010】
(2)本発明に係るパン用ミックス粉は、上記本発明に係る米粉を含むことを特徴とする。
【0011】
(3)本発明に係るパンは、上記本発明に係るパン用米粉又は上記本発明に係るパン用ミックス粉を用いて製造されたことを特徴とする。
【0012】
(4)本発明に係るパンの製造方法は、見かけの含量が15質量%以上、30質量%以下の範囲内のアミロースと、超長鎖が2.5質量%以上、5.0質量%以下の範囲内であり、且つ、長鎖の質量%(T)と短鎖の質量%(S)の割合(S/T)が2.5以上、4以下の範囲内であるアミロペクチンとを含む米粉をパン用米粉として選択する工程と、選択された前記パン用米粉を含むパン用ミックス粉を調製する工程と、調製されたパン用ミックス粉で米粉パンを得る工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、米粉を用いたパンであっても、ボリュームが大きく、それでいてやわらかい(パサつきの少ない)パンを得ることができる。また、本発明によれば、このパンを製造するための米粉及びミックス粉を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実験2において試料米粉B,D,Eを用いて製造したパンの写真である。
図2】実験1及び実験2で用いた米粉の鎖長分布を示す図である。
図3】実験1及び実験2で用いた米粉に含まれるアミロペクチンの鎖長分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係るパン用米粉、パン用ミックス粉及びパン並びにパンの製造方法について詳しく説明する。なお、本発明は、以下の実施形態や実施例だけに限定されず、その要旨を含む範囲を包含する。
【0016】
[パン用米粉]
本発明に係るパン用米粉は、見かけの含量が15質量%以上、30質量%以下の範囲内のアミロースと、超長鎖が2.5質量%以上、5.0質量%以下の範囲内であり、且つ、長鎖の質量%(T)と短鎖の質量%(S)の割合(S/T)が2.5以上、4以下の範囲内であるアミロペクチンとを含む。こうしたパン用米粉でパンを作ることにより、米粉を用いたパンであっても、ボリュームが大きく、それでいてやわらかい(パサつきの少ない)パンを得ることができる。
【0017】
本発明者は、いくつかの品種から米粉を作製し、その米粉に含まれる見かけのアミロース含量とアミロペクチンの構造(鎖構成)とに着目し、パンのボリュームとやわらかさには、米粉に含まれる見かけのアミロース含量だけでなく、アミロペクチンの鎖構成も大きく影響していることを突きとめた。そして、それらを特定することによって、ボリュームとやわらかさの両方を実現したパンを作ることができた。
【0018】
以下、本発明の各構成要素を説明する。
【0019】
(米粉)
米粉は、パンの原料となる粉であって、米を製粉して得ることができる。米には玄米も含まれるものとする。なお、玄米を製粉した玄米粉は、米粉の成分に加えて米ぬか成分も含まれており、そうした米ぬか成分の割合は、一般的には、玄米粉中に約10質量%程度含まれている。なお、米粉を得る方法としては、公知の製粉方法や粉砕機を用いることができ、粉砕機としては、例えば高速回転衝撃式粉砕機、気流粉砕機、又は胴搗式粉砕機等を挙げることができる。
【0020】
適用可能な米の品種については、後述する質量割合等の条件を満たす限りにおいて、種々の品種の米を適用することができる。そうした条件を満たす品種の一例としては、例えば後述の実験1及び実験2で評価されたツクシホマレやミズホチカラ、又は同様の効果を奏する他の品種を挙げることができる。
【0021】
(アミロース)
アミロースは、多数のα−グルコース分子がグリコシド結合によって重合し、直鎖状になった高分子である。本発明では、アミロースは、米粉中に、見かけの含量で15質量%以上、30質量%以下の範囲内で含まれる。アミロースの見かけの含量が15質量%未満では、最終的に得られたパンのボリューム感が著しく減退する傾向があった。アミロースの見かけの含量が30質量%を超えると、最終的に得られたパンはやわらかさに欠けて硬く、パサつきが顕著になる傾向がある。なお、質量%とは、米粉に含まれる澱粉中の質量割合を言う。
【0022】
「見かけの含量」とは、後述するHPLC(液体高速クロマトグラフィ)で米粉を成分分析した場合に、アミロース相当として検出される量を言う。すなわち、アミロースの分子構造は長い直鎖状であって、後述するアミロペクチンの超長鎖と構造が近く、分析時にはこのアミロペクチンの超長鎖もアミロースとして検出されてくる。ここでは、アミロペクチンの超長鎖も含まれた形で検出されたアミロース含量を「見かけの含量」として定義している。なお、実際のアミロース含量を算出するには、アミロペクチンの含量を別途分析した後に、その分析したアミロペクチンの含量を「見かけの含量」から差し引けばよい。
【0023】
本発明では、米粉に含まれるアミロースの見かけの含量を特定しているが、米粉中の澱粉を基準にしてアミロースの見かけの含量を特定してもよい。すなわち、米粉の約8割が澱粉であるため、例えば澱粉が米粉の8割を占める場合には、「澱粉中の見かけのアミロース含量は12質量%以上、24質量%以下の範囲内」ということができる。なお、米粉として玄米粉を用いた場合には、玄米粉を基準にしてアミロースの見かけの含量を特定することもできる。その場合、玄米粉中の米ぬか成分の割合は約10質量%であるため、「玄米粉中の見かけのアミロース含量は13.5質量%以上、27質量%以下の範囲内」ということができる。
【0024】
(アミロペクチン)
アミロペクチンは、多数のα−グルコース分子がグリコシド結合によって重合しているが、アミロースと異なって枝分かれの多い構造になった高分子である。アミロペクチンは、この枝分かれの仕方によって、短鎖、長鎖及び超長鎖といった単位鎖が結合した鎖状構造を持つ高分子となっている。
【0025】
アミロペクチンの「短鎖」とは、アミロペクチン分子を構成する単位鎖のうち、クラスター1単位の形成に関与する、短い単位鎖のことである。枝切りした澱粉(又はアミロペクチン)の鎖長分布の測定では、最も低分子側でかつ最も高いピークとして検出される単位鎖のグループであり、そのピークの重合度は10前後である。
【0026】
アミロペクチンの「長鎖」とは、アミロペクチン分子を構成する単位鎖のうち、2個又は3個のクラスター間をまたいで、それらの連結に関与する、長い単位鎖のことである。短鎖に比べ含量は少なく、枝切りした澱粉(又はアミロペクチン)の鎖長分布の測定では、短鎖と超長鎖の中間の分子量領域に溶出されるピークとして検出される単位鎖のグループであり、ピークの重合度は40前後である。
【0027】
アミロペクチンの「超長鎖」とは、アミロペクチン分子を構成する単位鎖の大部分を占める短鎖及び長鎖に比べ、非常に長い鎖長を持つ単位鎖のことである。短鎖や長鎖に比べて含量は最も少なく、枝切りした澱粉(又はアミロペクチン)の鎖長分布の測定では、最も高分子側に溶出するピークとして検出される、重合度約100以上の単位鎖である。
【0028】
本発明では、特にアミロペクチンの超長鎖の質量%、及び長鎖の質量%(T)と短鎖の質量%(S)の割合(S/T)を特定の範囲に制限することによって、米粉で製造したパンであっても、大きなボリュームとやわらかさを両立できることを突きとめた。すなわち、米粉に含まれるアミロペクチンは、超長鎖が2.5質量%以上、5.0質量%以下の範囲内であり、且つ、長鎖の質量%(T)と短鎖の質量%(S)の割合(S/T)が2.5以上、4以下の範囲内であることが重要なパラメータとなっている。
【0029】
(超長鎖)
アミロペクチンの超長鎖は、2.5質量%以上、5.0質量%以下の範囲内である。超長鎖が2.5質量%未満では、小麦粉を用いて製造したパンに匹敵するだけの大きなボリュームを得ることができないことがある。超長鎖が5.0質量%を超えると、パンのボリュームも小さく、やわらかさが欠け、硬くパサつきが激しくなることがある。
【0030】
(長鎖と短鎖)
アミロペクチンの長鎖の質量%(T)と短鎖の質量%(S)の割合(S/T)は、2.5以上、4以下の範囲内である。アミロペクチンの長鎖の質量%に対する短鎖の質量%の割合(S/T)が2.5未満の場合は、やわらかさに欠けて、硬く、パサつきが激しくなることがある。一方、その質量%の割合(S/T)が4を超えると、小麦粉を用いて製造したパンに匹敵するだけの大きなボリュームを得ることができないことがある。
【0031】
以上のように、本発明では、米粉中の見かけのアミロース含量と、アミロペクチンの構造(鎖構成)とを上記のように特定することで、小麦粉を用いたパンに匹敵するだけの大きなボリュームを有しつつ、米粉を用いたパンにおいて欠点となる硬さ(パサつき)を解消するといった二律背反の事項を高次元で両立させている。
【0032】
なお、米粉の澱粉損傷度と平均粒径は、特に限定されないが、澱粉損傷度が5%以下であり、平均粒径が約5μm以上、100μm以下であることが好ましい。澱粉損傷度と平均粒径をこうした範囲とすることにより、米粉を使用したパンのボリューム及びやわらかさをより好ましいものとすることができる。
【0033】
[パン用ミックス粉]
本発明に係るパン用ミックス粉は、上記のパン用米粉を含有している。なお、上記のパン用米粉の他に、パン用ミックス粉に添加される公知の物質を公知の割合で含んでいてもよい。例えば、砂糖、塩、油脂、イースト等のパン用酵母、グルテン、澱粉、膨張剤、増粘多糖類、粉乳等を適宜添加してもよい。また、グルテンを含まないグルテンフリーのミックス粉であってもよい。
【0034】
[パン及びその製造方法]
本発明に係るパンは、上記のパン用米粉又はパン用ミックス粉を使用して公知の方法で製造される。その製造方法は、パン用米粉を選択する工程と、パン用ミックス粉を調製する工程と、調製されたパン用ミックス粉で米粉パンを得る工程とを有する。
【0035】
パン用米粉を選択する工程は、米粉の中から、見かけの含量が15質量%以上、30質量%以下の範囲内のアミロースと、超長鎖が2.5質量%以上、5.0質量%以下の範囲内であり、且つ、長鎖の質量%(T)と短鎖の質量%(S)の割合(S/T)が2.5以上、4以下の範囲内であるアミロペクチンとを含む米粉をパン用米粉として選択する工程である。米粉は、公知の米粉であってもよいし、開発中又は今後開発される米粉であってもよい。これらの米粉の中から上記条件を満たす米粉をパン用米粉として選択する。
【0036】
パン用ミックス粉を調製する工程は、前記パン用米粉に、砂糖、塩、油脂、イースト等のパン用酵母等の材料を添加し、ミキサーで混合してパン用ミックス粉を調製する工程である。
【0037】
米粉パンを得る工程は、調製された前記パン用ミックス粉で米粉パンを得る工程である。具体的には、パンは、前記パン用米粉に、砂糖、塩、油脂、イースト等のパン用酵母、水等の材料を添加する、もしくはパン用ミックス粉に水等を添加し、ミキサーで混合しドウ又はバッター状の生地を用いて一次発酵させ、成形した後にさらに二次発酵させ、その後に焼成して得ることができる。なお、パン用ミックス粉にパン用酵母等が含まれている場合には、パン用ミックス粉と水とを混合するだけで発酵が進むため、簡易に本発明に係るパンを製造することが可能となる。
【0038】
なお、調製されたパン用ミックス粉やパン用バッターには各種の材料が含まれているので、ミックス粉やバッターの中から米粉を取り出し、その米粉を分析し、その分析結果が上記本発明に係るパン用米粉の構成要素を満たせば、そのミックス粉やバッターは本発明に係るミックス粉又はバッターであると言える。一方、そのミックス粉やバッターで製造したパンは、パン用米粉だけを取り出すことができなくなっており、しかも各種の材料成分を含む。したがって、得られたパンが、上記本発明の特徴を有するパン用米粉を用いて製造されたものであるか否かを正確に判断することは不可能ではないにしても容易というわけでもなく、よって、得られたパンには、本発明の特徴的な構造又は特性により直接特定することが不可能であるか又はおよそ実際的でないという事情が存在するものと言える。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は上記した実施形態や下記の実施例は一例であって、本願の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変形が可能である。
【0040】
[試料米粉の調整]
以下の5品種からなる試料米粉A〜Eを使用してパンの製造、パンの測定、アミロペクチンの鎖構成の構造解析を行った。なお、試料米粉Aはツクシホマレの米粉(澱粉損傷度2.8%、平均粒径46μm)、試料米粉Bはホシユタカの米粉(澱粉損傷度2.7%、平均粒径46μm)、試料米粉Cは品種改良米の米粉(品種名未定、澱粉損傷度2.4%、平均粒径43μm)、試料米粉Dはミズホチカラの米粉(澱粉損傷度2.7%、平均粒径45μm)、試料米粉Eはヒノヒカリの米粉(澱粉損傷度2.6%、平均粒径44μm)である。なお、試料米粉の澱粉損傷度と平均粒径は、試料米粉のパンのボリューム、やわらかさへの影響が少なくなるように同程度とした。試料米粉の澱粉損傷度と平均粒径の測定方法を以下に示す。
【0041】
(澱粉損傷度の測定方法)
澱粉損傷度の測定方法として、Starch Damage Assay Kit(Megazyme社製)を使用して、米粉の澱粉損傷度を測定した。先ず、試験管に米粉100mgを秤り取り、α−アミラーゼ溶液(50U/mL)を1mL加え、これを40℃の環境下で10分間反応させた。次に、硫酸溶液(0.2%V/V)を8mL加えて反応を止めた後、3000rpmで5分間の遠心分離を行った。そして、遠心上清0.1mLを新しい試験管に分取し、これにアミログリコシダーゼ溶液(2U/mL)を0.1mL加えて、40℃の環境下で10分間反応させた。
【0042】
次に、4mLのGOPOD溶液(Total Starch Assay Kit付属のBottle3を水で1Lとした溶液に、Total Starch Assay Kit付属のBottle4を加えて溶解したもの)を加え、40℃の環境下で20分間反応させた。そして、反応溶液の吸光度について、波長510nmで測定した。この測定結果について、測定に用いたStarch Damage Assay Kitの取扱説明書に記載の下記式(1)を用いて、澱粉損傷度を算出した。なお、ブランクの吸光度は、遠心上清の代わりに超純水を0.1mL用いた以外は同様の処理を行って得た。澱粉損傷度(%)=(試料米粉の吸光度―ブランクの吸光度)×(150÷150μg/mLグルコース標準液の吸光度)×8.1 …(1)
【0043】
(平均粒度の測定方法)
平均粒度は、各試料米粉をレーザー回折式粒度分布測定装置(Mastersizer2000、Malvern社製)で測定した。平均粒径は、D[4、3]体積平均径を用いた。
【0044】
[実験1]
上記した試料米粉A〜Eをそれぞれ使用し、それぞれの配合量を、試料米粉410g、小麦グルテン90g、食塩9g、砂糖40g、パン酵母12.5g、油脂40g、水400gとしてパンを製造した。
【0045】
先ず、縦型パンミキサー(AM−20、株式会社愛工舎製作所製)にパン酵母と水を入れ、ホイッパーで撹拌した。次いで、試料米粉、小麦グルテン、食塩、砂糖を入れた後に、低速で3分間、さらにその後に中速で3分間ミキシングした。最後に、ミキシングした材料内に油脂を入れ、再び低速で3分間、そして中速で3〜5分間ミキシングし、パン用の生地を作製した。そして、このミキシング後の生地を250gずつ分割し、乾燥しないようにしつつ、室温で20分間一次発酵させた。この工程を試料米粉A〜Eのそれぞれについて行った。
【0046】
次に、製パン成型機(OSHIKIRI MQ、OSHIKIRI社製)を使用し、上記で製造した生地を山型パンになるように成形した。成形した生地をケースに入れて、38℃の温度と85%の湿度の環境下で60分間二次発酵させた。この発酵が終了した後、オーブン(TOOE STOVEN、ToKuRa社製)で上火、下火ともに210℃で、パワーを上火が2、下火を4にそれぞれ設定して、25分間焼成した。焼成したパンは、すぐに型から外し、室温で3時間放冷した。この放冷の後、ポリ袋に入れて密封保存した。密封保存した翌日に、パンのボリューム、及びやわらかさを測定した。
【0047】
(ボリュームとやわらかさの測定方法)
ボリュームの測定方法としては、非接触式レーザー体積・質量測定器(volscan profiler 600、Stable Micro Systems社製)で測定した。ボリュームの評価は、ベンチマークとしての小麦粉を用いた場合の一般的な体積(2000mLを超える程度)を考慮して、体積が1900mL以上であれば○(良)、1900mL未満且つ1800mL以上であれば△(可)、そして1800mL未満であれば×(不可)とした。ボリュームの測定結果を表1に示す。
【0048】
やわらかさは、焼成7日後まで測定した。やわらかさの測定方法は、パンを厚さ30mmの大きさにカットして、直径36mmのプランジャー(Texture Analyser、Stable Micro Systems社製)で10mm圧縮試験にて測定を行った。測定結果の評価は、10mm圧縮したときの荷重(g)を測定し、一般的な人がほとんど食感に差を感じない範囲の100g未満を◎(優)とし、100g以上150g未満を○(良)とし、150g以上200g未満を△(可)とし、そして200g以上を×(不可)とした。やわらかさの測定結果を表1に示す。
【0049】
ボリュームとやわらかさの評価を基にして総合評価を行った。総合評価は、通常のパンの消費形態(製造後4日〜5日程度が賞味期限とされる場合が多い)を考慮して行った。その結果、試料米粉Aと試料米粉Dが良好であると評価した。総合評価の結果を表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
[実験2]
上記した試料米粉B、D及びEをそれぞれ使用し、それぞれの配合量を、試料米粉100g、食塩1.5g、砂糖8g、パン酵母1g、水100gとしたグルテンフリーのパンを製造した。
【0052】
先ず、ボウルに上記の材料をすべて投入し、ホイッパーで粉気がなくなるまで十分に撹拌して、バッター状の生地を作製した。その後、500mLビーカーに生地を160g投入し、ヘルシオAX−MX2(シャープ株式会社製)にて40℃でビーカーの目盛300mLになるまで発酵させた。発酵後、オーブン(Fine Oven DF62、yamato社製)で210℃の温度で焼成した。次いで、1時間放冷した後に評価した。ボリュームは、実験1と同じ非接触式レーザー体積・質量測定器で測定した。ボリュームの評価は、官能経験値による目視評価で行い、ボリューム感のあるものを○(良)とし、無いものを×(不可)と判断した。また、やわらかさとキメの細かさについても、官能経験値による目視及び触診評価で行い、やわらかさとキメの細かさのあるものを○(良)とし、無いものを×(不可)と判断した。また、それぞれの試料米粉を用いて製造したパンの写真を図1に示す。これらの結果を表2に示す。
【0053】
ボリュームとやわらかさ・キメの細かさの評価を基にして総合評価を行った。総合評価の結果を表2に示す。グルテンフリーのパンについても、本発明の構成要素を満たす米粉(試料米粉D)を用いた場合に良好な結果が得られた。
【0054】
【表2】
【0055】
[澱粉の単位鎖長分布と見かけのアミロース含量の測定方法]
アミロースの見かけの含量と、澱粉の単位鎖長分布の測定について説明する。これらの測定に際しては、試料米粉5mgを90%ジメチルスルホキシド300μLに懸濁し、沸騰浴中で十分に加熱溶解した。これに等量のエタノールを加えて氷中で2時間冷却し、遠心分離(久保田商事株式会社製、モデル2700、3000rpm、4℃、10分間)して生じた沈殿を回収した。この操作を再度繰り返して試料米粉を脱脂した。この脱脂した試料米粉に超純水1240μLを加え、沸騰浴中で加熱溶解した後、酢酸緩衝液を終濃度10mMとなるように加え、pH3.5に調整した。これにPseudomonasイソアミラーゼを0.03U/mg基質となるように加え、45℃の温度環境下で16時間反応させた。そして、沸騰浴中で加熱して反応を停止させた後、遠心エバポレーターで乾固させた。
【0056】
枝切り試料の蛍光標識は、既報(Hanashiro et al., Carbohydr. Res.,337(2002),p.1211-1215)に従って行った。そして、乾固した試料に90%ジメチルスルホキシド55.5μLを加えて沸騰浴中で加熱した後、超純水44.5μLを加えてさらに加熱して試料米粉を完全に溶解させた。溶解させた試料溶液に2−アミノピリジン溶液(1gを760μLの濃塩酸に溶解したもの)100μLを加えて暗所下で60℃で1時間保持した後、シアノ水素化ホウ素ナトリウム溶液(52.9mgを100μLの超純水に溶解したもの)100μLを加えて同条件下で24時間保持して還元末端基を蛍光標識した。
【0057】
そして、蛍光標識した試料に83%ジメチルスルホキシド300μLを加えてフィルターろ過(孔径0.22μm)し、このろ液30μLをサイズ排除クロマトグラフィーに供した。ここで、このクロマトグラフ一式の構成は以下のとおりである。汎用デガッサ及び汎用HPLCポンプにカラム(昭和電工株式会社製、Shodex OHpak SB-G、OHpak SB-803 HQ、OHpak SB-802.5 HQ(2本)の計4本をこの順に直列に接続し50℃に保持)を接続し、カラム溶出液を蛍光検出器(日本分光株式会社製、FP−2020 Plus、励起波長315nm、測定波長400nm)、示差屈折計(日本分光株式会社製、RI−2031 Plus)の順に導入し、これらの検出器出力をクロマトデータ処理装置(日本分光株式会社製、Jasco-Borwin)により収集しクロマトグラムを得た。
【0058】
クロマトグラムは、ピークの溶出順に見かけのアミロース、短鎖、長鎖の3つの画分に分画した。この際、見かけのアミロース画分の溶出終了位置は屈折計出力によるクロマトグラムにおけるピークの谷の変曲点とし、長鎖画分の溶出終了位置は蛍光光度計出力によるクロマトグラムにおけるピークの谷の変曲点とした。これら3つの画分のそれぞれが溶出ピーク全体に占める割合を百分率により表した。屈折計によるクロマトグラムに関して求められた見かけのアミロース画分の百分率の値を、見かけのアミロース含量とした。図2は、実験1及び実験2で用いた米粉の鎖長分布を示す図である。
【0059】
[アミロペクチンの単位鎖長分布と超長鎖含量の測定法]
試料米粉からのアミロペクチンの調製は既報(Takeda et al.,Carbohydr. Res., 148 (1986) 299-308)に従って行い、アミロペクチンの枝切りと蛍光標識、及び標識試料のサイズ排除クロマトグラフィーは、前述の澱粉を試料とする場合と同様に行った。ただし、澱粉を試料とした場合に見かけのアミロース画分とした画分を、アミロペクチンの場合には超長鎖画分とした(Hanashiro et al.,Plant Cell Physiol.,49(2008)、p.925-933)。屈折計によるクロマトグラムに関して求められた超長鎖(ELC)画分の百分率の値を、超長鎖(ELC)含量とした。図3は、実験1及び実験2で用いた米粉に含まれるアミロペクチンの鎖長分布を示す図である。
【0060】
上記のようにして得られた見かけのアミロース含量、アミロペクチン中の超長鎖の含量、及び長鎖と短鎖の割合を表3に示す。
【0061】
【表3】
【0062】
以上より、試料米粉A,Dで好ましい結果が得られた。試料米粉A,Dのアミロース含量、アミロペクチンの超長鎖や短鎖と長鎖の割合より、アミロースの見かけの含量の範囲は15.9質量%以上、20.5質量%以下であり、アミロペクチンの超長鎖の範囲は2.6質量%以上、3.6質量%以下の範囲内であり、アミロペクチンの長鎖の質量%(T)に対する短鎖の質量%(S)の割合(S/T)の範囲は3以上、3.3以下であるということができる。こうした結果を踏まえたそれらの範囲としては、アミロースの見かけの含量の範囲は15質量%以上、30質量%以下、好ましくは15質量%以上、21質量%以下であり、アミロペクチンの超長鎖の範囲は2.5質量%以上、4質量%以下の範囲内であり、アミロペクチンの長鎖の質量%(T)に対する短鎖の質量%(S)の割合(S/T)の範囲は2.5以上、4以下、好ましくは3以上、3.4以下であるということができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の米粉、玄米粉を含むパン用米粉、この米粉を含むパン用ミックス粉、及びこの米粉又はミックス粉を用いて製造されたパン並びにパンの製造方法は、小麦粉で製造したパンに匹敵するだけの大きなボリュームとやわらかさを実現でき、広く食品産業等に利用できる。
図1
図2
図3