特許第6566432号(P6566432)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6566432定トルク機構、時計用ムーブメント及び時計
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6566432
(24)【登録日】2019年8月9日
(45)【発行日】2019年8月28日
(54)【発明の名称】定トルク機構、時計用ムーブメント及び時計
(51)【国際特許分類】
   G04B 15/10 20060101AFI20190819BHJP
【FI】
   G04B15/10
【請求項の数】11
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2018-109795(P2018-109795)
(22)【出願日】2018年6月7日
【審査請求日】2018年6月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142837
【弁理士】
【氏名又は名称】内野 則彰
(74)【代理人】
【識別番号】100166305
【弁理士】
【氏名又は名称】谷川 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100171251
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】森 裕一
(72)【発明者】
【氏名】藤枝 久
【審査官】 吉田 久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−194963(JP,A)
【文献】 スイス国特許発明第296060(CH,A)
【文献】 特開2015−72254(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0088918(US,A1)
【文献】 特開2016−57111(JP,A)
【文献】 特開2014−202604(JP,A)
【文献】 実公昭46−21505(JP,Y2)
【文献】 特開2014−174118(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/109004(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 1/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源からの動力によって第1軸線回りに回転するキャリアと、
前記キャリアに自転可能に支持され、第2軸線回りに自転しつつ、前記第1軸線回りに公転する遊星歯車と、
前記キャリアの回転によって動力が補充される定力ばねと、
前記定力ばねからの動力によって回転し、脱進機に前記定力ばねの動力を伝える定力車と、
前記定力車の回転に同期して前記第1軸線回りの第1方向に回転する同期回転部と、
前記同期回転部の回転に伴って前記第1方向に回転するとともに前記遊星歯車に係脱可能とされ、前記遊星歯車の回転軌跡内で前記遊星歯車に係合して前記遊星歯車の自転を規制した後、前記同期回転部に対して変位して前記回転軌跡から退避可能な係合爪と、
を備えることを特徴とする定トルク機構。
【請求項2】
前記係合爪は、前記同期回転部に対して前記第1方向に沿う方向に変位して前記回転軌跡から退避する、
ことを特徴とする請求項1に記載の定トルク機構。
【請求項3】
前記係合爪を前記回転軌跡の内側に向けて直接的または間接的に付勢するばね部をさらに備える、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の定トルク機構。
【請求項4】
前記係合爪を前記同期回転部に対して回転可能に支持し、前記ばね部とは別体で設けられたレバー体をさらに備える、
ことを特徴とする請求項3に記載の定トルク機構。
【請求項5】
前記係合爪は、前記ばね部に支持されている、
ことを特徴とする請求項3に記載の定トルク機構。
【請求項6】
前記同期回転部は、前記遊星歯車に係合した前記係合爪の前記同期回転部に対する前記第1軸線回りの第2方向に沿う方向への変位を規制する第1規制部を備える、
ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の定トルク機構。
【請求項7】
前記同期回転部は、前記回転軌跡から退避した前記係合爪の前記同期回転部に対する前記第1方向に沿う方向への変位を規制する第2規制部を備える、
ことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の定トルク機構。
【請求項8】
前記係合爪は、前記同期回転部に対して前記第1軸線回りに揺動可能に設けられている、
ことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の定トルク機構。
【請求項9】
前記係合爪は、前記同期回転部に対して前記第1軸線及び前記第2軸線とは異なる第3軸線回りに揺動可能に設けられている、
ことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の定トルク機構。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の定トルク機構を備えることを特徴とする時計用ムーブメント。
【請求項11】
請求項10に記載の時計用ムーブメントを備えることを特徴とする時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定トルク機構、時計用ムーブメント及び時計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に機械式時計において、香箱車から脱進機に伝えられるトルク(動力)がぜんまいの巻き解けに応じて変動してしまうと、トルクの変動に対応しててんぷの振り角が変化して、時計の歩度(時計の遅れ或いは進みの度合い)の変化を招いてしまう。そこで、脱進機に伝えられるトルクの変動を抑制するため、香箱車から脱進機への動力伝達経路に定トルク機構を設けることが知られている。
【0003】
この種の定トルク機構としては様々なタイプのものが提案されており、例えば周期制御に着目した場合、カム方式、輪列方式及び遊星車方式の3つの方式に主に大別される。
カム方式の定トルク機構は、例えば脱進機側輪列に接続されたカムに係合すると共にカムの回転に対応して揺動するフォロア或いはフォークを有し、フォロア或いはフォークに設けられた係脱爪を動力源側輪列に接続された脱進車に周期的に係脱させることで、係脱周期を制御する。これにより、動力源側輪列と脱進機側輪列との間の定トルクばねを巻き上げることが可能とされている。
【0004】
輪列方式の定トルク機構は、動力源側輪列と脱進機側輪列とを差動機構で接続し、ストップ車に係脱する係脱爪をストップ車の軌跡に出入りさせることで位相差を周期制御することが可能とされている。
【0005】
遊星車方式の定トルク機構は、例えば下記特許文献1及び特許文献2に記載されるように、ストップ車を遊星車として利用した遊星機構を有し、遊星機構によって動力源側輪列と脱進機側輪列との位相差を周期制御することが可能とされている。遊星車は、脱進機側輪列に接続された太陽車に設けられた係脱爪を追従するように自転しつつ公転して、係脱爪に周期的に係脱する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】スイス国特許出願公開第296060号明細書
【特許文献2】スイス国特許出願公開第707938号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、遊星車方式の定トルク機構では、遊星車の歯先と係脱爪とが接触している状態で遊星車と係脱爪との間にかかる力の向きは、遊星車と係脱爪との接触部の法線方向に沿う。このため、遊星車と係脱爪とが離脱する直前、遊星車の歯先と係脱爪の角部とが接触している状態では、遊星車と係脱爪との間にかかる力の向きは、係脱爪の回転方向に近付く。これにより、係脱爪が設けられた太陽車から脱進機に伝達されるトルクが上昇し、てんぷの振り角が変化する。
【0008】
そこで本発明は、脱進機に伝達されるトルクの変動が抑制された定トルク機構、時計用ムーブメント及び時計を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の定トルク機構は、動力源からの動力によって第1軸線回りに回転するキャリアと、前記キャリアに自転可能に支持され、第2軸線回りに自転しつつ、前記第1軸線回りに公転する遊星歯車と、前記キャリアの回転によって動力が補充される定力ばねと、前記定力ばねからの動力によって回転し、脱進機に前記定力ばねの動力を伝える定力車と、前記定力車の回転に同期して前記第1軸線回りの第1方向に回転する同期回転部と、前記同期回転部の回転に伴って前記第1方向に回転するとともに前記遊星歯車に係脱可能とされ、前記遊星歯車の回転軌跡内で前記遊星歯車に係合して前記遊星歯車の自転を規制した後、前記同期回転部に対して変位して前記回転軌跡から退避可能な係合爪と、を備えることを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、係合爪が同期回転部に対して変位して遊星歯車の回転軌跡から退避することで、遊星歯車と係合爪との離脱直前において遊星歯車から係合爪を介して同期回転部に伝達される第1方向のトルクを低減できる。よって、同期回転部から定力車を介して脱進機に伝達されるトルクの変動を抑制できる。したがって、脱進機に伝達されるトルクの変動を抑制できる。
【0011】
上記の定トルク機構において、前記係合爪は、前記同期回転部に対して前記第1方向に沿う方向に変位して前記回転軌跡から退避する、ことが望ましい。
【0012】
この構成によれば、遊星歯車と係合爪との離脱直前において遊星歯車と係合爪との間にかかる力の向きが第1方向に近付く際に、遊星歯車によって係合爪を押圧させ、係合爪を同期回転部に対して変位させることができる。よって、遊星歯車から係合爪を介して同期回転部に伝達される第1方向のトルクは、係合爪の変位によって緩和される。したがって、同期回転部から定力車を介して脱進機に伝達されるトルクの変動を抑制できる。
【0013】
上記の定トルク機構において、前記係合爪を前記回転軌跡の内側に向けて直接的または間接的に付勢するばね部をさらに備える、ことが望ましい。
【0014】
この構成によれば、係合爪が遊星歯車の回転軌跡から退避した状態が維持されることを抑制できる。よって、遊星歯車に対する係合爪の係脱動作を安定させることができる。
【0015】
上記の定トルク機構において、前記係合爪を前記同期回転部に対して回転可能に支持し、前記ばね部とは別体で設けられたレバー体をさらに備える、ことが望ましい。
【0016】
この構成によれば、係合爪がばね部に支持された場合と比較して、係合爪を安定的に支持できる。これにより、同期回転部に対する係合爪の変位を安定させることが可能となり、遊星歯車に対する係合爪の係脱動作を安定させることができる。
【0017】
上記の定トルク機構において、前記係合爪は、前記ばね部に支持されている、ことが望ましい。
【0018】
この構成によれば、係合爪がばね部に支持されていない構成と比較して、部品点数を削減することができる。
【0019】
上記の定トルク機構において、前記同期回転部は、前記遊星歯車に係合した前記係合爪の前記同期回転部に対する前記第1軸線回りの第2方向に沿う方向への変位を規制する第1規制部を備える、ことが望ましい。
【0020】
この構成によれば、係合爪が同期回転部とともに第1方向に回転する際に、係合爪が同期回転部に対して第1方向とは反対の第2方向に沿う方向に変位して、係合爪が遊星歯車から離脱不能となることを抑制できる。したがって、遊星歯車に対する係合爪の係脱動作を安定させることができる。
【0021】
上記の定トルク機構において、前記同期回転部は、前記回転軌跡から退避した前記係合爪の前記同期回転部に対する前記第1方向に沿う方向への変位を規制する第2規制部を備える、ことが望ましい。
【0022】
この構成によれば、係合爪が遊星歯車の回転軌跡から退避した際に、係合爪が同期回転部に対して第1方向に沿う方向に変位することによって、係合爪が遊星歯車の回転軌跡に再度進入して係合することができなくなることを抑制できる。したがって、遊星歯車に対する係合爪の係脱動作を安定させることができる。
【0023】
上記の定トルク機構において、前記係合爪は、前記同期回転部に対して前記第1軸線回りに揺動可能に設けられている、ことが望ましい。
【0024】
この構成によれば、係合爪が取り付けられた部材を同期回転部に対して変位可能に支持する軸部材として、第1軸線に沿って延び同期回転部を支持する軸部材を用いることができる。これに対して、係合爪が同期回転部に対して第1軸線とは異なる軸線回りに揺動可能に設けられた場合には、係合爪が取り付けられた部材を同期回転部に対して変位可能に支持する軸部材として、第1軸線とは異なる軸線上に配置された軸部材を同期回転部に別途設ける必要がある。したがって、係合爪が同期回転部に対して第1軸線とは異なる軸線回りに揺動可能に設けられた場合と比較して、部品点数を削減することができる。
【0025】
上記の定トルク機構において、前記係合爪は、前記同期回転部に対して前記第1軸線及び前記第2軸線とは異なる第3軸線回りに揺動可能に設けられている、ことが望ましい。
【0026】
この構成によれば、係合爪の回転軸が第1軸線とは異なる第3軸線上に配置されるので、定トルク機構の設計自由度を向上させることができる。
【0027】
本発明の時計用ムーブメントは、上記の定トルク機構を備えることを特徴とする。
本発明の時計は、上記の時計用ムーブメントを備えることを特徴とする。
【0028】
この構成によれば、脱進機に伝達されるトルクの変動が抑制された定トルク機構を備えるので、高精度の時計用ムーブメント及び時計とすることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、脱進機に伝達されるトルクの変動が抑制された定トルク機構、時計用ムーブメント及び時計とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】第1実施形態を示す時計の外観図である。
図2】第1実施形態のムーブメントのブロック図である。
図3】第1実施形態のムーブメントの一部を上方から見た斜視図である。
図4】第1実施形態のムーブメントの一部を示す断面図である。
図5】第1実施形態のムーブメントの一部を上方から見た平面図である。
図6】第1実施形態の係脱レバーユニットを上方から見た平面図である。
図7】第1実施形態の係脱レバーユニットを示す断面図である。
図8】第1実施形態の遊星車及び係脱レバーユニットを上方から見た斜視図である。
図9】第1実施形態の遊星車及び係脱レバーユニットを下方から見た斜視図である。
図10】第1実施形態の定トルク機構の一部を上方から見た平面図である。
図11】第1実施形態の定トルク機構の動作説明図である。
図12】第1実施形態の定トルク機構の動作説明図である。
図13】第1実施形態の定トルク機構の動作説明図である。
図14】第1実施形態の定トルク機構の動作説明図である。
図15】第2実施形態の遊星車及び係脱レバーユニットを上方から見た平面図である。
図16】第2実施形態の定トルク機構の動作説明図である。
図17】第3実施形態の遊星車及び係脱レバーユニットを上方から見た平面図である。
図18】第3実施形態の定トルク機構の動作説明図である。
図19】第4実施形態の遊星車及び係脱レバーユニットを上方から見た平面図である。
図20】第4実施形態の定トルク機構の動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の説明では、同一または類似の機能を有する構成に同一の符号を付す。本実施形態では、時計の一例として機械式時計を例に挙げて説明する。
【0032】
[第1実施形態]
(時計の基本構成)
一般に、時計の駆動部分を含む機械体を「ムーブメント」と称する。このムーブメントに文字板、針を取り付けて、時計ケースの中に入れて完成品にした状態を時計の「コンプリート」と称する。
時計の基板を構成する地板の両側のうち、時計ケースのガラスのある方の側(すなわち、文字板のある方の側)をムーブメントの「裏側」と称する。また、地板の両側のうち、時計ケースのケース裏蓋のある方の側(すなわち、文字板と反対の側)をムーブメントの「表側」と称する。
【0033】
なお、本実施形態では、文字板からケース裏蓋に向かう方向を上方、その反対側を下方と定義して説明する。また、各回転軸線を中心として、上方から見て時計回りに回転する方向を時計方向といい、上方から見て反時計回りに回転する方向を反時計方向という。
【0034】
図1は、第1実施形態を示す時計の外観図である。
図1に示すように、本実施形態の時計1のコンプリートは、図示しないケース裏蓋及びガラス2からなる時計ケース内に、ムーブメント10(時計用ムーブメント)と、少なくとも時に関する情報を示す目盛りを有する文字板3と、時針5、分針6及び秒針7を含む指針4と、を備えている。
【0035】
図2は、第1実施形態のムーブメントのブロック図である。
図2に示すように、ムーブメント10は、動力源である香箱車11と、香箱車11に繋がる動力源側輪列12と、調速機13によって調速される脱進機14と、脱進機14に繋がる脱進機側輪列15と、動力源側輪列12と脱進機側輪列15との間に配置された定トルク機構30と、を備えている。
【0036】
なお、定トルク機構30は、一般に二番車や三番車、四番車等を含む表輪列の一部を構成している。本実施形態における動力源側輪列12とは、定トルク機構30から見て、定トルク機構30よりも動力源である香箱車11側に位置する輪列をいう。同様に、本実施形態における脱進機側輪列15とは、定トルク機構30から見て、定トルク機構30よりも脱進機14側に位置する輪列をいう。
【0037】
香箱車11の内部には、ぜんまい16が収容されている。ぜんまい16は、図1に示すリュウズ17に連結された図示しない巻真の回転によって巻き上げられる。香箱車11は、ぜんまい16の巻き解きに伴う動力(トルク)によって回転し、動力源側輪列12を介して該動力を定トルク機構30に伝える。なお、本実施形態では、動力源側輪列12を介して香箱車11からの動力を定トルク機構30に伝える場合を例にして説明するが、この場合に限定されるものではない。例えば動力源側輪列12を介さずに、香箱車11からの動力を定トルク機構30に直接伝えても良い。
【0038】
例えば、動力源側輪列12は、第1伝達車18を備えている。第1伝達車18は、例えば三番車である。第1伝達車18は、地板23(図4参照)と輪列受(不図示)との間に軸支されている。第1伝達車18は、香箱車11の回転に基づいて回転する。なお、第1伝達車18が回転すると、この回転に基づいて図示しない筒かなが回転する。筒かなには、図1に示す分針6が取り付けられており、筒かなの回転によって分針6が「分」を表示する。分針6は、脱進機14及び調速機13によって調速された回転速度、すなわち1時間で1回転する。
【0039】
また、第1伝達車18が回転すると、この回転に基づいて図示しない日の裏車が回転し、さらに日の裏車の回転に基づいて図示しない筒車が回転する。筒車には、図1に示す時針5が取り付けられており、筒車の回転によって時針5が「時」を表示する。時針5は、脱進機14及び調速機13によって調速された回転速度、例えば12時間で1回転する。
【0040】
脱進機側輪列15は、主に第2伝達車19を備えている。第2伝達車19は、例えば四番車である。第2伝達車19は、地板23と輪列受との間に軸支され、定トルク機構30の後述する定力下段車60の回転に基づいて回転する。第2伝達車19が四番車である場合、第2伝達車19には、図1に示す秒針7が取り付けられており、第2伝達車19の回転に基づいて秒針7が「秒」を表示する。秒針7は、脱進機14及び調速機13によって調速された回転速度、例えば1分間で1回転する。
【0041】
脱進機14は、主にがんぎ車及びアンクル(いずれも不図示)を備えている。
がんぎ車は、地板23と輪列受との間に軸支され、例えば第2伝達車19に噛み合っている。これにより、がんぎ車には、脱進機側輪列15を介して定トルク機構30における後述の定力ばね100からの動力が伝達される。これにより、がんぎ車は、定力ばね100からの動力によって回転する。
【0042】
アンクルは、地板23とアンクル受(不図示)との間で回動可能(揺動可能)に支持され、図示しない一対の爪石を有している。一対の爪石は、調速機13によってがんぎ車におけるがんぎ歯に対して所定の周期で交互に係脱される。これにより、がんぎ車は所定の周期で脱進可能とされる。
【0043】
調速機13は、主にてんぷ(不図示)を備えている。
てんぷは、てん真、てん輪及びひげぜんまいを備え、地板23とてんぷ受(不図示)との間に軸支されている。てんぷは、ひげぜんまいを動力源として一定の振り角で往復回転(正逆回転)する。
【0044】
(定トルク機構の構成)
定トルク機構30は、脱進機14に伝達される動力の変動(トルク変動)を抑制する機構である。
【0045】
図3は、第1実施形態のムーブメントの一部を上方から見た斜視図である。
図3に示すように、定トルク機構30は、上下に延びる第1回転軸線O1を中心軸線とする固定歯車31と、第1回転軸線O1回りに回転する定力上段車40と、定力上段車40と同軸に配置され、第1回転軸線O1回りに定力上段車40に対して相対回転可能な定力下段車60(定力車)と、定力上段車40と定力下段車60とを連係する係脱レバーユニット80と、蓄えた動力を定力上段車40及び定力下段車60に伝える定力ばね100と、定力ばね100のトルクを調整するトルク調整機構110と、を備える。第1回転軸線O1は、上述した第1伝達車18及び第2伝達車19(図2参照)の回転軸線に対して地板23(図4参照)の面内方向にずれた位置に配置されている。
【0046】
図4は、第1実施形態のムーブメントの一部を示す断面図である。
図4に示すように、固定歯車31は、地板23と定力ユニット受24との間に配置されている。定力ユニット受24は、地板23よりも上方に配置されている。固定歯車31は、第1回転軸線O1と同軸に配置された筒体32と、筒体32に一体に形成された歯車本体33と、を備える。
【0047】
筒体32は、定力ユニット受24から下方に突出する固定歯車ピン34によって、定力ユニット受24の下面に固定されている。筒体32には、中心孔35及び窓部36が形成されている。中心孔35は、第1回転軸線O1を中心として一定の内径で上下に延び、筒体32を上下に貫通している。窓部36は、上下方向から見て第1回転軸線O1と第1伝達車18の回転軸線とが並ぶ方向で中心孔35に隣接している(図3参照)。窓部36は、筒体32を上下方向に貫通するとともに、中心孔35に連なっている。これにより、固定歯車31を上下に貫通する孔は、上下方向から見て長孔となっている。
【0048】
歯車本体33は、第1回転軸線O1と同軸に形成され、筒体32の下端部から径方向の外側に向かって張り出している。歯車本体33の外周面には、全周に亘って固定歯33aが形成されている。すなわち、固定歯車31は、外歯タイプの歯車である。
【0049】
定力上段車40は、地板23と定力ユニット受24との間に軸支されている。定力上段車40は、第1回転軸線O1回りに回転する回転軸41と、第1回転軸線O1回りを公転する遊星車43と、遊星車43を軸支するキャリア47と、を備えている。
【0050】
回転軸41は、第1回転軸線O1に沿って延びている。回転軸41は、地板23及び定力ユニット受24によって、穴石25A,25Bを介して軸支されている。穴石25A,25Bは、例えばルビー等の人工宝石から形成されている。なお、穴石25A,25Bは人工宝石で形成される場合に限定されるものではなく、例えばその他の脆性材料や鉄系合金等の金属材料で形成しても構わない。回転軸41の上部には、定力上段かな41aが形成されている。定力上段かな41aは、第1伝達車18に噛み合っている。これにより、回転軸41には、動力源側輪列12を介して香箱車11(いずれも図2参照)からの動力が伝達される。回転軸41には、香箱車11からトルクTbの動力が伝達される。以降、トルクTbを香箱車11の回転トルクTbと称する。回転軸41は、香箱車11からの動力によって時計方向に回転する。
【0051】
ここで、定力ユニット受24及び筒体32のうち少なくともいずれか一方には、第1伝達車18の回転軸線から第1回転軸線O1に向かう方向に窪む凹部27が形成されている。本実施形態では、凹部27は、定力ユニット受24及び筒体32の両方に跨って形成されている。凹部27は、第1伝達車18の回転軸線に向かって開口している。凹部27の内側には、定力上段かな41aの一部が配置されている。これにより、ムーブメント10を組み立てる際に、定力ユニット受24及び回転軸41が所定の位置に配置された状態であっても、第1伝達車18を凹部27内にスライドさせるように挿入して定力上段かな41aに連結させることができる。
【0052】
キャリア47は、回転軸41に固定的に支持されている。キャリア47には、回転軸41からの時計方向の回転トルクTbが伝達される。これにより、キャリア47は、香箱車11からの動力によって、回転軸41とともに第1回転軸線O1回りを時計方向に回転する。キャリア47は、回転軸41に一体に連結された下座48と、下座48の上方に配置され、下座48に固定された上座54と、を備える。
【0053】
下座48は、固定歯車31の下方に配置されている。下座48は、遊星車43を支持する遊星車支持部49と、定力ばね100を支持するばね支持部50と、遊星車支持部49とばね支持部50とを連結する連結部51と、を備える。
【0054】
図5は、第1実施形態のムーブメントの一部を上方から見た平面図である。
図3及び図5に示すように、遊星車支持部49は、上下方向から見て第1回転軸線O1回りの周方向に沿って円弧状に延びている。遊星車支持部49は、上下方向から見た中間部が両端部よりも下方に一段下がるように形成されている。
【0055】
図4に示すように、ばね支持部50は、第1回転軸線O1を挟んで遊星車支持部49とは反対側に設けられている。ばね支持部50には、後述する定力ばねピン103が挿通されたピン挿通孔50aが形成されている。連結部51には、回転軸41が挿通された中心孔が形成されている。連結部51は、回転軸41における定力上段かな41aよりも下部に固定されている。これにより、下座48は、回転軸41と一体に回転する。下座48には、キャリア窓部52が形成されている。キャリア窓部52は、遊星車支持部49に対する第1回転軸線O1側に形成されている。キャリア窓部52は、下座48を上下に貫通している。キャリア窓部52は、下座48と後述する係合爪石86(係合爪)との接触を回避する。
【0056】
図3に示すように、上座54は、下座48の遊星車支持部49の上方、かつ固定歯車31の歯車本体33よりも上方に配置されている。上座54は、上下方向から見て第1回転軸線O1回りの周方向に沿って円弧状に延びている。上座54は、複数のカラー55により下座48の遊星車支持部49に対して間隔をあけた状態で積層されている。上座54の両端部は、複数のカラー55に挿通された複数のボルト56により、遊星車支持部49の両端部に固定されている。
【0057】
図4に示すように、遊星車43は、キャリア47に自転可能に支持されている。具体的に、遊星車43は、下座48の遊星車支持部49及び上座54によって、穴石59A,59Bを介して軸支され、第2回転軸線O2回りに回転可能とされている。第2回転軸線O2は、第1回転軸線O1に対して地板23の面内方向にずれた位置であって、キャリア47に対して固定された位置に配置されている。遊星車43は、上下方向から見た下座48の遊星車支持部49の中間部と、上下方向から見た上座54の中間部と、の間に配置されている(図3参照)。遊星車43は、遊星かな44及び遊星歯車45を備える。
【0058】
遊星かな44は、固定歯車31の固定歯33aに噛み合う。固定歯車31が外歯タイプとされているので、遊星車43は、遊星かな44と固定歯車31との噛み合いにより、キャリア47の時計方向の回転に伴って、第2回転軸線O2回りを時計方向に自転しつつ、第1回転軸線O1回りを時計方向に公転する。
【0059】
遊星歯車45は、遊星かな44よりも下方に形成され、固定歯車31に接触することなく回転可能(自転及び公転可能)とされている。遊星歯車45は、後述する係合爪石86の係合面86a(図8参照)に対して係脱可能な複数のストップ歯45aを有する。ストップ歯45aの歯数は8歯とされている。ただし、この場合に限定されるものではなく、歯数を適宜変更して構わない。
【0060】
図5に示すように、ストップ歯45aは、上下方向から見て第2回転軸線O2から離間するに従い第2回転軸線O2回りの時計方向に延びている。ストップ歯45aの歯先は、係合爪石86の係合面86aに対して係脱する作用面とされている。ストップ歯45aの歯先は、上下方向から見て凸曲面状に形成されている。以下では、遊星車43の自転に伴ってストップ歯45aの歯先が描く回転軌跡Mを、遊星歯車45の回転軌跡Mという。
【0061】
図4に示すように、定力下段車60は、地板23と定力ユニット受24との間において、定力上段車40の回転軸41に回転可能に支持されている。定力下段車60は、定力上段車40のキャリア47よりも下方であって、キャリア47と地板23との間に配置されている。定力下段車60は、回転軸41に外挿された定力下段筒61と、定力下段筒61に一体に連結された定力下段歯車62と、を備える。なお、定力下段車60は、定力ばね100から伝えられる動力によって第1回転軸線O1回りを時計方向に回転する。
【0062】
定力下段筒61内には、回転軸41が上方から挿通されて定力下段筒61の下方に突出している。定力下段筒61における上端部及び下端部の内側には、リング状の穴石69A,69Bが圧入されている。回転軸41は、これら穴石69A,69Bの内側を挿通している。
【0063】
定力下段歯車62は、定力下段筒61の下端部に一体に連結されている。定力下段歯車62の外周面には、第2伝達車19が噛み合う定力下段歯62aが全周に亘って形成されている。これにより、定力下段車60は、脱進機14に繋がる第2伝達車19、すなわち脱進機側輪列15に対して定力ばね100からの動力を伝えることが可能とされている。
【0064】
なお、本実施形態では、脱進機側輪列15を介して定力ばね100からの動力を脱進機14に伝える場合を例にして説明するが、この場合に限定されるものではない。例えば、脱進機側輪列15を設けず、定力ばね100からの動力を脱進機14に直接伝達するように構成しても良い。
【0065】
係脱レバーユニット80は、遊星歯車45のストップ歯45aに係脱する係合爪石86を含み、係合爪石86を第1回転軸線O1回りに回転可能に支持する。係脱レバーユニット80は、定力下段筒61に対して相対回転不能に設けられたレバーブッシュ81及びレバーばね94と、定力下段筒61に対して相対回転可能に設けられた係脱レバー84と、を備える。
【0066】
レバーブッシュ81は、第1回転軸線O1と同軸の円筒状に形成されている。レバーブッシュ81は、定力下段車60の定力下段筒61の上端部に外挿され、定力下段筒61に一体に連結されている。これにより、レバーブッシュ81は、定力下段車60の回転に同期して、第1回転軸線O1回りを時計方向に回転する。レバーブッシュ81の上端部には、径方向の外側に向かって突出するフランジ82が形成されている。
【0067】
図6は、第1実施形態の係脱レバーユニットを上方から見た平面図である。図7は、第1実施形態の係脱レバーユニットを示す断面図である。
図6及び図7に示すように、係脱レバー84は、レバーブッシュ81及びレバーばね94に対して第1回転軸線O1回りに相対回転可能に設けられている。係脱レバー84は、レバー本体85(レバー体)と、レバー本体85に支持された係合爪石86及びレバーピン87と、を備える。
【0068】
レバー本体85は、遊星車43の遊星歯車45よりも下方に配置されている(図4参照)。レバー本体85は、レバーブッシュ81の上下中間部に回転可能に支持されている。レバー本体85は、レバーブッシュ81のフランジ82によって、定力下段筒61に対する上方への移動を規制されている。レバー本体85は、レバーブッシュ81側から径方向の外側に向かって延びる第1レバー片90、第2レバー片91及び第3レバー片92を備える。第1レバー片90、第2レバー片91及び第3レバー片92は、互いに第1回転軸線O1回りの周方向に間隔をあけて配置されている。図示の例では、第1レバー片90、第2レバー片91及び第3レバー片92の基端部には、上下に貫通する貫通孔が形成されている。ただし、第1レバー片90、第2レバー片91及び第3レバー片92の形状はこの場合に限定されるものではなく、自由に変更して構わない。また、レバー本体85の形状は、上述した形状に限定されるものではなく、自由に変更して構わない。例えば、レバー本体は、第3レバー片92を備えていなくてもよい。
【0069】
第1レバー片90の先端部には、係合爪石86を保持する石保持部90aが形成されている。石保持部90aは、第1レバー片90を上下に貫通している。第2レバー片91の先端部には、レバーピン87を保持するピン保持部91aが形成されている。ピン保持部91aは、第2レバー片91を上下に貫通している。
【0070】
図8は、第1実施形態の遊星車及び係脱レバーユニットを上方から見た斜視図である。図9は、第1実施形態の遊星車及び係脱レバーユニットを下方から見た斜視図である。
図8及び図9に示すように、係合爪石86は、第1レバー片90の石保持部90aに取り付けられ、レバー本体85によってレバーブッシュ81及びレバーばね94に対して回転可能に支持されている。これにより、係合爪石86は、第1回転軸線O1回りに揺動可能に設けられている。係合爪石86は、例えばルビー等の人工宝石から形成されている。なお、係合爪石86は、上述した穴石と同様に人工宝石で形成される場合に限定されるものではなく、例えばその他の脆性材料や鉄系合金等の金属材料で形成しても構わない。また、係合爪石86は、レバー本体85と別体ではなく、レバー本体85と一体に形成されても構わない。係合爪石86は、石保持部90aよりも遊星歯車45側(上方)に突出した状態で保持されている。係合爪石86は、定力上段車40のキャリア47のキャリア窓部52の内側に配置されている(図4参照)。
【0071】
図10は、第1実施形態の定トルク機構の一部を上方から見た平面図である。
図8及び図10に示すように、係合爪石86の突出した部分のうち、第1回転軸線O1とは反対側を向いた側面は、遊星歯車45のストップ歯45aの歯先が係脱可能とされた係合面86aとされている。図示の例では、係合面86aは、略全面が平坦面とされ、かつ上下方向から見て両端部がR面取りされている。すなわち、係合面86aにおける第1回転軸線O1回りの周方向両側の端縁は、上下方向から見て凸曲面状に形成されている。以下、係合面86aにおける第1回転軸線O1回りの反時計方向の端縁を第1端縁86a1という。係合爪石86は、遊星歯車45の回転軌跡M内で遊星歯車45に係合して遊星車43の自転を規制する。また、係合爪石86は、遊星車43に対して第1回転軸線O1回りの時計方向に変位して遊星歯車45の回転軌跡Mから退避することで、ストップ歯45aから離脱して遊星歯車45との係合を解除する。
【0072】
図7に示すように、レバーピン87は、上下に延びる円柱状に形成されてレバー本体85のピン保持部91aに挿通された軸体87aと、軸体87aの下端部で拡径された頭部87bと、を備える。軸体87aは、第2レバー片91から上下両側に突出している。頭部87bは、第2レバー片91の下面に対して間隔をあけて配置されている。
【0073】
図7及び図9に示すように、レバーばね94は、レバー本体85の下方に配置され、レバーブッシュ81の下端部に固定的に支持されている。これにより、レバーばね94は、定力下段車60の回転に同期して、第1回転軸線O1回りを時計方向に回転する。レバーばね94は、レバーブッシュ81に固定された基部95(同期回転部)と、基部95から延びるばね本体97(ばね部)と、を備える。
【0074】
図9に示すように、基部95は、第1回転軸線O1を囲う環状に形成されている。基部95は、レバーブッシュ81の下端部に外挿され、レバーブッシュ81に一体に連結されている。基部95は、係脱レバー84のレバー本体85に下方から当接可能とされ、レバーブッシュ81に対するレバー本体85の下方への移動を規制している。基部95には、アーム96が形成されている。
【0075】
図6に示すように、アーム96は、上下方向から見て係脱レバー84の第2レバー片91の延びる方向に沿って延びている。アーム96の先端部は、第2レバー片91の先端部とレバーピン87の頭部87bとの間で、レバーピン87の軸体87aに第1回転軸線O1回りの反時計方向から当接している(図9も併せて参照)。これにより、アーム96は、基部95に対する係脱レバー84の第1回転軸線O1回りの反時計方向への回転を規制している。すなわち、アーム96は、遊星歯車45に係合した係合爪石86(いずれも図8参照)の、基部95に対する第1回転軸線O1回りの反時計方向への変位を規制している。レバーばね94は、係脱レバー84を第1回転軸線O1回りの時計方向に押圧して回転させる。
【0076】
ばね本体97は、薄板ばねである。ばね本体97は、アーム96の先端部から第1回転軸線O1回りの反時計方向に沿って延びている。ばね本体97は、基部95を径方向外側で回り込み、第2レバー片91の先端部とレバーピン87の頭部87bとの間で、レバーピン87の軸体87aに第1回転軸線O1回りの時計方向から当接している(図9も併せて参照)。これにより、ばね本体97は、基部95に対して係脱レバー84を第1回転軸線O1回りの反時計方向に付勢しつつ、基部95に対する係脱レバー84の第1回転軸線O1回りの時計方向への変位を許容している。以上により、係脱レバー84が備える係合爪石86は、基部95に対して、第1回転軸線O1回りの時計方向への遊びを持った状態とされている。
【0077】
図10に示すように、定力ばね100は、例えば鉄やニッケル等の金属や合金からなる薄板ばねであり、渦巻き状に形成されている。具体的には、定力ばね100は、第1回転軸線O1を原点とした極座標系においてアルキメデス曲線に沿う渦巻き状に形成されている。これにより、定力ばね100は、上下方向から見て径方向に略等間隔で隣り合うように複数の巻き数で巻かれている。
【0078】
図4に示すように、定力ばね100は、係脱レバーユニット80よりも下方であって、係脱レバーユニット80と定力下段歯車62との間に配置されている。定力ばね100は、一方の周端部である外端部101が定力ばねピン103を介して定力上段車40のキャリア47の下座48に接続されるとともに、他方の周端部である内端部102が固定リング104及びトルク調整機構110を介して定力下段車60に接続されている。これにより、定力ばね100は、蓄えた動力を定力上段車40及び定力下段車60にそれぞれ伝えることが可能とされている。
【0079】
定力ばねピン103は、定力上段車40のばね支持部50に形成されたピン挿通孔50aよりも下方に突出した状態で、ばね支持部50に保持されている。定力ばねピン103の突出した部分には、定力ばね100の外端部101が固定されている。
【0080】
固定リング104は、定力ばね100の内端部102に固定されている。固定リング104は、第1回転軸線O1と同軸の円環状に形成されている。固定リング104は、トルク調整機構110の後述する定力ばねブッシュ111に一体に連結されている。
【0081】
定力ばね100は、内端部102を巻出し位置として、外端部101に向けて時計方向に所定の巻き量で巻かれている。定力ばね100には、巻き上げによって縮径するように弾性変形し、予負荷が加えられている。そのため、定力ばね100にはトルクTcの動力が発生し、該動力が蓄えられている。定力ばね100に蓄えられた動力は、定力ばね100の弾性復元変形に伴って定力上段車40及び定力下段車60に伝えられる。これにより、定力上段車40及び定力下段車60は、定力ばね100から伝えられる動力によって、第1回転軸線O1回りを互いに反対方向に回転可能とされている。具体的に、定力下段車60が時計方向に回転可能とされ、かつ定力上段車40が反時計方向に回転可能とされている。以降、上記トルクTcを定力ばね100の回転トルクTcと称する。なお、香箱車11内のぜんまい16が所定の巻き量で巻き上げられている場合、回転トルクTcは、回転軸41の回転トルクTbよりも小さいトルクとされている。
【0082】
トルク調整機構110は、定力ばね100に予負荷を加えて、定力ばね100の回転トルクTcを調整する。トルク調整機構110は、定力下段車60の定力下段筒61に支持された定力ばねブッシュ111と、定力ばねブッシュ111に一体に連結された第1トルク調整歯車112と、定力下段筒61に一体に連結された第2トルク調整歯車113と、第1トルク調整歯車112と第2トルク調整歯車113とを連係するトルク調整ジャンパ114と、を備える。
【0083】
定力ばねブッシュ111は、第1回転軸線O1と同軸の円筒状に形成されている。定力ばねブッシュ111は、定力下段歯車62と係脱レバーユニット80との間で、定力下段筒61に外挿されている。定力ばねブッシュ111は、定力下段筒61に対して第1回転軸線O1回りに回転自在に設けられている。定力ばねブッシュ111の上下中間部には、上述した固定リング104が外挿され、定力ばねブッシュ111および固定リング104が一体に連結している。
【0084】
第1トルク調整歯車112は、定力ばねブッシュ111の下端部に一体に連結されている。第1トルク調整歯車112の外周面には、第1トルク調整歯112aが全周に亘って形成されている。第1トルク調整歯112aには、図示しないトルク調整用の歯車が噛み合う。
【0085】
第2トルク調整歯車113は、定力下段歯車62と、定力ばねブッシュ111及び第1トルク調整歯車112と、の間に配置されている。第2トルク調整歯車113は、定力下段筒61に一体に連結されている。第2トルク調整歯車113は、第1トルク調整歯車112よりも小径に形成されている。第2トルク調整歯車113の外周面には、第2トルク調整歯113aが全周に亘って形成されている。第2トルク調整歯113aには、トルク調整ジャンパ114が離脱可能に係合する。
【0086】
トルク調整ジャンパ114は、第1トルク調整歯車112に支持され、第2トルク調整歯車113の周囲を第1回転軸線O1回りに公転可能とされている。トルク調整ジャンパ114は、第2トルク調整歯車113に対して第1トルク調整歯車112が時計方向に回転することを規制可能とされている。また、トルク調整ジャンパ114は、第2トルク調整歯車113に対して第1トルク調整歯車112が反時計方向に回転することを許容可能とされている。
【0087】
これにより、定力ばねブッシュ111及び第1トルク調整歯車112が定力ばね100から時計方向の動力を受けると、該動力がトルク調整ジャンパ114を介して第2トルク調整歯車113に伝わる。すると、トルク調整ジャンパ114は、第2トルク調整歯車113に対する第1トルク調整歯車112の時計方向の回転を規制し、第1トルク調整歯車112及び第2トルク調整歯車113が一体的に時計方向に回転する。その結果、定力下段車60も第2トルク調整歯車113とともに時計方向に回転する。
【0088】
また、定力ばね100に予負荷を加える際には、図示しないトルク調整用の歯車を第1トルク調整歯車112に噛み合わせ、トルク調整用の歯車を回転させることで、第1トルク調整歯車112を反時計方向に回転させる。すると、トルク調整ジャンパ114は、第2トルク調整歯車113に対する第1トルク調整歯車112の反時計方向の回転を許容するので、定力下段車60を回転させることなく、定力ばねブッシュ111及び固定リング104を反時計方向に回転させる。これにより、定力ばね100の内端部102を反時計方向に回転させることができる。その結果、定力ばね100の巻き上げを行うことができ、定力ばね100の予負荷を増大させて、回転トルクTcが増大するように調整することができる。
【0089】
(定トルク機構の作用)
上述したように構成された定トルク機構30の作用について説明する。
なお、初期状態として、香箱車11内のぜんまい16が所定の巻き量で巻き上げられ、香箱車11から動力源側輪列12を介して定力上段車40のキャリア47に回転トルクTbの動力が伝達されているものとする。また、定力ばね100が所定の巻き量で巻き上げられ、定力ばね100から定力上段車40のキャリア47及び定力下段車60に、回転トルクTbよりも小さい回転トルクTcの動力が伝達されているものとする。
【0090】
本実施形態の定トルク機構30によれば、定力ばね100を有しているので、定力ばね100に蓄えた動力を定力下段車60に伝えて、定力下段車60を第1回転軸線O1回りの時計方向に回転させることができる。詳細には、定力ばね100からの動力は、固定リング104を介してトルク調整機構110に伝わる。トルク調整機構110に伝わった動力は、定力下段車60に伝わる。これにより、定力下段車60には、回転トルクTcで第1回転軸線O1回りを時計方向に回転するような動力が定力ばね100から伝達される。さらに、定力下段車60から第2伝達車19に定力ばね100の動力を伝えることができ、定力下段車60の回転に伴って第2伝達車19を回転させることができる。つまり、定力下段車60を介して脱進機側輪列15に定力ばね100からの動力を伝えることができ、脱進機14を作動させることができる。
【0091】
また、定力ばね100からの動力は、定力上段車40にも伝わるので、定力上段車40を回転トルクTcで第1回転軸線O1回りの反時計方向に回転させようとする。
【0092】
しかしながら、定力上段車40には、動力源側輪列12から第1回転軸線O1回りを時計方向に回転するような回転トルクTbが伝達されている。回転トルクTbは回転トルクTcよりも大きいので、定力上段車40は、第1回転軸線O1回りを反時計方向に回転することが防止されている。
【0093】
なお、定力上段車40には、動力源側輪列12から伝えられた回転トルクTbと、定力ばね100から伝えられた回転トルクTcとの差分の動力(回転トルクTb−回転トルクTc)が作用する。ところが、係脱レバーユニット80の係合爪石86は、定力上段車40の遊星歯車45の回転軌跡M内で遊星歯車45に係合しているので、遊星車43の自転および公転が規制される。これにより、定力上段車40と定力下段車60とを連係させることができ、定力上段車40が第1回転軸線O1回りを時計方向に回転することが防止されている。
【0094】
以上のことから、遊星歯車45と係合爪石86とが係合している段階では、定力上段車40は第1回転軸線O1回りに回転することが防止されている。なお、定力上段車40には、上述した差分の動力が作用するので、遊星歯車45のストップ歯45aの歯先が係合爪石86の係合面86aに対して強く押し当たった状態で係合する。
【0095】
図11から図14は、第1実施形態の定トルク機構の動作説明図であって、固定歯車、遊星車及び係脱レバーユニットを上方から見た平面図である。なお、図11から図14では、固定歯車、遊星車及び係脱レバーユニットを簡略化して図示している。
定力ばね100からの動力によって定力下段車60が回転すると、これに伴って係脱レバーユニット80のレバーブッシュ81及びレバーばね94が第1回転軸線O1回りを時計方向に回転する。レバーばね94が回転すると、係脱レバーユニット80の係脱レバー84は、レバーばね94のアーム96に押されて第1回転軸線O1回りを時計方向に回転する。係脱レバー84が時計方向に回転すると、係脱レバー84が有する係合爪石86は、第1回転軸線O1回りの時計方向への遊びを持った状態で、第1回転軸線O1回りの時計方向に変位する。これにより、係脱レバーユニット80は、係合爪石86を遊星歯車45の回転軌跡Mから退避させるように、遊星歯車45から徐々に離脱させることができる。これにより、図11から図13に示すように、係合爪石86の離脱に伴ってストップ歯45aの歯先が係合面86a上を摺動しながら係合面86aに対して第1回転軸線O1回りの反時計方向に移動する。
【0096】
ここで、ストップ歯45aと係合爪石86との間にかかる力Fは、ストップ歯45aが係合面86aを押圧する押圧力と、ストップ歯45aが係合面86a上を摺動することによって生じる摩擦力と、の合力である。押圧力は、ストップ歯45aと係合面86aとの接触部における法線方向に平行な力である。摩擦力は、ストップ歯45aと係合面86aとの接触部における接線方向に平行な力である。ストップ歯45aの歯先、及び係合面86aの第1端縁86a1は、上下方向から見て凸曲面状に形成されているので、ストップ歯45aの歯先が係合面86aの第1端縁86a1に接触すると、前記力Fは第1回転軸線O1回りの時計方向に近付く(図13参照)。これにより、係合爪石86を備える係脱レバー84は、レバーばね94のばね本体97の付勢力に抗しつつ、基部95に対して第1回転軸線O1回りを時計方向に回転する。そして、図14に示すように、ストップ歯45aの歯先が係合面86aの第1端縁86a1を超えた時点で、ストップ歯45aと係合爪石86との係合が解除される。これにより、係合爪石86及び遊星車43を介した定力上段車40と定力下段車60との連係が解除される。
【0097】
従って、定力上段車40は、動力源側輪列12から伝えられた回転トルクTbと、定力ばね100から伝えられた回転トルクTcとの差分の動力(回転トルクTb−回転トルクTc)によって第1回転軸線O1回りを時計方向に回転する。
【0098】
定力上段車40が第1回転軸線O1回りを時計方向に回転することで、キャリア47に固定された定力ばねピン103を介して、定力ばね100を巻き上げることができ、定力ばね100に動力を補充することができる。つまり、定力下段車60に動力を伝えることで失った動力の損失分を、動力源である香箱車11側から伝えられた動力を利用して補充することができる。これにより、定力ばね100の動力を一定に維持することができ、定トルクで脱進機14を作動させることができる。
【0099】
なお、定力ばね100に対する動力の補充を行っている場合であっても、定力下段車60は定力ばね100からの動力によって回転し、脱進機側輪列15に定力ばね100からの動力を伝えている。
【0100】
また、上述した定力ばね100に対する動力の補充が行われている際、定力上段車40の第1回転軸線O1回りの回転に伴って、遊星車43が第2回転軸線O2回りを時計方向に自転しながら、第1回転軸線O1回りを時計方向に公転して、係合爪石86を追従する。そして、ストップ歯45aの1歯分だけ遊星車43が自転することで係合爪石86に追いつき、ストップ歯45aの歯先が係合爪石86の係合面86aに再び係合する。
これにより、定力上段車40と定力下段車60とが再び連係するので、定力上段車40の回転が防止され、定力ばね100への動力の補充が終了する。
【0101】
以上を繰り返すことで、遊星歯車45と係合爪石86との係脱を間欠的に行うことができる。すなわち、定力下段車60の回転に基づいて、遊星歯車45と係合爪石86との係脱が間欠的に行われ、定力下段車60に対して定力上段車40を間欠的に回転させることができる。これにより、間欠的に定力ばね100への動力の補充を行うことができる。
【0102】
以上説明したように、本実施形態の定トルク機構30は、定力下段車60の回転に同期して第1回転軸線O1回りの時計方向に回転するレバーばね94の基部95と、基部95の回転に伴って第1回転軸線O1回りの時計方向に回転するとともに遊星歯車45に係脱可能とされ、遊星歯車45の回転軌跡M内で遊星歯車45に係合して遊星歯車45の自転を規制した後、基部95に対して変位して遊星歯車45の回転軌跡Mから退避可能な係合爪石86と、を備える。この構成によれば、係合爪石86が基部95に対して変位して遊星歯車45の回転軌跡Mから退避することで、遊星歯車45と係合爪石86との離脱直前において遊星歯車45から係合爪石86を介して基部95に伝達される第1回転軸線O1回りの時計方向のトルクを低減できる。よって、基部95から定力下段車60を介して脱進機14に伝達されるトルクの変動を抑制できる。したがって、脱進機14に伝達されるトルクの変動を抑制できる。
【0103】
特に、本実施形態では、遊星歯車45のストップ歯45aの歯先、及び係合爪石86の係合面86aの第1端縁86a1が上下方向から見て凸曲面状に形成されている。このため、遊星歯車のストップ歯の歯先、及び係合爪石の係合面の第1端縁が凸曲面状に形成されていない場合と比較して、遊星歯車45と係合爪石86との接触面圧を低下させることができ、遊星歯車45及び係合爪石86に削れが発生することを抑制できる。なお、この場合には、遊星歯車のストップ歯の歯先、及び係合爪石の係合面の第1端縁が凸曲面状に形成されていない場合と比較して、遊星歯車45のストップ歯45aの歯先と係合爪石86の係合面86aの第1端縁86a1との摺動距離が長くなる。このため、遊星歯車45と係合爪石86との間にかかる力Fの向きが第1回転軸線O1回りの時計方向に近付く期間が長くなる。ここで、本実施形態では、上述したように遊星歯車45と係合爪石86との離脱直前において係合爪石86が遊星歯車45の回転軌跡Mから退避して、遊星歯車45から基部95に伝達される第1回転軸線O1回りの時計方向のトルクを低減できる。したがって、定トルク機構30の耐久性の向上、及びトルク変動の抑制を両立できる。
【0104】
さらに、遊星歯車45及び係合爪石86の削れが抑制されるので、遊星歯車45及び係合爪石86の接触部のかかる力を大きくする余裕が生じる。このため、遊星歯車45及び係合爪石86の接触部と第1回転軸線O1との距離を小さくすることが可能となり、定トルク機構30を小型化することができる。
【0105】
また、係合爪石86は、基部95に対して第1回転軸線O1回りの時計方向に変位して回転軌跡Mから退避する。この構成によれば、遊星歯車45と係合爪石86との離脱直前において遊星歯車45と係合爪石86との間にかかる力Fの向きが第1回転軸線O1回りの時計方向に近付く際に、遊星歯車45によって係合爪石86を押圧させ、係合爪石86を基部95に対して変位させることができる。よって、遊星歯車45から係合爪石86を介して基部95に伝達される第1回転軸線O1回りの時計方向のトルクは、係合爪石86の変位によって緩和される。したがって、基部95から定力下段車60を介して脱進機14に伝達されるトルクの変動を抑制できる。
【0106】
また、定トルク機構30は、レバー本体85を介して係合爪石86を回転軌跡Mの内側に向けて間接的に付勢するばね本体97をさらに備える。この構成によれば、係合爪石86が遊星歯車45の回転軌跡Mから退避した状態が維持されることを抑制できる。よって、遊星歯車45に対する係合爪石86の係脱動作を安定させることができる。
【0107】
また、定トルク機構30は、係合爪石86をレバーばね94の基部95に対して回転可能に支持し、ばね本体97とは別体で設けられたレバー本体85をさらに備える。この構成によれば、係合爪石86がばね部に支持された場合と比較して、係合爪石86を安定的に支持できる。これにより、基部95に対する係合爪石86の変位を安定させることが可能となり、遊星歯車45に対する係合爪石86の係脱動作を安定させることができる。
【0108】
また、レバーばね94の基部95は、遊星歯車45に係合した係合爪石86の基部95に対する第1回転軸線O1回りの反時計方向に沿う方向への変位を規制するアーム96を備える。この構成によれば、係合爪石86が基部95とともに第1回転軸線O1回りを時計方向に回転する際に、係合爪石86が基部95に対して第1回転軸線O1回りの反時計方向に変位して、係合爪石86が遊星歯車45から離脱不能となることを抑制できる。したがって、遊星歯車45に対する係合爪石86の係脱動作を安定させることができる。
【0109】
また、係合爪石86は、レバーばね94の基部95に対して第1回転軸線O1回りに揺動可能に設けられている。この構成によれば、係合爪石86が取り付けられたレバー本体85をレバーばね94の基部95に対して変位可能に支持する軸部材として、第1回転軸線O1に沿って延び基部95を支持するレバーブッシュ81を用いることができる。これに対して、係合爪石が第1回転軸線O1とは異なる軸線回りに揺動可能に設けられた場合には、係合爪石が取り付けられた部材を揺動可能に支持する軸部材として、第1回転軸線O1とは異なる軸線上に配置された軸部材(例えば図19に示す第4実施形態に係るレバー回転軸389)を別途設ける必要がある。したがって、係合爪石86が第1回転軸線O1とは異なる軸線回りに揺動可能に設けられた場合と比較して、部品点数を削減することができる。
【0110】
ここで、定トルク機構30の組み立てについて簡単に説明する。定トルク機構30を組み立てる際には、最初に定力下段車60をトルク調整機構110、定力ばね100及び係脱レバーユニット80とともに地板23に組み付ける。続いて、定力上段車40を定力下段車60の定力下段筒61に組み付ける。続いて、定力ユニット受24に組み付けられた固定歯車31を定力上段車40に組み付ける。この際、固定歯車31の中心孔35に回転軸41を挿入しながら、固定歯車31の歯車本体33をキャリア47の上座54を避けつつ遊星車43の遊星歯車45に連結させる。このため、固定歯車31を第1回転軸線O1に対して傾けた状態で、固定歯車31の中心孔35に回転軸41を挿入する必要がある。本実施形態では、回転軸41が挿通される固定歯車31の中心孔35には、窓部36が連なり、上下方向から見て長孔となっている。このため、固定歯車31を第1回転軸線O1に対して傾けた状態で、固定歯車31の中心孔35に回転軸41を挿入することができる。したがって、組立作業性の向上が図られた定トルク機構30を提供できる。
【0111】
そして、本実施形態の時計1及びムーブメント10は、脱進機14に伝達されるトルクの変動を抑制されるとともに、耐久性が向上した定トルク機構30を備えるので、高精度、かつ耐久性の優れたムーブメント10及び時計1とすることができる。
【0112】
[第2実施形態]
次に、図15及び図16を参照して、第2実施形態について説明する。第2実施形態は、係脱レバー184が付勢されていない点で、第1実施形態とは異なる。なお、以下で説明する以外の構成は、第1実施形態と同様である。
【0113】
(係脱レバーユニットの構成)
図15は、第2実施形態の遊星車及び係脱レバーユニットを上方から見た平面図である。なお、図15では、遊星車及び係脱レバーユニットを簡略化して図示している(以下の各図面も同様)。
図15に示すように、係脱レバーユニット180は、第1実施形態のレバーばね94に代えて、度決めレバー194(同期回転部)を備える。
【0114】
度決めレバー194は、レバー本体85の下方に配置され、レバーブッシュ81の下端部に一体に連結されている。これにより、度決めレバー194は、定力下段車60の回転に同期して、第1回転軸線O1回りを時計方向に回転する。度決めレバー194の一端部には、二股状に分かれたフォーク部195が形成されている。フォーク部195の内側には、レバーピン87が配置されている。フォーク部195の内側は、第1回転軸線O1回りの周方向でレバーピン87よりも大きく形成されている。これにより、フォーク部195は、レバーピン87を含む係脱レバー84を度決めレバー194に対して所定の角度範囲で回動可能としている。
【0115】
フォーク部195は、第1回転軸線O1回りを時計方向に回転することによって、レバーピン87に第1回転軸線O1回りの反時計方向から接触する。これにより、度決めレバー194は、係脱レバー84を第1回転軸線O1回りの時計方向に押圧して回転させる。さらに、フォーク部195は、度決めレバー194に対する係脱レバー84の第1回転軸線O1回りの反時計方向への回転を規制している。すなわち、フォーク部195は、遊星歯車45に係合した係合爪石86の、度決めレバー194に対する第1回転軸線O1回りの反時計方向への変位を規制している。以上により、係脱レバー84が備える係合爪石86は、度決めレバー194に対して、第1回転軸線O1回りの時計方向への遊びを持った状態とされている。
【0116】
また、フォーク部195は、度決めレバー194に対する係脱レバー84の第1回転軸線O1回りの時計方向への回転を規制している。すなわち、フォーク部195は、遊星歯車45の回転軌跡Mから退避した係合爪石86の、度決めレバー194に対する第1回転軸線O1回りの時計方向への変位を規制している。
【0117】
(係脱レバーユニットの作用)
上述したように構成された係脱レバーユニット180の作用について説明する。
第1実施形態と同様、遊星歯車45と係合爪石86とが係合している段階では、遊星歯車45のストップ歯45aの歯先が係合爪石86の係合面86aに対して強く押し当たった状態で係合する。
【0118】
定力ばね100からの動力によって定力下段車60が回転すると、これに伴って係脱レバーユニット180のレバーブッシュ81及び度決めレバー194が第1回転軸線O1回りを時計方向に回転する。度決めレバー194が回転すると、係脱レバー84が有する係合爪石86は、第1回転軸線O1回りの時計方向への遊びを持った状態で、第1回転軸線O1回りの時計方向に変位する。これにより、係脱レバーユニット180は、係合爪石86を遊星歯車45の回転軌跡Mから退避させるように、遊星歯車45から徐々に離脱させることができる。ストップ歯45aの歯先は、係合面86a上を摺動しながら係合面86aに対して反時計方向に移動する。
【0119】
図16は、第2実施形態の定トルク機構の動作説明図であって、遊星車及び係脱レバーユニットを上方から見た平面図である。
ストップ歯45aの歯先が係合面86aの第1端縁86a1に接触すると、ストップ歯45aと係合爪石86との間にかかる力Fは、第1回転軸線O1回りの時計方向に近付く。これにより、係脱レバー84は、第1回転軸線O1回りの時計方向への遊びにより、度決めレバー194に対して第1回転軸線O1回りの時計方向に変位する。そして、図16に示すように、ストップ歯45aの歯先が係合面86aの第1端縁86a1を超えた時点で、ストップ歯45aと係合爪石86との係合が解除される。
【0120】
以上説明したように、本実施形態の定トルク機構130は、第1実施形態のレバーばね94に代えて、定力下段車60の回転に同期して第1回転軸線O1回りの時計方向に回転する度決めレバー194を備える。また、係合爪石86は、度決めレバー194の回転に伴って第1回転軸線O1回りの時計方向に回転するとともに遊星歯車45に係脱可能とされ、遊星歯車45の回転軌跡M内で遊星歯車45に係合して遊星歯車45の自転を規制した後、度決めレバー194に対して変位して遊星歯車45の回転軌跡Mから退避可能とされている。これにより、第1実施形態と同様に、度決めレバー194から定力下段車60を介して脱進機14に伝達されるトルクの変動を抑制できる。したがって、脱進機14に伝達されるトルクの変動を抑制できる。
【0121】
また、度決めレバー194は、遊星歯車45に係合した係合爪石86の、度決めレバー194に対する第1回転軸線O1回りの反時計方向への変位を規制するフォーク部195を備える。この構成によれば、係合爪石86が度決めレバー194とともに第1回転軸線O1回りを時計方向に回転する際に、係合爪石86が度決めレバー194に対して第1回転軸線O1回りの反時計方向に変位して、係合爪石86が遊星歯車45から離脱不能となることを抑制できる。したがって、遊星歯車45に対する係合爪石86の係脱動作を安定させることができる。
【0122】
また、度決めレバー194は、遊星歯車45の回転軌跡Mから退避した係合爪石86の、度決めレバー194に対する第1回転軸線O1回りの時計方向への変位を規制するフォーク部195を備える。この構成によれば、係合爪石86が遊星歯車45の回転軌跡Mから退避した際に、係合爪石86が度決めレバー194に対して第1回転軸線O1回りの時計方向に変位することによって、係合爪石86が遊星歯車45の回転軌跡Mに再度進入して係合することができなくなることを抑制できる。したがって、遊星歯車45に対する係合爪石86の係脱動作を安定させることができる。
【0123】
[第3実施形態]
次に、図17及び図18を参照して、第3実施形態について説明する。第1実施形態では、係合爪石86がレバーばね94のばね本体97によってレバー本体85を介して間接的に付勢されている。これに対して第3実施形態では、係合爪石86がばね部294によって直接的に付勢されている点で、第1実施形態とは異なる。なお、以下で説明する以外の構成は、第1実施形態と同様である。
【0124】
(係脱レバーユニットの構成)
図17は、第3実施形態の遊星車及び係脱レバーユニットを上方から見た平面図である。
図17に示すように、係脱レバーユニット280は、第1実施形態の係脱レバー84及びレバーばね94に代えて、基部284(同期回転部)及びばね部294を備える。
【0125】
基部284は、第1回転軸線O1を囲う環状に形成されている。基部284は、レバーブッシュ81に外挿され、レバーブッシュ81に一体に連結されている。これにより、基部284は、定力下段車60の回転に同期して、第1回転軸線O1回りを時計方向に回転する。基部284のうち上下方向から見て係合爪石86側に向く端縁284aは、第1回転軸線O1回りの周方向に沿って延びている。基部284は、端縁284aよりも径方向の外側に突出した突出部284bを備える。突出部284bは、端縁284aに対して第1回転軸線O1回りの時計方向に隣接している。なお、係脱レバーユニット280は、レバーブッシュ81を備えず、基部284が定力下段車60の定力下段筒61に直接連結されていてもよい。
【0126】
ばね部294は、薄板ばねである。ばね部294は、基部284における係合爪石86側の端部から第1回転軸線O1回りの反時計方向に沿って延びている。ばね部294は、基部284を径方向外側で回り込み、基部284の端縁284aに径方向の外側から対向する位置まで基部284の周囲を略一周延びている。ばね部294の先端部294aには、係合爪石86が取り付けられている。これにより、ばね部294は、基部284に対して係合爪石86を変位可能に支持している。係合爪石86は、ばね部294の先端部294aから遊星歯車45側(上方)に突出している。ばね部294の先端部294aは、基部284の端縁284aに当接している。これにより、ばね部294の先端部294aは、基部284の端縁284aに摺接することによって、第1回転軸線O1回りの周方向に変位可能となっている。
【0127】
ばね部294の先端部294aは、基部284の突出部284bに対して第1回転軸線O1回りの反時計方向に間隔をあけて配置されている。また、ばね部294における先端部294aよりも基端側の箇所は、基部284の突出部284bに対して第1回転軸線O1回りの時計方向から当接している。これにより、ばね部294の先端部294aは、基部284に対して所定の角度範囲で回動可能とされている。
【0128】
ばね部294は、基部284が第1回転軸線O1回りを時計方向に回転することによって、基部284の突出部284bに押圧されて第1回転軸線O1回りを時計方向に回転する。さらに、ばね部294の先端部294aは、基部284に対する第1回転軸線O1回りの反時計方向への変位を規制されている。すなわち、基部284の突出部284bは、遊星歯車45に係合した係合爪石86の、基部284に対する第1回転軸線O1回りの反時計方向への変位を規制している。
【0129】
また、ばね部294は、基部284に対して係合爪石86を第1回転軸線O1回りの反時計方向に付勢しつつ、基部284に対する係合爪石86の第1回転軸線O1回りの時計方向への変位を許容している。換言すると、ばね部294の先端部294aに取り付けられた係合爪石86は、基部284に対して、第1回転軸線O1回りの時計方向への遊びを持った状態とされている。ばね部294は、基部284に対する第1回転軸線O1回りの時計方向への回転を突出部284bによって規制されている。すなわち、基部284の突出部284bは、遊星歯車45の回転軌跡Mから退避した係合爪石86の、基部284に対する第1回転軸線O1回りの反時計方向への変位を規制している。
【0130】
(係脱レバーユニットの作用)
上述したように構成された係脱レバーユニット280の作用について説明する。
第1実施形態と同様、遊星歯車45と係合爪石86とが係合している段階では、遊星歯車45のストップ歯45aの歯先が係合爪石86の係合面86aに対して強く押し当たった状態で係合する。
【0131】
定力ばね100からの動力によって定力下段車60が回転すると、これに伴ってレバーブッシュ81及び基部284が第1回転軸線O1回りを時計方向に回転する。基部284が回転すると、ばね部294に支持された係合爪石86は、第1回転軸線O1回りの時計方向への遊びを持った状態で、第1回転軸線O1回りの時計方向に変位する。これにより、係脱レバーユニット280は、係合爪石86を遊星歯車45の回転軌跡Mから退避させるように、遊星歯車45から徐々に離脱させることができる。ストップ歯45aの歯先は、係合面86a上を摺動しながら係合面86aに対して反時計方向に移動する。
【0132】
図18は、第3実施形態の定トルク機構の動作説明図であって、遊星車及び係脱レバーユニットを上方から見た平面図である。
ストップ歯45aの歯先が係合面86aの第1端縁86a1に接触すると、ストップ歯45aと係合爪石86との間にかかる力Fは、第1回転軸線O1回りの時計方向に近付く。これにより、係合爪石86は、第1回転軸線O1回りの時計方向への遊びにより、基部284に対して第1回転軸線O1回りの時計方向に変位する。そして、図18に示すように、ストップ歯45aの歯先が係合面86aの第1端縁86a1を超えた時点で、ストップ歯45aと係合爪石86との係合が解除される。
【0133】
以上説明したように、本実施形態の定トルク機構230は、第1実施形態のレバーばね94の基部95に代えて、定力下段車60の回転に同期して第1回転軸線O1回りの時計方向に回転する係脱レバーユニット280の基部284を備える。また、係合爪石86は、基部284の回転に伴って第1回転軸線O1回りの時計方向に回転するとともに遊星歯車45に係脱可能とされ、遊星歯車45の回転軌跡M内で遊星歯車45に係合して遊星歯車45の自転を規制した後、基部284に対して変位して遊星歯車45の回転軌跡Mから退避可能とされている。これにより、第1実施形態と同様に、基部284から定力下段車60を介して脱進機14に伝達されるトルクの変動を抑制できる。したがって、脱進機14に伝達されるトルクの変動を抑制できる。
【0134】
また、定トルク機構30は、係合爪石86を遊星歯車45の回転軌跡Mの内側に向けて直接的に付勢するばね部294をさらに備える。この構成によれば、係合爪石86が遊星歯車45の回転軌跡Mから退避した状態が維持されることを抑制できる。よって、遊星歯車45に対する係合爪石86の係脱動作を安定させることができる。
【0135】
また、係合爪石86は、ばね部294に支持されている。この構成によれば、係合爪石86がばね部に支持されていない構成と比較して、部品点数を削減することができる。
【0136】
また、係脱レバーユニット280の基部284は、遊星歯車45に係合した係合爪石86の、基部284に対する第1回転軸線O1回りの反時計方向への変位を規制する突出部284bを備える。この構成によれば、係合爪石86が基部284とともに第1回転軸線O1回りを時計方向に回転する際に、係合爪石86が基部284に対して第1回転軸線O1回りの反時計方向に変位して、係合爪石86が遊星歯車45から離脱不能となることを抑制できる。したがって、遊星歯車45に対する係合爪石86の係脱動作を安定させることができる。
【0137】
また、係脱レバーユニット280の基部284は、基部284に対する第1回転軸線O1回りの時計方向への遊星歯車45の回転軌跡Mから退避した係合爪石86の変位を規制する突出部284bを備える。この構成によれば、係合爪石86が遊星歯車45の回転軌跡Mから退避した際に、係合爪石86が基部284に対して第1回転軸線O1回りの時計方向に変位することによって、係合爪石86が遊星歯車45の回転軌跡Mに再度進入して係合することができなくなることを抑制できる。したがって、遊星歯車45に対する係合爪石86の係脱動作を安定させることができる。
【0138】
[第4実施形態]
次に、図19及び図20を参照して、第4実施形態について説明する。第4実施形態は、係合爪石86が第1回転軸線O1とは異なる第3回転軸線O3回りに揺動可能に設けられている点で、第1実施形態とは異なる。なお、以下で説明する以外の構成は、第1実施形態と同様である。
【0139】
(係脱レバーユニットの構成)
図19は、第4実施形態の遊星車及び係脱レバーユニットを上方から見た平面図である。
図19に示すように、係脱レバーユニット380は、係合爪石86を第3回転軸線O3を中心に揺動可能に支持する。第3回転軸線O3は、第1回転軸線O1及び第2回転軸線O2に対して地板23(図4参照)の面内方向にずれた位置である。係脱レバーユニット380は、定力下段車60の定力下段筒61の上端部に固定的に支持されている。係脱レバーユニット380は、第1実施形態の係脱レバー84及びレバーばね94に代えて、係脱レバー384及びレバーばね394を備える。
【0140】
レバーばね394は、レバーブッシュ81に固定的に支持されている。レバーばね394は、レバーブッシュ81に固定された基部395(同期回転部)と、基部395から延びるばね本体397(ばね部)と、を備える。
【0141】
基部395は、第1回転軸線O1を囲う環状に形成されている。基部395は、レバーブッシュ81に外挿され、レバーブッシュ81に一体に連結されている。これにより、基部395は、定力下段車60の回転に同期して、第1回転軸線O1回りを時計方向に回転する。基部395には、レバーピン398(第1規制部)が突設されている。レバーピン398は、上下方向から見て係合爪石86と第1回転軸線O1との間に設けられている。レバーピン398は、円柱状に形成され、基部395から上方に突出している。なお、係脱レバーユニット380は、レバーブッシュ81を備えず、基部395が定力下段車60の定力下段筒61に直接連結されていてもよい。
【0142】
ばね本体397は、薄板ばねである。ばね本体397は、基部395における係合爪石86側の端部から反時計方向に沿って延びている。ばね本体397は、基部395を径方向外側で回り込み、上下方向から見て係合爪石86に対して第1回転軸線O1回りの反時計方向に対向する位置まで延びている。
【0143】
係脱レバー384は、レバーばね394の基部395に対して第3回転軸線O3回りに回転可能に設けられている。第3回転軸線O3は、レバーばね394の基部395に対して固定された位置に配置されている。これにより、係脱レバー384は、第1回転軸線O1回りを公転可能に設けられている。図示の例では、第3回転軸線O3は、レバーピン398よりもレバーブッシュ81の径方向の外側に配置されている。係脱レバー384は、レバー本体385と、レバー本体385に支持された係合爪石86と、を備える。
【0144】
レバー本体385は、遊星車43の遊星歯車45よりも下方、かつレバーばね394の基部395の上方に配置されている。レバー本体385は、第3回転軸線O3に沿って延びるレバー回転軸389によって、基部395に対して回転可能に支持されている。レバー本体385には、係合爪石86が取り付けられている。これにより、係合爪石86は、第3回転軸線O3回りに揺動可能に設けられている。係合爪石86は、レバー本体385から遊星歯車45側(上方)に突出している。係合爪石86は、第3回転軸線O3よりもレバーブッシュ81の径方向の外側に配置されている。
【0145】
レバー本体385は、レバーピン398に対して、第3回転軸線O3回りの時計方向から当接している。これにより、レバー本体385は、レバーピン398によって第3回転軸線O3回りの反時計方向の変位を規制されている。すなわち、レバーピン398を含むレバーばね394は、遊星歯車45に係合した係合爪石86の、基部395に対する第3回転軸線O3回りの反時計方向への変位を規制している。
【0146】
レバー本体385は、レバーばね394のばね本体397の先端に対して、第3回転軸線O3回りに反時計方向から当接している。これにより、レバー本体385は、ばね本体397によってレバーばね394の基部395に対して第3回転軸線O3回りの反時計方向に付勢されつつ、基部395に対する第3回転軸線O3回りの時計方向への変位を許容されている。以上により、レバー本体385に取り付けられた係合爪石86は、基部395に対して、第3回転軸線O3回りの時計方向への遊びを持った状態とされている。
【0147】
ここで、第3回転軸線O3は、レバーブッシュ81の径方向で係合爪石86と第1回転軸線O1との間に配置されている。このため、レバーばね394のレバーピン398は、遊星歯車45に係合した係合爪石86の、基部395に対する第1回転軸線O1回りの反時計方向に沿う方向への変位を規制している。また、係合爪石86は、定力下段車60に対して、第1回転軸線O1回りの時計方向に沿う方向への遊びを持った状態とされている。なお、第1回転軸線O1回りの時計方向に沿う方向とは、第1回転軸線O1回りの時計方向に平行または第1回転軸線O1回りの時計方向に対して僅かに傾斜する方向である。第1回転軸線O1回りの反時計方向に沿う方向も同様である。
【0148】
(係脱レバーユニットの作用)
上述したように構成された係脱レバーユニット380の作用について説明する。
第1実施形態と同様、遊星歯車45と係合爪石86とが係合している段階では、遊星歯車45のストップ歯45aの歯先が係合爪石86の係合面86aに対して強く押し当たった状態で係合する。
【0149】
定力ばね100からの動力によって定力下段車60が回転すると、これに伴ってレバーばね394の基部395が第1回転軸線O1回りを時計方向に回転する。基部395が回転すると、係脱レバー384が第1回転軸線O1回りを時計方向に公転する。すると、係脱レバー384は有する係合爪石86は、第1回転軸線O1回りの時計方向に沿う方向への遊びを持った状態で、第1回転軸線O1回りの時計方向に変位する。これにより、係脱レバーユニット380は、係合爪石86を遊星歯車45の回転軌跡Mから退避させるように、遊星歯車45から徐々に離脱させることができる。ストップ歯45aの歯先は、係合面86a上を摺動しながら係合面86aに対して反時計方向に移動する。
【0150】
図20は、第4実施形態の定トルク機構の動作説明図であって、遊星車及び係脱レバーユニットを上方から見た平面図である。
ストップ歯45aの歯先が係合面86aの第1端縁86a1に接触すると、ストップ歯45aと係合爪石86との間にかかる力Fは、第1回転軸線O1回りの時計方向に近付く。これにより、係合爪石86は、第1回転軸線O1回りの時計方向に沿う方向への遊びにより、レバーばね394の基部395に対して第1回転軸線O1回りの時計方向に変位する。そして、図20に示すように、ストップ歯45aの歯先が係合面86aの第1端縁86a1を超えた時点で、ストップ歯45aと係合爪石86との係合が解除される。
【0151】
以上説明したように、本実施形態の定トルク機構330は、第1実施形態のレバーばね94の基部95に代えて、定力下段車60の回転に同期して第1回転軸線O1回りの時計方向に回転するレバーばね394の基部395を備える。また、係合爪石86は、基部395の回転に伴って第1回転軸線O1回りの時計方向に回転するとともに遊星歯車45に係脱可能とされ、遊星歯車45の回転軌跡M内で遊星歯車45に係合して遊星歯車45の自転を規制した後、基部395に対して変位して遊星歯車45の回転軌跡Mから退避可能とされている。これにより、第1実施形態と同様に、基部395から定力下段車60を介して脱進機14に伝達されるトルクの変動を抑制できる。したがって、脱進機14に伝達されるトルクの変動を抑制できる。
【0152】
また、定トルク機構30は、レバー本体385を介して係合爪石86を回転軌跡Mの内側に向けて間接的に付勢するばね本体397をさらに備える。この構成によれば、係合爪石86が遊星歯車45の回転軌跡Mから退避した状態が維持されることを抑制できる。よって、遊星歯車45に対する係合爪石86の係脱動作を安定させることができる。
【0153】
また、レバーばね394の基部395は、遊星歯車45に係合した係合爪石86の、基部395に対する第1回転軸線O1回りの反時計方向に沿う方向への変位を規制するレバーピン398を備える。この構成によれば、係合爪石86が基部395とともに第1回転軸線O1回りを時計方向に回転する際に、係合爪石86が基部395に対して第1回転軸線O1回りの反時計方向に沿う方向に変位して、係合爪石86が遊星歯車45から離脱不能となることを抑制できる。したがって、遊星歯車45に対する係合爪石86の係脱動作を安定させることができる。
【0154】
また、係合爪石86は、レバーばね394の基部395に対して第1回転軸線O1及び第2回転軸線O2とは異なる第3回転軸線O3回りに揺動可能に設けられている。この構成によれば、係合爪石86の回転軸が第1回転軸線O1とは異なる第3回転軸線O3上に配置されるので、定トルク機構30の設計自由度を向上させることができる。さらに、係合爪石86が遊星歯車45から離脱する際に変位する方向を第1回転軸線O1回りの時計方向に対して傾斜させることができる。これにより、遊星歯車45と係合爪石86との離脱直前において遊星歯車45と係合爪石86との間にかかる力Fの向きに、係合爪石86の変位の方向に沿わせることが可能となる。よって、係合爪石86を遊星歯車45の回転軌跡Mからより確実に退避させることができ、遊星歯車45に対する係合爪石86の係脱動作を安定させることができる。
【0155】
なお、本発明は、図面を参照して説明した上述の実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において様々な変形例が考えられる。
例えば、上記実施形態では、固定歯車31が外歯タイプとされているが、これに限定されず、固定歯車は内歯タイプであってもよい。
【0156】
また、上記実施形態では、定力上段車40及び定力下段車60が同軸に配置されているが、これに限定されない。定力上段車と定力ばねとの間、または定力下段車と定力ばねとの間に、定力上段車または定力下段車に連結された歯車が介在していてもよい。
【0157】
また、上記実施形態では、遊星歯車45のストップ歯45aの歯先、及び係合爪石86の係合面86aの第1端縁86a1の両方が凸曲面状に形成されているが、これに限定されない。遊星歯車のストップ歯の歯先、及び係合爪石の係合面の端縁は、凸曲面状に形成されていなくてもよい。ただし、遊星歯車と係合爪石との接触面圧を低下させて遊星歯車及び係合爪石の削れを抑制できる点で、遊星歯車のストップ歯の歯先、及び係合爪石の係合面の端縁のうち少なくとも一方が凸曲面状に形成されていることが望ましい。
【0158】
また、上記実施形態では、定トルク機構にトルク調整機構110が設けられているが、トルク調整機構110が設けられていなくてもよい。この場合には、定力ばね100に所定の予負荷を加えた状態で、定力ばね100の内端部102を定力下段筒61に固定すればよい。
【0159】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上述した各実施形態を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0160】
1…時計 10…ムーブメント 11…香箱車(動力源) 14…脱進機 30,130,230,330…定トルク機構 45…遊星歯車 47…キャリア 60…定力下段車(定力車) 85…レバー本体(レバー体) 86…係合爪石(係合爪) 95…基部(同期回転部) 96…アーム(第1規制部) 97…ばね本体(ばね部) 100…定力ばね 194…度決めレバー(同期回転部) 195…フォーク部(第1規制部、第2規制部) 284…基部(同期回転部) 284b…突出部(第1規制部、第2規制部) 294…ばね部 385…レバー本体(レバー体) 395…基部(同期回転部) 397…ばね本体(ばね部) 398…レバーピン(第1規制部) O1…第1回転軸線(第1軸線) O2…第2回転軸線(第2軸線) O3…第3回転軸線(第3軸線)
【要約】
【課題】脱進機に伝達されるトルクの変動が抑制された定トルク機構、時計用ムーブメント及び時計を提供する。
【解決手段】定トルク機構30は、香箱車からの動力によって第1回転軸線O1回りに回転するキャリアと、キャリアに自転可能に支持された遊星歯車45と、キャリアの回転によって動力が補充される定力ばね100と、定力ばね100からの動力によって回転し、脱進機に定力ばね100の動力を伝える定力下段車60と、定力下段車60の回転に同期して第1回転軸線O1回りの時計方向に回転するレバーばね94の基部95と、基部95の回転に伴って第1回転軸線O1回りの時計方向に回転するとともに遊星歯車45に係脱可能とされ、遊星歯車45の回転軌跡M内で遊星歯車45に係合して遊星歯車45の自転を規制した後、基部95に対して変位して遊星歯車45の回転軌跡Mから退避可能な係合爪石86と、を備える。
【選択図】図10
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図18
図19
図20