【実施例】
【0038】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0039】
(参考例1)金属−有機構造体(MOF)の合成
硝酸亜鉛(II)六水和物(Zn(NO
3)
2・6H
2O)2.5mmolと、2−イミダゾールカルバルデヒド10mmolを、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)25mlに加えて撹拌し、さらにオイルバス(80℃)で4時間撹拌した。その後、オイルバスから取り出して、室温になるまで撹拌を続けた。メタノール25mlを添加して30分間撹拌した後、遠心分離(25℃、101,000rpm、60分)に供し、上清を除去した。全体量が50mlになるようにメタノールを添加した後、生じたMOFを、ボルテックスとソニケーションを用いて十分に分散させて遠心分離(同条件)に供し、上清を除去する操作を3回繰り返した。MOF中のDMFを除去するために、全体量が50mlとなるようにメタノールを添加して一日撹拌し、遠心分離(同条件)に供して上清を除去した。室温で乾燥させたあと、170℃でエバポレーションに供してMOFの粉末を得た。得られたMOFは、ZIF−90の名称で知られるMOFである。
【0040】
(実施例1)MOF−TOCN複合化膜の製造
(1)金属−TOCN複合体の調製
日本製紙株式会社製のTEMPO酸化セルロースナノファイバー(TOCN)(酸基量1.18mmol/g、平均繊維長0.48μm、平均繊維径8nm)の水分散液50mlに、硝酸亜鉛(II)六水和物(Zn(NO
3)
2・6H
2O)1mmolを加え、ボルテックスとソニケーションを用いて十分に分散させた後、遠心分離(同条件)にか
けて上清を除去した。全体量が50mlとなるようにアセトンを添加し、ボルテックスとソニケーションを用いて分散させた後、遠心分離(同条件)に供し、上清を除去する操作を3回繰り返した。全体量が50mlとなるように、DMFを添加し、ボルテックスとソニケーションを用いて分散させた後、遠心分離(同条件)に供し、上清を除去する操作を3回繰り返して、金属−TOCN複合体を得た。
【0041】
(2)MOF−TOCN複合体の調製
得られた金属−TOCN複合体、硝酸亜鉛(II)六水和物(Zn(NO
3)
2・6H
2O)1.5mmol、2−イミダゾールカルバルデヒド10mmolをDMF25mlに加えて撹拌し、さらにオイルバス(80℃)で4時間撹拌した。その後、オイルバスから取り出して、室温になるまで撹拌を続けた。メタノール25mlを添加して30分間撹拌した後、遠心分離(同条件)に供し、上清を除去した。全体量が50mlになるようにメタノールを添加した後、ボルテックスとソニケーションを用いて十分に分散させて遠心分離(同条件)に供し、上清を除去する操作を3回繰り返した。DMFを除去するために、全体量が50mlとなるようにメタノールを添加して1日撹拌し、遠心分離(同条件)に供して上清を除去した。全体量が50mlとなるようにメタノールを添加して、MOF−TOCNメタノール分散液50mlを得た。複合体のMOFは、ZIF−90の名称で知られるMOFである。
【0042】
(3)MOF−TOCN複合化膜の調製
得られたMOF−TOCNメタノール分散液を、ブフナー漏斗にセットした市販のセルロース濾紙(面積95cm
2)上に注ぎいれ、吸引濾過を行った。さらに、金属プレートで圧力をかけながら乾燥させた。濾紙上の複合化膜は濾紙に接着しておらず、濾紙からはがすことにより単独のMOF−TOCN複合化膜が得られた。
【0043】
(実施例2)MOF−TOCN複合化膜の製造
市販のセルロース濾紙(面積95cm
2)をポリ
アミドポリアミンエピクロロヒドリン(PAE、紙力増強剤)水溶液1.25wt%に15分間浸漬し、105℃で1時間乾燥させて、PAE浸漬濾紙を得た。実施例1の(1)、(2)にしたがって得たMOF−TOCNメタノール分散液を、ブフナー漏斗にセットしたPAE浸漬濾紙上に注ぎいれ、吸引濾過を行った。その後、別のPAE浸漬濾紙をさらに重ねて、アセトンで洗浄した後、40℃で4時間乾燥させた。得られたMOF−TOCN複合化膜は、膜両面のPAE浸漬濾紙に接着していた。これは、PAEの持つアゼチジニウム環が、加熱によりTOCN上の酸基と架橋したためと考えられる。このようにして、紙基材(濾紙)とMOF−TOCN複合化膜との積層体(MOF−TOCNフィルム@paper)が得られた。
【0044】
(比較例1)
実施例2に記載の方法で得られたPAE浸漬濾紙を2枚重ねにしたものを比較例1とした。
【0045】
(比較例2)
実施例2に記載の方法で得られたPAE浸漬濾紙上に、日本製紙株式会社製のTEMPO酸化セルロースナノファイバー(TOCN)(酸基量1.18mmol/g、平均繊維長0.48μm、平均繊維径8nm)の水分散液50mlを塗布した。その後、別のPAE浸漬濾紙をさらに重ねて、40℃で4時間乾燥させた。これにより、紙基材(濾紙)とTOCN膜との積層体(TOCN@paper)を得た。
【0046】
<X線回折による構造解析(XRD)>
参考例1のMOF(ZIF−90)、実施例2のMOF−TOCN複合化膜、及び比較例2のTOCN膜を、XRD(株式会社島津製作所製XD−D1)により分析した。結果を
図2に示す。
【0047】
X線回折のプロファイルにより、TOCN膜にセルロースI型結晶の(1−10)面と(110)面、(200)面のピークが観察された。また、合成したMOF(ZIF−90)担体のピークと、TOCNの結晶ピークがMOF−TOCN複合化膜でも確認されたことから、TOCN結晶を維持したままでTOCN上にMOFが合成、複合化されていると考えられた。
【0048】
<走査型電子顕微鏡による観察(SEM)>
参考例1のMOF(ZIF−90)、実施例2のMOF−TOCN複合化膜、及び比較例2のTOCN膜をカーボンコートし、SEM(JFEテクノリサーチ株式会社製Zeiss ULTRA55)により、各膜の表面を観察した。また、MOF−TOCN複合化膜の断面も観察した。SEM画像を
図3に示す。
図3のa)は、参考例1のMOF結晶であり、b)及びe)は、MOF−TOCN複合化膜の表面である。c)は、MOF−TOCN複合化膜の断面である。d)は、比較例2のTOCN膜の表面である。
【0049】
図3b)において、TOCN表面上にもMOF結晶(
図3a)と同様のキューブ状物質が見られたことから、TOCNをマトリックスとするMOF合成が確認された。MOF−TOCN複合化膜の断面図(
図3c)より、MOFが複合化膜の内部にも多数存在していることが明らかとなった。
【0050】
また、
図3e)において、MOF−TOCN複合化膜上の固定化されたMOF結晶表面には、TOCNと思われるナノファイバー状の物質が絡んで密着している様子が観察された。MOFとTOCNの密着性には、アスペクト比の高いTOCNの物理的な絡み、また親水性のZIF−90と極性高分子であるTOCN間の静電的相互作用の存在も寄与していると考えられる。既報のMOF複合膜では、先に合成したMOFの結晶を疎水性高分子に分散させることにより膜を形成しており、MOF結晶と疎水性高分子支持体との親和性の低さによるMOF結晶と支持体との間に生じる隙間(例えば、非特許文献1の第9864頁の
図2(c)参照。MOF(ZIF−90)と、ポリイミド支持体(6FDA−DAM)とからなる複合化膜のSEM画像において、MOFと支持体との間に隙間が生じている)や、支持体自体の気体透過性の高さにより、気体の選択透過率が低下している可能性があったが、実施例の複合化膜では、MOF(ZIF−90)の結晶を、TOCN界面上の酸基に導入した金属イオン(Zn
2+)との配位結合を利用しつつ合成したために、よりMOF結晶と支持体との密着性が向上したと考えられる。
【0051】
<エネルギー分散型X線解析(DES)>
MOF−TOCN複合化膜について、SEMの表面構造解析と同時に、Thermo ELECTRON社製のNSS300を用いて、表面の元素分析を行った。結果を
図4に示す。
【0052】
画像でMOF結晶が視認できない部分(
図4aの1)においても、Znの特性X線が検出された(
図4b)。MOF−TOCN複合化膜表面に粒径の小さなMOF結晶が存在するか、または複合化膜内部にMOF結晶が存在するものと考えられる。
【0053】
<耐水性>
MOF−TOCN複合化膜に水を滴下したところ、膜表面に水滴を形成せずに容易に吸収したことから、複合化膜は親水性であることが確認できた。水に対する耐性は、比較例2のTOCN膜のみでは、水に浸して一定時間放置すると水を吸収してゲル状態となったが、MOF−TOCN複合化膜では、水に浸しても構造が崩れなかった。セルロース繊維同士の水素結合と物理的な絡みによって構成されている紙やTOCN膜とは異なり、MOF−TOCN複合化膜では、TOCN結晶界面上の酸基に存在している金属イオンがTOCNの繊維を架橋しているために、水中での繊維間の解離が抑制されている可能性が示唆される。
【0054】
<ガス分離性能の試験>
マスフローコントローラMODEL8500(コフロック株式会社製)、マスフローメーターMODEL3810DS(コフロック株式会社製)、バキュームコントローラV−850(日本ビュッヒ株式会社製、GC−8A(島津製作所製)を組み立てた(
図5に概要を示す)。比較例1のPAE浸漬濾紙(paper)、実施例2のPAE浸漬濾紙とMOF−TOCN複合化膜との積層体(MOF−TOCNフィルム@paper)、及び比較例2のPAE浸漬濾紙とTOCN膜との積層体(TOCN@paper)のそれぞれを分離膜として用い、CO
2:CH
4=1:1の割合で混合したガスを差圧0.1MPa、各ガス供給量100sccmで流して、ガス分離試験を行った。なお、MOF(ZIF−90)の孔径は0.35nm、二酸化炭素分子の大きさは0.33nm、メタン分子の大きさは0.38nmである。ガスの透過率は、次の式で表すことができる。
【0055】
【数1】
また、CO
2/CH
4の透過選択率は、透過率の比で表すことができる。
【0056】
【数2】
各ガスの透過流量の測定結果を
図6に示す。比較例1の濾紙のみ(paper)に比べて、比較例2のTOCN単独膜(TOCN@paper)では、CH
4透過流量とCO
2透過流量がともに99%減少しており、TOCN支持体に高いガスバリア性があることがわかる。実施例2の複合化膜(MOF−TOCN@paper)では、比較例1の濾紙のみ(paper)に比べて、CH
4透過流量が99%減少したが、CO
2透過流量は67%を維持した。CH
4透過流量の減少は、TOCN支持体のガスバリア性に起因するものであると考えられる。一方、CO
2は、TOCN支持体に導入されたMOFの孔径よりも分子サイズが小さく、複合化膜のMOF部分を通過したものと考えられる。
【0057】
本発明のMOF−TOCN@paperにおける透過流量から計算したCO
2の透過率は、11800barrerであり、これは、非特許文献1の第9865頁の表1に記載のZIF−90とポリイミド支持体との複合化膜のCO
2透過流量720barrerの約16倍に相当し、本発明の複合化膜は、既報のMOF複合化膜に比べて、極めて高いCO
2透過性を示すことがわかる。上記の通り、TOCN支持体自体は、高いガスバリア性を有するから、TOCNにMOFを導入することにより、TOCNの緻密な膜に、MOFの孔径に応じた孔を形成することができたことが示唆される。
【0058】
CO
2/CH
4透過選択率を計算すると、比較例1の濾紙のみではほぼ1であり、濾紙自体にはCO
2/CH
4分離能はないことがわかる。一方、実施例2のMOF(ZIF−90)−TOCN@paperでは68であった。これは、非特許文献1の第9865頁の表1に記載のZIF−90とポリイミド支持体との複合化膜のCO
2/CH
4(CO
2:CH
4=1:1)透過選択率37に比べて顕著に高い値であり、本発明のTOCNを支持体とするMOF複合化膜は、MOFとして同じ種類のもの(ZIF−90)を使用した場合でも、既報のMOF複合化膜に比べて、顕著に高いCO
2/CH
4透過選択率を示すことがわかる。既報のMOF複合化膜では、ポリイミド支持体部分または支持体とMOFとの隙間部分でCH
4が透過している可能性があり、これにより透過選択率が低下している可能性がある。一方、本発明のTOCNを支持体とするMOF複合化膜は、TOCN自体に高いガスバリア性があるため、TOCN支持体部分での気体のリークを防ぐことができ、また、MOFとTOCNとの親和性による密着性の向上により、MOF周囲の隙間から気体のリークも減少し、これにより、透過選択率が大幅に向上したと考えられる。