【実施例】
【0050】
以下、実施例により、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0051】
[実施例1]環状エーテル構造を有する有機化合物分解菌の単離
(1)スクリーニング
沖縄県眞栄田美咲の海岸で採取された海水を試料とした。環状エーテル構造を有する有機化合物分解菌を単離するために、パーコレーターと呼ばれる集菌装置(分解菌迅速集積装置、藤原製作所製)を用いた(
図3参照)。
パーコレーターの原理としては、多孔質の炭化資材に微生物を閉じ込め、そこに唯一の炭素源を添加した液体培地を還流し続けることで、培地中の炭素源の濃度は減少していく。炭化資材中の微生物が増殖すると炭素源の減少速度は速くなり、炭化資材を砕いて抽出した液を寒天培地に塗布することで単離することができる。
【0052】
まず、オートクレーブで滅菌処理したパーコレーター10に、上記沖縄県でサンプリングした海水に1日漬けた炭化資材A130(マングローブを炭にして直径2mm〜4mmに砕いたもの)1を10g入れ、下記表2に示した組成のBSM液体培地2を還流液として250mL入れ、エアレーションポンプ3を用いて、還流を開始した。
【0053】
【表2】
【0054】
表2において、Vitamin 5mixtureには、下記表3に示した成分が含まれる。また、Trace Elementsには、下記表4に示した成分が含まれる。
【0055】
【表3】
【0056】
【表4】
【0057】
還流液中の1,4−ジオキサンの減少傾向を簡易的に追うために、初期濃度を1,000ppmに調製し、100ppmを切ったことを確認したら、その日の内に装置内の還流液を全て交換し、還流を再開して1,4−ジオキサンの減少傾向を追った。この操作を160日間繰り返し行った。結果を
図4に示す。海水サンプルにおいて、1,4−ジオキサンの分解速度が安定した154日目で集積培養を停止し、菌が存在している炭化資材A130を取り出した。
【0058】
炭化資材A130を砕き、リン酸バッファーで抽出した。次に、上記表2からVitamin 5mixtureとTrace Elementを除いたBSM培地をベースにした寒天培地を作製した。リン酸バッファーの抽出液を作製した寒天培地に平板塗抹した。寒天培地には、32個のコロニーが生えてきた。
【0059】
(2)1,4−ジオキサンの分解能の確認試験
続いて、32個のコロニーの内、特に成長の早い菌株No.12、17、24、31の4種について、1,4−ジオキサンの分解能の確認試験を行った。
分解確認試験は、10cm程度のふた付きガラス管に1,000ppmに調整したBSM液体培地を2ml入れた。続いて、それぞれ単離したコロニーを、白金耳を用いて入れ、4日間振とうした。その後1,4−ジオキサンの濃度をHPLCで測定した。測定条件は、親水性相互作用クロマトグラフィー(Hydrophilic Interaction Chromatography:HILIC)カラムを使用した。さらに、アセトニトリルと0.1%リン酸の比を、95:5、60:40、95:5と経時的に変え、濃度勾配を作り、15分間測定した。結果を
図5に示す。
図5において、Firstとは、菌体を入れてすぐの1,4−ジオキサン濃度を表す。また、コントロールとは、菌体を含まないBSM液体培地を用いて4日間振とうし、同様の試験を行った結果を表す。
【0060】
図5から、No.31の菌株について、1000ppm濃度の1,4−ジオキサンを約70%分解する能力があることが明らかとなった。No.31の菌株を1,4−ジオキサン分解菌RM31株と命名した。
続いて、RM31株について、様々な条件下でどのように分解に影響するか検討した。
また、RM31株から16S rRNAを分離増幅して、(株)テクノスルガ・ラボに同定を依頼したところ、その相同性からPseudonocardia属の一種であることが明らかとなった。
【0061】
[試験例1]RM31株による経時での1,4−ジオキサン分解試験
200mLの三角フラスコに1,4−ジオキサンの濃度を1,000ppmに調整したBSM液体培地を20mL入れ、菌体量を全体の5%になるように添加した。フラスコはゴム栓とパラフィルムをして、25℃、150rpmで振とうし、0、6、10.5、24、48、72、120時間ごとにサンプリングした。HPLC(実施例1の条件で実施。)を用いて、サンプル中の1,4−ジオキサンの濃度を測定した。結果を
図6に示す。
【0062】
図6から、48時間で約400ppm程度の1,4−ジオキサンを分解したことが確かめられた。さらに、48時間後は、1,4−ジオキサン濃度がほぼ横ばいとなり、分解活性が低下することが確かめられた。48時間の内に、液体培地内の栄養をほとんど使い果たしたか、又は、酸素濃度の低下やpH等、実験装置内の環境要因の変化が分解活性に大きく影響している可能性が示唆された。
【0063】
[試験例2]RM31株による1,4−ジオキサン分解のpHによる影響の確認試験
まずBSM培地を調製した。BSM培地の初期pHは7.5で中性を示した。1%HClと1M NaOHを用いて、BSM培地のpHを3〜10まで段階的に調整し、その他の条件は試験例1と同様にして、25℃、150rpmで5日間振とう培養した。pH調整直後(First)、1日後、5日後の1,4−ジオキサン濃度を、HPLC(実施例1の条件で実施。)を用いて測定した。結果を
図7に示す。
【0064】
図7から、pHが低下するごとにRM31株の分解活性が低下していくことが明らかとなった。また、BSM培地は白色に濁っている培地であるが、pHが低下していくごとに無色透明に近づくことが明らかとなった。培養試験を行っている中で、RM31株を添加した液体培地の濁度が、一度低下した後に再び増殖するという現象が確認された。これは、RM31株が1,4−ジオキサンを分解することで二酸化炭素が実験装置内に増加し、それが液体培地に溶け込むことでpHが酸性に近づいたためと推察される。また、それに伴い、分解活性も低下し、48時間以降の分解率の低下に繋がったと推察される。
【0065】
[試験例3]RM31株による低濃度(150ppm)の1,4−ジオキサン分解試験
発見されている1,4−ジオキサン分解菌の中には、低濃度では活性が働かないものも存在する。RM31株について、低濃度の条件で1,4−ジオキサンの分解能が作用されるかを確認するための試験を実施した。
1,4−ジオキサンの初期濃度を150ppmと低めに設定し、その他の条件は試験例1と同様の条件にして、1日間振とう培養した。試験終了後の1,4−ジオキサン濃度を、HPLC(実施例1の条件で実施。)を用いて測定した。結果を
図8に示す。コントロールとして、RM31株を含まないBSM液体培地についても同様の試験を実施した。また、N.Dとは、検出限界以下であることを意味する。
【0066】
図8から、1,4−ジオキサンが低濃度の条件下でも、高濃度の時と比較して分解能を維持し、1,4−ジオキサンを分解することが確かめられた。また、コントロールでは、ほとんど1,4−ジオキサンが減少していないため、揮発による影響はないものと推察される。
【0067】
[試験例4]RM31株による1,4−ジオキサン分解のNaClによる影響の確認試験
BSM培地は海水を模した培地であるため、塩分濃度が3%になるようにNaClが添加されている。1,4−ジオキサンは主に陸圏の地下水を中心に汚染している物質であるため、真水に近い状態での分解能を検討する必要がある。上記表2の組成からNaClを除外した培地を作製し、その他の条件は試験例1と同様の条件にして、25℃、150rpmで2日間振とう培養した。培地調製直後、1日後、2日後の培地中の1,4−ジオキサン濃度を、HPLC(実施例1の条件で実施。)を用いて測定した。結果を
図9に示す。コントロールとして、3%NaClを含むBSM培地についても同様の試験を実施した。
【0068】
図9から、3%NaClが添加されているものと同様に、48時間後で最も多く1,4−ジオキサンを分解した。NaClを添加していないものでは、200ppm程度(全体の25%程度)の1,4−ジオキサンを分解していることから、3%NaClが添加されているものと比較して、活性がやや低下するが、十分に1,4−ジオキサンの分解能を有することが確かめられた。
【0069】
[試験例5]RM31株による1,4−ジオキサン分解の温度による影響の確認試験
環境要因として温度が分解能にどのように影響するかを調べるために、恒温槽の温度を20℃と30℃にそれぞれ設定し、その他の条件は試験例1と同様の条件にして、5日間振とう培養を行った。培地調製直後、1日後、2日後、5日後の培地中の1,4−ジオキサン濃度を、HPLC(実施例1の条件で実施。)を用いて測定した。結果を
図10に示す。20℃での試験結果が(A)であり、30℃での試験結果が(B)である。コントロールとして、RM31株を添加していないBSM培地についても同様の試験を実施した。
【0070】
図10(A)及び(B)から、20℃の方が30℃よりも高効率で1,4−ジオキサンを分解することが確かめられた。
これは、採取した環境の水温が、夏の時期でも24〜28℃しかないため、30℃では、1,4−ジオキサンの分解活性が失活してしまったものと推察される。20℃でも十分に1,4−ジオキサンの分解をしているが、試験例1と比較すると、25℃のほうが1,4−ジオキサンをより分解している。よって、RM31株にとって、25℃が最適な温度であると推察される。
また、コントロールにおいて、1,4−ジオキサンの量が減少しているのは、経時的に揮発したためであると推察される。
【0071】
[試験例6]RM31株による1,4−ジオキサン分解の培地濃度の影響の確認試験
表2の培地成分について、NaClと1,4−ジオキサン以外の全ての試薬について、2倍の量を添加し、培地を調製した。その他の条件は試験例1と同様の条件にして、5日間振とう培養を行った。培地調製直後、1日後、2日後、5日後の培地中の1,4−ジオキサン濃度を、HPLC(実施例1の条件で実施。)を用いて測定した。結果を
図11に示す。コントロールとして、RM31株を添加していないBSM培地についても同様の試験を実施した。
【0072】
図11から、NaCl及び1,4−ジオキサン以外の窒素源を始めとする無機塩類の添加量を2倍にしても、1,4−ジオキサンを十分に分解できることが確かめられた。このことから、窒素源の量は1,4−ジオキサンの分解にあまり影響していないことが明らかとなった。よって、試験例1において分解速度が減少したのは、培地の栄養不足が原因ではなく、pHの低下等、他の環境要因によるものであると推察される。
【0073】
[試験例7]RM31株から抽出した粗酵素による1,4−ジオキサンの分解試験
遠沈管にRM31株の入ったBSM培地を入れて遠心した。次に、上清を捨て、0.1M リン酸バッファーを用いて3回程度洗浄した。続いて、海砂を添加してRM31株の菌体を破砕した。さらにそれを遠心し、上清を粗酵素液として回収した。1,4−ジオキサンの濃度を1,000ppmに調整したBSM培地に上記回収した粗酵素液が1%(体積比)になるように添加し、25℃、150rpmで30分振とうした。培地中の1,4−ジオキサン濃度を、HPLC(実施例1の条件で実施。)を用いて測定した。結果を
図12に示す。コントロールとして、0.1M リン酸バッファーのみを添加したものについても同様の試験を実施した。
【0074】
図12から、試験例1等の菌体を用いた試験と比較して、短時間で1,4−ジオキサンの分解を確かめられた。実験装置は短時間での揮発の影響を受けにくいことから、RM31株がこの酵素を内包している可能性が示唆された。
【0075】
[試験例8]RM31株によるテトラヒドロフラン(THF)の分解試験
テトラヒドロフラン(THF)は1,4−ジオキサンに構造が良く似ており、また、汚水等の水質汚染地域でもよく同時に検出されている有機物質である。テトラヒドロフラン又は1,4−ジオキサンを含むBSM培地で5日間生育させたRM31株を用いて、テトラヒドロフランの分解能を確認した。
まず、下記表3で示した組成のテトラヒドロフランの濃度を1,000ppmになるようにBSM液体培地を調製した。
【0076】
【表5】
【0077】
続いて、その他の条件は、試験例1と同様の条件にして、テトラヒドロフランを含むBSM培地で生育させたRM31株(以下、THF−RM31株と呼ぶ。)と、1,4−ジオキサンを含むBSM培地で生育させたRM31株(以下、1,4−ジオキサン−RM31株と呼ぶ。)を添加し、5日間振とう培養を行った。培地調製直後、1日後、2日後、5日後の培地中のテトラヒドロフランを、HPLC(実施例1の条件で実施。)を用いて測定した。結果を
図13に示す。コントロールとして、いずれのRM31株も添加していないテトラヒドロフランを1,000ppm含むBSM培地を用いて、同様の試験を実施した。
【0078】
図13から、THF−RM31株及び1,4−ジオキサン−RM31株共にテトラヒドロフランの分解能を有することが確かめられた。このことから、テトラヒドロフランの分解において、1,4−ジオキサンを分解する酵素と同じ分解酵素(monooxygenase)を用いた可能性が示唆された。また、両者を比較すると、THF−RM31株の方が10%以上テトラヒドロフランの分解能が高いことが明らかとなった。これは予めテトラヒドロフランを含む環境で生育したことで、テトラヒドロフランのエネルギー源への変換が効率よく行われたためであると推察される。
【0079】
[試験例9]RM31株とその他の1,4−ジオキサン分解菌との1,4−ジオキサン分解能の比較試験
シュードノカルディア・ジオキサニウォラン(Pseudonocardia dioxanivorans)D17株を用いて、100ppmの1,4−ジオキサンを含む下記表4に示した組成の無機塩培地に菌体量を全体の5%になるように添加した。続いて、28℃、120rpmで1日間振とう培養を行った。
【0080】
【表6】
【0081】
HPLC(実施例1の条件で実施。)を用いて、培地調製直後、5、10、15、20、24時間後にサンプル中の1,4−ジオキサンの濃度を測定した。
【0082】
その結果、20時間で全ての1,4−ジオキサンを分解したことが確かめられた。よって、D17株の1,4−ジオキサン分解速度は、5.0mgL
−1/hであることが明らかとなった。
【0083】
一方、試験例1において、RM31株は、48時間で400ppmの1,4−ジオキサンを分解したことが確かめられており、RM31株の1,4−ジオキサン分解速度は、31.6mgL
−1/hであった。また、試験例4において、NaClを含まない環境でも、48時間で200ppmの1,4−ジオキサンを分解したことが確かめられており、RM31株の1,4−ジオキサン分解速度は、15.8mgL
−1/hであった。
よって、RM31株は、D17株と比較して、1,4−ジオキサン分解速度が3倍以上であることが明らかとなった。