【課題を解決するための手段】
【0010】
(発明の要旨)
本発明者らは、従来技術の選抜戦略は、現在の集団において行われた選抜が育種過程に与える長期的影響を考慮に入れていないことに思い当たった。これは従来技術の方法において、成績自体が最も良い親は互いに掛け合わせると成績が最も良い遺伝子型を後続の世代に生ずるはずであると、相加的モデルの下に仮定し、それらを選抜することになるからである。
【0011】
しかし例えば、有利な対立遺伝子が大部分重なり合う親2個体が選抜された場合、将来の遺伝子型改善は、これらの座位に関しホモ接合対立遺伝子の固定された状態(この状態は、片親を近親交配させることによっても達成できる)を得ることに限定されるはずで、それに代わる座位上の他の有利な対立遺伝子を、他の親を導入することによって集める選抜機会を逃してしまう。
【0012】
GSモデルに基づくまたはGSモデルによって予測される、育種における選抜を行う従来技術の方法は、表現型観察による伝統的な選抜操作を踏まえて形作られており、ゲノム予測モデルが、どのゲノム区画が形質の正および負の成績に最も寄与するのかに関する詳細な情報を含むことを見落としている。GSの基本原理は、ゲノムの全座位が形質に寄与すると仮定することなのだが、ほとんどのGSモデルは、各単一座位の相加効果のみを特定する(例えばEP1962212またはUS2010/0037342を参照されたい)。したがって、直接測定可能な表現型および所与のGS予測モデル双方が、任意の2個体について同程度に高い量的形質値を予測するようなことがあるとしても、次の育種ステップにおいて、いずれにおいてもその優れた成績が、両ゲノムの同一座位によって予測されるのか、または異なるゲノム領域によって予測されるのかは、大きな違いを生む。後者の場合は有利な対立遺伝子を組み合わせるので、続く育種サイクルにおいて形質の平均の改善が予期され得るが、これに対し前者の場合は、改善は予期され得ない。表現型選抜およびゲノム選抜において、親の成績は、互いに組み合わされた親の能力、および掛け合せの結果生じる遺伝子型が次世代または後続の世代で収めると予期される成功を、適切に予測しない。
【0013】
異なるペアの親の、組み合わされた能力および予期される成功を予測する最初の試みは、WO2012075125に記述されている。つまりこの文書は、異なるペアの親の育種価を、各ペアの親における子孫の遺伝子型をシミュレートしたものの平均育種価を採用することによって計算することを提案している。しかし本発明者らは、集団の秘める最大限の能力、例えば特定の形質に関わる能力は、複数の親からなる組合せ(すなわち、単一ペアを超える個体数の親)のうちに存することに気付いた。完全なゲノムワイドな相補性は、単一ペアの親には生じそうにないからである。実際、数回の実験において本発明者らは、単一ペアの親を選抜(通常のゲノム選抜)し、そのペアを掛け合わせることに基づく戦略に比べ、少なくとも親3個体からなるサブセットを選抜することに基づくゲノム選抜戦略は、効率がはるかに高くなることを発見した。
【0014】
技術的に言えば本発明者らはこれを、個々のペアの遺伝子型に注目するのではなく、親世代の少なくとも3個体からなる組合せの遺伝子型のゲノムワイド推定育種価に注目することによって達成した。少なくとも3つのマーカー遺伝子型からなる各サブセットは、ハプロタイプのライブラリーであって、その中の複数の組合せについて、達成可能な最も高い表現型値の予測される遺伝子型を生ずる可能性が予測可能なライブラリーと考えることができる。一部の実施形態においてこれは、次の育種サイクルまたは複数の育種サイクルで子孫に伝達される前に、遺伝子型内に存するハプロタイプを組み合わせることによって達成されることになる。むろん遺伝子型は、親2個体を掛け合わせる、または自家受精することによってのみ組み合わせることができる。しかし当業者には明白なように、少なくとも3つのゲノムからなるサブセットの混合は、本開示の選抜方法の後に実行し得る数回の並行なおよび/または連続する掛け合せによって実現され得る。
【0015】
本開示はしたがって、訓練フェーズ(そこでは、変更は提案されていない)において作り上げたGSモデルの使用を、選抜フェーズの効率を向上させることによって拡張する。この手順は、成績が最も良いペアを選抜するのではなく、後続の世代において成績が最も良い子孫を生ずる可能性が最も高い少なくとも3個体からなる群の選抜を可能にする。このアプローチは、シミュレーションモデルにおいて、予想外に優れた育種結果を達成することが示された。
【0016】
本開示を支える原理の例として、
図1は、遺伝子型G1−3によって表される二倍体の3個体からなる育種集団における選抜過程をグラフに表示する。各個体は5座位、L1−5について遺伝子型解析されており、特定の遺伝子型を有する個体の表現型は、その座位に出現する各対立遺伝子に正または負の効果を割り当てる数理的なゲノムワイド予測モデルを使用して予測できる。本開示の発想は、現在の集団に出現するハプロタイプ(H1.1−H3.2)またはそれらの組換え体から、表現型の成績が最も高くなると予測される将来の仮想の遺伝子型を構築しようとするものである。
図1の例において、1回の掛け合せにより得ることのできる最良の達成可能な遺伝子型は、ハプロタイプH1.1およびH3.1(太字にて示されている)を組み合わせることであり、これは互いを、座位L5において他の座位に対し補完し合う。本開示によると、また
図1から外挿すると、より大きな集団においても、仮想の遺伝子型は、2個体超のハプロタイプから同様に構築され得ることが明白となる。
【0017】
別のハプロタイプとの座位間の組換えが、正に寄与する対立遺伝子を増加させることになる場合(ハプロタイプH1.1においてそうであるように)、育種価は、組換えハプロタイプから、この組換えがそれらの座位間に起きる確率(θ
1→2の例、P[θ
1→2]は、座位1と座位2との間の組換えの推定頻度を定める)を乗じることで計算される。一方、組換えが、正に寄与する対立遺伝子の減少につながる場合、そのハプロタイプの予測表現型値には、組換えの起きない確率(例におけるP[notθ
3→4]=1−P[θ
3→4])を乗じる。
【0018】
別の例が表1に示されている。これは、組み合わされたゲノム推定育種価(Combined Genomic Estimated Breeding Values)を使用した、集団からの選抜戦略を示す。二倍体ホモ接合の5個体からなる非常に小さな集団の遺伝子型が確立されていた(12座位によって表されている;表の上部)。「A」と印された各対立遺伝子が、ゲノム予測モデルによると所望の形質値に正に寄与し、「B」が他の全ての対立遺伝子を示す場合、達成可能な最良の遺伝子型は、最も高い割合の「A」対立遺伝子を含む。
【0019】
各個体のゲノム推定育種価(GEBV)は、表の下側の対角線上の影付きのセル(boxed cell)に示されており、対角線から外れた欄はCGEBVを含む。
【0020】
GEBVを使用して従来技術の選抜手順に従っていたなら、値の最も高い個体が次世代のための親として選抜されていたはずである。表1の例で言えばこれは個体1、2および4である。しかし親のペアの、組み合わされた能力を考慮に入れると、結果は異なったものとなることがある。例えば表1において、組み合わされたGEBVを順位付けすると、個体1および2;1および3;ならびに1および5からなる組合せが、個体1および4からなる組合せより優れていることが明らかとなる。これらのペアの親の方が、次世代において最高順位の遺伝子型を生ずる見込みが高いからである。
【0021】
上述の集団に集まっている最良の対立遺伝子を見出す見込みは、親2個体超からなる組合せが比較される場合にさらに高くなる。親3個体からなる全組合せが比較されたなら、組合せ(1、2および3)ならびに(1、2および5)は優れた三つ組で、CGEBVが0.92(表には示されていない)だが、一方、GEBV自体が優れた親の三つ組(1、2および4)は、たった0.83のCGEBVを有することが明らかになる。優れた三つ組は、親2個体の組合せ、(1、2)、(1、3)および(1、5)、について計算される優れたCGEBVから直接推測することはできない。このことは表1の例において明白となる。組合せ(1、3および5)は、組合せ(1、2および5)ならびに(1、2および3)よりも低いCGEBV(0.83)を有し、これは、親3個体の組合せが比較された場合に初めて見出され得るからである。
【0022】
表1の例の全個体がホモ接合なので、ペア毎の(第1世代)CGEBV推定に関しては、組換え過程は問題とされない。
【0023】
【表1】
【0024】
さらなる例が表2に示されている。これは表1と同様の選抜戦略を示すが、ここではこの選抜戦略はヘテロ接合集団に対して適用されており、組換え事象を考慮に入れる。表2の例において、GEBV値によると、個体1および2が、最高順位の親であるが(それぞれ0.33および0.21)、異なるペアの親についてのCGEBV順位は、実際には組合せ(1、3)、(1、4)および(1、5)が最良の子孫遺伝子型を生じ得ることを示す。個体3、4および5の遺伝子型は同一であるが、ハプロタイプの対立遺伝子の相(the allele phases)は異なる。個体3の第1のハプロタイプの対立遺伝子は、有利な対立遺伝子を全て連鎖相内に含み、有利な対立遺伝子を全て子孫に伝えるのに組換え事象を必要としない。個体4および5の遺伝子型は、全対立遺伝子を単一のハプロタイプに伝達するのに2回の組換えが必要とされる。個体4は、必要とされる1つ目の組換えは座位2から4の間であり、個体5はこれは座位1から2の間である。座位2から5の間の遺伝距離の方が大きいならば、必要とされる組換え事象は個体4において起きる確率がより高い。表中の元のCGEBV値を、組換え事象の起きる確率を用いて補正することによって、個体1の他個体とのCGEBVの序列は3、4、5、2となる。結果として個体1および3からなる組合せが、現在の親群において、次世代のための最良のペアの親である。
【0025】
【表2】
【0026】
定義
以下の記述および例において、いくつかの用語が使用される。このような用語に割り当てられた範囲を含め、明細書および特許請求の範囲の明白で一貫した理解が得られるように、明細書および特許請求の範囲に使用される用語について、以下に定義する。本明細書に別段の規定がない限り、使用される全ての技術および科学用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。
【0027】
選抜および選抜基準:次世代への遺伝物質に寄与することになる、集団内の個体を選ぶための過程、モデル、系またはアルゴリズム。特に、このような過程、モデル、系またはアルゴリズムは、自然のもしくは人工的な現象、または手順のステップ双方に基づくことがある。選抜基準は、表現型のまたはゲノムの特徴、例えば、それだけに限らないが、遺伝子、遺伝子発現、遺伝マーカー、遺伝子の組合せ、量的形質座位、形質または形質の組合せの存在または存在の程度に基づくことができる。
【0028】
育種価:育種プログラムの個体など、遺伝の単位の遺伝的メリット。この遺伝的メリットは、対象とする少なくとも1つの表現形質を改善することを目的とした育種プログラムにおける、個体の一遺伝子もしくは複数の遺伝子または(遺伝)座位による、対象とする少なくとも1つの表現形質への寄与によって決定される。
【0029】
推定育種価:個体の育種価の概算。これは特に、その個体の子孫の平均成績と、無作為交配集団の全子孫の平均成績との推定差異に基づく。無作為交配集団の全子孫の推定平均成績は、家族間の関係、すなわち系統関係にある個体は通常交配しないことを考慮に入れてもよい。
【0030】
ゲノムワイド推定育種価:ゲノムワイドの情報、すなわちゲノムの異なるまたは離れた(遺伝)座位、例えば異なる染色体上の座位など、に由来する情報に基づく推定育種価。特に、ゲノムワイド推定育種価は、対象とする少なくとも1つの表現形質を改善することを目的とした育種プログラムにおける、個体のゲノムワイド遺伝子もしくはゲノムワイド(遺伝)座位またはゲノムワイドハプロタイプもしくはゲノムワイド分子マーカースコアによる、対象とする少なくとも1つの表現形質への寄与によって決定される、個体のゲノムワイドな遺伝的メリットの概算である。
【0031】
組み合わされたゲノムワイド推定育種価(CGEBV):集団内の3個体以上からなる組合せのゲノムワイド推定育種価。CGEBVの最も高い組合せ(その他の組合せに比べ)は総合で、対象とする少なくとも1つの表現形質を改善することを目的とした育種プログラムでの後続の世代において成績が最も良い子孫を生ずる推定確率が最も高い。つまりCGEBVは実際のところ、仮想の子孫の遺伝子型のゲノムワイド推定育種価を説明するのであって、単に個々の潜在的親の遺伝子型を別個に考慮するのではない。特に、潜在的親は、成績が最も良い個体自体でないことも、ゲノムワイド推定ゲノム育種価が最も良い潜在的親でないこともある。
【0032】
制御されたゲノムワイド選抜:1つ以上の選抜基準を目的とした育種プログラムでの後続の世代において成績が最も良い子孫を生ずる可能性が総合で最も高い、集団内の個体からなる組合せに注目することに基づく選抜方法。制御されたゲノムワイド選抜において注目するのは、仮想の子孫の遺伝子型のゲノムワイド推定育種価(組み合わされたゲノムワイド推定育種価)であって、個々の親自身の遺伝子型に注目することによるのではない。特に、この選抜方法は、成績が最も良い個体自体を選抜することに基づいていない。
【0033】
通常のゲノムワイド選抜:ゲノムワイド推定育種価が最も良い親自体を掛け合わせることに基づく選抜方法。
【0034】
子孫:本明細書において使用される「子孫」という用語は、交雑によって得られる第1のまたはそれに続く世代を指す。
【0035】
表現型:個体の特徴または形質の複合。特に、観察可能な特徴または形質、例えば、それだけに限らないが、形態的、身体的、生化学的、発生のまたは行動の特徴または形質の複合。個体の表現型は、遺伝子の発現および環境因子によって、遺伝子発現と環境因子との相互作用の上に形成され得る。
【0036】
対象とする表現形質:特定の測定単位にて定量され得る植物または動物種の遺伝し得る特徴。対象とする量的表現形質の例は(それらだけに限らないが)、植物に関しては:果実のサイズ、果実の数、1ヘクタール(10000平方メートル)当たりの収量kg、草高、相対成長速度、開花期、発芽率、葉の面積、耐病性、収量構成要素、生化学的組成であり、または動物に関しては:乳量、乳タンパク質含量、枝肉重量、飼料転換率、体脂肪組成物、産仔数、毛色、耐病性である。対象とする量的表現形質が増加または減少し、集団のその特徴の平均値におけるそれぞれのシフトが、親世代に対し相対的に集団、品種または子孫の経済価値を向上させる可能性のあることを望み得る。
【0037】
遺伝子型:本明細書において使用される「遺伝子型」という用語は、細胞、生物体または個体(すなわち、各個体の特有な対立遺伝子構成)の遺伝的構成を指し、通常は、考慮対象とする特定の特徴または表現形質に言及している。しかし同じ遺伝子型の生物体が必ずしも全て同じように見えたり、振る舞ったりするわけではない。外見および挙動は、環境および発生条件によって修飾されるからである。同様に、似たように見える生物体が必ずしも全て同じ遺伝子型を有するわけでもない。
【0038】
遺伝子型解析:本明細書において使用される「遺伝子型解析する」または「遺伝子型を決定する」という用語は、種の個体中の遺伝的変異を決定する過程を指す。一塩基多型(SNP)は、遺伝子型解析に使用される最も一般的な種類の遺伝的変異であり、定義によれば、集団の1%超において見出される、特定座位の一塩基の違いのことである。SNPは、ゲノムのコード領域および非コード領域双方に見出され、対象とする量的表現形質など、対象とする表現形質と関連することがある。したがってSNPは、対象とする量的表現形質のマーカーとして使用することができる。遺伝子型解析に使用される別の一般的な種類の遺伝的変異は「インデル」、または様々な長さのヌクレオチドの挿入および欠失である。SNPおよびインデル双方の遺伝子型解析に関して、個体中の遺伝子型を決定するための多くの方法が存在する。選択される方法は一般に、必要とされる処理量に依存し、処理量は、遺伝子型解析されている個体の数および各個体についてテストされている遺伝子型の数双方の関数である。選択される方法は、各個体または試料から得ることのできる試料物質の量にも依存する。例えば配列決定が、SNPなどのマーカーの有無を決定するために使用されることがある。例えばサンガー配列決定および高スループット配列決定法(HTS)などである。サンガー配列決定は、1回に384本までのキャピラリーが配列解析され得る(キャピラリー)電気泳動による検出を介した配列決定を伴うことがある。高スループット配列決定は、一度に数千または数百万個以上の配列の並行配列決定を伴う。HTSは次世代シーケンシング、すなわち固相パイロシーケンシングに基づく手法として定義することも、または単一ヌクレオチド・リアルタイム配列決定(SMRT:single nucleotide real time sequencing)に基づく次々世代シーケンシングとして定義することもできる。HTS法は、Roche、llluminaおよびApplied Biosystems(Life Technologies)によって提供されているものなどが入手可能である。高スループット配列決定技術はさらにHelicos、Pacific Biosciences、Complete Genomics、Ion Torrent Systems、Oxford Nanopore Technologies、Nabsys、ZS Genetics、GnuBioによっても記述されており、および/またはこれらから入手可能である。これら配列決定法のそれぞれには、実際の配列決定ステップの前に試料を調製する独自の方法がある。これらのステップは、高スループット配列決定法に含まれることがある。特定の場合、配列決定ステップに特有のステップが、効率または経済性の理由から、実際の配列決定ステップの前の試料調製プロトコール中に統合されていることがある。例えば、断片に連結されたアダプターが、続く配列決定ステップにおいて使用され得る区画を含むことがある(いわゆるシーケンシングアダプター)。配列決定の前に断片のうちのサブセットを増幅するのに使用されるプライマーは、後に配列決定ステップにおいて使用され得る区画を導入する部分を、これらプライマーの配列内に含むことがある。この区画導入は例えば、続く配列決定ステップにおいて使用され得るシーケンシングアダプターまたは捕捉部分(a capturing moiety)を、増幅ステップを介して増幅産物に導入することによる。使用される配列決定法にも応じて、増幅ステップは省略してもよい。
【0039】
遺伝子型/表現型関係モデル:集団の個体について、遺伝子型を表現型と関連付ける(相関させる)ことのできるモデル。このようなモデルを作るために、集団の個体を表現型解析し、同じ個体を遺伝子型解析することが通常必要とされる。特に、遺伝子型解析は、複数座位におけるSNPの有無に関するデータなどの、高密度マーカーのデータに基づくことがある。同様に表現型解析は、例えば、対象とする量的表現形質の値を個体毎に測定することによって、高い正確性において実行し得る。遺伝子型/表現型関係モデルは、次に遺伝子型データと表現型データとの相関を計算することによって作ることができる。例えば、SNP地図などの密なマーカー地図の場合、一部のマーカーは、対象とする特定の量的表現形質に対する正または負の効果と相関させることができる。こうすることでこのモデルは、対象とする量的表現形質への寄与を、マーカーの有無に帰属させることができる。この寄与は、対象とする量的表現形質(例えば果実のサイズ、乳産生量など)について使用される測定単位に応じ、例えばkg、m、Lにて表すことができる。このようなモデルを構築するために、多様な方法が当技術分野において利用可能である(Meuwissenら、2001年)。
【0040】
座位:本明細書において使用される「座位」または「座位」(複数)という用語は、ゲノム上の特定の部位(箇所)または部位を指す。例えば、一「座位」とは、その座位に2つの対立遺伝子が見出される、ゲノム上の部位を指す(二倍体生物の場合)。量的形質座位(QTL)とは、量的形質に関連した対立遺伝子(遺伝子型/表現型関係モデルに基づく)を含む、ゲノム上の部位のことである。
【0041】
対立遺伝子:「対立遺伝子」という用語は、特定座位の位置のうちの1つに存在するヌクレオチド配列変異体を指す。二倍体の個体は、一座位当たり、1つの対立遺伝子に対し2つの位置を有する。つまり、2つの相同染色体のうちのいずれの染色体上にも、1つの位置を有する。特定座位の位置の各々について、代わりに可能な1つ以上のヌクレオチド配列変異体が集団内に存在することがある。すなわち、各位置について、あり得る様々な対立遺伝子が集団内に存在することがある。しかし各個体は、座位の位置のうちの1つにつき、可能な対立遺伝子のうちの1つしか有することができない。代わりに可能なヌクレオチド配列変異体、すなわちあり得る様々な対立遺伝子は、ヌクレオチド配列が少なくとも多少異なり、通常、少なくとも1つのSNPまたはインデルの有無に基づいて区別され得る。本明細書において「対立遺伝子の状態」が言及される場合、特定座位内の位置における、ある対立遺伝子の有無、これはその特定座位における、それぞれのマーカー(例えばSNPまたはインデル)の有無として表され得るのだが、を言及している。
【0042】
座位の対立遺伝子量:ゲノム中に存在する、所与の座位上の所与の対立遺伝子のコピー数。対立遺伝子量の範囲は、0(コピーは存在しない)から、ゲノムの(同質)倍数性レベルまでの間である。すなわち、二倍体の種ならば、所与の対立遺伝子の対立遺伝子量は0、1または2のいずれかであり得る。多倍体ゲノムならば、最大の対立遺伝子量は、相同染色体のコピー数に対応する。
【0043】
帰属された対立遺伝子置換効果:この用語は、所与の座位上においてその1つの対立遺伝子(例えば、特定のSNPの存在によって測定される)が、所与の遺伝的および/または環境的背景内の他の対立遺伝子によって置換された場合(例えば、その特定のSNPの不在によって測定される)に推定される、形質に対する量的効果を指す。例えば果実の収量が、ある植物集団における、対象とする量的表現形質である場合、この形質に対する量的効果はkgにて表され得る。したがって、遺伝子型/表現型関係モデルに基づき、例えば0.0001kgの対立遺伝子置換効果が所与の座位上の特定の対立遺伝子(例えば、特定のSNPの存在によって測定される)に帰属されることがあり得、これは、その特定の対立遺伝子が他の可能な対立遺伝子によって置換された場合(例えば、その特定のSNPの不在によって測定される)、形質、すなわち果実の収量に対する量的効果が0.0001kgであると推定されることを意味する。
【0044】
組換え確率について補正された、帰属された対立遺伝子置換効果:帰属された対立遺伝子置換効果は、組換え確率について補正することができる。2座位が互いに離れていればいるほど、2座位間において組換え(乗換え)の起きる確率が高くなる。座位間の距離は、組換え確率に関して測定され、cM(センチモルガン;1cMとは、2つのマーカー間の減数分裂期組換えの確率が1%であること)にて与えられる。これは、正に寄与する対立遺伝子および負に寄与する対立遺伝子双方について、それらが子孫に伝達される確率を知りたいはずなので、妥当である。帰属された正の対立遺伝子置換効果は、この対立遺伝子が(別の個体と掛け合わせた後に)子孫のゲノムに伝達される確率を考慮に入れることによって、組換え確率について補正することができる。帰属された負の対立遺伝子置換効果は、この対立遺伝子が(別の個体と掛け合わせた後に)子孫のゲノムに伝達されない確率を考慮に入れることによって、組換え確率について補正することができる。
【0045】
ヘテロ接合およびホモ接合:本明細書において使用される「ヘテロ接合」という用語は、異なる2つの対立遺伝子が特定座位、例えば対立遺伝子A/Bを有する座位にあり、ここでAおよびBは、2つの相同染色体のそれぞれに位置する場合の遺伝的状態を指す。逆に、本明細書において使用される「ホモ接合」という用語は、同一の2つの対立遺伝子が特定座位、例えば対立遺伝子A/Aを有する座位にあり、2つの相同染色体のそれぞれに独立に位置する場合の遺伝的状態を指す。
【0046】
分子マーカー法:本明細書において使用される「分子マーカー法」という用語は、個体(例えば(作物用)植物または家畜)において、対象とするマーカー対立遺伝子の有無を(直接または間接的に)示す(DNAベースの)アッセイを指す。好ましくは分子マーカー法は、特定の対立遺伝子が、任意の個体のその座位の位置のうちの1つに存在するか否かを、例えば配列決定することにより決定できるようにする。
【0047】
発明の詳細な説明
本開示は、育種集団内の少なくとも3個体からなる組合せを選抜するための方法であって、この組合せが、対象とする少なくとも1つの表現形質に関して、育種集団内の少なくとも3個体からなる他の組合せのうちの少なくとも70%と比べて高い、対象とする少なくとも1つの表現形質に関する子孫における組み合わされたゲノムワイド推定育種価を有する、方法に関する。本方法は、
a)個体からなる訓練集団を提供するステップ;
b)訓練集団内の各個体について、対象とする少なくとも1つの形質に関する表現型データを収集するステップ;
c)分子マーカー法、配列に基づく遺伝子型解析またはゲノムワイド配列決定を使用して、訓練集団内の各個体について遺伝子型データを収集し、対象とする少なくとも1つの表現形質に関する対立遺伝子置換効果を各個体の複数座位の各対立遺伝子に帰属させるステップ;
d)個体からなる訓練集団について、遺伝子型/表現型関係モデルを提供するステップであって、このモデルが、個体の所与の遺伝子型について、複数座位の対立遺伝子置換効果による、対象とする少なくとも1つの表現形質への量的寄与がどの程度なのかを推定する、ステップ;
e)育種集団内の各個体を遺伝子型解析するステップであって、好ましくは(育種集団内の各個体について遺伝子型データを収集することによって)ステップc)と同様に遺伝子型解析するステップ;
f)ステップd)の遺伝子型/表現型関係モデルを使用し、隣接座位との組換え確率について補正することによって、育種集団内の各個体について、複数座位の各対立遺伝子に関する対立遺伝子置換効果を計算するステップであって、対立遺伝子置換効果が正の対立遺伝子については、効果に、対立遺伝子が子孫に伝達される確率を乗じ、対立遺伝子置換効果が負の対立遺伝子については、効果に、対立遺伝子が子孫に伝達されない確率を乗じる、ステップ;
g)ステップf)において計算された個体の計算および補正された対立遺伝子置換効果を使用して、少なくとも3個体からなる各組合せについて、子孫の複数座位の各座位に関し、最も高い、対立遺伝子置換効果の組合せを計算することによって、育種集団内の少なくとも3個体からなる各組合せについて、対象とする少なくとも1つの表現形質に関する子孫における組み合わされたゲノムワイド推定育種価を決定するステップ;
h)対象とする少なくとも1つの表現形質に関して、育種集団内の個体からなる他の組合せの子孫における組み合わされたゲノムワイド推定育種価のうちの少なくとも70%より高い、子孫における組み合わされたゲノムワイド推定育種価を与える、育種集団内の少なくとも3個体からなる組合せを同定するステップ
を含む。
【0048】
これまでの方法が、自身が最良のゲノムワイド推定育種価を有する、育種集団内の個体(のペア)を同定することに注力しているのに対して、本方法は、少なくとも親3個体からなるどのサブセットが、総合において最良の組み合わされたゲノムワイド推定育種価を有するのかを同定できるようにする。このような方法で、本方法は実際、少なくとも潜在的親3個体からなる様々な組合せからの、仮想の子孫のゲノムワイド推定育種価を評価すると通常いわれている。
【0049】
換言すればこの方法は、(育種)集団内の少なくとも3個体(例えば少なくとも5個体、少なくとも10個体)からなる少なくとも1通り(例えば少なくとも2通り、少なくとも3通り、少なくとも5通り、または少なくとも10通り)の組合せであって、対象とする少なくとも1つ(または少なくとも2つ、3つ、4つ)の(量的)表現形質を改善することを目的とした育種プログラムでの後続の世代において成績が最も良い子孫を生ずる可能性が総合で最も高い組合せを同定(および/または(引き続いて)選抜)できるようにする。ある組合せの子孫のCGEBVを参照する場合、仮想の子孫の育種価を反映する、個体からなるその組合せのCGEBVが意味されている。
【0050】
例えば、4個体a、b、c、dからなる集団において可能な3通りの組合せは、(a、bおよびc);(a、cおよびd);(b、cおよびd)である。この例において、組合せ(a、bおよびc)が10のCGEBVを有し、(a、cおよびd)の組合せが20のCGEBVを有し、組合せ(b、cおよびd)が30のCGEBVを有するならば、本方法は、組合せ(b、cおよびd)を、3個体からなる最良の組合せ(サブセット)として同定できる。しかし本方法は、続く育種プログラムに使用するために、1通りよりも多くの組合せを同定および/または選抜できるようにもする。例えばこの例において本方法は、組合せ(b、cおよびd)ならびに組合せ(a、cおよびd)を、それらのCGEBVがいずれも組合せ(a、bおよびc)のCGEBVよりも高いことから同定できる。全く同じ原理は、全ての三つ組、四つ組などについてCGEBVを計算し、これらを順位付けることによって、より大きな群から、親3個体超からなるサブグループを抽出するために適用できる。
【0051】
本方法のステップa)において、個体からなる(訓練)集団が提供される。この集団は、遺伝子型/表現型関係モデルを構築するのに役立つので、場合によって訓練集団と呼ばれることがある。このようなモデルは、対象とする少なくとも1つの表現形質に関する対立遺伝子置換効果を、育種集団の個体の複数座位の対立遺伝子の各々に帰属できるようにする。したがって好ましくは、訓練集団および育種集団は、同じ植物種または非ヒト動物種に関し、より好ましくは、訓練集団は育種集団と同じであり、でなければ最も好ましくは、育種集団からの個体の選抜である。訓練集団が特別に設計された集団である、つまりこの集団が、表現型/遺伝子型関係モデルを作る目的のために特別に集められる、ということもあり得る。
【0052】
本開示において「個体」という用語は、生きている対象を指し、特に(作物用)植物または家畜などの非ヒト動物を指す。好ましくは訓練集団は、少なくとも3個体、少なくとも10個体、または少なくとも50個体を含み、しかし(特に、個体が植物である場合に)訓練集団は、少なくとも100個体、または少なくとも500個体を含むこともある。
【0053】
本方法のステップb)において、集団内の各個体につき、対象とする少なくとも1つの表現形質に関して表現型データが収集される。例えばこの形質が乳産生量(家畜)または花のサイズ(植物)に関する場合、訓練集団の各個体について、乳産生量(Lにおいて)または花のサイズ(mにおける直径)を測定できる。
【0054】
次いで本方法のステップc)は、分子マーカー法、配列に基づく遺伝子型解析または全ゲノム配列決定などの、当業者によく知られた方法を使用して、訓練集団に関し、各個体について遺伝子型データを収集する。本明細書において既に説明されているが、遺伝子型解析するまたは遺伝子型を決定するとは、集団の個体中の遺伝的変異を決定する過程を指す。この目的において、当業者は、これらの個体間の配列変異を明らかにするために、ハイブリダイゼーション解析、PCR、好ましくは配列決定など、個体のDNA分子を調べるための様々な分子生物学的手法を思いのままに利用できる。
【0055】
本方法において使用される分子マーカー法は、好ましくは、SNPの検出、RFLPの検出、SSR多型の検出、RAPD、インデルまたはCNVの検出およびAFLPからなる群から選択される。
【0056】
分子生物学的手法は当業者によく知られており、例えば標準的なハンドブック、その例を挙げればSambrook and Russell(2001)Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第3版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、NY;ならびにAusubelら(1994)Current Protocols in Molecular Biology、Current Protocols、USAの第1および第2巻、に記述されている。植物を分子レベルにおいて扱うための標準的な材料と方法は、Plant Molecular Biology Labfax(1993)、R.D.D.Croy著、BIOS Scientific Publications Ltd(UK)およびBlackwell Scientific Publications、UK出版に記述されている。
【0057】
引き続いてステップc)は、対象とする少なくとも1つの表現形質に関する対立遺伝子置換効果を各個体の複数座位の各対立遺伝子に帰属させる。この帰属ステップは通常、表現型データと遺伝子型データとの相関を同定することに基づく。これに関し、「対立遺伝子置換効果」という用語は、本明細書の他の箇所においても説明されているように、所与の座位上において、その1つの対立遺伝子(例えば、特定のSNPの存在/不在によって測定される)が、所与の遺伝的および/または環境的背景内の対応する対立遺伝子によって置換された場合(例えば、その特定のSNPの存在/不在によって測定される)に推定される、特定の表現形質に対する量的効果を指す。
【0058】
例えば、SNPを有する特定の対立遺伝子の、同じ位置におけるSNPを有さない対立遺伝子に対する対立遺伝子置換効果は、SNPを有する対立遺伝子のみを持つ個体の表現型を、SNPを有さない対立遺伝子のみを持つ個体の表現型と比較することに基づいてもよい。このような比較は、遺伝子型と表現型との相関を同定することがある。
【0059】
ステップa)、b)およびc)の後、ステップd)は、個体からなる訓練集団について、遺伝子型/表現型関係モデルを提供することができ、ここでこのモデルは、育種集団内の個体の所与の遺伝子型について、ら複数座位の対立遺伝子置換効果による、対象とする少なくとも1つの表現形質への量的寄与がどの程度なのかを推定(および/または帰属)できるようにする。換言すればこのモデルは、遺伝子型/表現型関係モデルを作り出す間または作り出した後に見出される相関に基づく対立遺伝子置換効果を、複数座位の各対立遺伝子に帰属させることができる。
【0060】
本方法が、育種集団の個体についての、既にある(または予め提供された)遺伝子型/表現型関係モデルを使用するならば、ステップa)、b)、c)およびd)は必要とされない(したがって場合による)。
【0061】
ステップe)において、育種集団内の各個体が遺伝子型解析されるが、これには、当業者によく知られた分子マーカー法が使用できる。本方法において使用される分子マーカー法は、好ましくは、SNPの検出、RFLP(異なる位置の制限酵素部位)の検出、SSR(単純反復配列)多型の検出、RAPD(多型DNAのランダム増幅)、インデルまたはCNV(コピー数変異)の検出およびAFLP(増幅断片長多型)からなる群から選択される。
【0062】
本方法のステップf)においては、育種集団内の各個体について、(それら)複数座位の各対立遺伝子に関し、対立遺伝子置換効果が、ステップd)の遺伝子型/表現型関係モデルを使用して計算(帰属)される。これに関し、育種集団とは、後続の世代においてその少なくとも1つの表現形質を改善する目的にてさらに交雑することのできる個体の集団を指す。したがって、ステップe)内(またはステップe)の前)において育種集団を提供することが想定される。育種集団内の個体に対する対立遺伝子置換効果の帰属が、前もってこれら個体を遺伝子型解析しておいた結果に基づいてもよいのは、明白なはずである。
【0063】
本方法の文脈において、複数座位とは、ゲノムの別個の領域、例えば異なる染色体に位置していてもよいわずか2座位、5座位または20座位を指すことがあるが、複数、という用語は、好ましくはゲノムの別個の領域、例えば異なる染色体に位置した、異なる少なくとも10座位、少なくとも25座位、少なくとも100座位、もしくは少なくとも500座位、もしくは少なくとも1000座位、または少なくとも5000座位以上を指すこともある。
【0064】
本方法の好ましい実施形態において、複数座位とは、ゲノム全体に位置する(ゲノムワイドな)座位のことであり、例えば少なくとも2本、少なくとも5本、少なくとも10本、または少なくとも20本の染色体に位置する。同時にまたは代わりに、複数座位は、少なくとも100座位、少なくとも500座位、少なくとも1000座位、または少なくとも2000座位を含む。さらに、複数座位のうちの少なくとも1座位が100cM毎、好ましくは50cM毎、より好ましくは25cM毎、より一層好ましくは10cM毎、より一層好ましくは5cM毎、最も好ましくは1cM毎に見出されるのが好ましい。
【0065】
ステップf)は、複数座位の各対立遺伝子に対し与えられ、帰属された対立遺伝子置換効果を、隣接座位(例えば、5’から3’の方向において前の、または好ましくは次の座位(またはその双方))との(推定)組換え確率について補正することも目的とする。これは、正の対立遺伝子置換効果が帰属された、複数座位のうちの各対立遺伝子を、この対立遺伝子が(別の個体と掛け合わせた後に)子孫のゲノムに伝達される(推定)組換え確率について補正し、また負の対立遺伝子置換効果が帰属された、複数座位のうちの各対立遺伝子を、この対立遺伝子が(別の個体と掛け合わせた後に)子孫のゲノムに伝達されない(推定)組換え確率について補正することによってなされる。こうして本方法のステップf)は、集団内の各個体の複数座位の各対立遺伝子に帰属された、帰属された対立遺伝子置換効果を、(推定)組換え確率について補正できるようにする。
【0066】
正の帰属された対立遺伝子置換効果の補正は、好ましくは(必須ではないが)、効果を、対応する対立遺伝子が子孫(すなわち配偶子)に伝達される確率で乗ずることによってなされ、また負の帰属された対立遺伝子置換効果の補正は、好ましくは(必須ではないが)、効果を、対応する対立遺伝子が子孫(すなわち配偶子)に伝達されない確率で乗ずることによってなされる。
【0067】
本方法のステップf)の好ましい実施形態において、組換え確率は、座位間の遺伝距離に基づいて、または物理地図および遺伝子地図を並べることに基づいて計算される。これについてのさらなる詳細は、Liu(1998)に見出すことができる。
【0068】
本方法は次に、ステップf)において計算された個体の計算および補正された対立遺伝子置換効果を使用して、少なくとも3個体からなる各組合せについて、(子孫の)複数座位の各座位に関し、最も高い、対立遺伝子置換効果の組合せを計算することによって、(育種)集団内の少なくとも3個体からなる各組合せについて、対象とする少なくとも1つの表現形質に関する(子孫における)組み合わされたゲノムワイド推定育種価を決定することに関するステップg)へと続く。
【0069】
したがって本方法は、帰属された各対立遺伝子置換効果について、対応する対立遺伝子が実際に個体の配偶子に入り込む確率を考慮に入れる。これは、正に寄与する対立遺伝子および負に寄与する対立遺伝子双方について、それらが配偶子に伝達される確率を知りたいはずであるので、妥当である。例えば、個体1の3座位からなる以下の複数座位を考えてもよい:
個体1
座位1 1 0
座位2 1 0
座位3 0 1
(ここで1はマーカー対立遺伝子の存在を、0はマーカー対立遺伝子の不在を指す。)
遺伝子型/表現型関係モデルに基づき、以下の対立遺伝子置換効果が対立遺伝子の座位に対し帰属されている、ということがあり得る:
座位1 0.1 0
座位2 −0.2 0
座位3 0 0.15
【0070】
見て分かるように、座位1の第1の対立遺伝子および座位2の第2の対立遺伝子が配偶子に伝達されるように、座位1と座位2との間での組換えが望まれる。これが配偶子の、帰属された対立遺伝子置換効果の上昇につながるからである。一方、座位2の第2の対立遺伝子と座位3の第1の対立遺伝子との間での組換えは望ましくない。これは配偶子の、帰属された対立遺伝子置換効果の低下につながるはずだからである。
【0071】
Liu(1998)に開示されている方法などの、当業者によく知られた方法に基づき、2座位間において組換えの起きる確率は、それら2座位間の遺伝子距離に基づいて計算できる。この計算は、互いに近傍にある座位間において組換えの起きる確率は、互いにそれほど近傍にあるわけではない座位間において組換えの起きる確率に比べ低いという事実に基づく。この例において、以下の推定組換え確率が推定されている、ということがあり得る:
【0072】
【表3】
【0073】
したがってこの例において、座位1の第1の対立遺伝子に対し帰属された正の対立遺伝子置換効果はここで、この対立遺伝子が配偶子に伝達される確率について補正されるべきであり、また座位2の第1の対立遺伝子の、帰属された負の対立遺伝子置換効果は、この対立遺伝子が配偶子に伝達されない確率について補正されるべきである。最後に、座位3の第2の対立遺伝子の、帰属された正の対立遺伝子置換効果は、この対立遺伝子が配偶子に伝達される確率について補正されるべきである。
【0074】
補正され帰属された対立遺伝子置換効果
座位1 0.1×1=0.1
座位2 −0.2×0.1=−0.02
座位3 0.15×0.85=0.1275
【0075】
したがってこの個体の座位1−3に関する、補正された対立遺伝子置換効果の合計は、
0.1+(−0.02)+0.1275=0.2075
である。
【0076】
次いで、2個体からなる組合せの、組み合わされたゲノムワイド推定育種価(CGEBV)は、これら複数座位のうちの各座位に関して、この組合せの個体の、補正された座位効果S(この座位の、補正された対立遺伝子置換効果)の最高値を採ることによって計算される。
【0077】
次いでステップh)は、対象とする少なくとも1つの表現形質に関して、育種集団内の少なくとも3個体からなる他の組合せのうちの少なくとも70%と比べ、好ましくは少なくとも80%、90%、95%、99%と比べ、または最も好ましくは100%と比べて高い(好ましくは最も高い)CGEBVを有する、(育種)集団内の少なくとも3個体からなる少なくとも1通りの組合せを選抜する。
【0078】
好ましい実施形態において、本方法は、育種集団内の個体を事前選抜できるようにする。この事前選抜は、好ましくは、本方法のステップe)の育種集団を提供した後に行われる。事前選抜は、ステップe)の計算を行う部分用に考慮すべき個体の数を低減できるようにし、ひいては、CGEBVを計算しなければならない、個体からなる組合せの数を低減できるようにする。実際これは特定の状況において、特に、考慮すべき個体の数もしくは個体からなる組合せの数または座位の数が、本方法の使用者が提供できるコンピュータの能力を超えたものを必要とする場合に、価値がある可能性がある。このようなシナリオにおいては、事前選抜を実行して、CGEBVを計算しなければならない個体(からなる組合せ)の数を低減するのが有利なことがある。
【0079】
好ましくは、組み合わされる育種集団内の個体の事前選抜は、複数座位に対し帰属された全対立遺伝子置換効果の総和が最も高い側から(または総和が、選抜されていない他の個体と比べ高い)最大30%、より好ましくは最大20%、より一層好ましくは最大10%、さらにより一層好ましくは最大5%、最も好ましくは最大2%の個体(のみ)を選抜することによってなされる。
【0080】
したがってこの、場合による事前選抜のために、まず、集団の各個体の各座位の、補正され帰属された対立遺伝子置換効果が計算できる。これに関し、特定座位の、補正され帰属されたこの対立遺伝子置換効果は、この特定座位の「補正された座位効果」と称することができる。複数座位(のサブセット)の補正された座位効果を計算した結果は、どの個体が、複数座位のうちの特定のサブセットについて、他の個体よりも高い補正された座位効果を有するのかを示し、これは事前選抜の基礎となる。例えばどの個体が、これら複数座位の異なる部分について、より高い補正された座位効果を有するのかを同定できる。異なる部分について、とは例えば、最大でもゲノムの一部、その例を挙げれば1本の染色体、に関連する複数座位の部分に関して、である。例えばこれら複数座位が100座位を含むなら、例えば、座位1−20について座位効果の合計が最も高い個体、座位21−40について座位効果の合計が最も高い個体、座位41−60について座位効果の合計が最も高い個体、座位61−80について座位効果の合計が最も高い個体、および座位81−100について座位効果の合計が最も高い個体の5個体を事前選抜できる。
【0081】
この事前選抜は例えば、複数座位の部分、その例を挙げればゲノムの少なくとも一部(または最大でも一部)の複数座位、例えば1本の染色体上に位置する座位のみなど、に関するSの値が、他の個体の複数座位の同じ部分に関し決定された値Sと比べて高い個体を選抜することによって実行され得る。ここでS=PFであり、式中、P∈R
n×p、F∈R
p×p、ただしRは実数の集合(虚数を除く)、nは親の数、pは考慮される座位の数である。換言すればSは、特定座位の、補正された座位効果、すなわち、その座位の、補正され帰属された対立遺伝子置換効果の総和を表す。Sは、PとFとを乗ずることによって計算できる。ここでPは、特定座位の(補正されていない)座位効果を表し、Fは、隣接座位間の推定組換え確率を表す。
【0082】
続いて、本方法のステップg)を実行する1つの方法は、以下の式Iに従ってCGEBVを計算することによる:
【0083】
【数1】
ここで、
θ
iはi番目の親
S=PF。式中、P∈R
n×pおよびF∈R
p×pであり、ここでRは実数の集合、nは親の数、pは考慮されるべき座位の総数である。
【0084】
本方法の好ましい実施形態において、CGEBVは、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、または最大で1つ、最大で2つもしくは最大で3つの、対象とする表現形質に関して決定される。本方法の好ましい別の実施形態において、対象とする少なくとも1つの表現形質は量的形質である。この形質は、好ましくは複数の遺伝子、例えば少なくとも10個、少なくとも20個、少なくとも30個、少なくとも40個、少なくとも100個、少なくとも200個、少なくとも500個、もしくは少なくとも1000個の遺伝子によって影響を受け、および/または好ましくは量的に(例えばkg、mまたはLにて)表現型として(のみ)測定できる。
【0085】
本方法は、好ましくは実際の選抜および選抜された組合せの個体の交雑に先立って使用されるが、本方法が、子孫すなわち次世代が得られるように、少なくとも3個体からなる、同定または選抜された組合せのメンバーを交雑(または交配)させる(ことを可能にする)ステップi)を含む可能性も想定される。加えて、結果として得られた子孫が交雑されることも想定される。したがって本方法は、こうする必要が全ての場合にあるわけではない可能性があるものの、少なくとも2世代、3世代または少なくとも5世代など、1世代を超えて適用され得る(例えば
図3を参照されたい)。
【0086】
当業者には明白なはずであるが、最良の親のサブグループの選抜は、染色体領域の対立遺伝子効果の正確な推定をその基礎とする。したがって、適用されるゲノム選抜モデルの正確性は、理想的には、可能な限り高くあるべきである。モデルの正確性のレベルを上昇させる手段は、最先端モデル構築法を使用すること、訓練群について収集された表現型データの質を向上させること、ならびにマーカー密度/連鎖不平衡の平均領域長(average window)の比、およびその形質に寄与する座位/訓練群における観察回数の比を最適化することである。当然、対象とする形質の遺伝的複雑性および遺伝率、訓練群の遺伝的多様性、訓練群と親候補群との遺伝的関係の程度(the level genetic relationship)のような因子も、正確性に影響することがある。本開示の分野における当業者は、これらの入力因子の違いの結果、モデルの正確性は高くなったり低くなったりすること、およびモデルの正確性は、標準的な交差検証法(Hastie,T.、Tibshirani,R.、Friedman,J.(2001);およびArlot、Sylvain;Celisse、2010年)によって決定できることを、何ら問題なく理解するはずである。
【0087】
本方法に使用される個体からなる育種集団は、様々な倍数性であってよい。例えば、個体からなる集団は二倍体、異質倍数体または同質倍数体の種であってよい。これは、訓練集団についても同様である。
【0088】
本開示の方法において、個体からなる集団は、好ましくは、アラビドプシス・タリアナ(Arabidopsis thaliana)、アビシニアンマスタード、アルファルファ、オオムギ、バレルクローバー、ブラックマスタード、ソバ、キャノーラ、クローバー、コモンフラックス、コモンベッチ、オオツメクサ、コーヒー、ワタ、エジプトクローバー、飼料ビート、アサ、ホップ、インディアンマスタード、エルサレムアーティチョーク、トウモロコシ、キビ、マスタード、ルピナス、カラスムギ、セイヨウアブラナ(ブラシカ・ナプス(Brassica napus))、アブラナ(ブラシカ・ラパ(Brassica rapa))、アヘンポピー、ペルシャクローバー、ジャガイモ、アカツメクサ、ライムギ、ベニバナ、サイザル、ダイズ、サトウダイコン、ヒマワリ、チャ、タバコ、ライコムギ、コムギ、シロクローバ、シロガラシ、ワイルドライス、ウインターベッチ、アーティチョーク、アスパラガス、ジュウロクササゲ、ナス、アオゲイトウ、ブラックラディッシュ、ブラックビーン、キバナバラモンジン、ソラマメ、ブロッコリー、メキャベツ、キャベツ、カンタループ、ニンジン、カリフラワー、セロリ、フダンソウ、チコリ、トウガラシ、ハクサイ、サイシン、インゲンマメ、コーンサラダ、ズッキーニ、キュウリ、ダイコン、ナスビ、エンダイブ、ウイキョウ、ニンニク、アカザ、サヤインゲン、アキノノゲシ、ケール、サンドマメ、コールラビ、ニラ、レタス、レンズマメ、ライマメ、トウモロコシ、メロン、ミズナ、ナッパキャベツ(napa cabbage)、タマネギ、パースニップ、エンドウマメ、コショウ、ジャガイモ、カボチャ、キノア、ラディッキオ、ラディッシュ、カブ、アカキャベツ、ダイオウ、ハナマメ、ルタバガ、ロケットサラダ、サボイキャベツ、アカワケギ、ダイズ、ホウレンソウ、トウナス、サトウキビ、スウィード、オオブドウホオズキ、トマト、ターニップ、オランダガラシ、スイカ、イエローターニップ、アーモンド、リンゴ、アンズ、ウワミズザクラ、バターナッツ、カシュー、サクランボ、チョークベリー、クラブアップル、ハシバミ、グリーンゲージ、サンザシ、ヘーゼルナッツ、オニグルミ(heartnut)、ビワ、セイヨウカリン、ミラベルプルーン、ネクタリン、モモ、ワッサー(peacherine)、セイヨウナシ、ペカン、ピスタチオ、プラム、プルーン、マルメロ、ナナカマド、クルミ、アカシア、ハンノキ、アレゲーニーチンカピングリ、アメリカブナ、アメリカグリ、アメリカシデ、トネリコ、アスペン、シナノキ、ブナ、ビッグトゥースド(bigtoothed)、アスペン、カバノキ、ビターナットヒッコリー、クロハンノキ、クロカンバ(black birch)、ブラックチェリー、ヌマミズキ、ハリエンジュ、クロカエデ、クロガシ、クロポプラ、クログルミ、クロヤナギ、バターナッツ、シーダー、クリ属、チェスナットオーク、シナグリ、コルシカマツ、コットンウッド、クラブアップル、キューカンバーツリー、イトスギ、ミズキ、ダグラスファー、イースタンヘムロック、ニレ、イギリスナラ、ユーカリノキ、ヨーロッパブナ、ヨーロッパカラマツ、ヨーロッパモミ、ヨーロッパシラカンバ、モミ、ハナミズキ、ゴムノキ、サンザシ、クマシデ、トチノキ、雑種ポプラ、クリ、カラマツ、カラマツ属、ロッジポールマツ、カエデ、カイガンショウ、モッカーナット・ヒッコリー、ノルウェートウヒ、オーク、オレゴンパイン、ウツクシモミ、ヨーロッパナラ(pedunculate oak)、ピグナットヒッコリー、マツ、リギダマツ、ポプラ、スコッチパイン、ヨーロッパグリ、アカハンノキ、アカスギ、アカカエデ、アカガシ、アカマツ、アカトウヒ、セコイア、ナナカマド、サッサフラス、スコッチパイン、セルビアトウヒ、ザイフリボク、シャグバークヒッコリー、シダレカンバ、シトカトウヒ、ナンキョクブナ、トウヒ、シロスジカエデ、サトウカエデ、スイートバーチ、ヨーロッパグリ、スズカケノキ、タマラック、ユリノキ、ウェスタンヘムロック、ホワイトアッシュ、ホワイトオーク、ホワイトパイン、キハダカンバ、バナナ、パンノキ、ココナツ、ナツメヤシ、ジャックフルーツ、マンゴー、アブラヤシ、オリーブ、パパイヤ、パイナップル、オオバコ、ゴムの木およびクロツグからなる群から選択される農作物もしくは野菜作物もしくは果樹種もしくは森林種またはプランテーション作物であることが好ましい。
【0089】
別の好ましい実施形態において、個体からなる集団は、ウシ(ボス・タウルス(Bos taurus)、ボス・インディクス(Bos indicus))、スイギュウ(ブバルス・ブバリス(Bubalus bubalis))、ウマ(エクウス・カバルス(Equus caballus))、ヒツジ(オウィス・アリエス(Ovis aries))、ヤギ(カプラ・ヒルクス(Capra hircus))、ブタ(スース・スクローファ(Sus scrofa))、ニワトリ(ガッルス・ガッルス(Gallus gallus))、シチメンチョウ(メレアグリス・ガロパボ(Maleagris gallopavo))、カモ(アナス・プラティリンコス(Anas platyrhynchos)、カイリナ・モスカータ(Cairina moschata))、ガチョウ(アンセル・アンセル・ドメスティクス(Anser anser domesticus)、アンセル・キュグノイデス(Anser cygnoides))、ハト(コルンバ・リヴィア・ドメスティカ(Columba livia domestica))、ラット(ラットゥス・ノルウェギクス(Rattus novergicus))、マウス(ムス・ムスクルス(Mus musculus))、ネコ(フェリス・カトゥス(Felis catus))、イヌ(カニス・ファミリアリス(Canis familiaris))、ウサギ(オリクトラグス・クニークルス(Oryctolagus cuniculus))、モルモット(カウィア・ポルケッルス(Cavia porcellus))、ゼブラフィッシュ(ダニオ・レリオ(Danio rerio))およびキイロショウジョウバエ(ドロソフィラ・メラノガスター(Drosophila melanogaster))からなる群から選択される種である。
【0090】
さらに別の好ましい実施形態において、個体からなる集団は、キュプリヌス・カルピオ(Cyprinus carpio)、サルモ・サラル(Salmo salar)、オレオクロミス・ニロティクス(Oreochromis niloticus)、オンコリンクス・ミキス(Oncorhynchus mykiss)、クテノファリンゴドン・イデラ(Ctenopharyngodon idella)、ヒュポフタルミクテュス・モリトリクス(Hypophthalmichthys molitrix)、ギベリオン・カトラ(Gibelion catla)、キュプリヌス・カルピオ、ヒュポフタルミクテュス・ノービリス(Hypophthalmichthys nobilis)、カラッシウス・カラッシウス(Carassius carassius)、オレオクロミス・ニロティクス(Oreochromis niloticus)、パンガシウス・パンガシウス(Pangasius pangasius)およびラベオ・ロヒータ(Labeo rohita)からなる群から選択される魚類種である、または本方法は、マクロブラキウム・ローゼンベルギイ(Macrobrachium rosenbergii)、リトペナエウス・バナメイ(Litopenaeus vannamei)およびペナエウス・モノドン(Penaeus monodon)からなる群から選択されるエビの種に適用される。
【0091】
本明細書に既に記述したように、本方法が、子孫すなわち次世代が得られるように、少なくとも3個体からなる、選抜された組合せのメンバーを交雑(または交配)させる(ことを可能にする)ステップi)を含む可能性も想定される。加えて、結果として得られた子孫が交雑されることも想定される。
【0092】
本開示の別の態様において、本方法を実行するための指示を含むコンピュータ可読媒体が提供される。好ましい実施形態において、ステップb)、ならびにステップc)、d)、e)、f)、g)およびh)、こうなると本方法の全体であるが、における帰属はコンピュータにより実装されるステップであり、ならびに/または本方法は(部分的に)コンピュータにより実装される方法である。
【0093】
本開示の方法は有利には、特に、育種プログラムにおいて対象とする少なくとも1つの(量的)表現形質を改善するために使用できる。
【0094】
やはり予見されるのは、本開示の方法によって得ることができ、好ましくは植物である生産物である。