(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記変性ジエン系ゴムを含むラテックスを得る工程では、ジエン系ゴムラテックスに過ハロゲン酸を添加してジエン系ゴムを酸化開裂させることで分解し、分解したジエン系ゴムを含むラテックスを酸性から塩基性に変化させるとともに還元糖を添加し、
前記変性ジエン系ゴムを凝固させる工程では、前記変性ジエン系ゴムを含むラテックスを塩基性から酸性に変化させて、酸性条件下で加熱することにより変性ジエン系ゴムを凝固させる、
ことを特徴とする請求項1記載の変性ジエン系ゴムの製造方法。
請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法により得られた変性ジエン系ゴムを含むゴム成分100質量部に対して、フィラー5〜150質量部を混合するゴム組成物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態に係る変性ジエン系ゴムは、ジエン系ゴムを酸化開裂させることで分解し、分解したジエン系ゴムの分子末端のアルデヒド基(−CHO)及び/又はケト基(>C=O)に還元糖をアルドール縮合で反応させることで生成される。より好ましい実施形態においては、ジエン系ゴムラテックスに過ハロゲン酸を添加してジエン系ゴムを酸化開裂させることで分解し、分解したジエン系ゴムを含むラテックスを酸性から塩基性に変化させるとともに還元糖を添加することで、分解したジエン系ゴムの分子末端のアルデヒド基及び/又はケト基に還元糖をアルドール縮合で反応させ、得られたラテックスを凝固することで、変性ジエン系ゴムが得られる。
【0011】
本実施形態において、変性対象となるジエン系ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、合成イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、スチレン−イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン−イソプレン共重合体ゴム、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合体ゴムなどが挙げられる。これらの中でも、天然ゴム、合成イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、及びブタジエンゴムからなる群から選択された少なくとも一種を用いることが好ましい。ジエン系ゴムの重量平均分子量(Mw)は、特に限定されず、例えば8万〜300万でもよく、10万〜300万でもよく、20万〜300万でもよい。
【0012】
変性対象となるジエン系ゴムとしては、プロトン性溶媒である水中にミセル状になった水系エマルション、すなわちラテックスを用いることが好ましい。ジエン系ゴムラテックスの濃度(ゴム固形分濃度)は、特に限定されないが、5〜70質量%であることが好ましく、より好ましくは10〜50質量%である。
【0013】
ジエン系ゴムの炭素−炭素二重結合を酸化開裂させるためには、酸化剤を用いることができ、例えば、ジエン系ゴムラテックスに酸化剤を添加し攪拌することにより酸化開裂させることができる。酸化剤としては、例えば、過マンガン酸カリウム、酸化マンガンなどのマンガン化合物、クロム酸、三酸化クロムなどのクロム化合物、過酸化水素などの過酸化物、過ヨウ素酸などの過ハロゲン酸、オゾン、酸素などの酸素類などが挙げられる。これらの中でも、過ハロゲン酸を用いることが好ましく、より好ましくは過ヨウ素酸を用いることである。なお、酸化開裂に際しては、コバルト、銅、鉄などの金属の、塩化物や有機化合物との塩や錯体などの、金属系酸化触媒を併用してもよい。過ハロゲン酸を用いる場合、その使用量は酸化開裂できる限り、特に限定されず、例えばラテックス中のジエン系ゴム100質量部に対して0.1〜5質量部でもよく、0.3〜3質量部でもよく、0.5〜1.5質量部でもよい。このように過ハロゲン酸の量を少なくし、おだやかな酸化条件で酸化開裂させることにより、低発熱性能の改善効果を高めることができる。なお、過ハロゲン酸の量を少なくしたことで、反応系を酸性にすることができない場合、ギ酸などの酸を添加して反応系が酸性になるように調整してもよい。
【0014】
酸化開裂によりジエン系ゴムが分解し、末端にアルデヒド基(−CHO)やケト基(>C=O)を持つジエン系ゴムが得られる。一実施形態として、分解したジエン系ゴムは、下記式(1)で表される構造を分子末端に持つ。
【0015】
【化1】
式中、R
1は、水素原子、メチル基又はクロロ基である。分解したジエン系ゴムは、その分子鎖の少なくとも一方の末端に上記式(1)で表される構造を持つ。
【0016】
分解したジエン系ゴムは、上記酸化開裂によって分子量が低下する。分解後の重量平均分子量(Mw)は特に限定されず、例えば4万〜250万でもよく、8万〜240万でもよく、10万〜230万でもよい。
【0017】
以上のようにしてジエン系ゴムを分解した後、分解したジエン系ゴムを含むラテックス(以下、解重合ラテックスという。)を、酸性の場合には塩基性(即ち、アルカリ性)に、塩基性の場合には酸性になるように酸塩基性を変化させるとともに、該解重合ラテックスに還元糖を添加する。このように酸塩基性を変化させることにより、開裂とは逆反応である結合反応(アルドール縮合反応)が優先的に進行するようになる。ジエン系ゴム断片同士が再結合する場合、下記式(2)〜(5)で表される連結基のうちの少なくとも1種の連結基を含む変性ジエン系ゴムが生成される。
【0018】
【化2】
ここで、R
1が水素原子である末端構造を持つゴム断片同士が結合する場合、式(4)及び/又は式(5)で表される連結基となり、R
1が水素原子である末端構造を持つゴム断片とR
1がメチル基である末端構造を持つゴム断片が結合する場合、式(2)及び/又は式(3)で表される連結基となる。
【0019】
本実施形態では、上記のように酸塩基性を変化させるとともに還元糖を添加する。還元糖はアルデヒド基又はケト基を有するため、アルドール縮合反応がジエン系ゴム断片同士だけでなく、ジエン系ゴム断片と還元糖との間でも生じる。すなわち、分解したジエン系ゴムの分子末端のアルデヒド基及び/又はケト基に、還元糖のアルデヒド基又はケト基がアルドール縮合反応を起こす。そのため、還元糖のアルドール縮合物を分子末端に有する変性ジエン系ゴムが得られる。その際、還元糖を過剰に添加することにより、ゴム断片同士の再結合よりも、ゴム断片と還元糖との反応を促進させることができ、分子末端への還元糖の付加を促進することができる。還元糖の添加量は、特に限定されず、例えば、分解したジエン系ゴム100質量部に対して0.1〜40質量部でもよく、0.5〜20質量部でもよい。
【0020】
なお、反応系中に酸化剤が存在することにより、分子末端に結合した還元糖のアルドール縮合物は、当該還元糖の分子中の炭素−炭素結合部分が切断されやすい。そのため、得られた変性ジエン系ゴムにおいて、還元糖のアルドール縮合で生じた末端基としては、還元糖がジエン系ゴム断片にアルドール縮合で結合したもののだけでなく、結合後に還元糖が切断されたものも通常含まれる。但し、かかる還元糖が切断された構造を持つものは含まれていても、含まれていなくてもよい。また、還元糖のアルドール縮合で生じた末端基は、変性ジエン系ゴムの片末端のみに導入されてもよく、両末端に導入されてもよい。また、得られた変性ジエン系ゴムは、かかる還元糖に由来する末端基だけでなく、上記式(2)〜(5)で表される連結基も通常含まれるが、このような連結基は含まれていなくてもよい。なお、連結基の含有率は、特に限定されず、式(2)〜(5)の連結基の合計で、例えば0.001〜25モル%でもよく、0.1〜15モル%でもよい。ここで、連結基の含有率は、変性ジエン系ゴムを構成する全構成ユニットのモル数に対する連結基のモル数の比率であり、上記特許文献3に記載の方法により測定される。
【0021】
上記還元糖としては、アルドースでもケトースでもよく、例えば、グルコース、アロース、アルトロース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、エリトロース、トレオース、グリセルアルデヒド、フルクトース、プシコース、ソルボース、タガトース、セドヘプツロース、コリオース、キシルロース、リブロース、エリトルロースなどの単糖類、マルトース、ラクトース、セロビオース、ラクツロースなどの二糖類などが挙げられ、これらはいずれか1種又は2種以上組みあわせて用いることができる。なお、D体でもL体でも区別せずに使用できるが、通常は入手しやすいD体が用いられる。
【0022】
酸塩基性を変化させる際のpHの調整は、解重合ラテックスに酸や塩基を加えることにより行うことができ、特に限定されないが、例えば、酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ギ酸、酢酸などが挙げられ、塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどが挙げられる。
【0023】
以上より変性ジエン系ゴムを含むラテックス(以下、変性ゴムラテックスという。)が得られるので、得られた変性ゴムラテックスを凝固させることにより、変性ジエン系ゴムが得られる。
【0024】
凝固方法として、本実施形態では、変性ゴムラテックスを加熱する方法を用いる。変性ゴムラテックスは溶媒である水とラテックス粒子との電荷バランスにより均一な分散系として成立しているが、例えば酸性条件下で曇点以上に加熱すると電荷のバランスが崩れて凝集を起こし、変性ジエン系ゴムが凝固する。一般にゴムラテックスは界面活性剤で安定化されており、その場合、得られた変性ゴムラテックスも界面活性剤で安定化されているが、曇点以上に加熱することにより、変性ジエン系ゴムを凝固させることができる。
【0025】
ここでいう曇点は、変性ゴムラテックスが界面活性剤で安定化させたものであるか否かを問わず、変性ゴムラテックスを加熱したときに変性ジエン系ゴムの凝固が始まる温度であり、凝固対象である変性ゴムラテックスを用いて温度を上げていくことにより求めることができる。一実施形態として、曇点は75〜95℃である。
【0026】
凝固は、酸性条件下で変性ゴムラテックスを加熱することにより行うことが好ましい。上記変性工程において解重合ラテックスを酸性から塩基性に変化させたことにより、得られた変性ゴムラテックスが塩基性の場合には、変性ゴムラテックスを塩基性から酸性に変化させて、該変性ゴムラテックスを酸性条件下で加熱して凝固させる。上記酸性条件、即ち、変性ジエン系ゴムを凝固させる際の変性ゴムラテックスのpHは2.5〜5.5であることが好ましく、pHは3〜5がより好ましい。pHが5.5以下であることにより凝固しやすくなる。また、pHが2.5以上であることにより変性ジエン系ゴムが再び酸化開裂するのを防ぐことができる。なお、変性ゴムラテックスを酸性にするためには、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ギ酸、酢酸などの酸を添加すればよく、また、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどの塩基を添加してpHを調整してもよい。
【0027】
なお、凝固させる際の変性ゴムラテックスの濃度(ゴム固形分濃度)は、特に限定されず、例えば5〜70質量%でもよく、10〜50質量%でもよい。
【0028】
本実施形態に係る製造方法は、変性ゴムラテックスを加熱して得られた凝固物である固形ゴム(即ち、変性ジエン系ゴム)を乾燥させる工程を含むことが好ましい。乾燥することで、溶媒である水を除去することができる。乾燥には、例えば、真空乾燥機、熱風式乾燥機などの通常の乾燥機を用いることができる。なお、乾燥前に、凝固物を水洗してもよい。
【0029】
以上より本実施形態に係る変性ジエン系ゴムが得られる。該変性ジエン系ゴムの重量平均分子量(Mw)は、特に限定されず、例えば8万〜300万でもよく、10万〜300万でもよく、20万〜300万でもよい。好ましい一実施形態に係る変性ジエン系ゴムは、還元糖のアルドール縮合で生じた末端基を有する変性イソプレンゴムである。該変性イソプレンゴムは、変性対象として天然ゴム及び/又は合成イソプレンゴムを用いた場合であり、変性天然ゴムを含む概念である。また、好ましい一実施形態に係る変性ジエン系ゴムは、還元糖のアルドール縮合で生じた末端基を有する変性スチレンブタジエンゴムである。該変性スチレンブタジエンゴムは、変性対象としてスチレンブタジエンゴムを用いた場合である。
【0030】
本実施形態に係る変性ジエン系ゴムであると、分子末端に還元糖に由来する多数の水酸基が導入され、これらはシリカ等のフィラーとの親和性が高いので、フィラーの分散性を向上することができ、タイヤの低燃費性に寄与する低発熱性能を改善することができる。
【0031】
また、本実施形態では変性ゴムラテックスを加熱することにより凝固させており、凝固は水中で行われる。そのため、変性ゴムラテックス中に含まれる未反応の糖を水中に残しつつ、変性ジエン系ゴムを凝固させることができる。そのため、未反応の糖が変性ジエン系ゴム中に残留することを抑制することができる。未反応の糖が変性ジエン系ゴム中に残っていると、本来はシリカと反応するべきシランカップリング剤が糖と反応してしまい、ゴムの補強性(例えば引張応力)が低下する。そのため、変性ジエン系ゴム中における未反応糖の残留を低減することにより、ゴムの補強性を改善することができる。
【0032】
また、本実施形態によれば、酸化開裂に用いた過ハロゲン酸に由来するハロゲン分(詳細には、例えば過ハロゲン酸塩)も水中に残しつつ、変性ジエン系ゴムを凝固させることができる。変性ジエン系ゴム中に過ハロゲン酸が残留すると、ゴムの酸化が促進されるなどの悪影響が懸念される。本実施形態によれば、変性ジエン系ゴム中における過ハロゲン酸の残留も抑制して、高純度の変性ジエン系ゴムが得られる。
【0033】
本実施形態に係るゴム組成物は、上記により得られた変性ジエン系ゴムをフィラーと混合することにより得られるものである。
【0034】
該ゴム組成物において、ゴム成分としては、上記変性ジエン系ゴムの単独でもよく、変性ジエン系ゴムと他のゴムとのブレンドでもよい。他のゴムとしては、特に限定されず、例えば、天然ゴム(NR)、合成イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム等の各種ジエン系ゴムが挙げられる。これらはそれぞれ単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。ゴム成分中に占める上記変性ジエン系ゴムの含有量は、特に限定されないが、ゴム成分100質量部中、10質量部以上であることが好ましく、より好ましくは30質量部以上、更に好ましくは50質量部以上である。
【0035】
本実施形態にかかるゴム組成物において、フィラーとしては、例えば、シリカ、カーボンブラック、酸化チタン、ケイ酸アルミニウム、クレー、タルクなどの各種無機充填剤を用いることができ、これらはそれぞれ単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でも、シリカ及び/又はカーボンブラックが好ましく用いられ、より好ましくはシリカを主成分として、即ちフィラー中に占めるシリカの割合を50質量%超にて用いることである。
【0036】
シリカとしては特に限定されず、例えば湿式シリカ(含水ケイ酸)を用いることができる。シリカのコロイダル特性は特に限定しないが、BET法による窒素吸着比表面積(BET)が150〜250m
2/gであることが好ましく、より好ましくは180〜230m
2/gである。なお、シリカのBETはISO 5794に記載のBET法に準拠し測定される。
【0037】
カーボンブラックとしては、特に限定されず、ゴム用補強剤として用いられているSAF、ISAF、HAF、FEFなどの各種グレードのファーネスカーボンブラックを用いることができる。
【0038】
上記フィラーの配合量は、ゴム成分100質量部に対して、5〜150質量部であり、好ましくは20〜120質量部、更に好ましくは30〜100質量部である。また、シリカの配合量は、ゴム成分100質量部に対して5〜80質量部であることが好ましく、より好ましくは30〜80質量部である。
【0039】
本実施形態に係るゴム組成物において、フィラーとしてシリカを配合する場合、シリカの分散性を更に向上するために、スルフィドシランやメルカプトシランなどのシランカップリング剤を配合してもよい。シランカップリング剤の配合量は、特に限定されないが、シリカ配合量に対して2〜20質量%であることが好ましい。
【0040】
本実施形態に係るゴム組成物には、上記の各成分の他に、オイル、亜鉛華、ステアリン酸、老化防止剤、ワックス、加硫剤、加硫促進剤など、ゴム組成物において一般に使用される各種添加剤を配合することができる。上記加硫剤としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などの硫黄成分が挙げられ、特に限定するものではないが、その配合量はゴム成分100質量部に対して0.1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。また、加硫促進剤の配合量としては、ゴム成分100質量部に対して0.1〜7質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。
【0041】
本実施形態に係るゴム組成物は、通常に用いられるバンバリーミキサーやニーダー、ロール等の混合機を用いて、常法に従い混練し作製することができる。すなわち、第一混合段階で、上記変性ジエン系ゴムを含むゴム成分に対し、フィラーとともに、加硫剤及び加硫促進剤を除く他の添加剤を添加混合し、次いで、得られた混合物に、最終混合段階で加硫剤及び加硫促進剤を添加混合してゴム組成物を調製することができる。
【0042】
このようにして得られたゴム組成物は、タイヤ用、防振ゴム用、コンベアベルト用などの各種ゴム部材に用いることができる。好ましくは、タイヤに用いることであり、乗用車用、トラックやバスの大型タイヤなど各種用途、サイズの空気入りタイヤのトレッド部、サイドウォール部、ビード部、タイヤコード被覆用ゴムなどタイヤの各部位に適用することができる。すなわち、該ゴム組成物は、常法に従い、例えば、押出加工によって所定の形状に成形され、他の部品と組み合わせた後、例えば140〜180℃で加硫成形することにより、空気入りタイヤを製造することができる。これらの中でも、タイヤのトレッド用配合やサイドウォール用配合として用いることが特に好ましい。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、Mwはゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)測定によるポリスチレン換算の値であり、pHは東亜ディーケーケー(株)製ポータブルpH計「HM−30P型」による測定値であり、いずれも特許文献3に記載した方法によるものである。
【0044】
[実施例1:変性NR1]
上記特許文献3の合成例1に準じた方法により天然ゴムラテックスの酸化開裂を行った。詳細には、天然ゴムラテックス(クォーユー化成社製「LA−NR」、DRC=60質量%、Mw=296万)を、DRC=30質量%に調整し、ラウリル硫酸ナトリウム(ナカライテスク社製)を1質量%の濃度になるように加えた後、天然ゴムラテックス中のポリマー質量100gに対して、過ヨウ素酸(H
5IO
6)0.7gを加え、更にギ酸を加えてpHを5に調整し、23℃で3時間攪拌して天然ゴムを酸化開裂させた。得られた解重合天然ゴムのMwは228万であった。得られた解重合ラテックス(pH5)を水酸化カリウムでpH12に調整した後、該解重合ラテックスにゴム分100gあたり5.0gのD−グルコース(和光純薬工業製)を添加し、室温で18時間反応させて変性ゴムラテックスを得た。
【0045】
得られた変性ゴムラテックスを用いて凝固試験を行った。すなわち、変性ゴムラテックス(DRC=30質量%)を試験管に2mLずつ取り、ギ酸(ナカライテスク製)を用いてpHを3,4,5の三条件に調整し、それぞれのpHについて、60〜90℃の範囲内での所定温度に設定したウォーターバス中で5分間加熱し、凝固状態を目視により観察した。その結果、pH3,4,5のいずれについても、80℃で一部凝固がみられ、85℃以上でほぼ定量的に凝固した。
【0046】
また、上記と同様にして得られた変性ゴムラテックス(DRC=30質量%)を、ギ酸を用いてpH5に調整した後、85℃のウォーターバス中でゴムが析出するまで加熱した。得られた凝固物を水洗後、真空乾燥オーブンを用いて40℃で48時間真空乾燥を行うことにより、グルコースのアルドール縮合で生じた末端基を有する変性天然ゴムNR1(Mw=253万)を得た。
【0047】
[比較例1:変性NR2]
実施例1と同様にして得られた変性ゴムラテックス(DRC=30質量%)を、当該ラテックスの容量の5倍量のエタノール/水=2/1(質量比)混合溶媒に注ぎ、ギ酸でpHを5以下に調整することでゴム分を凝固させた。得られた凝固物を実施例1と同様に水洗乾燥することにより、グルコースのアルドール縮合で生じた末端基を有する変性天然ゴムNR2を得た。
【0048】
[比較例2:変性NR3]
実施例1と同様にして得られた解重合ラテックス(pH5)を水酸化カリウムでpH12に調整した後、該解重合ラテックスをそのまま室温で18時間反応させた。その後、得られた変性ゴムラテックス(DRC=30質量%)を、ギ酸を用いてpH5に調整した後、85℃のウォーターバス中でゴムが析出するまで加熱した。得られた凝固物を実施例1と同様に水洗乾燥することにより、上記式(2)〜(5)で表される連結基を有する変性天然ゴムNR3(Mw=256万)を得た。
【0049】
[実施例2:変性NR4]
実施例1と同様にして得られた解重合ラテックス(pH5)を水酸化カリウムでpH12に調整した後、ゴム分100gあたり5.0gのD−フルクトース(和光純薬工業製)を添加し、室温で18時間反応させて変性ゴムラテックスを得た。その後、変性ゴムラテックス(DRC=30質量%)を、ギ酸を用いてpH5に調整した後、85℃のウォーターバス中でゴムが析出するまで加熱した。得られた凝固物を実施例1と同様に水洗乾燥することにより、フルクトースのアルドール縮合で生じた末端基を有する変性天然ゴムNR4(Mw=262万)を得た。
【0050】
[実施例3:変性NR5]
実施例1と同様にして得られた解重合ラテックス(pH5)を水酸化カリウムでpH12に調整した後、ゴム分100gあたり9.6gのマルトース(和光純薬工業製「D(+)−マルトース一水和物」)を添加し、室温で18時間反応させて変性ゴムラテックスを得た。その後、変性ゴムラテックス(DRC=30質量%)を、ギ酸を用いてpH5に調整した後、85℃のウォーターバス中でゴムが析出するまで加熱した。得られた凝固物を実施例1と同様に水洗乾燥することにより、マルトースのアルドール縮合で生じた末端基を有する変性天然ゴムNR5(Mw=251万)を得た。
【0051】
[実施例4:変性SBR1]
上記特許文献3の合成例5に準じた方法によりスチレンブタジエンゴムラテックスの酸化開裂を行った。詳細には、スチレンブタジエンゴムラテックス(日本ゼオン(株)製「SBRラテックスLX110」、DRC=50質量%、Mw=67万)を、DRC=30質量%に調整し、スチレンブタジエンゴムラテックス中のポリマー質量100gに対して、過ヨウ素酸(H
5IO
6)0.7gを加え、更にギ酸を加えてpHを5に調整し、23℃で3時間攪拌してスチレンブタジエンゴムを酸化開裂させた。得られた解重合スチレンブタジエンゴムのMwは38万であった。得られた解重合ラテックス(pH5)を水酸化カリウムでpH12に調整した後、該解重合ラテックスにゴム分100gあたり5.0gのD−グルコース(和光純薬工業製)を添加し、室温で18時間反応させて変性ゴムラテックスを得た。得られた変性ゴムラテックス(DRC=30質量%)を、ギ酸を用いてpH5に調整した後、85℃のウォーターバス中でゴムが析出するまで加熱した。得られた凝固物を水洗後、真空乾燥オーブンを用いて40℃で48時間真空乾燥を行うことにより、グルコースのアルドール縮合で生じた末端基を有する変性スチレンブタジエンゴムSBR1(Mw=51万)を得た。
【0052】
[比較例3:変性SBR2]
実施例4と同様にして得られた変性ゴムラテックス(DRC=30質量%)を、当該ラテックスの容量の5倍量のエタノール/水=2/1(質量比)混合溶媒に注ぎ、ギ酸でpHを5以下に調整することでゴム分を凝固させた。得られた凝固物を実施例4と同様に水洗乾燥することにより、グルコースのアルドール縮合で生じた末端基を有する変性スチレンブタジエンゴムSBR2を得た。
【0053】
[比較例4:変性SBR3]
実施例4と同様にして得られた解重合ラテックス(pH5)を水酸化カリウムでpH12に調整した後、該解重合ラテックスをそのまま室温で18時間反応させた。その後、得られた変性ゴムラテックス(DRC=30質量%)を、ギ酸を用いてpH5に調整した後、85℃のウォーターバス中でゴムが析出するまで加熱した。得られた凝固物を実施例4と同様に水洗乾燥することにより、上記式(4)及び(5)で表される連結基を有する変性スチレンブタジエンゴムSBR3(Mw=56万)を得た。
【0054】
[ヨウ素含有量の測定]
上記で得られた変性天然ゴム及び変性スチレンブタジエンゴムを、三菱化学アナリテック製燃焼装置AQF−100を用いて、酸素気流下、1000℃で完全燃焼させた際に生じたガスを、三菱化学アナリテック製ガス吸収装置GA−100を用いて、吸収液で吸収・酸化させ、ダイオネクス製イオンクロマトグラフIC−1500にダイオネクス製カラムIonPacAS12Aを接続して測定を行った。溶離液には関東化学製ダイオネクスイオンクロマトグラフ陰イオン分析用溶離液AS12Aを、内部標準には和光純薬工業製リン酸標準溶液を、ヨウ素量の検量線作成用サンプルとして東京化成製N−ヨードスクシンイミドを用いた。結果は表1に示す。
【0055】
[糖の残留評価]
上記で得られた変性天然ゴム及び変性スチレンブタジエンゴム(NR1,NR2,NR4,NR5,SBR1,SBR2)について、後記のゴム組成物混練時(第一混合段階)におけるカラメル臭の有無により、糖の残留評価を行った。表1中、「あり」はカラメル臭あり、「なし」はカラメル臭なしを意味する。
【0056】
表1に示すように、加熱により凝固させた実施例1〜3に係る変性天然ゴムNR1,4,5であると、混合溶媒を用いて凝固させた比較例1に係る変性天然ゴムNR2に比べて、ゴム中のヨウ素残留量が少なかった。また、これら実施例1〜3であると、混練時に残留した糖によって発せられるカラメル臭もしないことから、糖の残留も大幅に減少したと考えられる。変性スチレンブタジエンゴムについても、同様であり、加熱により凝固させた実施例4に係る変性スチレンブタジエンゴムSBR1であると、ヨウ素残留量が少なく、またカラメル臭もしないことから糖の残留も減少することができた。
【0057】
【表1】
【0058】
[実施例5〜7及び比較例5〜11]
バンバリーミキサーを使用し、下記表2に示す配合(質量部)に従って、まず、第一混合段階で、ゴム成分に対し硫黄及び加硫促進剤を除く他の配合剤を添加し混練し(排出温度=160℃)、次いで、得られた混練物に、最終混合段階で、硫黄と加硫促進剤を添加し混練して(排出温度=90℃)、ゴム組成物を調製した。
【0059】
表2中の各成分の詳細は以下の通りである。
・STR20:市販品の未変性の天然ゴムSTR20
・シリカ:東ソー・シリカ(株)製「ニップシールAQ」(BET=200m
2/g)
・カーボンブラック:東海カーボン(株)製「シーストKH」
・シランカップリング剤:エボニック・デグサ社製「Si75」
・オイル:JX日鉱日石エネルギー製「プロセスN140」
・亜鉛華:三井金属鉱業(株)製「亜鉛華1号」
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS−20」
・ワックス:日本精蝋(株)製「OZOACE0355」
・老化防止剤:大内新興化学工業(株)製「ノクラック6C」
・硫黄:鶴見化学工業(株)製「粉末硫黄」
・加硫促進剤CZ:住友化学(株)製「ソクシノールCZ」
・加硫促進剤D:大内新興化学工業(株)製「ノクセラーD」
【0060】
得られたゴム組成物について、150℃で20分間熱プレスを用いて加硫成型することでテストサンプルを作製し、得られたテストサンプルを用いて転がり抵抗性能と補強性を評価した。各評価方法は以下の通りである。
【0061】
[転がり抵抗性能]
上島製作所製全自動粘弾性アナライザを用いて、周波数10Hz,初期歪10%,測定温度範囲−40℃から100℃,測定温度ステップ2℃,動歪0.5%で測定を行い、60℃のtanδ値を転がり抵抗の指標とした。比較例5の値を100とした指数で表示した。指数が小さいほど、発熱しにくく、タイヤに用いたときの転がり抵抗が小さく、低燃費性の優れることを示す。
【0062】
[補強性]
JIS K6251に準じて、引張試験(ダンベル状3号形)を実施して300%伸張時の応力(S300)を測定し、比較例5の値を100とした指数で表示した。数値が大きいほど、応力が大きく、補強性に優れることを示す。
【0063】
結果は表2に示す通りである。天然ゴムを酸化開裂後にグルコースを加えて反応させた変性天然ゴムNR2を用いた比較例6では、未変性の天然ゴムを用いた比較例5や、天然ゴムを酸化開裂後にそのまま再結合させた変性天然ゴムNR3を用いた比較例7に対して、転がり抵抗性能は改善され、変性効果が認められた。しかし、比較例6では混合溶媒を用いて凝固させた変性天然ゴムNR2を用いたため、補強性の悪化がみられた。これに対し、グルコース、フルクトース又はマルトースを加えて反応させかつ加熱により凝固させた変性天然ゴムNR1,4,5を用いた実施例5〜7では、比較例5〜7に対して、転がり抵抗性能及び補強性ともに優れていた。なお、比較例8〜11のようにゴム組成物の混練時にグルコースを添加したものでは、変性時に還元糖を添加して反応させた実施例5〜7のような優れた改善効果は得られず、よって、変性時における還元糖の反応による有利な効果が認められた。
【0064】
【表2】
【0065】
[実施例8及び比較例12,13]
バンバリーミキサーを使用し、下記表3に示す配合(質量部)に従って、まず、第一混合段階で、ゴム成分に対し硫黄及び加硫促進剤を除く他の配合剤を添加し混練し(排出温度=160℃)、次いで、得られた混練物に、最終混合段階で、硫黄と加硫促進剤を添加し混練して(排出温度=90℃)、ゴム組成物を調製した。表3中の各成分の詳細は表2と同じである。
【0066】
得られたゴム組成物について、160℃で20分間熱プレスを用いて加硫成型することでテストサンプルを作製し、得られたテストサンプルを用いて転がり抵抗性能と補強性を評価した。各評価方法は上記の通りであるが、ここでは、比較例12の値を100とした指数で表示した。結果は表3に示す通りであり、変性対象としてスチレンブタジエンゴムを用いた変性ゴムの場合にも、天然ゴムの場合と同様の結果が得られた。
【0067】
【表3】