(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6566750
(24)【登録日】2019年8月9日
(45)【発行日】2019年8月28日
(54)【発明の名称】不連続金属膜の形成方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/14 20060101AFI20190819BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20190819BHJP
H01B 13/00 20060101ALN20190819BHJP
【FI】
C23C14/14 Z
C23C14/34 R
!H01B13/00 503Z
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-133944(P2015-133944)
(22)【出願日】2015年7月2日
(65)【公開番号】特開2017-14585(P2017-14585A)
(43)【公開日】2017年1月19日
【審査請求日】2018年4月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】599048638
【氏名又は名称】CBC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】千葉 忍
【審査官】
若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−138270(JP,A)
【文献】
特開2002−256429(JP,A)
【文献】
特開2009−228062(JP,A)
【文献】
特開2009−298006(JP,A)
【文献】
特開2007−144988(JP,A)
【文献】
特開2012−067331(JP,A)
【文献】
特開2008−007806(JP,A)
【文献】
特開2007−207830(JP,A)
【文献】
特表2011−500971(JP,A)
【文献】
特開2014−009400(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパッタリング法による不連続金属膜の形成方法であって、
ターゲットとして、少なくともIn−Sn合金、In、Snの何れかを用い、
該ターゲットの金属粒子を基材表面に0.02〜0.12秒の範囲で到達させた後、0.48〜1.88秒の範囲で到達を休止させて間隔を置く工程を30〜200回繰り返すことにより、金属粒子のエネルギーを損失させて定着させ、これを核として島構造を段階的に成長させることを特徴とする不連続金属膜の形成方法。
【請求項2】
チャンバー内にカルーセル式の回転装置を備えたスパッタリング装置を用い、前記回転装置の外周に前記基材を載置するとともに、前記ターゲットを前記チャンバー内の前記基材と向かい合う位置に固定して載置し、前記回転装置を回転させながらスパッタリングを行うことにより、前記基材表面に島構造を段階的に成長させることを特徴とする請求項1に記載の不連続金属膜の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不連続金属膜の形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電波透過性を有し、かつ、金属光沢を有する金属膜として、不連続膜金属膜が知られている。この不連続金属膜は、基材の表面に金属原子を拡散させながら結合させて核を形成させ、この核を3次元的な島状構造に成長させて成膜することにより得られるもの
である。このような不連続金属膜の成膜には、一般的に真空蒸着法が用いられている。
【0003】
しかしながら、真空蒸着法による不連続金属膜の成膜においては、不連続金属膜を構成する金属島の高さ(厚み)が数十nmと非常に薄く、基材に対する付着力が弱いうえに、島構造のバラつきが大きい。また、精度よく不連続金属膜が形成できる真空チャンバー内の有効成膜範囲が限られており、真空チャンバーの大きさに対して成膜範囲が狭く、その限られた狭い範囲に基材を設置する必要があるため、成膜効率が非常に悪いといった問題があった。
【0004】
このような真空蒸着法による不連続金属膜の形成の問題を解決するために、スパッタリング法により不連続金属膜を形成する方法が考えられる。スパッタリング法はプラズマプロセスのため、真空蒸着法に比べて成膜する金属粒子エネルギーが高く、基材に対する不連続金属膜の付着力が強い。
【0005】
しかしながら、スパッタリング法は、上記のとおり成膜する金属粒子エネルギーが高いため、不連続構造(島状構造)になり難いといった問題があった。これは高いエネルギーを持つ金属粒子が連続して基材に到達するために、蒸着法に比べ表面拡散量が大きく密に膜を形成してしまうことが原因と考えられる。
【0006】
これに対して、ターゲットの表面温度を制御することにより、スパッタリング法による不連続金属膜を容易に形成する方法が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012−67331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、この特許文献1の方法では、正確なターゲットの表面温度制御が必要であり、不連続膜を形成するための条件領域が非常に狭いため最適化が難しく、安定した不連続膜の成膜は困難であった。
【0009】
また、量産化に対応した広い面積の基材に対応させるために大型のスパッタリング装置を用いる場合、さらにターゲットの表面温度制御が難しくなるため成膜精度が不安定になり、不連続膜を形成することが困難となるといった問題があった。
【0010】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、スパッタリング法による不連続金属薄膜の形成において、安定的且つ容易に、また、量産化に対応した広い面積の基材に対しても、高い成膜精度での成膜を可能とする不連続金属膜の形成方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
即ち、本発明の不連続金属膜の形成方法は以下のことを特徴としている。
【0012】
本発明の不連続金属膜の形成方法は、スパッタリング法による不連続金属膜の形成方法であって、ターゲットとして、
少なくともIn−Sn合金、In、Snの何れかを用い、該ターゲットの金属粒子を基材表面に0.02〜0.12秒の範囲で到達させた後、0.48〜1.88秒の範囲で到達を休止させて間隔を置く工程を30〜200回繰り返すことにより、金属粒子のエネルギーを損失させて定着させ、これを核として島構造を段階的に成長させることを特徴とする。
【0013】
また、この不連続金属膜の形成方法においては、チャンバー内にカルーセル式の回転装置を備えたスパッタリング装置を用い、前記回転装置の外周に前記基材を載置するとともに、前記ターゲットを前記チャンバー内の前記基材と向かい合う位置に固定して載置し、前記回転装置を回転させながらスパッタリングを行うことにより、前記基材表面に島構造を段階的に成長させることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の不連続金属薄膜の形成方法によれば、スパッタリング法による不連続金属薄膜の形成において、安定的且つ容易に、また、量産化に対応した広い面積の基材に対しても、高い成膜精度での成膜を可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】不連続金属薄膜の形成方法を実現するための、スパッタリング装置の一実施形態を示す概略図である。
【
図2】実施例1の条件で成膜した金属薄膜(不連続膜)のSEM表面画像である。
【
図3】比較例1の条件で成膜した金属薄膜のSEM表面画像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の不連続金属膜の形成方法は、スパッタリング法による不連続金属膜の形成方法であって、ターゲットの金属粒子を基材表面に一定時間到達させた後、一定時間休止させて間隔を置くものである。
【0018】
通常、スパッタリングによる不連続金属膜の形成では、ターゲットの金属粒子が基材に到達する量を制御して、不連続金属膜が形成された時点でスパッタリングを停止して成膜を完了させる。
【0019】
しかしながら、このスパッタリングによる不連続金属膜の形成方法では、スパッタリングの量を厳密に制御しても安定的に不連続金属膜を形成することが非常に困難であることが実験的に確認されている。その原因について以下のように考察した。
【0020】
通常のスパッタリング法では、不連続金属膜を形成するターゲットの金属粒子のエネルギーが高いため、基材に連続して金属粒子が到達すると、そのエネルギーは損失され難い。そのため、エネルギーを保持した状態の金属粒子は基材表面の一箇所に留まることができず、一様に分散して連続的に定着してしまう。従って、設定した島構造を形成することができず、安定的に不連続膜を形成することができない。
【0021】
この考察に基づいて、鋭意研究を重ねた結果、基材の表面にターゲットの金属粒子を一定時間到達させた後、一定時間休止させて間隔を置き、断続的にターゲットの金属粒子を到達させることにより、金属粒子のエネルギーを損失させて定着させ、これを核として島構造を段階的に成長させて成膜することにより、設定した島構造を形成することができることを見出した。
【0022】
本発明の不連続金属膜の形成方法で採用するスパッタリング法において、スパッタリング法の種類、ターゲットの種類、不活性ガスの種類については、従来公知のものを用いることができる。スパッタリング法の種類としては、例えば、直流(DC)マグネトロンスパッタリング法、高周波(RF)スパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法等を挙げることができる。これらの中でも直流(DC)マグネトロンスパッタリング法を好適に用いることができる。
【0023】
ターゲットの種類としては、例えば、In−Sn合金、In、Sn等を用いることができる。また、不活性ガスとしては、例えば、Ar(アルゴン)等を用いることができる。
【0024】
また、基材に対して断続的に金属粒子を到達、定着させる条件は、成膜する不連続金属膜の種類やその要求特性等により適宜設定することができるが、例えば、ターゲットとしてIn−Sn合金を用いた場合には、不連続金属膜を形成する条件において、0.02〜0.12秒の範囲で基材表面に金属粒子を到達させた後、0.48〜1.88秒、好ましくは0.88〜1.08秒の範囲で休止し、この工程を30〜200回繰り返して行う。これにより所望の不連続金属膜を成膜することができる。なお、この金属粒子の到達、休止のそれぞれの設定時間は、基板の回転速度によって変化させることができる。
【0025】
本発明の不連続金属膜の形成方法を実現する具体的な方法としては、スパッタリング装置に印加する電圧を断続的にON/OFFすることによりパルスとして制御する方法や、チャンバー内に、基材が載置可能なカーセル式の回転装置を設け、これを回転させながらスパッタリングを行うことにより、基材表面に対して断続的に金属粒子を到達、定着させる方法を採用することができる。
【0026】
本発明では、制御の容易性や、比較的大きいサイズの基材に対して適用が可能である等の観点から、チャンバー内にカルーセル式の回転装置を設けたスパッタリング装置を好適に採用することができる。
【0027】
以下に、
図1を用いて、チャンバー内にカルーセル式の回転装置を設けたスパッタリング装置を用いた実施形態について詳細に説明する。
【0028】
この実施形態のスパッタリング装置1は、チャンバー2内に、基材4を載置可能なカルーセル式の回転装置3(以下、単に回転装置と略称する)が設けられており、その回転装置3の外周と向かい合う位置にターゲット5が載置されている。また、チャンバー2内に不活性ガスを供給し、流量制御するための不活性ガス制御装置6と、基材4とターゲット5間に高電圧を印加するための電圧印加装置7が設けられている。
【0029】
このスパッタリング装置1による不連続金属膜の形成は、まず、回転装置3の外周に基材4を載置し、また、基材4と向かい合う位置に、ターゲット5をチャンバー2内に固定して載置する。
【0030】
次に、不活性ガス制御装置6により、チャンバー2内に不活性ガスを供給し、設定した回転速度で回転装置3を回転させるとともに、電圧印加装置7により基材4とターゲット5間に高電圧を印加してスパッタリングを開始する。そして、回転装置3を設定した時間回転させた後、電圧の印加を停止してスパッタリングを終了する。これにより、設定した島構造を段階的に成長させて不連続金属膜を形成することができる。
【0031】
なお、回転装置3の回転速度は、ターゲット5の材質や、成膜する不連続金属膜の膜厚等により適宜設置できるが、通常、30〜60rpmの回転速度が考慮される。また、回転時間は、スパッタリング条件によって異なるため適宜設定することができるが、上記回転速度の範囲で設定した場合、1〜4分程度が考慮される。
【0032】
本実施形態のスパッタリング装置1によれば、基材4を配置する回転装置3をカルーセル式にすることにより、スパッタリングされる金属粒子を断続的に基材4表面に到達させ成膜することができ、容易に不連金属続膜を形成することができる。
【0033】
以上、本発明の不連金属続膜の形成方法を実施形態に基づいて説明したが、本発明の不連金属続膜の形成方法は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が可能である。
【0034】
例えば、上記実施形態では、チャンバー2内において、カルーセル式の回転装置3に基材4を固定してスパッタリングを行うスパッタリング装置を用いたが、基材4の形状によっては自公転式ホルダーに基材4を装着してスパッタリングを行うスパッタリング装置を用いることもできる。
【実施例】
【0035】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0036】
スパッタリング装置として、芝浦メカトロニクス製/CFS-24PC-80(カルーセル型スパッタリング装置)を用いて、以下に示すスパッタリング条件にて不連続金属膜の形成を行った。
(スパッタリング基礎条件)
基材:ポリカーボネート(90×50mm)
ターゲット:In−Sn合金(90:10)
ベース圧力:2.0×10
−03Pa
Ar(アルゴン)流量:150sccm
スパッタ圧力:0.3Pa
また、表1に示すスパッタリング時間、休止時間の条件により、実施例1〜5及び比較例1、2の、基材表面に金属膜を形成した成形品を得た。なお、スパッタリング時間とは、スパッタリング装置の稼働時間を意味する。
【0037】
次に、成形品の表面に成形した金属膜の10mm間抵抗値及び不連続性を以下の方法にて測定し評価した。
(10mm間抵抗値の測定)
形成した表面の金属膜の10mm間抵抗値を、テスターを用いて測定した。その結果を表1に示す。
(不連続性の評価)
形成した表面の金属膜の不連続性について、金属探知機を用いて評価を行った。金属膜の表面を金属探知機でスキャンして、金属膜感知の反応を調べて以下の基準で評価した。
◎:反応なし
○:やや反応あり
×:反応あり
なお、本発明の評価基準では、◎及び○を不連続金属膜の合格とし、×を不合格とした。その結果を表1に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
また、
図2に、実施例1の条件で成膜した金属薄膜(不連続膜)のSEM表面画像を示し、
図3に、比較例1の条件で成膜した金属薄膜のSEM表面画像を示す。
【0040】
図2に示す実施例1の金属薄膜では、ほぼ一定の形状、大きさの島が独立して形成されていることが確認できる。これに対して
図3に示す比較例1の金属薄膜は、形状が一定ではなく、隣接する島が一つになって帯状になっているのが確認できる。また、実施例1に比べ島が大きい。よって比較例1は、基板界面近傍で島が連続して、10mm間抵抗値が低くなったものと考えられる。
【0041】
この結果から、本発明の形成条件により成膜した実施例1〜5の成形品については、不連続金属膜が形成されていることが確認された。これに対して、スパッタリングの休止を行わなかった比較例1は独立した島構造を形成することができず、不連続金属膜を形成することができなかった。
本発明の不連続金属膜の形成方法により不連続金属膜を形成した成形品は、レーダー用電波のミリ波を透過する特性を有するとともに、金属光沢を有することから、自動車のフロントグリルに取付けられるエンブレム等として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0042】
1 スパッタリング装置
2 チャンバー
3 回転装置
4 基材
5 ターゲット
6 不活性ガス制御装置
7 電圧印加装置