(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
バックルに挿入可能な長手部と、前記長手部の先端部とは反対側に前記長手部よりも幅広に形成された幅広部とを有し、前記幅広部の少なくとも一部が被覆された、プレートを備え、
前記幅広部は、
前記長手部に接続される基部と、
前記基部に対してオフセット配置され、前記幅広部の長手方向に延びる梁部と、
前記基部と前記梁部とを接続する接続部とを有し、
前記梁部に巻き掛けられたシートベルトにリトラクタから引き出される方向に作用する引っ張り力により前記梁部が引っ張られることにより、前記梁部を前記基部に近づける摩擦力が作用して、前記接続部が撓むことで、前記梁部が前記基部に近づいて前記シートベルトは前記梁部と前記基部との間に挟まれてロックされる、タング。
請求項1から3のいずれか一項に記載のタングと、前記バックルと、前記シートベルトと、前記シートベルトを巻き取るリトラクタと、前記シートベルトが挿通するショルダーアンカーとを備える、シートベルト装置。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。なお、「平行」には「略平行」が含まれてもよく、「垂直」には「略垂直」が含まれてもよい。
【0009】
図1は、一実施形態であるシートベルト装置1の一例を示す図である。シートベルト装置1は、シートベルト4と、リトラクタ3と、ショルダーアンカー6と、タング7と、バックル8とを備える。
【0010】
シートベルト4は、車両のシート2に座る乗員を拘束するウェビングの一例であり、リトラクタ3に引き出し可能に巻き取られる帯状部材である。シートベルト4の先端のベルトアンカー5は、車体の床又はシート2に固定される。
【0011】
リトラクタ3は、シートベルト4の巻き取り又は引き出しを可能にする巻き取り装置の一例であり、車両衝突時等の所定値以上の減速度が車両に加わると、シートベルト4がリトラクタ3から引き出されることを制限する。リトラクタ3は、シート2又はシート2の近傍の車体に固定される。
【0012】
ショルダーアンカー6は、シートベルト4が挿通するベルト挿通具の一例であり、リトラクタ3から引き出されたシートベルト4を乗員の肩部の方へガイドする部材である。
【0013】
タング7は、シートベルト4が挿通するベルト挿通具の一例であり、ショルダーアンカー6によりガイドされたシートベルト4にスライド可能に取り付けられる部材である。
【0014】
バックル8は、タング7が着脱可能に係合される部材の一例であり、車体の床又はシート2に固定される。
【0015】
タング7がバックル8に係合された状態で、ショルダーアンカー6とタング7との間のシートベルト4の部分が、乗員の胸部及び肩部を拘束するショルダーベルト部9である。タング7がバックル8に係合された状態で、ベルトアンカー5とタング7との間のシートベルト4の部分が、乗員の腰部を拘束するラップベルト部10である。
【0016】
シートベルト4が乗員に装着されていない非装着時では、タング7はバックル8に係合されず、シートベルト4はその全量(具体的には、リトラクタ3がシートベルト4を何らの支障もなく巻取り可能な量)をリトラクタ3に巻き取られている。一方、シートベルト4が乗員に装着される装着時では、
図1に示されるようにシートベルト4はリトラクタ3から引き出される。そして、タング7がバックル8に係合され、且つ、シートベルト4の弛みが小さくなるようにシートベルト4がリトラクタ3に巻き取られることで、シートベルト4が乗員に装着される。
【0017】
タング7がバックル8に係合されシートベルト4が乗員に装着された状態において、車両衝突時等の所定値以上の減速度が車両に加わらない通常時は、シートベルト4は通常の引き出し速度で自由に引き出し可能である。そして、シートベルト4の引き出し方向の引っ張り力が解放されると、シートベルト4は余分な引き出し量をリトラクタ3に巻き取られる。
【0018】
タング7がバックル8に係合されシートベルト4が乗員に装着された状態において、車両衝突時等の所定値以上の減速度が車両に加わる緊急時は、リトラクタ3は、シートベルト4がリトラクタ3から引き出されることを制限するようにシートベルト4をロック又は巻き取ることによって、シートベルト4の乗員に対する拘束力を強化する。
【0019】
図2は、タング7の内側を示す斜視図である。
図3は、タング7の外側を示す斜視図である。
図2,3では、タング7に設けられた挿通口71を挿通するシートベルト4の図示が省略されている。
【0020】
図4は、タング7の分解斜視図である。タング7は、プレート20と、折り返し部材40とを備える。プレート20の一部は、樹脂等により形成された被覆部70で被覆される。
【0021】
プレート20は、バックル8に挿入可能な長手部21と、長手部21よりも幅広に形成された幅広部22とを有し、略T字状に形成された平面状の板部材である。長手部21がバックル8に挿入されることにより、タング7はプレート20を介してバックル8と連結される。プレート20は、例えば、炭素鋼を主成分とする一枚の金属板からプレス加工により成形される。
【0022】
長手部21は、バックル8に係合可能な平面状の板部分であり、幅広部22から第1の方向11に先端部24まで延在する。第1の方向11は、長手部21の長手方向に相当する。長手部21は、一対の長辺31と一つの短辺32とを含む外縁を有する。一対の長辺31は、幅広部22から第1の方向11に延在する外縁である。短辺32は、長手部21の短手方向(第2の方向12)に延在する外縁であって、第1の方向11における先端部24の外縁である。第2の方向12は、長手部21の幅方向に相当する。
【0023】
長手部21には、バックル8のラッチ部材とラッチするラッチ孔26が、先端部24と幅広部22との間に設けられている。長手部21には、プレート20を軽量化する軽減孔27が先端部24と幅広部22との間に設けられてもよい。
【0024】
幅広部22は、第1の方向11で長手部21の先端部24とは反対側に形成された板部分である。幅広部22は、第2の方向12を長手方向とする。幅広部22は、基部23と、梁部25と、接続部39とを有する。
【0025】
基部23は、第1の方向11で長手部21の先端部24とは反対側の根元部に接続され、長手部21よりも幅広に形成された平面状の板部分である。基部23は、第2の方向12を長手方向とする。基部23は、第1の側端部33と第2の側端部34とを含む端部を有する。第1の側端部33は、第2の方向12における一方の端部である。第2の側端部34は、第2の方向12で第1の側端部33とは反対側のもう一方の端部である。
【0026】
梁部25は、幅広部22の長手方向(つまり、第2の方向12)に延びる平面状の板部分である。梁部25は、第2の方向12を長手方向とする。梁部25は、基部23に対して長手部21とは反対側にオフセットして設けられ、且つ、基部23に対して第3の方向13の片側にオフセットして設けられている。第3の方向13は、第1の方向11且つ第2の方向12に垂直な方向である。梁部25は、第1の梁端部35と第2の梁端部36とを含む端部を有する。第1の梁端部35は、第2の方向12における一方の端部である。第2の梁端部36は、第2の方向12で第1の梁端部35とは反対側のもう一方の端部である。
【0027】
接続部39は、基部23と梁部25とを接続する平面状の板部分であり、クランク状に曲げ加工された部分である。接続部39は、例えば、クランク状に形成された第1の腕部29と、クランク状に形成された第2の腕部30とを有する。第1の腕部29は、第1の側端部33と第1の梁端部35とを接続する接続部であり、第2の腕部30は、第2の側端部34と第2の梁端部36とを接続する接続部である。
【0028】
図5は、第3の方向13でのプレート20の平面図である。
図6は、
図5に示される矢視Aでの矢視図である。挿通口71は、第1の腕部29と第2の腕部30と基部23と梁部25とに囲まれた開口である。挿通口71は、第1の方向11での視点で、第1の腕部29と第2の腕部30との間に形成され、且つ、基部23と梁部25との間に形成される。挿通口71は、シートベルト4が第1の方向11に挿通可能に開口する。
【0029】
図4において、幅広部22の少なくとも一部及び折り返し部材40の少なくとも一部は、被覆部70で被覆されている。被覆部70は、例えば、幅広部22の少なくとも一部及び折り返し部材40の少なくとも一部を樹脂等でモールド被覆するモールド部分である。被覆部70は、挿通口71が塞がらないように(つまり、シートベルト4が挿通口71を挿通できるように)、基部23と梁部25と接続部39とを被覆する。
【0030】
折り返し部材40は、シートベルト4を折り返して滑らせるスライド面41を有する略U字状に折り曲げ加工された棒状の板部材である。スライド面41は、折り返し部材40の外周面に形成されている。折り返し部材40は、第1の腕部29と第2の腕部30との間に配置された状態で、被覆部70のモールド被覆により梁部25に固定される。折り返し部材40は、第2の方向12を長手方向とする。折り返し部材40は、例えば、炭素鋼を主成分とする一枚の金属板からプレス加工により成形される。折り返し部材40の主成分の具体例として、鉄、アルミニウム、樹脂などが挙げられる。
【0031】
図7は、シートベルト4が梁部25に巻き掛けられる前のタング7において、梁部25の初期位置状態の一例を示す側面図である。
図7は、シートベルト4が乗員に装着されていない非装着状態を示す。この状態では、シートベルト4は、リトラクタ3に巻き取られ、梁部25に巻き掛けられていない。
【0032】
なお、
図7は、基部23と梁部25と接続部39とが被覆部70で被覆されている形態を示す。後述の
図8及び
図9についても同様である。つまり、本例では、シートベルト4は、被覆部70で被覆された梁部25に巻き掛けられる。
【0033】
図7において、シートベルト4は、タング7で折り返されずに、基部23と梁部25との間の挿通口71を通ってタング7を直線的に挿通する。シートベルト4が通る直線的な通路が形成されるように、基部23は被覆部70でモールド被覆されている。これにより、タング7は滑らかにシートベルト4に沿って自由落下できる。
【0034】
図8は、シートベルト4が梁部25に巻き掛けられた後のタング7において、梁部25の初期位置状態の一例を示す断面図である。
図8は、シートベルト4が乗員に装着された装着状態を示す。
図8に示されるように、シートベルト4は、挿通口71を挿通し梁部25に巻き掛けられた状態で、ショルダーベルト部9とラップベルト部10とで梁部25を挟むように折り返し部37で折り返される。折り返し部37は、梁部25を被覆する被覆部70の部位である。
【0035】
折り返し部材40は、スライド面41でスライドするシートベルト4が梁部25で折り返す動作を滑らかにガイドするガイド部材である。折り返し部材40は、略U字状に湾曲したスライド面41が露出するように、折り返し部37で梁部25に被覆部70のモールド被覆により固定される。また、略U字状の折り返し部材40は、梁部25を挟むように、被覆部70のモールド被覆により梁部25に固定される。
【0036】
長手部21は、
図8の状態でバックル8に固定されている。そのため、ラップベルト部10がシートベルト4の引き出し方向への引っ張り力Fpにより引っ張られると、梁部25は、第1の方向11において基部23に対して長手部21とは反対側に引っ張られる。引っ張り力Fpは、シートベルト4がリトラクタ3から引き出される方向にシートベルト4に作用する力である。
【0037】
梁部25は、基部23に対して第1の方向11且つ第3の方向13にオフセット配置されている。そのため、梁部25が引っ張り力Fpにより引っ張られることにより、梁部25を基部23に近づけさせる摩擦力が、シートベルト4がスライド可能に接する折り返し部材40のスライド面41に作用しやすい。梁部25を基部23に近づけさせる摩擦力が折り返し部材40のスライド面41に作用することにより、梁部25が基部23に近づくように、接続部39は撓む。
【0038】
図9は、シートベルト4が梁部25に巻き掛けられた後のタング7において、梁部25のロック位置状態の一例を示す断面図である。引っ張り力Fpの作用が続くと、梁部25は、シートベルト4をスライド面41の一部位と基部23に形成されたクランプ面38との間で挟む。これにより、シートベルト4の引き出しが梁部25によりロックされる。
【0039】
クランプ面38は、基部23がモールド被覆されることにより形成される。これにより、シートベルト4をスライド面41とクランプ面38とで挟んでロックする力を金属の基部23で受け止めることができるので、引っ張り力Fpに対するタング7の剛性がアップする。クランプ面38は、例えば波形に形成されてもよい。これにより、シートベルト4をスライド面41とクランプ面38とで挟んでロックする力を強化することができる。
【0040】
図8,9において、ラップベルト部10がシートベルト4の引き出し方向への引っ張り力Fpにより引っ張られるとともにショルダーベルト部9がシートベルト4の巻き取り方向への引っ張り力Frにより引っ張られると、梁部25は、第1の方向11において基部23に対して長手部21とは反対側に引っ張られる形態でもよい。引っ張り力Frは、シートベルト4がリトラクタ3に巻き取られる方向にシートベルト4に作用する力である。ラップベルト部10のみが引っ張り力Fpにより引っ張られる上述の場合と同様に、梁部25を基部23に近づけさせる摩擦力が、シートベルト4がスライド可能に接する折り返し部材40のスライド面41に作用する。梁部25を基部23に近づけさせる摩擦力が折り返し部材40のスライド面41に作用することにより、梁部25が基部23に近づくように、接続部39は撓む。
【0041】
なお、ショルダーベルト部9のみが引っ張り力Frにより引っ張られる場合、梁部25を基部23に近づけさせる摩擦力が、シートベルト4がスライド可能に接する折り返し部材40のスライド面41に殆ど作用しない。つまり、接続部39は、梁部25が基部23に近づく方向にはほとんど撓まない。したがって、ショルダーベルト部9を巻き取り方向に引っ張る引っ張り力Frを発生させるプリテンション機能が作動する領域では、シートベルト4は梁部25と基部23との間に挟まれず、プリテンション機能の作動が阻害されない。
【0042】
図10は、引っ張り力Fp、又は引っ張り力Fpと引っ張り力Frとの合力によるプレート20の変形の前後の形態の一例を示す図であり、
図5に示される矢視Bでの矢視図である。
図10に示されるように、引っ張り力によって、接続部39は撓む。接続部39の引っ張り力による撓み変形によって、梁部25は、第3の方向13において基部23に近づく方向に移動量C1だけ変位するとともに、第1の方向11において長手部21から離れる方向に移動量C2だけ変位する。
【0043】
図11は、引っ張り力Fと挿通口71のギャップ長Dとの関係を実測した結果の一例を示す図である。引っ張り力Fは、引っ張り力Fpと引っ張り力Frとの合力である。ギャップ長Dは、挿通口71の第3の方向13におけるクリアランス長を表す。
図11の測定条件は、ギャップ長Dの初期値をd1とし、シートベルト4の厚みを1.2mmとする。
【0044】
引っ張り力Fが0以上f2未満の領域は、接続部39が弾性変形する弾性域である。引っ張り力Fがf2以上の領域は、接続部39は塑性変形する塑性域である。弾性域と塑性域との境界荷重値は、f2である。
【0045】
引っ張り力Fが0以上f1以下の領域E1は、シートベルト4のショルダーベルト部9を巻き取り方向に引っ張る引っ張り力Frを発生させるプリテンション機能が作動する領域(すなわち、巻き取り方向への引っ張り力Frが発生する領域)である。プリテンションが着火する領域E1では、シートベルト4は梁部25と基部23との間に挟まれていないため、プリテンション機能の作動が阻害されない。f1は、f2よりも小さな荷重値である。
【0046】
引っ張り力Fがf3以上f4以下の領域E2は、接続部39の変形により、シートベルト4が梁部25と基部23との間に挟まれている領域である。
【0047】
また、衝突には、プリテンション機能が作動しない軽衝突と呼ばれる形態があり、軽衝突の場合、タング7は衝突後も問題なく使える必要がある。軽衝突時に発生する引っ張り力Fは、弾性域と塑性域との境界荷重値f2よりも小さい。したがって、本実施形態のタング7によれば、接続部39を塑性変形させずに、接続部39を弾性域で変形させることができる。つまり、軽衝突後の接続部39は元の形状に戻るため、衝突後も衝突前と同様にタング7を継続的に使用することができる。
【0048】
このように、本実施形態によれば、梁部25に巻き掛けられたシートベルト4のラップベルト部10が引っ張られることにより、梁部25が基部23に近づくように接続部39は変形し、シートベルト4は梁部25と基部23との間に挟まれてロックされる。よって、ロックバーのような部品が不要になるので、タング7の部品点数を削減することができる。
【0049】
また、折り返し部材40が設けられることによって、折り返し部材40が無い形態に比べて、タング7の断面二次モーメントを上げ、タング7の剛性を上げることができる。例えば、プレート20の長手方向(第1の方向11)の強度が上がるので、幅広部22の体格を小さくすることができ、その結果、プレート20の体格を小さくすることができる。
【0050】
折り返し部材40が設けられることにより、幅広部22の変形を抑えることができるので、例えば、接続部39の接続幅G(
図5参照)を小さくすることができる。その結果、プレート20の第2の方向12での外形寸法を小さくすることができる。また、幅広部22の変形を抑えることができるので、例えば、引っ張り力Fに対する接続部39の変形度合いを設計的に調整することが容易になる。例えば、
図11の弾性域において、引っ張り力Fに対するギャップ長Dの減少度合いを設計的に調整することが容易になる。
【0051】
車両衝突時等の所定値以上の減速度が車両に加わらない通常時のシートベルト4の使用状況では、折り返し部材40の摩擦係数は、樹脂の摩擦係数よりも低い。よって、折り返し部材40が設けられることによって、巻き取り又は引き出し時のシートベルト4の滑りをよくすることができる。また、車両衝突時等の所定値以上の減速度が車両に加わる緊急時、折り返し部材40が設けられることによって、シートベルト4が樹脂と擦れることによる摩擦熱の発生を抑制することができる。
【0052】
以上、タング及びシートベルト装置を実施形態により説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。他の実施形態の一部又は全部との組み合わせや置換などの種々の変形及び改良が、本発明の範囲内で可能である。
【0053】
例えば、被覆部70は、接続部39の少なくとも一部を被覆しなくてもよい。また、折り返し部材40は、プレス加工に限られず、引き抜き加工や鋳造や射出成形などの他の製造方法により製造されてもよい。また、折り返し部材40と梁部25とは、モールド被覆によって固定される場合に限られず、溶接やリベット接合などの他の固定形態で固定されてもよい。