(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記光重合開始剤Bと前記4級有機ホウ素アニオンのアンモニウム塩Cの含有質量比が、光重合開始剤B:4級有機ホウ素アニオンのアンモニウム塩C=1:0.1〜1:3である、
請求項1に記載の液晶シール剤。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.光硬化性樹脂組成物
本発明の光硬化性樹脂組成物は、硬化性化合物Aと、光重合開始剤Bと、4級有機ホウ素アニオンのアンモニウム塩Cとを含み、必要に応じて熱硬化性化合物Dと、熱硬化剤Eと、その他の成分Fとをさらに含み得る。
【0014】
1−1.硬化性化合物A
本発明の光硬化性樹脂組成物に含まれる硬化性化合物Aは、分子内にエチレン性不飽和二重結合を有する化合物である。分子内にエチレン性不飽和二重結合を有する化合物は、分子内に(メタ)アクリロイル基を有する化合物であることが好ましい。1分子あたりの(メタ)アクリロイル基の数は、1又は2以上である。分子内に(メタ)アクリロイル基を有する化合物は、モノマー、オリゴマー又はポリマーのいずれであってもよい。(メタ)アクリロイル基は、アクリロイル基又はメタクリロイル基を意味し、(メタ)アクリレートは、アクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0015】
1分子内に1つの(メタ)アクリロイル基を有する化合物の例には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸2―ヒドロキシエチルエステル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが含まれる。
【0016】
1分子内に2以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物の例には、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等のジ(メタ)アクリレート;トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートのジ(メタ)アクリレート;ネオペンチルグリコール1モルに4モル以上のエチレンオキサイド若しくはプロピレンオキサイドを付加して得たジオールのジ(メタ)アクリレート;ビスフェノールA1モルに2モルのエチレンオキサイド若しくはプロピレンオキサイドを付加して得たジオールのジ(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパン1モルに3モル以上のエチレンオキサイド若しくはプロピレンオキサイドを付加して得たトリオールのジ若しくはトリ(メタ)アクリレート;ビスフェノールA1モルに4モル以上のエチレンオキサイド若しくはプロピレンオキサイドを付加して得たジオールのジ(メタ)アクリレート;トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、又はそのオリゴマー;ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート又はそのオリゴマー;ジペンタエリスリトールのポリ(メタ)アクリレート;トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート;カプロラクトン変性トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート;カプロラクトン変性トリス(メタクリロキシエチル)イソシアヌレート;アルキル変性ジペンタエリスリトールのポリアクリレート又はポリメタクリレート;カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールのポリアクリレート又はポリメタクリレート;ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート又はジメタクリレート;カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート;エチレンオキサイド変性リン酸アクリレート又はジメタクリレート;エチレンオキサイド変性アルキル化リン酸(メタ)アクリレート;ネオペンチルグルコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールのオリゴ(メタ)アクリレート等が含まれる。
【0017】
硬化性化合物Aは、分子内にエポキシ基をさらに有してもよい。1分子あたりのエポキシ基の数は1又は2以上である。硬化性化合物Aが分子内に(メタ)アクリロイル基だけでなくエポキシ基をさらに有していれば、それを含む光硬化性樹脂組成物に光硬化性と熱硬化性とを付与し得る。それにより、硬化物の硬化性を高めることができる。
【0018】
分子内に(メタ)アクリロイル基とエポキシ基とを有する化合物は、例えばエポキシ化合物と(メタ)アクリル酸とを塩基性触媒の存在下で反応させて得られる(メタ)アクリル酸グリシジルエステルであり得る。
【0019】
反応させるエポキシ化合物は、分子内に2以上のエポキシ基を有する多官能のエポキシ化合物であればよく、架橋密度が高まりすぎて光硬化性樹脂組成物の硬化物の接着性が低下するのを抑制する観点では、2官能のエポキシ化合物が好ましい。2官能のエポキシ化合物の例には、ビスフェノール型エポキシ化合物(ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、2,2’−ジアリルビスフェノールA型、ビスフェノールAD型、及び水添ビスフェノール型等)、ビフェニル型エポキシ化合物、及びナフタレン型エポキシ化合物が含まれる。中でも、塗布性が良好である観点から、ビスフェノールA型及びビスフェノールF型のビスフェノール型エポキシ化合物が好ましい。ビスフェノール型エポキシ化合物は、ビフェニルエーテル型エポキシ化合物と比べて塗布性に優れる等の利点がある。
【0020】
分子内に(メタ)アクリロイル基とエポキシ基とを有する化合物は、一種類であってもよいし、二種類以上の組み合わせであってもよい。
【0021】
分子内に(メタ)アクリロイル基を有し、エポキシ基を有しない化合物A1と、分子内に(メタ)アクリロイル基とエポキシ基とを有する化合物A2とを組み合わせてもよい。それにより、光硬化性樹脂組成物が、熱硬化性化合物Dとしてエポキシ化合物をさらに含む場合に、当該エポキシ化合物と、分子内に(メタ)アクリロイル基を有し、エポキシ基を有しない化合物A1との相溶性を高め得る。化合物A2と化合物A1との含有質量比は、例えばA2/A1=1/0.4〜1/0.6とし得る。
【0022】
分子内に(メタ)アクリロイル基とエポキシ基とを有する化合物A2の含有量は、特に制限されないが、例えば硬化性化合物Aの合計に対して30質量%以上であり得る。
【0023】
硬化性化合物Aの重量平均分子量は、310〜1000程度であることが好ましい。硬化性化合物Aの重量平均分子量は、例えばゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算にて測定することができる。
【0024】
硬化性化合物Aの含有量は、光硬化性樹脂組成物に対して40〜80質量%であることが好ましく、50〜75質量%であることがより好ましい。
【0025】
1−2.光重合開始剤B
本発明の光硬化性樹脂組成物に含まれる光重合開始剤Bは、特に制限されないが、自己開裂型の光重合開始剤であってもよいし、水素引き抜き型の光重合開始剤であってもよい。
【0026】
自己開裂型の光重合開始剤の例には、アルキルフェノン系化合物(例えば2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン(BASF社製 IRGACURE 651)等のベンジルジメチルケタール、2−メチル−2−モルホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン(BASF社製 IRGACURE 907)等のα−アミノアルキルフェノン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(BASF社製 IRGACURE 184)等のα−ヒドロキシアルキルフェノン等)、アシルホスフィンオキサイド系化合物(例えば2,4,6−トリメチルベンゾイ
ルジフェニルホスフィンオキシド等)、チタノセン系化合物(例えばビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス(2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)-フェニル)チタニウム等)、アセトフェノン系化合物(例えばジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン
、2−メチル−2−モルホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン等)、フェニルグリオキシレート系化合物(例えばメチルフェニルグリオキシエステル等)、ベンゾインエーテル系化合物(例えばベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等)、及びオキシムエステル系化合物(例えば1,2−オクタンジオン−1−[4−(フェニルチオ)−2−(O−ベンゾイルオキシム)](BASF社製 IRGACURE OXE01)、エタノン−1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−1−(
O−アセチルオキシム)(BASF社製 IRGACURE OXE02)等)が含まれる。
【0027】
水素引き抜き型の光重合開始剤の例には、ベンゾフェノン系化合物(例えばベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル−4−フェニルベンゾフェノン、4,4′−ジクロロベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4′−メチル−ジフェニルサルファイド、アクリル化ベンゾフェノン、3,3′,4,4′−テトラ(t−ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン等)、チオキサ
ントン系化合物(例えばチオキサントン、2−クロロチオキサントン(東京化成工業製)、1−クロロ−4−プロポキシチオキサントン、1−クロロ−4−エトキシチオキサントン(Lambson Limited製 Speedcure CPTX)、2−イソプロピル
チオキサントン(Lambson Limited製 Speedcure ITX)、4−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン(Lambson Limited製 Speedcure DETX)、2,4−ジクロロチオキサントン
等)、アントラキノン系化合物(例えば2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−t−ブチルアントラキノン、1−クロロアントラキノン等、2−ヒドロキシアントラキノン(東京化成工業社製 2-Hydroxyanthraquinone)、2,6-ジヒドロキシアントラキノン(東京化成工業社製 Anthraflavic Acid)、2−ヒドロキシメチルアントラキノン(純正化学社製 2-(Hydroxymethyl)anthraquinone)等)及びベンジル系化合物が含まれる。
【0028】
光重合開始剤Bの吸収波長は特に限定されないが、4級有機ホウ素アニオンのアンモニウム塩Cと組み合わせることで、高い硬化性が得られやすいことから、波長360nm以上の光を吸収する光重合開始剤Bが好ましい。中でも、波長360〜780nmの光を吸収する光重合開始剤Bがより好ましく、波長360〜430nmの光を吸収する光重合開始剤Bがさらに好ましい。
【0029】
波長360nm以上の光を吸収する光重合開始剤Bの例には、アルキルフェノン系化合物、アシルホスフィンオキサイド系化合物、チタノセン系化合物、オキシムエステル系化合物、チオキサントン系化合物、アントラキノン系化合物が含まれ、好ましくはチオキサントン系化合物、アントラキノン系化合物である。
【0030】
光重合開始剤Bの分子量は、例えば200以上5000以下であることが好ましい。分子量が200以上であると、液晶への溶出を生じにくくし得る。分子量が5000以下であると、硬化性化合物Aとの相溶性を高め得るので、十分な硬化性が得られやすい。光重合開始剤Bの分子量は、230以上3000以下であることがより好ましく、230以上1500以下であることがさらに好ましい。
【0031】
光重合開始剤Bの分子量は、下記条件で高速液体クロマトグラフィー(HPLC:High Performance Liquid Chromatography)を行ったときに、検出されるメインピークの分子構造の「相対分子質量」として求めることができる。
【0032】
具体的には、光重合開始剤BをTHF(テトラヒドロフラン)に溶解して試料液を調製し、下記測定条件で高速液体クロマトグラフィー(HPLC)測定を行う。そして、検出されたピークの面積百分率(各ピークの面積の、全ピークの面積の合計に対する比率)を求め、メインピークの有無を確認する。メインピークとは、各化合物に特徴的な検出波長(例えばチオキサントン系化合物であれば400nm)で検出された全ピークのうち、最も強度が大きいピーク(ピークの高さが最も高いピーク)をいう。
(HPLC測定条件)
装置:waters製 Acquity TM UPLC H-Class system
カラム:Acquity UPLC BEH C18、2.1mmID×100mm 粒子径:1.7μm
移動相:A:アセトニトリル
B:5mM酢酸アンモニウム水溶液
A/B = 60/40(0〜4分)
95/5(4〜9分)
95/5(9〜10分)
流速:0.4mL/分
PDA検出器:測定波長:190〜500nm
【0033】
検出されたメインピークのピーク頂点に対応する相対分子質量は、液体クロマトグラフィー質量分析(LC/MS:Liquid Chromatography Mass Spectrometry)により測定することができる。
(LC/MS測定条件)
装置:waters製 Acquity TM H-Class system / SQ Detector
カラム:Acquity UPLC BEH C18、2.1mmID×100mm 粒子径:1.7μm
移動相:A:アセトニトリル
B:5mM酢酸アンモニウム水溶液
A/B = 60/40(0〜4分)
95/5(4〜9分)
95/5(9〜10分)
流速:0.4mL/分
イオン化:ESI(エレクトロスプレーイオン化)、正・負イオン測定
PDA検出器:測定波長:190〜500nm
【0034】
光重合開始剤Bは、一種類であってもよいし、二種類以上の組み合わせであってもよい。
【0035】
光重合開始剤Bの含有量は、硬化性化合物Aに対して0.01〜10質量%であることが好ましい。光重合開始剤Bの含有量が0.01質量%以上であると、十分な光硬化性が得られやすい。光重合開始剤Bの含有量が10質量%以下であると、液晶への溶出が少ないので、液晶の汚染を低減しやすい。光重合開始剤Bの含有量は、硬化性化合物Aに対して0.1〜5質量%であることがより好ましく、0.1〜3質量%であることがさらに好ましく、0.1〜2.5質量%であることが特に好ましい。
【0036】
光硬化性樹脂組成物に含まれる光重合開始剤Bの構造は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)及び液体クロマトグラフィー質量分析(LC/MS)と、NMR測定又はIR測定とを組み合わせることで特定することができる。例えば、光重合開始剤Bとしてチオキサントン系化合物を用いる場合、以下の手順で行うことができる。
1)光硬化性樹脂組成物をテトラヒドロフラン(THF)に溶解させた溶液を、遠心分離機により遠心分離し、シリカ粒子や熱可塑性樹脂粒子等の粒子成分を沈降させる。得られた溶液をフィルターで濾過して粒子成分を除去し、試料液を得る。
2)前記1)で得られた試料液について、高速液体クロマトグラフフィー(HPLC)測定を行う。HPLCの測定方法・条件は、前述の分子量の測定におけるHPLCの測定方法・条件と同様である。
次いで、HPLC測定において、チオキサントン骨格に特徴的な波長400nmの検出器で検出されたメインピークの、ピーク頂点に対応する相対分子質量と組成式を、液体クロマトグラフィー質量分析(LC/MS)により測定する。LC/MSの測定方法・条件は、前述の分子量の測定におけるLC/MSの測定方法・条件と同様である。
3)前記1)で得られた試料液について、NMR測定又はIR測定を行う。それにより、チオキサントン系化合物の化学構造を特定する。
【0037】
1−3.4級有機ホウ素アニオンのアンモニウム塩C
4級有機ホウ素アニオンのアンモニウム塩Cは、光重合開始剤Bを活性化させると共に、それ自身も硬化反応に寄与する増感剤として機能し得る。4級有機ホウ素アニオンのアンモニウム塩Cは、(4n+2)個(nは、0以上の整数)のπ電子を有する環を有することが好ましい。(4n+2)個のπ電子を有する環は、好ましくは芳香族炭化水素環及び芳香族複素環であり、より好ましくは芳香族炭化水素環である。芳香族炭化水素環又は芳香族複素環を含む4級有機ホウ素アニオンのアンモニウム塩Cは、より広い波長領域の光を吸収することが可能であるため活性化されやすい。
【0038】
4級有機ホウ素アニオンにおいて、(4n+2)個のπ電子を有する環の少なくとも1つは、ホウ素原子と結合していることが好ましい。そのような4級有機ホウ素アニオンのアンモニウム塩Cは、下記式(1)で表されることが好ましい。
【化2】
【0039】
式(1)のR
1〜R
4は、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアルケニル基、置換されていてもよいアルキニル基、置換されていてもよいシクロアルキル基、置換されていてもよいアラルキル基、置換されていてもよいアリール基又は置換されていてもよいヘテロアリール基である。R
1〜R
4は、それぞれ同一であってもよいし、異なってもよい。
【0040】
置換されていてもよいアルキル基におけるアルキル基は、炭素数1〜20のアルキル基であり、その例には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、オクチル基、デシル基等が含まれる。置換されていてもよいアルケニル基におけるアルケニル基は、炭素数2〜20のアルケニル基であり、その例には、エチレニル基、プロペニル基、ブテニル基等が含まれる。置換されていてもよいアルキニル基におけるアルキニル基は、炭素数2〜20のアルキニル基であり、その例には、エチニル基、プロピニル基等が含まれる。置換されていてもよいシクロアルキル基におけるシクロアルキル基は、炭素数5〜20のシクロアルキル基であり、その例には、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が含まれる。置換されていてもよいアラルキル基におけるアラルキル基は、炭素数7〜20のアラルキル基であり、その例には、ベンジル基等が含まれる。置換されていてもよいアリール基におけるアリール基は、炭素数6〜20のアリール基であり、その例には、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等が含まれる。置換されていてもよいヘテロアリール基におけるヘテロアリール基は、炭素数3〜20のヘテロアリール基であり、その例には、ピリジル基等が含まれる。
【0041】
アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アラルキル基、アリール基又はヘテロアリール基が有し得る置換基は、特に制限されないが、電子供与性基であることが好ましい。電子供与性基は、4級有機ホウ素アニオンの電子密度を非局在化しにくくし得る。そのような4級有機ホウ素アニオンのアンモニウム塩は、安定には存在しにくい。従って、電子供与性基を有する4級有機ホウ素アニオンのアンモニウム塩Cは光重合開始剤Bからエネルギーを受けると、比較的容易に解離し、硬化性化合物Aの硬化反応を開始しやすいと考えられる。電子供与性基の例には、メチル基、エチル基、プロピル基、t−ブチル基等のアルキル基、メトキシ基等のアルコキシ基及び水酸基等が含まれる。
【0042】
但し、R
1〜R
4の少なくとも1つ(好ましくは2つ、より好ましくは3つ)は、置換されていてもよいアリール基又は置換されていてもよいヘテロアリール基であり、より好ましくは置換されていてもよいアリール基である。芳香族炭化水素環又は芳香族複素環を含む4級有機ホウ素アニオンのアンモニウム塩Cは、より広い波長領域の光を吸収しやすいため、活性化されやすい。また、4級有機ホウ素アニオンのアンモニウム塩Cに含まれる芳香族炭化水素環又は芳香族複素環の数が多いほど、吸収波長が長波長側に一層シフトしやすく、活性化されやすい。
【0043】
4級有機ホウ素アニオンの例には、n−ブチルトリフェニルボレート、n−オクチルトリフェニルボレート、n−ドデシルトリフェニルボレート、sec−ブチルトリフェニルボレート、t−ブチルトリフェニルボレート、ベンジルトリフェニルボレート、n−ブチルトリ(4−トリル)ボレート、n−ブチルトリ(2−トリル)ボレート、n−ブチルトリ(4−t−ブチルフェニル)ボレート、n−ブチルトリナフチルボレート、n−ブチルトリ(3−メチルナフチル)ボレート、テトラ−n−ブチルボレート、ジ−n−ブチルジフェニルボレート、テトラベンジルボレート等が含まれる。
【0044】
式(1)のZ
+は、アンモニウムカチオンである。アンモニウムカチオンは、テトラアルキルアンモニウムカチオンであることが好ましい。テトラアルキルアンモニウムカチオンの例には、テトラメチルアンモニウムカチオン、テトラエチルアンモニウムカチオン、テトラn−ブチルアンモニウムカチオン、テトラオクチルアンモニウムカチオン等が含まれる。
【0045】
4級有機ホウ素アニオンのアンモニウム塩Cの分子量は、例えば350〜900であることが好ましい。4級有機ホウ素アニオンのアンモニウム塩Cの分子量が350以上であると、液晶へ溶出しにくいことから、液晶汚染を低減しやすい。4級有機ホウ素アニオンのアンモニウム塩Cの分子量が900以下であると、硬化性化合物Aとの相溶性が損なわれにくく、均一に分散しやすい。4級有機ホウ素アニオンのアンモニウム塩Cの分子量は、450〜800であることがより好ましい。4級有機ホウ素アニオンのアンモニウム塩Cの分子量は、前述と同様にして測定することができる。
【0046】
4級有機ホウ素アニオンのアンモニウム塩Cの含有量は、硬化性化合物Aに対して0.01〜10質量%であることが好ましい。4級有機ホウ素アニオンのアンモニウム塩Cの含有量が0.01質量%以上であると、光重合開始剤Bを十分に活性化させ得るので、十分な硬化性が得られやすい。4級有機ホウ素アニオンのアンモニウム塩Cの含有量が10質量%以下であると、硬化性を損なうことなく、液晶への溶出を生じにくい。4級有機ホウ素アニオンのアンモニウム塩Cの含有量は、硬化性化合物Aに対して0.1〜5質量%であることがより好ましく、0.1〜3質量%であることがさらに好ましく、0.1〜2.5質量%であることが特に好ましい。
【0047】
光硬化性樹脂組成物に含まれる4級有機ホウ素アニオンのアンモニウム塩Cの構造は、前述の光硬化性樹脂組成物に含まれる光重合開始剤Bの構造の確認方法と同様にして確認することができる。
【0048】
光重合開始剤Bと4級有機ホウ素アニオンのアンモニウム塩Cの含有質量比は、光重合開始剤B:4級有機ホウ素アニオンのアンモニウム塩C=1:0.05〜1:3であることが好ましい。光重合開始剤Bと4級有機ホウ素アニオンのアンモニウム塩Cの含有質量比が上記範囲内であると、少ない光量でも十分な硬化性が得られやすい。光重合開始剤Bと4級有機ホウ素アニオンのアンモニウム塩Cの含有質量比は、光重合開始剤B:4級有機ホウ素アニオンのアンモニウム塩C=1:0.1〜1:3であることがより好ましく、1:0.1〜1:2であることがさらに好ましい。
【0049】
本発明では、光重合開始剤Bと4級有機ホウ素アニオンのアンモニウム塩Cとを組み合わせることで、少ない光量でも高い硬化性を得ることができる。その理由は明らかではないが、以下のように推察される。即ち、光重合開始剤Bが、照射された光を吸収して励起し、そのエネルギーが4級有機ホウ素アニオンのアンモニウム塩Cへ移動する。それにより活性化された4級有機ホウ素アニオンのアンモニウム塩Cを起点にして、硬化性化合物Aの硬化反応が進む。それと並行して、励起した光重合開始剤B自体を起点にした硬化反応も進む。従って、光重合開始剤Bと4級有機ホウ素アニオンのアンモニウム塩Cとを組み合わせることで、相乗的に硬化性が高められると考えられる。
【0050】
光重合開始剤Bの中でも、チオキサントン系化合物やアントラキノン系化合物は可視光領域での反応性が比較的低いが、4級有機ホウ素アニオンのアンモニウム塩Cと組み合わせることで、可視光領域でも十分な硬化性が得られやすい。
【0051】
1−4.熱硬化性化合物D
熱硬化性化合物Dは、分子内にエポキシ基を有するエポキシ化合物であることが好ましい。但し、熱硬化性化合物Dは、硬化性化合物Aとは異なるものとする。熱硬化性化合物Dは、分子内に(メタ)アクリロイル基を有さないエポキシ化合物であることがより好ましい。エポキシ化合物は、モノマー、オリゴマー又はポリマーのいずれであってもよい。エポキシ化合物は、例えば光硬化性樹脂組成物を液晶シール剤として用いた際に、液晶に対する溶解性や拡散性が低く、得られる液晶パネルの表示特性を良好とするだけでなく、硬化物の耐湿性を高め得る。
【0052】
エポキシ化合物は、重量平均分子量が500〜10000、好ましくは1000〜5000の芳香族エポキシ化合物であり得る。エポキシ化合物の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算にて測定することができる。
【0053】
芳香族エポキシ化合物の例には、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールF、ビスフェノールAD等で代表される芳香族ジオール類及びそれらをエチレングリコール、プロピレングリコール、アルキレングリコール変性したジオール類と、エピクロルヒドリンとの反応で得られた芳香族多価グリシジルエーテル化合物;フェノール又はクレゾールとホルムアルデヒドとから誘導されたノボラック樹脂、ポリアルケニルフェノールやそのコポリマー等で代表されるポリフェノール類と、エピクロルヒドリンとの反応で得られたノボラック型多価グリシジルエーテル化合物;キシリレンフェノール樹脂のグリシジルエーテル化合物類等が含まれる。中でも、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、トリフェノールメタン型エポキシ化合物、トリフェノールエタン型エポキシ化合物、トリスフェノール型エポキシ化合物、ジシクロペンタジエン型エポキシ化合物、ジフェニルエーテル型エポキシ化合物及びビフェニル型エポキシ化合物が好ましい。エポキシ化合物は、一種類であってもよいし、二種類以上の組み合わせであってもよい。
【0054】
エポキシ化合物は、液状であってもよいし、固形であってもよい。硬化物の耐湿性を高めやすい点では、固形のエポキシ化合物が好ましい。固形のエポキシ化合物の軟化点は、40℃以上150℃以下であることが好ましい。
【0055】
熱硬化性化合物Dの含有量は、硬化性化合物Aに対して3.8〜50質量%であることが好ましく、5〜30質量%であることがより好ましい。熱硬化性化合物Dの硬化性化合物Aに対する含有量が3.8質量%以上であると、硬化物の耐湿性やガラス基板への接着強度をさらに高めやすく、50質量%以下であると、製造時に硬化性化合物Aとの相溶性がさらに良好となりやすい。
【0056】
熱硬化性化合物Dの含有量は、光硬化性樹脂組成物に対して3〜20質量%であることが好ましい。熱硬化性化合物Dの光硬化性樹脂組成物に対する含有量が3質量%以上であると、硬化物の耐湿性を良好に高めやすく、20質量%以下であると、光硬化性樹脂組成物の粘度の過剰な上昇を抑制し得る。熱硬化性化合物Dの含有量は、光硬化性樹脂組成物に対して3〜15質量%であることがより好ましく、4〜15質量%であることがさらに好ましい。
【0057】
1−5.熱硬化剤E
熱硬化剤Eは、通常の保存条件下(室温、可視光線下等)では熱硬化性化合物Dを硬化させないが、熱を与えられると当該化合物を硬化させる化合物である。熱硬化剤Eを含有する光硬化性樹脂組成物は、保存安定性に優れ、且つ熱硬化性に優れる。熱硬化剤Eは、エポキシ硬化剤であることが好ましい。
【0058】
エポキシ硬化剤の融点は、光硬化性樹脂組成物の粘度安定性を高め、且つ硬化物の耐湿性を損なわない観点から、熱硬化温度にもよるが、50℃以上250℃以下であることが好ましく、100℃以上200℃以下であることがより好ましく、150℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。
【0059】
エポキシ硬化剤の例には、有機酸ジヒドラジド系熱潜在性硬化剤、イミダゾール系熱潜在性硬化剤、アミンアダクト系熱潜在性硬化剤、及びポリアミン系熱潜在性硬化剤が含まれる。
【0060】
有機酸ジヒドラジド系熱潜在性硬化剤の例には、アジピン酸ジヒドラジド(融点181℃)、1,3-ビス(ヒドラジノカルボエチル)-5-イソプロピルヒダントイン(融点120℃)、7,11-オクタデカジエン-1,18-ジカルボヒドラジド(融点160℃)、ドデカン二酸ジヒドラジド(融点190℃)、及びセバシン酸ジヒドラジド(融点189℃)等が含まれる。イミダゾール系熱潜在性硬化剤の例には、2,4-ジアミノ-6-[2'-エチルイミダゾリル-(1')]-エチルトリアジン(融点215〜225℃)、及び2-フェニルイミダゾール(融点137〜147℃)等が含まれる。アミンアダクト系熱潜在性硬化剤は、触媒活性を有するアミン系化合物と任意の化合物とを反応させて得られる付加化合物からなる熱潜在性硬化剤であり、その例には、味の素ファインテクノ(株)製アミキュアPN−40(融点110℃)、味の素ファインテクノ(株)製アミキュアPN−23(融点100℃)、味の素ファインテクノ(株)製アミキュアPN−31(融点115℃)、味の素ファインテクノ(株)製アミキュアPN−H(融点115℃)、味の素ファインテクノ(株)製アミキュアMY−24(融点120℃)、及び味の素ファインテクノ(株)製アミキュアMY−H(融点131℃)等が含まれる。ポリアミン系熱潜在性硬化剤は、アミンとエポキシとを反応させて得られるポリマー構造を有する熱潜在性硬化剤であり、その例には、(株)ADEKA製アデカハードナーEH4339S(軟化点120〜130℃)、及び(株)ADEKA製アデカハードナーEH4357S(軟化点73〜83℃)等が含まれる。エポキシ硬化剤は、一種類のみであってもよいし二種以上の組み合わせであってもよい。
【0061】
熱硬化剤Eの含有量は、硬化性化合物Aに対して3.8〜75質量%であることが好ましく、3.8〜50質量%であることがより好ましく、10〜40質量%であることがさらに好ましい。熱硬化剤Eの硬化性化合物Aに対する含有量が3.8質量%以上であると、硬化性化合物Aの熱硬化性を高めやすく、50質量%以下であると、液晶の汚染を抑制しやすい。
【0062】
熱硬化剤Eの含有量は、光硬化性樹脂組成物に対して3〜30質量%であることが好ましく、3〜20質量%であることがより好ましく、5〜20質量%であることがさらに好ましい。熱硬化剤Eを含む光硬化性樹脂組成物は、一液硬化性樹脂組成物となり得る。一液硬化性樹脂組成物は、使用に際して主剤と硬化剤を混合する必要がないことから、作業性に優れる。
【0063】
熱硬化性化合物Dと熱硬化剤Eの合計含有量は、光硬化性樹脂組成物に対して6〜50質量%であることが好ましく、6〜35質量%であることがより好ましく、6〜30質量%であることがさらに好ましい。
【0064】
1−6.その他の成分F
1−6−1.熱可塑性樹脂粒子
本発明の光硬化性樹脂組成物は、必要に応じて熱可塑性樹脂粒子をさらに含んでいてもよい。熱可塑性樹脂粒子は、環球法により測定される軟化点温度が50〜120℃、好ましくは70〜100℃の熱可塑性樹脂を含み、且つ数平均粒子径が0.05〜5μm、好ましくは0.1〜3μmであり得る。そのような熱可塑性樹脂粒子を含む光硬化性樹脂組成物は、硬化物に発生する収縮応力を緩和できる。また、数平均粒子径を上限値以下とすることにより、線幅の細いシール部材を形成する際に、熱可塑性樹脂粒子によって、塗工安定性が低下することを防ぐことができる。数平均粒子径は、乾式粒度分布計で測定され得る。
【0065】
熱可塑性樹脂粒子の例には、エポキシ基と二重結合基とを含む樹脂を、ラジカル重合可能なモノマーと懸濁重合して得られる微粒子が含まれる。エポキシ基と二重結合基とを含む樹脂の例には、ビスフェノールF型エポキシ樹脂とメタアクリル酸を三級アミン存在下で反応させた樹脂が含まれる。ラジカル重合可能なモノマーの例には、ブチルアクリレート、グリシジルメタクリレート、及びジビニルベンゼンが含まれる。
【0066】
1−6−2.充填剤
本発明の光硬化性樹脂組成物は、必要に応じて充填剤をさらに含んでいてもよい。充填剤を含む光硬化性樹脂組成物は、粘度や硬化物の強度、及び線膨張性等が良好であり得る。
【0067】
充填剤の例には、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、珪酸アルミニウム、珪酸ジルコニウム、酸化鉄、酸化チタン、窒化チタン、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化亜鉛、二酸化ケイ素、チタン酸カリウム、カオリン、タルク、ガラスビーズ、セリサイト
、活性白土、ベントナイト、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の無機充填剤が含まれる。中でも、二酸化ケイ素及びタルクが好ましい。
【0068】
充填剤の形状は、球状、板状、針状等の定形状であってもよいし、非定形状であってもよい。充填剤が球状である場合、充填剤の平均一次粒子径は、1.5μm以下であることが好ましく、且つ比表面積が0.5〜20m
2/gであることが好ましい。充填剤の平均一次粒子径は、JIS Z8825−1に記載のレーザー回折法により測定することができる。充填剤の比表面積は、JIS Z8830に記載のBET法により測定することができる。
【0069】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、必要に応じて熱ラジカル重合開始剤、シランカップリング剤等のカップリング剤、イオントラップ剤、イオン交換剤、レベリング剤、顔料、染料、可塑剤及び消泡剤等の添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0070】
シランカップリング剤の例には、ビニルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等が含まれる。シランカップリング剤の含有量は、光硬化性樹脂組成物に対して0.01〜5質量%であり得る。シランカップリング剤の含有量が0.01質量%以上であると、光硬化性樹脂組成物の硬化物が十分な接着性を有しやすい。
【0071】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、液晶表示パネルのギャップを調整するためのスペーサー等をさらに含んでいてもよい。
【0072】
その他の成分Fの合計含有量は、光硬化性樹脂組成物に対して1〜50質量%であることが好ましい。その他の成分Fの合計含有量が50質量%以下であると、光硬化性樹脂組成物の粘度が過度に上昇しにくく、塗工安定性が損なわれにくい。
【0073】
1−7.光硬化性樹脂組成物の物性
本発明の光硬化性樹脂組成物の、E型粘度計の25℃、2.5rpmにおける粘度は、200〜450Pa・sであることが好ましく、300〜400Pa・sであることがより好ましい。粘度が上記範囲にあると、光硬化性樹脂組成物のディスペンサ−による塗布性が良好となる。
【0074】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、例えばシール剤として用いることができる。シール剤は、液晶表示素子、有機EL素子、LED素子等の表示素子の封止に用いられる表示素子シール剤であることが好ましい。表示素子シール剤は、特に液晶シール剤であることが好ましく、液晶滴下工法用の液晶シール剤であることがより好ましい。
【0075】
2.表示素子パネル及びその製造方法
本発明の表示素子パネルは、一対の基板と、該一対の基板の間に配置される表示素子と、該表示素子を封止するシール部材とを含む。シール部材を、本発明の表示素子シール剤の硬化物とし得る。本発明の表示素子シール剤は、本発明の光硬化性樹脂組成物からなる。
【0076】
表示素子の例には、液晶表示素子、有機EL素子及びLED素子等が含まれる。中でも、本発明の光硬化性樹脂組成物が液晶汚染を良好に抑制し得る点から、液晶表示素子が好ましい。
【0077】
即ち、本発明の液晶表示パネルは、一対の基板と、該一対の基板の間に配置される枠状のシール部材と、該一対の基板の間の枠状のシール部材で囲まれた空間に充填された液晶層(液晶表示素子)とを含む。シール部材を、本発明の液晶シール剤の硬化物とし得る。本発明の液晶シール剤は、本発明の光硬化性樹脂組成物からなる。
【0078】
一対の基板は、いずれも透明基板である。透明基板の材質は、ガラス、又はポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルサルフォン及びPMMA等のプラスチックであり得る。
【0079】
一対の基板のうち一方の基板の表面には、マトリクス状のTFT、カラーフィルタ、ブラックマトリクス等が配置され得る。該一方の基板の表面には、さらに配向膜が配置され得る。配向膜には、公知の有機配向剤や無機配向剤が含まれる。
【0080】
液晶表示パネルの表示方式は、特に制限されず、TN方式(Twisted Nematic)、VA方式(V
ertical Alignment)、IPS方式(In Plane Switching)、PSA方式(Polymer-Sustained Alignment)等のいずれであってよい。
【0081】
シール部材が配置される領域の配線部の開口率(下記式で定義される開口率)は、特に制限されないが、例えば50%以下であり得る。
配線部の開口率(%)=シール部材が配置される領域の配線部の開口部の面積/シール部材が配置される領域の配線部の面積×100(%)
配線部とは、(液晶表示パネルの外周部の)配線が形成されている領域のことであり、配線部の面積とは、配線部を構成する開口部の面積と、配線部を構成する遮光部の面積の和となる。
【0082】
遮光部は、ブラックマトリクスや配線が配置された領域である。遮光部の幅は、例えば40〜200μmであり得る。
【0083】
液晶表示パネルは、本発明の液晶シール剤を用いて製造される。液晶表示パネルの製造方法には、一般に、液晶滴下工法と、液晶注入工法とがあるが、本発明の液晶表示パネルは、液晶滴下工法で製造されることが好ましい。
【0084】
液晶滴下工法による液晶表示パネルの製造方法は、
1)一方の基板に、本発明の液晶シール剤のシールパターンを形成する工程と、
2)シールパターンが未硬化の状態において、基板のシールパターンで囲まれた領域内、又はシールパターンで囲まれた領域に対向する他方の基板の領域に、液晶を滴下する工程と、
3)一方の基板と他方の基板とをシールパターンを介して重ね合わせる工程と、
4)シールパターンを硬化させる工程と
を含む。
【0085】
2)の工程において、シールパターンが未硬化の状態とは、液晶シール剤の硬化反応がゲル化点までは進行していない状態を意味する。このため、2)の工程では、液晶シール剤の液晶への溶解を抑制するために、シールパターンを光照射又は加熱して半硬化させてもよい。
【0086】
4)の工程では、光照射による硬化のみを行ってもよいが、光照射による硬化を行った後、加熱による硬化を行ってもよい。即ち、4)の工程は、シールパターンに光を照射してシールパターンを硬化させる工程を含み;液晶シール剤が前述の熱硬化剤(E)をさらに含む場合は、光が照射されたシールパターンを加熱して硬化させる工程をさらに含んでもよい。光照射による硬化を行うことで、液晶シール剤を短時間で硬化させることができるので、液晶への溶解を抑制できる。光照射による硬化と加熱による硬化とを組み合わせることで、光照射による硬化のみの場合と比べて光による液晶層へのダメージを少なくすることができる。
【0087】
照射する光は、特に制限されないが、波長370〜450nmの光であることが好ましい。上記波長の光は、液晶や駆動電極に与えるダメージが比較的少ないからである。光の照射は、紫外線や可視光を発する公知の光源を使用できる。可視光を照射する場合、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、蛍光灯等を使用できる。
【0088】
光照射エネルギーは、硬化性化合物Aを硬化させる程度のエネルギーであればよい。光硬化時間は、液晶シール剤の組成にもよるが、例えば10分程度である。
【0089】
熱硬化温度は、液晶シール剤の組成にもよるが、例えば120℃であり、熱硬化時間は2時間程度である。
【0090】
本発明の液晶シール剤は、光重合開始剤Bと4級有機ホウ素アニオンのアンモニウム塩Cとを含むので、少ない光量でも高い硬化性を示す。従って、液晶表示パネルを製造する際に、基板の配線やブラックマトリクスの下等の遮光部であっても、本発明の液晶シール剤を十分に硬化させることができる。また、本発明の液晶シール剤は高い硬化性を示すため未硬化分が残りにくく、光重合開始剤Bや4級有機ホウ素アニオンのアンモニウム塩Cの液晶への溶出も低減できる。
【0091】
特に、VA方式、PSA方式、及びIPS方式等の、高応答速度、高コントラスト、高視野角、高画質に対応可能な液晶表示パネルに用いられる液晶材料は、外的要因による影響を受けやすく、液晶シール剤を硬化させる時のUVや、液晶シール剤の構成成分によって、液晶材料の性能が低下する虞がある。
また、液晶表示パネルの高精細化、即ち画素数の増加による配線の高密度化が進んでおり、それに伴い、液晶シール剤が配置される配線部の開口率が低下する(遮光部が増える)傾向にある。
【0092】
これに対して本発明の液晶シール剤は、高い光硬化性を有することから、ブラックマトリクス等で遮光される部分(直接光が当たらない部分、遮光部)であっても、光硬化が進むことによって、一部硬化させることができる。例えば、波長400nm以上の光を照射強度100mW/cm
2で20秒間照射したときに、端から45μm以上は硬化させることができることが好ましい。このように、遮光部でも光硬化が進むことによって、液晶シール剤の未硬化成分による液晶の劣化を抑制できる。従って、本発明の液晶シール剤は、当該液晶シール剤が配置される配線部の開口率が50%以下である液晶表示パネルの液晶層の封止に好適である。
【実施例】
【0093】
以下において、実施例を参照して本発明をより詳細に説明する。これらの実施例によって、本発明の範囲は限定して解釈されない。
【0094】
1.材料
(硬化性化合物A)
A−1:合成例1で得られたメタアクリル酸変性ビスフェノールF型エポキシ樹脂(95%部分メタアクリル化物)
(合成例1)
160gの液状ビスフェノールF型エポキシ樹脂(YDF−8170C、新日鉄住金化学社製、エポキシ当量160g/eq)、重合禁止剤として0.1gのp−メトキシフェノール、触媒として0.2gのトリエタノールアミン、及び81.7gのメタアクリル酸をフラスコ内に仕込み、乾燥空気を送り込んで90℃で還流攪拌しながら5時間反応させた。得られた化合物を、超純水にて20回洗浄し、メタアクリル酸変性ビスフェノールF型エポキシ樹脂(硬化性化合物A−1)を得た。この樹脂をGPC分析した結果、重量平均分子量は792であった。
【0095】
A−2:合成例2で得られたアクリル酸変性ビスフェノールF型エポキシ樹脂(50%部分アクリル化物)
(合成例2)
先ず、攪拌機、気体導入管、温度計、冷却管を備えた500mlの四つ口フラスコにビスフェノールF型エポキシ樹脂(YDF−8170C、新日鉄住金化学社製、エポキシ当量160g/eq)を175g、アクリル酸:37g、触媒としてトリエタノールアミン:0.2g、重合禁止剤としてヒドロキノンモノメチルエーテル:0.2gを混合し、乾燥空気を吹き込みながら、110℃、12時間加熱攪拌した。得られた反応生成物を、超純水にて12回洗浄処理を繰り返し、アクリル酸変性ビスフェノールF型エポキシ樹脂(硬化性化合物A−2)を得た。
この樹脂をHPLC、NMRで分析した結果、エポキシ基の50%がアク
リル酸変性されたビスフェノールF型エポキシ樹脂であった。また、この樹脂をGPC分析した結果、重量平均分子量は692であった。
【0096】
ポリエチレングリコールジアクリレート:ライトアクリレート14EG-A、共栄社化学製(下記式参照、分子量600)
【化3】
【0097】
(光重合開始剤B)
Omnipol−TX、IGM Resins社製(下記式参照、チオキサントン系化合物)
【化4】
IRUGACURE OXE01、BASF社製(下記式参照、オキシムエステル系化合物)
【化5】
2−(ヒドロキシメチル)アントラキノン、純正化学社製(下記式参照、アントラキノン系化合物)
【化6】
【0098】
(4級有機ホウ素アニオンのアンモニウム塩C)
P3B、昭和電工社製(下記式参照、融点140〜144℃)
【化7】
N3B、昭和電工社製(下記式参照、融点140〜141℃)
【化8】
【0099】
(熱硬化性化合物D)
エポキシ樹脂:三菱化学社製、jER1004、軟化点97℃
【0100】
(熱硬化剤E)
アジピン酸ジヒドラジド:日本化成社製、ADH、融点177〜184℃
【0101】
(その他成分F)
シリカ粒子:日本触媒社製、S-100
熱可塑性樹脂粒子:アイカ工業社製、F351、軟化点120℃、平均粒子径0.3μm
γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン:信越化学工業社製、KBM-403
【0102】
2.光硬化性樹脂組成物の調製と評価
(実施例1)
硬化性化合物Aとして合成例1で得られた硬化性化合物A−1を420質量部と、ポリエチレングリコールジアクリレート(共栄社化学製、ライトアクリレート14EG−A)を200質量部と、光重合開始剤BとしてOmnipol-TX(IGM Resins社製)を10質量部と、4級有機ホウ素アニオンのアンモニウム塩CとしてP3B(昭和電工社製)を10質量部と、熱硬化性化合物Dとしてエポキシ樹脂(三菱化学社製、jER1004)を50質量部と、熱硬化剤Eとしてアジピン酸ジヒドラジド(日本化成社製ADH)を90質量部と、充填剤としてシリカ粒子(日本触媒社製、S-100)を130質量部と、熱可塑性樹脂粒子としてF351(アイカ工業社製)を70質量部と、シランカップリング剤としてγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、KBM−403)を20質量部とを、三本ロールミルを用いて均一な液となるように十分に混合して、光硬化性樹脂組成物を得た。
【0103】
(実施例2〜9、比較例1〜3)
表1又は2に示される組成に変更した以外は実施例1と同様にして光硬化性樹脂組成物を得た。
【0104】
得られた光硬化性樹脂組成物の硬化性を、以下の方法で評価した。
【0105】
<光硬化性評価1>
光
硬化性樹脂組成物に波長360〜430nmの光を1mW/cm
2で30秒間照射した際の、25℃における粘度上昇挙動を、VISCOANALYSER VAR100(REOLOGICA INSTRUMENT社製)を用いて観測した。このとき、光照射後の光
硬化性樹脂組成物の粘度が、飽和粘度値に対して50%の値となるまでの硬化時間を測定した。飽和粘度値とは、光
硬化性樹脂組成物を完全硬化させたときの粘度である。硬化時間が短い程、硬化性に優れると判断できる。
【0106】
<光硬化性評価2>
ガラス基板上に200μm幅のブラックマトリクスを100μm幅間隔で5本形成した基板1と、ガラス基板の全面にブラックマトリクスを形成した基板2とを作製した。基板1には光
硬化性樹脂組成物を、基板1と基板2の貼り合わせ後の塗布領域が、ブラックマトリクスの長手方向と直交する長方形状となるように、且つ硬化後の厚みが5μmとなるように塗布した。塗布領域は、ブラックマトリクスの長手方向と直交する方向(長辺)の長さが1500μm、ブラックマトリクスの長手方向と平行方向(短辺)の長さが600〜800μmの長方形状とした。一方、基板2には離形剤を塗布した。
これらの基板を、それぞれの塗布面が重なるように貼り合わせた後、基板1側から波長400〜480nmの光を100mW/cm
2で20秒間照射して積層パネルを得た。積層パネルのうち、液晶シール剤が配置される領域の開口率は、33.3%であった。
次いで、積層パネルから基板1を剥がした。得られた基板1の各200μm幅ブラックマトリクス部分を光学顕微鏡で観察し、光
硬化性樹脂組成物の未硬化幅と硬化幅をそれぞれ測定し、5本の平均値を求めた。硬化しているかどうかは、光学顕微鏡での観察により判断した。未硬化幅は小さいほど、硬化幅は大きいほど、硬化性に優れると判断できる。
尚、各ブラックマトリクス部分での光
硬化性樹脂組成物の未硬化部分は、ブラックマトリクスの幅方向の中央部にあり;硬化部分は、ブラックマトリクスの幅方向の両端部にある。表中の硬化幅は、ブラックマトリクスの幅方向の両端部にある2つの硬化部のそれぞれの幅を示している。
【0107】
実施例1〜9の評価結果を表1に示し、比較例1〜3の評価結果を表2に示す。
【表1】
【表2】
【0108】
表1及び2から、4級有機ホウ素アニオンのアンモニウム塩Cを含む実施例1〜9の光硬化性樹脂組成物は、4級有機ホウ素アニオンのアンモニウム塩Cを含まない比較例1〜2の光硬化性樹脂組成物よりも光硬化性評価1における硬化時間が短く、光硬化性評価2における未硬化幅が小さく、いずれも高い硬化性を有することがわかる。
【0109】
また、実施例1、2及び6〜9の対比から、光重合開始剤Bとしてチオキサントン系化合物やアントラキノン系化合物と4級有機ホウ素アニオンのアンモニウム塩Cとを組み合わせた実施例1、2、8及び9の光硬化性樹脂組成物は、光重合開始剤Bとしてオキシムエステル系化合物と4級有機ホウ素アニオンのアンモニウム塩Cとを組み合わせた実施例6及び7の光硬化性樹脂組成物よりも、光硬化性評価2において未硬化幅が小さく、より高い硬化性を有することがわかる。