特許第6567038号(P6567038)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6567038シルクフィブロインを備えた表面を有する時計構成要素
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6567038
(24)【登録日】2019年8月9日
(45)【発行日】2019年8月28日
(54)【発明の名称】シルクフィブロインを備えた表面を有する時計構成要素
(51)【国際特許分類】
   G04B 15/14 20060101AFI20190819BHJP
   G04B 1/16 20060101ALI20190819BHJP
【FI】
   G04B15/14 A
   G04B1/16
【請求項の数】15
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-505454(P2017-505454)
(86)(22)【出願日】2015年7月17日
(65)【公表番号】特表2017-522572(P2017-522572A)
(43)【公表日】2017年8月10日
(86)【国際出願番号】EP2015066403
(87)【国際公開番号】WO2016016019
(87)【国際公開日】20160204
【審査請求日】2017年4月25日
(31)【優先権主張番号】01178/14
(32)【優先日】2014年8月1日
(33)【優先権主張国】CH
(73)【特許権者】
【識別番号】516154783
【氏名又は名称】カルティエ・インターナショナル・アクチエンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100173521
【弁理士】
【氏名又は名称】篠原 淳司
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100153419
【弁理士】
【氏名又は名称】清田 栄章
(72)【発明者】
【氏名】ランドロー・グザヴィエ
(72)【発明者】
【氏名】リウー・グザヴィエ
【審査官】 吉田 久
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/083494(WO,A1)
【文献】 特開平11−116897(JP,A)
【文献】 特開2001−3269(JP,A)
【文献】 実開昭55−118183(JP,U)
【文献】 特開平10−26671(JP,A)
【文献】 特表2013−544348(JP,A)
【文献】 国際公開第03/063179(WO,A1)
【文献】 特開2012−92351(JP,A)
【文献】 特開平11−246675(JP,A)
【文献】 特表2012−530187(JP,A)
【文献】 特開2013−72086(JP,A)
【文献】 特開2011−68130(JP,A)
【文献】 特開2012−215548(JP,A)
【文献】 特開昭52−65475(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0249045(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 1/00−99/00
D06M 13/00−15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
時計機ムーブメントのための構成要素であって、この構成要素が、時計機ムーブメントの他の可動の構成要素との摩擦を受ける表面を有しており、この表面の少なくとも一部がフィブロインを備えた材料から形成されていることを特徴とする時計構成要素。
【請求項2】
摩擦を受ける前記表面が、支承部上に取付けられた枢着スタッフの面、枢着スタッフを収容するために設定された支承部の残りの表面、脱進機の衝撃表面、パレットのツメ石の表面、歯の接触表面、主バネの表面、ゼンマイケースの内側表面の中の一つであることを特徴とする請求項1に記載の構成要素。
【請求項3】
前記表面の少なくとも一部が、少なくとも一つのフィブロインの層により或いは織られた又はメッシュされたフィブロイン繊維のアッセンブリによりコートされていることを特徴とする請求項1に記載の構成要素。
【請求項4】
前記材料が、ポリマー、合成の又は金属マトリクス中に、粒子および/または微小球体および/または微粒子および/またはフィブロインの繊維を備えた複合材料であることを特徴とする請求項1に記載の構成要素。
【請求項5】
フィブロインが、特に樹脂の、固体マトリックスに含まれていることを特徴とする請求項1に記載の構成要素。
【請求項6】
フィブロインが、ゲルの形態であることを特徴とする請求項1に記載の構成要素。
【請求項7】
固体のフィブロイン要素を備えていることを特徴とする請求項1に記載の構成要素。
【請求項8】
コーティングが2〜100μmから成る厚さを有することを特徴とする請求項3に記載の構成要素。
【請求項9】
フィブロイン材料が、摩擦学的特性を高めることを意図した添加物質を備えていることを特徴とする請求項1に記載の構成要素。
【請求項10】
前記表面の少なくとも一部が、少なくとも一つのフィブロインの層により或いは織られた又はメッシュされたフィブロイン繊維のアッセンブリによりコートされており、構成要素が、少なくとも一つの可動要素を支持する時計シャーシの固定された構成要素を形成していることを特徴とする請求項1に記載の構成要素。
【請求項11】
前記表面の少なくとも一部が、少なくとも一つのフィブロインの層により或いは織られた又はメッシュされたフィブロイン繊維のアッセンブリによりコートされており、構成要素が、時計シャーシの固定された構成要素により支持されたアーバ上で枢着式に取付けられるように設定された可動要素を形成していることを特徴とする請求項1に記載の構成要素。
【請求項12】
フィブロインを備えている材料から完全に作られていることを特徴とする請求項1に記載の構成要素。
【請求項13】
時計機ムーブメントのための脱進機システムであって、時計機ムーブメントの他の可動の構成要素との摩擦を受ける表面を有する構成要素を備えており、この表面の少なくとも一部が、フィブロインを含有する材料で形成されており、前記表面の少なくとも一部が、少なくとも一つのフィブロインの層により或いは織られた又はメッシュされたフィブロイン繊維のアッセンブリによりコートされており、前記構成要素が、脱進ホイールの歯、ツメ石、フォーク、パレットのダーツ、ペグ、テンプローラ、主バネおよびゼンマイケースの中の一つにある摩擦を受ける前記表面と脱進機要素の一つであることを特徴とする脱進機システム。
【請求項14】
時計機ムーブメントの他の可動の構成要素との摩擦を受ける表面を有する少なくとも一つの構成要素を備えている時計機ムーブメントにおいて、この表面の少なくとも一部が、フィブロインを含有する材料で形成されている時計機ムーブメント。
【請求項15】
時計機ムーブメントのための少なくとも一つの構成要素を備え、この構成要素が、時計機ムーブメントの他の可動の構成要素との摩擦を受ける表面を有する時計において、この表面の少なくとも一部が、フィブロインを含有する材料で形成されている時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は時計機ムーブメントの時計構成要素に関し、この構成要素は摩擦を受けかつ良好な摩擦学的性質を必要としている。ただしこれに限定されるものではなく、特に本発明は時計の軸受、歯車列、脱進機あるいは主バネに関する。
【背景技術】
【0002】
後に時計作りの分野に関してより具体的に示されるであろうマイクロテクノロジーの分野において、表面に摩擦を受ける構成要素を潤滑することが知られている。潤滑は、一般的に炭化水素、フッ化炭素あるいはシリコンを主成分とした油あるいはグリースを塗布することにより達せられるのが一般的である。しかしこの解決手段は欠点が無いわけではない。
【0003】
油類とグリース類は、汚染と化学的変化のために、それらの潤滑力の劣化を時間とともに経るので、これらの手段により潤滑されたどの機構も定期的に分解され、手入れをされかつ際潤滑される必要がある。
【0004】
マイクロテクノロジーの分野において及び特に時計作りの分野において、密度の低い構造材料のための必要性があり、この必要性は鋼、ニッケル銀あるいは通常使用される金属に取って代わる。特にこのような材料により、機械要素、特に脱進機と時計機ムーブメントのエネルギー効率を改善することが可能になる。
【0005】
この目的で、技術的ポリマー、例えばPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)でできている要素を使用している時計機ムーブメントが知られている。しかしこれらの解決手段は、伝統的な金属製構成要素の耐久性と信頼性を得ていない。
【0006】
シルクは、カイコ蛾の幼虫により生産される有名な天然繊維でありかつ何千年もの間、糸および織物の形態で伝統的に使用されてきた。
【0007】
シルクの機械的性質は、糸の中心を形成するフィブロインと呼ばれる蛋白質に相応する。フィブロインは高度に不溶性の蛋白質であり、この蛋白質はアミノ酸グリシン、アラニン及びセリンにより(90%までの)主部分のために構成されており、フィブロインは極度に高い繊維構造と機械的な抵抗力を備えている。昆虫類あるいはクモ類より製造される他の天然繊維もあり、これらはほとんど使用されないが、これらもフィブロインも含んでおりかつ機械的品質に関して知られている。本発明は、すべての天然源あるいは人工源からもたらされるフィブロインを備えた時計構成要素に関する。本発明の実施形態は、特にしかしもっぱらではないが、カイコ蛾の繭あるいは他の鱗翅目の幼虫、蜘蛛、バクテリア、酵母、糸状菌、細胞培養から得られるフィブロインを使用することができる。本発明の考え方において、フィブロインは遺伝子上変更された有機体から得られることができる。
【0008】
フィブロインのユニークな性質は、特に医療業界において注目の的になってきている。例えば、特許文献1は、純粋なフィブロインを製造するための方法と生体適合性材料としての使用及び薬剤におけるその使用とを提案している。特許文献2は、例えば低乾燥摩擦係数を備えたフィブロイン小球体の製造を記載しているが、これは医学的応用、つまり関節痛の治療のためにある。特許文献3は、例えば生体組織と一体化されることができる埋め込み型装置を作るために成形により形成することを提案している。
【0009】
特許文献4はシルク粒子を含有する塗料を記載している。塗料は、表面が触るのに快適であるように時計の表面に塗布されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際特許出願公開第2014011644号明細書
【特許文献2】国際特許出願公開第2013163407号明細書
【特許文献3】国際特許出願公開第2012145594号明細書
【特許文献4】特開平11−42106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の一課題は、特に潤滑と摩擦学的性質に関する公知の構成要素の欠点の無い時計機ムーブメントに使用されることができる構成要素を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は時計機ムーブメントのための構成要素に関し、この構成要素は摩擦を受ける表面を有しており、この表面の少なくとも一部は、フィブロインを含有する材料から形成されている。
【0013】
フィブロインは構成要素の表面への薄い層として塗布(形成)されることができるか或いは構成要素それ自体が適切なマトリックス状態のフィブロインを含有する複合材料を含んでいる。しかし、本発明は完全にフィブロインから形成された構成要素にも関する。
【0014】
本発明の考え方において、フィブロインは純粋な形で、もしくは高められるべきその性能を可能にする機能性添加物、例えば可塑剤類、粘着性物質類、潤滑剤類と組合せて使用されることができ、潤滑剤類は、例えば鉱油類、グリセリン類、脂質類、固体潤滑剤類またはその他のすべての適した潤滑剤物質類、顔料類等々を含んでいる。
【0015】
作られる要素に関して、本発明は動いているか又は摩擦を受ける時計の要素全てに適用されることができる。実例として、ホイール、特に歯車の作動面に言及することができる。宝石あるいは単純な軸受およびそこに嵌め込まれるディスク枢軸である。脱進機要素は脱進ホイールの歯、ツメ石、パレットのフォークとダーツ、テンプのピンとローラ、主バネとゼンマイケースを備えている。しかしこのリストは完全にはほど遠い。
【0016】
本発明の実施形態の実例は添付された図により示された記載に示されている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】一実施例による時計脱進機システムを示す。
図2】一実施例による時計の受けを示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は図1と2に示された時計機ムーブメントのための構成要素に関して記載される。説明を容易にするために、この実施例は特に脱進機システムに言及するが、本発明がこの特定の実施形態に限定されず、摩擦を受けるどの時計構成要素も包含することを理解しておく必要がある。
【0019】
図1に示された実施例において、時計のための脱進機システム1を見ることができる。脱進機システム1は特に脱進機プレート3を備えており、この脱進機プレートは脱進機ピニオンと固定して一体化された脱進機ホイール備えており、前記脱進機ピニオンは枢軸30上に枢着された状態で取付けられており、パレット2はパレットスタッフ23上で枢着された状態で取付けられており、ローラ4はテンプスタッフ40上で駆動される。ローラ4はノッチ42を備えた小ホイール41と(図1には示されていない)ペグを備えた大ホイール43を含む。パレット2はアーム21を備えており、このアームは脱進機プレート3の歯31と作用するツメ石22を有する。アーム21とは正反対側で、レバー20はダーツ24とフォーク25を備えている。ダーツ24は、フォーク25の不慮の変位を防ぐために小ホイール41と一緒に作動するように設計されている。フォーク25はダーツ24と一緒に垂直方向に整列された状態で取付けられており、かつペグの回転に追従して、前後の運動において、そのパレットスタッフ23の周囲で枢着する状態でパレット2を駆動するために、大ホイール43のペグと接触するように設計された二つのホーンを備えている。
【0020】
脱進機システムは、特にツメ石22及びフォーク25の、できるだけ最小の慣性とできるだけ最大の摩擦学的性質の間の折衷物なので開発するのが難しい。従って、最小の慣性とさらに磁場に対する無反応を維持する間の、ホイールペグとフォーク25のホーン26の間の粘着を避けることは難しい。
【0021】
本発明の一様態によれば、複数のディスクの少なくとも一部は、好ましくはそれらの摩擦性を変えるために、フィブロインを備えた層によりコーティングされている。フィブロインを備えた層は、例えばフィブロインの水溶液の蒸発乾燥により堆積された固体層、もしくは液体層またはコロイド層であってもよく、これらの層の中で、フィブロイン粒子は液体マトリックス或いはゲルマトリックス内で浮遊懸濁にされている。
【0022】
フィブロイン層は、摩擦学的特性を高めることを目的とした添加物、例えば潤滑剤類、グリセリン、可塑剤類、粘着性物質類、顔料類もしくはその目的がフィブロインの劣化を抑制することである物質を含んでいる。
【0023】
本発明の別の態様によれば、フィブロインは例えば樹脂から成る固体マトリックスの状態の複合材料の機能的構成要素であってもよい。この態様の変形において、複合材料は、フィブロインマトリックス及びさらに別の形態のフィブロイン材料の補強材であってもよい。
【0024】
フィブロインが固体マトリックス、液体マトリックス或いはゲルマトリックスの状態で、分散粒子の形態で存在していると、それらの粒子は微小球体、ニードル、繊維或いはいずれかの形態の粒子であってもよい。
【0025】
別の変形実施形態において、本発明の時計構成要素は、主たる或いは二次的な材料としてのフィブロインを備えた固体のモノリシックブロックから作られていてもよい。このようなブロックは例えば高温高圧でフィブロイン材料のパウダを溶かすことにより得られる。
【0026】
本発明の構成要素は、様々な実施形態において、添加物を随意に含んでいるフィブロイン繊維の布地あるいはメッシュによりコートされることもできる。
【0027】
可能な実施形態において、構成要素の全表面がフィブロインを含有する層によりコートされることができる。しかしディスクの一部だけをコートすることも考えられる。例えば、パレット2はフォーク25とツメ石22の領域でだけコートされることができる。この構成で、フォーク25とツメ石22は、ペグに関連して磨滅は小さく摩擦係数は小さい。別の実施例において、脱進機ホイール3は歯31の領域でコートされることができる。同様に、ローラ4は大ホイール43のペグ領域でだけフィブロインを含有する層によりコートされることができる。
【0028】
本発明がフィブロインの薄い層を備えていると、層が堆積される基体は、現在時計作りにおいて使用される技術、および現在時計作りにおいて使用される材料、例えば鋼、真鍮、ニッケル、銀あるいはチタンを使用して作られることができる。しかし、フィブロインが、複合材料の固体ブロックとして或いは機能構成要素(補強材および/またはマトリックス)として使用される場合、本発明による構成要素は、完全にこの材料から作られるか或いは一部がフィブロインを含有する材料から作られるであろう。
【0029】
一実施形態において、その表面がフィブロインを含有する構成要素は、固定されているが摩擦を受ける時計構成要素の製造に使用される。このような構成要素は、時計シャーシ、腕時計の(図2には描かれていない)他の可動要素を支持するために使用している、例えばプレートおよび/または受け、を含んでいる。実例として、図2は腕時計の受け50を描いている。構成要素(受け)50は、鋼、真鍮、ニッケル銀、チタン或いは他の適当な材料でできている。
【0030】
さらに本発明によれば、構成要素50は、摩擦学的特性および/または摩擦抵抗特性を改めるために、フィブロインを含有する層により少なくとも一部がコートされることができる。例えば、ディスク、特にその中へディスク枢軸が駆動される構成要素の部分52を支持している部分をコートすることができる。さらに、支承部を形成している孔51の壁は、フィブロインを含有する層によりコートされることができ、従って孔の壁上の摩擦係数は低下し、支承部とそれ自体がフィブロインによりコートされることができるディスクアーバの間との摩擦トルクが改善される。このようにして、ルビー軸受(宝石軸受)を通すことが可能であり、このルビー軸受上で枢軸は正常に取付けられる。
【0031】
異なる実施形態によれば、支承部を形成している孔51は、この受け50上へ固定されるフィブロインを含有する材料で継目無しにできている。
【0032】
本発明による構成要素50の長所は、厚さがかなり薄いプレートと受けをもたらすことができることである。従ってより薄い腕時計を製造することが可能になる。別の長所は、高い精度を備えた単一片の構成要素(シャーシ、プレートおよび/または受け)を作ることができることであるのと同時に、組立工程により誘発される欠点を回避する(ジュウェリング)。
【0033】
本発明の実施形態は、時計機ムーブメントの構成要素におけるフィブロインを含有する材料の使用である。コーティングあるいは複合物としての、固形の構成要素を製造するための方法は、二つの工程を備えている。第一の工程は、実験条件を調節することにあり、それにより、原材料が流れるか或いは放出されて物体を形成することができる。この第一の段階は特に適したタンパク質溶液を作ることを意味する。第二の工程は、原材料をゲル状態に導くか或いは原材料をゾル−ゲル転移点近くに導くために、原材料の状態を調節することにある。
【0034】
シルクフィブロインを分解に至らすために、処理は一つ或いは幾つかの溶媒を必要とし、これらの溶媒とは、例えば水性溶媒、フッ化溶媒、イオン液体あるいはさらに強い酸であってもよい。しかし、フィブロインの一部は不溶性でありかつ溶液中で懸濁浮遊状態にある。この固形物は、例えば遠心分離により或いは加圧濾過により溶液から分離されるのが好ましい。
【0035】
分解処理に続いて、添加物が加えられることができる。これらの添加物は、例えば着色顔料類、使用防止のインサート類、ポリマー類、脂質又は油類、粉末類、表面活性剤類などであってもよい。この段階では、例えば特別な組織を目的とするために、すなわち複合物を作るために或いは得られる材料の化学的かつ物理的な特性を変えるために、第一の溶液に第二の溶液或いは複数の溶液を混合することも可能である。
【0036】
フィブロイン分解の工程後、材料の成形になる。抜粋リストとして、成形はカプセル、球体、繊維、泡、ゼリー状の単一の固体の形状で、或いはそれらの組合せにより行われることができる。先に記載された異なる構造の成形は、鋳造、紡績、電気紡績、プロジェクション又はさらに(抜粋的に)析出(precipitation)のような多くの方法により、或いは成型による一体構造の形態で行われることができる。
【0037】
その自己潤滑性により、開発される材料は時計機ムーブメントに従来使用される液体潤滑剤に対して置換えられることができるのが有利である。本発明の材料に関して行われる試験は、mm/sのオーダーでの相対速度条件で鋼と接触する間の50MPaの接触圧の場合、0.03と同程度の低い動摩擦係数をもたらす。この低い係数はかなりの摩擦距離(>1km)に関して維持される。そうでなければ他の全ての条件が同等である状態で、この動摩擦係数は、ダイヤモンドとダイヤモンドの接触の場合に測定された摩擦係数よりも低い。
【0038】
時計作りの分野で従来使用される湿度の高い潤滑と比べて、乾式潤滑において作用する構成要素の使用は、機構の清掃、排液および注油に必要な時間を短縮することを可能にする一方で、保証期間は延びる。
【0039】
摩擦学的特性の補完的役割をするものとして、鋼の密度(約7g/cm)と比べて本材料の低い密度(約1.2g/cm)により、伝達性能は(特に慣性モーメントを低減させることにより)高められることができ、従って時計機ムーブメントの全体的稼働余力は高められる。
【0040】
比較の目的で、構成要素の密度と機械特性、特にこれらのヤング率(約12GPa)とこれらの硬度(約30HV)は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)類のプラスチック部品の機械特性に近い。しかし、特に摩擦と磨耗係数の面での摩擦学的特性は極めて優れている。
【0041】
開発される構成要素は、耐化学薬品性の時計作り試験および気候試験、特に合成した汗試験、塩分を含んだ霧試験あるいは更に熱帯気候試験、を見事に立証する。
【符号の説明】
【0042】
1 脱進機システム
2 パレット
20 レバー
21 アーム
22 ツメ石
23 パレットスタッフ
24 ダーツ
25 フォーク
26 ホーン
3 脱進機プレート
30 脱進機枢軸
31 脱進機ホイールの歯
32 ハブ
4 ローラ
40 テンプスタッフ
41 小ホイール
42 ノッチ
43 大ホイール
50 受け
51 孔
52 部分
図1
図2