特許第6567042号(P6567042)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6567042安定化されたクロロトリフルオロエチレン重合体の合成方法、及びそのような重合体を用いて製造された製品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6567042
(24)【登録日】2019年8月9日
(45)【発行日】2019年8月28日
(54)【発明の名称】安定化されたクロロトリフルオロエチレン重合体の合成方法、及びそのような重合体を用いて製造された製品
(51)【国際特許分類】
   C08F 6/00 20060101AFI20190819BHJP
   C08F 2/00 20060101ALI20190819BHJP
   C08F 14/24 20060101ALI20190819BHJP
【FI】
   C08F6/00
   C08F2/00 A
   C08F14/24
【請求項の数】3
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-512335(P2017-512335)
(86)(22)【出願日】2015年8月25日
(65)【公表番号】特表2017-525827(P2017-525827A)
(43)【公表日】2017年9月7日
(86)【国際出願番号】US2015046770
(87)【国際公開番号】WO2016036539
(87)【国際公開日】20160310
【審査請求日】2018年7月17日
(31)【優先権主張番号】62/045,746
(32)【優先日】2014年9月4日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】14/804,660
(32)【優先日】2015年7月21日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500575824
【氏名又は名称】ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】Honeywell International Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100133765
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 尚志
(72)【発明者】
【氏名】セナッパン,アラガッパン
(72)【発明者】
【氏名】レイナル,エリック
【審査官】 中西 聡
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−032729(JP,A)
【文献】 特開平09−194538(JP,A)
【文献】 米国特許第02613202(US,A)
【文献】 米国特許第05955556(US,A)
【文献】 特表2011−524442(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00−2/60,6/00−246/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開始剤の存在下、pH1.5〜2.5の反応媒体中でCTFEを含む一種以上の単量体を反応させること、及び
所定の重合反応時間が経過した後、反応媒体に中和剤を添加して反応媒体のpHを1.8〜6.0の範囲内に上昇させること、
を含む、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)系重合体の合成方法。
【請求項2】
開始剤の存在下、pH1.5〜2.5の反応媒体中でCTFEを含む一種以上の単量体を反応させること、
1時間〜24時間の重合反応時間が経過した後、反応媒体に乳酸アンモニウム水溶液を含む緩衝液を含む中和剤を添加して反応媒体のpHを1.8〜6.0の範囲内に上昇させること、ここで、該乳酸アンモニウム水溶液は総溶液重量の5〜75重量%である乳酸アンモニウムを含み、該乳酸アンモニウム溶液の添加は、該一種以上の単量体に対して1.0〜5.0モル%の乳酸アンモニウムを添加することを含み、及び
中和剤を添加した後にCTFE系重合体生成物を濾過及び乾燥すること、
を含む、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)系重合体の合成方法。
【請求項3】
開始剤の存在下、pH1.5〜2.5の反応媒体中でCTFEを含む一種以上の単量体を反応させること、
1時間〜12時間の重合反応時間が経過した後、反応媒体に乳酸アンモニウム水溶液を含む緩衝液を含む中和剤を添加して反応媒体のpHを1.8〜5.0の範囲内に上昇させること、ここで、該乳酸アンモニウム水溶液は総溶液重量の40〜65重量%である乳酸アンモニウムを含み、該乳酸アンモニウム溶液の添加は、該一種以上の単量体に対して1.0〜2.0モル%の乳酸アンモニウムを添加することを含み、
中和剤を添加した後にCTFE系重合体生成物を濾過及び乾燥すること、及び
該CTFE系重合体生成物を濾過及び乾燥した後、該CTFE系重合体生成物を275℃〜325℃の温度で熱加工すること、
を含む、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)系重合体製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2014年9月4日出願の米国仮特許出願第62/045,746号(発明の名称:安定化されたクロロトリフルオロエチレン重合体の合成方法、及びそのような重合体を用いて製造された製品)の優先権の利益を主張するものであり、参照によりその全内容が本明細書に組み込まれる。
【0002】
技術分野
本開示は一般には、安定化されたクロロトリフルオロエチレン(CTFE)重合体の合成、及びそのような重合体を用いて製造された製品に関する。より詳細には本開示は、安定化されたCTFE重合体(例えば、CTFE単独重合体(PCTFE)及びCTFE共重合体等)を、その酸性度を低減すると共にその熱安定性を改善する中和剤を用いて合成すること、及びそのような重合体を用いて製造された製品(例えば、包装フィルム等)に関する。
【背景技術】
【0003】
当該分野では、PCTFEの調製及びPCTFE系共重合体はよく知られており、このような共重合体としてはCTFE−フッ化ビニリデン共重合体やCTFE−テトラフルオロエチレン共重合体、CTFE−エチレン共重合体等が挙げられるが、これらに限定されない。このような材料は例えば、ENCYCLOPEDIA OF POLYMER SCIENCE AND ENGINEERING、第2版、第3巻、463頁(John Wiley and Sons発行)に詳しく記載されている。そこに記載されているように、PCTFE材料から成る物品やフィルムは不燃性であり、化学物質や強酸化剤に対する耐性が有り、更に望ましい湿気バリア性を示す。
【0004】
CTFE系重合体の形成に適した様々なプロセスが現在知られている。高分子量のCTFEの単独重合体及び共重合体の調製は、好適な開始剤系を用いたフリーラジカルで開始されるバルク重合、懸濁重合、又は水性乳化重合で行うことができ、或いはイオン化照射で行うこともできる。
【0005】
水性懸濁重合プロセスで形成するPCTFEの場合、レドックス開始剤(例えば、アルカリ金属の過硫酸塩及び亜硫酸水素塩)と共に触媒として鉄塩、銅塩又は銀塩を酸性条件(pH2以下)で用いる。この方法で製造されたPCTFE重合体は酸性であり、約275℃〜約325℃の温度で加工する際の熱安定性が低い。この低い熱安定性は、開始剤種由来の無機部分によって、重合体が一端又は両端で封止されることに起因する。このようなイオン性末端基は後処理(work-up)時に加水分解されて、不飽和オレフィンやカルボン酸を生成する場合がある。従って、上記方法で製造されたPCTFE試料から熱圧縮によって調製された飾り板(plaques)は、望ましくない気泡や変色を示すことが多いが、これは反応が高転化率に達する重合の終了時において生成する、低分子量オリゴマーによるものと考えられる。酸性のPCTFE重合体によって反応器から金属が抽出され、仕上げ時に金属塩が形成される。無機部分の封止により、生成するPCTFE樹脂の残渣灰分含有量が比較的高くなり、その結果PCTFE重合体樹脂を用いて形成される物品の適用用途範囲が制限される。そのような重合体材料は絶縁耐力が低いことが知られており、電気装置や電子装置及び/又は包装材で使用は多くの場合望ましくない。
【0006】
乳化重合法で製造されるPCTFE重合体の場合、安定な乳濁液を形成するためには界面活性剤が必要である。殆どの界面活性剤は極性頭部基を有するフッ素化化合物であり、この界面活性剤の除去は仕上げプロセスの重要な部分である。重合体粒子への吸着の程度によるが、界面活性剤を完全に除去するのは非常に難しいことが多い。更に最近の研究によれば、このような界面活性剤は生体蓄積性、毒性、及び環境持続性を有することが分かっている。
【0007】
用いる方法に関係なく、PCTFE単独重合体は結晶化する傾向が強いため、その分子量を高く保ち結晶化度を維持することにより、物理特性、機械特性、電気特性、及びバリア特性が最適に保たれる。多くの最終用途のためには、重合体の酸性度を低減し加工時の重合体の分解を抑制する必要がある。これは好適な中和剤(緩衝液や塩基水溶液等)でPCTFE重合体を中和することで達成することができる。
【0008】
従って、当業者には明らかであろうが、高温での加工による物品製造に適した、或いは定形部材の構造に含有させるのに適した、改良型PCTFE単独重合体及び共重合体が現在及び将来に渡り必要である。また当分野では、機械加工性、特に溶融押出、ペレット化、熱成形、及びラミネート加工に関して改善された、熱的に安定で中性のPCTFE単独重合体及び共重合体の製造も継続的に必要である。更に、以下の本発明の主題の詳細な説明及び添付された特許請求の範囲を添付図面及び本開示の背景と合わせることにより、本発明の主題の他の望ましい特徴や特性は明らかになるであろう。
【発明の概要】
【0009】
安定化されたクロロトリフルオロエチレン重合体の合成方法、及びそのような重合体を用いて製造された製品を本明細書に開示する。例示的な一態様では、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)系重合体の合成方法は、開始剤の存在下、pH約1.5〜約2.5の反応媒体中でCTFEを含む一種以上の単量体を反応させ、所定の重合反応時間が経過した後、反応媒体に中和剤を添加して反応媒体のpHを約1.8〜約6.0の範囲内に上昇させることを含む。
【0010】
この概要では、詳細な説明において更に後述される概念の選択を簡潔に紹介する。この概要は請求された発明の主題の重要な特徴や本質的特徴を特定するものではなく、請求された発明の主題の範囲を定める上で補助的に用いるものでもない。
【0011】
以下、本開示の説明を次の図面と合わせて行うが、図中で同様の参照符号は同様の構成要素を示す。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、従来技術によるCTFE系重合体合成時の、反応容器内の温度と圧力を時間に対してプロットしたものである。
図2図2は、本開示の様々な態様によるCTFE系重合体合成時の、反応容器内の温度と圧力を時間に対してプロットしたものである。
図3図3は、本開示の様々な態様によるCTFE系重合体合成時の、反応容器内の温度と圧力を時間に対してプロットしたものである。
図4図4は、本開示の様々な態様によるCTFE系重合体合成時の、反応容器内の温度と圧力を時間に対してプロットしたものである。
図5図5は、本開示の様々な態様によるCTFE系重合体合成時の、反応容器内の温度と圧力を時間に対してプロットしたものである。
図6図6は、本開示の様々な態様によるCTFE系重合体合成時の、反応容器内の温度と圧力を時間に対してプロットしたものである。
図7図7は、図1〜6に示す合成方法で製造された重合体の熱重量分析の結果をプロットしたものである。
図8図8は、本開示の更なる態様によるCTFE系重合体合成時の、反応容器内の温度と圧力を時間に対してプロットしたものである。
図9図9は、本開示の更なる態様によるCTFE系重合体合成時の、反応容器内の温度と圧力を時間に対してプロットしたものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下の詳細な説明は単に例示的なものであり、本発明又は本発明の適用及び用途を限定するものではない。本明細書に記載の用語「例示的」とは「実例、事例、或いは説明としての役割を果たす」ことを意味する。従って、本明細書で「例示的」と記載される如何なる態様も、必ずしも他の態様よりも好ましい又は有利であると解釈すべきではない。本明細書に記載の全ての態様は、当業者が実施可能なように提供された例示的態様であり、請求項で定義される本発明の範囲を限定するものではない。更に、上述の技術分野、背景、簡単な概要、又は以下の詳細な説明で示される明白或いは暗黙の如何なる理論によっても上記態様は縛られない。
【0014】
本開示は安定化されたCTFE重合体(例えば、PCTFE及びCTFE共重合体等)を、その酸性度を低減し且つその熱安定性を改善する中和剤を用いて合成する方法、及びそのような重合体を用いて製造された製品(例えば、包装フィルム等)を提供する。ある態様では中和剤を塩基水溶液として提供してもよく、他の態様では中和剤を緩衝液として提供してもよい。
【0015】
塩基水溶液中和剤を用いるある態様では、水酸化ナトリウム溶液或いは水酸化カリウム溶液で重合体を中和する。そのような溶液を中和のために反応媒体に添加するが、反応媒体のpHを中性或いは中性より若干低い酸性領域(7未満)に維持し、反応媒体中で生成する重合体の透明性を保つために、その量は注意深く制御する(上述のように、若干過剰の塩基の添加によって、pHがアルカリ領域(7超)に上昇し、PCTFE重合体の色が黄色から茶色になる)。従ってこれらの態様では、pHを約3〜約7に制御して、重合体中の望ましくない発色を最小限に抑えることが好ましい。
【0016】
しかし、より好ましい態様では、制御されたpHを維持するために、緩衝液を中和剤として用いる。本明細書に記載の用語「緩衝液」とは、弱酸とその共役塩基の混合物、或いは弱塩基とその共役酸の混合物から成る水溶液を意味する。緩衝液はその成分間の平衡の存在により、pH変化に対する耐性を有する。緩衝液は酸性でも塩基性でもよく、有用なpH範囲を選択することができる。ここに記載の態様を実施するのに用い得る好ましい緩衝液としては、pHが約3.0〜約7.0の酸性緩衝液が挙げられる。好適な酸性緩衝液としては、酢酸、クエン酸、乳酸、及びリン酸系緩衝液が挙げられる。
【0017】
望ましいpH範囲に加えて、選択する緩衝液は水溶性であって中和後に除去できることが好ましい。上述の例示された酸性緩衝液の内、酢酸系緩衝液及び乳酸系緩衝液がクエン酸系緩衝液及びリン酸系緩衝液より、比較的水溶性が高い。溶解性とpH範囲から、乳酸系緩衝液と酢酸系緩衝液が好ましく、ここに記載の態様の実施に用いるのに最も好ましいのは乳酸系緩衝液である。乳酸系緩衝液は約4.0〜約6.0の有用なpH範囲を有し、乳酸及び乳酸塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、及び/又はアンモニウム塩等)を含む。乳酸系緩衝液の中でも、乳酸アンモニウムがその溶解性及び金属イオンを含まないことから特に好ましい。乳酸アンモニウムはUnivar Inc. of Downers Grover, Illinois, USAから様々な濃度で市販されており、周囲条件で安定である。65重量%乳酸アンモニウム水溶液はpHが約4.8である。CTFE重合体反応媒体中で乳酸アンモニウム緩衝液により中和作用を完結させた後、乳酸アンモニウム緩衝液を水で洗い流すこともできる。
【0018】
乳酸アンモニウム溶液の添加により、反応媒体が酸性のpHから中性に近いpHに中和される(例えば約1.8〜約6.0、具体的には、約1.8〜約5.0、より好ましくは約3.0〜約5.0、最も好ましくは約4.0〜約5.0)。好ましい乳酸アンモニウム緩衝液の濃度は、水溶液中で約5重量%〜約75重量%である。より好ましい乳酸アンモニウム緩衝液の濃度は約20重量%〜約65重量%であり、最も好ましい乳酸アンモニウム緩衝液の濃度は、水溶液中で約40重量%〜約65重量%である。反応混合物に添加する乳酸アンモニウム緩衝液の量(反応混合物に添加する単量体の総重量を基準として)は、例えば約1.0〜約5.0モル%、例えば約1.0モル%〜約3.0モル%、約1.0モル%〜約2.0モル%等、とすることができる。
【0019】
乳酸アンモニウムのようないくつかの中和剤は、中和の他に重合反応の停止にも有用である。例えば乳酸アンモニウム緩衝液を用いた反応停止及び溶液中和により、他の溶液で中和した場合に比べ、驚くべきことに大変優れた熱安定性を有するCTFE重合体製品が得られることが分かった。300℃での熱重量分析(詳細については後述、図7参照)により、乳酸アンモニウムで中和された重合体は、熱安定性が約25〜約30%改善されていることが分かる。更に本開示の方法で製造されたCTFE重合体製品は、約275℃〜約325℃の温度でのフィルム押出などの熱加工時に、変色せず気泡も生じない。
【0020】
本開示によるCTFE重合体の例示的な合成プロセスを以下の段落に記載する。本明細書に記載のCTFE系重合体の合成の第一段階ではCTFEを、必要に応じて添加した一種以上の更なる単量体と共に、溶媒及び開始剤の存在下で重合プロセスに付す。
【0021】
本明細書に記載の用語「単量体」は重合可能なアルケンを意味し、重合を受ける二重結合の部分の炭素原子に結合した、少なくとも一つのハロゲン原子、ハロアルキル基、或いはハロアルコキシ基を任意に含むアルケンを指す。用語「重合体」はそのような一種以上の単量体の重合で得られる重合体を意味する。CTFEの共重合体を形成するために本開示の重合プロセスでCTFEの他に用い得る単量体の例としては、当技術分野で周知のように、例えばフッ化ビニリデン (VDF)、1,2−ジフルオロエチレン、塩化ビニリデン(VDC)、1,1−ジクロロジフルオロエチレン、1,2−ジクロロジフルオロエチレン、1−クロロ−1−フルオロエチレン、 テトラフルオロエチレン(TFE)、トリフルオロエチレン、フッ化ビニル、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、ヘキサフルオロイソブチレン、パーフルオロブチルエチレン(PFBE)、ペンタフルオロプロペン、3,3,3−トリフルオロ−1−プロペン、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、フッ素化ビニルエーテル類(パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)もしくはパーフルオロプロピレンビニルエーテル(PPVE)等)、フッ素化アリルエーテル、フッ素化ジオキソール;オレフィン類(エチレン、プロピレン、イソブチレンなど)、及び官能化オレフィン類(酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、メタクリル酸アリル、ジメタクリル酸エチレングリコール、トリアクリル酸トリメチロールプロパン、無水マレイン酸、イタコン酸など)、及びそれらの組み合わせが挙げられる。特定の態様では、重合プロセスで唯一用いられる単量体はCTFEであり、従って得られる重合体はPCTFEである。
【0022】
用語「開始剤」、「ラジカル開始剤」及び「フリーラジカル開始剤」は、自然誘発的に或いは熱や光に曝すことにより、フリーラジカル源を供給することができる化学物質を指す。用語「ラジカル」及び「フリーラジカル」は、少なくとも一つの不対電子を有する化学種を意味する。本明細書に記載の態様では、市販の如何なるラジカル開始剤を使用してもよい。好適な開始剤としては例えば:金属過硫酸塩(過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、及び過硫酸アンモニウムなど);有機過酸化物もしくはヒドロペルオキシド類(ジアシルペルオキシド、ケトンペルオキシド、ペルオキシエステル、ジアルキルペルオキシド、ペルオキシケタール、ペルオキシピバラート、ペルオキシジカーボナート、遷移金属カルボニルなど)、及びアゾ化合物(2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、及びその水溶性の類似物)、及び前述のいずれかの混合物が挙げられる。
【0023】
更に、PCTFEのようなフッ素化重合体の調製に有用として知られている如何なるレドックス開始剤系も、本明細書に記載の態様に用いることができる。代表的なレドックス開始剤系としては、1)有機もしくは無機の酸化剤、或いはそれらの混合物;及び2)有機もしくは無機の還元剤、或いはそれらの混合物、を含む。好適な酸化剤としては、金属過硫酸塩(過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、及び過硫酸アンモニウムなど);過酸化物類(過酸化水素、過酸化カリウム、過酸化アンモニウム、t−ブチルヒドロペルオキシド(TBHP)、クメンヒドロペルオキシド、及びt−アミルヒドロペルオキシドなど)、三酢酸マンガン、過マンガン酸カリウム、アスコルビン酸、及びそれらの混合物が挙げられる。好適な還元剤としては、亜硫酸ナトリウム類(亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム(MBS)、及びチオ硫酸ナトリウムなど);他の亜硫酸塩(重亜硫酸アンモニウムなど)、ヒドロキシルアミン、ヒドラジン、第一鉄、有機酸類(シュウ酸、マロン酸、及びクエン酸など)、及びそれらの混合物が挙げられる。レドックス開始剤系は本発明の好ましい開始剤である。好ましいレドックス開始剤としては、酸化剤として過硫酸カリウム、及びMBS還元剤を用いる。より好ましい態様では、レドックス開始剤を遷移金属促進剤と共に用いる。促進剤により重合時間を大幅に短縮することができる。市販の如何なる遷移金属も促進剤として用いることができる。好ましい遷移金属としては、銅、銀、チタン、第一鉄(Fe2+)、及びそれらの混合物が挙げられる。第一鉄が最も好ましい。
【0024】
更にラジカル開始剤としては、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、或いは過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩を挙げることができる。反応混合物中に添加する過硫酸塩の量(反応混合物に添加される単量体の総重量に基づく)は、例えば約0.002〜約1.0重量%とすることができる。或いは、ラジカル開始剤としては、有機過酸化物(アルキルペルオキシド、ジアルキルペルオキシド、或いはジアシルペルオキシドなど)、及びペルオキシエステル、或いはそれらの混合物を挙げることができる。例示的なジアルキルペルオキシドとしては、ジ−tert−ブチルペルオキシド(DTBP)、ジベンゾイルペルオキシド、或いは2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ヘキサンが挙げられ、反応混合物中へのこれらの添加量は、単量体全量に対して約0.01〜約5重量%、より好ましくは単量体全量に対して約0.05〜約2.5重量%とすることができる。例示的なペルオキシジカーボナート開始剤は、ジ−n−プロピルペルオキシジカーボナート、ビス(tert−ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカーボナート、及びジイソプロピルペルオキシジカーボナートであり、反応混合物中へのこれらの添加量は、単量体全量に対して約0.5〜約2.5重量%とすることができる。ペルオキシエステル開始剤としては、tert−アミルペルオキシピバラート、tert−ブチルペルオキシピバリラート(TBPPi)、及びコハク酸ペルオキシドが挙げられる。遷移金属カルボニル類としては、デカカルボニル二マンガンが挙げられる。或いは、ラジカル開始剤として2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロリド等のアゾ開始剤を挙げることができる。
【0025】
重合反応は好適な反応容器中で行うことができる。本開示の重合体の調製に用いられる反応容器の唯一の要件は、加圧及び撹拌ができることである。従来型の市販の密閉可能なオートクレーブで、必要な反応圧力(安全を考慮すれば、好ましくは3.36MPa(500psig)超)まで加圧できるものが好ましい。垂直方向に傾斜したオートクレーブよりも水平方向に傾斜したオートクレーブが好ましいが、いずれの配置のものを使用してもよい。
【0026】
重合反応は水性の反応媒体中で行う。ある態様では、反応媒体は脱イオン化され窒素置換された水である。一般に反応容器の容量の約半分と同量の水を用いる。水に対する重合体の比率の選択は、重合体固形分が約10%〜約70%の水分散液が得られるようにする。水は予めオートクレーブに注入する。
【0027】
時間と共に重合反応が進行するに伴い反応媒体中で重合体乳濁液が形成されるが、界面活性剤を用いることにより、これを更に安定化させることができる。例示的な界面活性剤としては、非フッ素化炭化水素系界面活性剤、シロキサン界面活性剤、或いはこれらの混合物が挙げられる。例えば界面活性剤の中でも、ドデシルスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDDBS)、オクチルスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、及びラウレス硫酸ナトリウムを、単量体と共に使用することができる。
【0028】
必要応じて連鎖移動剤を重合反応媒体に含有させ、重合体製品の分子量を制御することができる。連鎖移動剤は重合反応の最初に一括して添加してもよく、反応中に連続的に或いは段階的に添加してもよい。連鎖移動剤の添加量と添加形態は、用いる特定の連鎖移動剤の活性、及び重合体製品の望ましい分子量に依存する。重合反応に添加する連鎖移動剤の量は、反応混合物に添加するコモノマーの総重量に対して約0.05〜約5重量%、例えば約0.1〜約2.0重量%である。好適な連鎖移動剤としては、含酸素化合物(アルコール、カーボナート、ケトン、エステル、エーテルなど)、ハロカーボン、及びヒドロハロカーボン(クロロカーボンなど)、及びこれらのいずれかの混合物が挙げられる。
【0029】
パラフィンワックス或いは炭化水素油を、必要に応じ反応媒体に添加することができる。パラフィンワックス或いは炭化水素油を任意に反応に添加すると、防汚剤として機能し、反応器部品への重合体の付着が最小限に抑えられる、或いは付着を防止できる。この機能を発揮させるために、如何なる長鎖飽和炭化水素ワックス或いは油を用いてもよい。反応器部品へ重合体が付着するのを最小限に抑える量の油又はワックスを反応器に添加する。その量は一般に反応器の内部表面積に比例し、反応器内部表面積1cm当り約0.5〜約50mgの範囲で変わり得る。
【0030】
単量体は重合中に反応容器へ、半連続もしくは連続のいずれで注入してもよい。「半連続」とは重合反応中に、単量体の複数のバッチを反応器に注入することを意味する。バッチの容量は所望の操作圧力により決める。ラジカル開始剤に対する全単量体のモル比は、全体の粒子径と所望の分子量に依存する。開始剤に対する全単量体のモル比は、1モルの開始剤に対し好ましくは約10〜約10,000モル、より好ましくは約50〜約1000モル、最も好ましくは約100〜約500モルである。
【0031】
ラジカル開始剤は一般に、反応中に渡り漸増的に添加する。本開示の目的では、開始剤の「初期注入」は、重合の開始を引き起こすために多量の開始剤を迅速に一括もしくは段階的に添加することを意味する。初期注入においては、一般に単量体の注入前、後、もしくは注入中のいずれかにおいて、開始剤を約3〜約30分間に渡り、約10ppm/分〜約1000ppm/分で注入する。「連続注入」は、重合が終了するまでの約1時間〜約10時間の間に渡り、少量の開始剤をゆっくりと段階的に添加することを意味する。連続注入においては一般に、約0.1ppm/分〜約30ppm/分で開始剤を添加する。
【0032】
重合反応開始の間は、密閉された反応容器とその内容物を所望の反応温度に保つ、或いは温度プロファイルにより反応時間中に温度を変化させる。反応温度の制御は、製造する重合体の最終分子量を確立するための一つの決定要因である。一般に、重合温度は製品分子量に逆比例する。通常、反応温度は約0℃〜約120℃であるが、この範囲より高いもしくは低い温度も考えられる。反応温度は約10℃〜約60℃が好ましい。重合に用いる圧力は約170kPa〜約5.5MPaで変わり得るが、反応装置の能力、用いられる開始剤系、及び選択される単量体に依存する。例えばある態様では、重合圧力は約300kPa〜約4.2MPaである。圧力と温度を高めると、反応速度が増すことが知られている。
【0033】
重合は撹拌下で行い、適正な混合を確保することが好ましい。各重合中の撹拌速度の調整は、粒子の早期の凝集を避けるために必要となる場合がある。撹拌速度と反応時間は通常、所望の重合物の量に依存するが、当業者は必要以上の実験をすることなく容易に反応条件を最適化し、求められる結果を得ることができる。撹拌速度は一般に約5〜約1000rpm、好ましくは約25〜800rpmの範囲であり、撹拌機の形状及び容器の容量に依存する。反応時間は一般に、約1〜約24時間、好ましくは約1〜約12時間の範囲である。反応時間終了後、本開示の工程で製造されたCTFE系重合体は、通常の方法、例えば水性媒体の蒸発、水性媒体の凍結乾燥、或いは少量の凝集剤もしくは凝固剤(炭酸アンモニウムなど)を添加した後に濾過もしくは遠心分離、及び乾燥を行うことで単離することができる。
【0034】
本開示の一態様では、CTFE系重合体の合成プロセスは、以下の段階による進行が可能である。撹拌機と加熱制御装置を備えた加圧された重合反応器に、溶媒(例えば脱イオン水など)と、必要に応じ共溶媒と、少なくともCTFEを含む一種以上の単量体と、開始剤を注入する。更に、界面活性剤、連鎖移動剤、及び防汚剤のうちの一種以上を混合物に配合してもよい。
【0035】
単量体の導入前に反応器を脱気し、重合反応用の無酸素雰囲気を確保する。重合成分の混合順序は変更することができる。一態様では、溶媒、開始剤、単量体、及び必要に応じ界面活性剤、防汚剤、及び/又は連鎖移動剤を反応器に注入し、反応器を所望の反応温度まで加熱する。次いで追加の単量体を、実質的に一定の圧力を保つことが可能な速度で反応器内に供給する。当分野で周知の、重合プロセスの他の変形例も考えられる。所望の重量が反応器に供給された時点で、供給を停止する。必要に応じ追加のラジカル開始剤を添加し、適切な時間で反応を完結させる。反応器内の単量体が消費されるにつれ、反応器の圧力は低下する。
【0036】
適正な混合をするために重合は撹拌しながら行う。重合中の撹拌速度を調整し、粒子の早期の凝集を防ぐことが望ましい。撹拌速度と反応時間は通常、重合体製品の所望の量に依存するが、当業者は必要以上の実験をすることなく容易に反応条件を最適化することができる。撹拌速度は一般に約5〜約800rpm、例えば約25〜700rpmの範囲であり、撹拌機の形状及び容器の容量に依存する。反応時間は一般に、約1〜約30時間、例えば約4〜約20時間の範囲である。
【0037】
重合反応プロセス中の様々な時点で、反応混合物に添加可能な追加の剤としては、中和剤及び反応停止剤が挙げられる。本明細書に記載の用語「反応停止剤」とは反応混合物に添加された時、未反応の単量体の更なる重合を防ぐ、即ち重合反応を停止させる化合物を意味する。このように重合反応は上記の反応時間経過後、反応停止溶液を用いて停止することができる。上述のように反応媒体の中和を行うことにより、次のフィルム押出などの熱加工の間における重合体製品の劣化(変色等)を防ぐことができる。
【0038】
本開示の態様に従い、反応停止及び溶液中和の工程を同一の化学物質(即ち反応停止の特性と溶液中和の特性の両方を有する化学物質)を用いて行ってもよい。例えば前記の乳酸アンモニウム緩衝液を、重合反応の所望の終結時(これは予め決めておいてもよい)に反応混合物に添加し、反応停止と溶液緩衝・中和の二つの機能を発揮させることができる。この時、他の中和剤を、上述の中和剤の代わりに、或いは追加して添加することもできる。乳酸アンモニウム溶液或いは他の中和剤を、反応時間終了後(反応開始から約1〜約24時間、例えば反応開始から約1〜約12時間)に添加する。前記化学物質は如何なる適切な反応圧力、例えば約50psi〜約150psi(約85psi〜約135psiなど)で添加してもよい。
【0039】
引き続き中和剤として乳酸アンモニウム溶液を用いた例示的な実施態様について述べる。中和剤として乳酸アンモニウム溶液を反応媒体へ添加することで、未反応単量体の更なる重合が防止され、その結果重合反応が停止するという利点がある。また乳酸アンモニウム溶液の添加により反応混合物のpHが中性に近づき、これによって熱加工中の重合体の劣化が低減される。例えば反応時間中に重合反応が進行する際、pHは約1.5〜約2.5(約2.0など)となる。当分野で知られているように、乳酸アンモニウムの公称pHは、約65重量%水溶液で用いた場合、約4.8である。乳酸アンモニウム溶液の添加により反応媒体が中和され、pHは酸性から中性に近いpH(例えば約1.8〜約6.0、具体的には、1.8〜5.0、より好ましくは約3.0〜約5.0、最も好ましくは約4.0〜約5.0)となる。ある態様では、重合反応中及び乳酸アンモニウム溶液導入前に、他の緩衝液は使用しなくともよい。
【0040】
乳酸アンモニウム溶液を添加して重合反応が完結した後、反応器を常温に戻し、残った未反応成分を放出し大気圧にする。ある態様においては「加熱/冷却」プロセスを用いる。その場合、反応停止後反応器温度を一時的に上昇させ(例えば約50℃〜約60℃(55℃など))、その後約30℃〜40℃(例えば35℃など)に冷却する。加熱/冷却手順は約30分〜約2時間(例えば約1時間)実施することができる。その後重合体生成物を含む反応媒体を反応器から回収する。回収物には反応成分(即ち溶媒、開始剤(及び/もしくは開始剤の分解物))の安定な混合物、及び固形重合体生成物が含まれている。生成物重合体を含む混合物を濾過し、脱イオン水で洗浄した後、恒量になるまで乾燥して、固形重合体組成物を得る。或いは、重合体生成物を含む混合物を濾過して溶媒を除去し、得られた粗生成物を有機溶媒に溶解させ、その後異なる溶媒を用いて沈殿させる。沈殿物を恒量になるまで乾燥し、固形の重合体組成物を得る。
【0041】
特定の態様では、上述の重合反応の結果得られた重合体生成物はPCTFE、或いはCTFEと以下の単量体(フッ化ビニリデン、1,2−ジフルオロエチレン、塩化ビニリデン(VDC)、1,1−ジクロロジフルオロエチレン、1,2−ジクロロジフルオロエチレン、1−クロロ−1−フルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、フッ化ビニル、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、ヘキサフルオロイソブチレン、ペルフルオロブチルエチレン、ペンタフルオロプロペン、3,3,3−トリフルオロ−1−プロペン、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、フッ素化ビニルエーテル類(ペルフルオロメチルビニルエーテル、或いはペルフルオロプロピレンビニルエーテルなど)、フッ素化アリルエーテル、フッ素化ジオキソール;オレフィン類(エチレン、プロピレン、イソブチレンなど)、及び官能基を有するオレフィン類(酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、メタクリル酸アリル、エチレングリコールジメタクリラート、トリメチロールプロパントリアクリラートなど)、無水マレイン酸、イタコン酸、或いはそれらの組合せであり、これらは当分野で知られている)の一種以上との共重合体である。この重合体生成物は驚くべきことに、熱安定性が改善されていると共に機械加工性(特に約275℃〜約325℃(約300℃など)の温度での溶融押出、ペレット化、熱成形、積層に関して)も改善されているという特徴を有する。
【0042】
本開示で得られた重合体生成物は、様々な商業用途に用いることが可能である。その用途としては例えば、医薬品包装や医療包装用のバリア膜、化学処理装置の内張り材、気体分離膜、電線絶縁材、ケーブル外皮材、ホース、管、シール材、ガスケット、及びO−リング、織物加工用の分散液などが挙げられる。前述の商業製品を作る際に好適に用いることができる様々な熱加工手法が当業者に周知である。
【0043】
実施例
本開示を以下の非限定的な実施例により説明する。なお、本発明の範囲(添付の請求項で規定される)を逸脱しない限り、以下の実施例やプロセスに対して様々な変更及び修正を行うことができる。従って、当然のことであるが、以下の実施例は単なる例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0044】
第一の実施例では、従来の処理技術を用いてPCTFE重合体を製造した。CTFE単量体5kgを、溶媒として脱イオン水、及び開始剤として過硫酸カリウムと鉄とともに、37.7℃、圧力122psiの30ガロン反応容器に充填した。反応は約8時間進行させた。反応開始から約1時間後、更にCTFE10kgを添加し、反応開始から約3.5時間後、更にCTFE10kgを添加した(CTFEの総量は25kg)。反応混合物のpHは、反応プロセスの間ずっと約2.0に保たれた。反応停止剤及び緩衝/中和剤は一切使用しなかった。図1に重合反応プロセス中の反応容器内の温度と圧力を示す。図示のように反応容器内の圧力は、反応プロセス終了時に90psiまで低下した。
【0045】
第二の実施例では、65重量%乳酸アンモニウム水溶液500mLを用いて重合反応を131psiの圧力で停止させたこと以外は、第一の実施例で述べたものと実質的に同じ処理技術を用いてPCTFE重合体を製造した。図2に重合反応プロセス中の反応容器内の温度と圧力を示す。乳酸アンモニウム溶液の添加により重合反応が停止し、更に反応混合物のpHが約3.7に上昇した。
【0046】
第三の実施例では、65重量%乳酸アンモニウム水溶液600mLを用いて重合反応を131psiの圧力で停止させたこと以外は、第一の実施例で述べたものと実質的に同じ処理技術を用いてPCTFE重合体を製造した。図3に重合反応プロセス中の反応容器内の温度と圧力を示す。乳酸アンモニウム溶液の添加により重合反応が停止し、更に反応混合物のpHが約4.5に上昇した。
【0047】
第四の実施例では、65重量%乳酸アンモニウム水溶液600mLを用いて重合反応を90psiの圧力(降下後)で停止させたこと以外は、第一の実施例で述べたものと実質的に同じ処理技術を用いてPCTFE重合体を製造した。図4に重合反応プロセス中の反応容器内の温度と圧力を示す。乳酸アンモニウム溶液の添加により重合反応が停止し、更に反応混合物のpHが約4.5に上昇した。
【0048】
第五の実施例では、65重量%乳酸アンモニウム水溶液600mLを用いて重合反応を90psiの圧力(降下後)で停止させたこと以外は、第一の実施例で述べたものと実質的に同じ処理技術を用いてPCTFE重合体を製造した。更に「加熱/冷却」プロセスを用い、圧力降下プロセス後、温度を約55℃に上昇させ、次いで約35℃に低下させた。図5に重合反応プロセス中の反応容器内の温度と圧力を示す。乳酸アンモニウム溶液の添加により重合反応が停止し、更に反応混合物のpHが約4.5に上昇した。
【0049】
第六の実施例では、65重量%乳酸アンモニウム水溶液600mLを用いて重合反応を131psiの圧力で停止させたこと以外は、第一の実施例で述べたものと実質的に同じ処理技術を用いてPCTFE重合体を製造した。更に「加熱/冷却」プロセスを用い、圧力降下プロセス後、温度を約55℃に上昇させ、次いで約35℃に低下させた。図6に重合反応プロセス中の反応容器内の温度と圧力を示す。乳酸アンモニウム溶液の添加により重合反応が停止し、更に反応混合物のpHが約4.5に上昇した。
【0050】
図7に従来技術の実施例1の熱重量分析(TGA)の結果を、本開示に係る実施例2〜6と比較して示す。TGAは温度300℃で実施した。従来技術の実施例1の重合体は、41分後の平均重量減が1.06%であった。対照的に本開示の実施例2〜6の重合体は、41分後の平均重量減が0.70〜0.79%であった。従って本開示の実施例が従来技術による実施例と比べて、経時熱劣化が著しく少ないことが分かる。
【0051】
第7の実施例では、従来の処理技術を用いてPCTFE重合体を製造した。CTFE単量体0.6kgを、溶媒として脱イオン水、及び開始剤として過硫酸カリウムと鉄とともに37.7℃、圧力127psiの3ガロン反応容器に充填した。反応は約5時間進行させた。反応開始から約1時間後、更にCTFE2.17kgを添加した(CTFEの総量は2.77kg)。反応混合物のpHは、反応プロセスの間ずっと約1.8に保たれた。反応器へのメタ重亜硫酸ナトリウム(MBS)の添加を3時間後、圧力90psiで停止した。次いで過剰の圧力を1時間に渡って開放した後、250mLの25重量%クエン酸リチウム溶液を反応混合物に2回添加し、29.3℃で30分間撹拌した。重合反応プロセス中の反応容器内の温度と圧力を図8に示す。クエン酸リチウム溶液の添加により重合反応が停止し、更に反応混合物のpHが約5.1に上昇した。
【0052】
第8の実施例では、従来の処理技術を用いてPCTFE重合体を製造した。CTFE単量体6kgを、溶媒として脱イオン水、及び開始剤として過硫酸カリウムと鉄とともに、37.7℃、圧力127psiの30ガロン反応容器に充填した。反応は約9時間進行させた。反応開始から約1時間後、更にCTFE10kgを添加し、反応開始から約3.5時間後、更にCTFE10kgを添加した(CTFEの総量は26kg)。反応混合物のpHは、反応プロセスを通じて約2.1に保たれた。反応器へのメタ重亜硫酸ナトリウム(MBS)の添加を、8時間後、圧力90psiで停止した。次いで過剰の圧力を0.5時間かけて放出し、その後反応混合物を8等分した。次にその内の第1の分を320mLの20重量%クエン酸アンモニウム溶液で中和し、常温常圧で3時間撹拌した。クエン酸アンモニウム溶液の添加により重合反応が停止し、更に反応混合物のpHが約4.94に上昇した。
【0053】
第9の実施例では、反応器へのMBS溶液の添加を6時間後に止めることにより、重合反応を90psiの圧力で停止させたこと以外は、第1の実施例で上述した処理技術と実質的に同じ処理技術を用いてPCTFE重合体を製造した。次いで水酸化ナトリウム72.14gを476.2gの脱イオン水に溶解した水溶液(13.2重量%)を、37.5℃、圧力89.8psiの反応混合物に添加し、10分間撹拌した後、脱気した。重合反応プロセス中の反応容器内の温度と圧力を図9に示す。
【0054】
このように、改良されたPCTFE単独重合体及び共重合体の態様について説明しているが、これらの重合体は高温で加工される物品の製造に適しており、また定形部材の構造に好適に用いることができる。前記態様は、熱的に安定で酸性度がより低いPCTFE単独重合体及び共重合体の製造方法についても述べており、それらは機械加工性(特に溶融押出、ペレット化、熱成型、及び積層に関して)が改善されているという特徴がある。
【0055】
前述の詳細な発明の説明において、一つ以上の例示的態様を述べたのみであるが、当然のことながら数多くの変形例が存在し得る。当然のことだが、例示的態様は本発明の単なる例に過ぎず、本発明の範囲、適用性、或いは構成を何ら限定することを意図しない。むしろ前述の詳細な説明は、当業者が本発明の模範的態様を実施するのに便利な指針を与えるものであり、添付の特許請求の範囲及びその法的均等物に記載の範囲から逸脱しない限り、例示的態様で述べた要素の機能や配置に対して、当業者は様々な変更を行うことができると理解すべきである。
[1]開始剤の存在下、pH約1.5〜約2.5の反応媒体中でCTFEを含む一種以上の単量体を反応させること、及び、所定の重合反応時間が経過した後、反応媒体に中和剤を添加して反応媒体のpHを約1.8〜約6.0の範囲内に上昇させること、を含む、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)系重合体の合成方法。
[2]中和剤の添加は、水性塩基または緩衝液を添加することを含み、重合反応時間が約1時間〜約24時間経過した後に中和剤を添加することを含む、[1]に記載の方法。
[3]重合反応時間が約1時間〜約12時間経過した後に中和剤を添加することを含む、[2]に記載の方法。
[4]中和剤の添加は、所定の重合反応時間が経過した後に約3.0〜約7.0のpHを有する緩衝液を添加することを含み、緩衝液の添加は、酢酸塩溶液、クエン酸塩溶液、リン酸塩溶液、及び乳酸塩溶液、及びそれらの混合物から成る群から選択される水溶液を、所定の重合反応時間が経過した後に添加することを含む、[2]に記載の方法。
[5]前記緩衝液の添加は、所定の重合時間が経過した後に、乳酸アンモニウム溶液、乳酸ナトリウム溶液、及び乳酸カリウム溶液、及びそれらの混合物より成る群から選択される水溶液を添加することを含み、更に前記緩衝液の添加は、所定の重合時間が経過した後に乳酸アンモニウム水溶液を添加することを含み、更に前記緩衝液の添加は、乳酸アンモニウム濃度が総溶液重量の約5〜約75重量%である乳酸アンモニウム水溶液を添加することを含む、[4]に記載の方法。
[6]前記緩衝液の添加は、乳酸アンモニウム濃度が総溶液重量の約40〜約65重量%である乳酸アンモニウム水溶液を添加することを含む、[5]に記載の方法。
[7]前記乳酸アンモニウム溶液の添加は、一種以上の単量体に対して約1.0〜約5.0モル%の乳酸アンモニウムを添加することを含み、更に前記乳酸アンモニウム溶液の添加は、一種以上の単量体に対して約1.0〜約2.0モル%の乳酸アンモニウムを添加することを含む、[5]に記載の方法。
[8]CTFEを含む一種以上の単量体の反応は、CTFEを含む一種以上の単量体を、フッ化ビニリデン、1,2−ジフルオロエチレン、塩化ビニリデン、1,1−ジクロロジフルオロエチレン、1,2−ジクロロジフルオロエチレン、1−クロロ−1−フルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、フッ化ビニル、ヘキサフルオロプロピレン、ヘキサフルオロイソブチレン、ペルフルオロブチルエチレン、ペンタフルオロプロペン、3,3,3−トリフルオロ−1−プロペン、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、フッ素化ビニルエーテル類(ペルフルオロメチルビニルエーテル、またはペルフルオロプロピレンビニルエーテルなど)、フッ素化アリルエーテル類、フッ素化ジオキソール類;オレフィン類(エチレン、プロピレン、イソブチレンなど)、及び官能化オレフィン類(酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、メタクリル酸アリル、エチレングリコールジメタクリラート、トリメチロールプロパントリアクリラートなど)、無水マレイン酸、イタコン酸、及びそれらの組合せからなる群から選択される一種以上の単量体と反応させることを含む、[1]に記載の方法。
[9]前記中和剤の添加は、約50psi〜約150psiの反応圧力で中和剤を添加することを含み、加熱/冷却手順を中和剤添加後に行うことを更に含む、[1]に記載の方法。
[10]中和剤を添加した後にCTFE系重合体生成物を濾過及び乾燥することを更に含み、濾過乾燥後にCTFE系重合体生成物を熱加工することを更に含む、[1]に記載の方法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9