特許第6567048号(P6567048)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6567048
(24)【登録日】2019年8月9日
(45)【発行日】2019年8月28日
(54)【発明の名称】スパッタリングターゲット
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20190819BHJP
   C04B 35/58 20060101ALI20190819BHJP
【FI】
   C23C14/34 A
   C23C14/34 C
   C04B35/58 071
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-519788(P2017-519788)
(86)(22)【出願日】2015年6月26日
(65)【公表番号】特表2017-524831(P2017-524831A)
(43)【公表日】2017年8月31日
(86)【国際出願番号】EP2015001298
(87)【国際公開番号】WO2015197196
(87)【国際公開日】20151230
【審査請求日】2018年5月1日
(31)【優先権主張番号】62/017,909
(32)【優先日】2014年6月27日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515319954
【氏名又は名称】プランゼー コンポジット マテリアルズ ゲーエムベーハー
(73)【特許権者】
【識別番号】516082866
【氏名又は名称】エリコン サーフェス ソリューションズ アーゲー、 プフェフィコン
(74)【代理人】
【識別番号】100075166
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 巖
(74)【代理人】
【識別番号】100133167
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 浩
(72)【発明者】
【氏名】ポルチック、ペーター
(72)【発明者】
【氏名】ヴェルレ、ザビーネ
(72)【発明者】
【氏名】クラスニッツァー、ジークフリート
(72)【発明者】
【氏名】ハークマン、ユルク
【審査官】 谷本 怜美
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−278261(JP,A)
【文献】 特開昭63−216969(JP,A)
【文献】 特開平05−214518(JP,A)
【文献】 特開2009−154287(JP,A)
【文献】 特表2010−529295(JP,A)
【文献】 特開昭63−241167(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脆い物質から成るターゲットプレートとこのターゲットプレートに全面に亘って接合しているバッキングプレートとを含むターゲットであって、前記ターゲットプレートが前記バッキングプレートに面する接触面を有し、前記バッキングプレートが前記ターゲットプレートに面した接触面を有しているターゲットにおいて、前記ターゲットプレートの前記接触面と前記バッキングプレートの前記接触面との間にボンディングろう材が存在しており、前記ターゲットプレートが、前記ターゲットプレートの前面から背面に貫通して前記ターゲットプレートを互いに隣接する断片に分割するマイクロクラックを有しており、前記ターゲットプレートが少なくとも主要構成部としてセラミック材料を含んでなり、前記ターゲットプレートの熱膨張係数が前記バッキングプレートの熱膨張係数より大きく、前記ボンディングろう材が400℃を超える融点を有することを特徴とするターゲット。
【請求項2】
前記ターゲットプレートがスパッタリングターゲットである請求項1に記載のターゲット。
【請求項3】
前記ターゲットプレートの前記断片の長さ及び幅が、平均で、そのターゲットプレートの厚さであることを特徴とする請求項に記載のターゲット。
【請求項4】
前記ターゲットプレートの強度が前記バッキングプレートの強度より小さいことを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のターゲット。
【請求項5】
ターゲットの製造方法であって、以下のステップを有することを特徴とする方法:
主要構成部として脆い物質を含んでなるターゲットプレートの準備。
前記ターゲットプレートの材料よりも小さい熱膨張係数を有する材料からなるバッキングプレートの準備。
−ターゲットプレート−バッキングプレート複合体を生じるための、400℃を超える融点を有するろう材を使用する、400℃〜1,000℃の温度でのろう付けによる、前記ターゲットプレートと前記バッキングプレートとの全面に亘る有効な接合、及び、このターゲットの冷却。
【請求項6】
前記ターゲットプレートがスパッタリングターゲットである請求項に記載のターゲットの製造方法。
【請求項7】
付加的に前記ターゲットの粒子ブラストステップを含むことを特徴とする請求項5又は6に記載のターゲット製造方法。
【請求項8】
ターゲットのスパッタリングにより塗被されるべき基板の少なくとも1つの表面を塗被するためのスパッタリングターゲットとして、少なくとも1つのターゲットが使用される真空成膜法であって、
−前記ターゲットは、前面と背面とを備えた材料Aから成るスパッタリングすべきターゲットプレート、及び、前記ターゲットプレートに面する面を備えた材料Bから成るバッキングプレートを有し、前記ターゲットプレートに面する前記バッキングプレートの面は、400℃を超える融点を有する材料Cを用いて、ターゲットプレートの背面と全面に亘って機械的に安定に接合されており、
−前記材料Aは、少なくとも大部分が1つ又は複数の脆い物質から成り、前記材料Bは少なくとも大部分が、材料Aの脆い物質よりも大きい延性を有する1つ又は複数の物質から成り、
−材料Aの膨張係数は、材料Bの膨張係数より大きく、材料Bは、材料Aよりも大きい延性及び/又は強度を有し、
−前記ターゲットプレートは少なくとも室温において引張応力下にあり、その結果、ターゲットプレートの前面から背面へ貫通してターゲットプレートを互いに隣接する断片に分割するマイクロクラックが発生し、その結果、ターゲットプレートをスパッタリングするためのスパッタリング出力の適用中に、これらの断片の縁が互いにずれるので、マイクロクラックのないターゲットに比べてターゲットプレート内部に発生する応力がより少なく、これによって、ターゲットプレートが破壊されることなしにより高いスパッタリング出力を適用することができる、
ことを特徴とする真空成膜法。
【請求項9】
前記材料Aが実質的にTiBから成り、前記材料Bが実質的にMoから成り、前記バッキングプレートが前記ターゲットプレートに、ろう付けにより400℃〜1,000℃の温度で接合されることを特徴とする請求項に記載の真空成膜法。
【請求項10】
前記成膜がターゲットの高出力インパルスマグネトロンスパッタリングにより行なわれることを特徴とする請求項又はに記載の真空成膜法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターゲットのスパッタリング中に非常に高い出力密度を適用するためのスパッタリングターゲットとして特に好適なターゲット及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明によるターゲットは、多くの異なる物理気相成長プロセス(通常、PVD−physical vapor deposition−プロセスと呼ばれ、以下においてもPVDプロセスと呼ぶ。)で使用することができ、PVDプロセスによれば、気相から、例えば、電気アーク蒸発又は原子化(スパッタリング又はスパッタリングともいう。)により、薄膜が堆積される。従って、特に、本発明は、そのために用意された基板材料上に薄膜を堆積するためのPVDスパッタリングプロセスで使用するのに適したスパッタリングターゲットに関するが、それに限定されるものではない。
【0003】
近年、脆い物質から成り又は脆い物質を含むスパッタリングターゲットの使用が増えつつある。脆いと見做される材料のグループに分類されるスパッタリングターゲットの使用は、スパッタリングにおける大きな挑戦課題である。特に、高いスパッタリング出力又は高出力密度の適用には、ターゲットの破断を導きかねない熱による機械的ストレス又は応力を避けるために、非常に良好な冷却が必要となる。
【0004】
本明細書においては、用語「脆い」とは、弾性限界の近傍で、塑性変形なしに又は僅かな塑性変形だけで破断する物質をいう。即ち、これらの物質及びこれらの物質から作られたスパッタリングターゲットは、僅かな塑性変形能しか有しない。
【0005】
このため、このようなスパッタリングターゲットは、第一に、機械加工するのが比較的難しく、従って、様々な成膜装置で必要となる複雑な幾何学形状を実現するのが非常に困難である。そのような脆い材料で作られたターゲットの機械加工は、研削及びワイヤ放電加工によってのみ可能であることがしばしばであるが、これもまた、単純な幾何学形状(ディスク、プレート)しか作れないという結果となる。
【0006】
この種のターゲットは、成膜装置内でスパッタリングターゲットとして使用中に、機械的及び熱機械的負荷に曝され、これにより曲げ応力及び/又は引張応力が生じる。脆い物質の場合には、変形能が小さいので、これらの応力により、しばしば破断による故障が起こる。この機械的及び熱機械的負荷の原因は、第一には、ターゲットの背面への冷却水の圧力であり、及び/又は第二には、スパッタリングプロセス中にスパッタリングターゲットにもたらされる熱出力に基づく材料膨張である。局所的にだけもたらされるこの部分的な熱出力により、局所的な温度勾配に起因する応力も発生する。これらの物質がしばしば有している乏しい耐熱衝撃性と組み合わさって、上記要因により、しばしば、クラックが発生し、その結果、破断によるスパッタリングターゲットの故障に至る。
【0007】
スパッタリングターゲット用のこのような脆い物質の例は、セラミック物質、特に、ホウ化物、窒化物、炭化物、珪化物、酸化物、及び、例えばCr又はSiのような脆い金属物質であるが、これらの物質の混合物も該当する。これらの脆い物質は、大抵は、破断時塑性伸び率が2%以下であり、それどころか、しばしば0.2%以下のこともある。
【0008】
PVD成膜装置においてスパッタリングターゲットとしてターゲットを使用する際に、上述したように、しばしば、10W/cmより大きい高出力密度を注入することに起因する高温及び/又は大きな温度勾配が生じる。このようにして生じた温度及び温度勾配は、スパッタリングターゲットを介して冷却プレートに伝導しなければならず、スパッタリングターゲットに大きな巡回熱負荷を及ぼす。
【0009】
PVD成膜装置におけるスパッタリングターゲットの効果的な冷却は、冷却水により可能になる。このようなPVD成膜装置では、使用されるスパッタリングターゲットは、通常、そのスパッタリングターゲットの背面に配置されているフレキシブルな冷却プレートを介して冷却される。上述したように、これらの冷却プレートにより、スパッタリングターゲットに圧力がかかり、これにより、スパッタリングターゲットが変形し、又は、その強度が小さすぎる場合には破断が生じる。この作用は、スパッタリングプロセス中に減耗によりスパッタリングターゲットの強度が減少することによって、更に強められる。その結果、スパッタリングターゲットの変形及び/又は破断が更に起こりやすくなる。
【0010】
一般的には、上述したターゲット材料のグループ(脆い物質)の機械的安定性(強度及び延性)は、単独で機械的負荷に耐えるには十分ではない。更に、スパッタリングターゲットを相応の成膜装置内で固定するのに必要な、窪み、孔又はバヨネット機構のような複雑な形状は、製作するのが非常に困難で、且つ、高コストである。
【0011】
そこで、通常は、スパッタリングターゲットとして使用される、例えばセラミック物質のような、脆い物質から成るターゲットは、構造的にバッキングプレートを備えている。この場合、スパッタリングされる脆い物質がターゲットプレートとして取り付けられる。このバッキングプレートは、バッキングプレートのないスパッタリングターゲットに比べて、そのスパッタリングターゲットの強度(降伏強度、破断強度)及び延性(破断時伸び、破壊靭性)を高める機能を有する。このようなバッキングプレートにより、一方では、スパッタリングターゲット(元々、脆い材料から成るターゲットプレート)の脆い物質の裏面の手間のかかる加工を回避することができ、他方では、(バッキングプレートを構成している物質が、ターゲットプレートを構成している物質よりも高い剛性を有しているという前提のもとで)冷却水の圧力による機械的負荷を低減することができる。
【0012】
即ち、スパッタリングターゲットの強度及び延性は、バッキングプレートを取り付けることによって向上するので、そのスパッタリングターゲットは、PVD成膜装置内で使用する際に、変形しないか、ないしは、殆ど変形せず、破断により故障しない。向上した強度又は延性を備えたバッキングプレートの取り付けにより、そのような故障の事態が大幅に避けられる。
【0013】
バッキングプレートは、ヒートシンクとしての機能も有する。即ち、ターゲットプレート物質よりも大きい熱伝導性を有するバッキングプレートの取り付けにより、基板に対向するスパッタリングターゲット面(前面)でスパッタリングプロセス中に発生する熱を、このターゲットを介して、より良好に排出することができる。このようなヒートシンクの例が特許文献1に示されている。
【0014】
脆い物質から成るスパッタリングターゲット用のターゲットプレートの、特に剛性の大きい又は特に良好な熱伝導性を有する物質からなるバッキングプレートへの、取り付けは、通常、ボンディング(ろう付けとも呼ばれる)により行なわれる。このボンディングは、インジウム又はスズをベースにした低融点ろう材を用いて行なわれる。これに対応するバッキングプレートは、例えば、銅(熱伝導度の大きい材料)又はモリブデン(高剛性の材料)で作られる。
【0015】
スパッタリングターゲット用ターゲットプレートのバッキングプレートへのろう付けは、室温よりも高い温度で行なわれるので、バッキングプレートの熱膨張係数は、通常、ターゲットプレート物質の熱膨張係数に適合されている。このことにより、ろう付け温度から室温への冷却後にスパッタリングターゲットの材料接合部(ターゲットプレート/バッキングプレート界面)に生じる応力を最小にすることができる。
【0016】
脆い物質から成るスパッタリングターゲット用のターゲットプレートを対応するバッキングプレートに取り付けるための別の可能性は、耐熱性があり、且つ、電気伝導性及び熱伝導性を有する接着剤による、例えば銅製の、バッキングプレートへの接着である。
【0017】
代案として、スパッタリングターゲット用ターゲットプレートを対応するバッキングプレートに機械的にクランプ止めすることもできる。この場合、熱伝導性を向上すべく、グラファイト又は銀製の中間箔をターゲットプレートと(例えば銅製の)バッキングプレートとの間に付加的にクランプ止めすることも可能である。
【0018】
しかし、これらのターゲットは、すべて、これらがスパッタリングターゲットとして使用される際に、ターゲットのスパッタリング中にターゲットにもたらされるスパッタリング出力又はスパッタリング出力密度が高いときに故障することがあるという欠点を有する。このことから、適用可能なスパッタリング出力が制限される。多くの場合、高い出力密度を注入することにより、スパッタリングターゲットにおける温度が高くなり過ぎ、その結果、ろう付け接合又は接着接合が熱的に損傷を受ける。他の場合には、上述したように、高いスパッタリング出力によりスパッタリングターゲットの変形又は破断が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1335995A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の課題は、従来技術に比べて高いスパッタリング出力又は高いスパッタリング出力密度の適用下において、1つ又は複数の脆い物質から成るターゲットのスパッタリングによる成膜プロセスの実施を可能にすることである。
【0021】
本発明の他の課題は、高いスパッタリング出力又は高いスパッタリング出力密度の適用下において、スパッタリングプロセスを実施するためのスパッタリングターゲットとして使用可能なターゲットを供給することである。このようなターゲットは容易に製造可能でなければならず、機械的及び熱的に安定でなければならない。
【0022】
本発明の更なる課題は、高いスパッタリング出力又は高いスパッタリング出力密度の適用下において、前記スパッタリングプロセスを実施するために使用可能な、機械的及び熱的に安定なスパッタリングターゲットの容易な製造を可能にする方法を、提供することである。
【0023】
本発明により、上述した問題及び制限が解決され、高いスパッタリング出力又は高いスパッタリング出力密度の適用下においてスパッタリングプロセスで使用可能なスパッタリングターゲットを供給することができ、このとき、このスパッタリングターゲットは破壊されることはなく、従って、次なる使用のために利用不可能になることはない。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明によれば、前面と背面とを備え、脆い材料から成るターゲットプレートを有してなるスパッタリングターゲットが提供され、ここで、このターゲットプレートは、バッキングプレートと全面に亘って接合されており、且つ、このターゲットプレートは、ターゲットプレートの前面から背面へ貫通し、ターゲットプレートを互いに隣接する断片に分割するマイクロクラックを有している。
【0025】
ターゲットプレートの材料(材料A)は、バッキングプレートの材料(材料B)よりも大きい膨張係数を有する。こうして、ターゲットプレートは少なくとも中央部において引張応力を受け、これによって、ターゲットプレートに複数のマイクロクラックが発生する。
【0026】
この場合、これらの断片の長さ及び幅は、好適には、平均で、ほぼ、そのターゲットプレートの厚さである。
【0027】
これらのマイクロクラックにより、このスパッタリングプロセスの間に注入された高い出力密度において、これらの断片の縁が互いにずれることができるので、発生する応力は、より小さくなる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】真空ろう付けプロセス中のスパッタリングターゲット(ターゲットプレート/バッキングプレート複合体)を示す図である。
図2】ターゲットプレート(3)としてTiBが、バッキングプレート(1)としてモリブデンが、使用されている場合の、真空ろう付けプロセスでの接合及びそれに続く大気中での冷却後のスパッタリングターゲット(ターゲットプレート/バッキングプレート複合体)を示す図である。
図3】ろう付けプロセス及び最初のスパッタリング後のターゲットを示す図である。
図4】出力密度45W/cmで30時間の高出力スパッタリングテストを行なった後のTiB−モリブデン スパッタリングターゲット(ターゲットプレート/バッキングプレート複合体)の表面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明によるスパッタリングターゲットはどのようにして製造することができるかを、以下に、実施例により、図を基に説明する。セラミックのスパッタリングターゲット(ここではTiB)の場合には、ボンディングプロセスにより機械的な引張応力を減少させるマイクロクラックが発生するように、そのスパッタリングターゲットが、機械的に安定なバッキングプレート(ここではモリブデンから成る)に、ボンディングされる。
【0030】
ここで再度留意すべきは、脆いと言われる材料のグループに分類されるセラミックスパッタリングターゲットを使用することは、スパッタリングにおける大きな挑戦課題である、ということである。特に、高いスパッタリング出力の適用(高出力密度の注入)は、熱的に誘起される機械的な応力(ターゲットの破断を導びきかねない応力)を避けるために、非常に良好な冷却を必要とする。良好な冷却を保証するために、しばしば、ターゲットには、フレキシブルな膜を介して高い冷却水圧力がかけられる。これにより、ターゲットに機械的な曲げ負荷が与えられる。一般的には、上述したターゲット材料のグループ(脆い、特にセラミックの、スパッタリングターゲット)の機械的安定性(強度及び延性)は、単独では、この機械的負荷には十分耐えられない。
【0031】
更に、スパッタリングターゲットを相応の成膜装置内に固定するのに必要となる複雑な形状、例えば、窪み、孔又はバヨネット機構、は、製造するのが非常に難しく、非常に高コストでしか製造できない。従って、脆い(例えば、セラミック)材料のグループから成るターゲットプレートは、ボンディングプロセス(ろう付けプロセス)によりバッキングプレートに固定される。
【0032】
本発明によるスパッタリングターゲットの好適な形状は、円形又は四角形のプレートであり、好適な寸法は、約50〜300mmの直径ないし、ほぼ、50〜1,000mmの大きさである。
【0033】
このスパッタリングターゲットは、以下のようにして作ることができる。
−好適には主要構成部として脆い物質を含んでいる、ターゲットプレートの準備。
−バッキングプレートの準備。
−ターゲットプレート−バッキングプレート複合体を生じるための、好適には400℃〜1,000℃の温度でのろう付けによるターゲットプレートとバッキングプレートとの全面に亘る有効な接合(Wirkverbindungen)及びターゲットの冷却。
【0034】
この場合、バッキングプレート物質はターゲットプレート物質と比べて以下の特性を有する。
−より小さい熱膨張係数
−より大きい強度(降伏強度ないし0.2%の伸び限界ないし引張強度)
【0035】
更に、有利な実施形態では、バッキングプレート物質は、ターゲットプレート物質と比べて以下の特性を有する。
−より大きいヤング率
−より大きい熱伝導率
【0036】
ターゲットプレートとバッキングプレートとは、本発明によるスパッタリングターゲットを製造するために互いに接合される。
【0037】
この場合、ボンディングろう材の厚さは、十分の数ミリメートルでしかなく、熱伝導及びターゲットプレートのバッキングプレートへの機械的接合の機能を果たす。
【0038】
この場合、ターゲットプレートは円板又は長方形プレートのような単純な形をとることができる。
【0039】
ボンディングプロセスは、以下の要求特性を満たさなければならない。
−ターゲットプレート上の均質な温度分布を可能にするための、ボンディング材料(ボンディングろう材)の面全体に亘る濡れ。もし、面全体にわたる濡れが達成されていない場合には、ターゲットプレートからバッキングプレートへの熱伝達が制限されるので、スパッタリングターゲットが強く加熱され、その結果、ボンディングろう材も高温に達する。ボンディングろう材の融点を超えると、ターゲットプレートのバッキングプレートからの完全な分離が生じる。不均質な温度分布の場合には、熱的に誘起された機械的な応力が発生し、これはターゲットプレートの破断を導きかねない(この場合、破断した破片の剥離による故障)。
−ボンディング材料の良好な熱伝導性。
−高い接着力。
−高いスパッタリング出力密度を適用可能とするための、ボンディング材料の高い融点。
【0040】
現在では、脆い、特にセラミックの、ターゲットプレートをバッキングプレートにボンディングするために、以下の方法が常用されている。
1.インジウムボンディング:
利点:非常に容易に使用可能。インジウムボンディングろう材の大きい熱伝導性。
欠点:インジウムの融点が156℃であるので、スパッタリングプロセスにおいて低い出力密度しか適用できない。
2.AgSn(銀−錫 ろう材)ボンディング:
利点:インジウムよりも幾分高い、即ち、220℃の融点。
欠点:適用がより困難、濡れ及び面全体への適用がより困難。場合によっては、より高コストの「ナノフォイル(Nanofoil)」プロセスの適用。より小さい熱伝導性。
3.電気伝導性及び熱伝導性を有する接着剤の使用による接着。
利点:より高い温度耐性。
欠点:低熱伝導性、これによる、スパッタリングプロセスにおけるターゲットの高温。このことにより、接着剤の熱安定性が或る特定の温度に制限されている場合に、接合の破損。
【0041】
インジウムボンディングでは、インジウムろう材使用時の低い融点により、又は、ボンディングろう材の非全面的な濡れにより、又は、このボンディングろう材の低熱伝導性により、セラミックのターゲットプレートの脆い特性と相俟って、適用可能なスパッタリング出力密度は、例えば約5〜10W/cmに、制限される。この場合、達成可能な成膜速度は小さい。
【0042】
本発明は、スパッタリングターゲット及びその製造方法に関する。脆い、特にセラミックの、ターゲットプレートは、高温に耐えるようにバッキングプレートと接合されていなければならず、この場合、ターゲットプレート及びバッキングプレートの膨張係数が異なることによる熱的な不整合によって、ボンディングプロセス後に、ターゲットプレートに細かいマイクロクラックが発生する。ターゲットプレートの熱膨張係数は、バッキングプレートの熱膨張係数よりも大きくなければならない。
【0043】
脆い、特にセラミックの、ターゲットプレートとバッキングプレートとの接合は、高温で真空ろう付け法(http://de.wikipedia.org/wiki/Vakuumloeten)(高温ろう付けとも呼ばれる)により行なわれる。この真空ろう付け過程は、通常、400〜1,000℃で行われる。
【0044】
高温ろう付けでは、400℃を超え、好ましくは600℃を超え、更に好ましくは900℃を超え、約1,200℃までの融点を有するろう剤が、好ましく用いられる。このろう付け法は、酸化による損傷を避けるために、好適には真空中で行なわれる。この場合、このろう材は、ろう箔又はろうペーストの形で供給することができる。ろう付け温度からの冷却時に、ターゲットプレートとバッキングプレートとの間の熱膨張係数の差によって、ターゲットプレートに引張応力が生じ、これにより、マイクロクラックが形成される。これは、冷却過程によりターゲットプレートに発生する引張応力がターゲットプレート材料の降伏点を超え、これに起因する膨張が塑性的には生じえない、という条件下で生じる。このための更なる条件は、ターゲットプレートのバッキングプレートへの、専門的に正確な良好な全面に亘る接合である。
【0045】
ターゲットのバッキングプレートへの硬ろう付けは、真空炉内において無圧下に行なうことができる。
【0046】
例えば、ターゲットプレートがTiBから成りバッキングプレートがモリブデンから成っている場合には、ボンディングプロセス及びスパッタリングターゲット(ターゲットプレート/バッキングプレート複合体)の冷却の後、TiBとMoとの間の熱膨張係数の違いにより、ターゲットプレートに引張応力が生じる。
【0047】
TiBの膨張係数は、8.1μm/℃であり、モリブデンの熱膨張係数は、4.8μm/℃である。
【0048】
所望により、ろう付け工程の後に、このスパッタリングターゲットを(例えば、サンドブラストによって)磨くことができる。この製造ステップは、1つには、スパッタリングターゲットからの余剰のろう材のクリーニングに役立ち、2つには、ターゲットプレート中にマイクロクラックを形成するための支援的な作用を有する。
【0049】
ブラスト物質の衝突(例えば、コランダム粒子を有するサンドブラスト)によりターゲットプレートの表面に応力がもたらされ、この材料には塑性変形能がないので、細かく分割されたマイクロクラックが形成される。更に、ブラスト物質の衝突により、追加的にマイクロクラックの発生が始まり得る。このとき、同時に、ろう付け温度からの冷却後にバッキングプレートに生じていた弾性膨張が取り除かれる。というのは、応力の原因であるターゲットプレートに、上述したように、マイクロクラックが形成しているからである。これにより、スパッタリングターゲット(ターゲットプレート/バッキングプレート複合体)における曲げ応力が低減される。
【0050】
更に、スパッタリングターゲットを成膜装置内で使用する際に、例えば不均質な熱侵入の結果、相応のマイクロクラックが、初めて、又は、更に付加的に形成され得る。
【0051】
スパッタリングターゲットの使用後又は最大寿命に達したときに、スパッタリングターゲットをろう材の融点を超える温度へ加熱することにより、ターゲットプレートをバッキングプレートから分離することができるので、このバッキングプレートは、新しいスパッタリングターゲットのために再び使用することができる。
【0052】
本発明による方法で作られたスパッタリングターゲットは、非常に高いスパッタリング出力密度において使用することができる。というのは、このターゲットプレートは、非常に高い温度まで耐えることができ、且つ、熱伝導性の良いろう材により、バッキングプレートと接合されているからである。
【0053】
本発明による方法で作られたスパッタリングターゲットは、スパッタリングターゲットの背面にかけられる冷却水の高い圧力によって影響されない。というのは、このスパッタリングターゲットは、大きい剛性と大きい強度とを有するバッキングプレートを備えているからである。
【0054】
上述したスパッタリングターゲット及び上述した製造方法は、例えば以下の物質対(ターゲットプレート/バッキングプレート)の場合にも、特に有利に使用することができる。
【0055】
ターゲットプレート:ホウ化物(例えば、TiB、CrB、WB)、炭化物(例えば、WC、TiW、SiC)、窒化物(例えば、TiN、AlN)、珪化物(例えば、TiSi、CrSi)、酸化物、並びに、ホウ化物、炭化物、窒化物、酸化物及び金属(例えば、Mo、W、Ti、V、Zr)を含む複合体、並びに、Si、Cr、Geのような元素状の脆い物質。
【0056】
バッキングプレート:モリブデン、モリブデン合金、モリブデン複合体、タングステン、タングステン合金、タングステン複合体。
【0057】
図1において、ターゲットプレート(1)はバッキングプレート(3)の上に載置されている。高温でボンディングろう材(2)は溶融し、接触面3a及び2aを完全に濡らす。
【0058】
図2において、TiBとMoの相異なる熱膨張係数により、ターゲットプレートTiBに引張応力が生じ、これによりスパッタリングターゲット(ターゲットプレート/バッキングプレート複合体)の湾曲が生じている(ここでは誇張して示されている)。
【0059】
図3において、微細なマイクロクラックがターゲットを覆っている。この場合、ろう材は無傷で残っている、即ち、ターゲットプレートのバッキングプレートへの熱的及び機械的な接合が優れている。
【0060】
本発明は真空成膜法をも具体的に開示しており、この真空成膜法では、ターゲットのスパッタリングにより塗被されるべき基板の少なくとも1つの表面を塗被するためのスパッタリングターゲットとして、少なくとも1つのターゲットが使用され、ここで、
−前記ターゲットは、前面と背面とを備えた材料Aから成るスパッタリングすべきターゲットプレート、及び、前記ターゲットプレートに面する面を備えた材料Bから成るバッキングプレートを有し、前記ターゲットプレートに面する前記バッキングプレートの面は、材料Cを用いて、ターゲットプレートの背面と全面に亘って機械的に安定に接合されており、
−前記材料Aは、少なくとも大部分が1つ又は複数の脆い物質から成り、前記材料Bは少なくとも大部分が、材料Aの脆い物質よりも大きい延性を有する1つ又は複数の物質から成り、
−材料Aの膨張係数は、材料Bの膨張係数より大きく、材料Bは、材料Aよりも大きい延性及び/又は強度を有し、
−前記ターゲットプレートは少なくとも室温において引張応力下にあり、その結果、ターゲットプレートの前面から背面へ貫通してターゲットプレートを互いに隣接する断片に分割するマイクロクラックが発生し、その結果、ターゲットプレートをスパッタリングするためのスパッタリング出力の適用中に、これらの断片の縁が互いにずれるので、マイクロクラックのないターゲットに比べてターゲットプレート内部に発生する応力がより少なく、これによって、ターゲットプレートが破壊されることなしにより高いスパッタリング出力を適用することができる。
【0061】
本発明による真空成膜法は、特に、前記材料Aが実質的にTiBから成り、前記材料Bが実質的にMoから成り、前記バッキングプレートが前記ターゲットプレートに、ろう付けにより400℃〜1,000℃の温度で接合されるように、実施することができる。
【0062】
好適な実施形態によれば、本発明による真空成膜法は、成膜が高出力インパルスマグネトロンスパッタリング(HIPIMS、High−power impuls magnetron sputteringとも呼ばれる。)を用いて行なわれるように、実施される。
【符号の説明】
【0063】
1 バッキングプレート
2 ボンディングろう材
3 脆い、特にセラミックの、ターゲットプレート
2a バッキングプレートの接触面
3a ターゲットプレートの接触面
図1
図2
図3
図4