特許第6567107号(P6567107)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6567107アンカ位置調節装置及びアンカ位置調節装置の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6567107
(24)【登録日】2019年8月9日
(45)【発行日】2019年8月28日
(54)【発明の名称】アンカ位置調節装置及びアンカ位置調節装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B60R 22/20 20060101AFI20190819BHJP
   B60R 22/24 20060101ALI20190819BHJP
【FI】
   B60R22/20 103
   B60R22/24
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-32918(P2018-32918)
(22)【出願日】2018年2月27日
【審査請求日】2018年4月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003551
【氏名又は名称】株式会社東海理化電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】久野 正人
(72)【発明者】
【氏名】那須井 雅俊
【審査官】 森本 康正
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−280337(JP,A)
【文献】 特開2004−183749(JP,A)
【文献】 実開昭64−040751(JP,U)
【文献】 特開平09−142251(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0183086(US,A1)
【文献】 米国特許第6269748(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 22/00−22/48
F16B 19/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側に設けられ、複数の係合部が設けられる係合体と、
前記係合体に対し移動可能にされる移動体と、
前記移動体に設けられ、車両の乗員に装着されるウェビングを支持するアンカと、
前記移動体に設けられ、前記係合部に係合されて前記移動体の前記係合体に対する移動が制限されると共に、係合される前記係合部が変更されて前記移動体の前記係合体に対する位置が変更される係合部材と、
前記係合部材の前記係合体側に設けられ、前記係合体側の先端面、前記係合体とは反対側の基端面及び前記先端面と前記基端面との間の中間面が設けられると共に、前記先端面及び前記基端面の少なくとも一方が外側に傾斜される係合溝と、
を備えるアンカ位置調節装置。
【請求項2】
車体側に設けられ、複数の係合部が設けられる係合体と、
前記係合体に対し移動可能にされる移動体と、
前記移動体に設けられ、車両の乗員に装着されるウェビングを支持するアンカと、
前記移動体に設けられ、前記係合部に係合されて前記移動体の前記係合体に対する移動が規制されると共に、係合される前記係合部が変更されて前記移動体の前記係合体に対する位置が調節される係合部材と、
前記係合部材の前記係合体側に設けられ、前記係合部材の周方向全体において前記係合体側における前記係合部材の径が前記係合体とは反対側における前記係合部材の径以上にされると共に、前記係合体側の先端面及び前記係合体とは反対側の基端面の少なくとも一方が外側に傾斜される係合溝と、
を備えるアンカ位置調節装置。
【請求項3】
車体側に設けられ、複数の係合部が設けられる係合体と、
前記係合体に対し移動可能にされる移動体と、
前記移動体に設けられ、車両の乗員に装着されるウェビングを支持するアンカと、
前記移動体に設けられ、前記係合部に係合されて前記移動体の前記係合体に対する移動が制限されると共に、係合される前記係合部が変更されて前記移動体の前記係合体に対する位置が調節される係合部材と、
前記係合部材の前記係合体側の中実部分に形成される係合溝と、
を備えるアンカ位置調節装置の製造方法であって、
前記係合部材が転造により製造されて前記係合溝が形成される
アンカ位置調節装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェビングを支持するアンカの位置を調節するアンカ位置調節装置及びアンカ位置調節装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に記載のシートベルトアンカ装置では、スライドアンカにスリップアンカが設けられており、スライドアンカの係止ピンが溝側においてレール部材の係止孔に係合されて、スライドアンカのレール部材に対する移動が制限される。さらに、係止ピンが係合される係止孔が変更されることで、スライドアンカのレール部材に対する位置が変更されて、スリップアンカの位置が調節される。
【0003】
ここで、このシートベルトアンカ装置では、係止ピンの溝のレール部材側の係合段部及びレール部材とは反対側の制止段部が係止ピンの軸方向に垂直に配置されている。また、係止ピンの溝よりレール部材側における径が係止ピンの溝よりレール部材とは反対側における径に比し小さくされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭62−23156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事実を考慮し、係合部材の強度を向上できるアンカ位置調節装置及び係合部材を容易に製造できるアンカ位置調節装置の製造方法を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1態様のアンカ位置調節装置は、車体側に設けられ、複数の係合部が設けられる係合体と、前記係合体に対し移動可能にされる移動体と、前記移動体に設けられ、車両の乗員に装着されるウェビングを支持するアンカと、前記移動体に設けられ、前記係合部に係合されて前記移動体の前記係合体に対する移動が制限されると共に、係合される前記係合部が変更されて前記移動体の前記係合体に対する位置が変更される係合部材と、前記係合部材の前記係合体側に設けられ、前記係合体側の先端面、前記係合体とは反対側の基端面及び前記先端面と前記基端面との間の中間面が設けられると共に、前記先端面及び前記基端面の少なくとも一方が外側に傾斜される係合溝と、を備える。
【0007】
本発明の第2態様のアンカ位置調節装置は、車体側に設けられ、複数の係合部が設けられる係合体と、前記係合体に対し移動可能にされる移動体と、前記移動体に設けられ、車両の乗員に装着されるウェビングを支持するアンカと、前記移動体に設けられ、前記係合部に係合されて前記移動体の前記係合体に対する移動が規制されると共に、係合される前記係合部が変更されて前記移動体の前記係合体に対する位置が調節される係合部材と、前記係合部材の前記係合体側に設けられ、前記係合体側における前記係合部材の径が前記係合体とは反対側における前記係合部材の径以上にされると共に、前記係合体側の先端面及び前記係合体とは反対側の基端面の少なくとも一方が外側に傾斜される係合溝と、を備える。
【0008】
本発明の第3態様のアンカ位置調節装置の製造方法は、車体側に設けられ、複数の係合部が設けられる係合体と、前記係合体に対し移動可能にされる移動体と、前記移動体に設けられ、車両の乗員に装着されるウェビングを支持するアンカと、前記移動体に設けられ、前記係合部に係合されて前記移動体の前記係合体に対する移動が制限されると共に、係合される前記係合部が変更されて前記移動体の前記係合体に対する位置が調節される係合部材と、前記係合部材の前記係合体側に形成される係合溝と、を備えるアンカ位置調節装置の製造方法であって、前記係合部材が転造により製造されて前記係合溝が形成される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の第1態様のアンカ位置調節装置では、車体側に係合体が設けられており、係合体に複数の係合部が設けられる。さらに、係合体に対し移動体が移動可能にされると共に、移動体にアンカが設けられており、アンカが車両の乗員に装着されるウェビングを支持する。また、移動体に係合部材が設けられており、係合部材が係合部に係合されて、移動体の係合体に対する移動が制限されると共に、係合部材が係合される係合部が変更されて、移動体の係合体に対する位置が変更される。
【0010】
ここで、係合部材の係合体側に係合溝が設けられており、係合溝に係合体側の先端面、係合体とは反対側の基端面、及び、先端面と基端面との間の中間面が設けられると共に、先端面及び基端面の少なくとも一方が係合溝の外側に傾斜される。このため、係合溝の中間面で応力を分散できる共に、係合溝の先端面と中間面との間及び中間面と基端面との間の少なくとも一方に応力が集中することを抑制でき、係合部材の強度を向上できる。
【0011】
本発明の第2態様のアンカ位置調節装置では、車体側に係合体が設けられており、係合体に複数の係合部が設けられる。さらに、係合体に対し移動体が移動可能にされると共に、移動体にアンカが設けられており、アンカが車両の乗員に装着されるウェビングを支持する。また、移動体に係合部材が設けられると共に、係合部材が係合部に係合されて、移動体の係合体に対する移動が制限されると共に、係合部材が係合される係合部が変更されて、移動体の係合体に対する位置が変更される。
【0012】
ここで、係合部材の係合体側に係合溝が設けられており、係合部材の係合溝より係合体側における径が係合部材の係合溝より係合体とは反対側における径以上にされると共に、係合溝の係合体側の先端面及び係合体とは反対側の基端面の少なくとも一方が係合溝の外側に傾斜される。このため、係合部材の係合溝より係合体側の強度を向上できると共に、係合溝の先端面の係合体とは反対側端及び基端面の係合体側端の少なくとも一方に応力が集中することを抑制でき、係合部材の強度を向上できる。
【0013】
本発明の第3態様のアンカ位置調節装置の製造方法におけるアンカ位置調節装置では、車体側に係合体が設けられており、係合体に複数の係合部が設けられる。さらに、係合体に対し移動体が移動可能にされると共に、移動体にアンカが設けられており、アンカが車両の乗員に装着されるウェビングを支持する。また、移動体に係合部材が設けられており、係合部材が係合部に係合されて、移動体の係合体に対する移動が制限されると共に、係合部材が係合される係合部が変更されて、移動体の係合体に対する位置が変更される。
【0014】
ここで、係合部材が転造により製造されて、係合部材の係合体側に係合溝が形成される。このため、係合部材に係合溝を容易に形成でき、係合部材を容易に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】(A)及び(B)は、本発明の実施形態に係るアンカ位置調節装置を示す図であり、(A)は、前方から見た正面図であり、(B)は、右方から見た断面図である。
図2】本発明の実施形態に係るアンカ位置調節装置を示す前斜め右方から見た分解斜視図である。
図3】(A)及び(B)は、本発明の実施形態に係るアンカ位置調節装置のピンを示す図であり、(A)は、前斜め右方から見た斜視図であり、(B)は、主要部の断面図である。
図4】(A)及び(B)は、本発明の実施形態に係るアンカ位置調節装置を示す右方から見た断面図であり、(A)は、主要部を示し、(B)は、(A)の一部を拡大して示している。
図5】(A)及び(B)は、本発明の実施形態に係るアンカ位置調節装置における車両の衝突時を示す右方から見た断面図であり、(A)は、主要部を示し、(B)は、(A)の一部を拡大して示している。
図6】(A)及び(B)は、本発明の実施形態に係るアンカ位置調節装置のカバーロアを示す斜視図であり、(A)は、前斜め右方から見た図であり、(B)は、後斜め左方から見た図である。
図7】本発明の実施形態に係るアンカ位置調節装置のシューを示す前斜め右方から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1(A)には、本発明の実施形態に係るアンカ位置調節装置10(アジャスタブルアンカ)が前方から見た正面図にて示されており、図1(B)には、アンカ位置調節装置10が右方から見た断面図にて示されている。さらに、図2には、アンカ位置調節装置10が前斜め右方から見た分解斜視図にて示されている。なお、図面では、アンカ位置調節装置10の前方を矢印FRで示し、アンカ位置調節装置10の左方を矢印LHで示し、アンカ位置調節装置10の上方を矢印UPで示している。
【0017】
図1の(A)及び(B)に示す如く、本実施形態に係るアンカ位置調節装置10は、車両の車体側としてのセンタピラー12に設置されており、アンカ位置調節装置10の前方、左方及び上方は、それぞれ車両の幅方向内方(例えば左方)、前後方向一方(例えば前方)及び上方に向けられている。
【0018】
図1の(A)及び(B)、図2に示す如く、アンカ位置調節装置10には、係合体としての支持体14が設けられている。
【0019】
支持体14には、規制部材としての金属製で長尺板状のレール16が設けられており、レール16がセンタピラー12に固定されて、アンカ位置調節装置10がセンタピラー12に設置されている。レール16は、上下方向に延伸されており、レール16は、上下方向において、僅かに後側に凸状に湾曲されている。
【0020】
レール16の左右方向中央部には、係合部を構成する規制部としての規制孔16Aが複数(本実施形態では4個)貫通形成されており、複数の規制孔16Aは、上下方向に沿って間隔をあけて配置されている。規制孔16Aは、略矩形状にされており、規制孔16Aの下部は、半円状にされて、下側に凸状に湾曲されている。
【0021】
レール16の前側には、制限部材としての樹脂製で長尺薄板状のシート18が取付けられており、シート18は、上下方向に延伸されている。
【0022】
シート18には、係合部を構成する制限部としての制限筒18Aが複数形成されており、複数の制限筒18Aは、上下方向に沿って間隔をあけて配置されている。制限筒18Aは、略矩形筒状にされると共に、下部が半円筒状にされて下側に凸状に湾曲にされており、制限筒18Aは、レール16の規制孔16Aに嵌入されている。
【0023】
支持体14(レール16及びシート18)の前側には、移動体20が支持されている。
【0024】
移動体20には、移動部材としての金属製で略矩形板状のスライダ22が設けられており、スライダ22は、上下方向において、僅かに後側に凸状に湾曲されている。スライダ22の左右方向両端部は、後側に突出されると共に、断面L字状に曲げられており、スライダ22の左右方向両端面は、スライダ22の左右方向内側に向けられている。スライダ22の左右方向両端部間には、レール16が収容されており、スライダ22は、レール16に案内されて、上下方向にスライド(移動)可能にされている。また、スライダ22の上部には、円状の貫通孔22Aが貫通形成されている。
【0025】
スライダ22の下部には、金属製で略円筒状のナット24が固定されており、ナット24は、前側に突出されている。ナット24内には、前側から金属製のボルト26が螺合されており、ボルト26の頭部26A(前部)は、略円柱状にされて、ナット24の前面に当接されている。頭部26Aの周面には、円環板状のフランジ26Bが一体形成されており、フランジ26Bは、頭部26Aの径方向外側に突出されると共に、頭部26Aと同軸上に配置されている。また、頭部26Aのフランジ26Bより後側の周面は、ナット24の前側部分の外周面と面一にされている。
【0026】
スライダ22の裏面(レール16側の面)には、摺動部材としての樹脂製で略矩形薄板状のシュー28(図7参照)が取付けられており、シュー28の左右方向両端部は、後側に突出されている。シュー28の左右方向両端には、上部及び下部において、略台形薄板状の突出板28Aが一体形成されており、突出板28Aは、シュー28の左右方向内側に突出されている。シュー28(突出板28Aを含む)の裏面(レール16側の面)は、レール16に摺動可能に接触されており、シュー28は、レール16とスライダ22との接触を制限している。これにより、レール16とスライダ22との間における異音の発生とレール16及びスライダ22の摺動による磨耗とが抑制されている。また、シュー28は、スライダ22の貫通孔22Aを後側に露出させている。
【0027】
シュー28の左右方向両端部近傍には、上部及び下部において、薄板状の第1付勢板28Bが形成されており、第1付勢板28Bは、後側に凸状に湾曲されている。第1付勢板28Bは、レール16に弾性変形された状態で接触されており、第1付勢板28Bは、レール16に対しスライダ22及びシュー28を前側に付勢して、スライダ22及びシュー28のレール16に対する前後方向へのガタツキを制限している。
【0028】
シュー28の左右方向両端部には、薄板状の第2付勢板28Cが所定数(本実施形態では上下方向中央部の1個)形成されており、第2付勢板28Cは、シュー28の左右方向外側に凸状に湾曲されている。第2付勢板28Cは、スライダ22に弾性変形された状態で接触されており、第2付勢板28Cは、レール16及びシュー28に対しスライダ22を左右方向外側に付勢して、スライダ22及びシュー28のレール16に対する左右方向へのガタツキを制限している。
【0029】
スライダ22の前側には、保持部材としての樹脂製で略矩形板状のカバーロア30(図6の(A)及び(B)参照)が取付けられており、カバーロア30は、上下方向において、僅かに後側に凸状に湾曲されている。カバーロア30の後面の上端部及び下端部には、矩形状の平面30Aが形成されており、上側及び下側の平面30Aは、それぞれ前後方向に垂直に配置されると共に、面一にされている。カバーロア30の上部には、保持部としての略有底円筒状の保持筒32が一体形成とされており、保持筒32は、前側に突出されている。保持筒32内は、カバーロア30の後側に開放されており、保持筒32内は、スライダ22の貫通孔22Aと同軸上に対向している。
【0030】
カバーロア30の下部には、断面U字形枠状の支持枠34が一体形成されており、支持枠34は、前側に突出されると共に、内部が下側に開放されている。支持枠34の上部は、半円筒状にされており、支持枠34の上部は、上側に凸状に湾曲にされている。支持枠34内には、スライダ22のナット24が収容されており、支持枠34は、上部がナット24と同軸上に配置されると共に、スライダ22におけるボルト26のフランジ26Bと前後方向において対向されている。支持枠34の左部及び右部における下側かつ前側の角面は、湾曲面34Aにされており、湾曲面34Aは、下側かつ前側に凸状に湾曲にされている。
【0031】
カバーロア30の保持筒32内には、係合部材としての金属製で略円柱状のピン36(図3の(A)及び(B)参照)が挿入されており、ピン36は、保持筒32内を前後方向(軸方向)に移動可能にされている。ピン36の前端部(基端部)には、矩形柱状の延出部36Aが一対一体形成されており、延出部36Aは、ピン36の左側及び右側に延出されると共に、保持筒32を前後方向に移動可能に貫通している。ピン36は、保持筒32から後側に突出されており、ピン36は、スライダ22の貫通孔22Aに貫通かつ略嵌合されている。
【0032】
ピン36の後側部(先端側部)には、全周において、係合溝としての断面台形状の規制溝38が同軸上に形成されており、ピン36は、転造により製造されて、規制溝38が形成されている。規制溝38の後側面は、円環状の先端面38Aにされており、先端面38Aは、ピン36の軸方向に垂直に配置されている。規制溝38の前後方向中間面は、断面円状の中間面38Bにされており、中間面38Bは、ピン36の軸方向に平行に配置されている。規制溝38の前側面は、断面円状の基端面38Cにされており、基端面38Cは、前側へ向かうに従いピン36の径方向外側へ向かう方向(規制溝38の外側)に傾斜されている。
【0033】
ピン36の規制溝38より後側部分は、略円柱状の先端柱36Bにされており、先端柱36Bの径方向寸法は、ピン36の規制溝38より前側部分の径方向寸法に対し同一にされる(大きくされてもよい)と共に、先端柱36Bの軸方向寸法は、規制溝38の中間面38Bの径方向寸法(ピン36の最小径方向寸法)の0.2倍以上にされている。
【0034】
カバーロア30の保持筒32内には、付勢部材としてのスプリング40(圧縮コイルスプリング)が収容されており、スプリング40は、保持筒32の前壁(底壁)とピン36の前面との間に掛渡されて、ピン36を後側に付勢している。ピン36は、レール16の規制孔16A及びシート18の制限筒18A内に挿入されており、ピン36が規制孔16Aの下部及び制限筒18Aの下部に干渉(係合)されて、移動体20(スライダ22及びカバーロア30等)の下側へのスライドが制限されている(図4の(A)及び(B)参照)。
【0035】
カバーロア30の前側には、略直方体形箱状のカバーアッパ42が取付けられており、カバーアッパ42は、内部が後側に開放されて、カバーロア30の前側を被覆している。カバーアッパ42の上部には、操作部材としての略断面U字形枠状のボタン42Aが設けられており、ボタン42Aは、前後方向に所定範囲で移動可能にされている。ボタン42Aには、ピン36の一対の延出部36Aが係合されており、ボタン42Aは、ピン36と一体に前後方向に移動可能にされている。ボタン42Aは、ピン36を介してスプリング40により後側に付勢されており、ボタン42Aがスプリング40の付勢力に抗して前側に移動操作されることで、ピン36が前側に移動されて、レール16の規制孔16A及びシート18の制限筒18A内へのピン36の挿入が解除される。
【0036】
スライダ22のナット24及びボルト26には、アンカとしてのスリップジョイント44が設けられている。スリップジョイント44の上部には、円状の支持孔44Aが貫通形成されており、支持孔44Aにナット24の前端部及びボルト26の頭部26Aのフランジ26Bより後側部分が挿入されて、スリップジョイント44が左右方向に回動可能に支持されている。スリップジョイント44は、カバーアッパ42の下部を左右方向に回動可能に貫通しており、スリップジョイント44には、カバーアッパ42より下側において、挿通孔44Bが貫通形成されている。
【0037】
スリップジョイント44の支持孔44Aには、樹脂製で略円筒状のブッシュ46が挿入されており、ブッシュ46内には、ナット24の外周面及びボルト26の周面が摺動可能に嵌合されている。ブッシュ46は、断面U字状にされて、支持孔44Aの周面及びスリップジョイント44の支持孔44A周囲における前面及び後面に摺動可能に嵌合されており、ブッシュ46の前面は、ボルト26のフランジ26B後面に摺動可能に接触されると共に、ブッシュ46の後面は、カバーロア30の支持枠34前面に摺動可能に接触されている。このため、ブッシュ46によってスリップジョイント44の回動性能が向上されている。
【0038】
ブッシュ46には、切欠部(図示省略)が形成されており、切欠部は、ブッシュ46を周方向において分離している。スリップジョイント44にブッシュ46が組付けられる際には、ブッシュ46が切欠部により縮径されてスリップジョイント44の支持孔44A内に挿入された後に、ブッシュ46が拡径されて支持孔44Aの周面及びスリップジョイント44の前面及び後面に嵌合される。上述の如く、カバーロア30の支持枠34の左部及び右部における下側かつ前側の角面は、湾曲面34Aにされており、スリップジョイント44が回動されて、ブッシュ46が回転される際に、ブッシュ46の切欠部が湾曲面34Aを通過する場合でも、ブッシュ46の切欠部形成部分が湾曲面34Aを摺動することで、ブッシュ46の回転が阻害されてスリップジョイント44の回転が阻害されることが抑制されている。なお、ブッシュ46の肉厚寸法は、好ましくは湾曲面34Aの前後方向寸法以上にされている。
【0039】
アンカ位置調節装置10は、シートベルト装置48(ベルト装置)を構成しており、スリップジョイント44の挿通孔44Bには、ウェビングとしての長尺帯状のシートベルト50(ベルト)が移動可能に挿通されている。シートベルト50は、挿通孔44Bにおいて折返されており、シートベルト50の基端側(スリップジョイント44より後側)は、スリップジョイント44の下側において、巻取装置(図示省略)に巻取られている。巻取装置には、ロック機構が設けられており、ロック機構は、車両の衝突時等の緊急時に、巻取装置からのシートベルト50の引出しをロックする。
【0040】
巻取装置には、付勢機構が設けられており、付勢機構は、シートベルト50に巻取装置への巻取方向への付勢力を付与している。付勢機構の付勢力は、シートベルト50を介してスリップジョイント44に作用されており、スリップジョイント44は、シートベルト50により下側に付勢されている。このため、スライダ22及びカバーロア30がスリップジョイント44により下側に付勢されて、ピン36がシート18の制限筒18Aに対し下側に傾倒されている(図4の(A)及び(B)参照)。
【0041】
次に、本実施形態の作用を説明する。
【0042】
以上の構成のアンカ位置調節装置10では、移動体20においてピン36がスライダ22の貫通孔22Aに貫通されており、ピン36が、シート18の制限筒18A内及びレール16の規制孔16Aに挿入されて、制限筒18Aの下部及び規制孔16Aの下部に干渉されることで、移動体20の下側へのスライドが制限されて、スリップジョイント44の高さが維持されている。
【0043】
移動体20のボタン42Aが前側に移動操作された際には、ピン36が前側へ移動されて、ピン36の制限筒18A及び規制孔16Aへの挿入が解除されることで、ピン36の制限筒18A及び規制孔16Aへの干渉が解除される。このため、スライダ22の上下方向へのスライドが許容されて、ピン36が挿入される制限筒18A及び規制孔16Aが変更されることで、スライダ22の上下方向位置が変更されて、スリップジョイント44の高さが調節される。
【0044】
また、シートベルト50が、巻取装置から付勢機構の付勢力に抗して引出されて、スリップジョイント44より先端側(前側)において車両の乗員に装着される。
【0045】
車両の衝突時には、巻取装置のロック機構が巻取装置からのシートベルト50の引出しをロックして、乗員がシートベルト50によって拘束される。このため、乗員の慣性力等による移動よりシートベルト50を介してスリップジョイント44に下側への高荷重(衝撃荷重)が入力されて、移動体20に下側への高荷重が入力される。これにより、シート18の制限筒18A下部がピン36によって破断された場合には、ピン36が規制溝38の周面においてレール16の規制孔16A下部に高荷重で当接(係合)されて、移動体20の下側への移動が規制される(図5の(A)及び(B)参照)。
【0046】
ここで、規制溝38に後側の先端面38A、前側の基端面38C及び先端面38Aと基端面38Cとの間の中間面38Bが設けられており、規制溝38の基端面38Cが規制溝38の外側(前側)に傾斜されている。このため、規制溝38の中間面38Bで応力を分散できる共に、規制溝38の中間面38Bと基端面38Cとの間に応力が集中することを抑制でき、ピン36の強度を向上できる。これにより、ピン36が規制溝38の周面において規制孔16Aの下部に高荷重で当接された場合でも、ピン36が規制溝38位置において破断されることを抑制できる。
【0047】
また、ピン36の規制溝38より後側の先端柱36Bの径方向寸法がピン36の規制溝38より前側における径方向寸法と同一にされると共に、規制溝38の基端面38Cが規制溝38の外側(前側)に傾斜されている。このため、ピン36の先端柱36Bの強度を向上できると共に、規制溝38の中間面38Bと基端面38Cとの間に応力が集中することを抑制でき、ピン36の強度を向上できる。これにより、ピン36が規制溝38の周面において規制孔16Aの下部に高荷重で当接された場合でも、先端柱36Bが破断されることを抑制できると共に、ピン36が規制溝38位置において破断されることを抑制できる。
【0048】
しかも、ピン36の先端柱36Bの軸方向寸法が規制溝38の中間面38Bの径方向寸法の0.2倍以上にされている。このため、ピン36の先端柱36Bの強度を効果的に向上でき、ピン36の強度を効果的に向上できる。
【0049】
また、ピン36が転造により製造されて、ピン36に規制溝38が形成されている。このため、ピン36に規制溝38を切削加工により形成する場合とは異なり、ピン36に規制溝38を容易に形成でき、ピン36を容易に製造できて、コストを低減できる。
【0050】
しかも、規制溝38の基端面38Cが規制溝38の外側に傾斜されている。このため、規制溝38の基端面38Cがピン36の軸方向に垂直に配置される場合とは異なり、規制溝38の基端面38Cを形成する際におけるピン36の加工量を小さくでき、規制溝38の基端面38Cの寸法安定性を向上できる。
【0051】
なお、本実施形態では、ピン36の規制溝38の基端面38Cを規制溝38の外側(前側)に傾斜させた。しかしながら、これと共に、又は、これに代えて、ピン36の規制溝38の先端面38Aを規制溝38の外側(後側)に傾斜させてもよい。
【0052】
また、本実施形態では、アンカをスリップジョイント44にした。しかしながら、アンカをシートベルト装置48のシートベルト50を支持する他の部材(例えばシートベルト50の先端を支持する部材)にしてもよい。
【符号の説明】
【0053】
10 アンカ位置調節装置
12 センタピラー(車体側)
14 支持体(係合体)
16A 規制孔(係合部)
18A 制限筒(係合部)
20 移動体
36 ピン(係合部材)
38 係合溝
38A 先端面
38B 中間面
38C 基端面
44 スリップジョイント(アンカ)
50 シートベルト(ウェビング)
【要約】
【課題】係合部材の強度を向上する。
【解決手段】アンカ位置調節装置では、移動体20のピン36がシート18の制限筒18A内及びレール16の規制孔16Aに挿入されて、移動体20の下側へのスライドが制限される。ここで、ピン36の規制溝38に先端面38A、基端面38C及び中間面38Bが設けられており、基端面38Cが規制溝38の外側に傾斜されている。このため、中間面38Bと基端面38Cとの間に応力が集中することを抑制でき、ピン36の強度を向上できる。
【選択図】図4
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7