(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、遮へい物などの構造物が介在し、その構造物越しに測定対象物を観測する場合は、遮へい物などがない場合と比べて、ミュオンの散乱角が変化する。すなわち、ミュオンが、遮へい体を通過することに伴いミュオン粒子のエネルギーが低下する。一方、ミュオンのクーロン多重散乱角はミュオン粒子のエネルギーに反比例する。このため測定対象物でのミュオン多重散乱が変化することによる。
【0006】
この結果、ミュオンの散乱角によって物質を特定しようとする上では、特定の誤差が大きくなる。このため、従来手法では遮へい物内の物質特定が困難であった。
【0007】
本発明の実施形態は、このような事情を考慮してなされたもので、対象物の内部に存在する物質の構成元素を定量的に特定できることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的を達成するため、本実施形態は、ミュオンを利用して対象物の内部に存在する物質を特定する内部物質特定装置であって、前記対象物を挟んで設けられて互いに対向する面が平面上に広がり該平面におけるミュオンの入射位置および入射方向を測定可能な2つのミュオン軌跡検出器と、前記2つのミュオン軌跡検出器それぞれからの複数のミュオン検出信号を受けて内部物質を構成する元素を特定する解析コンピュータと、を備え、前記解析コンピュータは、前記複数のミュオン検出信号を同一のミュオンにより発生した信号ごとにグループ化するグルーピング部と、前記グループ化の結果、同一グループとされた複数の信号に基づいてミュオン散乱角を算出するミュオン散乱角算出部と、既知の物質を収納した前記対象物を用いて、較正データを算出するミュオン散乱角較正部と、前記較
正データを用い前記ミュオン散乱角に基づいて内部物質を構成する元素を特定する内部物質特定部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
また、本実施形態は、ミュオンを利用して対象物の内部に存在する物質を特定する内部物質特定方法であって、
前記対象物を挟んで設けられた2つのミュオン軌跡検出器によってミュオンの検出を行い複数のミュオン検出信号を取得する検出ステップと、前記複数のミュオン検出信号を同一のミュオンにより発生された信号ごとにグループ化するグルーピングステップと、前記グルーピングステップの後に、前記グループ化の結果、同一グループとされた複数の信号に基づいてミュオン散乱角を算出するミュオン散乱角算出ステップと、
既知の物質を収納した前記対象物を用いて、較正データを算出し出力するミュオン散乱角較正ステップと、
前記ミュオン散乱角較正ステップにおいて得られた前記較正データを用い前記ミュオン散乱角
算出ステップにおいて得られた前記
ミュオン散乱角に基づいてそれぞれのグループについての内部物質を構成する元素を特定する内部物質特定ステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態によれば、対象物の内部に存在する物質の構成元素を定量的に特定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係るミュオントモグラフィによる内部物質特定装置および方法について説明する。ここで、互いに同一または類似の部分には、共通の符号を付して、重複説明は省略する。
【0013】
図1は、本実施形態に係る内部物質特定装置の構成を示すブロック図である。内部物質特定装置100は、対象物の内部の物質の構成元素を特定するものであり、ミュオン軌跡検出器10、解析コンピュータ20、および出力部30を有する。
【0014】
ミュオン軌跡検出器10は、第1ミュオン軌跡検出器11および第2ミュオン軌跡検出器12を含む。第1ミュオン軌跡検出器11および第2ミュオン軌跡検出器12のそれぞれは、対象物を挟んで設けられて互いに対向する面が平面上に広がっており、それぞれの面を通過したミュオンを、それぞれが検出する。ミュオン軌跡検出器10は、通過したミュオンの通過部分におけるミュオンの入射位置および入射方向を測定可能である。
【0015】
図2は、ミュオン軌跡検出器の構成を示す斜視図である。第1ミュオン軌跡検出器11および第2ミュオン軌跡検出器12のそれぞれは、円筒形状で軸方向に延びた位置敏感型のドリフトチューブ15を複数有する。ユニット16a、16b、16cのそれぞれは、互いに平行に平面的に2段並べたドリフトチューブ15を有する。ユニット16a、16b、16cのそれぞれは互いに、ドリフトチューブ15が広がる平面に垂直な方向に配列されている。
【0016】
図3は、ドリフトチューブの構成を示す立断面図である。ドリフトチューブ15は、
円筒部15a、芯線15b、端板15cおよび端板15dを有する。端板15cおよび端板15dは、円筒部15aの両端部をそれぞれ閉止している。端板15cおよび端板15dは電気的な絶縁機能を有する。円筒部15aと端板15cおよび端板15dとは密閉空間を形成し、この密閉空間内には、ミュオンにより電離するガス15eが封入されている。
【0017】
芯線15bは、円筒部15aのほぼ軸中心に設けられて、端板15cおよび端板15dに両端を支持されている。芯線15bは端板15dを貫通している。芯線15bが端板15dの外部に出ている部分は直流電源15fの一方の極性に接続されている。また、円筒部15aも直流電源15fの他方の極性に接続されている。
【0018】
ミュオンがドリフトチューブ15の内部を通過して、ガス15eの原子を電離してイオンが生ずると、イオンが芯線15b、円筒部15aのいずれかに移動し、パルス状に電流が流れることによりミュオンを検出する。また、電流は最短距離を流れるため、軸方向のいずれの位置で電離が発生したか、すなわち、ミュオンが通過したかを測定することができる。
【0019】
図4は、
図2のIV−IV線矢視部分断面図である。ミュオンが軌跡Mでミュオン軌跡検出器10に入射した場合、その軌跡Mが通過するドリフトチューブ15内で電離が発生し、イオンがたとえばそれぞれの芯線に移動する。
【0020】
ここで、イオンの移動時間は、電離した個所から芯線への距離に依存する。実質、それぞれのドリフトチューブ15からの信号が同時に発せられたとしても、この移動時間は、ドリフトチューブ15間で極く微小な時間分が互いに異なっている。ある移動時間を生ずる個所は、芯線を中心にした同心円筒上のいずれかの点である。
図4の断面図では、それぞれ破線で表示した円上のいずれかの点である。したがって、信号を発したそれぞれのドリフトチューブ15での円に基づいて、ミュオンの軌跡を特定することができる。
【0021】
以上のように、入射位置および入射方向を特定することができる。したがって、第1ミュオン軌跡検出器11および第2ミュオン軌跡検出器12はそれぞれ、入射位置および入射方向を特定することができる。
【0022】
解析コンピュータ20は、グルーピング部21、ミュオン散乱角算出部22、ミュオン散乱角較正部23、および内部物質特定部24を有する。
【0023】
グルーピング部21は、第1ミュオン軌跡検出器11および第2ミュオン軌跡検出器12それぞれからの複数のミュオン検出信号を入力として受け入れる。第1ミュオン軌跡検出器11からのミュオン検出信号と、第2ミュオン軌跡検出器12からのミュオン検出信号とが、同時に発生した場合は、同一のミュオンにより、それぞれミュオン検出信号が生じたと判断できる。従って、それぞれのミュオン検出信号の発生時刻を比較することによって、複数のミュオン検出信号を同一のミュオンにより発生された信号ごとにグループ化することができる。
【0024】
ミュオン散乱角算出部22は、グルーピング部21によりグループ化の結果、同一グループとされた複数の信号に基づいてミュオン散乱角を算出する。
図5は、散乱角のとり方を説明する概念的斜視図である。今、第1ミュオン軌跡検出器11からのミュオン検出信号と、第2ミュオン軌跡検出器12からのミュオン検出信号とが同時に発せられて、同一のミュオンからのミュオン検出信号グループとしてグルーピング部21でグループ化された場合を例にとる。
【0025】
第1ミュオン軌跡検出器11からのミュオン検出信号は、第1ミュオン軌跡検出器11におけるミュオンの通過位置と方向の情報を有する。同様に、第2ミュオン軌跡検出器12からのミュオン検出信号は、第2ミュオン軌跡検出器12におけるミュオンの通過位置と方向の情報を有する。
【0026】
同一ミュオンにより発生した場合は、第1ミュオン軌跡検出器11におけるミュオンの通過位置で軌跡方向を延長した直線L10と、第2ミュオン軌跡検出器12におけるミュオンの通過位置で軌跡方向と逆方向に延長した直線L20とは、
図5のように点Aで交わる筈であり、このようにしてミュオンが散乱した散乱発生個所である点Aの位置を算出することができる。
【0027】
直線L10と直線L20とは点Aで交わっていることから、直線L10と直線L20を含む平面Sが存在する。平面Sにおいて、直線L10と直線L20とがなす角度をθとする。角度θはミュオンの進行方向の変化する角度とする。この角度θが散乱角である。なお、ミュオン散乱角について平面Sの方向は問わない。すなわち、平面Sを、直線L10を回転中心にして回転させてもよい。いいかえれば、
図5の直線L10の方向で入射して、点Aで散乱した場合、直線L20と同様に、点Aから円C上の点を結ぶいずれの直線方向であっても、散乱角はθであるとする。ここで、円Cは、点Pを直線L10を中心に回転させた場合の軌跡である。
【0028】
ミュオン散乱角算出部22は、この散乱角を算出する。また、このようにして、それぞれの座標位置(
図5の点A)についての複数のミュオン散乱角の結果を集積して保存し、集積した結果を時間的に平均した値を、散乱発生個所それぞれにおけるミュオン散乱角として出力する。
【0029】
なお、ミュオン散乱角算出部22からの出力は、それぞれの座標位置についての散乱角算出結果の集積をバッチ的に行い、たとえばその平均値など統計的処理をした結果を間欠的に出力することでもよい。あるいは、集積開始後の平均値を常時出力することでもよい。あるいは、所定の時間幅による移動平均を常時出力してもよい。
【0030】
物質が複数種類の元素で構成されている場合は、同一箇所について、それぞれの元素に対応した散乱角の値が算出されることになる。このようにして算出した散乱発生個所の、対象物内における座標位置ごとのデータを集積することにより、座標位置ごとの頻度分布が求められる。この頻度分布から物質の形状が導き出される。また後述するように、内部物質特定部24によって、それぞれの位置における構成元素の組成が導き出される。すなわち、ミュオントモグラフィが可能である
。
【0032】
ミュオン散乱角の分布は、0度を中心としておおよそガウス分布となる。ミュオン散乱角の頻度分布から標準偏差σを求める。なお、ミュオン散乱角の平均値θは、標準偏差σ程度である。ある物質の散乱角は、次の式(1)によって与えられる。
【0033】
【数1】
ただし、θ(rad)は散乱角、13.6は13.6MeV、V(m/sec)は速度、p(kg・m/sec)は運動量、X
0(m)は放射長であり物質に固有の値、t(m)は物質の厚さである。tは、ミュオントモグラフィで導出された物質の形状から求められる。
【0034】
また、式(1)を変形して簡略化した次の式(2)は実用上、十分に良い近似を与える。
【0035】
【数2】
したがって、較正は、実質的には、式(2)の定数Cを求めることである。
ミュオン散乱角較正部23は、式(2)を算出し、その結果得られた定数Cを較正データとして出力する。定数Cを求めるいくつかの方法を以下に示す。
【0036】
物質特定のために、形状と材質が既知の物体を容器内に予め入れておく。既知の物体について測定したミュオン散乱角と既知の物体固有の既知のパラメータ、すなわち放射長X
0(m)および物質の厚さt(m)を用いて、式(2)によりCを決定する。このCを用いて、未知の物質についてのミュオン散乱角と未知の物質の厚さt(m)によって、未知の物質の材質を求めることができる。これは、たとえば、ドライキャスクのように標準的な対象物に、標準的に既知の物質を入れておくなどの場合に有効である。
【0037】
あるいは、較正用の物質を事前に対象物の内部に入れて較正用のデータを採っておけば、本測定の際には必ずしも対象物の中に較正用の物質を入れる必要はない。較正用のデータはシミュレーションで求めたり、乾式キャスクの壁面でのミュオン散乱を較正用のデータとして使うこともできる。
【0039】
内部物質特定部24は、ミュオン散乱角較正部23で算出した
定数Cを用い、散乱角θに基づいて、前述の式(1)あるいは式(2)を用いて、物質の元素を特定する。
【0040】
物質の構成元素の特定のためには形状と材質が既知の物体を較正のため容器内に予め入れておき、測定したミュオン散乱角からCを決定することによって、未知の物質での散乱角から未知の物質の材質を求めることでもよい。
【0041】
出力部30は、解析コンピュータ20によって特定された対象物の内部物質の元素の構成を画像化して表示する。すなわち、出力部30は、画像化部と表示部とを有する。表示部は、別置きのスクリーンでもよいし、あるいは、解析コンピュータに付属する液晶等の表示部であってもよい。
【0042】
図6は、本実施形態に係る内部物質特定方法の手順を示すフロー図である。まず、ミュオン軌跡検出器10によりミュオン検出信号を取得する(ステップS01)。すなわち、第1ミュオン軌跡検出器11および第2ミュオン軌跡検出器12それぞれが、ミュオンを検出して、ミュオン検出信号を発生する。
【0043】
次に、グルーピング部21が、第1ミュオン軌跡検出器11および第2ミュオン軌跡検出器12が発生した複数のミュオン検出信号を受け入れて、同一タイミング同士の第1ミュオン軌跡検出器11および第2ミュオン軌跡検出器12信号のグルーピングを行う(ステップS02)。すなわち、同時に発生した第1ミュオン軌跡検出器11および第2ミュオン軌跡検出器12からのミュオン検出信号を同一のミュオンにより発生された信号としてグループ化する。
【0044】
次に、ミュオン散乱角算出部22が、同一グループとされた複数の信号に基づいてミュオン散乱角を算出する(ステップS03)。また、ミュオン散乱角算出部22が、対象物の内部の座標位置ごとのミュオン散乱角データを保存し集積する(ステップS04)。次に、ミュオン散乱角較正部23が、
較正の結果により算出した較正データである定数Cを内部物質特定部24に出力する(ステップS05)。次に、内部物質特定部24が、ミュオン散乱角較正部23によって
与えられた定数Cを用い、ミュオン散乱角算出部22によって算出された散乱角θに基づいて、対象物内のそれぞれの座標位置における物質の元素の構成および元素量を特定する(ステップS06)。次に、出力部30は、この結果を表示する(ステップS07)。
【0045】
図7は、本実施形態に係る内部物質特定装置による内部物質特定方法をドライキャスクに適用した場合の例を説明する概念的斜視図である。本例は、対象物であるドライキャスク51内に、未知の物質53および物質が既知である較正用物質52が内蔵されている場合である。
【0046】
第1ミュオン軌跡検出器11は、ミュオンの通過位置の(X,Y)座標および方向を測定する。同様に、第2ミュオン軌跡検出器12は、ミュオンの通過位置の(X,Y)座標および方向を測定する。
【0047】
ミュオン散乱角算出部22が、較正用物質52についての散乱角をθ1と、また、未知の物質53についての散乱角をθ2と算出する。この結果、たとえば、前述の式(2)内の、較正用物質52についての放射長X
0(m)および厚さt(m)は既知であるので、式(2)内の計数Cが求められる。また、未知の物質53についての散乱角θ2が求められており、また、ミュオントモグラフィにより、未知の物質53の厚さtも求められる。
【0048】
この結果、式(2)により、未知の物質53の放射長X(m)を算出することができる。放射長Xは物質すなわち元素に固有の値であるので、元素を特定することができる。また、それぞれの計測値の強度の比と、元素の量が分かっている較正用物質52の強度に基づいて、未知の物質53の元素の量を定量的に特定することができる。
【0049】
以上のように、本実施形態によれば、対象物の内部に存在する物質の構成元素を定量的に特定することができる。
【0050】
[その他の実施形態]
以上、本発明の実施形態を説明したが、実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。たとえば、ミュオン軌跡検出器は実施形態で示したものには限定されない。入射位置と入射方向が測定できるものであれば、たとえば、複数のミュオン軌跡検出器と同時計測回路を組み合わせた方式でもよい。
【0051】
また、解析コンピュータについては、1台のコンピュータである必要はない。グルーピング部21ないし内部物質特定部24のそれぞれの機能を有する部分を有していればよい。
【0052】
また、実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。
【0053】
実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。