特許第6567300号(P6567300)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6567300
(24)【登録日】2019年8月9日
(45)【発行日】2019年8月28日
(54)【発明の名称】無線操縦式の回転翼機
(51)【国際特許分類】
   B64C 27/08 20060101AFI20190819BHJP
   B64C 25/34 20060101ALI20190819BHJP
   B64C 39/02 20060101ALI20190819BHJP
   B64C 13/20 20060101ALI20190819BHJP
   B64D 47/08 20060101ALI20190819BHJP
【FI】
   B64C27/08
   B64C25/34
   B64C39/02
   B64C13/20 Z
   B64D47/08
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-47915(P2015-47915)
(22)【出願日】2015年3月11日
(65)【公開番号】特開2016-168861(P2016-168861A)
(43)【公開日】2016年9月23日
【審査請求日】2018年3月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】レ クオク ズン
【審査官】 諸星 圭祐
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2011/0315806(US,A1)
【文献】 特開2005−206015(JP,A)
【文献】 特開2003−137192(JP,A)
【文献】 実開昭57−037003(JP,U)
【文献】 特開2014−122019(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0231675(US,A1)
【文献】 特開2013−010466(JP,A)
【文献】 米国特許第08794564(US,B2)
【文献】 特開2013−189104(JP,A)
【文献】 特開2014−144702(JP,A)
【文献】 特開2015−001450(JP,A)
【文献】 特開2014−167413(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0261523(US,A1)
【文献】 特表2006−529077(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0048065(US,A1)
【文献】 韓国公開特許第10−2013−0005501(KR,A)
【文献】 中国特許第101875399(CN,B)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0021429(US,A1)
【文献】 特開2009−083798(JP,A)
【文献】 特開2001−039397(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64C 1/00−99/00
B64D 47/08
B60B 33/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体に設けられ回転することで揚力および推力を発生する一対のロータと、
前記一対のロータを回転させる駆動部とを備える、
無線操縦式の回転翼機であって、
前記機体に設けられ互いに間隔をおいて単一の仮想平面上を転動可能な3個以上の車輪と、
前記一対のロータを結ぶ直線をピッチ軸としたとき、前記ピッチ軸を中心として前記一対のロータを一体的に第1の角度で揺動させる第1の揺動部と、
前記ピッチ軸における前記一対のロータの間の中点と直交し前記機体の長手方向を結ぶ直線をロール軸としたとき、前記ロール軸を中心として前記一対のロータを一体的に第2の角度で揺動させる第2の揺動部と、
前記駆動部を制御することで前記一対のロータの回転速度を調整し、前記第1の揺動部を制御することで前記第1の角度を調整し、前記第2の揺動部を制御することで前記第2の角度を調整する制御部と、
を備え
前記制御部による前記第1の角度の調整は、
前記一対のロータによる揚力および推力により前記車輪の全てが水平面に対して交差する壁面に当接した状態を保持しつつ前記車輪が前記壁面に沿って走行するに足る反力が前記壁面から前記車輪に対して作用し得るようになされる、
ことを特徴とする無線操縦式の回転翼機。
【請求項2】
前記制御部は、前記一対のロータの回転速度と、前記第1の角度と、前記第2の角度とを調整することで、前記機体の進行方向と、前記ピッチ軸回りの前記機体の姿勢と、前記ロール軸回りの前記機体の姿勢とを制御する、
ことを特徴とする請求項1記載の無線操縦式の回転翼機。
【請求項3】
前記車輪は、全方向に転動可能に設けられている、
ことを特徴とする請求項1または2記載の無線操縦式の回転翼機。
【請求項4】
前記機体に搭載され検査対象物を撮影するカメラと、
前記カメラで撮影された画像を無線回線を介して送信する通信部と、
をさらに備えることを特徴とする請求項1からの何れか1項記載の無線操縦式の回転翼機。
【請求項5】
前記機体に搭載され検査対象物の状態を検出する検出部と、
前記検出部で検出された検出結果を無線回線を介して送信する通信部と、
をさらに備えることを特徴とする請求項1からの何れか1項記載の無線操縦式の回転翼機。
【請求項6】
前記機体は前後方向に延在し、
前記一対のロータは、前記機体の後部の左右両側に設けられている、
ことを特徴とする請求項1からの何れか1項記載の無線操縦式の回転翼機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線操縦式の回転翼機に関する。
【背景技術】
【0002】
検査対象物、例えば、ダムやビル、高架橋等の構造物では、建設中から建設後に渡って、不良の有無を確認する点検作業が行われている。
従来、このような点検作業は、総足場組み立てや高所作業車を使用するなどして、人手によって行うのが一般的である。
しかしながら、人手による点検作業には、高所作業等、危険が伴う場合があり、また人が近づけない場所で点検が必要となる可能性もある。
また、人手による点検作業では点検作業者によって点検結果がバラつく可能性もある。
さらに、大規模な構造物では、点検のために作業者が構造物内を巡回する時間、点検結果を集計する時間など、点検作業に多大な時間が必要となる。
そこで、特許文献1、2に開示されているような複数のローターを有する無線操縦式の回転翼機に、カメラや各種の計測を行なう計測センサを搭載し、回転翼機を構造物の近傍に飛行させて構造物をカメラで撮影し、また、計測センサで計測して点検を行なうことが考えられる。
また、特許文献3に開示されているような多関節アームを用いて構造物の壁面を移動するロボットに上記と同様のカメラや計測センサを設け、ロボットを壁面に沿って移動させて上記と同様に点検を行なうことが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−46355号公報
【特許文献2】特開2014−240242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前者のように無線操縦式の回転翼機を用いる場合は、回転翼機と構造物の壁面との間に間隔を置く必要があるため、壁面に近接させあるいは接触させる必要がある計測センサを用いることが難しく、仮に、計測センサを壁面に近接させあるいは接触させることができても、風などの影響により回転翼機の位置を安定させることが難しく、計測センサによる計測を円滑に行なうことが難しい。
また、後者のようにロボットを用いる場合は、構造物の壁面に多関節アームの足がかりとなるような横桟やガイドが必要であり、適用可能な構造物に制約がある。また、ロボットを構造物の近傍まで運搬しなくてはならず、手間暇がかかるという問題がある。
本発明は、上述した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、検査対象物の制約を受けることなく点検作業を効率的にかつ確実に行う上で有利な無線操縦式の回転翼機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の目的を達成するため、請求項1記載の発明は、機体に設けられ回転することで揚力および推力を発生する一対のロータと、前記一対のロータを回転させる駆動部とを備える無線操縦式の回転翼機であって、前記機体に設けられ互いに間隔をおいて単一の仮想平面上を転動可能な3個以上の車輪と、前記一対のロータを結ぶ直線をピッチ軸としたとき、前記ピッチ軸を中心として前記一対のロータを一体的に第1の角度で揺動させる第1の揺動部と、前記ピッチ軸における前記一対のロータの間の中点と直交し前記機体の長手方向を結ぶ直線をロール軸としたとき、前記ロール軸を中心として前記一対のロータを一体的に第2の角度で揺動させる第2の揺動部と、前記駆動部を制御することで前記一対のロータの回転速度を調整し、前記第1の揺動部を制御することで前記第1の角度を調整し、前記第2の揺動部を制御することで前記第2の角度を調整する制御部とを備え、前記制御部による前記第1の角度の調整は、前記一対のロータによる揚力および推力により前記車輪の全てが水平面に対して交差する壁面に当接した状態を保持しつつ前記車輪が前記壁面に沿って走行するに足る反力が前記壁面から前記車輪に対して作用し得るようになされる、ことを特徴とする。
請求項2記載の発明は、前記制御部は、前記一対のロータの回転速度と、前記第1の角度と、前記第2の角度とを調整することで、前記機体の進行方向と、前記ピッチ軸回りの前記機体の姿勢と、前記ロール軸回りの前記機体の姿勢とを制御することを特徴とする。
請求項記載の発明は、前記車輪は、全方向に転動可能に設けられていることを特徴とする。
請求項記載の発明は、前記機体に搭載され検査対象物を撮影するカメラと、前記カメラで撮影された画像を無線回線を介して送信する通信部とをさらに備えることを特徴とする。
請求項記載の発明は、前記機体に搭載され検査対象物の状態を検出する検出部と、前記検出部で検出された検出結果を無線回線を介して送信する通信部とをさらに備えることを特徴とする。
請求項記載の発明は、前記機体は前後方向に延在し、前記一対のロータは、前記機体の後部の左右両側に設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
請求項1記載の発明によれば、一対のロータの回転速度を調整し、一対のロータをピッチ軸を中心に揺動させると共に、一対のロータをロール軸を中心に揺動させることにより、回転翼機を飛行させ、3個以上の車輪を水平面に対して傾斜した壁面に当接させ、さらにその状態を保持しつつ回転翼機を走行させることができる。
したがって、回転翼機に検査対象物を撮影するカメラや検査対象物の状態を検出する検出部を搭載することにより、回転翼機の壁面に対する位置を確実に安定させた状態で検査対象物の撮影や検査対象物の状態の検出を行なうことができるため、検査対象物の制約を受けることなく、点検作業を効率的にかつ確実に行う上で有利となる。
請求項2記載の発明によれば、回転翼機の飛行時、あるいは、回転翼機の壁面走行時において、移動方向や機体の姿勢を的確に制御する上で有利となる。
請求項3記載の発明によれば、回転翼機の壁面上での走行を安定して行なう上で有利となる。
請求項4記載の発明によれば、回転翼機の壁面に沿った走行を円滑に行なう上で有利となる。
請求項5記載の発明によれば、回転翼機から離れた場所において画像を容易に取得する上で有利となる。
請求項6記載の発明によれば、回転翼機から離れた場所において検出結果を容易に取得する上で有利となる。
請求項7記載の発明によれば、回転翼機の飛行や壁面に沿った走行を安定した状態で行なう上で有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施の形態に係る無線操縦式の回転翼機の斜視図である。
図2】実施の形態に係る無線操縦式の回転翼機の平面図である。
図3】実施の形態に係る無線操縦式の回転翼機の正面図である。
図4】実施の形態に係る無線操縦式の回転翼機の側面図である。
図5】実施の形態に係る無線操縦式の回転翼機の制御系の構成を示すブロック図である。
図6】無線操縦式の回転翼機が前方に飛行する場合を説明する側面図である。
図7】無線操縦式の回転翼機が右方向に直線的に飛行する場合の説明図であり、(A)は平面図、(B)は後方から見た図である。
図8】無線操縦式の回転翼機が右方向に回転して飛行する場合の説明図であり、(A)は平面図、(B)は後方から見た図である。
図9】飛行する無線操縦式の回転翼機の車輪が垂直な壁面に当接する過程を示す側面図であり、(A)は空中飛行時を示し、(B)は車輪の前輪が壁面に当接した状態を示し、(B)は車輪の前輪および後輪の全てが壁面に当接した状態を示す。
図10】無線操縦式の回転翼機の車輪が壁面上を右方向に直線的に移動する場合の説明図であり、(A)は平面図、(B)は後方から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(実施の形態)
以下、本発明の実施の形態に係る無線操縦式の回転翼機(以下、単に回転翼機という)について図面を参照して説明する。
なお、図1図4図6図10において、符号Fは前方、符号Bは後方、符号Lは左方、符号Rは右方、符号Uは上方、符号Dは下方を示す。
【0009】
図1から図5に示すように、本実施の形態の回転翼機10は、構造物などの検査対象物の点検を行なう際に使用されるものである。
回転翼機10は、機体12と、車輪14と、左右一対のロータ16A、16Bと、駆動部18と、第1の揺動部20と、第2の揺動部22とを含んで構成されている。
機体12は、前後方向に延在する本体部1202を有し、本体部1202の後部に、上方に突出する上後部1204が設けられ、本体部1202の後部の両側には幅方向外側に突出する左後部1206Aおよび右後部1206Bが設けられている。
【0010】
車輪14は、前部に設けられた前輪14Aと、左後部1206Aに設けられた左後輪14Bと、右後部1206Bに設けられた右後輪14Cとで構成されている。
3つの車輪14は、互いに間隔をおいて単一の仮想平面上を転動可能に設けられ、3つの車輪14は全方向に転動可能である。
【0011】
左右一対のロータ16A、16Bは、機体12の左右両側に設けられ回転することで気流を発生させて揚力および推力を発生するものである。
左右一対のロータ16A、16Bは、それぞれ左右のロータケース24A、24Bに支持されている。
駆動部18は、左右一対のロータ16A、16Bを回転させるものであり、本実施の形態では、左ロータケース24Aに収容された左ロータ駆動部18Aと、右ロータケース24Bに収容された右ロータ駆動部18Bとで構成されている。
左右のロータ駆動部18A、18Bは、例えば、不図示のモータと、モータの駆動軸の回転駆動力をロータに伝達する不図示の動力伝達機構とを含んで構成され、このような動力伝達機構として前述と同様に従来公知の様々な機構が使用可能である。
また、左右一対のロータ16A、16Bの回転方向は互いに反対向きとなっており、機体12の姿勢が保たれるように図られている。
【0012】
左右のロータケース24A、24Bは、機体12の上後部1204を貫通して左右方向に延在する連結アーム26の両端に結合されている。
したがって、左右一対のロータ16A、16Bは、連結アーム26を介して一体的に連結されている。
連結アーム26を介して左右一対のロータ16A、16Bを揺動させる第1の揺動部28と第2の揺動部30とが上後部1204に収容されている。
【0013】
第1の揺動部20は、一対のロータ16A、16Bを結ぶ直線(本実施の形態では連結アーム26の軸心)をピッチ軸Aとしたとき、ピッチ軸Aを中心として一対のロータ16A、16Bをピッチ軸Aの回りに一体的に第1の角度θで揺動させるものである。
第1の角度θは、図6に示すように、機体12を側方から見た状態で機体12の上下方向を結ぶ直線L0と一対のロータ16A、16Bの回転軸LXとがなす角度で示される。
第1の揺動部20は、連結アーム26の中間部分を回転可能に支持する不図示の第1の軸受部と、不図示の第1のモータと、第1のモータの駆動軸の回転駆動力を連結アーム26に伝達する不図示の動力伝達機構とを含んで構成され、このような動力伝達機構として複数のギアからなる減速機構など従来公知の様々な機構が使用可能である。
【0014】
第2の揺動部22は、ピッチ軸Aにおける一対のロータ16A、16Bの間の中点と直交し機体12の前後方向を結ぶ直線をロール軸Bとしたとき、ロール軸Bを中心として一対のロータ16A、16Bをロール軸Bの回りに一体的に第2の角度φで揺動させるものである。したがって、ロール軸Bは、連結アーム26の軸線と直交している。
第2の角度φは、図7(B)に示すように、機体12の左右方向を結ぶ直線L1と連結アーム26の軸線LYとがなす角度で示される。
第2の揺動部22は、第1の揺動部20の軸受部をロール軸Bを中心に回転可能に支持する不図示の第2の軸受部と、不図示の第2のモータと、第2のモータの駆動軸の回転駆動力を連結アーム26に伝達する不図示の動力伝達機構とを含んで構成され、このような動力伝達機構として前述と同様に従来公知の様々な機構が使用可能である。
【0015】
次に、図5を参照して回転翼機10の制御系の構成について説明する。
回転翼機10は、機体12、3つの車輪14、左右一対のロータ16A、16B、駆動部18、第1の揺動部20、第2の揺動部22に加えて、カメラ28、検出部30、測位部32、通信部34、制御部36を含んで構成されている。
カメラ28は、機体12に設けられ、検査対象物を撮影して画像情報を生成するものであり、制御部36によって動作が制御される。
検出部30は、機体12に設けられ、検査対象物の状態を検出しその検出情報を生成するものであり、制御部36によって動作が制御される。
検出部30としては、例えば、ソレノイドなどのアクチュエータを用いてハンマーで検査対象物の壁面を打撃し、ハンマーで壁面が打撃された際に発生する打音を検出して検出信号を生成するものを用いることができる。この場合、検出信号の周波数、波長、振幅などに基づいて検査対象物のひびや空洞の有無、あるいは、壁面に接着されたタイルなどの外装材の剥がれの有無などを評価することが可能である。
あるいは、検出部30は、検査対象物の壁面の凹凸形状を検出して3次元形状を示す形状情報を検出情報として生成する3Dスキャナ、検査対象物から発せられる赤外線を受光することで温度情報を検出情報として生成する赤外線温度計など従来公知の様々な計測センサが使用可能である。
これらの検出部30は、検査対象物の壁面に接触した状態で、あるいは、検査対象物の壁面に対して接近した状態を保持することが正確な検出を行なう上で重要である。
測位部32は、GPS衛星などの測位衛星から送信される測位信号を受信して、回転翼機10の現在位置(例えば緯度経度および標高など)を特定し、現在位置を示す位置情報を生成するものである。
測位部32で特定した回転翼機10の現在位置は、回転翼機10の飛行経路の制御等に用いられる。
【0016】
制御部36は、CPU、制御プログラムなどを格納・記憶するROM、制御プログラムの作動領域としてのRAM、各種データを書き換え可能に保持するEEPROMなどの記憶手段、周辺回路等とのインターフェースをとるインターフェース部などを含んで構成される。
制御部36は、カメラ28で撮影された画像情報(動画あるいは静止画)、検出部30で検出された検出情報、測位部32によって生成された位置情報を受け付け、通信部34を介して管理端末38に送信する。
なお、管理端末38は、例えばパーソナルコンピュータやタブレット端末、スマートホン等であり、検査対象物周辺に位置する点検作業者が保持している。
管理端末38は、回転翼機10の通信部34と無線通信を行なう不図示の通信部を備え、回転翼機10の制御部36から送信される画像情報、検出情報、位置情報などの情報を受け付ける。
そして、管理端末38は、それら画像情報、検出情報、位置情報にもとづいて検査対象物の状態の評価を行い、あるいは、評価結果を報知し、評価結果を記憶手段に格納する。また、管理端末38は、受け付けた画像情報、検出情報、位置情報をそのままの形態であるいは加工したのち報知し、記憶手段に格納してもよい。
【0017】
また、制御部36は、不図示のリモートコントローラあるいは管理端末38から通信部34を介して受信した制御情報にもとづいて、制御部36、第1の揺動部20、第2の揺動部22を制御することにより機体12の移動、すなわち、飛行および壁面上の走行を制御する。
詳細に説明すると、制御部36は、駆動部18(左ロータ駆動部18A、右ロータ駆動部18B)を制御することにより一対のロータ16A、16Bの回転速度をそれぞれ調整する。
また、制御部36は、第1の揺動部20を制御することで第1の角度θを調整する。
また、制御部36は、第2の揺動部22を制御することで第2の角度φを調整する。
このように制御部36が、第1の角度θと、第2の角度φとを調整することで、機体12の進行方向と、ピッチ軸A回りの機体12の姿勢と、ロール軸B回りの機体12の姿勢との制御が行われる。
【0018】
次に、図6図10を参照して回転翼機10の動作について説明する。
なお、図中、符号Gは回転翼機10の重心を示す。
図6は回転翼機10が空中で水平面上を前方に向かって飛行している状態を示す。
なお、図6図10において、符号Pは左右一対のロータ16A、16Bの回転による気流によって発生するロータ16A、16Bの回転軸方向の力Pを示す。この力Pの鉛直方向の成分が揚力Lとなり、力Pの水平方向の成分が推力Tとなる。また、符号Aは推力Tと反対方向に作用する反力を示す。符号Wは回転翼機10に作用する重力を示す。
この場合、制御部36により、左右一対のロータ16A、16Bの出力(回転速度)が同一に調整され、左右一対のロータ16A、16Bの回転軸LXの向き(回転軸LX方向の力Pの向き)が機体12に対して前方斜め上方を向くように第1の角度θが調整され、かつ、機体12の左右方向に対して連結アーム26の延在方向が平行となるように第2の角度φが調整される。
したがって、揚力Lと重力Wとが釣り合った状態で前向きの推力Tが発生することにより回転翼機10は水平面上を前方に向かって飛行する。
【0019】
図7(A)、(B)は回転翼機10が空中で水平面上を前後方向には飛行せず右方向に直線的に飛行する状態を示す。
この場合、制御部36により、左ロータ16Aの出力と右ロータ16Bの出力とは同一に調整される。すなわち、左ロータ16Aの回転モーメントMLと右ロータ16Bの回転モーメントMRとは同一となり、左右の回転モーメントML、MRが釣り合うことにより回転翼機10は回転しない。
また、左ロータ16Aの出力と右ロータ16Bの出力とは同一となるので、左右一対のロータ16A、16Bの回転軸LX方向の力PR、PLは同一となる。
また、制御部36により、左右一対のロータ16A、16Bの回転軸LXが機体12に対して右方斜め上方に向くように(すなわち、左右一対のロータ16A、16Bによる回転軸LX方向の力PL、PRの向きが右方斜め上方に向くように)、第1の角度θが0度に調整されると共に、機体12の左右方向に対して連結アーム26の延在方向が右下がりに傾斜するように第2の角度φが調整される。
したがって、揚力Lと重力Wとが釣り合った状態で左ロータ16Aによる推力TLと右ロータ16Bによる推力TRとが発生することで回転翼機10は前後方向には飛行せず右方向に直線的に飛行する。
なお、図中、符号LLは左ロータ16Aの揚力、符号LRは右ロータ16Bの揚力を示す。
【0020】
図8(A)、(B)は回転翼機10が空中で水平面上で前後左右に飛行せず、右方向に回転する状態を示す。
この場合、右方向に旋回するための回転モーメントを発生させるため、右ロータ16Bのモーメントを左ロータ16Aのモーメントよりも大きくする必要がある。
そのため、右ロータ16Bの出力MRを左ロータ16Aの出力MLより大となるように調整する。したがって、左右一対のロータ16A、16Bの回転軸LX方向の力はPL<PRという関係となる。
ここで、回転翼機10をロール軸Bを含む鉛直面Zで破断し、鉛直面Zの左側に位置する回転翼機10の部分の質量をmLとし、鉛直面Zの右側に位置する回転翼機10の部分の質量をmRとする。
この場合、左右一対のロータ16A、16Bの回転軸LX方向の力の差分(PR−PL)と、回転翼機10の左側に作用する重量gmLと回転翼機10の右側に作用する重量gmRとの差分(gmR−gmL)とが釣り合うようにすることで回転翼機10の水平面上における前後左右への飛行を抑制させることができる。
言い換えると、以下の関係式(1)が満たされることで、回転翼機10の水平面上における前後左右への飛行を抑制させることができる。
PR−PL=g(mR−mL)……(1)
ただし、gは重力加速度。
そこで、制御部36により、第2の角度φを調整することで、関係式(1)が満たされるように機体12を傾斜させる。
この場合、PL = gmLかつPR = gmRなる条件が成立すると、回転翼機10は垂直(上下)方向に移動せず、したがって、回転翼機10が空中で水平面上で前後左右に飛行せず、右方向に回転する。
また、PL > gmLかつ(PL - PR) = g(mL - mR)なる条件が成立すると、回転翼機10は、上へ飛びながら右方向に回転する。
【0021】
以上説明した図6図8の動作例では、回転翼機10の前方への飛行、右方向への直線的な飛行、右方向への回転について説明したが、第1の角度θ、第2の角度φ、左右一対のロータ16A、16Bの出力ML、MRのそれぞれを適宜調整することにより、回転翼機10の後方への飛行、左方向への直線的な飛行、左方向への回転ができることは無論である。
また、左右一対のロータ16A、16Bの回転軸LX方向の力Pを鉛直方向上方に向けた状態で、左右一対のロータ16A、16Bの揚力Lを重力Wと等しくすることで回転翼機10がホバリングし、揚力Lを重力Wよりも大とすることで回転翼機10が上昇し、揚力Lを重力Wよりも小とすることで回転翼機10が下降する。
そして、上述した各動作を組み合わせることにより回転翼機10を様々な方向に飛行させ、また、任意の位置でホバリングさせることができる。
【0022】
図9(A)〜(B)は空中を飛行する回転翼機10の車輪14が垂直な壁面に当接する過程を示す。
図9(A)に示すように、回転翼機10は、前輪14Aを検査対象物である構造物2の壁面2Aに対向させ、構造物2の壁面2Aに対して接近する方向に飛行する。
この場合、図6と同様に、左右一対のロータ16A、16Bの出力が同一に調整され、左右一対のロータ16A、16Bの回転軸LX方向の力Pが前方斜め上方を向くように第1の角度θが調整され、かつ、機体12の左右方向に対して連結アーム26の延在方向が平行となるように第2の角度φが調整されている。この場合、揚力Lが重力Wとつり合いながら回転翼機10が前方へ飛行する。
図9(B)に示すように、前輪14Aが壁面2Aに当接したならば、制御部36は、揚力Lが重力Wより若干小さくなるように左右一対のロータ16A、16Bの出力を調整する。これにより機体12の前部に対して機体12の後部が徐々に下がっていく。この際、第1の角度θが徐々に大きくなるように左右一対のロータ16A、16Bをピッチ軸A回りに回転させていく。
やがて、図9(C)に示すように、3つの車輪14(前輪14Aおよび後輪14B、14C)の全てが壁面2Aに当接した状態となった時点で、制御部36は、揚力Lと重力Wとが釣り合うように左右一対のロータ16A、16Bの出力を調整する。
そして、回転翼機10を3つの車輪14を介して壁面2A上を上方に走行させる場合、制御部36は、揚力Lが重力Wよりも大きくなるように左右一対のロータ16A、16Bの出力を調整する。
また、回転翼機10を3つの車輪14を介して壁面2A上を下方に走行させる場合、制御部36は、揚力Lが重力Wよりも小さくなるように左右一対のロータ16A、16Bの出力を調整する。
この場合、制御部36による第1の角度θの調整は、左右一対のロータ16A、16Bによる揚力Lおよび推力Tにより3つの車輪14の全てが水平面に対して交差する壁面2Aに(本実施の形態では水平面と直交する壁面2Aに)当接した状態を保持しつつ3つの車輪14が壁面2Aに沿って走行するに足る反力Aが壁面2Aから3つの車輪14に対して作用し得るようになされる。
【0023】
図10は、回転翼機10の車輪14が壁面2A上に当接した状態で右方向に直線的に走行する場合の説明図であり、(A)は図9のX矢視図、(B)は図9のY矢視図である。
この場合、図10(A)に示すように、制御部36により、左ロータ16Aの出力と右ロータ16Bの出力とは同一に調整され、左右の回転モーメントML、MRが釣り合うことにより回転翼機10は回転せず、かつ、制御部36により、第1の角度θが図9(C)と同じ値に維持され壁面2A上に静止した状態であるものとする。
ここで、図10(B)に示すように、機体12の左右方向に対して連結アーム26の延在方向が機体12に対して右上がりに傾斜するように第2の角度φが調整される。
これにより、左右一対のロータ16A、16Bの回転軸LX方向の力PL、PRが壁面2Aに対して斜め右向きで作用するため、左右一対のロータ16A、16Bの推力TL、TRが右向きに発生し、これにより、回転翼機10は車輪14を介して壁面2A上を右方向に直線的に走行する。
【0024】
本実施の形態の回転翼機10を用いた構造物2の点検作業は以下のような手順で行なう。
まず、回転翼機10を飛行させ、遠隔制御により回転翼機10を構造物2の壁面2Aに近接させる。
そして、図9(A)から(C)に示すような手順により、回転翼機10の車輪14を壁面2Aに当接させ、回転翼機10を所望の検出箇所まで壁面2Aに沿って走行させる。
そして、カメラ28による撮影、検出部30による検出を行わせ、画像情報および検出情報を通信部34から無線回線を介して送信させる。そして、次の検出箇所まで回転翼機10を走行させ同様の処理を繰り返して行なう。
また、必要に応じて回転翼機10を飛行させることにより回転翼機10を次の検出箇所まで移動させてもよい。
送信された画像情報および検出情報を管理端末38で受信し、それら画像情報および検出情報に基づいて構造物2の評価を行なう。
【0025】
なお、本実施の形態では、壁面2Aが鉛直面である場合について説明したが、壁面2Aは、水平面に対して傾斜した傾斜面、あるいは、水平面であってもよい。また、水平面は、鉛直方向上方を向いた水平面であっても、鉛直方向下方を向いた水平面であってもよい。
また、壁面2Aは、構造物2が建物であった場合、建物外部に面する壁面や屋上面であってもよく、あるいは、建物内部の空間に面する床面、内面、天井面であってもよい。
【0026】
以上説明したように本実施の形態によれば、一対のロータ16A、16Bの回転速度を調整し、一対のロータ16A、16Bをピッチ軸Aを中心に揺動させると共に、一対のロータ16A、16Bをロール軸Bを中心に揺動させることにより、回転翼機10を飛行させ、3個以上の車輪14を水平面に対して傾斜した壁面2Aに当接させ、さらにその状態を保持しつつ回転翼機10を走行させることができる。
したがって、回転翼機10に検査対象物を撮影するカメラ28や検査対象物の状態を検出する検出部30を搭載することにより、回転翼機10の壁面2Aに対する位置を確実に安定させた状態で検査対象物の撮影や検査対象物の状態の検出を行なうことができるため、検査対象物の制約を受けることなく、点検作業を効率的にかつ確実に行う上で有利となる。
【0027】
また、本実施の形態によれば、制御部36は、一対のロータ16A、16Bの回転速度と、第1の角度θと、第2の角度φとを調整することで、機体12の進行方向と、ピッチ軸A回りの機体12の姿勢と、ロール軸B回りの機体12の姿勢とを制御するので、回転翼機10の飛行時、あるいは、回転翼機10の壁面2A走行時において、移動方向や機体12の姿勢を的確に制御する上で有利となる。
【0028】
また、本実施の形態によれば、制御部36による第1の角度θの調整は、一対のロータ16A、16Bによる揚力Lおよび推力Tにより車輪14の全てが水平面に対して交差する壁面2Aに当接した状態を保持しつつ車輪14が壁面2Aに沿って走行するに足る反力Aが壁面2Aから車輪14に対して作用し得るようになされるようにした。
したがって、回転翼機10の壁面2A上での走行を安定して行なう上で有利となる。
【0029】
また、本実施の形態によれば、車輪14は、全方向に転動可能に設けられているので、回転翼機10の壁面2Aに沿った走行を円滑に行なう上で有利となる。
【0030】
また、本実施の形態によれば、カメラ28で撮影された画像を無線回線を介して送信するようにしたので、回転翼機10から離れた場所において画像を容易に取得する上で有利となる。
【0031】
また、本実施の形態によれば、検出部30で検出された検査対象物の検出結果を無線回線を介して送信するようにしたので、回転翼機10から離れた場所において検出結果を容易に取得する上で有利となる。
【0032】
また、本実施の形態によれば、機体1202が前後方向に延在し、一対のロータ16A、16Bは、機体1202の後部の左右両側に設けられているので、回転翼機10の飛行や壁面2Aに沿った走行を安定した状態で行なう上で有利となる。
【符号の説明】
【0033】
2 構造物(検査対象物)
2A 壁面
10 回転翼機
12 機体
14 車輪
16A、16B 一対のロータ
18 駆動部
20 第1の揺動部
22 第2の揺動部
26 連結アーム
28 カメラ
30 検出部
34 通信部
36 制御部
A ピッチ軸
B ロール軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10