(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のように、従来はサファイア基板の裏面を光取り出し面として用いていた。しかし、光取り出し面となるサファイア基板の裏面を砂面状とすることのみでは、光取り出し効率は不十分であった。また、砂面状とする加工は容易ではなく、費用面の問題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一般的なAlGaN層を発光層とする電子線励起の紫外線発光装置の構造は、サファイア基板の主面上にAlNバッファ層を経て発光層を形成し、真空容器内において電子線源より発光層に電子線を照射することで、発光層で励起された紫外光をサファイア基板の裏面から取り出している。上記の課題を解決するために、本発明者らはサファイア基板と空気との間の屈折率差に起因する光取り出し効率だけでなく、AlNバッファ層とサファイア基板との間の屈折率差にも着目した。その結果、サファイア基板が平らである場合、サファイア基板の主面の反対側(裏面)より放射される光成分よりも、AlN層内に閉じ込められて側面より放出される光や、サファイア基板の裏面と空気との界面で反射したり、サファイア基板とAlNバッファ層との界面で反射した結果としてサファイア基板の側面より放射される光成分が多いことが分かった。そして、基板の厚さに対して砂面状の凹凸高さが小さいならば、サファイア基板の主面の反対側(裏面)よりもサファイア基板の側面や、サファイア基板やAlN層および発光層の側面から放射される光成分が多いことに変わりがなく、この側面からの光成分を積極的に利用することを考えた。
【0007】
本発明における紫外線発光装置は、サファイア基板と、サファイア基板の主面上に形成され電子線励起により紫外線を発光する発光層と、発光層に電子線を照射する電子線照射装置と、発光層と電子線照射装置との間の真空を保持する真空容器とを具備し、サファイア基板の側面またはサファイア基板ないし発光層の側面を、第1の光取り出し面とし、第1の光取り出し面に対向する位置に、第1の光取り出し面より放出された光の方向を変える反射ミラーを具備している。または、サファイア基板の主面と反対側の表面に、金属板を有している。サファイア基板の厚さは100μm以上であってもよく、サファイア基板と発光層の間に、X線回折による(10−12)面の半値幅が500秒以下のAlN層を有していてもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る電子線を受けて紫外線を発光する紫外線発光装置は、サファイア基板の側面またはサファイア基板ないし発光層の側面より放射される光を積極的に利用し、容易に発光の効率を上げることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の第1の実施形態を、
図1を用いて説明する。サファイア基板1の主面上(
図1では下向きの面)にAlNバッファ層2を有し、さらにAlNバッファ層2に接して発光層3を有し、発光層3に接して金属層4を有している。この金属層4と真空容器6とは接合されており、電子線照射装置5を内包する空間は真空に保たれている。サファイア基板ないし発光層の側面が第1の光取り出し面となっており、サファイア基板1の主面と反対の面(裏面)が第2の光取り出し面となっている。なお、サファイア基板1の厚さはAlNバッファ層2や発光層3、金属層4に比べて非常に厚く、図中の厚さの関係は便宜上のものであり、実際の縮尺とは関係ない。実質的に第1の光取り出し面の大部分はサファイア基板の側面であるため、サファイア基板の側面を第1の光取り出し面としてもよく、AlNバッファ層2や発光層3の側面を含めて第1の光取り出し面としても良い。第1の実施形態は、この第1の光取り出し面より放出される光を反射面により反射して、反射した光を有効利用するものである。
【0011】
便宜的に、第1の光取り出し面より放出される光を水平方向の光とし、第2の光取り出し面より放出される光を垂直方向の光として以下記載する。上記の第1の光取り出し面と対向する位置に、真空容器の一部が突出する形で反射面7が対面しており、水平方向の光が反射面7において反射されて光の進路方向を変えるように配置している。なお、電子線照射装置5への電気配線や、金属層4の接地等については図では省略している。
【0012】
サファイア基板1は十分に厚いことが好ましく、100μm以上2000μm以下の厚さであることが好ましく、より好ましくは400μm以上が好ましい。100μm未満では、垂直方向の光放射と側面方向の光放射の強度がほとんど変わらないためである。サファイア基板1が厚くなっても垂直方向の光量は一定であるが、側面からの光放射の光量は、
図2に示すように100μmから430μmまで急激に増加し、サファイア基板1の厚みが1mm以上で飽和し始め、2mmを超えるとほとんど光量は増えなくなる。なお、市販のサファイア基板の標準厚さは、2インチは430μm、4インチは650μm、6インチは1000μmと1300μmである。
【0013】
本発明において、サファイア基板1の水平方向の光を積極的に利用し、サファイア基板の側面またはサファイア基板ないし発光層の側面を第1の光取り出し面とするならば、サファイア基板1のサファイア基板の主面と反対側の表面(裏面)は、第2の光取り出し面としてもよいし、光取り出し面としなくても良い。裏面を光取り出し面とせず反射板等で覆う場合は、有害なX線への対策が不要となり、さらにサファイア基板の裏面に冷却装置を設けることもできるようになる。
【0014】
AlN層2は、その上に形成する発光層の結晶欠陥を少なくして発光効率を向上させるために、その表面の欠陥密度が低いことが好ましく、X線回折による(10−12)面の半値幅(Full Width Half Maximum,FWHM)が500秒以下であることが好ましく、350秒以下であることがより好ましい。
【0015】
発光層3は、量子井戸構造を有することが好ましい。例えば240nmの紫外光を発するには、井戸層のAl組成を0.7としたAl
0.7Ga
0.3N層として、井戸層よりもAl組成の高い障壁層と井戸層とを交互に繰り返して積層することにより形成する。障壁層にはAlNを用いることが最も好ましい。一部の層にSiやMgなどのドーパントを用いても良い。
【0016】
金属層4は、メタルバックとも呼ばれ、接地させて電子線源(陰極)に対する陽極として機能させると共に、電子線を透過して発光層3に入射させ、さらに、発光層3のチャージアップを抑制して絶縁破壊を防止し、発光層3からの光を反射して光取出し効率を向上させるものである。反射層には、例えばアルミニウム、ロジウム、ルテニウム、シリコン、タングステン、モリブデンなどの波長350nm以下の紫外領域で高い反射率を有する材料を用いることができる。厚さは、電子線の出力にも拠るが、20〜200nmであることが好ましい。
【0017】
電子線源5は、カーボンナノチューブを用いた陰極など、公知の電子線源を用いることができる。
【0018】
真空容器6は、公知の技術を用いてステンレス鋼、コバール、アルミ、ニッケル、金、鉄、タングステン、モリブデン、チタン、タンタル、ジルコニウム、ガラスやセラミックス、さらにゴム、プラスチック、ろう材、金属とガラス封じ材、金属とセラミックス封じ材、などの組み合わせにより、形成される。そして、サファイア基板の水平方向にある側面が露出されるように、金属層4が真空容器6と接合されている。真空容器6と金属層4とは、公知の技術を用いて接合すればよく、半田接合、金属間接合、溶接のほか、サファイア基板を挟むように真空用フランジや金属等のシール材を配置して圧着してもよい。
【0019】
反射面7は、第1の光取り出し面より放出された光の方向を変えるためのものであり、その断面は直線に限らず、放物線や曲線であって良い。例えば、第1の光取り出し面に対し45度傾斜した直線とすれば水平方向の光の進路を、基板の裏面からの光と同等の方向に変化させることができるが、その様態に限定されず、パラボラのように光を軸上に集光しても良く、第1の光取り出し面からの光を積極的に利用する目的と合致する様態であれば、任意の反射面の形状により照射される光の進路方向を任意に変えることができる。反射面の材料は、例えばアルミニウム、ロジウムなどの波長350nm以下の紫外領域でも反射率0.7以上を有する材料を用いることができる。
【0020】
図示しないが、基板の裏面や側面は凹凸を有していても良い。凹凸の形成方法は、ドライエッチング法が好ましい。切削加工や、ウエットエッチング法を併用しても良い。さらに、光取り出し面上には、サファイアよりも屈折率の低いSiO2などのパシベーション膜を有しても良い。サファイアの屈折率と、水や空気の屈折率との間の屈折率を有する膜を介在させることで、さらに光の取り出し効率を向上させることができる。なお、形成される凹凸の高さは0.1〜10μm程度であり、基板厚さに対して十分小さい。
【0021】
反射面7を用いない例として、本発明の第2の実施形態を、
図4に示す。サファイア基板1の主面上(
図4では下向きの面)にAlNバッファ層2を有し、さらにAlNバッファ層2に接して発光層3を有し、発光層3に接して金属層4を有している。この金属層4と真空容器6とは接合されており、電子線照射装置5を内包する空間は真空に保たれている。サファイア基板1の主面と反対の面(裏面)は光取り出し面となっておらず、金属板10で覆われており、サファイア基板1の水平方向の面(側面)またはサファイア基板1にAlNバッファ層2や発光層3の側面を含めた側面(すなわち第1の光取り出し面)が、光取り出し面となっている。
【0022】
光取り出し面が第1の光取り出し面に限定されているため、
図4のように被照射流体が管状内を通り、紫外線発光装置が管内に設置されているならば、目に有害な紫外線やX線に対する取り扱いの面での安全性も増す。そして、基板の側面を水や空気などの被照射流体が通過することで、被照射流体に均等に紫外光を照射することができる。また、第2の実施形態においても、図示しないが、基板の裏面は凹凸を有していても良い。凹凸を有することで基板の裏面における反射により発光層に戻る光を抑えて基板の側面へ到達する成分を増やすと共に、放熱性を向上させることができる。
【実施例】
【0023】
以下に実施例および比較例を記載し本発明をさらに具体的に示すが、本発明の技術的範囲はこれらの記載に限定されるものではない。
【0024】
(実施例1)サファイア基板(両面ミラー仕上げ、2インチ、厚さ430μm、(0001)面、0.11度オフ(m軸方向))の主面上に厚さ600nmの高温成長AlN層を有したAlNテンプレート(DOWAエレクトロニクス社製)上に直接、MOCVD装置を用いて、AlN障壁層(3nm)とAl
0.7Ga
0.3N井戸層(3nm)とを100.5ペア形成して、240nmの紫外光を発する量子井戸構造の紫外線発光層とした。100.5ペアとは、AlN障壁層から開始して障壁層と井戸層の積層を100回繰り返し、最後にAlN障壁層で終わることをいう。紫外線発光層の全体の厚さは603nmである。
【0025】
MOCVDの設定温度は1150℃、圧力は10kPaとし、TMAガス、TMGガスおよびアンモニアガスと、水素や窒素などのキャリアガスを用いて成長を行なった。
【0026】
Al
0.7Ga
0.3N井戸層の成長時に、シランガスを用いてSiドープを行なった。AlN障壁層の成長時には、シランガスは流さなかった。井戸層におけるシリコンの濃度を2次イオン質量分析法(Secondary Ion Mass Spectrometry、SIMS)により測定したところ、6×10
17/cm
3であった。
【0027】
上記の紫外線発光層のAlN障壁層上に、金属層としてAl膜(厚さ10nm)を、スパッタ装置を用いて形成し、電子線励起による紫外線発光構造体とした。
【0028】
真空排気されたチャンバー内16において、電子線源15(8keV)に金属層4が対向するように配置して電子線照射面、この金属層4を接地し、電子線源15を用いて電子線を照射して紫外線発光層3を発光させた。電子線の照射径(エネルギー分布の2σの範囲を占める径)は、直径26mmとした。
【0029】
図3に示すように、サファイア基板1の主面と反対側の光取り出し側(裏面)に対し、垂直方向(電子線照射方向と同じ方向)に電子線の照射領域と中心を合わせて設けたAのコサインコレクタ8(a)(直径3.9mm)と、サファイア基板の水平方向(電子線照射方向と垂直方向)に設けたBのコサインコレクタ8(b)(直径3.9mm)とを介して、励起された紫外線の発光スペクトルを、分光器9(Ocean Optics社製 USB2000+ 波長180nm〜850nm)を用いて測定した。垂直方向の光強度は、電子線の照射径の方がコサインコレクタの径より小さいためAのコサインコレクタが覆う範囲以外の光が観察されないため、Aのコサインコレクタが受けた強度をそのまま用いた。水平方向の光強度は、光がサファイア基板の外周全体から放射されておりのBのコサインコレクタが覆う範囲以外の光があるため、Bのコサインコレクタが受けた強度を、コサインコレクタの直径で割って、基板の外周の長さを掛けた値(すなわち、外周全体からの光の強度に換算した値)を用いた。
【0030】
その結果、サファイア基板裏面の垂直方向の光強度に対して、水平方向の光強度は1.9倍の値を示した。
【0031】
(実施例2)サファイア基板の水平方向の面(側面)の対向する位置に、45度の角度を有するAlを蒸着した鏡面(240nmの光に対する反射率88%)を配置して、水平方向の光を反射させ、垂直方向となるように光の進路を変化させた後の進路上にBのコサインコレクタを配置して、Bのコサインコレクタが受けた光強度を反射後の水平方向の光とした以外は、実施例1と同様とした。
【0032】
Bのコサインコレクタが受けた強度を、コサインコレクタの直径で割って、基板の外周の長さを掛けた値(すなわち、外周全体からの光の強度に換算した値)として、Aのコサインコレクタが受けた強度に加算した結果、垂直方向のトータルの光強度は、Aのコサインコレクタが受けた強度のみの光強度に対して、2.7倍となった。
【0033】
(実施例3)サファイア基板の厚さを、0.1mm、0.2mm、0.65mm、0.8mm、1mm、2mmにそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様として、サファイア基板の厚さに対して垂直方向と水平方向の光強度の変化を測定した。実施例1の結果と共に、その結果を
図2に示す。
【0034】
図2に示すように、サファイア基板の厚さが0.1mm以上において、垂直方向に比べて水平方向の光量が多いことが分かった。そして、サファイア基板が厚くなっても垂直方向の光量に大きな変化は見られないが、側面からの光放射の光量は、100μmから430μmまで急激に増加し、サファイアの厚みが0.8mmから2mmの間で光量の増加に飽和傾向が見られることが分かった。
【0035】
(実施例4)サファイア基板裏面にAlを500nm蒸着し、さらに厚さ2mmのAl板10を配置し、垂直方向の光を反射してサファイア基板ないし発光層の側面のみを光取り出し面としてBのコサインコレクタからの光強度を評価した以外は実施例1と同様とした。その結果、実施例1のときの水平方向の光強度にくらべて、実施例4の水平方向の光強度は増加した。このような紫外線発光装置を水などの流体が通る管内に、管の内壁に向けて紫外線が照射されるよう配置することで、安全に取扱うことができる。