(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」ともいう。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の本実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0010】
[1]ブタジエンの製造方法
まず、本実施形態の金属酸化物触媒の製造方法によって製造される金属酸化触媒が適用される流動床反応について、n−ブテンを含む原料からブタジエンを製造する方法を例にとって説明する。
この製造方法では、金属酸化物触媒を内部に有する流動床反応器に、原料と酸素を含む原料混合ガスが供給され、これによって反応が進行する。
(1)原料
原料は、炭素数4のモノオレフィンであるn−ブテンを含み、n−ブテンとしては、例えば、1−ブテン及び/又は2−ブテンが挙げられる。
1−ブテンと2−ブテンの比率には特に制限が無く、1−ブテンは0体積%〜100体積%、2−ブテンは100体積%〜0体積%の範囲で任意に用いることができる。また、2−ブテンにはトランス体とシス体があるが、この比率もそれぞれ100%〜0%、0%〜100%の範囲で任意に用いることができる。
原料には、イソブテンを含むこともできる。このイソブテンはn−ブテンに対して10体積%以下であることが好ましく、より好ましくは0.1体積%〜6体積%、更に好ましくは0.5体積%〜3体積%である。さらに、原料には、n−ブタン、イソブタンの他に、炭素数が3以下の炭化水素、炭素数が5以上の炭化水素を含んでいても良く、n−ブテンの濃度は原料中の40体積%以上、好ましくは50体積%以上、更に好ましくは60体積%以上であることが好ましい。
【0011】
原料は、例えば、ナフサ熱分解で副生するC4留分からブタジエンを抽出した残留成分、重油留分の流動接触分解(FCC)で副生するC4留分、エチレン又はエタノ−ルの接触転化反応で副生するC4留分などから、イソブテンを、分離することで得ることができる。
また、n−ブタンの脱水素反応又は酸化脱水素反応により得られるn−ブテン、また、エタン熱分解やエタノールの脱水反応により得られるエチレンの接触転化反応で副生するn−ブテンなどを使用することができる。このエタノールとしては、バイオマス由来のエタノールも好適な原料として使用することが出来る。
なお、反応生成物から目的生成物であるブタジエンを分離した後、回収した未反応ブテンの少なくとも一部を原料としてリサイクルすることもできる。
【0012】
流動床反応器に供給する原料混合ガスとは、前述の原料と酸素を含むガスであり
原料混合ガス中のn−ブテン濃度は、ブタジエンの生産性の観点で、少なくとも2体積%以上が好ましく、触媒への負荷を抑える観点で30体積%以下が好ましい。より好ましくは3体積%〜25体積%、更に好ましくは5体積%〜20体積%である。原料混合ガス中のn−ブテン濃度が2体積%以上の場合は、ブタジエンの製造量を高めることができ、一方、原料混合ガス中のn−ブテン濃度が30体積%以下の場合は、触媒に反応生成物やコークの析出が抑制され、触媒の劣化による触媒寿命が長くなる。
【0013】
原料混合ガスは、酸素の他に、パラフィン、水、スチーム、水素、窒素、二酸化炭素、一酸化炭素等を含んでいてもよい。パラフィンの例として、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナンを挙げることができる。
原料混合ガス中には水を30体積%以下で、好ましくは20体積%以下、更に好ましくは10体積%以下で含むことも好ましい方法の一つである。
【0014】
(2)流動床反応器
n−ブテンからのブタジエンの製造は、流動床反応として、酸化脱水素反応によって行われる。 流動床反応器に限定はないが、例えば、反応器内にガス分散器・内挿物・サイクロンをその主要構成要素として有し、触媒を流動させつつ、原料混合ガスと接触させる構造のものを挙げることができる。
たとえば、流動床ハンドブック(株式会社培風館刊、1999年)等に記載の流動層反応器を使用することができ、特に気泡流動層方式の反応器が本実施形態の製造方法で製造された触媒を用いるブタジエン製造方法には適している。発生する反応熱の除熱は、例えば、反応器に設置した冷却管を用いて行うことができる。この冷却管は触媒の濃厚層及び希薄層に配置され、目的の温度を実現する為に操作される。
【0015】
(3)反応条件
この製造方法においては、n−ブテンと酸素を含む原料混合ガスが反応に供される。
酸素源としては通常、空気を用いるが、空気に酸素を混合するなどして酸素濃度を高めたガス;空気と窒素、ヘリウム、反応生成ガスからブタジエン、n−ブテン、n−ブタン、イソブタンなどの炭化水素化合物を分離した後のガスなどを混合して酸素濃度を低めたガス;酸素分離膜などを用いた分離方法により製造した酸素濃度を高めた/低めたガスなどを用いることもできる。
n−ブテンに対する酸素のモル比は0.5〜1.5(空気/n−ブテン比として2.5〜7.5)とするのが好ましく、より好ましくは0.6〜1.3(空気/n−ブテン比として3.0〜6.5)の範囲である。
【0016】
原料混合ガスの反応器への導入方法は限定されない。触媒を充填した反応器へ、n−ブテンを含むガスと、空気又は酸素濃度を高めたガス又は酸素濃度を低めたガスを予め混合して原料混合ガスとして予め調製してから導入しても良いし、それぞれ独立して導入して反応器内で原料混合ガスを調製してもよい。原料混合ガスは反応器に導入した後に所定の反応温度に昇温することもできるが、連続して効率的に反応させるために、通常は予熱して反応器に導入する。
【0017】
流動床反応器内の触媒の濃厚層の温度は320℃〜400℃が好ましく、希薄層の温度は濃厚層の温度に対して−50℃〜+20℃となるよう制御することが好ましい。濃厚層温度を320℃以上にすることで、濃厚層温度を維持し易く、n−ブテンの転化率を保って、安定に運転を継続できる。濃厚層温度を400℃以下にすることで生成したブタジエンの燃焼分解を抑制することができる。流動床反応器内の触媒の濃厚層のより好ましい温度は330℃〜390℃であり、更に好ましくは340℃〜380℃である。
ブタジエンの製造反応は発熱反応であるので、流動床反応器内の触媒の濃厚層及び希薄層の温度は、例えば、冷却管による反応熱の除去や、加熱装置による給熱、供給する原料ガスの余熱などにより制御することができる。
【0018】
反応圧力は0.01MPa(ゲージ圧)〜0.4MPa(ゲージ圧)が好ましく、より好ましくは0.02MPa(ゲージ圧)〜0.3MPa(ゲージ圧)、更に好ましくは0.03MPa(ゲージ圧)〜0.2MPa(ゲージ圧)である。
原料混合ガスと触媒との接触時間は0.5g・sec/cc〜20g・sec/ccが好ましく、より好ましくは1g・sec/cc〜10g・sec/ccである。なお、ここでいう接触時間は下記式(2)で定義される。
接触時間(g・sec/cc)
=W/F*60*273.15/(273.15+T)
*(G*1000+101.325)/101.325 (2)
式中、Wは触媒充填量(g)、Fは原料混合ガス流量(cc/min、NTP換算)、Tは反応温度(℃)、Gは反応圧力(MPa(ゲージ圧))を表す。
【0019】
生成したブタジエンを含むガスは、反応器出口から流出する。反応器出口ガス中の酸素濃度は、反応器内における目的生成物の分解や二次反応に影響するので、0.05~1.5体積%程度に制御することが好ましい。反応器出口ガス中の酸素濃度は、反応器に供給する原料ガスであるn−ブテンの量、酸素供給源となるガスの量、反応温度、反応器内の圧力、触媒量、反応器に供給する全ガス量などを変更することによって、調整することができる。好ましくは、反応器に供給する酸素供給源となるガス、例えば、空気の量を制御することによって制御する。
反応器出口ガス中の酸素濃度を0.05体積%〜1.5体積%に維持することにより、反応器内における触媒の還元及び目的生成物の分解を有効に防止でき、安定に目的生成物を製造できる。反応器出口ガス中の酸素濃度は、熱伝導型検出器(TCD)を備えたガスクロマトグラフィーで測定することができる。
【0020】
[2]金属酸化物触媒
次に、本実施形態の製造方法で製造する金属酸化物触媒について説明する。
(1)組成
本実施形態の製造方法で製造する金属酸化物触媒(以下、単に「触媒」とも言う。)は、Mo、Bi及びFeを含む、後述の式(1)で表される組成を有する酸化物である。
式(1)で表される組成は、流動床反応において高い収率でブタジエンを得るために適切に調節されており、この酸化物中の格子酸素によって、n−ブテンからブタジエンの酸化脱水素反応が行われると考えられる。一般に、触媒中の格子酸素が酸化脱水素反応に消費されると、酸化物中に酸素空孔が生じる結果、反応の進行に伴って酸化物の還元も進行し、触媒活性が失活していくので、触媒活性を維持するためには、還元を受けた酸化物を速やかに再酸化することが必要である。Mo、Bi及びFeを含む酸化物は、n−ブテンからブタジエンの酸化脱水素反応に対する反応性に加え、気相中の酸素を解離吸着して酸化物内に取り込み、消費された格子酸素の再生を行う再酸化作用にも優れていると考えられる。従って、長期にわたって反応を行う場合でも、格子酸素の再酸化作用が維持され、触媒は失活することなく、n−ブテンからブタジエンを安定に製造できるものと考えられる。
【0021】
金属酸化物触媒は、具体的には、下記式(1)により表される組成を有する。
Mo
12BipFeqAaBbCcDdEeOx (1)
式中、Aはニッケル及びコバルトから選ばれる少なくとも1種の元素、Bはアルカリ金属元素から選ばれる少なくとも1種の元素、Cはマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛及びマンガンから選ばれる少なくとも1種の元素、Dは少なくとも1種の希土類元素、Eはクロム、インジウム及びガリウムから選ばれる少なくとも1種の元素、Oは酸素であり、p、q、a、b、c、d、e、及びxはそれぞれモリブデン12原子に対するビスマス、鉄、A、B、C、D、E及び酸素の原子比を表し、0.1≦p≦5、0.5≦q≦8、0≦a≦10、0.02≦b≦2、0≦c≦5、0≦d≦5、0≦e≦5であり、xは存在する他の元素の原子価要求を満足させるのに必要な酸素の原子数である。
【0022】
式(1)は、金属酸化物触媒に含まれる金属の原子比と、その原子比及び酸化数の総計に応じて要求される酸素とからなる組成を表す。様々な酸化数をとりうる金属を含む酸化物において、酸素の原子数を特定することは実質的に不可能であるため、酸素の数は形式的に「x」で表すこととしている。
【0023】
A、B、C、D及びEで表される成分の役割は、Mo、Bi及びFeを必須成分とする酸化物触媒の分野では、概ね次のように推定されている。すなわち、A及びEは触媒の活性を向上させ、B及びCはMo、Bi及びFeを含む合目的な酸化物の構造の安定化させ、Dは酸化物の再酸化という影響を与えると考えられている。ただし、機序はこれによらない。p、q、a、b、c、d、eが好ましい範囲であると、これらの効果が一層高いと期待できる。
上記組成式において、好ましい組成は、0.1≦p≦0.5、1.5≦q≦3.5、1.7≦a≦9、0.02≦b≦1、0.5≦c≦4.5、0.02≦d≦0.5、0≦e≦4.5であり、より好ましい組成は、Bがルビジウム、カリウム又はセシウム、Cがマグネシウム、Dがセリウムであり、0.15≦p≦0.4、1.7≦q≦3、2≦a≦8、0.03≦b≦0.5、1≦c≦3.5、0.05≦d≦0.3、0≦e≦3.5である。
Aがニッケル、Bがルビジウム、カリウム又はセシウム、Cがマグネシウム、Dがセリウムの場合、ブタジエン収率がより高く、かつその燃焼分解が良好に抑制され、また触媒に対して還元劣化に対する耐性を付与することができる傾向がある。
【0024】
金属酸化物触媒は担体に担持されて使用されてもよく、この場合、担体の量は、担体と金属酸化物の合計に対して好ましくは30質量%〜70質量%、より好ましくは40質量%〜60質量%の範囲で有効に用いることができる。
担体の材料に限定はないが、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニアが好ましく、より好適な担体はシリカである。シリカは他の担体に比べ不活性な担体であり、目的生成物に対する触媒の活性や選択性を低下させることなく、触媒と良好な結合作用を有する。加えて、酸化物を担体に担持することによって、形状(粒子形状)・大きさ・粒径分布、流動性、機械的強度の点で流動床反応に好適な物理的特性を付与することができる。
シリカの原料としてはシリカゾルが好ましい。シリカゾルの不純物に関して、好ましくは、ケイ素100原子当たり0.04原子以下のアルミニウムを含むシリカソゾルを用い、さらに好ましくは、ケイ素100原子当たり0.02原子以下のアルミニウムを含むシリカゾルを用いる。
【0025】
(2)製造方法
本実施形態の金属酸化物触媒の製造方法は、触媒原料スラリーを調製する触媒原料スラリー調製工程(以下「第1の工程」ともいう。)を含む。
更に該触媒原料スラリーを乾燥する乾燥工程(以下「第2の工程」ともいう。)、および第2の工程で得られた乾燥品を焼成する焼成工程(以下「第3の工程」ともいう。)を順に含むことが好ましい。
【0026】
第1の工程では、触媒原料を含む触媒原料スラリーを調製する。
ここで、触媒原料とは、モリブデン、ビスマス及び鉄の他、ニッケル、コバルト、アルカリ金属元素、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、マンガン、希土類元素、クロム、インジウム、ガリウムの各元素の元素源であり、水又は硝酸に可溶なアンモニウム塩、硝酸塩、塩酸塩、硫酸塩、有機酸塩などを挙げることができる。
特にモリブデン源としてはアンモニウム塩が、ビスマス、鉄、ニッケル、アルカリ元素、マグネシウム、亜鉛、マンガン、希土類元素の各元素の元素源としては、それぞれの硝酸塩が好ましい。
【0027】
触媒原料スラリーの調製は、少なくともMoを含む第一の触媒原料液と、少なくともBiを含む第二の触媒原料液とを混合し、得られた混合液を所定の条件で撹拌することで行う。なお、第一及び/又は第二の触媒原料液には、金属酸化物触媒の担体を含有させてもよい。或いは、混合液に、第一及び第二の触媒原料液に加え、金属酸化物触媒の担体を添加してもよい。
たとえば、混合液は、水に溶解させたモリブデンのアンモニウム塩をシリカゾルに添加して調製した第一の触媒原料液に、ビスマス、希土類元素、鉄、ニッケル、マグネシウム、亜鉛、マンガン、アルカリ元素の各元素の硝酸塩を水又は硝酸水溶液に溶解させた第二の触媒原料液を加えることによって得ることができる。尚、第一または第二の触媒原料液の調製の添加順序を変えることもできる。
【0028】
このようにして得られた混合液の粘度は、触媒原料スラリー調製工程の間5mPa・s〜500mPa・sに維持されることが好ましく、10mPa・s〜300mPa・sがより好ましい。混合液の粘度が、5mPa・s以上に維持されていると、得られる触媒原料スラリー中の触媒原料が沈殿しにくくなり、500mPa・s以下に維持されている場合は、撹拌手段の周辺部だけでなく槽全体を撹拌することが容易になるので、原料が均一に混合された触媒原料スラリーが得られ、よって金属酸化物触媒の金属原子比のバラツキを小さくすることができる。
混合液の粘度の調整は、例えば、第一および/または第二の触媒原料液を調製する時の水の量で調整することができる。
【0029】
本実施形態において、第一及び第二の触媒原料液を混合することによって得られた混合液は、所定の条件で撹拌され、触媒原料スラリーが調製される。このときの混合液の温度は30℃〜90℃が好ましく、40℃〜60℃がより好ましい。混合液の温度が30℃以上の場合は、混合液中の触媒原料の析出が低減され、混合液の温度が90℃以下の場合は、混合液中の水の蒸発が抑制できる。
【0030】
混合液の撹拌手段としては、任意の手段を採用することができ、好ましくは撹拌翼があげられる。撹拌に使用する翼としては、具体的には、プロペラ形、パドル形、フラットパドル形、タービン形、コーン形などが挙げられるが、触媒原料スラリーに対して十分に剪断力をかけられるものであれば、これらに特に限定されるものではない。翼の枚数は特に限定しない。また、効率的な撹拌を行なうために、槽内に邪魔板等を設置してもよい。撹拌機の数は、触媒原料液槽の大きさ、撹拌翼の形状などに応じて最適な条件を選択すればよい。
【0031】
本実施形態においては、触媒原料スラリー調製工程での混合液の撹拌を、単位容積当たりの撹拌動力(Pv)(以下、単に「撹拌動力(Pv)」という。)が以下の2つの条件を満足するように行うことにより、良好な触媒能を有し、しかも粉砕しにくい金属酸化物触媒の製造を実現している。
具体的には、
(1)触媒原料スラリー調製工程において、撹拌動力(Pv)が100W/m
3〜1200W/m
3である時間を1分〜24時間とするとともに、
(2)触媒原料スラリー調製工程を通しての攪拌動力の平均値を100W/m
3〜1200W/m
3の範囲内とする。ここで、「攪拌動力の平均値」とは、触媒原料スラリー調製工程において、混合液の攪拌が行われている際の攪拌動力の平均値を意味し、触媒原料スラリー調整工程中であっても攪拌が停止しているときの撹拌動力(0W/m
3)は算出に含めない。
より好ましい攪拌動力、および、その触媒原料スラリー調製工程を通しての平均値は、120W/m
3〜900W/m
3であり、さらに好ましくは150W/m
3〜600W/m
3である。混合液の撹拌動力が100W/m
3以上の場合は、混合液中での原料等)偏析および/または沈殿物の生成が低減され、一方、混合液の撹拌動力が1200W/m
3以下の場合は、強度の高い触媒を製造することができ、触媒の破砕、流動性の悪化などを抑制できる。
【0032】
従来、このような金属酸化触媒の製造方法においては、原料スラリー調製時の撹拌は、偏析や沈殿物の低減の観点から高い撹拌動力を負荷して行われていた。しかしながら、本発明者らの研究によれば、高い撹拌動力を負荷して原料スラリーを調製した場合には、原料は均一に混合されるものの、意外なことに、得られる触媒の強度は低下することが判明した。そして、偏析や沈殿物の発生が起こらない限度でできる限り低い撹拌動力を負荷して撹拌する方が強度の高い触媒が得られることが分かった。
【0033】
なお、ここでいう「撹拌動力(Pv)」は、特開2014−43566号公報を参考として下記式(3)にて求められる。
Pv=P/V (3)
Pv:撹拌動力(W/m
3)
P:撹拌所要動力(W)
V:撹拌対象(混合液)の容量(m
3)
とする。
ここで、撹拌所要動力(P)は、下記式(4)にて求められる。
P=Np×ρ×n
3×d
5 (4)
Np:撹拌における動力数(−)
ρ :撹拌対象(混合液)の密度(kg/m
3)
n :撹拌手段の回転数(回転/秒)
d :撹拌手段の直径(撹拌翼の直径)(m)
とする。
撹拌手段の動力数(Np)は、電流計で撹拌中のモーターの電流値を測定して、後述の実施例に記載するようにして求めることができる。
【0034】
本実施形態において、触媒原料スラリー調製工程(第1の工程)における混合液の撹拌時間の合計は、1分〜24時間であることが好ましく、より好ましくは10分〜5時間である。また、全撹拌期間に亘って、撹拌動力(Pv)が100W/m
3〜1200W/m
3の範囲内にあることが好ましい。
混合液の撹拌時間が、1分以上の場合は、金属酸化物触媒の金属原子比のバラツキが小さくなり、混合液の撹拌時間が、24時間以下の場合は、混合液の粘度の上昇が少なく、次の第2の工程である噴霧乾燥工程への触媒原料スラリーの供給が容易となる。
【0035】
本実施形態の金属酸化物触媒の製造方法は、上記の第1の工程で得られた触媒原料スラリーを乾燥して、球状粒子を得る第2の工程をさらに有していてもよい。
好ましい乾燥方法としては、噴霧乾燥があげられる。触媒原料スラリーの噴霧化は、通常工業的に実施される遠心方式、二流体ノズル方式および高圧ノズル方式等の方法によって行うことができるが、特に遠心方式で行うことが望ましい。次に、噴霧された液滴を乾燥するが、乾燥熱源としては、スチーム、電気ヒーター等によって加熱された空気を用いることが好ましい。乾燥機入口の温度は100℃〜400℃、好ましくは150℃〜300℃である。
【0036】
本実施形態の金属酸化物触媒の製造方法は、さらに、第2の工程で得られた乾燥粒子を焼成することで所望の触媒を得る第3の工程を有していてもよい。
乾燥粒子の焼成は、必要に応じて150℃〜500℃で前焼成を行い、その後500℃〜700℃、好ましくは520℃〜700℃の温度範囲で1時間〜20時間行うのが好ましい。焼成は回転炉、トンネル炉、マッフル炉等の焼成炉を用いて行うことができる。
触媒の平均粒子径は40μm〜70μmであることが好ましく、触媒粒子の90%以上の粒子が20μm〜100μmの範囲に分布していることが好ましい。
【実施例】
【0037】
以下に実施例を示して、本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下に記載の実施例
によって限定されるものではない。
実施例、比較例における各測定値の測定方法は次のとおりである。
【0038】
[1]実施例、比較例で採用した撹拌条件における動力数(Np)の算出
実施例および比較例において、混合液を撹拌する際の撹拌動力(Pv)を求めるために必要な動力数(Np)を次のように測定した。
まず、以下のようにして、撹拌所要動力(P)を測定した。
実施例及び比較例においては、触媒原料スラリーを調製する槽として、容積が0.586m
3(直径1.022m、高さ0.715m)スケールの槽を使用し、その内部に撹拌機を2台取り付けた。各撹拌機としては、撹拌軸に3枚プロペラ形の撹拌翼(直径d=0.35m)を2枚取り付けたものを使用した。なお、槽に収容できる液体(撹拌対象)の容量(満液時の容量)は0.461m
3であった。
ここで、実施例及び比較例における撹拌条件における撹拌所要動力(P)は、下記式(5)によって算出される。
P=(満液時の電流値−空運転での電流値)/定格電流×定格出力 (5)
なお、満液時の電流値及び空運転での電流値の単位:A
定格電流の単位:A
定格出力の単位:W である。
ここで、満液時の電流値とは、実施例及び比較例の撹拌条件で撹拌を行う(前述の槽に、ρ=1300kg/m
3の液体を0.461m
3入れ、各撹拌機を4.53回転/秒で回転させる)のに要するモーターの電流値であり、撹拌機の1機目が3.85A、2機目が3.75Aであった。
空運転での電流値は、槽に何も入れずに、各撹拌機を回転数4.53回転/秒で回転させるのに要するモーターの電流値であり、撹拌機の1機目が3.64A、2機目が3.52Aであった。
各撹拌機の定格電流は6.6A、定格出力は1500Wであったので、式(5)により撹拌所要動力(P)を求めた。
1機目 (3.85−3.64)/6.6×1500=47.7W
2機目 (3.75−3.52)/6.6×1500=52.3W
以上のとおり、各撹拌機の撹拌所要動力は1機目が47.7W、2機目が52.3Wであったので、その合計の100.0Wが、実施例及び比較例で採用した撹拌条件における撹拌所要動力(P)となる。
次いで、このようにして測定された撹拌所要動力(P)及び前述の式(4)から、実施例及び比較例で採用した撹拌条件における撹拌手段の動力数(Np)を求めた。
Np=P÷(ρ×n
3×d
5)
ここで、撹拌対象の密度ρ=1300kg/m
3、撹拌機の回転数n=4.53回転/秒、撹拌翼の直径d=0.35mであったので
Np=0.157(−)である。
本実施例、比較例における条件においては、混合液は乱流域となりNpは一定と考えて差し支えないため、この値を用いてその他任意の回転数での撹拌動力(Pv)を求めた。
【0039】
[2]触媒の圧縮強度
触媒の圧縮強度は、(株)島津製のMCT−W500を用いて測定した。45μm〜55μmサイズの粒子をサンプル台に乗せ、負荷速度19mN/secで圧縮して測定を行い、それを20個測定し、その平均値を触媒の圧縮強度とした。
[3]混合液の粘度
混合液の粘度は(株)ブルックフィールド社製のB型回転粘度計でローターナンバー61で回転数100rpmで測定した。
【0040】
[4]n−ブテン転化率、ブタジエン選択率および収率
ブタジエンの製造における反応成績を表すために用いたn−ブテン転化率、ブタジエン選択率および収率は次式で定義される。
n−ブテン転化率(%)=(反応したn−ブテンのモル数)/(供給したn−ブテンのモル数)*100
ブタジエン選択率(%)=(生成したブタジエンのモル数)/(反応したn−ブテンのモル数)*100
ブタジエン収率(%)=(生成したブタジエンのモル数)/(供給したn−ブテンのモル数)*100
残存する(反応に消費されなかった)n−ブテン及び生成したブタジエンの定量は、反応器に直結させたガスクロマトグラフィー(GC−2010(島津製作所製)、分析カラム:HP−ALS(J&W製)、キャリアガス:ヘリウム、カラム温度:ガス注入後、100℃で8分間保持した後、10℃/分で195℃になるまで昇温し、その後195℃で40分間保持、TCD・FID(水素炎イオン検出器)設定温度:250℃)を用いて行った。
[5]出口酸素ガス濃度
出口酸素ガス濃度の分析は、反応器に直結させたガスクロマトグラフィー(GC−8A(島津製作所製)、分析カラム:ZY1(信和化工製)、キャリアガス:ヘリウム、カラム温度:75℃一定、TCD設定温度:80℃)を用いて行った。
【0041】
(実施例1)
(a)触媒の製造
組成がMo
12Bi
0.60Fe
1.8Ni
5.0K
0.09Rb
0.05Mg
2.0Ce
0.75で表される金属酸化物触媒を50質量%のシリカに担持した触媒を、次のようにして製造した。
第一の触媒原料液として、水122.60kgに60.87kgのパラモリブデン酸アンモニウム〔(NH
4)
6Mo
7O
24・4H
2O〕を溶解させた液を用意した。
第二の触媒原料液として、16.6質量%の硝酸水溶液58.86kgに、8.36kgの硝酸ビスマス〔Bi(NO
3)
3・5H
2O〕、9.36kgの硝酸セリウム〔Ce(NO
3)
3・6H
2O〕、20.89kgの硝酸鉄〔Fe(NO
3)
3・9H
2O〕、41.78kgの硝酸ニッケル〔Ni(NO
3)
2・6H
2O〕、14.74kgの硝酸マグネシウム〔Mg(NO
3)
2・6H
2O〕、0.256kgの硝酸カリウム〔KNO
3〕および0.214kgの硝酸ルビジウム〔RbNO
3〕を溶解させた液を用意した。
30質量%のSiO
2を含むシリカゾル261.38kg(分散媒:水)に、第二の触媒原料液を加え、その後、第一の触媒原料液を加えて、混合液を得た。
この混合液を撹拌機の回転速度nを210rpm(3.50回転/秒)に保って混合しながら50℃に加熱し、加熱時間も含めて1時間撹拌し、触媒原料スラリーを得た。この時の混合液の密度ρ=1300kg/m
3、混合液の容量V=0.461m
3、撹拌翼の直径d=0.35m、撹拌における動力数Np=0.157(−)であったので、式(3)(4)から求めた撹拌動力(Pv)は100W/m
3であった。また、平均攪拌動力も100W/m
3であった。
この時の混合液の粘度は200mPa・sであった。
撹拌所要動力(P)=0.157×1300×(3.50)
3×(0.35)
5
=46W
撹拌動力(Pv)=46/0.461=100W/m
3
【0042】
得られた触媒原料スラリーを同じ攪拌動力で混合しながら3時間かけて並流式の噴霧乾燥器に送り、入口温度約250℃、出口温度約140℃で乾燥させた。この間、待機中の触媒原料スラリーを攪拌動力を保つ様に撹拌し続け、その温度、粘度は変化しなかった。該触媒原料スラリーの噴霧化は、乾燥器上部中央に設置された皿型回転子を備えた噴霧化装置を用いて行った。噴霧乾燥で得られた粉体を、電気炉で空気雰囲気下350℃で1時間の前焼成の後、空気雰囲気下590℃で2時間焼成して触媒を得た。触媒の圧縮強度は35MPaであった。
【0043】
(b)ブタジエンの製造
(a)触媒の調製工程で得られた触媒50gを、内径25.4mmのパイレックス(登録商標)ガラス製流動床反応管(反応器)に入れ、この反応管に、モル比組成が1−ブテン/2−ブテン/i−ブテン=58/41/1、空気/n−ブテン(1−ブテン+2ブテン)=4.3〜4.6で、バランスガスとしてヘリウムを供給したn−ブテン濃度=8容量%の原料混合ガスを流量F=655cc/min(NTP換算)で供給し、反応温度T=360℃、反応圧力G=0.05MPa(ゲージ圧)の条件で反応を行った。この時、触媒と混合ガスの接触時間は3.0(g・sec/cc)であった。出口酸素ガス濃度は、1.0容量%であった。
反応開始から200時間後の反応成績は、n−ブテンの転化率は94.8%、ブタジエンの選択率は88.7%、ブタジエン収率は84.1%であり、触媒の粉化が無く、流動性も良く、安定にブタジエンを製造することができた。
【0044】
(実施例2)
撹拌機の回転速度nを481rpm(8.02回転/秒)とした以外は実施例1と同様にして混合液を撹拌した。この時の撹拌動力(Pv)は式(3)(4)から1200W/m
3であった。また、平均攪拌動力も1200W/m
3であった。
この時の混合液の粘度は200mPa・sであった。
それ以降は、実施例1と同様にして触媒を調製し反応を行った。触媒の圧縮強度は34MPaであった。
以上のようにして製造した触媒を用いた以外は実施例1と同様にしてブタジエンを製造したところ、反応開始から450時間後の反応成績は、n−ブテンの転化率は95.0%、ブタジエンの選択率は88.3%、ブタジエン収率は83.9%であり、触媒の粉化が無く、流動性も良く、安定にブタジエンを製造することができた。
【0045】
(実施例3)
撹拌機の回転速度nを382rpm(6.37回転/秒)とした以外は実施例1と同様にして混合液を撹拌した。この時の撹拌動力(Pv)は式(3)(4)から600W/m
3であった。また、平均攪拌動力も600W/m
3であった。
この時の混合液の粘度は200mPa・sであった。
それ以降は、実施例1と同様にして触媒を調製し反応を行った。触媒の圧縮強度は36MPaであった。
以上のようにして製造した触媒を用いた以外は実施例1と同様にしてブタジエンを製造したところ、反応開始から200時間後の反応成績は、n−ブテンの転化率は95.2%、ブタジエンの選択率は89.0%、ブタジエン収率は84.7%であり、触媒の粉化が無く、流動性も良く、安定にブタジエンを製造することができた。
【0046】
(実施例4)
組成がMo
12Bi
0.30Fe
1.2Ni
6.2K
0.20Mg
2.5Ce
0.30Cr
0.20In
0.20で表される金属酸化物触媒を50質量%のシリカに担持した触媒を、次のようにして製造した。
第一の触媒原料液として、水124.93kgに62.02kgのパラモリブデン酸アンモニウム〔(NH
4)
6Mo
7O
24・4H
2O〕を溶解させた液を用意した。
第二の触媒原料液として、16.6質量%の硝酸水溶液56.12kgに4.27kgの硝酸ビスマス〔Bi(NO
3)
3・5H
2O〕、3.82kgの硝酸セリウム〔Ce(NO
3)
3・6H
2O〕、14.19kgの硝酸鉄〔Fe(NO
3)
3・9H
2O〕、52.79kgの硝酸ニッケル〔Ni(NO
3)
2・6H
2O〕、2.34kgの硝酸クロム〔Cr(NO
3)・9H
2O〕、2.08kgの硝酸インジウム〔In(NO
3)
3・3H
2O〕、18.76kgの硝酸マグネシウム〔Mg(NO
3)
2・6H
2O〕および0.595kgの硝酸カリウム〔KNO
3〕を溶解させた液を用意した。
30質量%のSiO
2を含むシリカゾル257.39kg(分散媒:水)に、第二の触媒原料液を加え、その後、第一の触媒原料液を加えて、混合液を得た。
この混合液を撹拌機の回転速度nを382rpm(6.37回転/秒)に保って混合しながら60℃に加熱し、加熱時間も含めて2時間撹拌し、触媒原料スラリーを得た。この時の混合液の密度ρ=1300kg/m
3、混合液の容量V=0.461m
3、撹拌翼の直径d=0.35m、撹拌における動力数Np=0.157(−)であったので、式(3)(4)から求めた撹拌動力(Pv)は600W/m
3であった。また、平均攪拌動力も600W/m
3であった。この時の混合液の粘度は150mPa・sであった。
それ以降は、実施例1と同様にして触媒の製造行った。得られた触媒の圧縮強度は35MPaであった。
以上のようにして製造した触媒を用いた以外は実施例1と同様にしてブタジエンを製造したところ、反応開始から200時間後の反応成績は、n−ブテンの転化率は95.6%、ブタジエンの選択率は88.5%、ブタジエン収率は84.6%であり、触媒の粉化が無く、流動性も良く、安定にブタジエンを製造することができた。
【0047】
(比較例1)
撹拌機の回転速度nを187rpm(3.12回転/秒)とした以外は実施例1と同様にして混合液を撹拌した。この時の撹拌動力(Pv)は式(3)(4)から70W/m
3であった。また、平均攪拌動力も70W/m
3であった。
この時の触媒原料スラリーの粘度は200mPa・sであった。
それ以降は、実施例1と同様にして触媒を調製し反応を行った。触媒の圧縮強度は30MPaであった。
以上のようにして製造した触媒を用いた以外は実施例1と同様にしてブタジエンを製造したところ、反応開始から100時間後の反応成績は、n−ブテンの転化率は90.2%、ブタジエンの選択率は83.0%、ブタジエン収率は74.9%であり、触媒が一部粉化して、触媒の流動性が悪く、安定な運転が継続できなかった為、反応を停止した。
【0048】
(比較例2)
撹拌機の回転速度nを500rpm(8.33回転/秒)とした以外は実施例1と同様にして混合液を撹拌した。この時の撹拌動力(Pv)は式(3)(4)から1345W/m
3であった。また、平均攪拌動力も1345W/m
3であった。
この時の触媒原料スラリーの粘度は200mPa・sであった。
それ以降は、実施例1と同様にして触媒を調製し反応を行った。触媒の圧縮強度は21MPaであった。
以上のようにして製造した触媒を用いた以外は実施例1と同様にしてブタジエンを製造したところ、反応開始から100時間後の反応成績は、n−ブテンの転化率は90.8%、ブタジエンの選択率は84.5%、ブタジエン収率は76.7%であり、触媒が一部粉化して、触媒の流動性が悪く、安定な運転が継続できなかった為、反応を停止した。