特許第6567437号(P6567437)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6567437水中メッキ処理装置および水中メッキ処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6567437
(24)【登録日】2019年8月9日
(45)【発行日】2019年8月28日
(54)【発明の名称】水中メッキ処理装置および水中メッキ処理方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 17/00 20060101AFI20190819BHJP
   C25D 21/04 20060101ALI20190819BHJP
   C25D 21/10 20060101ALI20190819BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20190819BHJP
   G21D 1/00 20060101ALI20190819BHJP
   C25D 5/02 20060101ALN20190819BHJP
【FI】
   C25D17/00 F
   C25D21/04
   C25D21/10 301
   C25D7/00 X
   G21D1/00 X
   !C25D5/02 Z
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-9906(P2016-9906)
(22)【出願日】2016年1月21日
(65)【公開番号】特開2017-128774(P2017-128774A)
(43)【公開日】2017年7月27日
【審査請求日】2018年7月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145816
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿股 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】石崖 達也
(72)【発明者】
【氏名】前原 剛
(72)【発明者】
【氏名】川原田 義幸
(72)【発明者】
【氏名】小畑 稔
(72)【発明者】
【氏名】金子 哲治
【審査官】 ▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−176881(JP,A)
【文献】 特許第076315(JP,C2)
【文献】 特開2009−263758(JP,A)
【文献】 特開平11−279797(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 17/00 − 17/28
C25D 21/00 − 21/22
C25D 5/02
C25D 7/00
G21D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉内構造物のメッキ処理面をチャンバーで覆い水中でメッキ処理を行う水中メッキ処理装置であって、
前記チャンバーは、前記メッキ処理面の周囲を液密状態に覆うシール部材と、
前記チャンバーの空間部への液体の注入および前記チャンバーの空間部から液体の排出を行う第1配管と、
前記チャンバーの空間部から液体を排出するためにこの空間部に圧縮気体の注入およびメッキ処理によって発生する気泡の排出を行う第2配管と、
前記チャンバー内に充填した液体を攪拌する攪拌装置と、
前記メッキ処理面に電位を発生させる電極と、
前記メッキ処理面に前記シール部材を押圧する押圧機構と、
を備えたことを特徴とする水中メッキ処理装置。
【請求項2】
メッキ処理中に前記メッキ処理面に発生した気泡を集める気泡室が前記チャンバー内に形成され、前記気泡室は前記第2配管に連通していることを特徴とする請求項1に記載の水中メッキ処理装置。
【請求項3】
前記気泡室は、下方側に拡開して上方側に窪んだ凹部形状に構成されていることを特徴とする請求項2に記載の水中メッキ処理装置。
【請求項4】
前記気泡室は、前記シール部材に形成されていることを特徴とする請求項2または3に記載の水中メッキ処理装置。
【請求項5】
前記攪拌装置が、攪拌羽根および/または超音波振動子からなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の水中メッキ処理装置。
【請求項6】
前記チャンバー内に注入したメッキ溶液の温度を測定する熱電対をこのチャンバーに備えたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の水中メッキ処理装置。
【請求項7】
前記押圧機構は、アクセス装置によって位置決めされ、このアクセス装置は、原子炉圧力容器内に配置された制御棒駆動機構ハウジング内に一端部を嵌入して支持固定したガイド杆と、ガイド杆の長手方向に沿って上下方向に摺動可能に構成されると共に任意の位置において位置決め固定が可能な支持杆を備えていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の水中メッキ処理装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の水中メッキ処理装置を用いて、原子炉内構造物のメッキ処理面をチャンバーで覆い水中でメッキ処理を行うことを特徴とする水中メッキ処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、水中メッキ処理装置および水中メッキ処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原子炉炉内構造物および原子炉圧力容器(RPV)において応力腐食割れ(SCC)等が発生して、補修作業が必要になった場合、メッキ処理によって補修を行う補修技術がある。従来の原子炉内でのメッキ処理を行う補修技術では、原子炉内の炉水を全て抜いて、代わりにメッキ溶液を満たしておくことなどが必要になるため、補修装置の大型化や多量のメッキ溶液が必要となる可能性があった。
【0003】
そのため、定期点検中に補修作業を行うことになると定期点検の作業工期が長期化するなどの課題が生じる。そこで、補修対象となる箇所を部分的に補修できるようにするため、メッキ処理面をチャンバーで覆い、チャンバー内だけをメッキ溶液で満たした状態にしてメッキ処理を行う処理方法が提案されている。この処理方法では、炉水を抜かずにメッキ処理を行うことができるため、定期点検における作業工期の短縮化やメッキ処理に必要なメッキ溶液を少量で済ますことが可能になる。
そして、原子炉内にメッキ溶液を満たしておくメッキ処理方法、チャンバーを用いたメッキ処理方法などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−40190号公報
【特許文献2】特開平8−176881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、チャンバーを用いたメッキ処理方法では、メッキ処理に係わるメッキ溶液の種類によっては、メッキ溶液がチャンバーから炉水内に漏洩すると原子炉内の水質に影響を及ぼすことがある。また、メッキ処理中の化学反応によって、メッキ処理面に水素や酸素などの気泡が発生し、発生した気泡がメッキ処理面に付着したままの状態になると、メッキ処理を阻害してしまう可能性がある。
【0006】
本発明に係る実施形態は、上述した課題を解決するためになされたものであり、チャンバーを用いたメッキ処理においてメッキ溶液がチャンバーから漏洩するのを防止でき、しかもメッキ処理中に発生した気泡がメッキ処理面に付着したままの状態になるのを防止できる水中メッキ処理装置および水中メッキ処理方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するため、本発明の実施形態に係る水中メッキ処理装置は、原子炉内構造物および原子炉圧力容器内の水中におけるメッキ処理面をチャンバーで覆いメッキ処理を行う水中メッキ処理装置であって、前記チャンバーに設けられ、前記メッキ処理面の周囲を液密状態に覆うシール部材と、前記チャンバーの空間部への液体の注入および前記チャンバーの空間部から液体の排出を行う第1配管と、前記チャンバーの空間部から液体を排出するためにこの空間部に圧縮気体の注入およびメッキ処理によって発生する気泡の排出を行う第2配管と、前記チャンバー内に充填した液体を攪拌する攪拌装置と、前記メッキ処理面に電位を発生させる電極と、前記メッキ処理面に前記シール部材を押圧する押圧機構と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の実施形態に係る水中メッキ処理方法では、本実施形態に係る水中メッキ処理装置を用いて、水中内のメッキ処理面を液密状態でメッキ処理を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る水中メッキ処理装置および水中メッキ処理方法の実施形態によれば、チャンバーを用いたメッキ処理においてメッキ溶液がチャンバーから漏洩するのを防止でき、しかもメッキ処理中に発生した気泡がメッキ処理面に付着したままの状態になるのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】メッキ処理時における水中メッキ処理装置の模式的な配置図である。(実施形態1)
図2】水中メッキ処理装置の縦断面図(a)、横断面図(b)および正面視の面と平行に切断した断面図(c)である。(実施形態1)
図3】水中メッキ処理装置のシステム構成を説明する図である。(実施形態1〜3)
図4】水中メッキ処理方法を説明するフローチャートである。(実施形態1〜3)
図5】他の水中メッキ処理装置の縦断面図(a)、横断面図(b)および正面視の面と平行に切断した断面図(c)である。(実施形態2)
図6】別の水中メッキ処理装置の縦断面図である。(実施形態3)
図7】水中メッキ処理装置の他のシステムを説明する構成図である。(実施形態4)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る水中メッキ処理装置および水中メッキ処理方法の実施形態について、図を参照して説明する。なお、各図において、共通する部材には同一の部材符号を付与して、重複する説明は適宜省略する。
【0012】
[実施形態1]
(メッキ処理装置の模式的な配置構成)
図1を用いて、水中メッキ処理装置1の原子炉圧力容器20内での配置構成を模式的に説明する。なお、応力腐食割れ(SCC)とは、溶接や冷間加工による残留応力や使用時にかかる外部応力によって、引張応力と腐食作用とが相互に作用して割れをもたらす現象をいう。
【0013】
そこで、図1を用いて、溶接線16にSCCが生じた場合を例に挙げて、水中メッキ処理装置1の原子炉圧力容器20内における配置構成を説明する。また、図2図5図6を用いて、冷間加工された加工面にSCCが生じた場合を例に挙げて、SCCが生じた加工面、すなわちメッキ処理面17とチャンバー4との配置構成を説明する。
【0014】
図1では、原子炉圧力容器20内でジェットポンプ24を支持するバッフルプレート23の溶接箇所である溶接線16に応力腐食割れ(SCC)が生じているのが発見され、溶接線16に対してメッキ処理を行う場合を例に挙げており、水中メッキ処理装置1の配置構成における原子炉圧力容器20内での要部断面図を示している。
【0015】
なお、本発明の実施形態に係る水中メッキ処理装置および水中メッキ処理方法は、SCCが発生したバッフルプレート23の溶接線16や冷間加工された加工面に対するメッキ処理に限定されるものではなく、原子炉内構造物および原子炉圧力容器内の水中においてメッキ処理面に対してメッキ処理を行うことができるものである。
【0016】
バッフルプレート23は、炉心シュラウド21と原子炉圧力容器20の内壁との間に懸架され、環状に配されている。そして、炉心シュラウド21と原子炉圧力容器20の内壁にそれぞれ溶接されている。炉心シュラウド21と原子炉圧力容器20の内壁とバッフルプレート23で囲まれた領域は、アニュラス部25として構成されており、ジェットポンプ24を設置したバッフルプレート23には、ジェットポンプ24の吐出口(不図示)が形成されている。
【0017】
水中メッキ処理装置1は、先端部に溶接線16の周囲を覆うチャンバー4を備えており、チャンバー4は、押圧機構3によって溶接線16の周囲を液密状態に覆うことができる。チャンバー4の前面には、後述するようにシール部材5(図2参照)が設けられている。
【0018】
押圧機構3は、シリンダ3aとピストン3bから構成され、ピストン3bの先端部に設けた押圧板3cを炉心シュラウド21に当接させ、シリンダ3aの他端側に設けたチャンバー4を原子炉圧力容器20の内壁とバッフルプレート23の底面とに押圧する構成になっている。シリンダ3aとチャンバー4の間は、支持部材9を介して連結されている。
【0019】
なお、押圧機構3の構成としては、シリンダ3aとピストン3bからなる構成の代わりに、ネジ駆動によりチャンバー4をメッキ処理面17に押圧する構成にしておくことも、従来から公知の駆動機構を用いて、チャンバー4をメッキ処理面17に押圧するように構成しておくこともできる。
【0020】
支持部材9上に配設された押圧機構3およびチャンバー4の配設位置は、アクセス装置2によって位置決めできる構成になっている。アクセス装置2は、制御棒を駆動する制御棒駆動機構(CDR)において中空ピストン(不図示)を取り外したCDRハウジング内に一端部を嵌入して支持固定したガイド杆2aと、ガイド杆2aの長手方向に沿って上下方向に摺動可能に構成されると共に任意の位置において位置決め固定が可能な支持杆2bを備えている。
【0021】
ガイド杆2aの一端部には、中空ピストンを取り外したCDRハウジング22の開口部に嵌入させる嵌入支え部2cを備えている。支持杆2bはガイド杆2aに対して任意の位置で固定することができ、支持部材9に対しては多自由度でその位置を調整することができる。これにより、チャンバー4の配設位置や向きを自在に調整することができる。
【0022】
なお、アクセス装置2の構成としては、上述した構成に限定されず、メッキ処理面17の形状や配設場所等に応じて、必要に応じた適宜の構成を採用することができる。例えば、アクセス装置2の構成として、ガイド杆2aおよび支持杆2bを用いた構成の代わりに、多自由度の機能を有するマニュプレータを用いた構成にしておくこともできる。
【0023】
マニュプレータを用いた構成の場合にも、マニュプレータの基端部をCDRハウジング22に固定した構成や、原子炉圧力容器20内における適宜の固定部材にマニュプレータの基端部を固定した構成にしておくことができる。そして、マニュプレータの先端部には、チャンバー4や押圧機構3を設けた構成にしておくことができる。
【0024】
(水中メッキ処理装置の要部構成)
図1では、原子炉圧力容器20の内壁とバッフルプレート23の底面との境界にある溶接線16をチャンバー4で覆い、チャンバー4内を液密状態に密閉した構成を示しており、図2では、メッキ処理面17をチャンバー4で覆い、チャンバー4内、即ち、空間部4bを液密状態に密閉した構成を示している。図1におけるチャンバー4の構成は、以下で説明するチャンバー4の構成と同様の構成を備えているので、重複した説明は省略する。
【0025】
以下では、図2に示すようなメッキ処理面17に対してメッキ処理を行う場合を例に挙げて、チャンバー4の要部構成を説明する。図2では、アクセス装置2の構成を省略しており、水中メッキ処理装置1としては横向きの姿勢に配置したときの構成を示している。
【0026】
図2に示す水中メッキ処理装置1では、チャンバー4を構成する本体部4aの前縁側周囲にシール部材5が環状に配設されている。シール部材5の本体部4aからの突出量は、メッキ処理面17の形状に対応して構成されている。シール部材5としては、チャンバー4の内部からチャンバー4の外部に液体が漏れ出るのを防止でき、またチャンバー4の外部からチャンバー4の内部に炉水が混入することを防ぐことができる材質の部材を用いることができる。例えば、ゴム材や樹脂材等を用いて構成しておくことができる。
【0027】
本体部4aとシール部材5とメッキ処理面17で囲まれた領域は、チャンバー4の空間部4bとして構成される。空間部4bの上面には、メッキ処理中に発生した気泡を集める気泡室12が形成されている。気泡室12は、気泡を集め易くするため下方側に拡開して上方側に窪んだ凹部形状に構成されている。図2(a)で示す構成例では、シール部材5の内面に形成されているが、気泡を集め易くした構成であれば、図6に示すように本体部4a側に形成しておくこともできる。
【0028】
チャンバー4には、空間部4bに液体を注入したり、空間部4bから液体を排出する第1配管6と、空間部4bに気体を注入したり、空間部4bから気体や余剰液体を排出する第2配管7がそれぞれ接続されている。第2配管7は、気泡室12に接続しており、気泡室12に集められた気泡を外部に排出させることもできる。
【0029】
また、空間部4b内には、メッキ溶液中においてメッキ処理面17との間で電位差を発生させる第1電極8aと、メッキ溶液を撹拌する撹拌羽根10bと、メッキ溶液の温度を測定する熱電対13が配設されており、第1電極8a、撹拌羽根10bおよび熱電対13は、本体部4aに設けられている。更に、第1電極8aとメッキ処理面17との間で発生する電位差は、空間部4bの外部に延設した本体部4aの部位に設けた第2電極8bをメッキ処理面17に接触させて導通させることにより生じさせることができる。
【0030】
本体部4aの裏面側には、撹拌羽根10bを回転駆動させる駆動モータ10a、チャンバー4をメッキ処理面17側に押圧する押圧機構3が設けられている。押圧機構3は、シリンダ3a、ピストン3bおよびピストン3bの先端部に設けた押圧板3cから構成されており、押圧機構3のシリンダ3aは図1に示したような支持部材9(不図示)によって支持固定されている。
【0031】
押圧機構3のシリンダ3aを支持固定している支持部材9(不図示)を所望の位置に固定しておき、ピストン3bをシリンダ3aから突出させる制御を行うことでチャンバー4をメッキ処理面17に対して所望の押圧力で押圧させることができる。
【0032】
なお、図2では、第1電極8aと第2電極8bに電力を供給する配線、駆動モータ10aに電極を供給する配線、熱電対13に接続した配線、押圧機構3を制御する制御装置等の図示は省略している。
【0033】
(水中メッキ処理装置のシステム構成)
図3を用いて、空間部4b内に液体・気体を注入・排出するシステムについて説明する。
メッキ処理に用いる液体としては、純水、メッキ溶液、前処理溶液がある。また、チャンバー4の空間部4bから液体を排出するために空間部4bに注入する圧縮気体としては、原子炉圧力容器20内に残留しても影響を及ぼさない空気等の気体を用いることができる。
【0034】
液体を貯蔵するタンクとしては、純水タンク35、メッキ溶液タンク36、前処理溶液タンク37およびチャンバー4から排出した廃液を貯蔵する廃液タンク38を備えている。前処理溶液タンク37内には、メッキ処理前にメッキ処理面17の表面処理を行ったり、清掃したりする前処理溶液が貯蔵されている。前処理溶液としては、例えばエッチング溶液を用いることができる。
【0035】
また、廃液タンク38としては、チャンバー4から排出する液体をそれぞれ収納できるように複数のタンクを備えた構成しておくことも、廃液となるメッキ溶液と他の液体とを区別して収納できるように構成しておくこともでき、必要に応じて適宜の構成を採用することができる。
図3では図示を省略しているが、水中メッキ処理装置1のシステム構成としては、図示せぬ制御装置からの制御指令によって以下で説明する各部材を制御することができる。
【0036】
図3に示すように、純水タンク35、メッキ溶液タンク36および前処理溶液タンク37の各タンク内の液体をチャンバー4内に注入するため、各タンク35〜37内の内圧を高める圧縮気体を発生する圧縮気体供給源30を備えている。
【0037】
圧縮気体供給源30としては、例えばコンプレッサを用いることができる。圧縮気体供給源30には、第1ライン管41と第2ライン管42が接続しており、第1ライン管41は後述する第2切替弁33に接続している。第2ライン管42は、圧力調整弁31に接続しており、圧力調整弁31は圧縮気体供給源30から吐出された圧縮気体の圧力を所望の圧力に調整することができる。
【0038】
圧力調整弁31での圧力調整としては、圧縮気体が例えば0.3MPa以上の圧力となるように調整することができる。この圧力調整弁31で調整される圧力としては、0.3MPa以上の圧力に限定されるものではなく、必要に応じて適宜の圧力に調整することができる。
【0039】
圧力調整弁31で圧力調整された圧縮気体は、第3ライン管43を通って第1切替弁32に供給される。第1切替弁32が操作されると、第3ライン管43は第4ライン管44〜第7ライン管47のいずれかに接続されるか、あるいは第1切替弁32が供給停止位置に切替わっている場合には接続が遮断される。
【0040】
第4ライン管44は、第2切替弁33に接続している。第5ライン管45は、純タンク35を介して第8ライン管48から第2切替弁33に接続している。第6ライン管46は、メッキ溶液タンク36を介して第9ライン管49から第2切替弁33に接続している。第7ライン管47は、前処理溶液タンク37を介して第10ライン管50から第2切替弁33に接続している。
【0041】
そして、第5ライン管45〜第7ライン管47のいずれかに圧縮気体が供給されると、各タンク35〜37の内圧をそれぞれ高めることができる。そして、内圧が高められたタンク内に貯蔵されていた液体を、それぞれのタンクに接続した第8ライン管48〜第10ライン管50のいずれかに導出して、第2切替弁33からチャンバー4に供給することができる。
【0042】
また、第2切替弁33に接続した第11ライン管53は、第3切替弁34に接続しており、第11ライン管53を通ってチャンバー4内から排出された液体や気体を、第3切替弁34側に排出することができる。また、例えば、チャンバー4に注入した前処理溶液が、再利用可能な状態であるときには、第11ライン管53に導出させずに、第10ライン管50を介して前処理溶液タンク37に戻すように、構成しておくこともできる。第2切替弁33とチャンバー4との間は、第1配管6と第2配管7が接続している。
なお、第1配管6と第2配管7には、上述した構成に限定されずに、必要に応じて適宜の液体や気体を流すように構成しておくこともできる。
【0043】
第3切替弁34には、第12ライン管54と第13ライン管55とが接続しており、第12ライン管54は、廃液タンク38に接続している。第13ライン管55は、チャンバー4から排出された炉水をそのまま原子炉圧力容器20内に排出するためのドレン管として構成されている。
【0044】
(メッキ処理方法の手順)
図4を用いて、メッキ処理方法の手順について説明する。以下で説明するメッキ処理方法は、図示せぬ制御装置により実行されることになるが、制御装置に関する説明は省略している。
【0045】
ステップS1では、アクセス装置2を操作してチャンバー4を、炉水が満たされた原子炉圧力容器20内のメッキ処理面17に向けて設置する。そして、押圧機構3を操作して、メッキ処理面17との間に形成した空間部4bをシール部材5によって液密状態に密閉する。チャンバー4の設置が終了するとステップS2に移る。
【0046】
ステップS2では、メッキ処理面17を覆ったチャンバー4内に閉じ込められた炉水を排出するため、圧力調整弁31で圧力調整した圧縮気体をチャンバー4内に注入する。同時に、第1配管6を通してチャンバー4内の炉水を排出する。チャンバー4から排出された炉水は、第11ライン管53から第13ライン管55を通って原子炉圧力容器20内に戻すことができる。チャンバー4内から炉水が排出されるとステップS3に移る。
【0047】
ステップS3では、チャンバー4内の漏洩確認を行うため、チャンバー4内に注入した圧縮気体が、気泡となってチャンバー4から原子炉圧力容器20の炉水内に漏れ出ているのか否かを確認する。この漏洩確認作業としては、原子炉圧力容器20内に投入したカメラを用いて確認することができる。
【0048】
原子炉圧力容器20内に投入したカメラとしては、メッキ処理を行う補修箇所の確認作業や、チャンバー4をメッキ処理面17に対して正しい位置に設置したのかを確認する作業などにも利用することも、専用のカメラを使用することもできる。
【0049】
また、シール部材5からの漏れを確認する作業のため、第1ライン管41に導入された圧縮気体を利用することもできる。シール部材5からの漏洩がないことが確認されるとステップS4に移る。
ステップS4では、メッキ処理面17を処理するため、前処理溶液をチャンバー4内に注入する。チャンバー4への前処理溶液の注入が終了すると、ステップS5に移る。
【0050】
ステップS5では、前処理溶液によりメッキ処理面17に対する前処理を行う。前処理としては、第1配管6から前処理溶液を注入しながら前処理を行うように構成しておくことができる。あるいは、チャンバー4に注入する前処理溶液の注入量の管理や前処理を行った前処理溶液を廃液するときの廃液量を削減させるため、前処理液を所定量チャンバー4内に注入したら前処理溶液の注入を止めるように構成しておくこともできる。
【0051】
なお、前処理溶液のチャンバー4内への注入量は、第10ライン管50に流量計や流量制御弁等を設けておくことにより制御することもできる。チャンバー4内での前処理が終了したらステップS6に移る。
【0052】
ステップS6では、前処理溶液をチャンバー4から回収するため、チャンバー4内に圧力調整弁31で圧力調整した圧縮気体を注入し、第1配管6から前処理溶液を排出する。
第1配管6から排出された使用済みの前処理溶液は、予め実験等によって前処理実行後でも汚れ具合が低いものと確かめられている場合には、前処理溶液タンク37に戻して再利用するように構成しておくこともできる。あるいは、使用済みの前処理溶液を廃液タンク38に排出させることもできる。チャンバー4から前処理溶液の回収が終了するとステップS7に移る。
【0053】
ステップS7では、系統内に残留する前処理溶液を除去するため、純水タンク35内の純水をチャンバー4内に注入し、注入した純水によってチャンバー4内を洗浄した後、圧縮気体をチャンバー4内に注入して、洗浄後の純水をチャンバー4から排出して回収する。このとき、第1配管6内に前処理溶液が残留していても、排出される純水とともに排出されることになる。排出された純水は、残留していた前処理溶液とともに廃液タンク38に排出して回収される。
【0054】
なお、純水のチャンバー4内への注入および回収作業は、前処理溶液が炉水の水質管理に影響を及ぼさなければ、省略することもできる。チャンバー4からの純水の回収が終了するとステップS8に移る。
【0055】
ステップS8では、メッキ溶液をチャンバー4内に注入するため、圧力調整弁31で圧力調整された圧縮気体をメッキ溶液タンク36に供給する。そして、内圧が高められたメッキ溶液タンク36からチャンバー4内にメッキ溶液を注入する。
【0056】
このとき、メッキ溶液タンク36内のメッキ溶液としては、チャンバー4内を十分に満たすことができる必要最低限の量が貯蔵されている。メッキ溶液は、チャンバー4から原子炉圧力容器20内に漏洩すると、炉水の水質に対して影響を及ぼすことになるので、メッキ溶液を循環させる構成にはせず、メッキ処理を行う度ごとにチャンバー4内を充満させるのに必要な量をメッキ溶液タンク36に貯蔵しておくことができる。これにより、メッキ処理を行うのに必要な最低限の量で、メッキ処理を行うことができる。
【0057】
メッキ溶液タンク36内に必要最低限の量のメッキ溶液を貯蔵しておく代わりに、第9ライン管に流量計や流量制御弁を設けた構成にしておくこともできる。チャンバー4内へのメッキ溶液の注入が終了するとステップS9に移る。
【0058】
ステップS9ではメッキ処理を行うため、図2に示す第1電極8aと第2電極8bとの間で電位差を生じさせる。そして、撹拌装置10の駆動モータ10aを駆動して、撹拌羽根10bを回転させる。
【0059】
撹拌羽根10bを回転させることにより、チャンバー4内のメッキ溶液を撹拌することができ、メッキ処理面17上に発生する気泡をメッキ処理面17から分離させる。メッキ処理面17から分離した気泡は、チャンバー4内の気泡室12に集められる。気泡室12に集められた気泡は、そのまま気泡室12に溜めておくことも、第2配管7を通ってチャンバー4の外部に排出させることもできる。
メッキ処理中は、熱電対13によりメッキ溶液の温度を測定しながらメッキ処理を実行することができる。メッキ処理が終了したらステップS10に移る。
【0060】
ステップS10では、メッキ処理完了後のメッキ溶液をチャンバー4から回収するため、圧力調整弁31で圧力調整した圧縮気体をチャンバー4内に注入する。同時に、第1配管6を介してチャンバー4内のメッキ溶液を排出して、廃液タンク38に回収する。
【0061】
廃液タンク38内に回収したメッキ溶液の量を計測する計測器を設けておくことで、予め設定した規定量以上のメッキ溶液が廃液タンク38内に回収されていることを確認することができる。メッキ溶液の回収が終了するとステップS11に移る。
【0062】
ステップS11では、系統内に微量に残留するメッキ溶液を排出するための純水を注入し、チャンバー4内を純水で洗浄した後、洗浄に使った純水をチャンバー4から排出して廃液タンク38に回収する。純水の注入および排出手順としては、上述したステップS7における前処理溶液を除去する構成の代わりにメッキ溶液を除去する構成にすることで行うことができるので、ここでの説明を省略する。
【0063】
(効果)
実施形態1に係る水中メッキ処理装置および水中メッキ処理方法を用いることにより、原子炉内構造物および原子炉圧力容器20内において水中でのメッキ処理が可能となる。
しかも、メッキ処理中に発生するメッキ処理面に付着する気泡は、撹拌装置10によって引き起こされた環流によって、メッキ処理面17から強制的に除去することができる。
【0064】
メッキ処理面17から除去された気泡は上昇し、シール部材5の内面に形成した気泡室12に移動して溜められることになる。しかも、気泡室12が下方側に拡開して上方側に窪んだ凹部形状に構成されているので、気泡を気泡室12内に集め易くなる。
【0065】
また、気泡室12に集めた気泡を第2配管7を介して外部に排出することができるので、撹拌装置10によって引き起こされた環流によって気泡室12に集められた気泡が、再びメッキ溶液中に拡散するのを防止できる。
【0066】
この構成により、メッキ処理面17に気泡が付着した状態が防止できるので、メッキ処理作業を安定させて行うことができる。また、チャンバー4内のメッキ溶液を撹拌させることで、メッキ処理速度も安定化させることができる。
【0067】
なお、撹拌羽根10bは、メッキ溶液を撹拌する際に作動させる旨の説明を行ったが、前処理溶液をチャンバー4内に注入した場合や純水をチャンバー4内に注入した場合においても、撹拌羽根10bを作動させることができる。この場合には、前処理溶液や純水をチャンバー4内で満遍なく行き渡らせることができる。
【0068】
[実施形態2]
図5を用いて、本発明の実施形態2に係る水中メッキ処理装置1の要部構成を説明する。なお、実施形態1と同一の構成には同一の符号を付しており、重複する説明は省略する。また、実施形態2に係る水中メッキ処理装置1のメッキ処理面17に対する配置構成、システム構成および水中メッキ処理方法に関しては、図1図3および図4に示した構成を用いることができる。
【0069】
(水中メッキ処理装置の要部構成)
図5(a)〜図5(c)に示すように、実施形態2では、撹拌装置10として、チャンバー4内に撹拌羽根10bを設けた構成の他に超音波振動子11を設けた構成になっている。他の構成は、実施形態1における構成と同様の構成になっている。
【0070】
(効果)
超音波振動子11を本体部4aに更に設けることによって、メッキ処理中にメッキ溶液を大きく撹拌させることができ、メッキ処理面17に発生した気泡を効率よく除去することができる。しかも、補修対象となるSCCの亀裂部にもメッキ溶液を十分に浸透させることができ、亀裂部に対するメッキ処理を効率よく行うことができる。
【0071】
また、メッキ処理中に亀裂内で発生した気泡や汚れを亀裂内から排出することができるので、メッキ処理の効率を高められる。更に、チャンバー4内を前処理溶液や純水で満たして、メッキ処理面17に対する前処理や洗浄を行う際にも、超音波振動子11を作動させることができる。このように構成しておくことにより、亀裂内に対する前処理や亀裂内からメッキ溶液や前処理溶液を効率よく排出させることができる。
【0072】
[実施形態3]
図6を用いて、本発明の実施形態3に係る水中メッキ処理装置1の要部構成を説明する。なお、実施形態1と同一の構成には同一の符号を付しており、重複する説明は省略する。また、実施形態3に係る水中メッキ処理装置1のメッキ処理面17に対する配置構成、システム構成および水中メッキ処理方法に関しては、図1図3および図4に示した構成を用いることができる。
【0073】
(水中メッキ処理装置の要部構成)
図6に示すように、実施形態3では、シール部材5をチャンバー4の本体部4aに対して着脱自在の構成になっている。他の構成は、実施形態1における構成と同様の構成になっている。
【0074】
本体部4aは、環状の周縁部が前方側に突出した鉢状に構成されており、前方側に突出した周縁部の前端面には、環状に形成されたシール部材5が接合面14において接着剤、両面テープ等の接合手段によって着脱自在に接合されている。図示例では、第1配管6と第2配管7が前方側に突出した周縁部に形成された構成を示しているが、駆動モータ10aを固定している本体部4aの部位側に、第1配管6と第2配管7を形成しておくこともできる。
【0075】
前方側に突出した周縁部の前端面にシール部材5を着脱自在に接合する接合手段としては、チャンバー4における液密性を維持できる結合手段であれば、従来から公知の結合手段を採用することができる。
【0076】
(効果)
実施形態1、2の場合には、メッキ処理面17の形状に対応して、シール部材5を備えたチャンバー4を複数用意しておかなければならないが、実施形態3では、シール部材5だけを本体部4aに対して着脱自在に結合させることができるので、シール部材5を複数用意しておくことにより、メッキ処理面17の形状に対応させることができる。
【0077】
[実施形態4]
図7を用いて、本発明の実施形態4に係る水中メッキ処理装置1の構成を説明する。なお、実施形態1と同一の構成には同一の符号を付しており、重複する説明は省略する。また、実施形態4に係る水中メッキ処理装置1のメッキ処理面17に対する配置構成および水中メッキ処理方法に関しては、図1および図4に示した構成を用いることができる。
【0078】
(水中メッキ処理装置のシステム構成)
実施形態4に係る水中メッキ処理装置1のシステム構成は、図7に示す構成になっている。図7に示すように、実施形態4におけるシステム構成では、実施形態1のシステム構成において用いていた圧力調整弁31と第1切替弁32を用いる代わりに、第2切替弁33とチャンバー4との間にチューブポンプ39を用いた構成になっている。
【0079】
他の構成は、実施形態1における構成と同様の構成になっている。また、チャンバー4の構成としては、実施形態1における構成以外にも実施形態2、3における構成を用いることもできる。
【0080】
チャンバー4への純水の注入および排出、メッキ処理溶液の注入および排出、前処理溶液の注入および排出、圧縮気体の注入および排出は、チューブポンプ39を作動させることにより行うことができる。
【0081】
チューブポンプ39は、ゴム製や可撓性のチューブの弾力性を利用して、連続的に液体や気体を定量移送できる構成になっているので、チューブポンプ39を回転させるときの回転数を制御することにより、チャンバー4内に注入する各種液体や気体の圧力を調整することができる。
【0082】
(効果)
チューブポンプを用いることでチャンバー4に注入したり排出したりする液体や気体の流量を管理することができるので、実施形態1の場合に比べて部品点数を少なくして水中メッキ処理装置1を構成することができる。
【0083】
また、第2切替弁33に第1配管6と第2配管7とを連結させるポートを形成しておくことにより、前処理溶液を循環させることができ、使用済みとなった前処理溶液の廃液量を低減させることができる。必要に応じて、第2切替弁33とチャンバー4との間で純水を循環させる構成にしておくことも、メッキ処理溶液を第2切替弁33とチャンバー4との間で循環するように構成しておくこともできる。
【0084】
以上、本発明に係るいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、組み合わせ、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0085】
1…水中メッキ処理装置、2…アクセス装置、3…押圧機構、4…チャンバー、4a…本体部、4b…空間部、5…シール部材、6…第1配管、7…第2配管、10…撹拌装置、10b…撹拌羽根、11…超音波振動子、12…気泡室、13…熱電対、16…溶接線、17…メッキ処理面、20…原子炉圧力容器、21…炉心シュラウド、22…CDRハウジング、23…バッフルプレート、30…圧縮気体供給源、31…圧力調整弁、35…純水タンク、36…メッキ溶液タンク、37…前処理溶液タンク、38…廃液タンク、39…チューブポンプ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7