特許第6567507号(P6567507)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6567507デュアルモード化学ロケットエンジン、およびデュアルモード化学ロケットエンジンを備えるデュアルモード推進システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6567507
(24)【登録日】2019年8月9日
(45)【発行日】2019年8月28日
(54)【発明の名称】デュアルモード化学ロケットエンジン、およびデュアルモード化学ロケットエンジンを備えるデュアルモード推進システム
(51)【国際特許分類】
   F02K 9/44 20060101AFI20190819BHJP
【FI】
   F02K9/44
【請求項の数】10
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-516480(P2016-516480)
(86)(22)【出願日】2014年5月28日
(65)【公表番号】特表2016-526127(P2016-526127A)
(43)【公表日】2016年9月1日
(86)【国際出願番号】SE2014050656
(87)【国際公開番号】WO2014193300
(87)【国際公開日】20141204
【審査請求日】2017年5月26日
(31)【優先権主張番号】1350653-0
(32)【優先日】2013年5月29日
(33)【優先権主張国】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】509086095
【氏名又は名称】イーシーエイピーエス・アクチボラグ
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100117411
【弁理士】
【氏名又は名称】串田 幸一
(72)【発明者】
【氏名】アンフロ,キイェル
(72)【発明者】
【氏名】ベルグマン,ゲラン
【審査官】 金田 直之
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第03514953(US,A)
【文献】 特開2004−257318(JP,A)
【文献】 特開2008−144588(JP,A)
【文献】 特開2006−046332(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0304620(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02K 9/42−9/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
過酸化水素のための触媒床を備える、過酸化水素のための一次反応室(140)を有し、一次反応室が、燃料リッチ単元推進薬の自身への注入のための手段(125)を有する二次反応室(150)に連結され、前記燃料リッチ単元推進薬が、液体のADNに基づく、または、HANに基づく単元推進薬である、デュアルモード化学ロケットエンジン(100)。
【請求項2】
前記注入のための手段(125)が、外部から前記二次反応室(150)への、推進薬供給配管(121)からの前記燃料リッチ単元推進薬の注入を可能にするように構成される、請求項1に記載のデュアルモード化学ロケットエンジン。
【請求項3】
前記二次反応室(150)に、耐高温触媒装置(135)を追加的に備える、請求項1または2に記載のデュアルモード化学ロケットエンジン。
【請求項4】
前記二次反応室(150)が、レニウム、又はイリジウムで裏打ちされたレニウムから製作される、請求項1から3のいずれか一項に記載のデュアルモード化学ロケットエンジン。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のデュアルモード化学ロケットエンジン(100)を備えるデュアルモード推進システム。
【請求項6】
ADNに基づく、または、HANに基づく液体の貯蔵可能な燃料リッチ単元推進薬と、過酸化水素とを備える、請求項5に記載のデュアルモード推進システム。
【請求項7】
請求項6に記載された前記燃料リッチ単元推進薬を用いる単元推進薬ロケットエンジン(40)を備える、請求項5または6に記載のデュアルモード推進システム。
【請求項8】
請求項1から4のいずれか一項に記載のデュアルモード化学ロケットエンジン、または、請求項5から7のいずれか一項に記載のデュアルモード推進システムを備える宇宙船。
【請求項9】
燃料リッチ液体単元推進薬が、過酸化水素の分解から得られる高温の酸化剤リッチガスの流れへと注入され、それによって前記燃料リッチ液体単元推進薬が分解され、前記酸化剤リッチガスと共に燃焼され、前記燃料リッチ液体単元推進薬が、ADNに基づく、または、HANに基づく、推力を発生する方法。
【請求項10】
前記推力が、請求項1に記載のエンジンで発生される、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
主題の発明は、1)宇宙船の軌道上昇、軌道の操作と維持、姿勢制御、および軌道離脱、ならびに/または、2)ミサイル、打上げロケット、および宇宙往還機の推進安定、姿勢制御、およびロール制御のための航空宇宙用途で用いられるデュアルモード二元推進薬化学ロケット推進システムに概して関する。本発明は、このようなシステムで使用するためのデュアルモード化学ロケットエンジンにも関する。エンジンは、現在の最新技術と比較して危険有害性の低い貯蔵可能な液体単元推進薬を用い、単元推進薬モードまたは二元推進薬モードのいずれかで運転できる。用いられる単元推進薬は、それぞれ、危険有害性の低い液体の燃料リッチ単元推進薬と、過酸化水素とである。
【背景技術】
【0002】
デュアルモードロケット推進システムおよびデュアルモードロケットエンジン(スラスタとも称される)が、当分野で知られている。現在、多くの宇宙船が、より大きな推力運転のための二元推進薬エンジンと、およびより小さい推力のための、または最小のインパルスビットが重要であるときの単元推進薬エンジンとによるデュアルモード推進システムを用いている。当分野では、二元推進薬エンジンと単元推進薬エンジンとの両方に適した推進薬の選択は、非常に有毒性のあるいくつかの推進薬に限られている。このような二元推進薬は、モノメチルヒドラジン(MMH)および非対称ジメチルヒドラジン(UDMH)など、ヒドラジンまたはその派生物を含んでいる。デュアルモードスラスタの例は、二次燃焼増幅スラスタ(SCAT:Secondary Combustion Augmented Thruster)と称されるスラスタである。デュアルモード能力(つまり、単元推進薬モードまたは二元推進薬モードのいずれかで運転する能力)を有する二元推進薬スラスタを備える二元推進薬デュアルモードロケット推進システムは、例えば米国特許第6,135,393号に記載されており、そこではヒドラジンが燃料として用いられ、好ましくは、四酸化窒素(NTO)が酸化剤として用いられる。
【0003】
高い性能を必要とする特定の推進システムについてのミッション要求は、一式の長所の形態によって定められる。最も重要な長所の形態のうちの1つは比推力(Isp)であり、これは、このような推進システムのまさに目的である、宇宙船が達成できる最大の速度変化を表している。比推力は、推進薬質量流量の単位当たり、エンジンによって発生される推力として定義される。推力がニュートン(N)で測定されるとき、流量は1秒(s)当たりのキログラム(kg)で測定され、そして、比推力の測定の単位はNs/kgである。かなりの速度変化の要件のある中形から大形の宇宙船については、これは最も重要なパラメータである。寸法が限られる可能性のある小形の宇宙船については、推力密度、つまり、推進薬体積当たりのNsが、有力な長所の形態であり得る。別の長所の形態はロケットエンジンの推力であり、これは、操作がどのくらいの期間を要するのか、および、どのくらいの加速を提供するのかを決定する。さらに別のパラメータは、エンジンが発生できる最小または最小限のインパルスビット(Ns)であり、これは、操作がどれだけ正確に実施できるかを決定する。
【0004】
ヒドラジン(燃料)と四酸化窒素(酸化剤)との両方、およびそれらの派生物は、毒性、発癌性、および腐食性などが非常にあり、また、漏洩および排出の場合に引き起こし得る環境への深刻な影響に関する重大な懸念と関連付けられるため、人間にとって極めて有害である。そのため、それらの取り扱いおよび安全要件は、非常に厳しく、時間を取られ、費用が掛かる。
【0005】
ECHA(欧州化学機関:European Chemicals Agency)は、化学品およびその安全な使用についての欧州共同体規則であるREACH(化学品の登録、評価、認可および制限に関する規則:Registration、Evaluation、Authorisation and restriction of Chemicals)内で、ヒドラジンが新規の開発での使用について禁止され得ることを導く可能性のある非常に高い懸念の物質として、ヒドラジンを特定している。欧州宇宙機関(ESA:European Space Agency)による構想である、きれいな宇宙は、従来の有害な推進薬の代用も求めている。
【0006】
フランスでは、宇宙船がもはや使われなくなったときに軌道から離脱されることを求める、宇宙デブリに関する宇宙活動法(Space Operation Act)という新しい法律がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、ヒドラジン、四酸化窒素、およびそれらの派生物の使用を回避するデュアルモード推進システムを提供することが望ましい。しかしながら、これまで、実行可能なロケット推進システム、ロケットエンジン、および、先行技術の有害なヒドラジン推進薬と匹敵する性能のある対応する代替の推進薬は、実現されてこなかった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、先行技術のデュアルモード化学推進システムと匹敵する性能(つまり、所与のシステム質量についての全力積の観点で)を持った推進システムが、貯蔵可能な危険有害性の低い液体推進薬を用いるデュアルモード化学ロケットエンジンによって実現できることを見いだした。
【0009】
本発明によれば、燃料リッチ単元推進薬および過酸化水素が、それぞれ、一次反応室および二次反応室を備えるデュアルモードロケットエンジンで用いられる。
【0010】
したがって、本発明の一態様は、過酸化水素のための一次反応室を有し、その一次反応室が、燃料リッチ単元推進薬の自身への注入のための手段を有する二次反応室に連結されるデュアルモード化学ロケットエンジンに関する。
【0011】
単元推進薬モード運転では、本発明のエンジンは、一次反応器で触媒的に分解される過酸化水素を用いる。単元推進薬モードにおける本発明のエンジンの運転および始動は、電気ヒータによってなどの一次反応器の予加熱をまったく必要としない。
【0012】
二元推進薬モードでは、一次反応器で起こる過酸化水素の触媒燃焼が、二次反応器へと注入される液体ADNまたはHANに基づく燃料リッチ単元推進薬の二次反応器における熱分解を開始するために、酸化剤および熱を提供するのに用いられる。二元推進薬モードにおける本発明のエンジンの運転は、単元推進薬モードで運転されている場合と比較して、スラスタの推力および比推力を増大する利点を有する。二元推進薬モードにおける本発明のエンジンの運転および始動は、エンジンまたは反応器の電気予加熱もまったく必要としない。
【0013】
したがって、本発明のデュアルモード化学ロケットエンジンは、電気ヒータを備えないように作ることができる。
【0014】
本発明のエンジンの一実施形態では、注入のための手段は、外部から二次反応室への、推進薬供給配管からの燃料リッチ単元推進薬の注入を可能にする。
【0015】
別の態様では、本発明は、本発明のデュアルモード化学ロケットエンジンを備えるデュアルモード推進システムに関する。
【0016】
本発明を用いれば、「環境に優しい」代替の単元推進薬に基づいた統合型推進システム(UPS:Unified Propulsion System)が、つまり、すべてのエンジンが1つの同じ単元推進薬で運転できるシステムが、例えば、HPGP(登録商標)技術に基づいてなどで、実現され得る。このようなシステムは、小さい単元推進薬スラスタを、同じ推進薬供給システムに連結されたより大きいデュアルモードスラスタと共に含むことができる。
【0017】
本発明は、高性能で危険有害性の低い環境に優しい代替の推進薬を用い、先行技術のデュアルモードロケットエンジンおよび推進システムと比較して、時間およびコストの大幅な節約を実現する潜在力を有している。
【0018】
本発明の主な利点は、それぞれの単元推進薬に現在使用されている既存の優れた実績のある触媒および触媒床が、本発明でも使用できることである。そのため、過酸化水素に特有の一次触媒反応器は、変更をまったく必要としない。
【0019】
本発明の好ましい実施形態では、LMP−103S(例えば、WO2012/166046に開示されている)が、燃料リッチ単元推進薬として使用される。LMP−103Sで運転されるスラスタは、地上燃焼試験および宇宙での燃焼の間、ヒドラジン(単元推進薬)と比較して、6%超で向上された比推力と、30%超で向上された推力密度とを示した。
【0020】
さらなる態様では、本発明は、燃料リッチ液体単元推進薬が、過酸化水素の分解から得られる高温の酸化剤リッチガスの流れへと注入され、それによって燃料リッチ液体単元推進薬が分解され、酸化剤リッチガスと共に燃焼される、推力を発生する方法に関する。
【0021】
本発明は、非常に有害な貯蔵可能な液体推進薬を用いる従来のデュアルモード二元推進薬ロケット推進システムを、匹敵する性能を持つと共に大幅に危険有害性が低減された環境に優しい代替の推進薬システムであって、推進薬の取り扱いと燃料搭載作業とを大幅に軽減および容易化もする代替の推進薬システムで、代用するための可能な技術を提供する。
【0022】
さらなる利点および実施形態は、以下の詳細な説明および添付の特許請求の範囲から明らかとなる。
【0023】
本発明では、用語「単元推進薬」は、LMP−103Sなどの2つ以上の化合物を含み、したがって単元推進薬混合物と考えることができる単元推進薬と、H(しかしながら実際には、典型的には水性であるため、ある程度の水を含むことになる)などの単一の化合物単元推進薬との両方を意味するために用いられている。
【0024】
用語「推進システム」は、本明細書では、推進薬容器、加圧剤容器、推進薬および加圧剤の充填サービス弁、推進薬および加圧剤の配管、遮断弁、推進薬システムフィルタ、圧力変換器、スラスタ/ロケットエンジン、ならびに、必要とされる他のミッション特有の流体部品を備える宇宙船、打上げロケット姿勢制御システムなどの推進的な推力を発生する目的のためのハードウェアおよびその構成部品の水力学的構成を意味するために用いられている。このようなシステムは、図1に概略的に示されている。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明のデュアルモード推進システムの実施形態の簡略化された水力学的な概略図である。
図2】一次反応室140、二次反応室150、燃料リッチ単元推進薬の注入のための手段125、および耐高温触媒装置135を備える本発明のデュアルモード化学ロケットエンジンの実施形態100を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明によれば、液体の貯蔵可能な危険有害性の低い液体単元推進薬が用いられる。本発明のエンジンで用いられる単元推進薬は、それぞれ、燃料リッチ単元推進薬と過酸化水素とである。
【0027】
本発明のエンジンは、デュアルモードでの危険有害性の低い推進薬の使用、または、二元推進薬の運転を可能にする新規の推進技術を構成する。
【0028】
技術上の重大な成果は、多くの宇宙用途に対して単元推進薬としてヒドラジンを代用するために、実現可能である。これは、LMP−103S単元推進薬混合物を含むHPGP(登録商標)技術(例えば、WO2012/166046に記載されている)と、典型的には0.5Nから200Nまでの範囲である対応するスラスタ(例えば、WO02/095207に開示されている)とを用いて成功裏に実施されている。A 1 N HPGP(登録商標)推進システムが、主要なPRISMA人工衛星において宇宙における地球軌道で数年にわたって運用されている。
【0029】
本発明のエンジンは、過酸化水素の分解のための触媒床を備える、過酸化水素の分解のための一次過酸化水素反応室140を有し、その一次反応室は、燃料リッチ単元推進薬の自身への注入のための手段125を有する二次反応室150に連結され、および、二次反応室150へと開放する。
【0030】
本発明のエンジンの二元推進薬モード運転は、二次反応室における均一気相燃焼を用いることができる。代替で、燃焼は、耐高温触媒装置を用いる触媒によって推進されてもよい。このような実施形態では、本発明のエンジンは、例えば図2に示しているように、耐高温触媒装置135を追加的に備えている。
【0031】
本発明のデュアルモード化学エンジンの一実施形態では、燃料リッチ単元推進薬が、外側からエンジンの二次反応室へと注入される。このような実施形態の例は、図2に描写されている。
【0032】
一次反応室140における触媒は、反応性分解および燃焼化学種に曝され、現在の設計限界より高い温度で運転されるとき、スラスタの寿命を限定する要素となる。本発明の主要な便益は、二次反応室150における温度が大幅に上昇され得る一方で、一次反応器における触媒の温度が実質的には影響されないままとされ得ることである。したがって、過酸化水素に現在使用されている既存の優れた実績のある触媒および触媒床が、本発明でも使用できる。そのため、過酸化水素に特有の一次反応器は、変更をまったく必要としない。
【0033】
一次反応室140は、好ましくは、過酸化水素の分解のための従来の技術を用いる。
【0034】
燃料リッチ単元推進薬の混合物は、本発明の目的のためにHANに基づかれ得る一方、燃料リッチ単元推進薬の混合物が、他に指示されていない場合、ADNに基づかれ得ることは、概して好ましい。
【0035】
好ましくは、液体で水性のADNに基づく単元推進薬が、燃料リッチ単元推進薬として用いられる。このような単元推進薬は、WO00/50363およびWO2002/096832に大まかに開示されている。具体的な組成の例は、例えばLMP−101、LMP−103、LMP−103S、およびFLP−106などで、特には、WO2012/166046に記載されているLMP−103Sである。
【0036】
NASA−Glenn化学平衡計算プログラムCEA2で実施された計算によれば、環境に優しい単元推進薬LMP−103Sを用いる二元推進薬モードにおける本発明のロケットエンジンの運転は、単元推進薬として使用されるだけのときのLMP−103Sに対して20%までの比推力の追加的な向上をもたらし、これは、非常に有害な従来の貯蔵可能な推進薬、つまり、MMHおよびNTOで運転される先行技術の二元推進薬エンジンの比推力と匹敵する。さらに、LMP−103SおよびHの単元推進薬の組み合わせの推力密度は、従来の貯蔵可能な推進薬で運転される先行技術の二元推進薬エンジンの推力密度を5%までで超えることになる。
【0037】
過酸化水素は、おそらく、世界中で最も研究された単元推進薬である。しかしながら、単元推進薬としての過酸化水素の比推力は比較的小さく、濃縮に応じて1,600〜1,800Ns/kgの範囲である。比較的小さい比推力と、過酸化水素の貯蔵可能性についての懸念とが、ヒドラジンを選び、過酸化水素を宇宙船の反応制御システム(RCS)から排除してしまっている。過酸化水素は、二元推進薬モードで酸化剤としても使用でき、少なくとも1934年から推進の目的のために研究されてきた。過酸化水素は、反応性があり、その最も安定した形態で貯蔵されているときでも、時間と共にゆっくりと分解する。貯蔵可能性についての懸念と、過酸化水素の安全な使用とが、何年にもわたって議論されてきた。これらの懸念が誇張され得ることと、過酸化水素が安全に取り扱いできることとが報告されている。しかしながら、現在の最先端の技術の推進薬の毒物に関する懸念および発癌性の懸念が、ここ10年の間、過酸化水素への新たな興味につながった。
【0038】
単元推進薬は、好ましくは、少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%の濃度のものである。したがって、ロケット推進のためH単元推進薬の従来の等級および濃度が、本発明において使用できる。
【0039】
図2を参照しつつ、本発明のロケットエンジン100の好ましい実施形態をここでより詳細に説明する。このような実施形態では、ロケットエンジンは、一連の冗長な流れ制御弁112、および、推進薬供給管122が続く、過酸化水素のための入口ポート102と、一連の冗長な流れ制御弁111、および、推進薬供給管121が続く、燃料リッチ単元推進薬のための入口ポート101とを備えており、二次反応室150へと導く。
【0040】
エンジン100とその運転とをここでより詳細に説明する。二元推進薬モードでは、過酸化水素は、注入器110を介して一次反応室140へと注入され、そこで単元推進薬は触媒的に分解され、熱を生成する発熱反応(90%のHについては900℃まで)と、二次反応室150へと流れる酸化剤リッチ水蒸気とを引き起こす。LMP−103Sなど、燃料リッチ単元推進薬が、注入器125を介して二次反応室150へと注入され、そこで燃料リッチ単元推進薬が霧化され、均一気相で一次反応器空の酸素と混合されて燃焼される。それによって、滞留ガス温度はさらに大幅に上昇させられ(2,300℃まで)、これは、排気ガスがノズル170を通じて加速されることで推力を発生する前に、燃料効率、つまり、比推力の観点において、エンジンの性能を高める。
【0041】
本発明のロケットエンジン100は、一次反応室140へと注入される、例えば非常に濃縮された(90%以上)過酸化水素など、過酸化水素のみの注入によって、より小さい推力およびインパルスビットのための単元推進薬モードでも運転でき、一次反応室140では、排気ガスがノズル170を通じて加速されることで推力を発生する前に、単元推進薬は、触媒的に分解され、熱を生成する発熱反応と、二次反応室150へと流れるガスとを引き起こす。
【0042】
一次反応室140および二次反応室150は、例えば図2に示しているように、それぞれ互いに対して直列に配置されている。
【0043】
燃料リッチHANに基づいた単元推進薬混合物が、LMP−103Sと同じ方法で用いられ得る。
【0044】
本発明のエンジンの二次燃焼室150は、非常に高い燃焼温度に耐えるために、イリジウムで裏打ちされたレニウムから好ましくは製作される。
【0045】
本発明の推進システム
本発明のデュアルモード推進システムの実施形態の簡略化された水力学的な概略図が、図1に示されている。サービス弁22および32が、運転前に単元推進薬を推進システムへと充填するために使用されている。例えばLMP−103Sといった、燃料リッチ単元推進薬が推進薬容器21に収容されており、過酸化水素が推進薬容器31に収容される。例えばヘリウムといった、高い圧力(つまり、数十メガパスカル(数百バール))に加圧しているガスが、推進システムの運転の前に、サービス弁11を介して加圧剤容器10へと充填される。推進システムは、遮断弁24および34の下流で推進薬配管における締め切りガスを放出することによって作動され、その後、最初の点火の前に推進薬のスラスタへの呼び入れを実施する。いずれかのスラスタを点火するとき、容器10からの加圧剤ガスが、圧力調節器12によって、ロケットエンジン運転推進薬供給圧力(つまり、数メガパスカル(数十バール))に下げるように調節される。加圧剤は、推進薬遮断弁13を通り、さらに逆止弁20および30を通り、推進薬容器21および31へと流れる。運転モード、つまり、単元推進薬モードまたは二元推進薬モードに応じて、推進薬容器21もしくは31のいずれか、または、両方からの単元推進薬が、点火するとき、推進薬フィルタ23および33をそれぞれ通り、主題のエンジンへと流れる。
【0046】
二元推進薬液体アポジエンジン(LAE)60は、50Nから10kNの間の評価された推力レベルを有している。本発明の推進システムでは、二元推進薬液体アポジエンジン60は、存在するとき、好ましくは本発明のデュアルモードエンジンである。
【0047】
転用のデュアルモードスラスタ50は、5Nから5kNの間の評価された推力レベルを有している。本発明の推進システムでは、転用のデュアルモードスラスタ50は、存在するとき、エンジン100など、好ましくは本発明のデュアルモードエンジンである。
【0048】
本発明のデュアルモード推進システムのあらゆる単元推進薬ロケットエンジンは、ADNまたはHANに基づいた単元推進薬など、液体の燃料リッチ単元推進薬を好ましくは用いる。
【0049】
RCSスラスタ40は、LMP−103Sで運転される好ましいECAPS 1Nから22N HPGPまでの単元推進薬スラスタである。
【0050】
本発明のデュアルモード推進システムでは、本発明のエンジン概念は、ミッションにおいて最初に用いられるエンジンに好ましくは適用される。
【0051】
一次反応器の予加熱は、本発明のエンジンの単元推進薬モードまたは二元推進薬モードのいずれの運転でも必要とされない。反応器のいずれの電気予加熱も、二元推進薬モードでの本発明のエンジンの運転に必要とされない。これは、本発明の推進システムに含まれるあらゆる加熱システムの要件と、推進システムによって必要とされる加熱電力とを大幅に減らすことになる。
【0052】
したがって、本発明のエンジンは、ヒータのまったくない、簡略化されたエンジン設計を使用させることができる。
〔態様1〕
過酸化水素のための触媒床を備える、過酸化水素のための一次反応室(140)を有し、一次反応室が、燃料リッチ単元推進薬の自身への注入のための手段(125)を有する二次反応室(150)に連結される、デュアルモード化学ロケットエンジン(100)。
〔態様2〕
前記注入のための手段(125)が、外部から前記二次反応室(150)への、推進薬供給配管(121)からの前記燃料リッチ単元推進薬の注入を可能にするように構成される、態様1に記載のデュアルモード化学ロケットエンジン。
〔態様3〕
前記二次反応室(150)に、耐高温触媒装置(135)を追加的に備える、態様1または2に記載のデュアルモード化学ロケットエンジン。
〔態様4〕
前記二次反応室(150)が、レニウム、好ましくはイリジウムで裏打ちされたレニウムから製作される、態様1から3のいずれか一項に記載のデュアルモード化学ロケットエンジン。
〔態様5〕
態様1から4のいずれか一項に記載のデュアルモード化学ロケットエンジン(100)を備えるデュアルモード推進システム。
〔態様6〕
液体の貯蔵可能な危険有害性の低い燃料リッチ単元推進薬と、過酸化水素とを備える、態様5に記載のデュアルモード推進システム。
〔態様7〕
前記燃料リッチ単元推進薬が、ADNに基づく、または、HANに基づく、態様5または6に記載のデュアルモード推進システム。
〔態様8〕
態様7に記載された燃料リッチ単元推進薬を用いる単元推進薬ロケットエンジン(40)を備える、態様5から7のいずれか一項に記載のデュアルモード推進システム。
〔態様9〕
態様1から4のいずれか一項に記載のデュアルモード化学ロケットエンジン、および/または、態様5から8のいずれか一項に記載のデュアルモード推進システムを備える宇宙船。
〔態様10〕
態様1から4のいずれか一項に記載のデュアルモード化学ロケットエンジンにおいて、第1の分離容器に貯蔵される、燃料リッチADNまたはHANに基づいた液体単元推進薬混合物と、第2の分離容器に貯蔵される、高濃縮された過酸化水素とを含む二元推進薬組み合わせの使用。
〔態様11〕
燃料リッチ液体単元推進薬が、過酸化水素の分解から得られる高温の酸化剤リッチガスの流れへと注入され、それによって前記燃料リッチ液体単元推進薬が分解され、前記酸化剤リッチガスと共に燃焼される、推力を発生する方法。
〔態様12〕
前記燃料リッチ液体単元推進薬が、ADNに基づく、または、HANに基づく、態様11に記載の方法。
〔態様13〕
前記推力が、態様1に記載のエンジンで発生される、態様11または12に記載の方法。
図1
図2