特許第6567526号(P6567526)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6567526
(24)【登録日】2019年8月9日
(45)【発行日】2019年8月28日
(54)【発明の名称】耐腐食および耐摩耗処理方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 28/00 20060101AFI20190819BHJP
   C25D 11/18 20060101ALI20190819BHJP
   C25D 11/08 20060101ALI20190819BHJP
   C25D 11/10 20060101ALI20190819BHJP
   C25D 11/12 20060101ALI20190819BHJP
   C23C 18/02 20060101ALI20190819BHJP
【FI】
   C23C28/00 Z
   C25D11/18 Z
   C25D11/08
   C25D11/10
   C25D11/12 Z
   C23C18/02
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-541255(P2016-541255)
(86)(22)【出願日】2014年12月17日
(65)【公表番号】特表2017-500450(P2017-500450A)
(43)【公表日】2017年1月5日
(86)【国際出願番号】FR2014053375
(87)【国際公開番号】WO2015092265
(87)【国際公開日】20150625
【審査請求日】2017年11月15日
(31)【優先権主張番号】1362920
(32)【優先日】2013年12月18日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】516235451
【氏名又は名称】サフラン・ヘリコプター・エンジンズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ギュルト・サンタナシュ,ジュリアン
(72)【発明者】
【氏名】クラボ,ファブリス
(72)【発明者】
【氏名】エステバン,ジュリアン
【審査官】 萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−363772(JP,A)
【文献】 特表2003−514119(JP,A)
【文献】 特開2012−140670(JP,A)
【文献】 特開平07−278888(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/112122(WO,A1)
【文献】 特開2011−014612(JP,A)
【文献】 特開2007−211224(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 24/00−30/00
C23C 18/00−20/08
C25D 11/00−11/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムまたはアルミニウム合金の基板に耐腐食および耐摩耗の処理を施す方法であって、
ゾル−ゲル層(20’)を形成するゾル−ゲル処理ステップと、
ゾル−ゲル処理ステップの後に硬質酸化物層(30)を形成する硬質酸化処理ステップと、
ゾル−ゲル処理ステップの前に追加の酸化物層(140)を形成する追加の酸化処理ステップと、
を基板(10)に施すことを含み、
ゾル−ゲル処理ステップと硬質酸化処理ステップとの間に実施される機械加工ステップをさらに含み、機械加工ステップの間、処理のための少なくとも1つの区域(U)が、この区域(U)から少なくともゾル−ゲル層(20)を除去するように機械加工される、
法。
【請求項2】
硬質酸化処理ステップが硬質アノード酸化処理(HAO)ステップである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
追加の酸化処理ステップが、硫酸を使用したアノード酸化処理(SAO)、酒石硫酸によるアノード酸化処理、またはリンによるアノード酸化処理である、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ゾル−ゲル処理ステップが、追加の酸化層(140)を埋める事前のステップ無しに、追加の酸化物層上で行われ、
ゾル−ゲル処理ステップ中、ゾル−ゲル(120)が追加の酸化物層(140)の細孔(141)内に入り込む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
使用されるゾル−ゲルの少なくとも一部分が、グリシドキシプロピルトリメトキシシランを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アルミニウムまたはアルミニウム合金の基板に、耐腐食および耐摩耗処理を施す方法に関する。本開示は、そのような処理方法によって得られたコーティングを含む機械部品、ならびにそのような機械部品を含むタービンエンジンおよび着陸装置にも関する。
【0002】
そのような方法は、具体的には、航空分野において、航空機またはヘリコプタの、腐食と摩耗とに同時にさらされる特定の機械部品の保護に特に有用である。
【背景技術】
【0003】
タービンエンジン、特にヘリコプタ用のタービンエンジンにおいて、アルミニウムまたはアルミニウム合金で形成された特定の部品は、腐食による制約と摩耗による制約とを同時に受ける。たとえば、燃料調整システムの特定の部品は、他の部品に対して滑動する必要があり、それによって摩擦が生じる。さらに、燃料が繰り返し通過することにより、それら部品の腐食につながる場合がある。したがって、これら摩擦区域および/または腐食区域は、特に耐摩耗処理がされる必要がある。さらに、それら同じ部品は、腐食性である場合がある外部の環境にも接触する。腐食性である場合がある外部の環境は、具体的には水蒸気が存在する中であり、最も著しくは、具体的には海に近い場合である、塩分が含まれる条件である。したがって、それら部品は、その部品の耐摩耗処理が施されていない区域全域に、耐腐食処理が施されることも必要である。
【0004】
そのような保護を提供するために、部品上にクロムのアノード酸化処理を実施して、耐腐食保護処理を施す第1のステップと、次いで、耐摩耗処理がされる区域上に、硬質アノード酸化処理が実施される第2のステップと、が含まれる方法が知られている。
【0005】
とはいうものの、クロムのアノード酸化処理を実施するために使用される溶液は、特定の危険成分、具体的にはCr VIを含んでいる。この成分は、REACh規制により、すぐに禁止されることになる。
【0006】
そのように状況下では、REACh規制に対応するために考案された別の方法により、クロムのアノード酸化処理ステップを、硫酸を使用したアノード酸化処理ステップと置き換えることを試みる。
【0007】
とはいうものの、硬質アノード酸化処理溶液は、この方法で得られた酸化物層を分解することが可能であり、このため、保護されるべき耐腐食酸化物層の区域を保護するために、ワックスでマスキングする中間ステップが必須となる。これは、最終部品を得るために、硬質アノード酸化処理の後に部品からワックスを取り除く最終ステップをも追加する。これらの追加のステップは、長く、高額で、かつ困難であり、したがって、この方法の全体の有効性および利益率を低下させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、上述の既知の方法固有の欠点による損害を受けないか、少なくともある程度は損害が軽減される、アルミニウムまたはアルミニウム合金の基板に耐腐食および耐摩耗の処理を施す方法に対する実質的な需要が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、アルミニウムまたはアルミニウム合金の基板に耐腐食および耐摩耗処理を施す方法であって、ゾル−ゲル層を形成するゾル−ゲル処理ステップと、ゾル−ゲル処理ステップの後に硬質酸化物層を形成する硬質酸化処理ステップと、を基板に施すことを含む方法に関する。
【0010】
本開示において、「層」との用語は、本開示の耐腐食および耐摩耗処理方法によって得られたコーティング内の、所与の構成の領域を指す。「層」との用語は、たとえば基板を酸化処理することにより、基板上に堆積された層、または最初の基板の層内に形成された層であってもよい。
【0011】
さらに、本開示では、各層は必ずしも互いに対して積層されておらず、いくつかの層は、他の層に対し重ねられるのではなく、並置されていてもよい。特に、硬質酸化物層は、ゾル−ゲル層に隣接するが、それにもかかわらず重ならないように設けられ得る。
【0012】
ゾル−ゲル処理を使用したそのような方法により、主にゾル−ゲルによって与えられる耐腐食性、および主に硬質酸化層によって与えられる耐摩耗性の、極めて良好な特性を付与する、アルミニウムまたはアルミニウム合金で形成された機械部品のためのコーティングを極めて容易に得ることが可能になる。
【0013】
ゾル−ゲル処理は今日、ガラス材料の分野においてよく知られており、溶融ステップを経ることなく、溶液内の分子前駆体を単に重合することによってガラス材料を得ることを可能にする。そのような処理は、混成有機/無機ガラスを合成するのに特に適している。この有機/無機化学構造、およびゾル−ゲルの強固な原子間結合により、外部の環境に対する良好なバリア特性がゾル−ゲル層に与えられ、また、それによって、極めて良好な腐食耐性がゾル−ゲル層に与えられる。これにより、たとえば海洋の条件、および、それによる塩気のある条件を含む大気腐食に機械部品が耐えることが可能になる。
【0014】
さらに、このバリア効果により、通常、硬質酸化処理中に生じる機械部品の劣化を防止することが可能になる。そのような状況下では、硬質酸化処理溶液に長く浸された後であっても、コーティングの耐腐食特性が維持される。
【0015】
ゾル−ゲルは有機化合物の含有量が大きいため、ゾル−ゲルはやはり、電気的に絶縁性である。そのような状況下では、硬質酸化処理において使用される電流はゾル−ゲル層を通過せず、したがって、このゾル−ゲル層の劣化を防止し、かつ、ゾル−ゲル層の下の基板の望ましくない酸化を防止する。ゾル−ゲル層は、こうして、硬質酸化処理に対して基板を保護するマスクを自然に形成する。この方法で、ゾル−ゲルによって処理されていないそれら区域のみ、またはゾル−ゲル層が除去されたそれら区域のみが硬質酸化処理される。この方法により、耐摩耗処理がされる層を形成することが容易になる。
【0016】
さらに、既存のゾル−ゲルが広範囲にわたるため、所望の特性を与えるのに最も適しており、かつ、REACh規制などの健康および環境の制約に最も適合するゾル−ゲルを選択することが可能である。
【0017】
さらに、ゾル−ゲル処理は迅速かつ容易に実施することができる。このゾル−ゲル処理ステップは特に、現行の製造ラインに容易に組み込むことができ、かつ従来のクロムのアノード酸化処理ステップよりも速い。さらに、そのような方法は、処理される区域に近づくことが困難である部品上に処理を施す場合を含め、実施が容易である。
【0018】
特定の実施態様では、硬質酸化処理ステップは硬質アノード酸化処理(HAO)ステップである。ゾル−ゲル処理の使用は、そのような実施態様に特に有利であり、この理由は、ゾル−ゲルにより、酸に対する良好な耐性が与えられ、硬質アノード酸化処理用の酸溶液に部品が耐えることが可能になるためである。
【0019】
他の実施態様では、硬質酸化処理ステップはマイクロアーク硬質酸化処理ステップである。このマイクロアーク硬質酸化処理ステップは、塩基性溶液の中で実施されることが好ましい。
【0020】
特定の実施態様では、本方法は、ゾル−ゲル処理ステップの前に追加の酸化物層を形成する追加の酸化処理ステップをさらに含む。酸化物層をゾル−ゲル層に関連付ける、そのような2層による保護は、コーティングの腐食耐性を強化する役割を果たす。さらに、ゾル−ゲル層が硬質酸化処理溶液に対して追加の酸化物層を保護し、したがって、この追加の酸化物層の劣化を防止する。
【0021】
特定の実施態様では、追加の酸化処理ステップは、硫酸を使用したアノード酸化(SAO)、酒石硫酸によるアノード酸化(tartro−sulfuric anodic oxidation)、またはリンによるアノード酸化である。
【0022】
特定の実施態様では、ゾル−ゲル処理ステップは、追加の酸化物層を事前に埋めるステップ無しに、追加の酸化物層上で生じる。この穴埋めステップは必ずしも必要ではなく、この理由は、ゾル−ゲルがそれ自体で、追加の酸化物層の層内細孔を部分的に、または完全に埋めることができるためである。
【0023】
特定の実施態様では、ゾル−ゲル処理ステップ中、ゾル−ゲルが追加の酸化物層の細孔内に入り込む。このことも、ゾル−ゲル層の追加の酸化物層上の接合を強化する。
【0024】
特定の実施態様では、ゾル−ゲル処理ステップは、ゾル−ゲル堆積サブステップおよびゾル−ゲルベークサブ工程を含む。ベークは、ゾル−ゲルを硬化させる役割を果たす。
【0025】
特定の実施態様では、ゾル−ゲル堆積サブステップは、基板をゾル−ゲル溶液に浸すことによって実施される。
【0026】
他の実施態様では、ゾル−ゲル堆積サブステップは、基板上にゾル−ゲルを吹き付けることによって実施される。
【0027】
特定の実施態様では、ベークサブ工程は、100℃から200℃の範囲、好ましくは、130℃から150℃の範囲で実施される。
【0028】
特定の実施態様では、ベークサブ工程は40分から60分の間だけ継続される。
【0029】
特定の実施態様では、使用されるゾル−ゲルの少なくとも一部は、グリシドキシプロピルトリメトキシシランを含む。
【0030】
特定の実施態様では、使用されるゾル−ゲルの少なくとも一部は、ICSによりIC23.5(登録商標)の名称で販売されたゾル−ゲルである。このゾル−ゲルは、ケロシンと接触する部品に特に適している。当然、同じ構成、または均等の構成を有する任意の他のゾル−ゲルが同様に良好に使用され得る。
【0031】
他の実施態様では、使用されるゾル−ゲルの少なくとも一部分は、ICSにより1K−EBSil(登録商標)の名称で販売されたゾル−ゲルである。このゾル−ゲルは、作動液と接触する部品に特に適している。当然、同じ構成、または均等の構成を有する任意の他のゾル−ゲルが同様に良好に使用され得る。
【0032】
具体的には、そのようなゾル−ゲルにより、ISO規格9227の試験に従って、塩水噴霧に最低500時間(h)耐えることが可能になる。
【0033】
特定の実施態様では、本方法は、ゾル−ゲル処理ステップと硬質酸化処理ステップとの間に実施される機械加工ステップをさらに含む。機械加工ステップの間、処理のための少なくとも1つの区域は、少なくともゾル−ゲル層をこの区域から除去するように機械加工される。そのようなステップにより、ゾル−ゲルで構成される電気絶縁層を局所的に除去することにより、基板の、特に耐摩耗処理がされる区域を新しくすることが可能であり、したがって、この区域に硬質酸化処理が施され得る。当然、特定の部品が、特に耐摩耗処理が施される複数の別個の区域を有してもよく、この場合、複数の別個の区域が機械加工され得る。この機械加工が原因で、得られたゾル−ゲル層および/または硬質酸化物層は不連続の場合がある。
【0034】
特定の実施態様では、本方法は、クロムのアノード酸化処理(CAO)ステップを含まない。
【0035】
本開示は、アルミニウムまたはアルミニウム合金の基板、ならびに上述の実施態様のいずれかに係る方法によって得られた耐腐食性および耐摩耗性のコーティングを備える機械部品をも提供する。
【0036】
本開示は、アルミニウムまたはアルミニウム合金の基板、ゾル−ゲル層、およびアルミニウム酸化物層を有する機械部品をも提供する。
【0037】
特定の実施形態では、本部品は、ゾル−ゲル層の下に位置する追加のアルミニウム酸化物層をも含む。
【0038】
特定の実施形態では、ゾル−ゲルは追加の酸化物層の細孔内に存在する。
【0039】
特定の実施形態では、ゾル−ゲルの少なくとも一部分は、上述のゾル−ゲルの内の1つである。
【0040】
特定の実施形態では、ゾル−ゲル層および硬質酸化物層は、基板の表面において隣接しているが、重なり合っていない。
【0041】
特定の実施態様では、ゾル−ゲル層は、1マイクロメートル(μm)から10μmの厚みを与える。
【0042】
特定の実施形態では、硬質酸化物層は、40μmから100μmの厚みを与える。
【0043】
特定の実施形態では、追加の酸化物層は、2μmから12μmの厚みを与える。
【0044】
本開示は、上述の実施形態のいずれかに係る機械部品を含むタービンエンジンにも関する。
【0045】
本開示は、上述の実施形態のいずれかに係る機械部品を含む着陸装置をも提供する。
【0046】
上述の特徴および利点などは、提案された方法の実施態様に関する以下の詳細の説明を読むことで明らかになる。この詳細な説明では、添付の図面を参照する。
【0047】
添付の図面は概略的であり、第一に、本発明の原理を説明することを試みる。
【0048】
図面において、各図面間で、同一の要素(または要素の各部分)は同じ参照符号によって識別される。さらに、異なる実施態様に属するが、類似の機能を与える要素(または要素の各部分)は、100、200等を加算した参照符号で図面において識別される。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1A】本方法の第1の実施態様の一ステップを示す。
図1B】本方法の第1の実施態様の一ステップを示す。
図1C】本方法の第1の実施態様の一ステップを示す。
図1D】本方法の第1の実施態様の一ステップを示す。
図1E】本方法の第1の実施態様の一ステップを示す。
図2A】本方法の第2の実施態様の一ステップを示す。
図2B】本方法の第2の実施態様の一ステップを示す。
図2C】本方法の第2の実施態様の一ステップを示す。
図2D】本方法の第2の実施態様の一ステップを示す。
図2E】本方法の第2の実施態様の一ステップを示す。
図2F】本方法の第2の実施態様の一ステップを示す。
【発明を実施するための形態】
【0050】
本発明をより具体的にするために、添付の図面を参照して、本方法の実施態様が以下に詳細に記載される。本発明がこれら実施形態に限定されないことを想起されたい。
【0051】
図1Aから図1Eは、アルミニウムまたはアルミニウム合金で形成された基板10にコーティングを施して、摩耗および腐食に対して保護することを試みる、本方法の第1の実施態様を示す。図1Aに示される基板10は、具体的には、ヘリコプタのタービンエンジン内の燃料を調整するための油圧機械式部品とすることができる。または、図1Aに示される基板10Aは、着陸装置のハーフホイールを締結するためのフランジとすることができる。2つの例以外にも言及する。最初に、基板10には、脱脂、すすぎ、および/または酸洗いのステップなどの予備準備ステップが施され得る。
【0052】
基板10の表面10aがこの方法で準備されると、液体ゾル−ゲル層20が基板10の表面10aに塗布される。ゾル−ゲルは、具体的には、IC23.5(登録商標)の名称でICSによって市販されたゾル−ゲル、特に部品1がケロシンと接触することになる用途のためのゾル−ゲルであってもよい。同様に、このゾル−ゲルは、具体的には、1K−EBSil(登録商標)の名称でICSによって市販されたゾル−ゲル、特に部品1が作動液と接触することになる用途のためのゾル−ゲルであってもよい。当然、均等の構成であるか、耐腐食特性を与える他の構成の他のゾル−ゲルが、同様に良好に使用され得る。
【0053】
液体ゾル−ゲル層20は、塗料のように、基板10の表面10aにブラシで塗布することができる。液体ゾル−ゲルは、たとえば塗料スプレーガンを使用して、基板10の表面10aに対して吹き付けることもできる。別の例では、基板10を液体ゾル−ゲル溶液に浸すことによって、ゾル−ゲルを同様に良好に堆積させることができる。
【0054】
このゾル−ゲル堆積ステップが終了すると、オーブンの中で、図1Bに示す部品にベーク工程が施される。ベーク工程の間にゾル−ゲルが硬化される。このベーク工程は、オーブン内において、約140℃で50分間継続して行われ得る。このベーク工程の終了時に、図1Cの部品が得られる。図1Cの部品では、固体化されたゾル−ゲル層20’が基板10を覆い、この固体ゾル−ゲル層20’が、腐食に対する求められた保護を提供する。
【0055】
このステップの終了時に、この部品の、特に耐摩耗処理をするための区域Uが機械加工され、それによって、基板10を露出させるために、固体ゾル−ゲル層20’を局所的に取り除く。図1Dに示すような、結果として得られた部品は、次いで、脱脂および/またはすすぎステップなどの準備ステップを施すことができる。
【0056】
この方法で準備がされた部品は、次いで、硬質アノード酸化処理(HAO)を施すために、硫酸溶液に浸される。硬質アノード酸化処理(HAO)の間、耐摩耗処理を施すための、機械加工ステップにおいて露出された区域Uにおける基板10の表層は、アルミナ層30を形成するために酸化される。このアルミナ層30は、区域Uにおける、部品1の耐摩耗特性を局所的に強化する役割を果たす。
【0057】
この方法で得られた部品は、最後に、図1Eに示されるような最終部品を得るために、仕上げステップ、具体的には、すすぎまたは機械加工ステップが施され得る。そのような最終部品1は、このため、耐摩耗処理が施された区域U内の、40μmから100μmの厚みを有する硬質アルミナ層30、および、区域Uの外側の、2μmから10μmの厚みを有する固体化したゾル−ゲル層20’を含み得る。そのようなゾル−ゲル層20’は、塩水噴霧に500時間を超える時間にわたり耐えることができる。
【0058】
図2Aから図2Fは、アルミニウムまたはアルミニウム合金で形成された基板110に、摩耗および腐食に対する保護を与えるコーティングを設けることを試みる、本方法の第2の実施態様を示す。
【0059】
最初に、基板110は、脱脂、すすぎ、および/または酸洗いステップなどの予備準備ステップを施され得る。
【0060】
表面110aおよび基板110がこの方法で準備されると、この部品は硫酸溶液に浸され、それにより、この部品に硫酸アノード酸化処理(SAO)を施す。この硫酸アノード酸化処理(SAO)の間、基板110の表層が酸化されて、多孔性アルミナ層140を形成し、こうして、図2Bに示す部品を得る。他の例では、溶液は酒石硫酸または、むしろリン酸を含む場合があり、それによって、それぞれ、酒石硫酸によるアノード酸化処理、またはリン酸によるアノード酸化処理が実施される。
【0061】
本方法の、この第2の実施態様の以下の各ステップは、上述の第1の実施態様の各ステップとほぼ同一である。液体ゾル−ゲル層120は、多孔性アルミナ層140の表面140aに塗布される。液体ゾル−ゲルは、次いで、アルミナ層140の細孔141に入り込み、細孔141を埋める。これにより、図2Cに示す部品が得られる。
【0062】
このゾル−ゲル堆積ステップが終了すると、この部品に、第1の実施態様のベーク工程と同様のベーク工程が施され、図2Dに示す部品となる。図2Dに示す部品では、固体化したゾル−ゲル層120’が多孔性アルミナ層140の細孔を覆うとともに埋める。
【0063】
このステップの終了時に、この部品の、特に耐摩耗処理がされる区域Uが機械加工され、それによって、基板110の酸化していない部分を露出させるように、固体化したゾル−ゲル層120’と多孔性アルミナ層140の両方を局所的に取り除く。図2Eに示すような、この方法で得られた部品には、次いで、脱脂および/またはすすぎステップなどの準備ステップが施され得る。
【0064】
この方法で準備がされた部品には、次いで、硬質アノード酸化処理(HAO)を施すために、硫酸溶液に浸される。硬質アノード酸化処理(HAO)の間、耐摩耗処理を施すための、機械加工ステップにおいて露出された区域Uにおける基板110の表層は酸化され、それによって硬質アルミナ層130を形成する。
【0065】
この方法で得られた部品は、最後に、図2Fに示されるような最終部品101を得るために、仕上げステップ、具体的には、すすぎまたは機械加工ステップが施され得る。そのような最終部品101は、こうして、耐摩耗処理が施された区域U内の、40μmから100μmの厚みを有する硬質アルミナ層30と、この区域Uの外側の、1μmから10μmの厚みを有する固体化したゾル−ゲル層120’上の、2μmから12μmの厚みを有するアルミナ層140とを含み得る。アルミナ層140の細孔も、ゾル−ゲルによって埋められている。そのような、ゾル−ゲル層120’に関連付けられたアルミナ層140は、塩水噴霧に700時間を超える時間にわたり耐えることができる。
【0066】
本開示に記載の実施態様は、非限定的な例によって与えられ、当業者は、本開示に照らして、本発明の範囲内としつつ、それらの実施態様を容易に修正するか、他の実施態様を予想することができる。
【0067】
さらに、それらの実施態様の様々な特徴は、単一で、または相互に組み合わせて使用され得る。それら特徴が組み合わせられる場合、各特徴は上述のように組み合わせられるか、他の方法で組み合わせられる。本発明は、本開示に記載の特定の組合せに限定されない。具体的には、それとは反対に明記されていなければ、1つの特定の実施態様を参照して記載された特徴は、同様の方式で、任意の他の実施態様に適用してもよい。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F