【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、アルミニウムまたはアルミニウム合金の基板に耐腐食および耐摩耗処理を施す方法であって、ゾル−ゲル層を形成するゾル−ゲル処理ステップと、ゾル−ゲル処理ステップの後に硬質酸化物層を形成する硬質酸化処理ステップと、を基板に施すことを含む方法に関する。
【0010】
本開示において、「層」との用語は、本開示の耐腐食および耐摩耗処理方法によって得られたコーティング内の、所与の構成の領域を指す。「層」との用語は、たとえば基板を酸化処理することにより、基板上に堆積された層、または最初の基板の層内に形成された層であってもよい。
【0011】
さらに、本開示では、各層は必ずしも互いに対して積層されておらず、いくつかの層は、他の層に対し重ねられるのではなく、並置されていてもよい。特に、硬質酸化物層は、ゾル−ゲル層に隣接するが、それにもかかわらず重ならないように設けられ得る。
【0012】
ゾル−ゲル処理を使用したそのような方法により、主にゾル−ゲルによって与えられる耐腐食性、および主に硬質酸化層によって与えられる耐摩耗性の、極めて良好な特性を付与する、アルミニウムまたはアルミニウム合金で形成された機械部品のためのコーティングを極めて容易に得ることが可能になる。
【0013】
ゾル−ゲル処理は今日、ガラス材料の分野においてよく知られており、溶融ステップを経ることなく、溶液内の分子前駆体を単に重合することによってガラス材料を得ることを可能にする。そのような処理は、混成有機/無機ガラスを合成するのに特に適している。この有機/無機化学構造、およびゾル−ゲルの強固な原子間結合により、外部の環境に対する良好なバリア特性がゾル−ゲル層に与えられ、また、それによって、極めて良好な腐食耐性がゾル−ゲル層に与えられる。これにより、たとえば海洋の条件、および、それによる塩気のある条件を含む大気腐食に機械部品が耐えることが可能になる。
【0014】
さらに、このバリア効果により、通常、硬質酸化処理中に生じる機械部品の劣化を防止することが可能になる。そのような状況下では、硬質酸化処理溶液に長く浸された後であっても、コーティングの耐腐食特性が維持される。
【0015】
ゾル−ゲルは有機化合物の含有量が大きいため、ゾル−ゲルはやはり、電気的に絶縁性である。そのような状況下では、硬質酸化処理において使用される電流はゾル−ゲル層を通過せず、したがって、このゾル−ゲル層の劣化を防止し、かつ、ゾル−ゲル層の下の基板の望ましくない酸化を防止する。ゾル−ゲル層は、こうして、硬質酸化処理に対して基板を保護するマスクを自然に形成する。この方法で、ゾル−ゲルによって処理されていないそれら区域のみ、またはゾル−ゲル層が除去されたそれら区域のみが硬質酸化処理される。この方法により、耐摩耗処理がされる層を形成することが容易になる。
【0016】
さらに、既存のゾル−ゲルが広範囲にわたるため、所望の特性を与えるのに最も適しており、かつ、REACh規制などの健康および環境の制約に最も適合するゾル−ゲルを選択することが可能である。
【0017】
さらに、ゾル−ゲル処理は迅速かつ容易に実施することができる。このゾル−ゲル処理ステップは特に、現行の製造ラインに容易に組み込むことができ、かつ従来のクロムのアノード酸化処理ステップよりも速い。さらに、そのような方法は、処理される区域に近づくことが困難である部品上に処理を施す場合を含め、実施が容易である。
【0018】
特定の実施態様では、硬質酸化処理ステップは硬質アノード酸化処理(HAO)ステップである。ゾル−ゲル処理の使用は、そのような実施態様に特に有利であり、この理由は、ゾル−ゲルにより、酸に対する良好な耐性が与えられ、硬質アノード酸化処理用の酸溶液に部品が耐えることが可能になるためである。
【0019】
他の実施態様では、硬質酸化処理ステップはマイクロアーク硬質酸化処理ステップである。このマイクロアーク硬質酸化処理ステップは、塩基性溶液の中で実施されることが好ましい。
【0020】
特定の実施態様では、本方法は、ゾル−ゲル処理ステップの前に追加の酸化物層を形成する追加の酸化処理ステップをさらに含む。酸化物層をゾル−ゲル層に関連付ける、そのような2層による保護は、コーティングの腐食耐性を強化する役割を果たす。さらに、ゾル−ゲル層が硬質酸化処理溶液に対して追加の酸化物層を保護し、したがって、この追加の酸化物層の劣化を防止する。
【0021】
特定の実施態様では、追加の酸化処理ステップは、硫酸を使用したアノード酸化(SAO)、酒石硫酸によるアノード酸化(tartro−sulfuric anodic oxidation)、またはリンによるアノード酸化である。
【0022】
特定の実施態様では、ゾル−ゲル処理ステップは、追加の酸化物層を事前に埋めるステップ無しに、追加の酸化物層上で生じる。この穴埋めステップは必ずしも必要ではなく、この理由は、ゾル−ゲルがそれ自体で、追加の酸化物層の層内細孔を部分的に、または完全に埋めることができるためである。
【0023】
特定の実施態様では、ゾル−ゲル処理ステップ中、ゾル−ゲルが追加の酸化物層の細孔内に入り込む。このことも、ゾル−ゲル層の追加の酸化物層上の接合を強化する。
【0024】
特定の実施態様では、ゾル−ゲル処理ステップは、ゾル−ゲル堆積サブステップおよびゾル−ゲルベークサブ工程を含む。ベークは、ゾル−ゲルを硬化させる役割を果たす。
【0025】
特定の実施態様では、ゾル−ゲル堆積サブステップは、基板をゾル−ゲル溶液に浸すことによって実施される。
【0026】
他の実施態様では、ゾル−ゲル堆積サブステップは、基板上にゾル−ゲルを吹き付けることによって実施される。
【0027】
特定の実施態様では、ベークサブ工程は、100℃から200℃の範囲、好ましくは、130℃から150℃の範囲で実施される。
【0028】
特定の実施態様では、ベークサブ工程は40分から60分の間だけ継続される。
【0029】
特定の実施態様では、使用されるゾル−ゲルの少なくとも一部は、グリシドキシプロピルトリメトキシシランを含む。
【0030】
特定の実施態様では、使用されるゾル−ゲルの少なくとも一部は、ICSによりIC23.5(登録商標)の名称で販売されたゾル−ゲルである。このゾル−ゲルは、ケロシンと接触する部品に特に適している。当然、同じ構成、または均等の構成を有する任意の他のゾル−ゲルが同様に良好に使用され得る。
【0031】
他の実施態様では、使用されるゾル−ゲルの少なくとも一部分は、ICSにより1K−EBSil(登録商標)の名称で販売されたゾル−ゲルである。このゾル−ゲルは、作動液と接触する部品に特に適している。当然、同じ構成、または均等の構成を有する任意の他のゾル−ゲルが同様に良好に使用され得る。
【0032】
具体的には、そのようなゾル−ゲルにより、ISO規格9227の試験に従って、塩水噴霧に最低500時間(h)耐えることが可能になる。
【0033】
特定の実施態様では、本方法は、ゾル−ゲル処理ステップと硬質酸化処理ステップとの間に実施される機械加工ステップをさらに含む。機械加工ステップの間、処理のための少なくとも1つの区域は、少なくともゾル−ゲル層をこの区域から除去するように機械加工される。そのようなステップにより、ゾル−ゲルで構成される電気絶縁層を局所的に除去することにより、基板の、特に耐摩耗処理がされる区域を新しくすることが可能であり、したがって、この区域に硬質酸化処理が施され得る。当然、特定の部品が、特に耐摩耗処理が施される複数の別個の区域を有してもよく、この場合、複数の別個の区域が機械加工され得る。この機械加工が原因で、得られたゾル−ゲル層および/または硬質酸化物層は不連続の場合がある。
【0034】
特定の実施態様では、本方法は、クロムのアノード酸化処理(CAO)ステップを含まない。
【0035】
本開示は、アルミニウムまたはアルミニウム合金の基板、ならびに上述の実施態様のいずれかに係る方法によって得られた耐腐食性および耐摩耗性のコーティングを備える機械部品をも提供する。
【0036】
本開示は、アルミニウムまたはアルミニウム合金の基板、ゾル−ゲル層、およびアルミニウム酸化物層を有する機械部品をも提供する。
【0037】
特定の実施形態では、本部品は、ゾル−ゲル層の下に位置する追加のアルミニウム酸化物層をも含む。
【0038】
特定の実施形態では、ゾル−ゲルは追加の酸化物層の細孔内に存在する。
【0039】
特定の実施形態では、ゾル−ゲルの少なくとも一部分は、上述のゾル−ゲルの内の1つである。
【0040】
特定の実施形態では、ゾル−ゲル層および硬質酸化物層は、基板の表面において隣接しているが、重なり合っていない。
【0041】
特定の実施態様では、ゾル−ゲル層は、1マイクロメートル(μm)から10μmの厚みを与える。
【0042】
特定の実施形態では、硬質酸化物層は、40μmから100μmの厚みを与える。
【0043】
特定の実施形態では、追加の酸化物層は、2μmから12μmの厚みを与える。
【0044】
本開示は、上述の実施形態のいずれかに係る機械部品を含むタービンエンジンにも関する。
【0045】
本開示は、上述の実施形態のいずれかに係る機械部品を含む着陸装置をも提供する。
【0046】
上述の特徴および利点などは、提案された方法の実施態様に関する以下の詳細の説明を読むことで明らかになる。この詳細な説明では、添付の図面を参照する。
【0047】
添付の図面は概略的であり、第一に、本発明の原理を説明することを試みる。
【0048】
図面において、各図面間で、同一の要素(または要素の各部分)は同じ参照符号によって識別される。さらに、異なる実施態様に属するが、類似の機能を与える要素(または要素の各部分)は、100、200等を加算した参照符号で図面において識別される。