(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明もまた、開口部をより広くできるようにすることを第1の目的として考案されたものである。
【0005】
加えて、本発明はまた、製造コストやサイズ、重量の低減に有利な構成を実現することを、第2の目的としている。すなわち、特許文献4で開示されている構成では、モータ等が第1扉(第1のドアパネル)とともに移動する構成であるため、モータに接続される電線等も移動する。その為、電線等には繰り返される屈曲や摩耗に十分耐える耐久性が要求され、断線防止のための各種保護部材の取り付けも必要となり、コスト高の要因となっていた。また、第1扉に駆動ユニットを取り付けた構造なので、その分、第1扉が重くなり、高負荷に対応する大型の駆動ユニットを装備しなければならなくなる。そして、戸袋は、第1扉の大重量を支持しつつ、大型の駆動ユニットが移動するための広い内部スペースを確保するために重く大きくなってしまう。大きく重い可動式ホーム柵は、プラットホームを占有し、設置のための補強工事を要する可能性が生じるためにどうしても敬遠されがちであった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための第1の発明は、先方ドアパネルと、前記先方ドアパネルを開閉方向に移動自在に支持する後方ドアパネルと、前記後方ドアパネルを開閉方向に移動自在に支持する戸袋部と、前記後方ドアパネルを前記戸袋部に対して移動させる駆動部と、一端部が前記先方ドアパネルの固定位置に接続され、他端部が前記後方ドアパネルに設けられた開閉方向に交差する方向のスライドレールにスライド可能に接続されて、一端部が他端部より先方側となる連結状態、および、後方側となる連結状態の両方向に状態遷移可能な第1リンクと、を備え、前記駆動部によって前記後方ドアパネルが移動される際に、前記第1リンクが2つの前記連結状態間を遷移することで、前記第1リンクを介して前記先方ドアパネルを押す状態と引く状態との2つの状態間を遷移して開閉する可動式ホーム柵である。
【0007】
第1の発明によれば、後方ドアパネルを駆動部で移動させれば、第1リンクによって先方ドアパネルを後方ドアパネルと連動して同じ方向へ移動させることができる。しかも、状態遷移しない構成では、第1リンクで先方ドアパネルを後方ドアパネルに対して押し出して移動させるしかなかったところが、第1リンクが状態遷移することにより、押し出して移動させることのみならず引っ張るように移動させることも可能になる。よって、従来よりも1つのリンクで先方ドアパネルを後方ドアパネルに対してより長い距離移動させることができる。つまり、逆説的に言えば、乗降用の開口部を従来より広くできる。
【0008】
二重引戸タイプの可動式ホーム柵であれば、先方ドアパネルと後方ドアパネルは、ホーム〜軌道のホーム柵の厚さ方向に重ねて戸袋部に収容することができる。
状態遷移しない従来構造では、どうしても先方ドアパネルは後方ドアパネルよりも開閉時に突出して露出する長さ(突出長)を短くせざるを得なかった。しかし、状態遷移する第1リンクを用いることで、先方ドアパネルをより後方まで移動できるので、先方ドアパネルの突出長を後方ドアパネル程度にまで長くすることができる。
従って、開口部の幅が同じ可動式ホーム柵を実現する場合、戸袋部の幅方向(開閉方向)の長さを従来よりも小さく構成し得る。よって、製造コストやサイズ、重量の低減についても有利な二重引戸タイプの可動式ホーム柵を提供することができる。
【0009】
第2の発明は、他端部が前記戸袋部に接続され、一端部が前記第1リンクの他端部とともに前記スライドレールにスライド可能に接続された第2リンクを備え、当該第2リンクも一端部が他端部より先方側となる連結状態、および、後方側となる連結状態の両方向に状態遷移可能である、第1の発明の可動式ホーム柵である。
【0010】
第2の発明によれば、後方ドアパネルについても、状態遷移可能な第2リンクで戸袋部と接続することができるので、状態遷移しないリンクを採用した場合よりも、後方ドアパネルをより戸袋部の奥へと引き込むことができるようになる。よって、更に戸袋部の幅方向(開閉方向)の長さを従来よりも小さくし得る。製造コストやサイズ、重量の低減についても更に有利となる。
【0011】
第3の発明は、前記第2リンクの他端部が、前記戸袋部に設けられた開閉方向に交差する方向のスライドレールにスライド可能に接続されている、第2の発明の可動式ホーム柵である。
【0012】
第3の発明によれば、戸袋部の幅方向(開閉方向)の長さに影響を与えずに、第2リンクの他端部をスライドさせるリンク機構を採用することができる。
【0013】
第4の発明は、前記第1リンクの一端部および他端部と、前記第2リンクの一端部および他端部とは、1)全閉時において、前記第1リンクの一端部が最も先方側に、且つ、前記第2リンクの他端部が最も後方側に位置し、2)全開時において、前記第2リンクの他端部が最も先方側に、且つ、前記第1リンクの一端部が最も後方側に位置する、ように構成された第2又は第3の発明の可動式ホーム柵である。
【0014】
第4の発明によれば、第1リンクと第2リンクとの双方がそれぞれ状態遷移しつつ、更に両者間の相対位置それ自体も、ドアパネルの開閉方向に沿って前後逆転するように状態遷移する。よって、第1リンクと第2リンクとを使ってドアパネルの移動距離を稼ぐことができる。
【0015】
第5の発明は、前記第1リンクの一端部の固定位置は、前記先方ドアパネルの下部に設けられ、前記第1リンクの他端部は、前記第1リンクの一端部より高い位置で前記後方ドアパネルのスライドレールをスライドする、第1〜第4の何れかの発明の可動式ホーム柵である。
【0016】
近年の可動式ホーム柵では、外装パネル(又はドアパネルのフレームに嵌め込まれる嵌め込みパネルを含む。)を透明とすることでプラットホーム上の旅客にとって視界を広げる見通しの良いデザインが好まれている。しかし、外装パネルを透明にするとどうしても内部構造が丸見えとなり、目障りとなり易い。
しかし、第5の発明によれば、第1リンクをできるだけホーム柵の下側に設けることができるので、外装パネルを透明とした場合でも内部構造が目障りになりにくくなる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔第1実施形態〕
本発明を適用した可動式ホーム柵の第1実施形態について説明する。
図1は、第1実施形態の可動式ホーム柵をプラットホーム側から見た正面図であって、(1)全閉状態と、(2)全開状態とを示した図である。
【0019】
本実施形態の可動式ホーム柵10は、先方ドアパネル20と、後方ドアパネル30との2つのドアパネルを戸袋部40に収容可能にした「二重引戸タイプ」のホーム柵である。図示のように、本実施形態の可動式ホーム柵10は、先方ドアパネル20と後方ドアパネル30とを戸袋部40の正面向かって左側方から出し入れし、プラットホーム3から見て車両乗降位置の右側に戸袋部40が設置される「右設置型」として例示されているが、構造を左右逆転させた「左設置型」、すなわち先方ドアパネル20と後方ドアパネル30とを戸袋部40の右側方から出し入れし、プラットホーム3から見て車両乗降位置の左側に戸袋部40が設置される構成とすることもできる。そして、プラットホーム3には、車両乗降位置の左右に「右設置型」と「左設置型」とを配置して使用する。或いは、車両乗降位置別に「右設置型」又は「左設置型」を単体で配置して使用するとしても良い。
【0020】
戸袋部40には、後方ドアパネル30をドア開閉方向へ移動させる駆動部12と、駆動部12の動作を制御する制御装置14と、が内蔵されている。勿論、これら以外の装備も適宜内蔵することができる。
【0021】
駆動部12は、電動モータ12mと直動機構12dを有し、ともに戸袋部40に固定されている。直動機構12dの種類は、適宜選択可能である。例えば、ボールネジを用いたタイプ、ラック・アンド・ピニオンを用いたタイプ、ガイドレールとベルト駆動とを用いたタイプ、などを選択可能である。
【0022】
制御装置14は、外部からの駆動命令に従って駆動部12の電動モータを駆動制御するための電子・電気部品を備える。
【0023】
なお、駆動部12及び制御装置14は、適宜公知技術を用いて実現可能なので、以降の説明及び図示を適宜省略するものとする。
【0024】
図2は、先方ドアパネル20の構成例を示す3面図であって、(1)上面図、(2)正面図、(3)正面向かって右側の側面図である。なお、構造の理解が容易となるように、外装パネルや嵌め込みパネルと言ったパネル材の図示は省略したスケルトン表示としている。
【0025】
図2に向かって先方ドアパネル20のドアフレーム21の正面(プラットホーム側の側面)右方寄り(開閉する先端を先方側とすると後方寄り)の上下それぞれに、先方ドアパネル20を後方ドアパネル30に対してドア開閉方向へ移動自在に支持する直動機構50が接続される。具体的には、先方ドアパネル20は、直動機構50のレール54(後方ドアパネル30に固定されている。)と係合するスライダ52に固定される。
【0026】
また、下方の直動機構50には、後述するリンク機構を接続位置可変に接続する接続位置調整板25が固定されている。接続位置調整板25は、ドア開閉方向に沿って設置位置が異なる複数のジョイントピン26を備える。複数のジョイントピン26を用意することで、先方ドアパネル20の移動量を調整可能として、開口幅が変更可能となる。
【0027】
図3は、後方ドアパネル30の構成例を示す3面図であって、(1)上面図、(2)正面図、(3)正面向かって右側の側面図である。なお、構造の理解が容易となるように、外装パネルや嵌め込みパネルと言ったパネル材の図示は省略したスケルトン表示としている。
【0028】
図3に向かって後方ドアパネル30の背面(軌道側の側面)の左方寄り(開閉する先端を先方側とすると、その先方寄り)の上下それぞれに、直動機構50のレール54が、ドア開閉方向に沿って固定されている。
【0029】
また、後方ドアパネル30の上面の後方寄り(
図3の右方寄り)には、当該ドアを戸袋部40に対してドア開閉方向へ移動自在に支持する直動機構60のガイドレール64(戸袋部40に固定されている。)と係合するガイドローラ62が取り付けられている。
【0030】
また、後方ドアパネル30の下部の後方寄り(
図3の右方寄り)には、スライダ支持部32を介して、当該ドアパネルを戸袋部40に対してドア開閉方向へスライド自在に支持する2つ目の直動機構70のレール74(戸袋部40に固定されている。)と係合するスライダ72が固定されている。
【0031】
また、ドアフレーム31の後方寄りの枠体の後方側面(
図3の右側側面)には、スライダ82を上下方向に沿って設置されたレール84でスライド自在に支持する直動機構80が設けられている。
スライダ82には、プラットホーム側から軌道側を向いた水平な挿通孔が設けられている。当該挿通孔には、ジョイントピン86が遊嵌可能で、ジョイントピン86が当該挿通孔内で回転自在に挿通される。そして、ジョイントピン86のプラットホーム側と軌道側とには後述するリンク部材がそれぞれ連結される。
【0032】
図4は、戸袋部40の構成例を示す3面図であって、(1)上面図、(2)正面図、(3)正面向かって右側の側面図である。なお、構造の理解が容易となるように、外装パネルや嵌め込みパネルと言ったパネル材の図示は省略したスケルトン表示としている。
【0033】
戸袋部40は、戸袋フレーム41の上部に、ホーム〜軌道方向の複数の梁部42と、これら梁部42の下面にドア開閉方向に沿って吊り下げられた直動機構60のガイドレール64と、を備える。
【0034】
また、戸袋部40は、戸袋フレーム41の底部に、ドア開閉方向に沿った複数の底桁部43を有し、この底桁部43の上面に直動機構70のレール74を備える。
【0035】
また、戸袋部40は、戸袋フレーム41の正面側(プラットホーム側)に、ドア開閉方向の中央やや先方寄り(
図4の左寄り)に中間柱部44を有している。そして、この中間柱部44の先方側立面(
図4の左側側面)には、スライダ92を上下方向に沿って設置されたレール94でスライド自在に支持する直動機構90が設けられている。
【0036】
図5は、先方ドアパネル20と後方ドアパネル30との組み付け関係を示す図である。
先方ドアパネル20のスライダ52を、後方ドアパネル30のレール54に係合させて、先方ドアパネル20と後方ドアパネル30とを組み付ける。直動機構50が、スライダ52とレール54とを分離/係合するのに手間を要する構成の場合には、先方ドアパネル20を直動機構50のスライダ52に固定するとしてもよい。
【0037】
図6は、先方ドアパネル20が組み付けられた後方ドアパネル30と戸袋部40との組み付け関係、及び先方ドアパネル20と後方ドアパネル30とを連動させるリンク機構の構成例を示す図である。
図6(1)は可動式ホーム柵10の正面図、
図6(2)は同正面向かって右側の側面図、である。
【0038】
先方ドアパネル20が組み付けられた後方ドアパネル30のガイドローラ62を、戸袋部40のガイドレール64に挿入しつつ、後方ドアパネル30のスライダ72を戸袋部40のレール74に係合させて組み付ける。直動機構70が、スライダ72とレール74とを分離/係合するのに手間を要する構成である場合には、後方ドアパネル30を直動機構70のスライダ72に固定するとしてもよい。
【0039】
本実施形態のリンク機構は、後方ドアパネル30の移動にともなって先方ドアパネル20を、後方ドアパネル30に対して同方向に連動させるための機構であって、両端にジョイントを有するロッド状の第1リンク101及び第2リンク102を有する。
【0040】
図6(3)は第1リンク101の上面図、
図6(4)は第1リンクの正面図、
図6(5)は第2リンク102の上面図、
図6(6)は第2リンク102の正面図、である。
【0041】
第1リンク101は、先方ドアパネル20と後方ドアパネル30とを接続するリンクである。第1リンク101の先方側(
図6の左側)である一端部は、先方ドアパネル20の接続位置調整板25のジョイントピン26(ドア開閉方向と直交する水平軸となるピン)で接続される。つまり、第1リンク101は先方ドアパネル20に対して、ドア開閉方向に沿った立面で傾斜自在に接続されている。
【0042】
対して、第1リンク101の後方側(
図6の右側)である他端部は、後方ドアパネル30の直動機構80のスライダ82の軌道側にて、ジョイントピン86(ドア開閉方向と直交する水平軸となるピン)と、所定の相対位置関係で固定されている。つまり、第1リンク101の他端部は、接続高さ位置が可変に後方ドアパネル30と接続されている。
【0043】
第2リンク102は、後方ドアパネル30と戸袋部40とを接続するリンクである。
第2リンク102の先方側である一端部は、後方ドアパネル30の直動機構80のスライダ82のプラットホーム側にてジョイントピン86と所定位置で固定されている。つまり、第2リンク102の一端部は、接続高さ位置が可変に後方ドアパネル30と接続されている。
【0044】
対して、第2リンク102の後方側である他端部は、戸袋部40の直動機構90のスライダ92の軌道側にてジョイントピン96(ドア開閉方向と直交する水平軸となるピン)で接続されている。つまり、第2リンク102は、高さ位置可変なスライダ92を介して戸袋部40と接続されている。
【0045】
そして、第1リンク101と第2リンク102とは、プラットホーム側から見て両者が直線状を成す相対姿勢でジョイントピン86を介して一体に固定されている。つまり、第1リンク101と第2リンク102とは、中間位置でジョイントピン86によりクランクを成しつつも剛体的接続状態にある。
【0046】
次に、
図6〜
図9を参照して、本実施形態の可動式ホーム柵10の動作を説明する。これら各図中の(1)が可動式ホーム柵10の正面図、各図中の(2)が可動式ホーム柵の正面向かって右側の側面図である。そして、これらの図は、図番号順に、ドアパネルが全閉となる「全閉状態」からドアパネルが全開となる「全開状態」までの状態遷移を表している。
【0047】
先ず、
図6に示すように、全閉状態にあるとき、可動式ホーム柵10の先方ドアパネル20は後方ドアパネル30に対して最も先方側に突出した状態にあり、後方ドアパネル30は戸袋部40に対して最も先方側に突出した状態にある。つまり、先方ドアパネル20と後方ドアパネル30は共に戸袋部40から最も突出した状態にある。当然、プラットホーム3では可動式ホーム柵10の開口部が閉じられていることになる。
【0048】
全閉状態にあるとき、第1リンク101と第2リンク102を正面側(プラットホーム側)から見ると、両者は後方側(
図6に向かって右側)が高く先方へ向けて傾斜する直線状(又は略直線状)を成した「先方傾斜連結状態」にある。
【0049】
「先方傾斜連結状態」を、第1リンク101と第2リンク102の各ジョイント(端部)に着目して見れば、第1リンク101の一端部(ジョイントピン26)が最も先方側に、且つ、第2リンク102の他端部(スライダ92,ジョイントピン96)が最も後方側に位置している。また、第1リンク101の一端部が最も相対的に低い位置に、且つ、第2リンク102の他端部が最も相対的に高い位置にある。つまり、第1リンク101と第2リンク102ともに、一端部が他端部より先方側となる傾斜姿勢を有する連結状態にある。
【0050】
ここから可動式ホーム柵10を全開状態にするには、駆動部12(
図1参照)により後方ドアパネル30を後方(
図6の右方、戸袋部40側)へ移動させることになる。すると、後方ドアパネル30の戸袋部40からの突出長が縮まり始める。第2リンク102はこの突出長の縮まりに対応すべく姿勢を変化させる。すなわち、後方ドアパネル30が後方に移動されることでジョイントピン86も後方に移動するが、このとき、第2リンク102は先方傾斜状態にあるため、その傾斜角度を大きくする方向に力が作用する。つまり、スライダ82及びジョイントピン86(第2リンク102の一端部)が上方に移動しつつ、それより早い速度でスライダ92及びジョイントピン96(第2リンク102の他端部)が上方に移動する。また、スライダ82及びジョイントピン86(第1リンク101の他端部)が上方に移動するのに伴って、第1リンク101は、ジョイントピン26(第1リンク101の一端部)を引っ張るように作用し、先方傾斜状態の傾斜角度を大きくしていく。
【0051】
前述のように、第1リンク101と第2リンク102とは、それぞれジョイントピン86と所定位置で固定されているので、これら3つの要素は中間位置でクランクを成しつつも剛体的接続状態にあり、一本のロッドのように振る舞う。後方ドアパネル30の戸袋部40からの突出長の縮小化に対応すべく、第2リンク102が姿勢を変化させるということは、「第1リンク101・ジョイントピン86・第2リンク102の三位一体の仮想ロッド」の姿勢が変化することにつながるのである。
【0052】
より詳細に説明する。全閉状態では、前述のように第1リンク101は、先方ドアパネル20が後方ドアパネル30に対して最も突出した状態にあり、第1リンク101は、これ以上、傾斜が寝る方向に変化(横倒しになる方向の姿勢変化)することがない。すなわち、スライダ82はレール84に沿って下方へ移動することができない。対して、第2リンク102の他端側すなわちスライダ92はレール94でスライド自在であり、且つ第2リンク102の一端部(ジョイントピン86)より他端部(ジョイントピン96或いはスライダ92)の方が高くなっている。
【0053】
その結果、後方ドアパネル30の後方への移動によって、ジョイントピン86および第2リンク102を介して、スライダ92(第2リンク102の他端部)をレール94に沿って上方へ押し上げる力が作用する。すると、ジョイントピン86を介して仮想的に一体となっている「第1リンク101・ジョイントピン86・第2リンク102の三位一体の仮想ロッド」に対しては、ジョイントピン26を支点として、立てる方向へ力が作用することになる。
【0054】
すると、
図7に示すように、第2リンク102の傾斜角度が増加しつつ上方へ引っ張り上げられ、当該第2リンク102と仮想ロッドの一部を成すジョイントピン86も上方へ引っ張り上げられ、スライダ82をレール84に沿って上方へ移動させる。そして、スライダ82が上方へ移動することにより、今度は第1リンク101の傾斜角度が増加しつつ上方へ引っ張り上げられ、第1リンク101の一端部であるジョイントピン26がドアパネルの閉方向(後方方向)へと移動することとなる。その結果、先方ドアパネル20も戸袋部40の方向へ移動されることとなる。
【0055】
駆動部12による後方ドアパネル30の戸袋方向への移動が続き、後方ドアパネル30が更に後方に移動されると、先方ドアパネル20と後方ドアパネル30とが戸袋部40の中に徐々に収容されてゆく。その過程で、「第1リンク101・ジョイントピン86・第2リンク102の三位一体の仮想ロッド」が垂直になる。
【0056】
更に後方ドアパネル30の移動が続くと、
図8に示すように、やがて第2リンク102の一端部であるスライダ82は、その他端部であるスライダ92の下を通って、スライダ92よりも後方側(
図8(1)の右側)へと移動する。「第1リンク101・ジョイントピン86・第2リンク102の三位一体の仮想ロッド」全体をプラットホーム側から見れば、当該仮想ロッドの下端位置が先方側から後方側へスイングした格好となる。
【0057】
そして、スイングする過程で、スライダ82がスライダ92よりも後方側に移動するため、これに伴って、第2リンク102には傾斜角度が低下するように、つまり横倒しになるように作用する力が生じる。
【0058】
この時、「第1リンク101・ジョイントピン86・第2リンク102の三位一体の仮想ロッド」として見れば、第1リンク101の一端部(
図8(1)に向かって右端部)は、高さ固定に先方ドアパネル20と接続されているので、スライダ82がレール84に沿って下がることで、第1リンク101の傾斜角度が低下していく。
そして、第1リンク101の傾斜角度が低下すると、一体的に仮想ロッドを成している第2リンク102の傾斜角度も低下していく。つまり、先方ドアパネル20が戸袋部40の中に更に引き込まれていく。
【0059】
やがて、後方ドアパネル30が戸袋部40に一杯まで引き込まれたところで駆動部12が停止され、
図9に示すように、可動式ホーム柵10は「全開状態」となる。
【0060】
「全開状態」にあるとき、「第1リンク101・ジョイントピン86・第2リンク102の三位一体の仮想ロッド」を正面側(プラットホーム側)から見ると、先方側が高く後方へ向けて傾斜する直線状又は略直線状を成した「後方傾斜連結状態」にある。
【0061】
「後方傾斜連結状態」を、第1リンク101と第2リンク102の各ジョイント(端部)に着目して見れば、第1リンク101の一端部(ジョイントピン26)が最も後方側に、且つ、第2リンク102の他端部(スライダ92,ジョイントピン96)が最も先方側に位置している。また、第1リンク101の一端部が最も相対的に低い位置に、且つ、第2リンク102の他端部が最も相対的に高い位置にある。
つまり、第1リンク101と第2リンク102とは、ともに、他端部が一端部より先方側となる傾斜姿勢を有する連結状態にある。
【0062】
可動式ホーム柵10を、全開状態から全閉状態に戻すには、後方ドアパネル30を先方へ(
図9(1)に向かって左方向へ)移動させるように駆動部12を制御すればよい。すなわち、先に説明した
図6→
図7→
図8→
図9の順に生じた「第1リンク101・ジョイントピン86・第2リンク102の三位一体の仮想ロッド」の状態遷移が、
図9→
図8→
図7→
図6の逆順に状態遷移する。
【0063】
なお、第1リンク101と先方ドアパネル20との連結位置を変更することで、全閉状態における先方ドアパネル20の後方ドアパネル30に対する相対位置、謂わば突出長を変更し、開口幅の調整が可能となる。
【0064】
以上、本実施形態によれば、プラットホームの乗降用の開口部をより広く設けることができて、製造コストやサイズ、重量の低減に有利な二重引戸タイプの可動式ホーム柵10を提供することができる。
【0065】
すなわち、後方ドアパネル30を駆動部12で移動させれば、第1リンク101によって先方ドアパネル20を後方ドアパネル30と連動して同じ方向へ移動させることができる。しかも、第1リンク101が状態遷移することにより、先方ドアパネル20を後方ドアパネル30に対して押し出すように移動させることのみならず引っ張るように移動させることも可能になる。よって、従来よりも先方ドアパネル20を後方ドアパネル30に対してより長い距離移動させることができる。逆説的に言えば、乗降用の開口部を従来より広くできる。
【0066】
しかも、二重引戸タイプの可動式ホーム柵10なので、先方ドアパネル20と後方ドアパネル30は、ホーム〜軌道のホーム柵の厚さ方向に重ねて戸袋部に収容することができる。
【0067】
状態遷移しない従来構造では、どうしても先方ドアパネル20は後方ドアパネル30よりも開閉時の突出長を短くせざるを得なかった。しかし、状態遷移する第1リンク101を用いることで、先方ドアパネル20をより後方まで移動できるので、先方ドアパネル20の突出長を後方ドアパネル30程度にまで長くすることができる。
【0068】
従って、本実施形態の二重引戸タイプの可動式ホーム柵10で、従来と同じ開口部の幅(すなわちドアパネルの突出長)を実現する場合には、戸袋部40の幅方向(開閉方向)の長さを従来よりも小さく構成し得る。よって、製造コストやサイズ、重量の低減についても有利な二重引戸タイプの可動式ホーム柵10を提供することができる。
【0069】
更に、後方ドアパネル30についても、状態遷移可能な第2リンク102で戸袋部40と接続することができるので、状態遷移しないリンクを採用した場合よりも、後方ドアパネル30をより戸袋部40の奥へと引き込むことができるようになる。よって、更に戸袋部40の幅方向(開閉方向)の長さを従来よりも小さくし得る。製造コストやサイズ、重量の低減についても更に有利となる。
【0070】
しかも、本実施形態では、駆動部12を戸袋部40に搭載するので、後方ドアパネル30に駆動部12を搭載してその重量を増やさずに済む。従って、駆動部12を後方ドアパネル30に搭載する構成に比べれば、駆動部12の出力は小さいもので良く、低価格なもので済む。そして、駆動部12は、後方ドアパネル30とともに戸袋部40内を移動することがないため、戸袋部40が大きく重くなることはない。
【0071】
なお、本実施形態では、第1リンク101の一端部を、先方ドアパネル20の下部に接続する構成としているが、先方ドアパネル20の上部に接続する構成とすることもできる。すなわち、先方ドアパネル20を後方ドアパネル30の移動に連動させるリンク機構の配置を本実施形態とは上下反転させた配置も可能である。
【0072】
但し、リンク機構の配置を本実施形態とは上下反転させた配置構成では、先方ドアパネル20や後方ドアパネル30、戸袋部40の外装パネルを透明板としたときに、上記実施形態よりもリンク機構がより上の位置になるので、プラットホーム上の旅客にとって上記実施形態よりもリンク機構が若干目につき易くなる点に留意すべきである。
【0073】
〔第2実施形態〕
次に、本発明を適用した可動式ホーム柵の第2実施形態について説明する。
なお、本実施形態における可動式ホーム柵は、基本的には第1実施形態と同様に実現できるので、第1実施形態と同様の構成要素については第1実施形態と同じ符号を付与することとする。そして、以降では、主に第1実施形態との差異について述べることとする。
【0074】
図10は、本実施形態における可動式ホーム柵10Bのプラットホーム側から見た全閉状態における正面図である。
図11は、同可動式ホーム柵10Bのプラットホーム側から見た全開状態における正面図である。なお、これらの図では、先方ドアパネル20・後方ドアパネル30・戸袋部40の外装パネルの図示、並びに駆動部12及び制御装置14(
図1参照)の図示は省略されている。
【0075】
本実施形態の可動式ホーム柵10Bでは、直動機構90が省略され、第2リンクの他端部が、戸袋フレーム41の正面下部に設けられた正面桁部46にて、水平方向のジョイントピン106にて接続されている。
【0076】
そして、第1実施形態では、第1リンク101とジョイントピン86と第2リンク102が相互に固定されていて三位一体の仮想ロッドを構成していたが、本実施形態では、第1リンク101はジョイントピン86周りに回転自在であり、第2リンク102はジョイントピン86周りに回転自在に構成されており、第1リンク101と第2リンク102とは異なる傾斜角度で作用するため、三位一体の仮想ロッドとしては機能しない。
【0077】
本実施形態におけるリンク機構の連結状態は次のようになる。
すなわち、
図10に示す全閉状態のそれでは、第1実施形態の全開状態の連結状態と同様に、第1リンク101の一端部のジョイントピン26が最も先方側(
図10に向かって左側)にあり、次に第1リンクの他端部及び第2リンク102の一端部のスライダ82、第2リンク102の他端部のジョイントピン106が最も後方側となる。高さ方向では、スライダ82が最も高い位置となる。
【0078】
図11に示す全開状態のそれでは、第1実施形態の全開状態の連結状態と同様に、第1リンク101の一端部のジョイントピン26が最も後方側(
図11に向かって右側)にあり、第2リンク102の他端部のジョイントピン106が最も先方側となる。第1リンク101の他端部及び第2リンク102の一端部のスライダ82はその中間部に位置することとなる。また、高さ方向では、スライダ82が最も高い位置となる。
【0079】
本実施形態は、先方ドアパネル20を後方ドアパネル30と連動させるリンク機構の構造が第1実施形態と異なるが、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0080】
〔変形例〕
なお、本発明を適用可能な形態は、上記実施形態に限らず、適宜構成要素の追加・省略・変更を施すことができる。
【0081】
[その1]
例えば、
図12の可動式ホーム柵10Cのように、第1実施形態の可動式ホーム柵10をベースにして、後方ドアパネル30の軌道側外装パネル34を、先方ドアパネル20の軌道側を覆うことができる形状にデザインし、後方ドアパネル30を戸袋状とする構成も可能である。同じことは、第2実施形態の可動式ホーム柵10Bをベースにしても適用できる。この場合、後方ドアパネル30は、先方ドアパネル20に対する戸袋の機能を更に有することになる。
【0082】
[その2]
また、
図13は、可動式ホーム柵10Dの変形例を示す図であって、(1)プラットホーム側から見た正面図、(2)正面向かって右側の側面図である。外装パネル、駆動部12、制御装置14の図示は省略している。可動式ホーム柵10Dのように、第1実施形態の可動式ホーム柵10をベースにして、スライダ82に緩衝部87を追加することもできる。
【0083】
緩衝部87は、例えば、スライダ82をドア開閉方向に延長した端部下面に衝撃吸収のための弾性体(図示の例では、コイルスプリング)を垂下して実現できる。更にダンパーを内蔵するとしてもよい。
【0084】
緩衝部87があることで、可動式ホーム柵10Dが全開状態或いは全閉状態に達する直前に緩衝部87が後方ドアパネル30と接触して(具体的には、緩衝部87が、スライダ支持部32を取り付けたドアフレーム31の下端部の上面に先行して接触して)、スライダ82を減速停止させることができる。よって、先方ドアパネル20や後方ドアパネル30が戸袋部40から突出しきって一気に止まる際の衝突や、逆に収納しきって一気に止まる際の衝突を和らげることができる。
【0085】
更に言えば、駆動部12にブレーキ構造を持たせるとともに、全開状態或いは全閉状態において緩衝部87が自由長より圧縮されエネルギーを蓄えた状態で、当該ブレーキを作動させるようにするならば、全開/全閉を反転させる際に緩衝部87で蓄えられていたエネルギーを解放し、リンク機構の動き出しをスムーズにすることができる。
【0086】
なお、緩衝部87は、第2実施形態においても同様に追加できる。
【0087】
[その3]
また、
図14の可動式ホーム柵10Eのように、1つの戸袋部40から左右両方に先方ドアパネル20と後方ドアパネル30を突出させる構成も可能である。つまり、第1実施形態又は第2実施形態で示した可動式ホーム柵を、2セット用意して、戸袋部40と制御装置14とを共通化して一体化する構成も可能である。