【0017】
本発明によるフィルムは、ポリマー材料からなるフィルムに微細な空孔が分散形成された、多孔質の低誘電性ポリマーフィルムであって、ベース材料層の表面に、ベース材料層のポリマー材料からなる実質的に平滑なスキン層が形成されているものである。
本発明によるフィルムにおけるスキン層は、ベース材料層の一方又は両方の表面に形成される層であって、ベース材料層を構成するポリマー材料と同じポリマー材料により構成されるものである。本発明によるフィルムが備えるベース材料層が、微細な空孔が分散形成されているものであるのに対し、スキン層にはそのような空孔がほとんど又は全く存在せず、実質的に平滑であることが、例えば顕微鏡観察などにより確認される。
本発明によるフィルムにおいて、スキン層の厚さは、フィルム全体の誘電率を上昇させないという観点から、フィルム全体の厚さの10%未満であるのが望ましく、5%以下であるのがさらに望ましい。また、スキン層の厚さは、フィルム全体の誘電率を低く抑えながらも平滑なスキン層を形成するという観点から、1〜5μmであるのが望ましい。スキン層の厚さは、走査電子顕微鏡(SEM)観察のような方法により測定することができる。
スキン層は、その上に配線を形成する際のメッキ加工の容易性等の観点から、液体不透過性であるのが望ましい。
本発明によるフィルムは、高いアンテナ利得を得るために低誘電化されていることが望ましい。この観点から、その空孔率が望ましくは60%以上である。フィルムの空孔率は、95%以下であるのが望ましい。フィルムの空孔率は、電子比重計にて測定した無孔フィルムの比重と、多孔フィルムの比重とより、計算で求めることができる。
本発明によるフィルムはまた、空孔が粗大化すると、多孔質のフィルムの曲げ時の機械強度が著しく低下する、という観点から、空孔の平均孔径が10μm以下である。さらに、本発明によるフィルムにおいて、スキン層は、多孔質のフィルムの表面にアンテナ用の配線を形成する際に有用であるが、その際、スキン層の表面に凹凸があると、その上に形成された配線にも凹凸が形成されてしまう。このため、スキン層は平滑である必要がある。一方、スキン層が厚いと、フィルム全体の誘電率が上昇してしまうため、スキン層は薄くする必要がある。本発明によれば、空孔の平均孔径を10μm以下とすることにより、多孔質のフィルムの表面に薄く平滑なスキン層を形成することが容易に実現できる。
また、多孔質のフィルムの曲げ時の機械強度をより向上させる観点から、さらには、スキン層の平滑性を一層向上させる観点から、空孔の孔径分布の半値全幅が10μm以下であるのが望ましい。空孔の平均孔径や半値全幅は、フィルムの断面SEM写真の画像解析により測定することができる。
【実施例】
【0034】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、実施例1〜5のうち、実施例1〜3は参考例であって、実施例4〜5のみが本発明の実施例である。
【0035】
(スキン層の厚み、平均孔径及び孔径分布の評価)
スキン層の厚み、平均孔径及び孔径分布は、走査電子顕微鏡(日本電子(株)製 JSM-6510LV)を用いて多孔形状を観察することにより行った。サンプルを剃刀にて切断して、断面は露出させた。さらに表面に白金蒸着後、観察を行った。スキン層の厚み、平均孔径及び孔径分布(半値全幅)は、SEM画像解析より算出した。画像解析は、SEM像に2値化を施し、孔を識別後、孔径を算出し、ヒストグラム化した。解析ソフトはImageJを用いた。また、孔径評価における孔径は、より実際の構造を表している最大径を値として適用した。
【0036】
(空孔率の評価)
比重は電子比重計(アルファーミラージュ(株)製 MD-3005)を用いて測定した。また、空孔率は下記式を用いて算出した。
空孔率(%)=(1−ポリイミド多孔体の比重/ポリイミド無孔体の比重)×100
【0037】
(電気特性の評価)
PNAネットワークアナライザー(アジレント・テクノロジー社製)、SPDR共振器を用いて、10GHzの比誘電率および誘電正接を測定した。また、ベクトルネットワークアナライザ、開放型共振器を用いて60GHzの比誘電率および誘電正接を測定した。
【0038】
(曲げ時の機械強度の評価)
曲げ時の機械強度は、多孔フィルムを90°の角度になるまで折り曲げ、その際の破壊の有無について観察し、評価した。
【0039】
(メッキ加工性の評価)
得られたフィルムにスパッタ処理と電解めっきを行い、厚み12umのCu箔層を形成した後、実際の配線形成の加工プロセス(サブトラクティブ法)に通して、フィルム内にめっき液が侵入しないかの確認実験を行った。その後、フィルムの断面にX線マイクロアナライザー(XMA)分析を行い、めっき液由来の元素(Cu、Sなど)の検出有無について確認を行った。検出されない場合を、加工性あり、と評価した。
【0040】
(液浸性の評価)
ポリイミド多孔体断面を剃刀にて切断して、露出させた。赤色浸透液(太洋物産(株)製NRC-ALII)に5分間浸漬後、表面に付着した浸透液をふき取った。ポリイミド多孔体をさらに露出断面に対し垂直に切断し、液浸長を光学顕微鏡により評価した。
【0041】
(潰れ評価)
ポリイミド多孔体を50mm×50mmに切り出し、熱プレスを用いて、180℃、3MPaで60分間加圧した。プレス前後での厚みを測定し、その値から、プレス後の厚みの減少を変化率として算出した。
【0042】
(マイグレーション試験)
ポリイミド多孔体に、1.52mmピッチで孔径が0.3mmのスルーホールを作製し、スルーホールにプラス電極とマイナス電極とを形成し、85℃/85%RHにおいて電極間に60Vの電圧を印加して、絶縁抵抗値を測定した。
【0043】
参考例
(ポリイミド前駆体[BPDA/PDA, DPE]の合成)
撹拌機および温度計を備えた1000mlのフラスコに、p-フェニレンジアミン(PDA)43.2 gおよびジアミノジフェニルエーテル(DPE)20gをいれ、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)768.8gを加えて撹拌し、溶解させた。次いで、この溶液にビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)147gを徐々に添加し、40℃にて2時間撹拌し、反応促進した。さらに75℃にて12時間撹拌し、エージング処理を行い、固形分濃度20wt%のポリイミド前駆体溶液を得た。このポリイミド前駆体の組成は物質量比でPDA:DPE:BPDA=0.8mol:0.2mol:1molである。
【0044】
実施例1
参考例で得られたポリイミド前駆体溶液に重量平均分子量が400のポリプロピレングリコール(日油(株)製 グレード:D400)をポリイミド樹脂前駆体100重量部に対し200重量部添加し、さらにジメチルアセトアミドを400重量部加え、撹拌して透明な均一溶液を得た。得られた溶液にイミド化触媒として2-メチルイミダゾールを4.2重量部、化学イミド化剤として安息香酸無水物を5.4重量部添加し、配合液とした。この配合液をダイ方式でPETフィルムまたは銅箔に塗工し、85℃で15分間熱風乾燥させて、厚み100μmの相分離構造を有するポリイミド前駆体フィルムを作製した。
このフィルムを40℃にて30MPaに加圧した二酸化炭素に浸漬、8時間流通することで、ポリプロピレングリコールの抽出除去および残存NMPの相分離、孔形成を促進した。その後、二酸化炭素を減圧し、ポリイミド前駆体の多孔フィルムを得た。
さらに得られたポリイミド前駆体の多孔フィルムを真空下、380℃で2時間熱処理し、残存成分の除去およびイミド化を促進することで、ポリイミド多孔フィルムを得た。
【0045】
実施例2
参考例で得られたポリイミド前駆体溶液に重量平均分子量が400のポリプロピレングリコール(日油(株)製 グレード:D400)をポリイミド樹脂前駆体100重量部に対し200重量部添加し、さらにジメチルアセトアミドを400重量部加え、撹拌して透明な均一溶液を得た。得られた溶液にイミド化触媒として2-メチルイミダゾールを4.2重量部、化学イミド化剤として安息香酸無水物を1.1重量部添加し、配合液とした。この配合液をダイ方式でPETフィルムまたは銅箔に塗工し、85℃で15分間熱風乾燥させて、厚み100μmの相分離構造を有するポリイミド前駆体フィルムを作製した。
このフィルムを40℃にて30MPaに加圧した二酸化炭素に浸漬、8時間流通することで、ポリプロピレングリコールの抽出除去および残存NMPの相分離、孔形成を促進した。その後、二酸化炭素を減圧し、ポリイミド前駆体の多孔フィルムを得た。
さらに得られたポリイミド前駆体の多孔フィルムを真空下、380℃で2時間熱処理し、残存成分の除去およびイミド化を促進することで、ポリイミド多孔フィルムを得た。
【0046】
実施例3
参考例で得られたポリイミド前駆体溶液に重量平均分子量が400のポリプロピレングリコール(日油(株)製 グレード:D400)をポリイミド樹脂前駆体100重量部に対し200重量部添加し、さらにジメチルアセトアミドを400重量部加え、撹拌して透明な均一溶液を得た。この配合液をダイ方式でPETフィルムまたは銅箔に塗工し、80 ℃で15分間熱風乾燥させて、厚み100μmの相分離構造を有するポリイミド前駆体フィルムを作製した。
このフィルムを40℃にて30MPaに加圧した二酸化炭素に浸漬、8時間流通することで、ポリプロピレングリコールを抽出除去した。その後、二酸化炭素を減圧し、ポリイミド前駆体の多孔フィルムを得た。
さらに得られたポリイミド前駆体の多孔フィルムを真空下、380℃で2時間熱処理し、残存成分の除去およびイミド化を促進することで、ポリイミド多孔フィルムを得た。
【0047】
実施例4
参考例で得られたポリイミド前駆体溶液に重量平均分子量が400のポリオキシエチレンジメチルエーテル(日油(株)製 グレード:MM400)をポリイミド樹脂前駆体100重量部に対し200重量部添加し、さらにNMPを150重量部加え、撹拌して透明な均一溶液を得た。得られた溶液にイミド化触媒として2-メチルイミダゾールを4.2重量部添加し、配合液とした。この配合液をダイ方式でPETフィルムまたは銅箔に塗工し、120℃で30分間熱風乾燥させて、厚み100μmの相分離構造を有するポリイミド前駆体フィルムを作製した。
このフィルムを40℃にて30MPaに加圧した二酸化炭素に浸漬、8時間流通することで、ポリオキシエチレンジメチルエーテルの抽出除去および残存NMPの相分離、孔形成を促進した。その後、二酸化炭素を減圧し、ポリイミド前駆体の多孔フィルムを得た。
さらに得られたポリイミド前駆体の多孔フィルムを真空下、380℃で2時間熱処理し、残存成分の除去およびイミド化を促進することで、ポリイミド多孔フィルムを得た。
【0048】
実施例5
参考例で得られたポリイミド前駆体溶液に重量平均分子量が400のポリオキシエチレンジメチルエーテル(日油(株)製 グレード:MM400)をポリイミド樹脂前駆体100重量部に対し200重量部、および粒径2μm程度のPTFE粉末を10重量部添加し、さらにNMPを150重量部加え、撹拌して透明な均一溶液を得た。得られた溶液にイミド化触媒として2-メチルイミダゾールを4.2重量部添加し、配合液とした。この配合液をダイ方式でPETフィルムまたは銅箔に塗工し、120℃で30分間熱風乾燥させて、厚み100μmの相分離構造を有するポリイミド前駆体フィルムを作製した。
このフィルムを40℃にて30MPaに加圧した二酸化炭素に浸漬、8時間流通することで、ポリオキシエチレンジメチルエーテルの抽出除去および残存NMPの相分離、孔形成を促進した。その後、二酸化炭素を減圧し、ポリイミド前駆体の多孔フィルムを得た。
さらに得られたポリイミド前駆体の多孔フィルムを真空下、380℃で2時間熱処理し、残存成分の除去およびイミド化を促進することで、ポリイミド多孔フィルムを得た。
【0049】
比較例
参考例で得られたポリイミド前駆体溶液に重量平均分子量が400のポリプロピレングリコール(日油(株)製 グレード:D400)をポリイミド樹脂前駆体100重量部に対し300重量部添加し、さらにジメチルアセトアミドを400重量部加え、撹拌して透明な均一溶液を得た。この配合液をダイ方式でPETフィルムまたは銅箔に塗工し、140℃で20分間熱風乾燥させて、厚み100μmの相分離構造を有するポリイミド前駆体フィルムを作製した。
このフィルムを40℃にて30MPaに加圧した二酸化炭素に浸漬、8時間流通することで、ポリプロピレングリコールを抽出除去した。その後、二酸化炭素を減圧し、ポリイミド前駆体の多孔フィルムを得た。
さらに得られたポリイミド前駆体の多孔フィルムを真空下、380℃で2時間熱処理し、残存成分の除去およびイミド化を促進することで、ポリイミド多孔フィルムを得た。
【0050】
実施例1〜3及び比較例で得られたフィルムの断面と表面をSEMで観察した結果を、
図1a及び
図1b(実施例1)、
図2a及び
図2b(実施例2)、
図3a及び
図3b(実施例3)、及び
図4a及び
図4b(比較例)に示す。それぞれの図において、aは断面SEM像、bは表面SEM像である。
図から、本発明の実施例で得られたフィルムには、断面において空孔が存在せず、表面が平滑なスキン層が形成されているのに対し、比較例で得られたフィルムにはそのようなスキン層が存在せず、断面には一様に空孔が存在し、表面に凹凸が存在することが認められる。
SEM観察の結果から、実施例1〜3で得られたフィルムに形成されているスキン層の厚みは、表1に示すような厚みを有するものであった。
【0051】
【表1】
【0052】
さらに、実施例1〜3及び比較例で得られたフィルムについて測定された結果を、表2に示す。
【0053】
【表2】
【0054】
結果から明らかであるように、本発明によるフィルムは、高周波で低い誘電率及び誘電正接を示し、優れた電気的特性を有するものである。
また、実施例及び比較例で得られたフィルムについて、メッキ加工性を評価したところ、比較例で得られたフィルムの場合、液浸の問題があったが、実施例で得られたフィルムの場合にはそのような問題はなく、良好なメッキ加工を行うことができた。
さらに、本発明によるフィルムは、曲げ時の機械物性の点でも優れている。
【0055】
次に、実施例4及び5で得られたフィルムの断面をSEMで観察した結果を、
図5(実施例4)及び
図6(実施例5)に示す。
SEM観察の結果から、実施例4及び5で得られたフィルムに形成されているスキン層の厚みは、表3に示すような厚みを有するものであった。
【0056】
【表3】
【0057】
さらに、実施例4及び5で得られたフィルムについて測定された結果を、表4に示す。
【0058】
【表4】
【0059】
結果から明らかであるように、多孔構造が独泡構造である本発明によるフィルムは、優れた電気的特性を有するものであるとともに、液浸性や耐プレス性に優れ、加工後も高い絶縁抵抗値を示すことから、回路基板加工性の点でも優れている。