特許第6567876号(P6567876)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6567876
(24)【登録日】2019年8月9日
(45)【発行日】2019年8月28日
(54)【発明の名称】糖度向上用果実袋
(51)【国際特許分類】
   A01G 13/02 20060101AFI20190819BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20190819BHJP
【FI】
   A01G13/02 101C
   A01G7/00 601Z
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-105316(P2015-105316)
(22)【出願日】2015年5月25日
(65)【公開番号】特開2016-214186(P2016-214186A)
(43)【公開日】2016年12月22日
【審査請求日】2018年2月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】390026491
【氏名又は名称】小林製袋産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081547
【弁理士】
【氏名又は名称】亀川 義示
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 勝広
【審査官】 後藤 慎平
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−180124(JP,A)
【文献】 実開昭61−002043(JP,U)
【文献】 特開平06−007082(JP,A)
【文献】 特開昭57−065133(JP,A)
【文献】 特開昭55−038268(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 11/00−15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生育中の果実の糖度を向上させるための果実袋であって、紙を加工した加工紙の基材によって果実袋を形成し、この果実袋の袋面の炭酸ガス透過度が2.0×10〜5.0×10ml/m2・24hr・atmであり、水蒸気透過度が300〜3500g/m2・24hrであって、上記基材は純白原紙に低分子ポリエチレンワックス10%を含有するパラフィンワックスを6.5〜8.5g/mの割合で塗布加工したもの、又は耐湿グラシン紙の上に純白原紙の表面を水性ワックスエマルジョン処理したものを重ね合せたものである糖度向上用果実袋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果実生育中に用いる果実用掛け袋であって、果実の糖度の向上を促進する果実袋に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者は果物に対して外観が良い、美味しい、安全性が高い、果物に見合った値ごろ感を求めると共に、各産地の果物を見て栽培・販売にかかる管理履歴も調べた上で、これらを総合判断して自分の望むものを選択し購入している。
【0003】
一方、果樹生産者は、消費者の要望に応えて消費者に選択して貰えるような果物作りに向け、土づくり肥培管理、樹づくり、病害虫対策等々、収穫に至るまで気の抜けない作業を強いられている。生産者の日々の努力、適切な管理によって果物の品質が形成されるが、年毎に変わる気象の品質への影響は、自己努力だけでは制御できないのが現状であり、中でも果物の味、甘みへの影響は品質の価値を大きく左右している。
【0004】
果物の栽培技術の中にあって育果用の果実袋は、既に半世紀以上の歴史を持ち、日本の果樹園芸の成長と共にその技術も高まってきた。有袋栽培によって、枝ずれ,葉擦れ,降雹等の物理的な影響からの果実保護、着色促進、貯蔵性の向上、果面外観の向上、病害虫や鳥からの保護、着果物の選別、適正着果量の維持などにおいてその果たす役割は大きく、梨、りんご、桃、ぶどう、びわ、マンゴー、柑橘、キウイなどにおける、様々な品種、生産者の要望に応える袋が供給され利用されている。
【0005】
現在、果物の品質を左右する要素として、糖度は主要な位置付けが為されており、また、果物の糖度については非破壊で計測できる機器が普及したこともあって、産地では勿論のこと、流通、販売時点においても容易に計測できるようになっている。こうしたことから、糖度の高低によって果実としてのランク付けが為され、これによって販売価格が決められて差別化がされている。
【0006】
しかしながら、この果物の糖度は天候によって大きく左右され、栽培技術の改善だけでは充分に対処することができない課題として、種々の検討が為されてきた。
そうしたものの対策の一つとして、ハウス内の炭酸ガス濃度を大気濃度(350ppm程度)よりも高い700〜1500ppm程度にコントロールすることによって、植物の成長を促進させて果菜類の生長、生産量を高めようとする技術が提供されている。(特許文献1)
また、養液栽培における養液中の炭酸ガス濃度を1000〜5000ppmに高めることによって根の発育を促進し、生産量を向上させるような技術も提供されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−67888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、現在、果樹栽培において上記の如きガスのコントロールができるようなハウス施設による栽培は僅かに数パーセントに満たない状況であり、殆どが露地栽培によって行われている。そして、果樹栽培が行われている地形、栽培面積、生産量当りの販売単価、ハウス施設化に要する費用などから考えても、ハウス施設の大幅な増加は困難な状況にある。従って、露地栽培においても効率的に果実の糖度を高め、品質の向上を図ることができれば、望ましいものとなる。また、ハウス栽培においても、従来行われているような大掛かりなハウス施設を必要とすることなく、簡易なハウスや雨避けシートなどを使用した栽培においても果実の糖度を高めることは望まれている。
【0009】
本発明は、果樹栽培において栽培方法によらず果物の糖度を大きく高めることができて、消費者が求める要望や品質に充分に応えられる果物を生産することができる育果用の果実袋を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、果樹栽培の生育中の果実を覆う育果用の果実袋の炭酸ガス透過度と透湿性を制御し、被覆されている果実の呼吸作用によって放出される炭酸ガスにより袋内の濃度を高め、果実における糖成分を増加させるようにする。
【0011】
この生育中の果実を保護・育成するために覆っている果実袋は、紙、不織布、紙若しくは不織布を加工した加工紙、合成樹脂製フィルムから選ばれる少なくとも1種の基材によって形成されている。そして、この果実袋はその袋面の炭酸ガス透過度を1.0×10〜1.0×10ml/m2・24hr・atmとし、水蒸気透過度を30〜5000g/m2・24hrとして糖度向上用の果実袋とする。
また、上記果実袋の底部には、更にその両隅部に水抜き用の開口部を設け、各開口部の長さは15mm以下でありかつ全開口部の長さは底部長さに対する割合が20%以下であるようにする。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、上記のように育果用の果実袋により炭酸ガスの透過度を低くすることによって袋内の炭酸ガス濃度を制御し、同時に水蒸気透過度を高めて水分を袋外へ透過させ、袋内を高炭酸ガス濃度で低湿度に保つことによって、袋内の果実の糖度を上昇させ、良好な品質のものを得ることができる。
また、袋の底部に小さな開口部を設けることによって、露地栽培で使用する場合においても、袋内の炭酸ガス濃度の低下を抑制しつつ、袋上部の結束部分から侵入する雨水などを袋外に排出し、袋内の水分量を制御し、また袋内に残っている水分に炭酸ガスが吸収され、袋内の炭酸ガス濃度を低下させることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施例を示す正面図である。
図2図1に示すものの使用状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
果実袋を形成する基材1としては、各種の紙、不織布、紙や不織布を加工した加工紙、合成樹脂フイルムなどを使用することができる。上記加工紙は、紙や不織布をパラフィン、合成樹脂、天然高分子物質、無機物質などによって加工処理することによって得ることができる。
また、上記したものを適宜に重ね合わせた積層シートを使用することもできる。
【0015】
こうした基材1によって形成される果実袋2の袋面3は、その炭酸ガスの透過度が1.0×10〜1.0×10ml/m・24hr・atm程度、好ましくは1.5×10〜1.0×10ml/m・24hr・atm程度、更に好ましくは2.0×10〜5.0×10ml/m・24hr・atm程度を示すものであり、また、その水蒸気透過度は30〜5000g/m・24hr程度、好ましくは150〜4500g/m・24hr程度、更に好ましくは300〜3500g/m・24hr程度を示すものに形成されている。
上記炭酸ガス透過度が1.0×10ml/m・24hr・atmよりも大きい場合には、袋内に炭酸ガスを適当に貯留することができないし、水蒸気透過度が30g/m・24hrよりも低いときには、袋内で蒸れが生じ易い。
【0016】
上記基材は、その重量や厚みは特に限定されないが、通常、10〜100g/m程度の重さを有するものであり、その厚みは10〜100μm程度のものにすると使用し易い。
上記基材1を使用し、糊付けや、ヒートシールなどによって各種の果実に適合する果実袋に形成されるが、図示するものでは、糊付け4、5によって平型の一重袋に形成している。
この果実袋は一重袋に形成されているので、上記1枚の基材の炭酸ガス透過度及び水蒸気透過度が上記した範囲内にあるものが使用されているが、多重袋に形成した場合には、重ね合せた基材で形成される袋面として上記各数値範囲内になるようにする。
【0017】
生育中の果実15にこの果実袋2を被せ、果実袋上部の上部開口6を絞り、針金その他の係止具7を使用して袋掛けした場合に、特に露地栽培においては袋体の上部の絞られた上部開口6から雨水が袋内に入ってくることを避けることはできないので、袋体の底部8には袋内に入った雨水を排出することができるように開口部9を設けるようにするとよい。
【0018】
この開口部9は、袋体の底部8の好ましくは両隅に形成し、雨水を排出できるが、袋内の炭酸ガスは余り自由に排出することができないように形成するとよく、上記開口部9の長さは約15mm以下であり、かつ、こうした全開口部の長さは底部8長さの約20%以下になるように形成するとよい。
【0019】
図示するものでは、糊付け4により形成された平袋状の袋体の底部8の両隅を糊付けしない非接着部とすることによって開口部9が形成されている。この開口部9において袋面同士が糊付けによって接着されていないが、接触している状態になっているので、袋内の空気の出入りを適度に抑制しつつ、密度の高い雨水などはここからスムーズに排出することができる。
【実施例】
【0020】
実施例及び比較例を作製するために下記の基材を用意した。
基材1: 純白原紙に、低分子量ポリエチレンワックス10%を含有するパラフィンワックスを8.5g/mの割合で表面に塗布加工処理したもの。その炭酸ガス透過度は2.294×10ml/m・24hr・atmであり、水蒸気透過度は469g/m・24hrである。上記炭酸ガス透過度は測定環境が40℃、相対湿度90%の条件下で測定したものであり、水蒸気透過度は測定環境が25℃、相対湿度10%の条件下で測定したものである(以下、同じ)。
【0021】
基材2: 純白原紙に、低分子量ポリエチレンワックス10%を含有するパラフィンワックスを6.5g/mの割合で表面に塗布加工処理したもの。その炭酸ガス透過度は2.346×10ml/m・24hr・atmであり、水蒸気透過度は994g/m・24hrである。
基材3: 耐湿グラシン紙の上に、純白原紙の表面を水性ワックスエマルジョンにより処理したものを重ね合せたもの。この重ね合せ体の炭酸ガス透過度は3.398×10ml/m・24hr・atmであり、水蒸気透過度は3316g/m・24hrである。
【0022】
基材4: 厚さ40μmの低密度ポリエチレンフイルムであって、炭酸ガス透過度は2.30×10ml/m・24hr・atmであり、水蒸気透過度は16g/m・24hrのもの。
基材5: 純白原紙に、パラフィンワックスを11g/mの割合で表面に塗布加工処理した慣行の基材。その炭酸ガス透過度は2.584×10ml/m・24hr・atmであり、水蒸気透過度は165g/m・24hrである。
【0023】
(実施例1)
上記基材1を使用し、横165mm×縦196mmの上部開口を有する平袋を形成し、底部にはその両隅部に長さ10mmの非接着部を残して糊付けし、上記非接着部を開口部としたもので、平袋の一側に沿い上部開口6側に針金の係止具を設けたもの。開口部の底部長さに対する割合は12%である。
【0024】
(実施例2)
上記基材2を使用し、他は上記実施例1と同様に形成したもの。
(実施例3)
上記基材3を使用し、他は上記実施例1と同様に形成したもの。
(実施例4)
上記底部にはその両隅部に非接着部を設けず開口部を有しないもので、他は実施例2と同様にしたもの。
【0025】
(比較例1)
上記基材4を使用し、他は上記実施例1と同様に形成したもの。
(比較例2)
上記基材5を使用し、他は上記実施例1と同様に形成したもの。
(比較例3)
上記底部にはその両隅部に長さ20mmの非接着部を設けて開口部としたもので、他は実施例2と同様にしたもの。開口部の底部長さに対する割合は24%である。
(比較例4)
上記底部にはその両隅部に長さ20mmの非接着部を設けて開口部としたもので、他は比較例2と同様にしたもの。開口部の底部長さに対する割合は24%である。
【0026】
上記実施例及び比較例の性能を見るために、以下の試験を行った。
(排水性試験)
実施例2、実施例4、比較例4を使用し、桃(川中島白桃)及び梨(幸水)の果実に上記したような常法により袋掛けし、露地栽培において雨が降った翌日に袋内から排出されない貯留水の量を測定した。
貯留水の量は、袋内に半分溜まった時の量を100として、指数化して表示した。
【0027】
(結果)
【表1】
【0028】
(炭酸ガス濃度試験)
実施例2、実施例4、比較例3、比較例4を使用し、桃(川中島白桃)、梨(幸水)、梨(ゴールド二十世紀)の果実に定法により袋掛けし、露地にて栽培し、実施例4については雨避けシートを架けた。そして、収穫の2〜7日前の3日間、袋内の炭酸ガス濃度を測定しその含有平均値(%)を出した。炭酸ガス濃度の測定には、ダンセンサー(Dansensor)社製のチェックポイントII(CheckPointII)を使用した。
【0029】
(結果)
【表2】
【0030】
(糖度測定試験)
実施例1〜実施例4、比較例1〜比較例3を使用し、桃(川中島白桃)、梨(幸水)、梨(ゴールド二十世紀)の果実に常法により袋掛けし、露地にて栽培し、実施例4については雨避けシートを架けた。そして、収穫時の糖度(Brix%)を測定した。糖度の測定には株式会社アタゴ製のデジタル糖度計PR101αを使用した。
【0031】
(結果)
【表3】
【0032】
(考察)
表1に示すように、実施例2、比較例4のように袋体の底部に開口部を設けているものでは、袋内に雨水が溜まることが無いので露地栽培でも使用することができるが、実施例4のように開口部の無いものでは雨水の溜まりが見られるから、露地栽培で雨避けシートを使用したり、ハウス内などにおいては有効に使用することができる。
果実袋内の炭酸ガス濃度については、表2に示すように、実施例2のように袋の底部に10mmの開口部を有するものは、実施例4の開口部を有しないものとほぼ同等の程度の濃度を示している。比較例3の袋の底部に20mmの開口部を有するものでは実施例2に比べて濃度が大幅に低くなっており、比較例4の20mmの開口部を有する慣行袋では更に低い濃度を示している。
【0033】
果実の糖度については、表3に示すように、実施例3の果実袋を使用したものが最も高い糖度を示しており、実施例1,2,4がこれに次ぐ糖度を示している。そして、実施例1〜実施例4のものは、いずれも比較例1,2のものに比較して高い糖度を示しており、それらの糖度が桃(川中島白桃)では比較例1に対して24〜28%高く、比較例2に対しては18〜22%高くなっている。また、梨(幸水)では比較例1に対して24〜40%高く、比較例2に対しては12〜27%高くなっており、梨(ゴールド二十世紀)では比較例1に対して16〜23%高く、比較例2に対しては6〜12%高くなっている。
また、比較例3は実施例2のものに対して底部の開口部を大きくしたものであるが、実施例2のものより糖度の上昇が相当に低くなっている。このように、実施例1〜実施例4のものは、糖度の向上に効果的であることが判る。
【符号の説明】
【0034】
1: 基材
2: 果実袋
3: 袋面
4,5: 糊付け
6: 上部開口
7: 係止具
8: 底部
9: 開口部
15: 果実
図1
図2