特許第6567949号(P6567949)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6567949
(24)【登録日】2019年8月9日
(45)【発行日】2019年8月28日
(54)【発明の名称】加工装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/046 20140101AFI20190819BHJP
   B23K 26/082 20140101ALI20190819BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20190819BHJP
【FI】
   B23K26/046
   B23K26/082
   B23K26/00 M
【請求項の数】2
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-207356(P2015-207356)
(22)【出願日】2015年10月21日
(65)【公開番号】特開2017-77577(P2017-77577A)
(43)【公開日】2017年4月27日
【審査請求日】2018年6月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】391002498
【氏名又は名称】フタバ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】山口 晃司
【審査官】 奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/038606(WO,A1)
【文献】 特開平5−2146(JP,A)
【文献】 特開2012−30238(JP,A)
【文献】 特開2008−62258(JP,A)
【文献】 特開2007−98416(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00−26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を配置するための加工空間を備えて、前記加工空間に配置された前記被加工物をレーザーを用いて加工する加工装置であって、
前記加工空間に対して前記レーザーを射出するにあたり、前記レーザーの射出方向および焦点距離を少なくとも含む射出条件を変更することで、前記加工空間における前記レーザーの焦点位置を変更するレーザー射出部と、
前記被加工物における目標加工位置を、前記加工空間における三次元直交座標系の座標位置に基づいて特定する加工位置特定部と、
前記加工空間における任意の座標位置と、その座標位置に前記焦点位置を設定する場合の前記射出条件と、の対応関係が予め定められた座標変換情報に基づいて、前記加工空間のうち前記目標加工位置の座標位置に対応する前記射出条件である目標射出条件を演算する目標射出条件演算部と、
前記目標射出条件で前記レーザーを射出するように前記レーザー射出部を制御する射出制御部と、
を備えており、
前記加工空間における三次元直交座標系のうち、前記レーザー射出部から前記加工空間に向かう方向をZ軸方向とし、前記Z軸方向に対する垂直方向をX軸方向およびY軸方向として定義した場合に、
前記レーザー射出部は、
前記レーザーの射出方向を変更する変更部を少なくとも1個有して、前記変更部の回動状態に応じて前記レーザーの射出方向を変更することで、前記レーザーの前記射出方向におけるX軸成分およびY軸成分が変化するように構成された射出方向変更部と、
前記レーザーの収束状態および集光状態のうち少なくとも一方を含む焦点距離条件を変更することで、前記レーザーの前記焦点距離が変化するように構成された焦点距離変更部と、
を備えており、
補正前焦点位置と補正後焦点位置とのZ軸方向の差分値であるZ軸補正量を特定する補正量特定部と、
前記Z軸補正量および前記変更部の回動状態におけるX軸成分情報に基づいて前記補正前焦点位置と前記補正後焦点位置とのX軸方向の差分値であるX軸補正量を演算し、前記Z軸補正量および前記変更部の回動状態におけるY軸成分情報に基づいて前記補正前焦点位置と前記補正後焦点位置とのY軸方向の差分値であるY軸補正量を演算し、前記X軸補正量、前記Y軸補正量、前記Z軸補正量および前記補正前焦点位置の座標位置を用いて、前記補正後焦点位置の座標位置を演算する補正後焦点位置演算部と、
前記座標変換情報に基づいて、前記補正後焦点位置の座標位置に対応する前記射出条件である補正後射出条件を演算する補正後射出条件演算部と、
を備えており、
前記射出制御部は、前記補正量特定部において前記Z軸補正量が更新された場合には、前記補正後射出条件で前記レーザーを射出するように前記レーザー射出部を制御する、
加工装置。
【請求項2】
コンピュータを、請求項1に記載の加工装置における加工位置特定部、目標射出条件演算部、射出制御部、補正量特定部、補正後焦点位置演算部、補正後射出条件演算部として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物を配置するための加工空間を備えて、加工空間に配置された被加工物をレーザーを用いて加工する加工装置およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被加工物を配置するための加工空間を備えて、加工空間に配置された被加工物(ワーク)をレーザーを用いて加工する加工装置が知られている(特許文献1)。加工形態の具体例としては、溶接や切断などが挙げられる。
【0003】
加工装置は、レーザー焦点位置を被加工物の目標加工位置に設定した上でレーザーを射出することで、被加工物の加工を行う。このとき、レーザー焦点位置は、例えば、加工空間における座標位置に基づいて設定する。
【0004】
しかし、温度変化などの影響による熱膨張によって被加工物が変形した場合には、レーザー焦点位置と目標加工位置とに誤差が生じてしまい、実際の加工位置(レーザー焦点位置)が目標加工位置から外れてしまう場合がある。
【0005】
このような場合には、作業者が目標加工位置とレーザー焦点位置との誤差寸法を計測し、その誤差寸法に基づいてレーザー焦点位置を変更する位置調整作業を行うことで、レーザー焦点位置を目標加工位置に設定(修正)することができる。
【0006】
他方、加工装置は、各種プログラムを実行可能なコンピュータを備えて構成することができる。この場合、位置調整作業を実行するためのプログラムを用いることで、コンピュータを加工装置における位置調整作業を行う構成要素として機能させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004ー130361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、位置調整作業によるレーザー焦点位置の変更方向がレーザーの射出方向と平行でない場合には、1回の位置調整作業ではレーザー焦点位置を目標加工位置に設定(修正)できずに、複数回にわたる位置調整作業が必要となる場合がある。
【0009】
ここで、図8および図9を用いて、従来の加工装置において実施される位置調整作業について説明する。なお、図8では、加工空間における任意の座標位置を三次元直交座標系(X軸方向、Y軸方向、Z軸方向で定められる座標系)で表しており、図の左右方向をX軸方向とし、図の上下方向をZ軸方向として、各部の状態を表す。
【0010】
図8における第1状態は、レーザー100の射出方向が被加工物101の目標加工位置102に向けて適切に設定されているものの、レーザー焦点距離が不適切であるため、レーザー焦点位置103が目標加工位置102から外れてしまい、被加工物101の目標加工位置102に対して適正な加工ができない状態である。このとき、被加工物101の目標加工位置102は、レーザー100の射出方向と交差するためレーザー100による加工痕が残ることがある。しかし、レーザー焦点位置103ではないため、加工エネルギーが不十分となり、加工状態は不良となる。このような被加工物101は、加工品質が不十分であるため、不良品として処分される。
【0011】
なお、加工に用いるレーザーが不可視光の場合、作業者は、レーザー焦点位置計測用の計測器具を用いてレーザー焦点位置を計測した上で、レーザー焦点位置と目標加工位置との誤差寸法を計測する。しかし、計測器具を用いる場合、例えば、図8の第1状態におけるレーザー焦点位置103と被加工物101との距離(Z軸方向の誤差)を計測することは容易であるが、レーザー焦点位置103と目標加工位置102との相対位置関係(X軸、Y軸、Z軸の各方向の誤差)を計測することは困難となるケースが多い。つまり、Z軸方向の誤差のみを計測する場合は、三次元の各方向のうち一方向の誤差を計測すればよいのに対して、X軸、Y軸、Z軸の各方向の誤差を計測する場合には、レーザーの射出方向(角度)を特定する必要があるが、レーザーの射出方向は焦点位置によって変化するため特定することが難しい。また、三次元のうち三方向の誤差を全て計測する場合には、計測作業の負担が大きくなるとともに、計測誤差が生じやすくなる。
【0012】
そこで、まず、Z軸方向の誤差に応じてレーザー焦点位置を修正することで、第2状態のように、レーザー焦点位置103を被加工物101に重ねることができる。しかし、この場合、その修正後加工位置104と目標加工位置102との間にはX軸方向に新たな誤差が生じてしまう。このため、被加工物101における修正後加工位置104から目標加工位置102までのX軸方向の誤差寸法を定規などを用いて計測し、X軸方向の誤差寸法に応じてレーザー焦点位置を修正することで、第3状態のように、レーザー焦点位置103を目標加工位置102に設定(修正)することができる。なお、図8では表されないが、Y軸方向の誤差が生じる場合には、さらに、Y軸方向の誤差に応じてレーザー焦点位置を修正する作業を行う。
【0013】
例えば、図9の第1状態に示すように、第1部材110と第2部材111とを溶接する場合において、レーザーの射出方向が目標加工位置112,113に向けて適切に設定されているものの、レーザー焦点距離が不適切である場合には、目標加工位置112,113に溶接痕が形成されるものの強度が不足してしまい溶接品質は不良となる。そこで、目標加工位置112,113において適切な品質の溶接(加工)を実現するためには、レーザー焦点位置が目標加工位置112,113に重なるように、第1部材110と第2部材111との積層方向におけるレーザー焦点位置の調整作業を実施する必要がある。
【0014】
しかし、その調整作業の結果、第2状態に示すように、目標加工位置112,113とは異なる不正加工位置114,115で溶接が行われることがある。つまり、第1部材110と第2部材111との積層方向(仮に、Z軸方向とする)においてレーザー焦点位置の調整作業を実施した結果、第2部材111の板面方向(Z軸方向に垂直な方向(X軸方向およびY軸方向))における誤差(位置ズレ)が新たに生じることがある。この場合、この後、さらにレーザー焦点位置の調整作業を必要な回数実施することで、目標加工位置112,113において適切な品質の溶接を実現できる。
【0015】
図8および図9を用いて説明したように、レーザー焦点位置を目標加工位置に設定(修正)するためには、1回(Z軸方向のみ)の位置調整作業では不十分となる場合があり、そのような場合には、2回(Z軸方向、X軸方向)あるいは3回(Z軸方向、X軸方向、Y軸方向)などの複数回にわたる位置調整作業が必要となる。
【0016】
もし、図8または図9の第1状態において、位置調整作業によるレーザー焦点位置の変更方向(計測器具で計測可能な誤差寸法の方向)とレーザーの射出方向(レーザー焦点位置と目標加工位置との誤差方向)とが平行である場合には、1回の位置調整作業でレーザー焦点位置を目標加工位置に設定(修正)できる場合がある。つまり、Z軸方向のみ誤差が生じている場合(X軸方向およびY軸方向の誤差が存在しない場合)には、Z軸方向における1回の位置調整作業でレーザー焦点位置を目標加工位置に設定(修正)することが可能となる。
【0017】
しかし、レーザーの射出方向(レーザー焦点位置と目標加工位置との誤差方向)は、加工空間における目標加工位置が異なる毎に異なる方向となるため(不確定であるため)、レーザー焦点位置と目標加工位置との誤差は、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向の全てにおいて生じることが多く、Z軸方向のみ誤差が生じることは少ない。
【0018】
このため、レーザー焦点位置と目標加工位置とに誤差が生じた場合には、複数回にわたる位置調整作業が必要となるため、位置調整作業に要する時間が長くなり、作業負荷が大きくなる。
【0019】
そこで、本発明は、レーザー焦点位置と目標加工位置とに誤差が生じた場合に、位置調整作業に要する時間を短縮でき、作業負荷を低減できる加工装置およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の1つの局面における加工装置は、被加工物を配置するための加工空間を備えて、加工空間に配置された被加工物をレーザーを用いて加工する加工装置であって、レーザー射出部と、加工位置特定部と、目標射出条件演算部と、射出制御部と、補正量特定部と、補正後焦点位置演算部と、補正後射出条件演算部と、を備えている。
【0021】
レーザー射出部は、加工空間に対してレーザーを射出するにあたり、レーザーの射出方向および焦点距離を少なくとも含む射出条件を変更することで、加工空間におけるレーザーの焦点位置を変更するように構成されている。
【0022】
加工位置特定部は、被加工物における目標加工位置を、加工空間における三次元直交座標系の座標位置に基づいて特定するよう構成されている。
目標射出条件演算部は、座標変換情報に基づいて、加工空間のうち目標加工位置の座標位置に対応する射出条件である目標射出条件を演算するよう構成されている。座標変換情報は、加工空間における任意の座標位置と、その座標位置に焦点位置を設定する場合の射出条件と、の対応関係が予め定められた情報である。
【0023】
射出制御部は、目標射出条件でレーザーを射出するようにレーザー射出部を制御するよう構成されている。
この加工装置は、加工位置特定部が目標加工位置を特定し、目標射出条件演算部が目標加工位置の座標位置に対応する目標射出条件を演算し、射出制御部が目標射出条件に基づいてレーザー射出部を制御することで、レーザー射出部からレーザーが射出されるように構成されている。
【0024】
ここで、加工空間における三次元直交座標系のうち、レーザー射出部から加工空間に向かう方向をZ軸方向とし、Z軸方向に対する垂直方向をX軸方向およびY軸方向として定義する。
【0025】
レーザー射出部は、射出方向変更部と、焦点距離変更部と、を備える。
射出方向変更部は、レーザーの射出方向(進行方向)を変更する変更部を少なくとも1個有して、変更部の回動状態に応じてレーザーの射出方向を変更することで、レーザーの射出方向におけるX軸成分およびY軸成分が変化するように構成されている。変更部は、例えば、レーザーを反射する際の反射角度に応じてレーザーの射出方向を変更する反射型変更部(反射鏡など)や、レーザーが透過する際の透過角度に応じてレーザーの射出方向を変更する透過型変更部(レンズなど)等を用いて構成できる。
【0026】
なお、射出方向変更部が、1個の変更部を備える場合、その変更部は、レーザーの射出方向を変更するための回動可能方向としてX軸成分およびY軸成分が含まれるように構成されている。また、射出方向変更部は、2つの変更部(例えば、X軸変更部およびY軸変更部)を備える構成であってもよい。その場合、X軸変更部は、回動可能方向としてX軸成分が含まれるように構成されている。つまり、X軸変更部は、回動状態を変更してレーザーの射出方向を変更することで、レーザーの射出方向がX軸方向に平行に変化するように構成された変更部である。Y軸変更部は、回動可能方向としてY軸成分が含まれるように構成されている。つまり、Y軸変更部は、回動状態を変更してレーザーの射出方向を変更することで、レーザーの射出方向がY軸方向に平行に変化するように構成された変更部である。
【0027】
焦点距離変更部は、レーザーの収束状態および集光状態のうち少なくとも一方を変更することで、レーザーの焦点距離が変化するように構成されている。
補正量特定部は、補正前焦点位置と補正後焦点位置とのZ軸方向の差分値であるZ軸補正量を特定する。
【0028】
補正後焦点位置演算部は、Z軸補正量および変更部の回動状態におけるX軸成分情報に基づいて補正前焦点位置と補正後焦点位置とのX軸方向の差分値であるX軸補正量を演算する。また、補正後焦点位置演算部は、Z軸補正量および変更部の回動状態におけるY軸成分情報に基づいて補正前焦点位置と補正後焦点位置とのY軸方向の差分値であるY軸補正量を演算する。
【0029】
なお、「変更部の回動状態におけるX軸成分情報」とは、変更部の回動状態に関する情報のうち、レーザーの射出方向におけるX軸成分の変化に関連する情報である。「変更部の回動状態におけるX軸成分情報」の一例としては、例えば、変更部の回動状態(例えば、変更部の外表面の方向)を示す仮想ベクトルを想定した場合に、この仮想ベクトルをX−Z平面に投影してなる投影ベクトルと予め定められた基準ベクトルとの間の角度が挙げられる。同様に、「変更部の回動状態におけるY軸成分情報」とは、変更部の回動状態に関する情報のうち、レーザーの射出方向におけるY軸成分の変化に関連する情報である。「変更部の回動状態におけるY軸成分情報」の一例としては、例えば、変更部の回動状態(例えば、変更部の外表面の方向)を示す仮想ベクトルを想定した場合に、この仮想ベクトルをY−Z平面に投影してなる投影ベクトルと予め定められた基準ベクトルとの間の角度が挙げられる。
【0030】
さらに、補正後焦点位置演算部は、X軸補正量、Y軸補正量、Z軸補正量および補正前焦点位置の座標位置を用いて、補正後焦点位置の座標位置を演算する。
補正後射出条件演算部は、座標変換情報に基づいて、補正後焦点位置の座標位置に対応する射出条件である補正後射出条件を演算する。
【0031】
射出制御部は、補正量特定部においてZ軸補正量が更新された場合には、補正後射出条件でレーザーを射出するようにレーザー射出部を制御する。
この加工装置のレーザー射出部は、射出方向変更部および焦点距離変更部を備えており、射出方向変更部における変更部の回動状態を変更することでレーザーの射出方向を制御するとともに、焦点距離変更部の焦点距離条件を変更することでレーザーの焦点距離を制御するように構成されている。つまり、レーザー射出部は、射出方向変更部における変更部の回動状態、焦点距離変更部の焦点距離条件をそれぞれ変更することで、加工空間におけるレーザー焦点位置を変更できる。
【0032】
この加工装置においては、補正量特定部がZ軸補正量を特定すると、補正後焦点位置演算部が、Z軸補正量を用いてX軸補正量およびY軸補正量を演算すると共に、補正後焦点位置の座標位置を演算するように構成されている。つまり、この加工装置を用いて補正後焦点位置の座標位置を特定する場合には、作業員にとってはZ軸補正量のみを特定すればよく、X軸補正量およびY軸補正量を作業員が特定する必要がない。
【0033】
そして、補正後射出条件演算部が座標変換情報に基づいて補正後射出条件を演算し、射出制御部が補正後射出条件でレーザーを射出するようにレーザー射出部を制御することで、補正量特定部で特定されたZ軸補正量に応じて、レーザー焦点位置を目標加工位置に設定(修正)することができる。
【0034】
つまり、この加工装置は、レーザー焦点位置と目標加工位置とに誤差が生じた場合であっても、Z軸補正量のみによる位置調整作業を行うことで、レーザー焦点位置を目標加工位置に設定(修正)することができる。
【0035】
よって、この加工装置によれば、位置調整作業に要する時間を短縮でき、作業負荷を低減できる。
なお、加工装置による加工形態としては、例えば、溶接や切断が挙げられる。
【0036】
次に、本発明の他の局面におけるプログラムは、コンピュータを、上記の加工装置における加工位置特定部、目標射出条件演算部、射出制御部、補正量特定部、補正後焦点位置演算部、補正後射出条件演算部として機能させるプログラムである。
【0037】
上述のレーザー射出部とコンピュータとを備える加工装置において、このプログラムを用いてコンピュータを上記の加工装置における各部として機能させることで、上述の加工装置と同様の効果を奏する加工装置を実現できる。
【0038】
なお、このようなプログラムは、例えば、FD、MO、DVD−ROM、CD−ROM、ハードディスク等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録し、必要に応じてコンピュータにロードして起動することにより用いることができる。また、プログラムは、通信ネットワークを介してコンピュータシステムにダウンロードしてもよい。この他、コンピュータ読み取り可能な記録媒体としてのROMやバックアップRAMに本プログラムを記録しておき、ROMあるいはバックアップRAMをコンピュータに組み込んで用いても良い。
【発明の効果】
【0039】
本発明の加工装置およびプログラムによれば、位置調整作業に要する時間を短縮でき、作業負荷を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】加工装置の概略構成を示した説明図である。
図2】加工装置の電気的構成を表したブロック図である。
図3】溶接条件設定処理の処理内容を表すフローチャートである。
図4】溶接条件設定処理を実行することでレーザー焦点位置が目標加工位置に設定(修正)される状態を示す説明図である。
図5】X−Z平面(X軸およびZ軸を含む平面)における補正前焦点位置P0と補正後焦点位置P1との位置関係を表す説明図である。
図6】X軸反射部の回転角度θxとレーザーの射出方向との関係を示す説明図である。
図7】溶接条件設定処理を実行することで、溶接箇所が溶接品質を満足する状態となるように溶接条件を設定(修正)できる状態を表した説明図である。
図8】従来の加工装置において実施される位置調整作業の説明図である。
図9】従来の加工装置において位置調整作業を実施したことにより加工位置に誤差が生じる状態を表した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。
尚、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採り得ることはいうまでもない。
【0042】
[1.第1実施形態]
[1−1.全体構成]
本実施形態に係る加工装置の構成について説明する。
【0043】
図1は、第1実施形態に係る加工装置1の概略構成を示した説明図である。
加工装置1は、加工空間(溶接作業場17)に配置された被加工物をレーザーを用いて溶接するために用いられる加工装置である。
【0044】
加工装置1は、リモート溶接システム11(RWS11)と、リモート溶接ヘッド13(RWH13)と、レーザー発信器15と、溶接作業場17と、を備える。
リモート溶接システム11は、第1指令信号S1をリモート溶接ヘッド13に送信することで、リモート溶接ヘッド13から溶接作業場17に射出されるレーザーの焦点位置を制御する。第1指令信号S1は、レーザーの焦点位置を設定するための情報を含んだ信号である。リモート溶接システム11は、第2指令信号S2をレーザー発信器15に送信することで、レーザー発信器15からリモート溶接ヘッド13へのレーザーの射出状態のオン・オフを制御する。第2指令信号S2は、レーザーの射出状態を設定するための情報を含んだ信号である。
【0045】
リモート溶接ヘッド13は、レーザー発信器15から射出されたレーザーを取り込み、リモート溶接システム11からの第1指令信号S1に基づいて、溶接作業場17に射出するレーザーの射出方向および焦点距離を制御可能に構成されている。
【0046】
レーザー発信器15は、リモート溶接システム11からの第2指令信号S2に基づいて、リモート溶接ヘッド13に対するレーザーの射出状態をオン状態またはオフ状態に切り替え可能に構成されている。
【0047】
溶接作業場17は、被加工物19を配置するための加工空間である。溶接作業場17は、例えば、図1に模式的に記載されているような立体構造の枠体を用いて構成することができる。溶接作業場17は、例えば、リモート溶接ヘッド13に対して鉛直方向下側に設けられるとともに、内部に配置された被加工物19に対してリモート溶接ヘッド13から射出されたレーザーが到達するように構成されている。
【0048】
加工装置1は、溶接作業場17の内部における任意の座標位置を、三次元直交座標系に基づいて特定できるように構成されている。本実施形態では、水平方向をX軸方向およびY軸方向とし、鉛直方向をZ軸方向として定義した三次元直交座標系を採用している。
【0049】
[1−2.加工装置の電気的構成]
次に、加工装置1の電気的構成について説明する。図2は、加工装置1の電気的構成を表したブロック図である。
【0050】
加工装置1のリモート溶接システム11は、制御部31と、デジタルI/Oモジュール21と、調整器具23と、を備えている。
制御部31は、加工装置1の各部との間で各種信号の送受信を行うとともに、被加工物19を加工(溶接)するための各種制御処理を実行する電子制御装置である。
【0051】
制御部31は、マイクロコンピュータ33(以下、マイコン33ともいう)と、モーションコントロールボード35と、A/Dボード37と、I/Oボード39と、情報入力部41と、情報表示部43と、を備える。
【0052】
マイコン33は、CPU33aと、ROM33bと、RAM33cと、を備える。マイコン33は、例えば、ROM33bやRAM33cに記録されたプログラムなどに基づいてCPU33aが各種制御処理を実行するように構成されている。RAM33cは、CPU33aが実行する各種制御処理で用いられる各種情報などを記憶する。
【0053】
モーションコントロールボード35は、マイコン33との間で各種データの送受信を行うとともに、リモート溶接ヘッド13に対して第1指令信号S1を送信し、レーザー発信器15に対して第2指令信号S2を送信する。
【0054】
リモート溶接ヘッド13は、X軸反射部13aと、Y軸反射部13bと、焦点距離変更部13cと、を備える。
X軸反射部13aおよびY軸反射部13bは、それぞれ、レーザー発信器15から射出されたレーザーを反射する反射鏡(図示省略)と、反射鏡の角度(回動状態)を変更するためのガルバノモータ(図示省略)と、を備える。つまり、X軸反射部13aおよびY軸反射部13bは、それぞれ、レーザー発信器15から射出されたレーザーを反射してレーザーの進行方向を変更するように構成されている。換言すれば、X軸反射部13aおよびY軸反射部13bは、それぞれの反射鏡の回動状態に応じてレーザーの反射角度を変更することで、レーザーの射出方向におけるX軸成分およびY軸成分が変化するように構成されている。
【0055】
X軸反射部13aは、反射鏡の回動可能方向としてX軸成分が含まれるように構成されている。つまり、X軸反射部13aは、反射鏡の回動状態を変更してレーザーを反射するときの反射角度を変更することで、リモート溶接ヘッド13から溶接作業場17に対して射出されるレーザーの射出方向がX軸方向に平行に変化するように構成されている。Y軸反射部13bは、反射鏡の回動可能方向としてY軸成分が含まれるように構成されている。つまり、Y軸反射部13bは、反射鏡の回動状態を変更してレーザーを反射するときの反射角度を変更することで、リモート溶接ヘッド13から溶接作業場17に対して射出されるレーザーの射出方向がY軸方向に平行に変化するように構成されている。
【0056】
焦点距離変更部13cは、レーザー発信器15から射出されたレーザーの収束状態および集光状態のうち少なくとも一方を含む焦点距離条件を変更するためのサーボモータ(図示省略)を備えている。焦点距離変更部13cは、焦点距離条件を変更することで、リモート溶接ヘッド13から溶接作業場17に対して射出されるレーザーの焦点距離が変化するように構成されている。
【0057】
モーションコントロールボード35からリモート溶接ヘッド13に対して出力される第1指令信号S1には、X軸反射部13aに対して出力するX軸指令信号S1aと、Y軸反射部13bに対して出力するY軸指令信号S1bと、焦点距離変更部13cに対して出力する焦点距離指令信号S1cと、が含まれている。X軸指令信号S1aは、X軸反射部13aの反射角度に関する指令値を示す指令信号である。Y軸指令信号S1bは、Y軸反射部13bの反射角度に関する指令値を示す指令信号である。焦点距離指令信号S1cは、焦点距離変更部13cの焦点距離条件に関する指令値を示す指令信号である。
【0058】
X軸反射部13a、Y軸反射部13b、焦点距離変更部13cは、それぞれ、自己の設定状態を制御部31に通知するためのフィードバック信号SF1a,SF1b,SF1cを出力する。
【0059】
X軸反射部13aのX軸フィードバック信号SF1aは、X軸反射部13aの反射角度を示す信号であり、X軸反射部13aから制御部31のA/Dボード37に送信される。Y軸反射部13bのY軸フィードバック信号SF1bは、Y軸反射部13bの反射角度を示す信号であり、Y軸反射部13bから制御部31のA/Dボード37に送信される。焦点距離変更部13cの焦点距離フィードバック信号SF1cは、焦点距離変更部13cの焦点距離条件を示す信号であり、焦点距離変更部13cから制御部31のモーションコントロールボード35に送信される。
【0060】
レーザー発信器15は、リモート溶接ヘッド13に対して射出するレーザーの射出状態(強度)を制御するレーザーコントローラ15aを備えている。レーザーコントローラ15aは、第2指令信号S2に基づいて、リモート溶接ヘッド13に対して射出するレーザーの射出状態(強度)を制御する。
【0061】
レーザー発信器15は、自己の設定状態を制御部31に通知するための射出状態フィードバック信号SF2を出力する。射出状態フィードバック信号SF2は、レーザーコントローラ15aの設定状態(レーザーの射出状態)を示す信号であり、レーザー発信器15から制御部31のA/Dボード37に送信される。
【0062】
A/Dボード37は、外部から入力された各種アナログ信号をA/D変換して、変換後のデジタル信号をマイコン33に対して送信する。
I/Oボード39は、マイコン33との間で各種データの送受信を行うとともに、デジタルI/Oモジュール21との間で各種データの送受信を行う。
【0063】
デジタルI/Oモジュール21は、各種情報を入力するための入力部(図示省略)と、制御部31における各種状態を表示するための表示部(図示省略)と、を備えている。この入力部での入力方法としては、例えば、作業員の入力操作により各種情報を入力する方法や、他の機器からの情報信号を受信することにより各種情報を入力する方法などが挙げられる。この入力部を用いて入力される各種情報としては、例えば、レーザーの射出状態などが挙げられる。この表示部を用いて表示される各種状態としては、例えば、加工装置1の故障状態などが挙げられる。また、デジタルI/Oモジュール21は、リモート溶接システム11に接続される周辺機器(図示省略)との間での各種情報の送受信を行う。なお、周辺機器としては、プリンタや他の制御盤(制御装置)などが挙げられる。
【0064】
情報入力部41は、リモート溶接システム11に対して作業員が各種情報を入力するために備えられている。情報入力部41を用いて入力される各種情報としては、レーザーの焦点位置を示す座標位置や、レーザーの射出状態などが挙げられる。情報入力部41は、1箇所のレーザー焦点位置のみではなく、複数のレーザー焦点位置を入力可能に構成されている。つまり、情報入力部41を用いることで、1箇所に対する溶接動作(加工動作)に関する情報のみならず、複数箇所に対する一連の溶接動作(加工動作)に関する情報を入力することができる。
【0065】
情報表示部43は、制御部31における各種状態を表示するために備えられている。情報表示部43を用いて表示される各種状態としては、例えば、レーザーの焦点位置に関する設定状態や、加工装置1の故障状態などが挙げられる。また、情報表示部43は、1箇所に対する溶接動作(加工動作)に関する設定状態のみならず、複数箇所に対する一連の溶接動作(加工動作)に関する設定状態を表示することができる。
【0066】
調整器具23は、作業員からの指令を受け付けて、その指令内容に基づいてレーザーの焦点位置を移動させることで、レーザーの焦点位置を調整する用途に用いることができる器具である。調整器具23は、タッチパネル(図示省略)や操作ダイヤル(図示省略)を備えており、作業員によるタッチパネルへの入力操作や操作ダイヤルの回転操作などにより、作業員からの指令を受け付けるよう構成されている。調整器具23は、マイコン33を介してモーションコントロールボード35との間で各種情報の送受信が可能に構成されており、作業員からの指令に応じた指令信号をモーションコントロールボード35に送信する。調整器具23は、表示部(図示省略)を備えており、モーションコントロールボード35から受信した各種情報(例えば、レーザーの焦点位置を示す座標位置など)を表示部に表示するよう構成されている。なお、調整器具23は、例えば、ティーチペンダントを用いて構成することができる。
【0067】
なお、溶接作業場17でのレーザーを可視化する器具を用いてレーザー焦点位置を可視化しつつ、調整器具23を用いてレーザー焦点位置を特定位置に移動させることで、その特定位置にレーザー焦点位置を設定する場合の第1指令信号S1(または、フィードバック信号SF1a,SF1b,SF1c)の内容を知ることができる。換言すれば、特定位置の座標位置(三次元直交座標系でのX値,Y値,Z値)と、その座標位置にレーザー焦点位置を設定する場合の第1指令信号S1の内容(X軸反射部13a、Y軸反射部13b、焦点距離変更部13cの各設定状態)と、の対応関係を知ることができる。
【0068】
特定位置を任意に変更しつつ、複数の座標位置に関して上記の作業を繰り返し実行し、対応関係を記録することで、溶接作業場17における任意の座標位置と、その座標位置にレーザー焦点位置を設定する場合の第1指令信号S1の内容と、の対応関係が定められた座標変換情報を作成することができる。このようにして作成された座標変換情報は、マイコン33のROM33bに予め記録されている。
【0069】
[1−3.溶接条件設定処理]
次に、マイコン33で実行される溶接条件設定処理について説明する。
溶接条件設定処理は、作業者によるレーザー焦点位置(溶接条件)の設定操作を受け付け、設定されたレーザー焦点位置に対する溶接動作を実行し、溶接品質を満足しない場合にはレーザー焦点位置の補正操作を受け付けて再度溶接動作を実行し、溶接品質を満足する場合にレーザー焦点位置(溶接条件)の設定を完了するよう構成された処理である。
【0070】
溶接条件設定処理の処理内容を記録したプログラムは、ROM33bまたはRAM33cに記録されている。溶接条件設定処理の実行時にはROM33bまたはRAM33cからそのプログラムが読み出されて、CPU33aで実行される。
【0071】
図3は、溶接条件設定処理の処理内容を表すフローチャートである。
溶接条件設定処理が起動されると、まず、S100(Sはステップを表す)では、レーザー焦点位置(溶接条件)を設定する処理を実行する。具体的には、情報入力部41または調整器具23を用いた作業者による入力操作を受け付けて、入力操作により特定される座標位置を、レーザー焦点位置の座標位置(三次元直交座標系でのX値,Y値,Z値)として設定する。
【0072】
次のS110では、ROM33bに予め記録されている上述の座標変換情報に基づいて、S100で設定されたレーザー焦点位置の座標位置に対応する目標射出条件を演算する処理を実行する。なお、目標射出条件とは、第1指令信号S1の内容(X軸反射部13a、Y軸反射部13b、焦点距離変更部13cの各設定状態)のことである。
【0073】
次のS120では、S110の演算で得られた目標射出条件(第1指令信号S1の内容)をリモート溶接ヘッド13(X軸反射部13a、Y軸反射部13b、焦点距離変更部13c)に設定した上で、レーザー発信器15によるレーザーの射出状態をオン状態に設定することで、被加工物19に対する溶接動作を実行する。
【0074】
次のS130では、被加工物19に形成された溶接箇所が予め定められた溶接品質を満足しているか否かの判定結果が作業者により入力されるまで待機し、入力された判定結果が「満足する」(肯定判定)の場合にはS190に移行し、入力された判定結果が「満足しない」(否定判定)の場合にはS140に移行する。
【0075】
なお、判定結果は、情報入力部41または調整器具23を用いた作業者の入力操作によって入力される。また、溶接箇所が溶接品質を満足するか否かの判定は、例えば、予め定められた判定項目(溶接位置が適切であるか、溶接強度が十分であるかなど)に基づいて実施される。
【0076】
ここで、レーザー焦点位置93が目標溶接位置92から外れている状態、換言すれば、溶接箇所が溶接品質を満足しない状態を、図4の第1状態として表す。なお、図4では、溶接作業場17における任意の座標位置を三次元直交座標系(X軸方向、Y軸方向、Z軸方向で定められる座標系)で表しており、図の左右方向をX軸方向とし、図の上下方向をZ軸方向として、各部の状態を表す。
【0077】
図4における第1状態は、レーザー90の射出方向が被加工物91の目標溶接位置92に向けて適切に設定されているものの、レーザー焦点距離が不適切であるため、レーザー焦点位置93が目標溶接位置92から外れてしまい、被加工物91の目標溶接位置92に対して適正な加工(溶接)ができない状態である。このとき、被加工物91の目標溶接位置92は、レーザー90の射出方向と交差するためレーザー90による溶接痕が残る。しかし、レーザー焦点位置93ではないため、溶接エネルギーが不十分となり、溶接箇所の溶接品質は不良となる。このような被加工物91は、溶接品質が不良であるため、作業員によって「溶接箇所が溶接品質を満足しない」と判定される。この場合、S130での処理において、作業員から入力される判定結果が「満足しない」(否定判定)となり、S140に移行する。
【0078】
なお、溶接箇所の溶接品質を判定する場合、作業員は、レーザー焦点位置93と目標溶接位置92との誤差寸法を計測する。加工装置1での加工(溶接)に用いるレーザーが不可視光であるため、作業者は、レーザー焦点位置計測用の計測器具を用いてレーザー焦点位置93を計測した上で、レーザー焦点位置93と目標溶接位置92との誤差寸法を計測する。このとき、計測器具を用いる場合には、レーザー焦点位置93と目標溶接位置92との相対位置関係(X軸、Y軸、Z軸の各方向の誤差)を計測することは困難であるため、作業員は、レーザー焦点位置93と被加工物91との距離D1(Z軸方向の誤差)を計測する。
【0079】
S130で否定判定されてS140に移行すると、S140では、レーザー焦点位置(溶接条件)の補正量が作業者により入力されるまで待機し、入力された値をレーザー焦点位置(溶接条件)のZ軸方向の補正量ΔZとして設定する。なお、作業員は、情報入力部41または調整器具23を用いて、自身で計測したレーザー焦点位置93と被加工物91との距離D1(Z軸方向の誤差)をZ軸補正量ΔZとして入力する。
【0080】
次のS150では、S140で設定されたZ軸補正量ΔZに基づいて、補正後焦点位置におけるX値およびY値を演算する。このときの演算には、[数1]および[数2]を用いる。
【0081】
【数1】
【0082】
【数2】
なお、[数1]および[数2]では、補正前の焦点位置をP0(X0,Y0,Z0)とし、補正後の焦点位置をP1(X1,Y1,Z1)とし、X軸反射部13aの回転角度をθxとし、Y軸反射部13bの回転角度をθyとして、演算式を表している。
【0083】
ここで、[数1]および[数2]により補正後焦点位置におけるX値およびY値を演算できることの根拠を、図5および図6を用いて説明する。
図5は、X−Z平面(X軸およびZ軸を含む平面)における補正前焦点位置P0と補正後焦点位置P1との位置関係を表す説明図である。図6は、X軸反射部13aの回転角度θxとレーザーの射出方向との関係を示す説明図である。
【0084】
図5において、補正前焦点位置P0は、図4における第1状態でのレーザー焦点位置93に相当し、補正後焦点位置P1は、図4における第1状態での目標溶接位置92に相当する。図5では、レーザー焦点位置が補正前焦点位置P0に設定される場合に焦点距離変更部13cに設定される焦点距離条件(焦点距離)をL0とし、レーザー焦点位置が補正後焦点位置P1に設定される場合に焦点距離変更部13cに設定される焦点距離条件(焦点距離)をL1として表す。
【0085】
図5に示すように、補正前焦点位置P0と補正後焦点位置P1との相対位置関係に関して、X軸方向の補正量ΔX(=X1−X0)は、Z軸方向の補正量ΔZ(=Z1−Z0)に対して、角度2θxを挟んだ位置関係にある。
【0086】
ここで、図6に示すように、発信源SPから射出されたレーザー90がX軸反射部13a(詳細には、反射鏡)の反射位置RPで反射した後の進行方向は、X軸反射部13aが基準位置BAにある場合にはA1方向となり、X軸反射部13aが基準位置BAから回転角度θxだけ回転した場合にはA2方向となる。このとき、A1方向とA2方向との間の角度は、2×θxとなる。なお、X軸反射部13aの角度位置(回動状態)は、X軸反射部13a(詳細には、反射鏡)に対するレーザー90の入射角が45度であるときが「基準位置BA」として設定されている。
【0087】
これらのことから、X軸方向の補正量ΔXが「ΔZ×tan(2×θx)」と等しくなることが分かるとともに、補正後焦点位置P1におけるX値(X1)が[数1]で演算できることが分かる。補正後焦点位置P1におけるY値(Y1)についても同様の理由により、[数2]で演算できる。つまり、[数1]のうち「ΔZ × tan(2×θx)」がX軸補正量ΔXに相当し、[数2]のうち「ΔZ × tan(2×θy)」がY軸補正量ΔYに相当する。
【0088】
なお、X軸反射部13aの回転角度θxは、X軸反射部13aの回動状態に関する情報のうち、レーザーの射出方向におけるX軸成分の変化に関連する情報(反射部の回動状態におけるX軸成分情報)として利用できる。つまり、X軸反射部13aの回転角度θxは、X軸反射部13aの回動状態(例えば、反射鏡の反射面の方向)を示す仮想ベクトルを想定した場合に、この仮想ベクトルをX−Z平面に投影してなる投影ベクトル(例えば、図6におけるX軸反射部13aを表す実線)と予め定められた基準ベクトル(例えば、図6における基準位置BA)との間の角度である。
【0089】
同様に、Y軸反射部13bの回転角度θyは、Y軸反射部13bの回動状態に関する情報のうち、レーザーの射出方向におけるY軸成分の変化に関連する情報(反射部の回動状態におけるY軸成分情報)として利用できる。つまり、Y軸反射部13bの回転角度θyは、Y軸反射部13bの回動状態(例えば、反射鏡の反射面の方向)を示す仮想ベクトルを想定した場合に、この仮想ベクトルをY−Z平面に投影してなる投影ベクトルと予め定められた基準ベクトルとの間の角度である。
【0090】
図3に戻り、次のS160では、S140で設定されたZ軸補正量ΔZに基づいて、補正後焦点位置におけるZ値を演算する。このときの演算には、[数3]を用いる。
【0091】
【数3】
次のS170では、S150およびS160での演算結果(X1,Y1,Z1)に基づいて、補正後焦点位置P1の座標位置を確定する。
【0092】
次のS180では、ROM33bに予め記録されている上述の座標変換情報に基づいて、補正後焦点位置P1の座標位置(X1,Y1,Z1)に対応する目標射出条件(補正後射出条件ともいう)を演算する処理を実行する。なお、補正後射出条件は、レーザーの焦点位置を補正後焦点位置P1に設定するための第1指令信号S1の内容(X軸反射部13a、Y軸反射部13b、焦点距離変更部13cの各設定状態)に相当する。
【0093】
S180が終了すると再びS120に移行する。S180が実行された後のS120では、S110の演算で得られた目標射出条件に代えて、S180の演算で得られた補正後射出条件(第1指令信号S1の内容)をリモート溶接ヘッド13(X軸反射部13a、Y軸反射部13b、焦点距離変更部13c)に設定する。つまり、このときのS120では、S180の演算で得られた補正後射出条件をリモート溶接ヘッド13に設定した上で、レーザー発信器15によるレーザーの射出状態をオン状態に設定することで、被加工物19に対する溶接動作を実行する。
【0094】
ここで、レーザー焦点位置93が目標溶接位置92に一致した状態、換言すれば、溶接箇所が溶接品質を満足する状態を、図4の第2状態として表す。
図4における第2状態は、レーザー90の射出方向が被加工物91の目標溶接位置92に向けて適切に設定されているとともに、レーザー焦点距離が適切に設定されているため、レーザー焦点位置93が目標溶接位置92に一致しており、被加工物91の目標溶接位置92に対して適正な加工(溶接)ができる状態である。つまり、溶接箇所の位置ズレが生じることなく、強度も十分な溶接が実現できるため、溶接箇所の溶接品質は良好となり、作業員によって「溶接箇所が溶接品質を満足する」と判定される。
【0095】
この後、S130に移行し、作業者により入力された判定結果が「満足する」(肯定判定)の場合にはS190に移行する。
S190では、最終的に設定されているレーザー焦点位置の座標位置に対応する目標射出条件(または補正後射出条件)を保存(記録)する処理を実行する。
【0096】
上記の通り、溶接条件設定処理を実行することで、溶接箇所が溶接品質を満足しない状態である場合には、レーザー焦点位置(溶接条件)の補正作業を実行することで、補正後の溶接箇所が溶接品質を満足する状態となるように溶接条件を設定(修正)できる。とりわけ、作業者は、補正作業に当たり、Z軸方向の補正量のみを入力すればよく、X軸方向およびY軸方向の補正量を入力する必要がないため、X軸、Y軸、Z軸の各方向の補正量について入力が必要な構成に比べて、補正作業の作業負荷が低減される。
【0097】
例えば、図7の第1状態に示すように、第1部材95と第2部材96とを溶接する場合において、レーザーの射出方向が目標溶接位置97,98に向けて適切に設定されているものの、レーザー焦点距離が不適切である場合には、目標溶接位置97,98に溶接痕が形成されるものの強度が不足してしまい溶接品質は不良となる。そこで、目標溶接位置97,98において適切な品質の溶接(加工)を実現するためには、レーザー焦点位置が目標溶接位置97,98に重なるように、第1部材95と第2部材96との積層方向におけるレーザー焦点位置の調整作業を実施する必要がある。
【0098】
そこで、溶接条件設定処理のS140でレーザー焦点位置(溶接条件)の補正量を作業者が入力してレーザー焦点位置(溶接条件)を補正することで、図7の第2状態に示すように、溶接箇所の位置ズレが生じることなく、目標溶接位置97,98において適切な品質の溶接(加工)を実現することができる。
【0099】
[1−4.効果]
以上説明したように、本実施形態の加工装置1は、X軸反射部13a、Y軸反射部13b、焦点距離変更部13cを備えたリモート溶接ヘッド13を備えている。リモート溶接ヘッド13は、X軸反射部13aの反射角度およびY軸反射部13bの反射角度を変更することでレーザーの射出方向を制御するとともに、焦点距離変更部13cの焦点距離条件を変更することでレーザーの焦点距離を制御するように構成されている。つまり、リモート溶接ヘッド13は、X軸反射部13aの反射角度、Y軸反射部13bの反射角度、焦点距離変更部13cの焦点距離条件をそれぞれ変更することで、溶接作業場17におけるレーザー焦点位置を変更できる。
【0100】
加工装置1においては、溶接条件設定処理のS140を実行するマイコン33が、作業者により入力された補正量をレーザー焦点位置(溶接条件)のZ軸方向の補正量ΔZとして設定すると、S150〜S170を実行するマイコン33が、Z軸補正量ΔZを用いてX軸補正量ΔXおよびY軸補正量ΔYを演算すると共に、補正後焦点位置P1の座標位置(X1,Y1,Z1)を演算する。つまり、加工装置1を用いて補正後焦点位置P1の座標位置(X1,Y1,Z1)を特定する場合には、作業員にとってはZ軸補正量ΔZのみを特定すればよく、X軸補正量ΔXおよびY軸補正量ΔYを作業員が特定する必要がない。
【0101】
そして、S180を実行するマイコン33が、補正後焦点位置P1の座標位置(X1,Y1,Z1)に対応する目標射出条件(補正後射出条件ともいう)を演算し、S120を実行するマイコン33が、補正後射出条件でレーザーを射出するようにリモート溶接ヘッド13およびレーザー発信器15を制御する。これにより、マイコン33がS140を実行することで特定されたZ軸補正量ΔZに応じて、レーザー焦点位置93を目標溶接位置92に設定(修正)することができる。
【0102】
つまり、加工装置1は、レーザー焦点位置93と目標溶接位置92とに誤差が生じた場合であっても、Z軸補正量ΔZのみによる位置調整作業を行うことで、レーザー焦点位置93を目標溶接位置92に設定(修正)することができる。
【0103】
よって、加工装置1によれば、レーザー焦点位置の位置調整作業に要する時間を短縮でき、作業負荷を低減できる。
[1−5.文言の対応関係]
ここで、文言の対応関係について説明する。
【0104】
加工装置1が加工装置の一例に相当し、溶接作業場17が加工空間の一例に相当し、リモート溶接ヘッド13およびレーザー発信器15がレーザー射出部の一例に相当し、S100を実行するマイコン33が加工位置特定部の一例に相当し、S110を実行するマイコン33が目標射出条件演算部の一例に相当し、S120を実行するマイコン33が射出制御部の一例に相当する。
【0105】
X軸反射部13aおよびY軸反射部13bが射出方向変更部の一例に相当し、焦点距離変更部13cが焦点距離変更部の一例に相当する。
S140を実行するマイコン33が補正量特定部の一例に相当し、S150〜S170を実行するマイコン33が補正後焦点位置演算部の一例に相当し、S180を実行するマイコン33が補正後射出条件演算部の一例に相当する。
【0106】
[2.他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、様々な態様にて実施することが可能である。
【0107】
例えば、上記実施形態では、レーザーによる加工形態が「溶接」である加工装置について説明したが、加工形態は溶接に限られることはない。例えば、レーザーによる切断を行う加工装置に対して本発明を適用することもできる。
【0108】
また、上記実施形態では、プログラムが記録されたROMまたはRAMをマイコン33に予め組み込んだ形態について説明したが、本発明はこのような形態に限定されるものではない。例えば、プログラムをコンピュータによる読み取りが可能な記録媒体に記録しておき、必要に応じてコンピュータシステムにロードする形態や、プログラムを通信ネットワークを介してコンピュータシステムにダウンロードする形態であってもよい。
【0109】
さらに、上記実施形態では、加工装置の制御部31がマイクロコンピュータ33を備える形態であるが、このような形態に限定されることはない。例えば、制御部は、マイクロコンピュータのようなソフトウェアを用いた形態に代えて、電気回路などのハードウェアにより構成した形態であってもよい。
【0110】
また、上記実施形態では、リモート溶接ヘッド13として、2個の反射部(X軸反射部、Y軸反射部)を備える構成について説明したが、このような構成に限られることはない。例えば、リモート溶接ヘッドが1つの反射部を備えており、その反射部が自身の反射面の方向を変更するための回動可能方向にX軸成分およびY軸成分が含まれるように構成されていてもよい。
【0111】
さらに、リモート溶接ヘッド13に備えられる変更部(レーザーの射出方向を変更する構成要素)は、上述のような反射部(反射型変更部)に限られることはない。リモート溶接ヘッド13に備えられる変更部としては、例えば、レーザーが透過する際の透過角度に応じてレーザーの射出方向を変更する透過型変更部を用いてもよい。
【0112】
また、上記実施形態では、加工空間(溶接作業場17)がレーザー射出部(リモート溶接ヘッド13)に対して鉛直方向下側に設けられる構成について説明したが、このような構成に限られることはない。例えば、加工空間がレーザー射出部に対して鉛直方向上側に設けられる構成や、加工空間がレーザー射出部に対して水平方向の隣接位置に設けられる構成であってもよい。なお、加工空間がレーザー射出部に対して鉛直方向上側に設けられる構成においては、上記実施形態と同様に、「水平方向をX軸方向およびY軸方向とし、鉛直方向をZ軸方向として定義した三次元直交座標系」を採用することとなる。また、加工空間がレーザー射出部に対して水平方向の隣接位置に設けられる構成においては、「水平方向のうちレーザー射出部から加工空間に向かう方向をZ軸方向とし、そのZ軸方向に垂直な方向をX軸方向およびY軸方向として定義した三次元直交座標系」を採用することとなる。
【符号の説明】
【0113】
1…加工装置、11…リモート溶接システム、13…リモート溶接ヘッド、13a…X軸反射部、13b…Y軸反射部、13c…焦点距離変更部、15…レーザー発信器、15a…レーザーコントローラ、17…溶接作業場、19…被加工物、21…デジタルI/Oモジュール、23…調整器具、31…制御部、33…マイクロコンピュータ(マイコン)、90…レーザー、91…被加工物、92…目標溶接位置、93…レーザー焦点位置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9