特許第6567980号(P6567980)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6567980
(24)【登録日】2019年8月9日
(45)【発行日】2019年8月28日
(54)【発明の名称】変速機ケース
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/028 20120101AFI20190819BHJP
   F16H 57/03 20120101ALI20190819BHJP
【FI】
   F16H57/028
   F16H57/03
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-11418(P2016-11418)
(22)【出願日】2016年1月25日
(65)【公開番号】特開2017-133525(P2017-133525A)
(43)【公開日】2017年8月3日
【審査請求日】2018年4月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000100768
【氏名又は名称】アイシン・エィ・ダブリュ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】特許業務法人あーく特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中川 英樹
(72)【発明者】
【氏名】山本 晃象
(72)【発明者】
【氏名】中田 博文
(72)【発明者】
【氏名】白坂 治樹
【審査官】 前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭58−96157(JP,U)
【文献】 実開昭57−65257(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/028
F16H 57/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁部と、この壁部を貫通し且つ動力伝達軸が挿通される貫通孔を有すると共に前記壁部から円筒形状に突出する軸受け部と、この軸受け部の突出方向と同方向に前記壁部から突出され且つ円弧部分を有するリブとを備えた変速機ケースにおいて、
前記軸受け部の中心線に沿う方向から見た場合の前記軸受け部と前記リブの円弧部分との間の2本の共通外接線同士の間の領域における前記壁部が、その他の領域の前記壁部よりも前記軸受け部の突出方向にオフセットされていることを特徴とする変速機ケース。
【請求項2】
請求項1記載の変速機ケースにおいて、
前記リブの円弧部分は、前記軸受け部の中心線と平行な中心線を有していることを特徴とする変速機ケース。
【請求項3】
請求項1または2記載の変速機ケースにおいて、
前記その他の領域の前記壁部に対する前記軸受け部の突出寸法は、前記その他の領域の前記壁部に対する前記リブの突出寸法よりも大きく設定されており、
前記2本の共通外接線同士の間の領域における前記壁部が前記その他の領域の前記壁部よりも前記軸受け部の突出方向にオフセットされた寸法は、前記軸受け部の前記突出寸法および前記リブの前記突出寸法それぞれよりも小さく設定されていることを特徴とする変速機ケース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動変速機等に備えられる変速機ケースに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に開示されているように、車両に搭載される自動変速機は、変速機ケースの内部に変速装置が収容されている。また、変速機ケースには、動力伝達軸が挿通される貫通孔が設けられており、この貫通孔の周辺部が前記動力伝達軸を回転自在に支持するための軸受け部として構成されている。この軸受け部は、変速機ケースの表面(一般面とも呼ばれる)から円筒状に突出した形状となっている。
【0003】
また、特許文献2に開示されているように、変速機ケースの表面には、オイルポンプ等を駆動するための動力伝達機構に備えられたスプロケットの外周側を囲むリブが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−349667号公報
【特許文献2】特開2015−218900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記動力伝達軸には、動力伝達のためのギヤが備えられている。このため、このギヤでの動力伝達時に発生するラジアル力やスラスト力が動力伝達軸から軸受け部に伝達されることになる。前述したように軸受け部は変速機ケースの表面から円筒状に突出した形状となっているので、変速機ケースの剛性(動力伝達軸を支持するための剛性)が十分に得られていないことに起因して、この軸受け部に振動が生じ、それによる騒音が発生してしまう虞がある。
【0006】
この軸受け部の振動を抑制するための手段として、変速機ケースの板厚寸法を大きくしたり、補強用のリブを追加したりすることが考えられる。しかし、これでは、変速機ケースの重量の大幅な増大を招いてしまうため好ましくない。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、重量の大幅な増大を招くことなく、軸受け部の振動を抑制可能な変速機ケースを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するための本発明の解決手段は、壁部と、この壁部を貫通し且つ動力伝達軸が挿通される貫通孔を有すると共に前記壁部から円筒形状に突出する軸受け部と、この軸受け部の突出方向と同方向に前記壁部から突出され且つ円弧部分を有するリブとを備えた変速機ケースを前提とする。この変速機ケースに対し、前記軸受け部の中心線に沿う方向から見た場合の前記軸受け部と前記リブの円弧部分との間の2本の共通外接線同士の間の領域における前記壁部が、その他の領域の前記壁部よりも前記軸受け部の突出方向にオフセットされている。
【0011】
これによれば、軸受け部の突出方向にオフセットされた壁部によって軸受け部とリブとが接続されることになる。これにより変速機ケースの剛性は高められている。このため、動力伝達時に発生するラジアル力やスラスト力が動力伝達軸から軸受け部に伝達される状況であっても、このオフセットされた壁部によって軸受け部の振動は抑制されることになる。つまり、壁部をオフセットさせたことによって、変速機ケースの板厚寸法を大きくすることなしに変速機ケースの剛性を高めることができ、変速機ケースの重量の大幅な増大を招くことなしに、軸受け部の振動を抑制し、騒音の発生を抑制することができる。また、壁部がオフセットされる領域は、軸受け部とリブの円弧部分との間の2本の共通外接線同士の間の領域であって、前記効果を奏するための必要最小限の領域に設定されている。このため、設計変更を必要最小限に抑えながら、前記効果を奏することが可能である。
また、前記リブの円弧部分は、前記軸受け部の中心線と平行な中心線を有している。
更に、前記その他の領域の前記壁部に対する前記軸受け部の突出寸法は、前記その他の領域の前記壁部に対する前記リブの突出寸法よりも大きく設定されており、前記2本の共通外接線同士の間の領域における前記壁部が前記その他の領域の前記壁部よりも前記軸受け部の突出方向にオフセットされた寸法は、前記軸受け部の前記突出寸法および前記リブの前記突出寸法それぞれよりも小さく設定されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、円筒形状の軸受け部の中心線に沿う方向から見た場合の軸受け部とリブの円弧部分との間の2本の共通外接線同士の間の領域における壁部を、その他の領域の壁部よりも軸受け部の突出方向にオフセットさせている。このため、変速機ケースの板厚寸法を大きくすることなしに変速機ケースの剛性を高めることができ、変速機ケースの重量の大幅な増大を招くことなしに、軸受け部の振動を抑制し、騒音の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】変速機ケースの一部を示す側面図である。
図2図1におけるII矢視図である。
図3図1におけるIII−III線に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、車両に搭載される自動変速機の変速機ケースに本発明を適用した場合について説明する。
【0015】
図1は本実施形態に係る変速機ケース1の一部を示す側面図である。また、図2図1におけるII矢視図である。また、図3図1におけるIII−III線に沿った断面図である。これらの図に示すように、変速機ケース1は、壁部2と、軸受け部3と、第1リブ41と、第2リブ42とを備えている。
【0016】
壁部2は、変速機ケース1において鉛直方向に延びる縦壁で成り、変速機ケース1に所定の剛性を得るための板厚で形成されている。
【0017】
軸受け部3は、前記壁部2に一体形成され、この壁部2の表面から略円筒状に突出した形状となっている。そして、この軸受け部3の中央には、図示しない動力伝達軸が挿通される貫通孔31が形成されている。このように、軸受け部3は、壁部2を貫通し且つ動力伝達軸が挿通される貫通孔31を有すると共に壁部2から円筒形状に突出している。また、前記貫通孔31の内面には図示しないメタル軸受けが配設され、これによって動力伝達軸が回転自在に支持される。
【0018】
各リブ41,42は、図示しないオイルポンプ等を駆動するための動力伝達機構に備えられたスプロケットの外周側を囲むものである。これらリブ41,42は、前記軸受け部3の突出方向と同方向に壁部2から突出されている。
【0019】
第1リブ41は、軸受け部3の中心線O1と平行な中心線O2を有する円弧部分43を有している。この円弧部分43は、スプロケットの上側部分を囲むものである。また、この円弧部分43の両端には、前記動力伝達機構のチェーン(図示省略)の長手方向に沿って延びるチェーン保護部44,45が連続して形成されている。
【0020】
第2リブ42は、軸受け部3の中心線O1と平行な中心線O3を有する円弧形状に形成されている。この第2リブ42は、スプロケットの下側部分を覆うものである。
【0021】
本実施形態の特徴は前記軸受け部3と第1リブ41との間の壁部21の構成にある。
【0022】
具体的に、図1に示すように、前記軸受け部3の中心線O1に沿う方向から見た場合の軸受け部3と第1リブ41の円弧部分43との間の2本の共通外接線L1,L2(図1の仮想線を参照)で結ばれたケース形状を持つ構成としている。より具体的には、軸受け部3と第1リブ41の円弧部分43との間の2本の共通外接線L1,L2同士の間の領域における壁部21が、その他の領域の壁部22よりも軸受け部3の突出方向(図3における右方向)にオフセットされている。
【0023】
具体的には、図2に示すように、オフセットされていない壁部22に対する軸受け部3の突出寸法はT1であり、第1リブ41の突出寸法はT2であるのに対し、壁部21のオフセット寸法はT3となっている。そして、軸受け部3の突出寸法T1は第1リブ41の突出寸法T2よりも僅かに大きく設定されており、壁部21のオフセット寸法T3は、前記軸受け部3の突出寸法T1および第1リブ41の突出寸法T2それぞれよりも小さく設定されている。より具体的には、壁部21のオフセット寸法T3は、軸受け部3の突出寸法はT1の約1/3程度に設定されている。これらの寸法はこれに限定されるものではなく、適宜設定される。
【0024】
このように構成された変速機ケース1は、内部に変速装置が収容された状態で図示しない変速機カバーが取り付けられる。この変速機カバーの取り付け作業では、変速機ケース1の外周縁部に形成された合わせ部に対して変速機カバーの外周縁部に形成された合わせ部を重ね合わせ、これら合わせ部同士をボルトによって締結する。
【0025】
次に、本実施形態の作用効果について説明する。前述したように、軸受け部3と第1リブ41の円弧部分43との間の2本の共通外接線L1,L2同士の間の領域における壁部21が、その他の領域の壁部22よりも軸受け部3の突出方向にオフセットされている。このため、軸受け部3の突出方向にオフセットされた壁部21によって軸受け部3と第1リブ41とが接続されることになる。これにより変速機ケース1の剛性は高められている。つまり、前記スプロケット用のリブ(前記第1リブ41)を有効に利用して変速機ケース1の剛性を高める構成とされている。このため、動力伝達時に発生するラジアル力やスラスト力が動力伝達軸から軸受け部3に伝達される状況であっても、このオフセットされた壁部21によって軸受け部3の振動は抑制されることになる。つまり、壁部21をオフセットさせたことによって、変速機ケース1の板厚寸法を大きくすることなしに変速機ケース1の剛性を高めることができ、変速機ケース1の重量の大幅な増大を招くことなしに、軸受け部3の振動を抑制し、騒音の発生を抑制することができる。
【0026】
また、壁部2がオフセットされる領域は、軸受け部3と第1リブ41の円弧部分43との間の2本の共通外接線L1,L2同士の間の領域であって、前記効果を奏するための必要最小限の領域に設定されている。このため、設計変更を必要最小限に抑えながら、前記効果を奏することが可能である。このように、本実施形態の構成では、質量効率良く前記効果を奏することが可能である。
【0027】
−他の実施形態−
以上説明した実施形態は、車両に搭載される自動変速機に備えられる変速機ケース1に本発明を適用した場合について説明した。本発明はこれに限らず、車両以外のものに搭載される変速機に備えられる変速機ケースに対しても適用が可能である。
【0028】
また、前記実施形態では、スプロケット用のリブ(前記第1リブ41)と軸受け部3との間の壁部21をオフセットさせる構成としていた。本発明はこれに限らず、軸受け部3の突出方向と同方向に壁部2から突出され且つ円弧部分を有するリブであれば、必ずしもスプロケット用のリブである必要はない。例えば、前記貫通孔31に挿通される動力伝達軸以外の動力伝達軸に備えられたギヤの外周側を囲むように配設されたリブを利用することも可能である。つまり、このリブの円弧部分と軸受け部3との間の2本の共通外接線同士の間の領域における壁部をその他の領域の壁部よりも軸受け部3の突出方向にオフセットさせる構成としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、スプロケットを覆うリブおよび軸受け部を有する変速機ケースに適用可能である。
【符号の説明】
【0030】
1 変速機ケース
2,21,22 壁部
3 軸受け部
31 貫通孔
41 第1リブ(リブ)
43 円弧部分
O1 軸受け部の中心線
O2 円弧部分の中心線
図1
図2
図3