特許第6567991号(P6567991)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6567991
(24)【登録日】2019年8月9日
(45)【発行日】2019年8月28日
(54)【発明の名称】熱電変換材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 35/16 20060101AFI20190819BHJP
   H01L 35/34 20060101ALI20190819BHJP
   H01L 35/26 20060101ALI20190819BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20190819BHJP
   B22F 9/24 20060101ALI20190819BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20190819BHJP
   C22C 1/04 20060101ALI20190819BHJP
【FI】
   H01L35/16
   H01L35/34
   H01L35/26
   B82Y40/00
   B22F9/24 Z
   B22F1/00 E
   C22C1/04 E
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-42279(P2016-42279)
(22)【出願日】2016年3月4日
(65)【公開番号】特開2017-157785(P2017-157785A)
(43)【公開日】2017年9月7日
【審査請求日】2018年5月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501402730
【氏名又は名称】株式会社アドマテックス
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100101904
【弁理士】
【氏名又は名称】島村 直己
(74)【代理人】
【識別番号】100180932
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 洋子
(72)【発明者】
【氏名】吉永 文隆
(72)【発明者】
【氏名】大川内 義徳
【審査官】 加藤 俊哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−195359(JP,A)
【文献】 特開2013−065669(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 35/16
B22F 1/00
B22F 9/24
B82Y 40/00
C22C 1/04
H01L 35/26
H01L 35/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の工程:
(a)Bi及びSbから選択される少なくとも1種の母材構成元素の前駆体と、Te及びSeから選択される少なくとも1種の母材構成元素の前駆体と、溶媒とを含有する溶液と、還元剤とを混合して母材複合粒子を得る工程、
(b)工程(a)で得られた複合粒子を含む溶液の溶媒を場合により他の溶媒に置換し、当該溶液に分散材を添加する工程、及び
(c)工程(b)で得られた複合粒子及び分散材を含む溶液を熱処理する工程を含む、熱電変換材料の製造方法であって、
分散材と母材とのハンセン溶解度パラメータ(HSP)距離Ra、及び分散材と分散材を添加する複合粒子を含む溶液の溶媒とのハンセン溶解度パラメータ(HSP)距離Rbが、下記式(I):
Ra−Rb≦3.0 (I)
を満たし、
分散材が、下記一般式(II):
【化1】
(式中、
Mは、Si、Ti、Al、Sb及びTeからなる群より選択され、
は独立して、母材構成元素と結合可能な官能基であり、
は独立して、CH基、又は母材構成元素と結合可能な官能基であり、
nは、45〜55の整数であり、
mは、0〜5の整数であり、
lは、0〜5の整数である)
で表される化合物である、上記方法。
【請求項2】
溶媒のヒルデブランドの溶解度パラメータ(SP)値が、21.3以上である、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化問題から二酸化炭素排出量を削減するために、化石燃料から得られるエネルギーの割合を低減する技術への関心が益々増大しており、そのような技術の1つとして未利用廃熱エネルギーを電気エネルギーに直接変換し得る熱電変換材料が挙げられる。熱電変換材料とは、火力発電のように熱を一旦運動エネルギーに変換しそれから電気エネルギーに変換する2段階の工程を必要とせず、熱から直接に電気エネルギーに変換することを可能とする材料である。
【0003】
熱から電気エネルギーへの変換は熱電変換材料から成形したバルク体の両端の温度差を利用して行われる。この温度差によって電圧が生じる現象はゼーベックにより発見されたのでゼーベック効果と呼ばれている。この熱電変換材料の性能は、次式で求められる性能指数Zで表される。
【0004】
Z=ασ/κ(=PF/κ)
【0005】
ここで、αは熱電変換材料のゼーベック係数、σは熱電変換材料の伝導率、κは熱電変換材料の熱伝導率である。ασの項をまとめて出力因子PFという。そして、Zは温度の逆数の次元を有し、この性能指数Zに絶対温度Tを乗じて得られるZTは無次元の値となる。そしてこのZTを無次元性能指数と呼び、熱電変換材料の性能を表す指標として用いられている。よって、熱電変換材料の性能向上には上記の式から明らかなように、より低い熱伝導率κが求められる。
【0006】
従来から、熱電変換材料では熱伝導率低減による性能向上のため、母材と分散材とを複合化すること等が試みられている。
【0007】
例えば特許文献1には、熱電変換材料の原料物質の塩の溶液(例えばエタノール溶液)に、還元剤と分散材を混合し、この混合物を撹拌・熟成させ、次いでこの混合物に対して水熱処理を行うことを含む、ナノコンポジット熱電材料の製造方法が記載されている。しかしながら、母材と分散材とを十分に複合化するための母材、分散材及び溶媒の組み合わせや選択するための指標については具体的に言及されていない。
【0008】
また特許文献2には、コア部と、前記コア部を被覆する、構成材料がInSbであるシェル部とを有するコアシェル型ナノ粒子が記載されている。特許文献2には、その製造方法において、分散性向上のために母材構成材料に付着可能な官能基を有する有機化合物を用いることが記載されているが、複合化の程度を向上させて熱伝導率を低減させるために当該有機化合物を用いることは記載されていない。当該有機化合物はコアシェル型ナノ粒子を用いた熱電変換材料の製造工程において除去されており、よってこれにより熱電変換材料の熱伝導率を低減させるものではない。
【0009】
よって、熱伝導率を低減させるために、母材と分散材とが十分に複合化された熱電変換材料の製造方法の開発が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2015−195359号公報
【特許文献2】特開2007−21670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、母材と分散材とが十分に複合化された熱電変換材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、熱電変換材料の製造において、分散材と母材との親和性に対して相対的に分散材と溶媒との親和性を特定の程度に低減させることにより、母材と分散材とを十分に複合化することができることを見出した。
【0013】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)次の工程:
(a)Bi及びSbから選択される少なくとも1種の母材構成元素の前駆体と、Te及びSeから選択される少なくとも1種の母材構成元素の前駆体と、溶媒とを含有する溶液と、還元剤とを混合して母材複合粒子を得る工程、
(b)工程(a)で得られた複合粒子を含む溶液の溶媒を場合により他の溶媒に置換し、当該溶液に分散材を添加する工程、及び
(c)工程(b)で得られた複合粒子及び分散材を含む溶液を熱処理する工程を含む、熱電変換材料の製造方法であって、
分散材と母材とのハンセン溶解度パラメータ(HSP)距離Ra、及び分散材と分散材を添加する複合粒子を含む溶液の溶媒とのハンセン溶解度パラメータ(HSP)距離Rbが、下記式(I):
Ra−Rb≦3.0 (I)
を満たす、上記方法。
(2)溶媒のヒルデブランドの溶解度パラメータ(SP)値が、21.3以上である(1)に記載の方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の熱電変換材料の製造方法によれば、母材と分散材とを十分に複合化することができる。本発明の熱電変換材料の製造方法によれば、適切な溶媒を選定することが可能となることから、分散材が少ない量でも複合化を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、実施例1−3及び比較例1の熱電変換材料についての、分散材と母材とのHSP距離Ra−分散材と溶媒とのHSP距離Rbの値と、分散材成分(Si)複合量との関係を示すグラフである。
図2図2は、実施例1−3及び比較例1の熱電変換材料についての、溶媒のヒルデブランドのSP値と、分散材成分(Si)複合量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、次の工程:(a)Bi及びSbから選択される少なくとも1種の母材構成元素の前駆体と、Te及びSeから選択される少なくとも1種の母材構成元素の前駆体と、溶媒とを含有する溶液と、還元剤とを混合して母材複合粒子を得る工程、(b)工程(a)で得られた複合粒子を含む溶液の溶媒を場合により他の溶媒に置換し、当該溶液に分散材を添加する工程、及び(c)工程(b)で得られた複合粒子及び分散材を含む溶液を熱処理する工程を含む、熱電変換材料の製造方法に関し、分散材と母材とのハンセン溶解度パラメータ(HSP)距離Ra、及び分散材と分散材を添加する複合粒子を含む溶液の溶媒とのハンセン溶解度パラメータ(HSP)距離Rbが、下記式(I):Ra−Rb≦3.0を満たすことを特徴とする(以下、本発明の製造方法ともいう)。本発明者らは、(Bi,Sb)(Te,Se)系熱電変換材料の製造において、分散材と母材との親和性に対して相対的に分散材と溶媒との親和性を低減させる(分散材と母材とのHSP距離Ra−分散材と溶媒とのHSP距離Rb=3.0(MPa1/2)以下)ことで大幅に複合量を増大することができることを見出した。本発明の製造方法により、分散材・母材と溶媒との分散性(親和性)を向上させることにより複合量の増大を図る従来の技術よりも、分散材と母材の複合量を増大させることができる。具体的には、本発明の製造方法は、分散材と溶媒との親和性に対して分散材と母材との親和性が相対的に高いため、分散材と母材との結合性を増加させることができる。その結果として分散材と母材との複合量が増大し、熱伝導率を大幅に低減することが可能となる。また、本発明の製造方法は、適切な溶媒を選定することが可能となることから、分散材が相対的に少ない量でも複合化を促進することができるため、電気伝導率の低下を従来よりも抑制することができ、これにより、熱電変換効率ZTを大幅に向上させることができる。
【0017】
ここで、ハンセン溶解度パラメータ(以下、「HSP」とも記載する)は物質間の溶解特性を表すパラメータである。本明細書において、ハンセン溶解度パラメータ(HSP)は、ヒルデブランドの溶解度パラメータ(SP)を、ロンドン分散力、双極子間力及び水素結合力の3個の凝集エネルギー成分に分割したベクトル量のパラメータを意味する。本明細書において、HSPのロンドン分散力に対応する成分を分散項(以下、「δd」とも記載する)、双極子間力に対応する成分を極性項(以下、「δp」とも記載する)、水素結合力に対応する成分を水素結合項(以下、「δh」とも記載する)と記載する。また総HSPは以下の式:
ヒルデブランドのSP=総HSP=δd+δp+δh
で表される。HSPはベクトル量であるため、純粋な物質で全く同一の値を有するものは殆ど存在しないことが知られている。また、一般的に使用される物質のHSPは、データベースが構築されている。このため、当業者であれば、当該データベースを参照することにより、所望の物質のHSP値を入手することができる。データベースにHSP値が登録されていない物質であっても、当業者であれば、Hansen Solubility Parameters in Practice(HSPiP)のようなコンピュータソフトウェアを用いることにより、その化学構造からHSP値を計算することができる。複数の物質からなる混合物の場合、該混合物のHSP値は、含有成分である各物質のHSP値に、該成分の混合物全体に対する体積比を乗じた値の和として算出される。HSPについては、例えば、山本博志,S.Abbott,C.M.Hansen,化学工業,2010年3月号を参照することができる。
【0018】
本明細書において分散材と母材とのハンセン溶解度パラメータ(HSP)距離Raは以下の式:
Ra=4x(δd−δd+(δp−δp+(δh−δh
[式中、
δdは、分散材のハンセン溶解度パラメータ(HSP)の分散項であり、
δpは、分散材のハンセン溶解度パラメータ(HSP)の極性項であり、
δhは、分散材のハンセン溶解度パラメータ(HSP)の水素結合項であり、
δdは、母材のハンセン溶解度パラメータ(HSP)の分散項であり、
δpは、母材のハンセン溶解度パラメータ(HSP)の極性項であり、
δhは、母材のハンセン溶解度パラメータ(HSP)の水素結合項であり、
Raは、ハンセン溶解度パラメータ(HSP)空間における、分散材と母材とのHSP距離である]
で表される。
【0019】
本明細書において分散材と溶媒とのハンセン溶解度パラメータ(HSP)距離Rbは以下の式:
Rb=4x(δd−δd+(δp−δp+(δh−δh
[式中、
δdは、分散材のハンセン溶解度パラメータ(HSP)の分散項であり、
δpは、分散材のハンセン溶解度パラメータ(HSP)の極性項であり、
δhは、分散材のハンセン溶解度パラメータ(HSP)の水素結合項であり、
δdは、溶媒のハンセン溶解度パラメータ(HSP)の分散項であり、
δpは、溶媒のハンセン溶解度パラメータ(HSP)の極性項であり、
δhは、溶媒のハンセン溶解度パラメータ(HSP)の水素結合項であり、
Rbは、ハンセン溶解度パラメータ(HSP)空間における、分散材と溶媒とのHSP距離である]
で表される。ここで上記溶媒とは、工程(b)において分散材を添加する複合粒子を含む溶液の溶媒を意味する。
【0020】
上記式(I)において、母材と分散材との複合化を促進させる観点から、Ra−Rbは3.0以下であり、好ましくは2.0以下であり、さらに好ましくは0以下であり、特に好ましくは−2.0以下である。同様の観点から、Ra−Rbは−14.0〜3.0であり、好ましくは−7.0〜2.0であり、さらに好ましくは−5.0〜0であり、特に好ましくは−3.0〜−2.0である。
【0021】
上記工程(a)において使用するBi及びSbから選択される少なくとも1種の元素の前駆体とTe及びSeから選択される少なくとも1種の元素(以下、両者を母材構成元素ともいう)の前駆体としては、溶媒に溶解するものであれば特に制限されず、具体的には上記母材構成元素の塩、好ましくは上記元素のハロゲン化物(例えば塩化物、フッ化物及び臭化物)、硫酸塩、硝酸塩等が挙げられ、特に好ましくは塩化物、硫酸塩、硝酸塩等が挙げられる。用いる母材構成元素の質量比を調節することにより、所望の材質の母材とすることができる。本発明の製造方法により得られる熱電変換材料の母材の材質としては特に制限なく、例えば、(Bi、Sb)Te系、(Bi、Sb)(Te、Se)系、BiTe系、(Bi、Sb)Te系、Bi(Te、Se)系等が挙げられ、これらの中で、熱電変換効率の観点から、(Bi、Sb)(Te、Se)系とすることが好ましい。上記母材のHSP値は、HSP値が公知の複数の溶媒を用意して、それぞれの溶媒に対する母材の分散性の試験結果を基に、コンピュータソフトウェア(HSPiP)を用いることにより算出することができ、当業者であれば適宜選択することができる。
【0022】
上記工程(a)において使用する還元剤は、母材構成元素の前駆体を還元し得るものであれば特に制限はなく、例えば第三級ホスフィン、第二級ホスフィン及び第一級ホスフィン、ヒドラジン、ヒドラジン水和物、ヒドロキシフェニル化合物、水素、水素化物、ボラン、アルデヒド、還元性ハロゲン化物、多官能性還元体等が挙げられ、その中でも水素化ホウ素アルカリ、例えば水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素リチウム等の物質の1種類以上が挙げられる。
【0023】
上記工程(a)において使用する母材構成元素の前駆体を溶解させる溶媒としては、元素の前駆体を溶解することができる限り特に制限されないが、具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール及びオクタノールの中から選ばれる1種又は2種以上の混合物が挙げられ、これらの中で、後工程である工程(c)において蒸気圧が高いものを用いることが望ましいことから、エタノール及びメタノール等が好ましい。
【0024】
上記工程(b)において、工程(a)で得られた複合粒子を含む溶液の溶媒を場合により他の溶媒に置換し、当該溶液に分散材を添加する。工程(a)で用いる溶媒と同一の溶媒を工程(b)に用いる場合には、溶媒を置換しなくてもよい。
【0025】
上記工程(b)において使用する溶媒としては、分散材と溶媒とのハンセン溶解度パラメータ(HSP)距離Rbが、分散材と母材とのハンセン溶解度パラメータ(HSP)距離Raに対して上記式(I)を満たす限り特に制限されないが、水、直鎖又は分岐鎖のアルキル基を有するアルコール等、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール(イソプロピルアルコール)、n−プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−メチル−2−プロパノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、エチレングリコール、プロパンジオール、ヘキサンジオール、アミノアルコール並びにこれらの中から選ばれる1種又は2種以上の混合物が挙げられ、これらの中で、母材粒子の分散性の観点から、水、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール及びこれらの混合物が好ましい。また、溶媒は、母材粒子の分散性の観点から、HSP値が、好ましくは21.3以上、さらに好ましくは23.0〜36.0、特に好ましくは25.0〜30.0である。上述したように、溶媒のHSP値は、登録されているか、又は溶媒の化学構造から公知の手段により算出することができ、当業者であれば適宜選択することができる。
【0026】
上記分散材は、分散材と母材とのハンセン溶解度パラメータ(HSP)距離Ra、及び分散材と溶媒とのハンセン溶解度パラメータ(HSP)距離Rbが上記式(I)を満たすものであれば特に限定されないが、例えば、シロキサン及びシルメチレン等を主骨格とする有機炭素系化合物等を挙げることができる。また分散材としては、母材と分散材との間に微細かつ複雑な構造の界面が生じ、これによる界面積の増加によりフォノンを効果的に散乱させる観点から、母材構成元素と結合可能な官能基を有する分散材を用いることが好ましい。ここで「母材構成元素と結合可能な官能基」とは、母材と化学的に結合し、強固な結合を維持することが可能な官能基を意味する。母材構成元素と結合可能な官能基としては、母材構成元素と上に説明した結合性を有するものであれば特に限定されないが、例えば、メルカプト基、カルボキシル基、アミノ基、ビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリル基、アクリル基、イソシアヌレート基、ウレイド基、スルフィド基及びイソシアネート基からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられ、汎用性の高さから、メルカプト基、アミノ基及びカルボキシル基からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。上記分散材のHSP値は、HSP値が公知の複数の溶媒を用意して、それぞれの溶媒に対する各分散材の溶解性の試験結果を基に、コンピュータソフトウェア(HSPiP)を用いることにより算出することができ、当業者であれば適宜選択することができる。
【0027】
上記母材構成元素と結合可能な官能基を有する有機炭素系化合物としては、具体的には、下記一般式(II):
【化1】
(式中、
Mは、Si、Ti、Al、Sb及びTeからなる群より選択され、
は独立して、母材構成元素と結合可能な官能基であり、
は独立して、CH基、又は母材構成元素と結合可能な官能基であり、
nは、2〜70の整数であり、
mは、0〜5の整数であり、
lは、0〜5の整数である)
で表される化合物が挙げられる。分散材として一般式(II)で表される化合物を使用する場合、本発明の熱電変換材料において、分散材はG又はGにおいて母材元素に結合している。一般式(II)中のG及びGはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。このような構造を含む分散材は、上記一般式(II)に示されるように官能基以外の最外側は反応性の少ない炭化水素基で構成されるために、加熱により重縮合して粗大粒子が生成することを防ぐことができる。このような観点から、上記一般式(II)において、GがCH基であることが好ましい。
【0028】
一実施形態において、上記一般式(II)中のnは、母材との親和性の観点から、10〜70の整数であり、好ましくは20〜65であり、さらに好ましくは30〜60であり、特に好ましくは45〜55である。また、分散材の大きさを適切なものとすることにより、フォノン熱伝導率を低下させることができる。他の実施形態において、上記一般式(II)中のnは、母材との親和性の観点から、2〜70の整数であり、好ましくは2〜60であり、さらに好ましくは2〜45である。
【0029】
上記分散材は、母材と親和性を高める観点から、母材とのハンセン溶解度パラメータ(HSP)距離Raが、好ましくは13.0以下であり、さらに好ましくは10.0以下である。同様の観点から、Raは、好ましくは2.0〜13.0であり、さらに好ましくは2.0〜10.0である。
【0030】
上記分散材は、溶媒との親和性を母材との親和性より相対的に小さくし、分散材と母材との複合量を増大させる観点から、分散材と溶媒とのハンセン溶解度パラメータ(HSP)距離Rbが、好ましくは7.0以上であり、さらに好ましくは10.0以上である。同様の観点から、Rbは、好ましくは7.0〜26.0であり、さらに好ましくは10.0〜15.0である。
【0031】
上記工程(b)において、用いる分散材は、電気伝導率の低下を抑制する観点から含有量が少ないことが好ましく、具体的には、熱電変換材料を基準として、好ましくは1.0〜40モル%、さらに好ましくは2.0〜35モル%、特に好ましくは4.0〜20モル%となる量で用いることができる。
【0032】
上記工程(c)において、工程(b)で得られた複合粒子及び分散材を含む溶液を熱処理して合金化を行なう。当該熱処理は、合金化が可能であれば特に制限されないが、低温で合金化を促進させる観点から、ソルボサーマル反応させる方法が好ましい。ソルボサーマル反応は、有機溶媒中において、高温及び高圧下で複数の原料物質を反応させて、反応生成物を得る技術である。ソルボサーマル反応させる温度は、200〜350℃であることが好ましい。ソルボサーマル反応させる圧力は、0〜20MPaの範囲であることが好ましく、0.5〜15MPaの範囲であることがより好ましい。また、ソルボサーマル反応させる時間は、1〜48時間の範囲であることが好ましく、5〜24時間の範囲であることがより好ましく、8〜12時間の範囲であることがさらに好ましい。ソルボサーマル反応に使用される反応容器及び/又は反応制御装置等の手段は特に限定されない。本工程においては、オートクレーブのような当該技術分野でソルボサーマル反応に通常使用される装置を、反応容器及び反応制御装置として用いることができる。例えば、200〜250℃の範囲の温度でソルボサーマル反応させる場合、フッ素樹脂(例えばテフロン(登録商標))のような比較的安価な樹脂を用いたオートクレーブ装置を使用すればよく、250℃超かつ350℃以下の温度でソルボサーマル反応させる場合、ニッケル合金(例えばハステロイ(登録商標))のような耐熱・耐食合金を用いたオートクレーブ装置を使用すればよい。上記手段を用いることにより、特別な装置を準備することなく本工程のソルボサーマル反応を実施することができる。ソルボサーマル反応に使用される有機溶媒としては、例えば、エタノール若しくはメタノール又はそれらの混合物であることが好ましく、エタノール若しくはメタノール又はそれらの混合物であることが好ましい。
【0033】
上記工程(c)の後、合金化された粒子を含む溶液を乾燥させることが好ましい。乾燥方法としては、密閉容器中での不活性ガスフローが挙げられる。
【0034】
上記工程(c)の後、構成元素を含有する熱電変換材料を焼結する焼結工程(d)を行ってもよい。本工程により、上記熱電変換材料の一次粒子が凝集したバルク体の形態の熱電変換材料を形成させることができる。本工程において、上記熱電変換材料を焼結する手段は特に限定されない。例えば、放電プラズマ焼結(SPS焼結)法又はホットプレス法のような当該技術分野で通常使用される焼結手段を適用することができる。本工程は、SPS焼結法を用いて実施することが好ましい。上記手段によって上記熱電変換材料の一次粒子を焼結することにより、該一次粒子が凝集したバルク体の形態の熱電変換材料を形成させることができる。例えば、熱電変換材料を300℃〜450℃、50〜100MPa、10〜30分間SPS焼結(放電プラズマ焼結:Spark Plasma Sintering)することによって、熱電変換材料バルク体を得ることができる。SPS焼結は、パンチ(上部、下部)、電極(上部、下部)、ダイ及び加圧装置を備えたSPS焼結機を用いて行うことができる。また、焼結の際に、焼結機の焼結チャンバのみを外気から隔離して不活性の焼結雰囲気にしてもよくあるいはシステム全体をハウジングで囲んで不活性雰囲気にしてもよい。
【0035】
本発明の製造方法により得られる熱電変換材料は、母材と分散材との複合量が十分の増大されているために、良好な格子熱伝導率を有する。具体的には、本発明の製造方法により得られる熱電変換材料の格子熱伝導率は、好ましくは0.5W/m/K以下、さらに好ましくは0.25W/m/K以下、特に好ましくは0.15W/m/K以下である。
【0036】
本発明の製造方法により得られる熱電変換材料は、通常は、微細粒径の粒子の形態であり、典型的には、ナノ粒子の形態である。一般に、約100nm超の平均粒径を有する合金粒子はサブマイクロ粒子と分類され、約100nm以下の平均粒径を有する合金粒子はナノ粒子と分類される。上記熱電変換材料は、通常は、300nm以下の平均粒径を有し、典型的には、200nm以下の平均粒径を有する。上記熱電変換材料は、通常は、50nm以上の平均粒径を有し、典型的には、70nm以上の平均粒径を有する。本発明の熱電変換材料は、上記平均粒径を有する微細粒径の粒子(以下、「一次粒子」とも記載する)を焼結等することによって得られるバルク体の形態であってもよい。
【0037】
本発明の製造方法により得られる熱電変換材料は、熱電変換素子の製造に用いることができる。熱電変換素子は、本発明の製造方法により得られる熱電変換材料を用いて、それ自体公知の方法によって、N型ナノコンポジット熱電変換材料、P型ナノコンポジット熱電変換材料、電極及び絶縁性基板を組み立てることによって得ることができる。熱電変換素子は、本発明の製造方法により得られる熱電変換材料を用いて、それ自体公知の方法によって、N型ナノコンポジット熱電変換材料、P型ナノコンポジット熱電変換材料、電極及び絶縁性基板を組み立てることによって得ることができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は実施例の範囲に限定されない。
実施例1−3及び比較例1
[I:熱電変換材料の製造]
[実施例1]
(1)熱電変換材料を構成する元素の塩BiCl(0.24g)、SbCl(0.68g)、TeCl(1.51g)及びエタノールを含む溶液Aと還元剤(NaBH)を含む溶液B(1.60gのNaBHを150mlのエタノールに溶解させたもの)を混合して、熱電変換材料を構成するナノ母材複合粒子を作製した。
(2)作製したナノ母材複合粒子(Bi,Sb,Te)及び表1に示す溶媒を含む溶液中に分散材として、以下の表1及び化学式に示す有機炭素化合物(0.14g)を添加した。
(3)低温熱処理(ソルボサーマル)(240℃、48時間)を施し、合金化を促進し、熱電変換材料母材を形成した。
(4)溶媒を乾燥させて粉末を得た。
(5)上記合金粉末を焼結処理(360℃)によりバルク化して焼結体を得た。
【0039】
[実施例2]
工程(2)において用いる溶媒を以下の表1に示されるものとした以外は、実施例1と同様にして焼結体を得た。
【0040】
[実施例3]
工程(2)において用いる溶媒を以下の表1に示されるものとした以外は、実施例1と同様にして焼結体を得た。
【0041】
[比較例1]
工程(2)において用いる溶媒を以下の表1に示されるものとした以外は、実施例1と同様にして焼結体を得た。
【0042】
[II:分析]
上記手順によって得られた実施例1−3及び比較例1の焼結体について、組成比をICP測定し、複合量を算出した。
【0043】
<焼結体の元素組成の測定>
焼結体のICP分析により測定した。
装置:島津製作所製 ICPS−8000
【0044】
[III:結果]
実施例1−3及び比較例1の焼結体についての分析結果を表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
【化2】
【0047】
表1の結果より、実施例1−3の焼結体は比較例1の焼結体と比較して、分散材成分(Si)の複合量が大きいことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の製造方法により得られる熱電変換材料を用いた熱電変換素子は、自動車の排熱や地熱を用いた発電及び人工衛星用の電源に利用することができる。また、本発明の製造方法により得られる熱電変換材料を用いた熱電変換素子は、電化製品及び自動車等の温度調節素子に利用することができる。
図1
図2