特許第6568075号(P6568075)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6568075
(24)【登録日】2019年8月9日
(45)【発行日】2019年8月28日
(54)【発明の名称】メタラクラウン錯体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 19/00 20060101AFI20190819BHJP
   C07F 3/06 20060101ALI20190819BHJP
   C07F 5/00 20060101ALI20190819BHJP
   C07D 215/48 20060101ALI20190819BHJP
   G02B 1/02 20060101ALI20190819BHJP
【FI】
   C07F19/00CSP
   C07F3/06
   C07F5/00 D
   C07F5/00 G
   C07D215/48
   G02B1/02
【請求項の数】18
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2016-540427(P2016-540427)
(86)(22)【出願日】2014年9月5日
(65)【公表番号】特表2016-536335(P2016-536335A)
(43)【公表日】2016年11月24日
(86)【国際出願番号】US2014054335
(87)【国際公開番号】WO2015035196
(87)【国際公開日】20150312
【審査請求日】2017年8月4日
(31)【優先権主張番号】61/874,659
(32)【優先日】2013年9月6日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507238218
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミシガン
(73)【特許権者】
【識別番号】501089863
【氏名又は名称】サントル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシェサイアンティフィク(セエヌエールエス)
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087871
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 積
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100164563
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 貴英
(72)【発明者】
【氏名】エバン アール.トリベディ
(72)【発明者】
【氏名】ビンセント エル.ペコラロ
(72)【発明者】
【氏名】スベットラーナ ベ.ウリシーバ
(72)【発明者】
【氏名】ステファヌ プトゥ
(72)【発明者】
【氏名】ジョーセフ ヤンコロビッツ
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンドラ ファウコー−コレット
(72)【発明者】
【氏名】イバナ マルタニク
【審査官】 東 裕子
(56)【参考文献】
【文献】 JANKOLOVITS et al.,Using the Structural Versatility of Lanthanide Metallacrowns to Tune Anion Recognition, Self-Assembly, and Luminescence Properties,Dessertation,The University of Michigan,2012年,pp.156-158,163-164,168-169,177-178,,196-201,205,210,220,234,251-252,256, [online], インターネット: <URL:https://deepblue.lib.umich.edu/handle/2027.42/93877>
【文献】 JANKOLOVITS et al.,Assembly of Near-Infrared Luminescent Lanthanide Host(Host-Guest) Complexes With a Metallacrown Sandwich Motif,Angew. Chem. Int. Ed.,2011年,50,pp.9660-9664
【文献】 JANKOLOVITS et al.,Isolation of Elusive Tetranuclear and Pentanuclear M(II)-Hydroximate Intermediates in the Assembly of Lanthanide [15-Metallacrown-5] Complexes,Inorganic Chemistry,2013年 4月11日,52,pp.5063-5076
【文献】 XIAO et al.,Lanthanide Complex-Based Luminescent Probes for Highly Sensitive Time-Gated Luminescence Detection of Hypochlorous Acid,Analytical Chemistry,2012年11月28日,84,pp.10785-10792
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式:Ln(III)[12−MC−4]2[24−MC−8]を有するメタラクラウン錯体であって、
式中、MCは遷移金属イオン(M(II))及びヒドロキサム酸(HA)配位子からなる反復サブユニットを有するメタラクラウンマクロ環であり、前記ヒドロキサム酸(HA)配位子は、メタラクラウン錯体中に取り込まれたときに、配位子ベースの電荷移動状態を生じ、
Ln(III)はY3+、La3+、Ce3+、Pr3+、Nd3+、Pm3+、Sm3+、Eu3+、Gd3+、Tb3+、Dy3+、Ho3+、Er3+、Tm3+、Yb3+及びLu3+からなる群より選ばれ、
前記ヒドロキサム酸配位子は、以下の構造
【化1】
を有し、
ここで、位置3〜8の各々で結合されている、いずれかの組み合わせのR-基を含み、
各R-基は、-H、-D、-OH、-SH、-NH2、-NO2、-F、-Cl、-Br、-I、-CF3、-OCH3、-SO3H、-CH3、-CN、縮合芳香環、縮合複素環、アミド、-N3、-NR'H、-NR'2、-NR'3+、-COOH、-COOR'、-CH2-R'、-CHR2、-CHR'R''、-CR'R''R'''、-OR'及びそれらの組み合わせからなる群より独立して選ばれ、
ここで、R'、R''及びR'''は、-H、-D、縮合芳香環、及び縮合複素環から独立して選ばれる、
メタラクラウン錯体。
【請求項2】
各[12−MC−4]単位は4個の反復[M(II)HA]サブユニットを含み、前記サブユニットは総計で12個の原子を有するマクロ環状環を形成し、そして
[24−MC−8]単位は8個の反復[M(II)HA]サブユニットを含み、前記サブユニットは合計で24個の原子を有するマクロ環状環を形成する、請求項1記載のメタラクラウン錯体。
【請求項3】
メタラクラウン錯体の電荷バランスは負に荷電した化学種により得られる、請求項1記載のメタラクラウン錯体。
【請求項4】
前記負に荷電した化学種は、トリフラート、メシラート、ベシラート、カンシラート、エジシラート、エストラート、エシラート、ナプシラート、トシラート、フルオリド、クロリド、ブロミド、ヨージド、ニトレート、サルフェート、カーボネート、アセテート、ホスフェート又はスルホネートからなる群より選ばれる、結合されていない対イオンである、請求項3記載のメタラクラウン錯体。
【請求項5】
Ln(III)は配位中心金属であり、
2つの[12−MC−4]単位の各々の4つの内側に向いているヒドロキシメート酸素原子は、前記配位中心金属に配位して、サンドイッチ錯体を形成しており、そして
前記サンドイッチ錯体は橋掛け酸素原子を通して[24−MC−8]単位のキャビティー内で結合されている、請求項1記載のメタラクラウン錯体。
【請求項6】
位置3〜8の少なくとも1つにおける炭素原子は、窒素原子、酸素原子又は硫黄原子により置換されている、請求項1記載のメタラクラウン錯体。
【請求項7】
前記縮合芳香環は、ベンゼン、ナフタレン、フェナントレン、クリセン及びピレンからなる群より選ばれ、又は、
前記縮合複素環は、フラン、チオフェン、ピロール、ピリジン、イミダゾール、チアゾール、ピリミジン、インドール、イソインドール、インドリジン、プリン、カルバゾール、ジベンゾフラン、オキサゾール及びイソオキサゾールからなる群より選ばれる、請求項1記載のメタラクラウン錯体。
【請求項8】
前記遷移金属イオンは、Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+、Rh2+、Pd2+、Ag2+、Cd2+、Ir2+、Pt2+、Au2+及びHg2+からなる群より選ばれる、請求項1記載のメタラクラウン錯体。
【請求項9】
メタラクラウン錯体中に取り込まれたときに配位子ベースの電荷移動状態を生じるヒドロキサム酸(HA)配位子、遷移金属塩及び希土類塩を溶媒中に溶解して、溶液を形成すること、
前記溶液に塩基を添加すること、
前記溶液を所定の温度で所定の時間撹拌すること、及び、
前記溶液に精製方法を受けさせ、それにより、メタラクラウン錯体の結晶を生成させること、
を含み、
前記ヒドロキサム酸配位子は、以下の構造
【化2】
を有し、
ここで、位置3〜8の各々で結合されている、いずれかの組み合わせのR-基を含み、
各R-基は、-H、-D、-OH、-SH、-NH2、-NO2、-F、-Cl、-Br、-I、-CF3、-OCH3、-SO3H、-CH3、-CN、縮合芳香環、縮合複素環、アミド、-N3、-NR'H、-NR'2、-NR'3+、-COOH、-COOR'、-CH2-R'、-CHR2、-CHR'R''、-CR'R''R'''、-OR'及びそれらの組み合わせからなる群より独立して選ばれ、
ここで、R'、R''及びR'''は、-H、-D、縮合芳香環、及び縮合複素環から独立して選ばれる、
メタラクラウン錯体の製造方法。
【請求項10】
前記溶媒は、ジメチルホルムアミド、メタノール、水及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記精製方法は、溶媒の緩慢な蒸発による再結晶化、蒸気拡散による再結晶化、溶媒層化による再結晶化、高速液体クロマトグラフィー又はフラッシュクロマトグラフィーである、請求項9記載の方法。
【請求項12】
前記遷移金属塩は、Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+、Rh2+、Pd2+、Ag2+、Cd2+、Ir2+、Pt2+、Au2+又はHg2+のいずれかと、対イオンとしてトリフラート、メシラート、ベシラート、カンシラート、エジシラート、エストラート、エシラート、ナプシラート、トシラート、フルオリド、クロリド、ブロミド、ヨージド、ニトレート、サルフェート、カーボネート、アセテート、ホスフェート又はスルホネートのいずれかを含み、そして
前記希土類塩は、Sc3+、Y3+、La3+、Ce3+、Pr3+、Nd3+、Pm3+、Sm3+、 Eu3+、Gd3+、Tb3+、Dy3+、Ho3+、 Er3+、Tm3+、Yb3+又はLu3+のいずれかと、対イオンとしてトリフラート、メシラート、ベシラート、カンシラート、エジシラート、エストラート、エシラート、ナプシラート、トシラート、フルオリド、クロリド、ブロミド、ヨージド、ニトレート、サルフェート、カーボネート、アセテート、ホスフェート又はスルホネートのいずれかを含む、請求項9記載の方法。
【請求項13】
メタラクラウン錯体の結晶を溶媒中に溶解して、溶液を形成することをさらに含み、前記溶媒は、水、ジメチルスルホキシド、メタノール、ジメチルホルムアミド及びエタノールからなる群より選ばれる、請求項9記載の方法。
【請求項14】
メタラクラウン錯体の結晶の溶解されたものを含む溶液中でポリマービーズをインキュベートし、それにより、前記ポリマービーズ中にメタラクラウン錯体を取り込むこと、及び、
メタラクラウン錯体を装填したポリマービーズを遠心分離及びデカンティングにより回収すること、
をさらに含む、請求項13記載の方法。
【請求項15】
キャリア、及び、
前記キャリア中に取り込まれたメタラクラウン錯体、
を含み、前記メタラクラウン錯体は、式:Ln(III)[12−MC−4]2[24−MC−8](式中、MCは遷移金属イオン(M(II))及びヒドロキサム酸(HA)配位子からなる反復サブユニットを有するメタラクラウンマクロ環であり、前記ヒドロキサム酸(HA)配位子はメタラクラウン錯体中に取り込まれたときに、配位子ベースの電荷移動状態を生じる)を有し、
Ln(III)はY3+、La3+、Ce3+、Pr3+、Nd3+、Pm3+、Sm3+、Eu3+、Gd3+、Tb3+、Dy3+、Ho3+、Er3+、Tm3+、Yb3+及びLu3+からなる群より選ばれ、
前記ヒドロキサム酸配位子は、以下の構造
【化3】
を有し、
ここで、位置3〜8の各々で結合されている、いずれかの組み合わせのR-基を含み、
各R-基は、-H、-D、-OH、-SH、-NH2、-NO2、-F、-Cl、-Br、-I、-CF3、-OCH3、-SO3H、-CH3、-CN、縮合芳香環、縮合複素環、アミド、-N3、-NR'H、-NR'2、-NR'3+、-COOH、-COOR'、-CH2-R'、-CHR2、-CHR'R''、-CR'R''R'''、-OR'及びそれらの組み合わせからなる群より独立して選ばれ、
ここで、R'、R''及びR'''は、-H、-D、縮合芳香環、及び縮合複素環から独立して選ばれる、
光学画像形成剤。
【請求項16】
前記キャリアはメタラクラウン錯体の溶媒である、請求項15記載の光学画像形成剤。
【請求項17】
前記キャリアはポリマービーズである、請求項15記載の光学画像形成剤。
【請求項18】
請求項15記載の光学画像形成剤の使用方法であって、
前記光学画像形成剤を含む培地中で細胞を所定の時間インキュベートすること、及び、
インキュベートされた細胞に光学画像形成技術を受けさせること、
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2013年9月6日に出願された米国仮出願第61/874,659号の利益を主張する。
【0002】
連邦政府支援研究又は開発に関する声明
本発明は、米国国立科学財団(NSF)により付与された認可番号第1057331号で政府支援を伴ってなされた。政府は本発明に特定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
背景
光学デバイス、生物分析アッセイ及び生物学的イメージングプローブは、しばしば有機フルオロフォア及び半導体ナノ粒子などの光学特性を示す成分を利用する。幾つかの所望の光学特性としては、長い発光寿命、励起バンド及び発光バンドの間の大きな有効エネルギー差、及び、可視及び近赤外(NIR)スペクトル範囲全体にわたる鋭い発光バンドが挙げられる。ランタニドイオン(Ln3+)は、ユニークな4f軌道を含み、そして可視及び近赤外(NIR)スペクトル領域全体にわたる鋭い発光バンドを含むユニークな発光特性を示す。しかしながら、Ln3+イオンのf−f遷移は低吸収係数を伴うラポート禁制であり、非効率的な直接励起をもたらし、そして適切なアンテナを用いた増感を必要とする。
【0004】
図面の簡単な説明
本開示の例の特徴及び利点は以下の詳細な説明及び図面を参照して明らかになるであろう。ここで、同様の参照番号はおそらく同一ではないが、同様の構成要素に対応する。簡潔にするために、参照番号又は前述の機能を有する特徴はそれらが現れる他の図面に関連して記載されても又はされなくてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1図1A及び1Bはそれぞれa−軸及びc−軸に沿ったDy3+[12−MC−4][24−MC−8]のX−線結晶構造の白黒表示である。
図2図2はLn(III) MC錯体(2.04・10-5 M, Ln(III) = Gd、Nd、Yb、Er)及びキナルジンヒドロキサム酸 (quinaldichydroxamic acid)(quinHA) (2.42・10-4 M)のメタノール中での298 Kでの吸収スペクトルのグラフであり、ここで、quinHAの吸収スペクトルは16倍したものである。
図3図3はメタノール中での77Kでの290nmでの励起下のquinHA (10 mg/mL)及びメタノール中での298K及び77Kでの290nm又は340nmでの励起下でのGd(III) MC (10 mg/mL)の補正した正規化された発光スペクトルを描くグラフである。
図4図4はメタラクラウンがキナルジンヒドロキサム酸を用いて生成された際のLn(III)[12−MC−4][24−MC−8]メタラクラウン錯体におけるエネルギー移行プロセスの単純化された図である(CT=配位子ベースの電荷移動状態である)。
図5図5はYb(III)メタラクラウン錯体のスペクトルを示しており、ここで、左側のスペクトルは補正されそして正規化された励起(λem=980nm)スペクトルであり、そして右側のスペクトルは補正されそして正規化された発光(420nm又は320nmでの配位子励起)スペクトルであり、そしてここで、上のスペクトルは固体状態の錯体であり、下のスペクトルはメタノール溶液中の錯体である。
図6図6はNd(III)メタラクラウン錯体のスペクトルを示しており、ここで、左側のスペクトルは励起(λem=1064nm)スペクトルであり、右側のスペクトルは発光(420nm又は370nmでの配位子励起下)スペクトルであり、上のスペクトルは固体状態の錯体であり、下のスペクトルはメタノール溶液中の錯体である。
図7図7はEr(III)メタラクラウン錯体のスペクトルを示しており、ここで、左側のスペクトルは励起(λem=1525nm)スペクトルであり、右側のスペクトルは発光(370nmでの配位子励起下)スペクトルであり、上のスペクトルは固体状態の錯体であり、下のスペクトルはメタノール溶液中の錯体である。
図8A図8Aは1μMのYb(III)メタラクラウン錯体とともに24時間インキュベートした後のヒト上皮性卵巣癌(HeLa)細胞の、近赤外(NIR)落射蛍光顕微鏡を用いて得られた画像の白黒表示であり、ここで、図8Aは明視野像である。
図8B図8Bは1μMのYb(III)メタラクラウン錯体とともに24時間インキュベートした後のヒト上皮性卵巣癌(HeLa)細胞の、近赤外(NIR)落射蛍光顕微鏡を用いて得られた画像の白黒表示であり、ここで、図8Bは励起(λex=377nm、50nmバンドパスフィルタ)への500msの暴露の後に得られるNIR範囲(ロングパス805nmフィルタ)での発光シグナル画像である。
図8C図8C図8A及び8Bの合成画像である。
図8D図8Dは未処理のHeLa細胞の、NIR落射蛍光顕微鏡を用いて得られた画像の白黒表示であり、ここで、図8Dは明視野像である。
図8E図8Eは未処理のHeLa細胞の、NIR落射蛍光顕微鏡を用いて得られた画像の白黒表示であり、ここで、図8Eは励起(λex=377nm、50nmバンドパスフィルタ)への500msの暴露の後に得られるNIR範囲(ロングパス805nmフィルタ)での自発蛍光シグナル画像である。
図8F図8F図8D及び8Eの合成画像である。
図9A図9Aは、5μMのYb(III)メタラクラウン錯体とともに12時間インキュベートした後のHeLa細胞の、NIR落射蛍光顕微鏡を用いて得られた画像の白黒表示であり、ここで、図9Aは明視野像である。
図9B図9Bは、5μMのYb(III)メタラクラウン錯体とともに12時間インキュベートした後のHeLa細胞の、NIR落射蛍光顕微鏡を用いて得られた画像の白黒表示であり、ここで、図9Bは励起(λex=377nm、50nmバンドパスフィルタ)への800msの暴露の後に得られるNIR範囲(ロングパス805nmフィルタ)での発光シグナル画像である。
図9C図9C図9A及び9Bの合成画像である。
図10A図10Aは、Yb(III)メタラクラウン錯体を含むビーズとともに11時間インキュベートした後のHeLa細胞の、NIR落射蛍光顕微鏡を用いて得られた画像の白黒表示であり、ここで、図10Aは明視野像である。
図10B図10Bは、Yb(III)メタラクラウン錯体を含むビーズとともに11時間インキュベートした後のHeLa細胞の、NIR落射蛍光顕微鏡を用いて得られた画像の白黒表示であり、ここで、図10Bは励起(λex=377nm、50nmバンドパスフィルタ)への13sの暴露の後に得られるNIR範囲(ロングパス805nmフィルタ)での発光シグナル画像である。
図10C図10C図10A及び10Bの合成画像である。
図11A図11AはYb(III)メタラクラウン錯体を含むビーズとともに11時間インキュベートした後のHeLa細胞の、NIR落射蛍光顕微鏡を用いて得られた画像の白黒表示であり、ここで、図11Aは明視野像である。
図11B図11BはYb(III)メタラクラウン錯体を含むビーズとともに11時間インキュベートした後のHeLa細胞の、NIR落射蛍光顕微鏡を用いて得られた画像の白黒表示であり、ここで、図11Bは励起(λex=377nm、50nmバンドパスフィルタ)への13sの暴露の後に得られるNIR範囲(ロングパス805nmフィルタ)での発光シグナル画像である。
図11C図11C図11A及び11Bの合成画像である。
【発明の概要】
【0006】
詳細な説明
メタラクラウン (metallacrown)は、環化して、反復[MNO]x(式中、Mは遷移金属イオンである)サブユニットを形成する四座配位子とともに製造される金属錯体である。クラウンエーテルと同様に、メタラクラウンはあるサイズの範囲で合成されることができ、そして内側に向いた酸素原子は中心金属イオン(すなわち、配位中心金属)に結合することができる。本明細書中に開示される例示のメタラクラウン錯体は遷移金属(M2+)、中心イオンにエネルギーを輸送し、及び/又はメタラクラウン錯体中に取り込まれたときに配位子ベースの電荷移動状態を生じることができる四座ヒドロキサム酸配位子(L2-)、及び、ランタニドイオン(Ln3+)又は他の希土類金属イオンを含む三成分超分子アセンブリである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
特に、本明細書中に開示される例は、四座配位子のキナルジンヒドロキサム酸
【化1】
又はその誘導体を用いる。適切なキナルジンヒドロキサム酸誘導体の例は、上記の構造1に示されるとおりの3〜8位に結合したR-基の任意の組み合わせを含むことができる。例において、R-基は独立して、-H、-D (重水素)、-OH、-SH、-NH2、-NO2、-F、-Cl、-Br、-I、-CF3、-OCH3、-SO3H、-CH3及び-CNから選ばれる。別の例において、構造1の3〜8位のいずれかの位置でのR-基は縮合芳香環であることもできる。縮合芳香環の例としては、ベンゼン、ナフタレン、フェナントレン、クリセン又はピレンが挙げられる。縮合芳香環上の各々の位置も、それに結合したR-基(例えば、-H、-D (重水素)、-OHなど)を有することができることは理解されるべきである。なおさらなる例において、構造1の3〜8位のいずれかの位置でのR-基は縮合複素環であることもできる。縮合複素環の例としては、フラン、チオフェン、ピロール、ピリジン、イミダゾール、チアゾール、ピリミジン、インドール、イソインドール、インドリジン、プリン、カルバゾール、ジベンゾフラン、オキサゾール又はイソオキサゾールが挙げられる。縮合複素環上の各々の位置も、それに結合したR-基(例えば、-H、-D (重水素)、-OHなど)を有することができることは理解されるべきである。なおも別に例において、構造1のR-基はアミド又は発色又は認識領域、例えば、ビオチン、糖、オリゴ、ペプチド(例えば、RGD)、抗体などであることができる。なおも他の例において、R基は=O、=N、-N3、-NR'H、-NR'2、-NR'3+、-COOH、-COOR'、-CH2-R'、-CHR2、-CHR'R''、-CR'R''R'''、-OR'などであることができ、ここで、R'、R''及びR'''は上記のR-基のいずれかから独立して選ばれることができる。
【0008】
他の誘導体の例としては、3〜8位で窒素、酸素又は硫黄(炭素の代わりに)を含むキナルジンヒドロキサム酸から誘導される複素環が挙げられる。これらの誘導体は3〜8位に個々に又は組み合わせで窒素、酸素又は硫黄原子を含むことができることは理解されるべきである。
【0009】
この配位子又はその誘導体は錯体にユニークな分子構造を与える。さらに、この配位子又は誘導体は効果的に励起光を吸収し、そして得られたエネルギーをLn3+イオンに輸送する。キナルジンヒドロキサム酸配位子又はその誘導体を用いて形成されたメタラクラウン錯体は近可視の配位子ベースの電荷移動吸収、顕著に高い量子収率(強い近赤外ルミネッセンスを示す)及び長い発光寿命の組み合わせを与えることを予期せず発見した。これらの特性を有する錯体は様々な用途、例えば、生物分析アッセイ、生物学的イメージング、バイオメディカル分析、遠距離通信(例えば、エルビウムドープされたファイバ増幅器)、エネルギー変換、光起電技術、ディスプレイ技術(例えば、有機発光ダイオードOLEDにおけるエレクトロルミネッセンス材料として)、セキュリティープリンティング(例えば、セキュリティインク、偽造タグ、バーコード又は他の識別コードにおける成分として)及び光学材料において使用されうる。OLEDでは、錯体は、例えば、電子伝導を確保するためにポリマーマトリックス中に取り込まれることができる。いかなる用途でも、R-基はメタラクラウン錯体が使用されている配合物に対するメタラクラウン錯体の溶解性又は親和性を変性するように選択されうる。
【0010】
本明細書中に開示されるメタラクラウン錯体は、式Ln(III)[12−MC−4]2[24−MC−8]を有する。一般に、MCはメタラクラウンマクロ環であり、二価遷移金属イオン(M(II)又はM2+)及び上記のヒドロキサム酸配位子 (hydroxamic acid ligand)(HA)(それは本明細書中に参照されるときに、キナルジンヒドロキサム酸又はその誘導体を包含する)からなる反復サブユニット (repeating sub-unit)を含む。
【0011】
Ln(III)は中心イオン (central ion)であり、該中心イオンは[12−MC−4]のキャッピングクラウンに結合している (例えば、配位結合による)。Ln3+ としては、任意のランタニドイオン、例えば、ジスプロシウム(Dy3+)、イッテルビウム(Yb3+)、ネオジム(Nd3+)、ガドリニウム(Gd3+)、テルビウム(Tb3+)、ユーロピウム(Eu3+)、エルビウム(Er3+)、ランタン(La3+)、セリウム(Ce3+)、プラセオジム(Pr3+)、プロメチウム(Pm3+)、サマリウム(Sm3+)、ホルミウム(Ho3+)、ツリウム(Tm3+)又はルテチウム(Lu3+)を挙げることができることは理解されるべきである。本明細書全体で、「Ln3+」、「Ln(III)」又は「ランタニド」はイットリウム(Y3+)及びスカンジウム(Sc3+)などの希土類金属イオンで置換されうる。
【0012】
メタラクラウン錯体は2つのキャッピングクラウン (capping crown)を含み、その各々は[12−MC−4]と呼ばれる。[12−MC−4]キャッピングクラウンの例示の構造を下記に示し、50%の熱変形パラメータ及び部分ナンバリングスキームを有する。
【化2】
構造2及び3は各キャッピングクラウンの4つの内側に向いているヒドロキシメート酸素原子に結合しているLn(III)イオン(これらの例でDy)を示している。構造2において、これらの内側に向いているヒドロキシメート酸素原子をO6、O6A、O6B及びO6Cとラベル化し、構造3において、これらの内側に向いているヒドロキシメート酸素原子をO4、O4A、O4B及びO4Cとラベル化している。メタラクラウン錯体の製造(後述)の間に、HA配位子は環化して、反復[M(II)HA]サブユニットを形成し、該サブユニットは[12−MC−4]中で4回繰り返されている。結果として、各[12−MC−4]キャッピングクラウンはマクロ環状環中に合計で12個の原子を有する(すなわち、4個のZn、4個のO及び4個のN)。
【0013】
メタラクラウン錯体はまた、カプセル化クラウン[24−MC−8]をも含む。[24−MC−8]カプセル化クラウンの例示の構造は下記に示されており、50%の熱変形パラメータ及び部分ナンバリングスキームを有する。
【化3】
この例において、HA配位子は環化して、反復[M(II)HA]サブユニットを形成し、該サブユニットは[24−MC−8]中8回繰り返されている。結果として、各[24−MC−8]カプセル化クラウンはマクロ環状環中に合計で24個の原子を有する(すなわち、8個のZn、8個のO及び8個のN)。
【0014】
構造4はまた、結合していない中心Ln(III)イオン (例えば、Dy1)を例示している。破線は中心クラウンブリッジがより小さい凹状のキャッピングクラウンにどのように結合しているかを示している(構造2及び3)。
【0015】
下記に議論されるように、メタラクラウン錯体を形成するために使用される方法はピリジン又は特定の他の溶媒(例えば、ジメチルホルムアミド又はメタノール)を使用し、そのため、カプセル化クラウン(構造4)はそれに結合した8個のピリジン環又は特定の他の配位性溶媒分子をも有することができる。
【0016】
二価遷移金属はいかなる遷移金属(II)イオンであってもよい。本明細書中に開示される 例において、Zn2+は使用される遷移金属イオンである。[24-MC-8] (A)及び[12-MC-4] (B)中のZn2+の配位幾何形状を下記に示す。
【化4】
Zn2+の配位幾何形状は、明確なメタラクラウン環が橋掛け酸素原子 (bridging oxigen atoms)、すなわち、[12−MC−4]カルボキシレート酸素原子(実線矢印で特定)及び[24−MC−8]ヒドロキシメート酸素原子(破線矢印で特定)を介して結合されていることを示している。別の言い方をすれば、[24−MC−8]単位はその中心にキャビティーを有し、そしてLn3+イオンと2つの[12−MC−4]単位との間に形成されたサンドイッチ錯体が橋掛け酸素原子を通してそのキャビティー内で結合されている。上記の(B)に示されるとおり、Ln3+イオンは[12−MC−4]ヒドロキシメート酸素原子(点線矢印で特定)に結合している。
【0017】
図1A及び1Bはa−軸(図1A)及びc−軸(図1B)に沿って見た、メタラクラウン錯体10(すなわち、Dy3+[12−MC−4]2[24−MC−8])の1つの例のX−線結晶構造の白黒表示を示している。Dy3+イオンは錯体10の中心で大きなハッチなしの球として示されており、それに結合したハッチなしの結合を有し、酸素原子はより小さいハッチなしの球として示されており、それに結合した左傾斜ハッチ付きの結合(例えば、
【化5】
を有し、又は、短い破線結合の交点(例えば、
【化6】
)により表され、窒素原子はより小さいハッチなしの球として示され、それに結合した右傾斜クロスハッチ付きの結合及び/又はボールド実線の結合(例えば、
【化7】
)を有し、又は、ボールド実線の結合の交点(例えば、
【化8】
)により表され、Zn2+イオンは斑点付き球として示され、それに結合した斑点付きの結合及び/又は実線の結合(例えば、
【化9】
)を有し、そしてHA配位子及びピリジン配位子の環は破線(例えば、
【化10】
)として示されている。HA配位子は、どのHA配位子が選択されるかにより、若干異なる構造を有することができることが理解されるべきである。
【0018】
メタラクラウン錯体を製造するための方法において、メタラクラウン錯体中に取り込まれた際に配位子ベースの電荷移動状態を生じることができる例のHA配位子、遷移金属塩及び希土類金属は溶媒中に溶解されて、溶液を形成する。例の溶媒として、ジメチルホルムアミド(DMF)、メタノール、水及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0019】
HA配位子(すなわち、キナルジンヒドロキサム酸及びその誘導体)は単一の工程において調製されうる。ある例において、新鮮なヒドロキシルアミンは、最初に、約0℃にてメタノール中でヒドロキシルアミンヒドロクロリド及び水酸化カリウムを混合することにより調製される。この溶液は撹拌され(例えば、約20分又はそれ以上)、そしてろ過されて、塩化カリウムを除去することができる。キナルジン酸及びN−メチルモルホリンはジクロロメタン中で撹拌しながら混合される。この溶液は約0℃に冷却され、その時点でエチルクロロホルメートが添加されてよい。この反応物を約20分〜1時間撹拌し、そしてその後に、ろ過することができる。ヒドロキシルアミン溶液を約0℃でろ液に添加する。この反応混合物を室温に温め、そして約1.5時間撹拌することができる。その後、体積を真空中で約200mLに低減し、そして水を添加して、白色固形分の沈殿を誘発する。固形分をろ過により回収し、そして熱(約40℃)ジクロロメタンで研和し、キナルジンヒドロキサム酸を白色粉末として生じる。
【0020】
任意の遷移金属塩を使用することができる。ある例において、遷移金属塩はCo2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+、Rh2+、Pd2+、Ag2+、Cd2+、Ir2+、Pt2+、Au2+又はHg2+のいずれかのトリフラート、メシラート、ベシラート、カンシラート、エジシラート、エストラート、エシラート、ナプシラート、トシラート、フルオリド、クロリド、ブロミド、ヨージド、ニトレート、サルフェート、カーボネート、アセテート、ホスフェート又はスルホネートである。
【0021】
希土類金属塩はY3+、Sc3+、 La3+、Ce3+、Pr3+、Nd3+、Pm3+、Sm3+、 Eu3+、Gd3+、Tb3+、Dy3+、Ho3+、 Er3+、Tm3+、Yb3+又はLu3+のいずれかのトリフラート、メシラート、ベシラート、カンシラート、エジシラート、エストラート、エシラート、ナプシラート、トシラート、フルオリド、クロリド、ブロミド、ヨージド、ニトレート、サルフェート、カーボネート、アセテート、ホスフェート又はスルホネートであることができる。
【0022】
上記のとおり、HA配位子、遷移金属塩及び希土類金属塩は溶媒中に溶解されて、溶液を形成する。塩基は、その後、溶液に添加される。適切な塩基の例としては、トリエチルアミン(TEA)、トリメチルアミン又は他のブロンステッド塩基が挙げられる。ある例において、塩基が溶液に添加されるときに、得られる混合物は黄色に変色する。
【0023】
反応混合物(すなわち、溶液及び塩基)は、その後、所定の温度で所定の時間撹拌される。ある例において、温度は室温(例えば、約18℃〜約22℃)であり、そして時間は約12時間〜約24時間の範囲である。
【0024】
反応混合物は、その後、精製方法を受け、高度に純粋なメタラクラウン錯体を生じる。適切な精製方法の例としては、溶媒の緩慢な蒸発による再結晶化、蒸気拡散による再結晶化、溶媒層化による再結晶化、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)又はフラッシュクロマトグラフィーが挙げられる。1つの例において、ピリジンは精製プロセスにおいて使用され、ピリジン配位子のメタラクラウン錯体10への導入をもたらす。
【0025】
得られるメタラクラウン錯体の特性(例えば、励起波長)は配位子の選択により調節されうることが理解されるべきである。例えば、異なるキナルジンヒドロキサム酸誘導体はメタラクラウン錯体中に取り込まれ、得られるメタラクラウン錯体の励起波長を変更することができる。メタラクラウン錯体上の置換基を変更することで、その電子的構造の変化及び対応する励起波長の変化を誘導するものと考えられる。
【0026】
形成されるメタラクラウン錯体10の電荷バランスは、結合されていない対イオン(例えば、トリフラート (triflate(s))、メシラート (mesylate(s))、ベシラート (besylate(s))、カンシラート(camsylate(s))、エジシラート(edisylate(s))、エストラート(estolate(s))、エシラート(esylate(s))、ナプシラート(napsylate(s))、トシラート(tosylate(s))、フルオリド(fluoride(s))、クロリド(chloride(s))、ブロミド(bromide(s))、ヨージド(iodide(s))、ニトレート(nitrate(s))、サルフェート(sulfate(s))、カーボネート(carbonate(s))、アセテート(acetate(s))、スルホネート(sulfonate(s))又はホスフェート(phosphate(s)))などの負に荷電された化学種の存在により得ることができる。
【0027】
本明細書中に開示されるLn(III)[12−MC−4]2[24−MC−8]メタラクラウン錯体は望ましい吸収係数
【数1】
を示す。このことは結合されたHA配位子の配位子ベースの電荷移動状態によるものと考えられる。この配位子ベースの電荷移動状態を通した励起は、ランタニドエネルギー移動に効率的な増感剤及び溶媒環境からのLn3+イオンの保護を含む、幾つかのパラメータにより生じる顕著に高い発光量子収率をもたらすものと考えられる。以下の実施例において本明細書中に報告される発光量子効率はC−H結合を含む有機配位子とNd3+及びEr3+錯体が不適合であるものと考えられる。
【0028】
Ln(III)[12−MC−4]2[24−MC−8]メタラクラウン錯体が望ましい吸収を示すので、Ln(III)[12−MC−4]2[24−MC−8]メタラクラウン錯体は生物学的又は他の実験条件において光学画像形成剤 (optical imaging agent)として有用であることができる。これらの場合において、Ln(III)[12−MC−4]2[24−MC−8]メタラクラウン錯体は液体キャリア又は固体キャリア中に取り込まれることができる。例えば、Ln(III)[12−MC−4]2[24−MC−8]メタラクラウン錯体は溶液(例えば、DMF、ジメチルスルホキシド(DMSO)、メタノール、エタノール、水及びそれらの組み合わせ)中に取り込まれ、又は、別の組成物(例えば、ラテックス、シリカ、ポリスチレンなど)のビーズ中に取り込まれ、そしてその後、細胞を含む培地に添加されることができる。インキュベートされた細胞は、その後、落射蛍光顕微鏡又は共焦点蛍光顕微鏡などの任意の適切な光学イメージング技術を用いて分析されうる。
【0029】
ビーズは外部環境からメタラクラウン錯体を保護し、そしてメタラクラウン錯体のベクトル化を可能にする。Ln(III)[12−MC−4]2[24−MC−8]メタラクラウン錯体が取り込まれているビーズはポリマービーズ又はシリカビーズであることができる。ポリマービーズの例としては、アクリル及び/又はビニル含有モノマー、例えば、メタクリレート、スチレンなどから形成されるものが挙げられる。ポリマービーズの他の例としては、ポリ(乳酸)ビーズが挙げられる。ビーズの任意の例は特異的な標的部分と結合するのに適する異なる基で官能化されうる。そのため、幾つかの例において、Ln(III)[12−MC−4]2[24−MC−8]メタラクラウン錯体をビーズ中に取り込むことは、標的部分の選択的な検知に対する制御を可能にする。ビーズはその表面上に-NH2又は-COOH基のいずれかにより被覆されることができ、それにより、標的部分、例えば、ペプチド、タンパク質、抗体、オリゴヌクレオチド、糖に対する容易な結合を可能にする。ある例において、メタラクラウン錯体は適切な濃度で適切な溶媒中にメタラクラウン錯体を溶解し、その後、該溶液をビーズとともにインキュベートすることによりビーズ中に取り込まれる。適切なインキュベーション時間の後に、メタラクラウン錯体を担持したビーズは遠心分離及びデカンティング (decanting)などの任意の適切な技術により溶液から回収されうる。
【0030】
本開示をさらに例示するために、実施例をここに提供する。これらの例は例示の目的で提供され、そして非限定的なものと解釈されると理解されるべきである。
【実施例】
【0031】

キナルジンヒドロキサム酸の調製
【0032】
新鮮なヒドロキシルアミンを最初に調製することによりキナルジンヒドロキサム酸を製造した。ヒドロキシルアミンヒドロクロリド(12.0 g, 173 mmol)及び水酸化カリウム(11.4 g, 173 mmol)をメタノール(200 mL)中で0℃にて混合することにより新鮮なヒドロキシルアミンを調製した。溶液を20分間撹拌し、ろ過して、塩化カリウムを除去し、保管した。その間、キナルジン酸(20.0 g, 116 mmol)及びN−メチルモルホリン(14.0 mL, 127 mmol)をジクロロメタン(300 mL)中で撹拌しながら混合した。この溶液を0℃に冷却し、その時点で、エチルクロロホルメート(12.1 mL, 127 mmol)を添加した。この反応物を20分間撹拌し、その後、ろ過した。ヒドロキシルアミン溶液をろ液に0℃にて添加した。この反応混合物を室温に温め、そして1.5時間撹拌した。体積を真空下に約200 mLに低減し、そして水 (1 L)を添加して、白色固形分の沈殿を誘導した。固形分をろ過により回収し、熱ジクロロメタン(800 mL)で研和し、キナルジンヒドロキサム酸(12.7 g, 58.2%)を白色粉末として生じた。M.p. 146〜148℃。エレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI-MS)、[M + H+]で計算、C10H9N2O2, 189.1; 実測189.1; [M + Na+]で計算、C10H8N2NaO2, 211.0; 実測211.1。1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 11.51 (s, 1 H), 9.18 (s, 1H), 8.53 (d, J = 8.5 Hz, 1H), 8.09 - 8.04 (m, 3H), 7.84 (m, 1H), 7.69 (m, 1H)。13C NMR (100 MHz, DMSO-d6) δ 161.7, 150.3, 146.0, 137.6, 130.4, 129.2, 128.6, 128.0, 127.9, 118.7。元素分析 (C10H8N2O2)(H2O)で計算(実測)、C: 58.25 (58.25), H: 4.89 (4.94), N: 13.59 (13.65)。 UV-vis (MeOH), λmax, nm (log ε) 207 (4.4), 238 (4.5), 300(br) (3.5)。
【0033】
Ln3+[12-MC-4]2[24-MC-8]の調製
【0034】
幾つかのメタラクラウン錯体を本明細書中に開示される方法により調製した。
【0035】
DyZn16(quinHA)16(OTf)3 (すなわち、(OTf)3、5個の水分子及び3個のDMF分子を含むDy3+[12-MC-4]2[24-MC-8])を、キナルジンヒドロキサム酸(200 mg, 1.06 mmol)、亜鉛トリフラート(385 mg, 1.06 mmol)及びジスプロシウムトリフラート(81 mg, 0.13mmol)を15 mLのジメチルホルムアミド中で溶解することにより調製した。トリエチルアミン(296 μL, 2.12 mmol)を添加した。溶液は即座に黄色に変色し、そして室温で一晩撹拌した。溶液を、その後、緩慢な蒸発のために保管し、それは2週間以内に黄色の板状結晶を生じた。結晶をろ過により回収し、そして空気乾燥して、DyZn16(quinHA)16(OTf)3 (29 mg, 8.4%)を生じた。
ESI-MS, [M]3+で計算、C160H96DyN32O32Zn16, 1395.8; 実測1395.7。元素分析、(C163H96DyF9N32O41S3Zn16)(H2O)5(C3H7NO)3で計算(実測) C: 41.79 (41.81), H: 2.59 (2.81), N: 9.92 (10.23)。
【0036】
同様のプロセスを使用して、YZn16(quinHA)16(OTf)3 (すなわち、(OTf)3、5個の水分子及び3個のDMF分子を含むY3+[12-MC-4]2[24-MC-8]) (96 mg, 28%)を形成したが、イットリウムトリフラート(70 mg, 0.13mmol)を用いた。ESI-MS, [M]3+で計算、C160H96N32O32YZn16, 1371.1; 実測1371.2。 1H NMR (400 MHz, CD3OD) δ 8.36 (d, J = 4.7 Hz, 8 H), 8.34 (d, J = 4.7 Hz, 8 H), 8.22 (d, J = 8.5 Hz, 8 H), 8.09 (d, J = 8.5 Hz, 8 H), 7.73 (d, J = 7.6 Hz, 8 H), 7.52 (d, J = 8.5 Hz, 8 H), 7.49 (d, J = 8.0 Hz, 8 H), 7.25 (m, 16 H), 7.19 (d, J = 8.5 Hz, 8 H), 7.09 (m, 8 H), 6.95 (m, 8 H)。
元素分析, (C163H96F9N32O41S3YZn16)(H2O)5(C3H7NO)3で計算(実測) C: 42.42 (42.48), H: 2.63 (2.90), N: 10.07 (10.40)。
【0037】
同様のプロセスを使用して、YbZn16(quinHA)16(OTf)3 (すなわち、(OTf)3、5個の水分子及び3個のDMF分子を含むYb3+[12-MC-4]2[24-MC-8]) (96 mg, 28%)を形成したが、イットリウムトリフラート(81 mg, 0.13mmol)を使用した。
ESI-MS, [M]3+で計算、C160H96N32O32YbZn16, 1399.3; 実測1399.4。元素分析、 (C163H96F9N32O41S3YbZn16)(H2O)5(C3H7NO)3で計算(実測) C: 41.70 (41.73), H: 2.58 (2.74), N: 9.89 (9.98)。
【0038】
同様のプロセスを使用して、NdZn16(quinHA)16(OTf)3 (すなわち、(OTf)3、5個の水分子及び3個のDMF分子を含むNd3+[12-MC-4]2[24-MC-8]) (58 mg, 34%)を形成したが、ネオジムトリフラート(77 mg, 0.13mmol)を使用した。
ESI-MS, [M]3+で計算、C160H96N32NdO32Zn16, 1389.7; 実測1389.2。元素分析、 (C163H96F9N32NdO41S3Zn16)(H2O)5(C3H7NO)3で計算(実測) C: 41.94 (41.76), H: 2.60 (2.76), N: 9.95 (10.08)。
【0039】
同様のプロセスを使用して、GdZn16(quinHA)16(OTf)3 (すなわち、(OTf)3、4個の水分子及び4個のDMF分子を含むGd3+[12-MC-4]2[24-MC-8]) (67 mg, 39%)を形成したが、ガドリニウムトリフラート(79 mg, 0.13mmol)を使用した。
ESI-MS, [M]3+で計算、C160H96GdN32O32Zn16, 1394.0; 実測 1393.2。元素分析(C163H96F9GdN32O41S3Zn16)(H2O)4(C3H7NO)4で計算(実測) C: 42.09 (41.84), H: 2.66 (3.03), N: 10.10 (10.26)。
【0040】
同様のプロセスを使用して、TbZn16(quinHA)16(OTf)3 (すなわち、(OTf)3、5個の水分子及び3個のDMF分子を含むTb3+[12-MC-4]2[24-MC-8]) (39 mg, 23%)を形成したが、テルビウムトリフラート (79 mg, 0.13mmol)を使用した。
ESI-MS, [M]3+で計算 C160H96N32O32TbZn16, 1394.5; 実測1394.1。元素分析、 (C163H96F9N32O41S3TbZn16)(H2O)5(C3H7NO)3で計算(実測) C: 41.82 (41.50), H: 2.59 (2.71), N: 9.92 (9.90)。
【0041】
同様のプロセスを使用して、EuZn16(quinHA)16(OTf)3 (すなわち、(OTf)3、7個の水分子及び1個のDMF分子を含むEu3+[12-MC-4]2[24-MC-8]) (69 mg, 40%)を形成したが、ユーロピウムトリフラート(78 mg, 0.13mmol)を使用した。
ESI-MS, [M]3+で計算、 C160H96EuN32O32Zn16, 1392.2; 実測1391.8。元素分析、(C163H96EuF9N32O41S3Zn16)(H2O)7(C3H7NO)で計算(実測) C: 41.34 (41.00), H: 2.45 (2.90), N: 9.58 (9.80)。
【0042】
同様のプロセスを使用して、ErZn16(quinHA)16(OTf)3 (すなわち、(OTf)3、5個の水分子及び3個のDMF分子を含むEr3+[12-MC-4]2[24-MC-8]) (35 mg, 20%)を形成したが、エルビウムトリフラート(80 mg, 0.13mmol)を使用した。
ESI-MS, [M]3+で計算、 C160H96ErN32O32Zn16, 1397.3; 実測1397.1。元素分析、 (C163H96ErF9N32O41S3Zn16)(H2O)5(C3H7NO)3で計算(実測) C: 41.15 (41.49), H: 2.71 (2.86), N: 9.76 (10.16)。
【0043】
光物理的測定
【0044】
ルミネッセンスデータを2.4mm内径の石英キャピラリー又は石英スプラジル(Suprasil)セル中に入れたサンプルに対して収集した。発光及び励起スペクトルを、Horiba-Jobin-Yvon Fluorolog 3 分光蛍光光度計で、可視光電子増倍管(PMT) (220-800 nm, R928P; Hamamatsu)、77 Kに冷却された NIR 固相InGaAs ディテクタ (800-1600 nm, DSS-IGA020L; Jobin-Yvon)又はNIR PMT (950-1450 nm, H10330-45; 950-1650 nm, H10330-75; Hamamatsu)のいずれかを装備したもので測定した。すべてのスペクトルは機器関数に関して補正した。
【0045】
ルミネッセンス寿命をNd:YAGレーザ(YG 980; Quantel)により提供される355nmでの励起下に決定し、その間、シグナルは上記のPMT (H10330-75)によりNIRで検知された。ディテクタからの出力信号は、その後、500MHzバンドパスデジタルオシロスコープ (TDS 754C; Tektronix)にフィードされ、その後、Origin 8(登録商標)で処理するためにPCに移送された。ルミネッセンス寿命は少なくとも3回の独立した測定の平均である。
【0046】
NIRの量子収率は積分球(GMP SA)を用いた絶対法によりFluorolog 3 分光蛍光光度計において決定された。各サンプルを若干異なる実験条件下に数回測定した。量子収率決定の見積実験誤差は10%である。
【0047】
光物理的特性
【0048】
配位子quinHAはキノリン部分の内部でのπ*←π遷移によるUV領域の幾つかの吸収バンドを示す。図2に示されるとおり、長波長吸収カットオフは340nmに位置される。メタラクラウンフレームワークLn(III)[12-MC-4]2[24-MC-8]の脱プロトン化及び生成時に、広い吸収は見かけの最大値を380 nm (ε≒5.5・104 M-1 cm-1)及びカットオフを470 nmに有して近可視領域で現れる。図2において、結果はGd(III)、Nd(III)、Yb(III)及びEr(III)について示している。これらの結果は、Zn(II)が金属から配位子への電荷移動(MLCT)又は配位子から金属への電荷移動(LMCT)のいずれにも参加せず、そして吸収スペクトルがランタニド(III)イオンの選択とは独立している限り、このバンドはquinHA配位子の配位子ベース電荷移動に起因するものと考えられることを示す。
【0049】
図3に示されるとおり、室温にて290nmでのUV励起時に、quinHAは任意の検知可能な発光を示さなかった。77Kにて、強い緑色発光が510nmで中心となり、325〜460nm範囲に弱いバンドを有した。そのバンドは100μsの遅れを強化したときに消失し、それにより、それは短寿命蛍光に指定されうる一方、緑色発光はりん光である。0−0遷移時に決定されるquinHAの三重項のエネルギーは、それゆえ、21 000 cm-1 (476 nm)と評価されうる。
【0050】
Gd(III)の基底状態と励起状態との間のエネルギーギャップは非常に高く、それゆえ、300〜400nm 励起で対応するメタラクラウン錯体中のGd(III)イオンを増感させることは不可能である。この特徴はエネルギー移動の非存在下でのメタラクラウン錯体のLn(III)イオンへのエネルギーレベルを決定するために使用されうるものと考えられる。Gd(III)メタラクラウン錯体は室温にて340nmでの配位子ベース電荷移動へのUV励起に暴露され、それにより、580〜590 nmに最大値を有する弱くて広いバンド発光をもたらした(図3)。77Kへ温度を低下させることで、バンドを若干鋭くし、最大値を545〜555nmにシフトした(図3)。図3に示されるとおり、510nmへのさらなる青色シフトは100μsの時間遅れを課したときに観測された。Gd(III)メタラクラウン錯体のスペクトルから決定される三重項状態の位置は実験誤差範囲内でquinHAで同一で、20 920 cm-1 (478 nm)であった。最も低く励起された一重項及びリガンドベースの電荷移動(CT)状態の位置は、それぞれquinHA及びGd3+[12-MC-4]2[24-MC-8]の吸収スペクトル及び発光(蛍光)スペクトルの交点から決定され、29 850 cm-1 (335 nm)及び21 560 cm-1 (565 nm)に位置することが発見された。Yb(III), Nd(III)及びEr(III)ランタニドイオンのエネルギーレベルに関するquinHAの配位子エネルギーレベル(一重項、三重項及びCT)及び可能なエネルギー移行パスの提案模式図を図4に示す。
【0051】
ルミネッセンススペクトルを、420nm又は370nmでの励起を用いて固体状態及び溶液(CH3OH/CD3OD)中のLn(III)メタラクラウン錯体(Ln(III) = Yb、Nd、Er)に関して記録した。すべての試験されたメタラクラウン錯体はそれぞれYb3+, Nd3+及びEr3+化合物に関して2F5/22F7/2 (図5)、4F3/24IJ (J = 9/2, 11/2, 13/2) (図6)及び4I13/24I15/2 (図7)遷移から生じるNIR範囲に特徴的な発光を示す。希釈されたメタノール溶液(0.1 mg/mL)の励起スペクトルは対応する吸収スぺクトルによく適合するが(図2を参照されたい)、濃度を増加させ(1 mg/mL)、そして固体状態サンプルでは、より長い波長へのバンドの拡張が観測された。定量的な光物理的パラメータを表1に要約する。
【表1】
【0052】
Nd(III)及びEr(III)メタラクラウン錯体の固体状態及び重水素メタノール(すなわち、CD3OD, メタノール-d4)中での量子収率はC−H含有有機配位子を有するランタニド化合物の中で現在まで報告された最も高いものであると考えられる。Yb(III)メタラクラウン錯体の量子収率は最も高い公開されている値に近かった。
【0053】
Yb(III)メタラクラウンを用いたNIR落射蛍光顕微鏡観察
【0054】
生物学的条件下に光学画像形成剤として維持しそして操作することができるランタニド (III)メタラクラウン錯体の能力を示すために、HeLa (ヒト上皮性卵巣癌)細胞に対する2つの落射蛍光顕微鏡観察を行い、そして下記に記載した。Yb(III)メタラクラウンの調製及びNIR落射蛍光顕微鏡観察の記載は両方の実験で適用可能である。
【0055】
Yb(III)メタラクラウン溶液又はビーズの調製
【0056】
Yb3+[12-MC-4]2[24-MC-8]を上記のとおりに調製し、適当な濃度でDMSO中に溶解させ、そしてそのまま使用し、又は、ビーズ中に取り込むためにビーズとともにインキュベートした。
【0057】
NIR落射蛍光顕微鏡観察
【0058】
EMCCD Evolve 512測光用カメラ(Roper Scientific)を装備したAxioオブザーバZ1倒立型蛍光顕微鏡(Zeiss, Le Pecq, France)を用いてNIR落射蛍光顕微鏡観察を行った。EMCCD Evolve 512測光用カメラは取得ソフトウエアAxiovision (Zeiss)を駆動するコンピュータに結合された。倒立型顕微鏡はZeiss対物レンズ(浸漬Plan Apochromat 63x (開口数 (NA)=1.4)、Plan Neofluar 40x (NA = 0.75), Plan Apochromat 20x (NA = 0.8)) を備えていた。Zeiss HXP-120光源(ハロゲン化金属)を励起装置として使用し、そして以下のとおりにUV キューブフィルタユニットと組み合わせた:励起のために377 nmバンドパス50 nm フィルタ及びNIR範囲でのYb(III)発光のためのロングパス805 nm フィルタ。
【0059】
NIR落射蛍光顕微鏡観察−実験1
【0060】
HeLa細胞をATCC (Molsheim, France)から得て、そして5%CO2加湿雰囲気中で37℃にて成長させた。3〜4日毎に、5x105 細胞を25 cm2 プラスチックフラスコ中に播いた。細胞を、10%ウシ胎児血清(FBS)、1%ペニシリン/ストレプトマイシン及び1% L-グルタミンを補充し、1%の100x非必須アミノ酸溶液を備えた最小必須培地(MEM)中で培養した。試験一日前に、7x103 個の細胞を8ウエルLab Tek Chamberカバーグラス(Nunc, Dutsher S.A., Brumath, France)中に播いた。
【0061】
幾らかの細胞を、その後、2% FBS及び1%のジメチルスルホキシド(DMSO)が補充されたOpti-MEM(登録商標)培地(Invitrogen Corporation)中に希釈された1μMのYb3+[12-MC-4]2[24-MC-8]とともにインキュベートした。37℃で24時間後に、細胞を冷たいホスフェートバッファー塩類溶液(PBS)で2回濯ぎ、そして細胞培地を変更し、そしてフェノールレッドを含まないOpti-MEM(登録商標)培地により置き換えた。対照物では、他のHeLa細胞を同様に処理したが、Yb3+[12-MC-4]2[24-MC-8]を添加しなかった。これらの細胞を本明細書中で未処理細胞と呼ぶ。
【0062】
NIR落射蛍光顕微鏡を用いて、Yb3+[12-MC-4]2[24-MC-8]とともに24時間インキュベートした後の処理済み細胞及び未処理細胞を観察した。明視野への暴露時及び励起(λex = 377 nm 、50 nm バンドパスフィルタ)への暴露時の処理細胞及び未処理細胞の画像を得た。図8Aは明視野画像であり、図8Bは励起への500msの暴露後に得られるNIR範囲(ロングパス805 nm フィルタ)の処理済み細胞の発光信号画像である。図8C図8A及び8Bを合成したものである。Yb3+[12-MC-4]2[24-MC-8]とともにインキュベートされたHeLa細胞の励起時に、NIR範囲の発光は明瞭に検知された。これは未処理細胞と対照的であった。図8Dは明視野画像であり、そして図8Eは励起への500msの暴露後に得られるNIR範囲(ロングパス805 nm フィルタ)の未処理細胞の発光信号画像である。図8F図8D及び8Eを合成したものである。図8E及び8Fの両方に示されるとおり、未処理HeLa細胞のNIR範囲の発光は検知されなかった。
【0063】
NIR落射蛍光顕微鏡観察−実験2
【0064】
10% 熱不活性化ウシ胎児血清(FBS)、1%の100x 非必須アミノ酸溶液、1%のL-グルタミン(GlutaMAX)及び1%のストレプトマイシン/ペニシリン抗生剤を補充したダルベッコ・フォークト変法イーグル最小必須培地(Dulbecco's modified Eagle's medium) (DMEM)中で、ATCC (Molsheim, France)から得たHeLa細胞株を培養した。細胞を8ウエルLab Tek Chamberカバーガラス(Nunc, Dutsher S.A., Brumath, France)に3×104 細胞/ウエルの密度で捲き、そして37℃で5%加湿CO2 雰囲気中で培養した。24時間後に、細胞培地を取り出し、そして細胞を氷冷Opti-MEM(登録商標)で2回洗浄した。ある量の細胞を、37℃で5% CO2 雰囲気中で2%のFBSが補充されたOpti-MEM(登録商標)中でYb3+[12-MC-4]2[24-MC-8]の5μM 溶液とともに11時間〜12時間インキュベートした。他の細胞を、37℃で5% CO2 雰囲気中で2%のFBSが補充されたOPTIMEM培地中でYb3+[12-MC-4]2[24-MC-8]を取り込んだビーズとともにインキュベートした。落射蛍光画像形成の前に、1% Tween 20を含む氷冷PBS又は/及び氷冷PBSで細胞を2回洗浄し、それにより、非特異的に結合したメタラクラウンを除去した。
【0065】
NIR落射蛍光顕微鏡を用いて、Yb3+[12-MC-4]2[24-MC-8]の5μM溶液中で処理した細胞を12時間後に観察した。励起波長への暴露は800msであった。明視野画像を図9A中に示し、発光画像を図9B中に示し、そして合成画像(9A及び9B)を図9C中に示す。
【0066】
NIR落射蛍光顕微鏡を用いて、Yb3+[12-MC-4]2[24-MC-8]を含むビーズで処理した細胞を11時間後に観察した。励起波長への暴露は13sであった。明視野画像を図10A中に示し、発光画像を図10B中に示し、そして合成画像(10A及び10B)を図10C中に示す。
【0067】
NIR落射蛍光顕微鏡を用いて、Yb3+[12-MC-4]2[24-MC-8]を含むビーズ中で処理した細胞を11時間後に観察した。励起波長への暴露は8 sであった。明視野画像を図11A中に示し、発光画像を図11B中に示し、そして合成画像(11A及び11B)を図11C中に示す。
【0068】
両方のNIR落射蛍光顕微鏡観察実験において、Yb3+[12-MC-4]2[24-MC-8]とともにインキュベートした処理済み細胞のNIR範囲でのYb(III)発光は短い暴露時間を用いて明確に検知された。実験1及び2はYb3+[12-MC-4]2[24-MC-8]がHeLa生細胞に適する実験条件で使用されうることを示す。短い暴露時間でのYb3+[12-MC-4]2[24-MC-8]発光の観察は、これらの化合物が発光効率を損失することなく、生物学的条件で操作することができることを確認する。このため、本明細書中に開示されるメタラクラウン錯体を用いてNIR範囲で非常に敏感な検知を行うことができる。
【0069】
本明細書中に開示されるランタニドメタラクラウン錯体は、少なくとも部分的にユニークである。というのは、配位子ベースの遷移(配位子ベースの電荷移動状態を含む)のためにUV−可視波長の広範囲にわたる吸収性を示すからである。Ln(III)イオンからのNIR発光は、これらの配位子遷移の励起により増感されるものと考えられる。さらに、ランタニドメタラクラウン錯体の特異的な構造は多機能性であり、そしてLn(III)イオンと有機配位子との間で比較的に大きい距離を有することができる。
【0070】
本明細書中に提供された範囲は、記載範囲及び記載範囲内の任意の値又は副次範囲を包含することは理解されるべきである。例えば、約12時間〜約24時間は約12時間〜約24時間の明確に示された制限値だけでなく、14.25時間、16時間、21.5時間などの個々の値及び15時間〜20時間などの副次範囲をも包含するものと解釈されるべきである。さらに、値を記載するために「約」を使用するときに、これは記載値からの小さい変動(+/- 5%まで)を包含することが意図される。
【0071】
「1つの例」、「別の例」、「ある例」などの本明細書全体にわたる参照は、該例との関係で記載される特定の要素(例えば、特徴、構造及び/又は特性)は本明細書中に記載される少なくとも1つの例に含まれ、そして他の例では存在しても又はしなくてもよいことを意味する。さらに、任意の例に関して記載される要素は文脈が明らかに指示しない限り、様々な例で任意の適切な様式で組み合わされることができることは理解されるべきである。
【0072】
本明細書中に開示される例を記載しそして請求する際に、単一形「a」、「an」及び「the」は、文脈が別の指示をしない限り、複数の指示物を包含する。
【0073】
幾つかの実施例を詳細に記載してきたが、開示の実施例が変更されうることは当業者に明らかであろう。それゆえ、上記の記載は非限定的であると考えられるべきである。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図8F
図9A
図9B
図9C
図10A
図10B
図10C
図11A
図11B
図11C