(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
配位抽出剤が、チオエーテル、チオケトン、チオアルデヒド、ホスフィンスルフィド及びチオホスフェートからなる群から選択される一又は複数の官能基を含む、請求項5に記載の方法。
外圏抽出剤が、アミド部分、有機ホスフェート、ホスホネート若しくはホスフィネート部分又は有機ホスフィンオキシド部分からなる群から選択される部分を含む、請求項1から9の何れか一項に記載の方法。
【背景技術】
【0002】
溶媒抽出は、貴金属をその鉱石(例えば、鉱石精鉱)又はスクラップ材料から回収するための多くのプロセスの重要な部分である。比較的純粋な金属サンプルを回収するために、溶媒抽出を用いて、貴金属を卑金属や他の物質から、また互いに、分離することができる。
【0003】
これを達成するために、典型的には、場合により卑金属と組み合わせた2種以上の異なる貴金属の種を含有する酸性化水溶液を、抽出剤を含有する有機相と接触させる。典型的には、抽出剤は、分離されるべき貴金属の一又は複数に対して選択的であり、よって水性相から有機相中へそれらを選択的に抽出することによってその分離を容易にする。更なる処理工程は、分離された金属の回収を可能にする。
【0004】
例えば、英国特許出願公開第1495931号には、第三級アミン抽出剤を含む溶媒を使用する、ロジウム種をまた含有する酸性水溶液からの白金及びイリジウム種の有機溶媒抽出が記載されている。しかしながら、この分離は、パラジウム種の存在下での金属の分離を達成しないので、白金を遊離させる前にパラジウム種を除去する必要があるという欠点がある。
【0005】
欧州特許出願公開第0210004号には、パラジウムをまた含む酸性化水溶液から白金を抽出するのに適した抽出剤が記載されている。抽出剤はモノ−N置換アミドである。この抽出剤は、溶液中に存在しうる他の貴金属から白金種を分離することを、特にルテニウム、イリジウム及びオスミウム種が酸化状態IIIで存在する一方、白金種が酸化状態IVにある場合に、また可能にする。欧州特許出願公開第0210004号には、水性相を穏やかな還元剤で処理することによってこれが達成されうると説明されている。モノ−N置換アミドでの処理後、パラジウムが回収される場合には、水性相の更なる処理が必要とされる。
【0006】
パラジウムは、チオエーテル抽出剤を使用して有機相中に抽出されうる。例えば、米国特許出願公開第2009/0178513号に説明されているように、DHS(ジ−n−ヘキシルスルフィド)は、パラジウムの最も一般的に使用される工業用抽出剤の一つであり、パラジウム、白金及びロジウムを含む酸性水溶液からパラジウムを選択的に抽出することができる。米国特許出願公開第2009/0178513号は、次の式:
(式中、R
1、R
2及びR
3は1〜18の炭素原子を有する鎖状炭化水素基から選択される基を表す)を有する様々なチオエーテル含有抽出剤を提案している。米国特許出願公開第2009/0178513号は、そこに記載されている抽出剤は、パラジウムの抽出を、DHSを使用する場合よりも速く実施することを可能にするが、他の白金族金属(白金を含む)はほとんど抽出されないと述べている。有機溶液中のパラジウムはアンモニアを使用して回収される。
【0007】
選択的抽出の代替として、一を超える金属を有機相中に同時に抽出し、続いて有機相から各金属を選択的に除去することを提案する文献もある。例えば、米国特許第4654145号には、Kelex(登録商標)100:
を使用して、金、白金及びパラジウムを含む貴金属を有機相中に共抽出することが記載されている。
【0008】
ついで、金を溶液から沈殿させ、続いてパラジウムを沈殿させる。白金は、水性相で洗浄することによって有機相から除去される。しかしながら、この文献で提案された方法は、有機相中に抽出された金属を分離するために沈殿を含むという欠点を有する。
【0009】
米国特許第5045290号には、純度の低い実質的に金を含まない貴金属及び卑金属担持酸性塩化物又は混合塩化物/硫酸塩溶液からPt及びPdを回収する方法であって、約1.5未満のpHを有する酸性溶液を、8−ヒドロキシキノリン溶媒抽出試薬、相改質剤及び芳香族希釈剤を含有する有機溶液と接触させて、白金とパラジウムを同時に有機溶液中に抽出し、共抽出された溶液をスクラビングして共抽出不純物と酸を除去し、20〜50℃、pH範囲2〜5で作用するバッファー溶液で負荷有機物をストリッピングして白金を選択的に回収し、白金を含まない負荷有機物を3〜8Mの塩酸でストリッピングしてパラジウムを回収し、水で洗浄することによって有機溶液を再生する工程を含む方法が記載されている。
【0010】
Guobang等(文献1)には、石油スルホキシドを使用するPtとPdの共抽出が記載されている。洗浄後、希HClを使用してPtを有機相から除去し、水性NH
3を使用してPdを除去する。
【0011】
米国特許出願公開第2010/0095807号には、白金族金属を、ロジウム、白金及びパラジウムを含む酸性溶液から分離するための分離試薬が記載されている。該試薬は、一般式:
(上式中、R
1、R
2及びR
3の少なくとも一つは、
によって表されるアミド基を表し、アミド基以外のR
1〜R
3とR
4〜R
6の各々は炭化水素基である)を有する。この文献に記載されている分離方法では、ロジウム、白金及びパラジウムは該抽出剤を使用して共抽出される。ついで、高濃度の塩酸溶液を使用して、有機相からロジウムを回収する。ついで、白金とパラジウムが、高濃度の硝酸溶液を使用して有機相から逆抽出され、白金とパラジウムの両方を含む水溶液が生成される。
【0012】
米国特許第4041126号には、白金とパラジウムの錯体を形成することができる有機的に置換された第二級アミンを使用する酸性水性媒体からの白金とパラジウムの共抽出が記載されている。パラジウムは、酸性化された還元剤の水溶液で有機相から選択的に回収される。白金は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の炭酸塩、重炭酸塩及び水酸化物から選択されるアルカリ性ストリッピング試薬を使用して別個に回収される。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(詳細な説明)
本発明の好ましい特徴及び/又は任意の特徴が以下に示される。本発明の何れの態様も、文脈上別段の要求がない限り、本発明の何れの他の態様とも組み合わせることができる。文脈上別段の要求がない限り、何れかの態様の好ましい又は任意の特徴の何れも、単独で又は組み合わせて、本発明の何れかの態様と組み合わせることができる。
【0029】
当業者であれば、酸性水溶液中の金属種を指す不安定及び非不安定という用語を容易に理解し、これは典型的には中心金属原子を有する配位錯体である。(当業者が理解するように、配位錯体は、各々に一又は複数の配位子が配位した一を超える金属原子を含みうる。)典型的には、不安定金属種は酸性水溶液中で容易に配位子交換を受ける。その結果、抽出剤と不安定金属種の中心金属原子との間に共有配位結合が容易に形成されうる。例えば、配位抽出剤は、不安定金属種の配位圏から別の配位子を外しうる。酸性水溶液中で不安定金属種を典型的に形成する金属の例は、Pd(特にII酸化状態)とAu(特にIII酸化状態)である。
【0030】
逆に、非不安定金属種は、典型的には、酸性水溶液中で配位子交換を容易には受けない。その結果、抽出剤と非不安定金属種の中心金属イオンとの間の共有配位結合が容易に形成されない。代わりに、不安定金属種の配位圏の配位子は、抽出中に実質的に変化しないままである。抽出剤は、典型的には、静電相互作用、水素結合、双極子間相互作用、ファンデルワールス相互作用、イオン間相互作用、イオン・双極子間相互作用、溶媒和相互作用、ロンドン相互作用、及び双極子誘起双極子相互作用の一又は複数から選択されるような非共有結合相互作用を含むが、共有結合を含まない、外圏機構によって、全非不安定金属種(すなわち、中心金属原子とその関連配位子)と相互作用する。酸性水溶液中で非不安定金属種を典型的に形成する金属の例は、Pt(特にIV酸化状態)、Ir(特にIV酸化状態)、Os(特にIV酸化状態)、及びRu(特にIV酸化状態)である。
【0031】
参考文献2には、酸性化溶液中の貴金属イオンの不安定性が記載されている。特に、
図5には、Pd(II)に対する貴金属のクロロ錯体の異なる置換(配位子交換)反応速度が例示されている。この図を以下に複製する。
【0032】
Pd(II)とAu(III)は、例えば、その相対置換反応速度が速いので、不安定であると考えうる。Os(III)、Os(IV)、Ir(IV)、Ru(IV)及びPt(IV)は、例えば、その相対置換反応速度が遅いので、非不安定であると考えうる。参考文献2は、その全体が出典明示により、特に、貴金属クロロ錯体の配位子置換反応速度及び貴金属の不安定性を説明する目的で、ここに援用される。Os(III)は典型的には空気の存在下で不安定であることに留意されたい。
【0033】
本発明において、不安定金属種は、典型的には、6mol・dm
−3のHCl濃度を有する水性酸性相から、芳香族石油溶媒中のジ−n−オクチルスルフィドから本質的になる有機相に容易に抽出される金属種として定義されうる。「容易に抽出される」とは、典型的には、過剰のジ−n−オクチルスルフィドが提供される場合に、不安定金属種の金属の少なくとも95mol%が60分以内に有機相中に抽出されることを意味しうる。本発明では、非不安定金属種は、典型的には、6mol・dm
−3のHCl濃度を有する水性酸性相から芳香族石油溶媒中のジ−n−オクチルスルフィドから本質的になる有機相に容易に抽出されない金属種として典型的には定義されうる。「容易に抽出されない」とは、典型的には、過剰のジ−n−オクチルスルフィドが提供される場合に、60分以内に不安定金属種の金属の5mol%未満が有機相に抽出されることを意味しうる。
【0034】
当業者が理解するように、配位抽出剤という用語は、不安定金属種の金属原子と共有配位結合を形成することができる抽出剤を含む。典型的には、配位抽出剤は、非不安定金属種と実質的に相互作用しない。
【0035】
当業者が理解するように、外圏抽出剤という用語は、金属種と相互作用して、金属種の金属原子と共有配位結合を形成することなくその抽出を行う抽出剤を含む。典型的には、この相互作用は、静電相互作用(例えば、イオン対形成)、水素結合、双極子間相互作用、ファンデルワールス相互作用、イオン間相互作用、イオン・双極子相互作用、溶媒和相互作用、ロンドン相互作用、及び双極子誘起双極子相互作用を含むが、共有結合を含まない。
【0036】
外圏抽出剤は、不安定金属種(並びに非不安定金属種)を抽出することができるが、これは必須ではない。外圏抽出剤が不安定金属種を抽出することができる場合、本発明者等は、これが更なる利点を提供しうると考える。典型的には、外圏相互作用は、配位相互作用よりも速く生じる。本発明者等は、外圏抽出剤が含まれる場合、不安定金属種の有機相への移動速度を増加させることができることを見出した。理論に拘束されることを望まないが、これは、不安定金属種が最初に外圏抽出剤と相互作用し、配位抽出剤を使用して予想されるよりもはるかに速く有機相へのその移行をなすためであると考えられる。ひとたび有機相に入ると、それは配位抽出剤と錯体を形成すると考えられる。この反応はよりゆっくり起こるが、本発明者等は、有機相中に不安定金属種を保持し、ここに記載の有利な選択的ストリッピングを可能にするのは配位抽出剤とのこの相互作用であると考えている。当然ながら、不安定金属種の幾つかは、水性酸性相中の配位抽出剤とまた相互作用し、より一般的な配位抽出プロセスによって抽出されうる。
【0037】
分離されるべき金属
本発明は、水性酸性相中に存在する不安定金属種と非不安定金属種を分離する方法を提供する。本発明により分離される不安定及び非不安定金属種の性質は特に限定されない。上で説明したように、本発明の根底にある本発明者等の認識は、不安定金属種と非不安定金属種の分離に一般に適用可能である。金属は、例えば遷移金属でありうる。
【0038】
しかし、本発明者等は、本発明の方法が貴金属種の分離に特に適用可能であると考えている。ここで使用される場合、貴金属という用語は、金、銀及び白金族金属を指すものとする。白金族金属は、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、オスミウム及びイリジウムである。本発明の方法は、白金族金属種の分離に特に適している。従って、不安定金属種は白金族金属種でありうる。非不安定金属種は白金族金属種でありうる。
【0039】
例えば、不安定金属は、Pd(II)及びAu(III)から選択される一又は複数であり得、例えばPd(II)である。非不安定金属は、Pt(IV)、Pt(II)、Ir(IV)、Ir(III)、Os(IV)、Ru(IV)、Ru(III)及びRh(III)から選択される一又は複数でありうる。例えば、非不安定金属は、Pt(IV)、Ir(IV)、Os(IV)及びRu(IV)から選択される一又は複数でありうる。例えば、不安定金属はPd(II)であり、非不安定金属はPt(IV)、Ir(IV)、Os(IV)及びRu(IV)から選択される一又は複数でありうる。
【0040】
白金とパラジウムの分離のための改良された方法が特に必要であり、本発明はこれらの金属の分離に適している。従って、不安定金属種は、パラジウム種(例えば、II酸化状態)であり得、及び/又は非不安定金属種は、白金種(例えば、IV酸化状態)でありうる。例えば、本発明の方法を使用してPt(IV)をPd(II)から分離することができる。本発明の方法を使用して、Ru(III)及び/又はRh(III)の存在下でPt(IV)をPd(II)から分離することができる。
【0041】
本発明の方法は、Ir(IV)をAu(III)から分離するために使用することができる。
【0042】
本発明で使用される抽出剤は、有機相に有意には抽出されない追加の金属種の存在下で水性酸性相から不安定金属種と非不安定金属種を選択的に抽出しうる。例えば、各追加の金属種の分配係数は、好ましくは0.1以下、0.01以下又は0.001以下でありうる。これは、ゼロであってもよいし、又は例えば少なくとも0.0001でありうる。典型的には、不安定金属と非不安定金属の分配係数は、これよりもかなり高いであろう。例えば、非不安定金属種を有機相に抽出するための分配係数は、典型的には、少なくとも2、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも20、少なくとも30、少なくとも40、又は少なくとも50であり、これよりかなり高い場合もある。実質的に全ての金属が抽出されるので、上限は無限になる傾向がある。同様に、不安定金属種を有機相に抽出するための分布係数は、典型的には、少なくとも2、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも20、少なくとも30、少なくとも40又は少なくとも50であり、これよりかなり高い場合がある。実質的に全ての金属が抽出されるので、上限は無限になる傾向がある。(当業者が理解するように、分配係数(D
A\O)は、有機相中の関連金属種の濃度を、水性酸性相中のその金属種の濃度で割ったものである)。
【0043】
当業者は、追加の金属種の存在下で特定の金属種を選択的に抽出するのに適した配位抽出剤及び適切な外圏抽出剤を認識している。抽出剤の選択は、分離すべき金属の性質、特に(i)不安定金属種、(ii)非不安定金属種及び(iii)存在する任意の追加の金属種の相対的な不安定性に依存する。例えば、欧州特許出願公開第0210004号は、IVの酸化状態を有する白金、イリジウム及びオスミウム種、IIIの酸化状態の金、及びそれが化合物ルテニウムニトロシルクロリド、[RuCl
5NO]
2−においてどの酸化状態を有するにせよルテニウムを選択的に抽出するのに適したモノ−N置換アミド抽出剤を記載している。しかしながら、抽出剤の選択性は、抽出される金属の酸化状態と、水性酸性相中の追加の金属の酸化状態に依存する。例えば、欧州特許出願公開第0210004号は、そのモノ−N置換アミド抽出剤を使用して、
− 酸化状態IVの白金は、酸化状態IIのパラジウムに優先して抽出されうる;
− 酸化状態IVのイリジウムは、酸化状態IIIのロジウムに優先して抽出されうる;そして
− 酸化状態IVの白金は、酸化状態IIIのルテニウム、イリジウム及びオスミウム種に優先して抽出されうる(但し、Os(III)は典型的には空気の存在下で不安定である)
と説明している。
【0044】
従って、特定の抽出剤の選択性は、抽出されるべき金属の酸化状態と、水性酸性相に残されることになる金属の酸化状態に依存しうることが分かる。当業者は、水性酸性相における金属種の酸化状態を調節するのに適した技術を知っている。例えば、欧州特許出願公開第0210004号は、白金種にほとんど影響を与えないが、イリジウム、オスミウム及びルテニウム種がIIIの酸化状態で存在することを確実にする緩和な還元剤で、酸性水溶液を処理することが通常であると説明している。適切な穏やかな還元剤としては、アセトン又はメチルイソブチルケトンが挙げられる。
【0045】
本発明の方法は、不安定金属がPd(II)であり、非不安定金属が酸化状態IVの白金族金属(Pd以外)であり、一又は複数の追加の金属種が水性酸性相に存在する場合に特に適している。特に好適な追加の金属種は、酸化状態II又はIII(好ましくはIII)の白金族金属と、(例えば、酸化状態II又はIIIの)卑金属である。追加の金属種は、典型的には、用いられる外圏抽出剤によって実質的に抽出されず、用いられる配位抽出剤によって実質的に抽出されない種である。上で検討されたように、当業者は、追加の金属種の存在下で特定の金属種を選択的に抽出するための適切な配位抽出剤と適切な外圏抽出剤を認識している。
【0046】
特に好ましい実施態様では、不安定金属種はパラジウム種(例えば酸化状態II)で、非不安定金属種は白金種(例えば酸化状態IV)であり、白金種及びパラジウム種は、一又は複数の追加の貴金属種、例えば一又は複数の追加の白金族金属種をまた含む水性酸性相から選択的に抽出される。追加の貴金属種は、酸化状態IIIでありうる。追加の貴金属種は、イリジウム、ルテニウム及びロジウム種から選択される一又は複数でありうる。
【0047】
不安定金属種はクロロ錯体であってもよい。非不安定金属種はクロロ錯体であってもよい。
【0048】
水性酸性相
水性酸性相は、金属種が本発明の方法において抽出剤を使用して抽出される相である。
【0049】
典型的には、水性酸性相のH
+濃度は、少なくとも3mol・dm
−3又は少なくとも4mol・dm
−3である。典型的には、水性酸性相のH
+濃度は、10mol・dm
−3以下、9mol・dm
−3以下又は8mol・dm
−3以下である。当業者が理解するように、使用される酸性度は、分離されるべき金属種と用いられる抽出剤とに依存するであろう。特に好ましいH
+濃度は4〜8mol・dm
−3、より好ましくは5〜7mol・dm
−3、又は5.5〜6.5mol・dm
−3の範囲である。これは、Pt(IV)とPd(II)の分離に特に適している。
【0050】
水性酸性相は、典型的にはHClを含む。典型的には、水性酸性相のHCl濃度は、少なくとも3mol・dm
−3又は少なくとも4mol・dm
−3である。典型的には、水性酸性相のHCl濃度は、10mol・dm
−3以下、9mol・dm
−3以下又は8mol・dm
−3以下である。特に好ましいHCl濃度は、4〜8mol・dm
−3、より好ましくは5〜7mol・dm
−3、又は5.5〜6.5mol・dm
−3の範囲である。これは、Pt(IV)とPd(II)の分離に特に適している。
【0051】
他の好適な酸には硫酸、過塩素酸及び硝酸が含まれ、これらは、好ましくは、上で特定されたH
+濃度を与えるのに適した濃度で存在する。
【0052】
典型的には、不安定金属種と非不安定金属種は、約150g・L
−1以下、120g・L
−1以下、110g・L
−1以下、100g・L
−1以下、70g・L
−1以下、50g・L
−1以下、25g・L
−1以下又は10g・L
−1以下の濃度で水性酸性相にそれぞれ存在する。それらは、少なくとも0.1g・L
−1、少なくとも0.5g・L
−1、少なくとも1g・L
−1又は少なくとも5g・L
−1の濃度で存在してもよい。濃度は金属種中の金属の質量に対するものである。
【0053】
水性酸性相に存在する任意の追加の金属種(典型的には有機相中に実質的に抽出されない)は、例えば、それぞれ、少なくとも0.05g・L
−1、少なくとも0.1g・L
−1又は少なくとも0.5g・L
−1の濃度で存在してもよい。それぞれの追加の金属種は、例えば、100g・L
−1以下、50g・L
−1以下、55g・L
−1以下、10g・L
−1以下、5g・L
−1以下、又は1g・L
−1以下の濃度で存在してもよい。濃度は金属種中の金属の質量に対するものである。
【0054】
有機相と抽出剤
抽出剤は、水性酸性相から有機相中に金属を抽出するのに用いられる化合物である。従って、抽出剤は、典型的には水性酸性相に実質的に不溶性であり、有機相に可溶性である。
【0055】
外圏抽出剤の性質は特に限定されない。以下の実施例において証明されるように、ある範囲の様々な外圏抽出剤を本発明の方法に用いることができる。
【0056】
理論に束縛されることを望まないが、本発明者等は、幾つかのタイプの外圏抽出剤が水性酸性相の酸性のためプロトン化され、非不安定金属種(典型的には負に荷電した錯体イオンである)とのその外圏相互作用を容易にすると考える。従って、外圏抽出剤がプロトン化可能部分を含むことが好ましい。
【0057】
参考文献2で検討されているように、外圏抽出剤(「陰イオン交換体」)は、強塩基抽出剤及び弱塩基抽出剤に分類することができる。強塩基抽出剤には、弱酸(例えば弱塩酸)中でも容易にプロトン化され、典型的には(例えば水酸化物を用いて)それらを脱プロトン化するためにアルカリ処理を必要とする抽出剤が含まれる。弱塩基抽出剤は、典型的には、プロトン化されるためには強酸(例えば、塩酸)との接触を必要とするが、水又は弱酸と接触すると容易に脱プロトン化される。このことは参考文献2において検討されており、出典明示によりその全体が、特に外圏抽出剤の挙動を説明するためにここに援用される。
【0058】
本発明の方法では、不安定金属種が有機相から第一水溶液中にストリッピングされるとき、典型的には水又は弱酸が用いられる。水又は弱酸は、外圏抽出剤を脱プロトン化し、それによって、有機相中の非不安定金属種とのその相互作用を破壊すると考えられる。よって、非不安定金属種は、有機相から水又は弱酸に移動する。従って、好ましくは、外圏抽出剤は弱塩基抽出剤である。当業者はこの用語を容易に理解し、所与の抽出剤が弱塩基抽出剤であるかどうかを決定することができる。当業者が理解するように、典型的には、弱塩基抽出剤は、強酸との接触時に(例えば、HCl濃度が3mol・dm
−3以上の溶液との接触時に)容易にプロトン化されるプロトン化可能部分を含む。典型的には、プロトン化可能部分は、1mol・dm
−3以下、例えば0.5mol・dm
−3以下のHCl濃度を有する酸性溶液又は水との接触時に容易に脱プロトン化される。
【0059】
適切なプロトン化可能部分としては、例えば、アミド部分、及びP=O部分が挙げられる。特に好適な外圏抽出剤は、以下の表1に特定される。外圏抽出剤がアミン部分を含まないことが好ましい場合がある。
【0060】
外圏抽出剤はアミド部分を含みうる。アミドは、第一級、第二級又は第三級アミドでありうる。より好ましくは、第二級又は第三級アミド部分である。幾つかの実施態様では、第二級アミド部分が最も好ましい。例えば、外圏抽出剤は、以下の式Iの化合物でありうる:
ここで
R
1及びR
2は、H又は置換されていてもよいC
1〜C
20炭化水素部分から独立して選択され;及び
R
3は、置換されていてもよいC
1〜C
20炭化水素部分である。
【0061】
好ましくは、R
1及びR
2は、H又は置換されていてもよいC
3〜C
20炭化水素部分から独立して選択され、R
3は、置換されていてもよいC
1〜C
20炭化水素部分である。
【0062】
R
1及びR
2の少なくとも一方はHであることが好ましい場合がある。R
1及びR
2の少なくとも一方は、置換されていてもよいC
3〜C
20炭化水素部分であることが好ましい場合がある。R
1及びR
2は、H又は置換されていてもよいC
5〜C
20炭化水素部分から独立して選択されることが好ましい場合がある。R
1及びR
2は、H又は置換されていてもよいC
5〜C
15炭化水素部分から独立して選択されることが好ましい場合がある。
【0063】
R
3は、置換されていてもよいC
1〜C
15炭化水素部分であることが好ましい場合がある。
【0064】
R
1、R
2及びR
3における一緒にした炭素原子の総数は、少なくとも10個、少なくとも15個又は少なくとも16個であることが好ましい場合がある。
【0065】
好ましい実施態様では、
R
1は置換されていてもよいC
8〜C
18アルキルであり;
R
2はHであり;及び
R
3は置換されていてもよいC
8〜C
18アルキルである。
【0066】
好ましい実施態様では、
R
1は置換されていてもよいC
10〜C
15アルキルであり;
R
2はHであり;及び
R
3は、置換されていてもよいC
10〜C
15アルキルである。
【0067】
好ましい実施態様では、
R
1は置換されていてもよいC
3〜C
15アルキルであり;
R
2は置換されていてもよいC
3〜C
15アルキルであり;及び
R
3は置換されていてもよいC
1〜C
5アルキルであり、場合によってはR
1、R
2及びR
3における一緒にした炭素原子の総数は、少なくとも10又は少なくとも15である。
【0068】
好ましい実施態様では、
R
1は置換されていてもよいC
5〜C
10アルキルであり;
R
2は置換されていてもよいC
5〜C
10アルキルであり;及び
R
3は置換されていてもよいC
1〜C
4アルキルであり、場合によってはR
1、R
2及びR
3における一緒にした炭素原子の総数は、少なくとも11、少なくとも12又は少なくとも15である。
【0069】
R
1、R
2及びR
3の一又は複数、例えば、各々が未置換であることが好ましい場合がある。
【0070】
外圏抽出剤は、P=O部分を含みうる。例えば、外圏抽出剤は、有機ホスフェート、ホスホネート又はホスフィネート(例えば、アルキルホスフェート、アルキルホスホネート又はアルキルホスフィネート)又は有機ホスフィンオキシド(例えば、アルキルホスフィンオキシド)部分を含みうる。
【0071】
例えば、外圏抽出剤は、以下の式IIの化合物であってもよい:
ここで
各R
4は、置換されていてもよいC
3〜C
20炭化水素部分及び−OR
5から独立して選択され、各R
5は、置換されていてもよいC
2〜C
20炭化水素部分である。
【0072】
各R
4は、独立して、置換されていてもよいC
3〜C
15炭化水素部分、例えば置換されていてもよいC
4〜C
15炭化水素部分又は置換されていてもよいC
5〜C
10炭化水素部分であることが好ましい場合がある。
【0073】
各R
4は、独立して、−OR
5であり、ここで各R5は、置換されていてもよいC
2〜C
20炭化水素部分、例えば置換されていてもよいC
3〜C
15又はC
3〜C
10炭化水素部分であることが好ましい場合がある。
【0074】
好ましい実施態様では、各R
4は、独立して、置換されていてもよいC
5〜C
10アルキルであるか、又は−OR
5であり、ここで各R
5は、置換されていてもよいC
3〜C
10アルキルである。特に好ましい実施態様では、各R
4は、C
5〜C
10アルキルである。
【0075】
幾つかの実施態様では、一又は複数、例えばそれぞれのR
4及びR
5は未置換であるのが好ましい。
【0076】
幾つかの実施態様では、外圏抽出剤がアミン基を含まないことが好ましい場合がある。
【0077】
本発明において配位抽出剤の性質は特に限定されない。それは、不安定金属種の金属原子と共有配位結合を形成可能な部分を含む。
【0078】
好ましくは、配位抽出剤は硫黄原子を含む。例えば、それは、チオール、チオエーテル、チオケトン、チオアルデヒド、ホスフィンスルフィド及びチオホスフェートからなる群から選択される一又は複数の官能基を含みうる。より好ましくは、配位抽出剤は、チオエーテル及びホスフィンスルフィドから選択される一又は複数の官能基を含む。
【0079】
例えば、配位抽出剤は、以下の式IIIに従う化合物でありうる:
ここで、各R
6は、置換されていてもよいC
2〜C
20炭化水素部分及び−OR
7から独立して選択され、各R
7は、置換されていてもよいC
2〜C
20炭化水素部分である。
【0080】
各R
6は、独立して、置換されていてもよいC
2〜C
15炭化水素部分、例えば置換されていてもよいC
2〜C
15炭化水素部分又は置換されていてもよいC
3〜C
8炭化水素部分であることが好ましい場合がある。例えば、各R
6は、好ましくは、置換されていてもよいC
2〜C
15アルキル、又はより好ましくは置換されていてもよいC
3〜C
8アルキルでありうる。
【0081】
各R
6は、独立して、−OR
7であり、ここで、各R
7は、置換されていてもよいC
2〜C
20炭化水素部分、例えば置換されていてもよいC
2〜C
15又はC
3〜C
8炭化水素部分であることが好ましい場合がある。例えば、各R
7は、好ましくは置換されていてもよいC
2〜C
15アルキル、又はより好ましくは置換されていてもよいC
3〜C
8アルキルでありうる。
【0082】
幾つかの実施態様では、一又は複数、例えばそれぞれのR
6及びR
7は未置換であることが好ましい。
【0083】
配位抽出剤は、以下の式IVに従う化合物でありうる:
ここで、R
8は、H及び置換されていてもよいC
1〜C
20炭化水素部分から選択され、R
9は、置換されていてもよいC
1〜C
20炭化水素部分である。R
8は、H及び置換されていてもよいC
3〜C
15炭化水素部分、より好ましくは置換されていてもよいC
5〜C
10炭化水素部分から選択されうる。R
9は、置換されていてもよいC
3〜C
15炭化水素部分、より好ましくは置換されていてもよいC
5〜C
10炭化水素部分でありうる。好ましくは、R
8は、置換されていてもよい炭化水素部分である。例えば、R
8及びR
9の両方は、置換されていてもよいC
3〜C
15アルキル、より好ましくは置換されていてもよいC
5〜C
10アルキルでありうる。一緒にしたR
8及びR
9中の炭素原子の総数は少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも10個、少なくとも12個又は少なくとも16個であることが好ましい場合がある。
【0084】
幾つかの実施態様では、R
8及びR
9は未置換であることが好ましい。
【0085】
ここで使用される場合、置換されていてもよいなる用語は、1、2、3、4又はそれ以上の水素原子が他の官能基で置換されている部分を含む。適切な官能基には、−OH、−SH、−OR
11、−SR
11、−Hal、−NR
11R
11、C(O)COR
11、−OC(O)R
11、−NR
11C(O)R
11及びC(O)NR
11R
11が含まれ、各R
11は独立してH又はC
1〜C
10アルキル又はアルケニルであり、各−Halは独立して−F、−Cl及び−Brから選択され、例えば−Clである。外圏抽出剤の場合、抽出剤は硫黄原子を含まないか、及び/又はアミン基を含まないことが好ましい場合がある。例えば、適切な置換基官能基には、−OH、−OR
11、−Hal、C(O)COR
11、−OC(O)R
11、−NR
11C(O)R
11及びC(O)NR
11R
11が含まれ、各R
11は独立してH又はC
1〜C
10アルキル又はアルケニルであり、各−Halは、−F、−Cl及び−Brから独立して選択され、例えば−Clである。
【0086】
ここで使用される場合、炭化水素部分という用語は、アルキル(シクロアルキルを含む)、アルケニル、アルキニル、アリール及びアルカリール及びアラルキルを含むことが意図される。炭化水素部分は、直鎖であっても分枝鎖であってもよい。炭化水素部分は、アルキル、アリール、アルカリール又はアラルキルであることが好ましく、直鎖又は分枝鎖であってもよいアルキルであることがより好ましい。
【0087】
有機相は、典型的には、錯化抽出剤及び外圏抽出剤に加えて希釈剤を含む。溶媒抽出プロセスでは広範囲の希釈剤が一般的に使用され、希釈剤の性質は、本発明では特に限定されない。錯化抽出剤と外圏抽出剤は両方とも希釈剤に可溶性でなければならない。適切な希釈剤には、Solvesso150及びShellsol D70などの芳香族石油溶媒、又は2,6−ジメチル−4−ヘプタノンなどのケトン類が含まれるが、他の有機溶媒(例えば脂肪族又は芳香族炭化水素溶媒及びアルコール)が適している。典型的には、希釈剤は、処理に都合の良い粘度、高引火点及び/又は低揮発度を与えるように選択される。
【0088】
典型的には、配位抽出剤は、有機相中に約0.03〜0.04Mの濃度で存在する。例えば、配位抽出剤は、少なくとも0.01M、少なくとも0.02M又は少なくとも0.03Mの濃度で存在しうる。有機相中の配位抽出剤の濃度に特に上限はない。以下の実施例は、配位抽出剤が低濃度で有利に使用され得、なおも不安定金属種の優れた抽出度を提供することを実証している。配位抽出剤は、1M以下、0.2M以下、又は0.1M以下の濃度で存在することが好ましい場合がある。配位抽出剤の濃度は、典型的には不安定金属種の配位数を満たすように選択され、よって水性酸性相における不安定金属種の種類及び濃度に依存しうる。
【0089】
典型的には、外圏抽出剤は、0.5M〜2.5Mの濃度で有機相中に存在する。例えば、外圏抽出剤は、少なくとも0.1M、0.2M又は0.3Mの濃度で存在しうる。外圏抽出剤の濃度に対する特定の上限はないが、外圏抽出剤が5M以下、3M以下、又は1M以下の濃度で有機相中に存在することが好ましい場合がある。
【0090】
幾つかの実施態様では、特に排他的ではないが、外圏抽出剤が式IIの化合物である場合(例えば、各R
4が独立して−OR
5である場合)、外圏抽出剤が少なくとも1M、少なくとも1.2M又は少なくとも1.5Mの濃度で存在することが好ましい場合がある。これは、例えば、外圏抽出剤がリン酸トリブチルである場合に好ましい場合がある。
【0091】
有機相は、例えば有機相の粘度を変更(例えば低下)させるため、水性相からの有機相の分離を促進するため、及び/又は水性相内の相分離を抑制するために用いることができる溶媒抽出改質剤をまた含みうる。当業者は、例えば、アルコール、フェノール、又はリン酸トリブチルなどの有機リン酸エステルを含む、適切な溶媒抽出改質剤を知っているであろう。何れの溶媒抽出改質剤も、典型的には、それぞれ0.9M以下、好ましくは0.7M以下の濃度で有機相中に存在する。
【0092】
(当業者が容易に理解するように、ここで検討される有機相の特徴は、本発明の第二、第三及び第四の態様の溶媒抽出混合物に等しく適用可能である。)
【0093】
分離プロセス
本発明の方法の工程(a)において、水性酸性相を有機相と接触させ、不安定金属及び非不安定金属を有機相中に抽出する。典型的には、水性酸性相中に存在する不安定金属の実質的に全てが有機相中に抽出される。例えば、少なくとも95%、少なくとも99%又は少なくとも99.5%が抽出される。幾つかの実施態様では、僅かに低い割合の非不安定金属が有機相に抽出される。例えば、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%又は少なくとも98%が抽出される。抽出の度合いは、例えば水性酸性相と有機相との間の接触時間及び/又は接触数を増加させることによって、あるいは以下により詳細に示されるように水性酸性フィードの酸性度を調節することによって、増加させることができる。一回、二回、三回又はそれ以上の抽出工程を含めることができる。
【0094】
抽出工程後に、有機相を任意にスクラビングすることができる。典型的には、これは、有機相を(水性酸性相と接触させた後)、水性酸性相と同様の(例えば同じ)酸性度を好ましくは有する水性スクラビング液と接触させることによって、行われる。典型的には、スクラビング水溶液のH
+濃度は水性酸性相のH
+濃度の1M以内、より好ましくは0.5M以内である。スクラビングは、有利には、有機相中に不用意に抽出された任意の追加の金属を、ストリッピング工程(工程(b))の前に有機相から取り除くことを可能にする。一回、二回、三回又はそれ以上のスクラビング工程が含まれうる。スクラビング工程はまた有機相から混入した液体を除去するのに役立つ場合がある。スクラビング溶液はHClを含んでいてもよい。
【0095】
本発明の選択的ストリッピング工程では、非不安定金属種は、水又は酸性ストリッピング水溶液を使用して有機相から選択的にストリッピングされ、非不安定金属種を含有する第一水溶液を提供する。典型的には、第一水溶液は、不安定金属種を実質的に含まない。例えば、それは、10mg・L
−1以下、5mg・L
−1以下、又は2mg・L
−1以下の不安定金属種を含みうる。第一水溶液は、10mg・L
−1以下、5mg・L
−1以下、又は2mg・L
−1以下の追加の金属種を含みうる。濃度は金属種中の金属の質量に対するものである。
【0096】
典型的には、酸性ストリッピング水溶液は、不安定金属種と非不安定金属種が抽出される水性酸性相よりも酸性が低い。例えば、酸性ストリッピング水溶液は、水性酸性相のH
+濃度よりも少なくとも1M低いH
+濃度を有しうる。例えば、酸性ストリッピング水溶液のH
+濃度は、典型的には4M以下、3M以下、又は2M以下でありうる。実施例において証明されるように、約1M又は0.1MのH
+濃度が特に適切でありうる。ストリッピング溶液はHClを含みうる。
【0097】
有機相から非不安定金属を選択的にストリッピングするために水が使用されようと又は酸性の水性酸性相が使用されようと、それは典型的には7以下のpHを有する。非不安定金属の回収を最大化するために、一回、二回、三回又はそれ以上のストリッピング操作を実施することができる。
【0098】
ストリッピング工程の後、有機相は場合によっては水で洗浄されうる。これにより、任意の混入した酸が有機相から不安定金属種の選択的ストリッピングに使用された溶液中へ移動するのを避けることができる。洗浄に使用される水は、非不安定金属の回収を最大にするために、場合によっては第一水溶液と組み合わせることができる。
【0099】
本発明の選択的ストリッピング工程では、不安定金属種は、不安定金属と錯化可能な錯化試薬を含む水性相を使用して有機相から選択的にストリッピングされ、不安定金属種を含む第二水溶液が提供される。
【0100】
錯化試薬は、不安定金属種の金属原子と共有配位結合を形成することができる部分を含む。従って、錯化試薬は、典型的には、不安定金属種の金属原子と共有配位結合を形成することができる孤立電子対を有する原子を含むことが理解されよう。例えば、該部分は、不安定金属種の金属原子と共有配位結合を形成することができる窒素原子を含みうる。該部分は、不安定金属種の金属原子と共有配位結合を形成することができる硫黄原子を含みうる。該部分は、不安定金属種の金属原子と共有配位結合を形成することができる酸素原子を含みうる。該部分は、不安定金属種の金属原子と共有配位結合を形成することができるリン原子を含みうる。特に好適な錯化試薬には、アンモニア、アミン部分を含む化合物(例えば第一級又は第二級アミン)、オキシム部分を含む化合物、−C=S部分を含む化合物、−S=O部分を含む化合物及びC=O部分を含む化合物が含まれ、特にアンモニア、オキシム部分を含む化合物、−C=S部分を含む化合物、及び−S=O部分を含む化合物が含まれる。例えば、錯化試薬は、アンモニア、オキシム(例えば、アセトアルデヒドオキシム)、亜硫酸塩(例えば、亜硫酸アンモニウム)又はチオ尿素でありうる。
【0101】
錯化試薬は、不安定金属種を第二水溶液に引き込むことができるように、水溶性である。 典型的には、錯化試薬は、ストリッピング反応の平衡が不安定金属の水性相への移動を促進するのに十分高い濃度で水性相中に存在する。例えば、水性相中の錯化試薬の濃度は、典型的には少なくとも1M、少なくとも2M又は少なくとも3Mである。特に好適な濃度は3M〜9Mの範囲である。
【0102】
典型的には、第二水溶液は、非不安定金属種を実質的に含まない。例えば、それは10mg・L
−1以下、5mg・L
−1以下、又は2mg・L
−1以下の非不安定金属種を含みうる。第二水溶液は、10mg・L
−1以下、5mg・L
−1以下、又は2mg・L
−1以下の追加の金属種を含みうる。濃度は金属種中の金属の質量に対するものである。
【0103】
典型的には、本発明の方法は室温で実施される。
【実施例】
【0104】
次の実施例は、以下の表1に示される抽出剤の組み合わせに対する本発明の有効性を実証する。
【0105】
実施例1
原料水溶液の調製
白金族金属を含有する水性原料を、以下の表2に示す濃度で調製した:
この原液を抽出実験に使用するために100倍に希釈した。
【0106】
抽出剤の調製
N−(n−プロピル)−イソヘキサデカミドの合成を記載している欧州特許第0210004号の実施例1に類似した方法によって、N−(イソ−トリデシル))イソトリデカンアミドを調製した。
(欧州特許第0210004号の内容は、その全体が、全ての目的のため、特にモノ−N置換アミド抽出剤の合成を記載する目的で、また貴金属種の抽出を記載し定義する目的で、ここに援用される。)
ジ−n−オクチルスルフィド(DOS)は、Alfa Aesar,ジョンソンマッセイ社から市販されている。そのCAS番号は2690−08−6である。
【0107】
有機相の調製
Shellsol D70中の1Lの0.5MのN−(イソ−トリデシル))イソトリデカンアミド、15%のリン酸トリブチル(TBP)、1%(w/v)のDOSを、Shellsol D70中の50%(v/v)のN−(イソ−トリデシル)イソトリデカンアミド454mL、TBP150g、DOS10gを混合することにより調製し、Shellsol D70で容量調整した。
Shellsol D70は、シェルケミカルズ社,UKから市販されている。
TBPは、Alfa Aesar,ジョンソンマッセイ社から市販されている。そのCAS番号は126−73−8である。
【0108】
異なる酸性度でのPt及びPdの抽出
異なる酸性度のフィードからの白金及びパラジウム種の抽出
上述のようにして調製した原料液を使用して、以下に記載のフィードを調製した:
4M HClフィード:
2mLの原料、131mLの6M HClを脱イオン水(200mL)で容量調整した。
8M HClフィード:
2mLの原料及び138mLの濃HClを脱イオン水(200mL)で容量調整した。
6M HClフィード:
5mLの原料を6M HCl(500mL)で容量調整した。
【0109】
3通りのフィード酸性度のそれぞれに対する溶媒抽出手順は、2分間の混合による、フィードから等容量の有機相中へのPt及びPdの一回の抽出を含んでいた。ついで、金属含有有機相を、適切なフィードと同じ濃度の新しい塩酸水溶液を等量用いる2回のスクラビング工程に供し、再び2分間混合した。その後、Ptを、2分間の混合により、有機相から等容量の希塩酸水溶液(0.1M)中に選択的にストリッピングした。ストリッピングプロセスを繰り返した。有機相を、2分間の混合により、等容量の清浄な水で洗浄した。Pdを、有機相を等容量の水酸化アンモニウム水溶液(6M)と混合することによって、有機相から選択的にストリッピングした。
【0110】
4、6及び8MのHClでの実験による各水溶液に対する結果を、それぞれ表3、4及び5に示す。誘導結合プラズマ質量分析法(ICP分析)を使用して金属種の濃度を決定した。このデータは、この実施例で用いられた抽出剤が、ある範囲の酸性度にわたって他のPGMからPt及びPdを選択的に抽出することを示している。また、Ptが有機相から選択的にストリッピングされ得、続いてPdの選択的ストリッピングが続くことが証明されている。Pt回収率を最大にするために水洗浄をPtストリッピング溶液と組み合わせることができた。
【0111】
【0112】
【0113】
【0114】
表6と
図1は、Pt、Ir、Rh及びRuに対する分配係数(水性分析に基づいて算出)D
A\Oを示す(Pdはその分配係数が非常に大きいため除外されている)。分配係数は、有機相中の金属種の濃度を、水性相中の金属種の濃度で割ったものである。有機相中の濃度は、水性分析に基づいて計算されている。これは、最大のPt抽出が6MのHClで生じることを実証している。全ての場合において、Ir、Rh及びRuの抽出は非常に低く、Pt及びPdに対する選択性を証明している。
【0115】
【0116】
異なる酸性度でのPtストリッピング
上述のようにして調製された有機相及び6MのHClフィードを使用し、Ptストリッピングのための最も適切な酸性度を調べた。
ある容量の新しい有機溶液を、6MのHCl濃度で等容量のフィード液と2分間混合した。ついで、等容量の新しい水性6M HClと混合することにより、有機相を2回スクラビングした。結果を表7に示す。
【0117】
【0118】
有機相を部分に分割して、異なるPtストリッピング溶液に供した:具体的には、水と0.1M、0.5M、1.0M及び3.0M濃度のHCl。
各ストリッピング条件に対する各ストリッピング水溶液中のPt濃度を表8に示す。有機相中に残存するPt濃度を
図3に示す。濃度はICP分析によって決定した。有機相中の濃度は、水性分析に基づいて計算されている。このデータは、Ptストリッピングは、低酸性度での一回目のストリッピングにおいて最も効果的であることを示している。
【0119】
【0120】
異なる溶液中への1回目のPtストリッピングに対する分配係数D
A\Oを表9にまとめ、
図2に示す。このデータは、低酸性度下で最良のストリッピング(最も低いD
A\O)が生じることを強調している。
分配係数は3MのHCl(3.00)で最も高く、非常に乏しいストリッピングを示す一方、水中へのストリッピングは最も低く(0.13)、良好なストリッピングを示した。0、0.1、0.5及び1.0MのHClにおける分配係数は非常に類似していた。
【0121】
実施例2
有機相の調製
25gのCyanex923を秤量して100mLの容量フラスコに入れ、約50mLのSolvesso150を加えて混合した。1gのDOSを混合物に加え、Solvesso150で最終容量を100mLまで調整した。
ジ−n−オクチルスルフィド(DOS)は、Alfa Aesar,ジョンソンマッセイ社から市販されている。そのCAS番号は2690−08−6である。
Cyanex923は、Cytecから市販されている。それは、ヘキシル及びオクチルホスフィンオキシドの混合物である。
Solvesso150は、Brenntagから市販されている。そのCAS番号は64742−94−5である。
【0122】
溶媒抽出プロセス
表2を参照して実施例1に記載の原料水溶液を100倍希釈してフィードを調製した。
溶媒抽出手順は、2分間の混合による、フィードから等容量の有機相中へのPt及びPdの一回の抽出を含んでいた。ついで、金属含有有機相を、フィードと同じ濃度の新しい塩酸水溶液(6M HCl)を等容量用いる2回のスクラビング工程に供し、再び2分間混合した。その後、Ptを、2分間の混合により、有機相から等容量の希塩酸水溶液(0.1M)中に選択的にストリッピングした。ストリッピングプロセスを繰り返した。有機相を、2分間の混合により、等容量の清浄な水で洗浄した。Pdを、有機相を等容量の水酸化アンモニウム水溶液(6M)と混合することによって、有機相から選択的にストリッピングした。溶媒抽出プロセス中に第三相が出現した。
溶媒抽出プロセス中のICP分析の結果を、以下の表10に示す。
【0123】
【0124】
Ptは、低酸度にではなく水洗浄にストリッピングされ、水又は非常に低い酸濃度がストリッピングを行うのに必要とされることを示している。これは、外圏抽出剤(Cyanex923)の性質によるものと考えられる。該結果は、この系が低酸度ではなくむしろ水中に直接ストリッピングされることが好ましいことを示している。Pdストリッピングは完全ではなかったが、理論に縛られることを望むものではないが、本発明者等は、これは、Ptが一回のストリッピングによって水中へは十分にはストリッピングされなかったので、ただ一回の水中へのストリッピングの後に有機中に過剰のPtが残っている結果であるかもしれないと考える。
該結果は、Cyanex923とDOSの混合物がPtとPdの両方を抽出し、抽出されたPtとPdは有機相から選択的にストリッピングされうることを示している。
【0125】
実施例3
有機相の調製
50gのリン酸トリブチルと1gのCyanex471X固形物を秤量して100mLの容量フラスコに入れ、Solvesso150で100mLの容量に調整した。
リン酸トリブチル(TBP)は、Alfa Aesar,ジョンソンマッセイ社から市販されている。そのCAS番号は126−73−8である。
Cyanex471XはCytecから市販されている。
Solvesso150は、Brenntagから市販されている。そのCAS番号は64742−94−5である。
【0126】
溶媒抽出プロセス
上に記載されたようにして調製されたTBPとCyanex471Xを含有する有機相を使用して、上記の実施例2に記載の手順を使用して溶媒抽出プロセスを実施した。溶媒抽出プロセス中のICP分析の結果を以下の表11に示す。
【0127】
【0128】
その結果は、TBPとCyanex471Xの混合物がPtとPdの両方を抽出し、抽出されたPtとPdが有機相から選択的にストリッピングされうることを示している。
有意なPtが抽出後にラフィネート中に残ったが、これは、複数回の抽出工程を含めることによって対処することができた。同様に、複数回の抽出工程は、ラフィネート中に残存するPdの量を減少させるはずである。
【0129】
実施例4
N,N−ジオクチル−アセトアミドの調製
ジ−n−オクチルアミン(98%、125.2mL、0.41mol)とトリエチルアミン(29.2mL、0.41mol)のクロロホルム(150mL)溶液を氷冷水上の三つ口フラスコ中で撹拌した。クロロホルム(50mL)中の塩化アセチル(>99%、29.2mL、0.41mol)を、均圧漏斗を介して30分間かけて滴下した。濃いクリーム色の混合物を室温まで温めてから、還流下で2.5時間撹拌した。得られた金色の溶液を蒸発濃縮し、n−ヘキサンで希釈し、濾過し、脱イオン水(300mL)、6MのHCl(300mL)、脱イオン水(300mL)及び飽和炭酸ナトリウム水溶液(300mL)で洗浄した。有機相を硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過し、減圧濃縮した。収量:81.3g(70%)。
【0130】
有機相の調製
14.15gのN,N−ジオクチルアセトアミドと1gのジ−n−ヘキシルスルフィド(DHS)を秤量して100mLの容量フラスコに入れ、Solvesso150で100mLの容量に調整した。
ジ−n−ヘキシルスルフィドは、Alfa Aesar,ジョンソンマッセイ社から市販されている。そのCAS番号は6294−31−1である。
Solvesso150は、Brenntagから市販されている。そのCAS番号は64742−94−5である。
【0131】
溶媒抽出プロセス
上述のようにして調製されたN,N−ジオクチルアセトアミドとDHSを含有する有機相を使用して、上記の実施例2に記載の手順を使用して溶媒抽出プロセスを実施した。溶媒抽出プロセス中のICP分析の結果を、以下の表12に示す。
【0132】
【0133】
該結果は、N,N−ジオクチルアセトアミドとDHSの混合物がPtとPdの両方を抽出し、抽出されたPtとPdは有機相から選択的にストリッピングされうることを示している。
【0134】
実施例5
有機相の調製
Shellsol D70中50%(v/v)のN−(イソ−トリデシル)イソトリデカンアミド454mL、TBP150g、DOS10gを混合することにより、Shellsol D70中の1Lの0.5MのN−(イソ−トリデシル)イソトリデカンアミド、15%のTBP1%(w/v)DOSを調製し、Shellsol D70で容量調整した。
【0135】
水性相の調製
表2を参照して実施例1に記載の原料水溶液を100倍希釈してフィードを調製した。
【0136】
溶媒抽出プロセス
溶媒抽出手順は、2分間の混合による、フィードから等容量の有機相へのPt及びPdの一回の抽出を含んでいた。ついで、金属含有有機相を、適切なフィードと同じ濃度の新しい塩酸水溶液を等容量用いる2回のスクラビング工程に供し、再び2分間混合した。その後、Ptを、2分間の混合により、有機相から等容量の希塩酸水溶液中に選択的にストリッピングした。ストリッピングプロセスを2回繰り返した。有機相を、2分間の混合により、等容量の清浄な水で洗浄した。Pdを、有機相を表13に詳細に示した等容量の様々な水性ストリッピング試薬と混合することによって、有機相から選択的にストリッピングした。
【0137】
【0138】
これは、チオ尿素、亜硫酸アンモニウム及びアンモニア水が、Pdをストリッピングするための好適な配位試薬であることを実証している。アンモニウムイオンはPdに配位する孤立電子対を持たないので、塩化アンモニウムは不適切であると考えられる。本発明者等は、亜硫酸アンモニウムの実施例において配位試薬として作用しているのは亜硫酸塩種であると考える。
【0139】
実施例6
水溶液の調製
金(III)及びイリジウム(IV)を含む水性原料を、以下の表14に示すような、Au及びIr濃度で、塩酸(6M)中で調製した:
【0140】
有機相の調製
Multisolve150中の100mLの50%(w/v)リン酸トリブチル(TBP)、1%(w/v)のジ−n−オクチルスルフィド(DOS)を、50gのTBP、1gのDOSを混合することにより調製し、Multisolve150で容量調整した。
Multisolve150は、Brenntagから市販されている。
TBPは、Alfa Aesar,ジョンソンマッセイ社から市販されている。そのCAS番号は126−73−8である。DOSはAlfa Aesar,ジョンソンマッセイ社から市販されている。そのCAS番号は2690−08−6である。
【0141】
溶媒抽出プロセス
溶媒抽出手順は、4分間の混合による、フィードから等容量の有機相へのAu及びIrの一回の抽出を含んでいた。ついで、金属含有有機相を、適切なフィードと同じ濃度の新しい塩酸水溶液を等容量用いる2回のスクラビング工程に供し、再び4分間混合した。その後、Irを、4分間の混合により、有機相から等容量の希塩酸水溶液(0.1M)中に選択的にストリッピングした。ストリッピングプロセスを繰り返した。有機相を、塩酸(1M)中の等容量のチオ尿素(1M)と混合することにより、Auを有機相から選択的にストリッピングした。このストリッピング工程もまた繰り返した。
【0142】
結果を表15に示す。金属種の濃度は、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP分析)を使用して決定した。このデータは、この実施例で用いられた抽出剤がAuとIrを共抽出することを示す。また、Irが有機相から選択的にストリッピングされ得、続いてAuが選択的にストリッピングされることも証明する。
【0143】
【0144】
文献
1.Gu Guobang等, “Semi-industrial Test on Co-extraction Separation of Pt and Pd by Petroleum Sulfoxides”, Solvent Extraction in the Process Industries Volume 1, Proceedings of ISEC ’93。
2.R. Grant; “Precious Metals Recovery and Refining” - Proc. Int. Prec. Met. Inst. 1989