(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6568154
(24)【登録日】2019年8月9日
(45)【発行日】2019年8月28日
(54)【発明の名称】数値制御装置
(51)【国際特許分類】
G05B 19/404 20060101AFI20190819BHJP
B23Q 15/14 20060101ALI20190819BHJP
【FI】
G05B19/404 E
B23Q15/14
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-134737(P2017-134737)
(22)【出願日】2017年7月10日
(65)【公開番号】特開2019-16271(P2019-16271A)
(43)【公開日】2019年1月31日
【審査請求日】2018年9月18日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】岸田 悠志
【審査官】
武市 匡紘
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−153482(JP,A)
【文献】
特開2015−107138(JP,A)
【文献】
特開2003−025263(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/101789(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/18−19/416
G05B 19/42−19/46
B23Q 15/00−15/28
B25J 1/00−21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直交する2つの回転軸を備え、該回転軸の取り付け位置に基づく交叉オフセットが存在するパラレルリンク機構を有する加工機を制御する数値制御装置であって、
プログラム指令を解析して、工具の指令位置と指令姿勢とを特定する指令解析部と、
前記交叉オフセットが原因で前記指令位置と前記指令姿勢との組合せが実現不可能である場合に、前記指令位置を維持しつつ、前記指令姿勢を修正した修正姿勢を算出する修正指令算出部と、
前記指令位置及び前記修正姿勢を前記加工機に出力する指令出力部と、を有することを特徴とする
数値制御装置。
【請求項2】
前記修正指令算出部は、前記指令位置と前記指令姿勢との組合せが実現不可能となる侵入不可領域の外周部に前記指令位置を設定し、前記修正姿勢を算出することを特徴とする 請求項1記載の数値制御装置。
【請求項3】
前記加工機は、互いに直交するマスタ回転軸及びスレーブ回転軸を有し、
前記スレーブ回転軸は前記マスタ回転軸と平行な軸方向の工具を保持しており、
前記指令位置と前記指令姿勢との組合せが実現不可能となる侵入不可領域は、前記マスタ回転軸と前記工具の先端との距離を半径とする円柱状の領域であることを特徴とする
請求項1記載の数値制御装置。
【請求項4】
前記指令出力部は、前記指令位置と前記指令姿勢との組合せが実現不可能である場合は前記指令位置及び前記修正姿勢を、実現可能である場合は前記指令位置及び前記指令姿勢を、前記加工機に出力することを特徴とする
請求項1記載の数値制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は数値制御装置に関し、特にパラレルリンク機構を有する加工機において侵入不可領域における加工を実現する数値制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数のリンクを並列に連結したパラレルリンク機構を有する加工機が知られている。
図1は、パラレルリンク機構の5軸加工機の一例を示す斜視図(上図)及び模式図(下図)である。この5軸加工機は、3つの伸縮リンク軸と、直交する2つの回転軸(マスタ回転軸、スレーブ回転軸)により工具を位置決めし加工を行う。
【0003】
図2に示すように、パラレルリンク機構を有する加工機は、スレーブ回転軸と平行な交叉オフセットを有する場合がある。交叉オフセットとは、マスタ回転軸から工具先端までの距離である。交叉オフセットが存在すると、加工機が実現できない工具位置と工具姿勢との組合せが存在する。
図2の例では、図示した工具姿勢を維持したまま、円柱状の侵入不可領域に工具先端をセットすることができない。
図3に示すように、伸縮リンク軸を作動させて工具を移動させれば侵入不可領域内に工具先端をセットできるが、そうすると工具姿勢は傾いてしまう。
【0004】
従来の数値制御装置には、パラレルリンク機構を有する加工機が実現できない工具位置と工具姿勢との組合せを指令された場合、アラームを発するものがある。
なお特許文献1には、入力された位置決めデータがロボットの軸の動作範囲外にあたる場合には、所定の制約条件を満たす別の位置決めデータを算出し直すロボットの制御装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−153482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、指令どおりの加工が不可能であっても、一定の範囲内で指令された条件を緩め、加工を継続することが望ましい場合がある。
また特許文献1記載の技術はロボットに関するものであり、パラレルリンク機構に必要な特有の制御手法を何ら開示していない。
【0007】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたものであって、パラレルリンク機構を有する加工機において侵入不可領域における加工を実現する数値制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施の形態にかかる数値制御装置は、
直交する2つの回転軸を備え、該回転軸の取り付け位置に基づく交叉オフセットが存在するパラレルリンク機構を有する加工機を制御する数値制御装置であって、プログラム指令を解析して、工具の指令位置と指令姿勢とを特定する指令解析部と、
前記交叉オフセットが原因で前記指令位置と前記指令姿勢との組合せが実現不可能である場合に、前記指令位置を維持しつつ、前記指令姿勢を修正した修正姿勢を算出する修正指令算出部と、前記指令位置及び前記修正姿勢を前記加工機に出力する指令出力部と、を有することを特徴とする。
本発明の一実施の形態にかかる数値制御装置は、前記修正指令算出部は、前記指令位置と前記指令姿勢との組合せが実現不可能となる侵入不可領域の外周部に前記指令位置を設定し、前記修正姿勢を算出することを特徴とする。
本発明の一実施の形態にかかる数値制御装置は、前記加工機は、互いに直交するマスタ回転軸及びスレーブ回転軸を有し、前記スレーブ回転軸は前記マスタ回転軸と平行な軸方向の工具を保持しており、前記指令位置と前記指令姿勢との組合せが実現不可能となる侵入不可領域は、前記マスタ回転軸と前記工具の先端との距離を半径とする円柱状の領域であることを特徴とする。
本発明の一実施の形態にかかる数値制御装置は、前記指令出力部は、前記指令位置と前記指令姿勢との組合せが実現不可能である場合は前記指令位置及び前記修正姿勢を、実現可能である場合は前記指令位置及び前記指令姿勢を、前記加工機に出力することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、パラレルリンク機構を有する加工機において侵入不可領域における加工を実現する数値制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】パラレルリンク機構を有する加工機の一例を示す図である。
【
図2】パラレルリンク機構を有する加工機の一例を示す図である。
【
図3】パラレルリンク機構を有する加工機の一例を示す図である。
【
図4】数値制御装置100の構成を示すブロック図である。
【
図5】修正姿勢の算出処理の一例を説明する図である。
【
図6】修正姿勢の算出処理の一例を説明する図である。
【
図7】数値制御装置100の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。
図4は、数値制御装置100の機能構成を示すブロック図である。数値制御装置100は加工機を制御する装置であって、典型的には中央処理装置(CPU)、記憶装置、入出力装置等を有し、CPUが記憶装置に格納されたプログラムを読み出して実行することにより、所定の機能(例えば後述の各処理部)が論理的に実現される。数値制御装置100は、処理部として指令解析部110、修正指令算出部120、指令出力部130を有する。
【0012】
指令解析部110は、所与のプログラム指令を解析して、工具の指令位置と指令姿勢とを特定する処理を行う。この処理は公知であるため詳細な説明は省略する。
【0013】
修正指令算出部120は、工具の指令位置と指令姿勢との組合せが実現可能であるかを判定する。この判定処理は公知であるため詳細な説明は省略する。実現不可能である場合、修正指令算出部120は、工具の指令位置は維持しつつ、指令姿勢を修正した修正姿勢を算出する。すなわち本実施例では、工具の先端点は変えずに、工具の軸方向を変化させて加工を継続する。
【0014】
図5を用いて、修正姿勢の算出手法を説明する。侵入不可領域の形状は、中心軸の向きが工具の軸方向と平行であり、半径rが交叉オフセットである円柱である。工具の軸方向をずらすと、円柱状の侵入不可領域も回転し、やがて侵入不可領域の外側に指令位置が露出する。特に、円柱状の侵入不可領域の外表面上に指令位置が乗るよう、工具の軸方向を修正すると効率が良い。
【0015】
図6を用いて、効率の良い修正姿勢を算出する方法を示す。指令位置xyz、指令姿勢ijk、修正姿勢i’j’k’を用いて、効率の良い修正姿勢の制約条件を表すと以下のようになる。v,a,bは一次変数である。xyz,ijk,i’j’k’,vはベクトルであり、その他の変数はスカラーである。侵入不可領域の底面の中心を原点とする。
v = r ・・式1
v ・ i’j’k’ = 0 ・・式2
v + i’j’k’ = xyz ・・式3
av + bijk = xyz ・・式4
侵入不可領域の底面の半径を示す長さr(=交叉オフセット)のベクトルvを定義する(式1)。修正後の工具軸方向i’j’k’は、侵入不可領域の中心軸と平行、かつベクトルvに直交する(式2)。指令位置までのベクトルxyzは、ベクトルvとベクトルi’j’k’との和で表される(式3)。ベクトルv、ベクトルijk、ベクトルxyzは同一平面上にある(式4)。
【0016】
修正指令算出部120は、式1乃至式4を満たす修正姿勢i’j’k’を求めることで、円柱状の侵入不可領域の外表面上に指令位置が乗るような、効率の良い修正姿勢を算出できる。式1乃至式4における未知数はv,a,b及びi’j’k’であり、8通りの解が成立し得る。修正指令算出部120は、任意の解を最終的な修正姿勢として採用し得る。例えば、工具軸の修正角度が最も小さくなる解を選択しても良い。あるいは、ワークに対する工具の角度が所定のしきい値内に収まる解を選択しても良い。
【0017】
修正指令算出部120は、工具軸の修正角度が所定のしきい値より大きくなる場合はアラームを出力しても良い。修正指令算出部120は、工具軸の修正角度が最も小さくなる解であっても所定のしきい値以下にならない場合に、アラームを出力する。これにより、意図せず大きく姿勢が修正されることを防止できる。
【0018】
指令出力部130は、修正指令算出部120は、工具の指令位置と指令姿勢との組合せが実現可能である場合は、指令位置及び指令姿勢を加工機への指令として出力する。実現不可能である場合は、指令位置及び修正姿勢を加工機への指令として出力する。
【0019】
図7のフローチャートを用いて、数値制御装置100の動作を説明する。
S101:指令解析部110は、所与のプログラム指令を解析し、工具の指令位置と指令姿勢とを特定する。
S102:修正指令算出部120は、指令位置が侵入不可領域内にあるかを判定する。指令位置が侵入不可領域内にある場合、すなわち工具の指令位置と指令姿勢との組合せが実現不可能である場合は、S103に遷移する。その他の場合はS104に遷移する。
S103:修正指令算出部120は、工具の指令位置は変えずに、指令姿勢を修正した修正姿勢を算出する。修正姿勢が所定の条件を満たさない場合は、アラームを出力することもできる。
S104:修正指令算出部120は、修正姿勢の算出を行わない。指令姿勢がそのまま維持される。
S105:指令出力部130は、指令位置と、修正位置が算出された場合は修正姿勢、修正位置が算出されていない場合は指令姿勢と、を加工機に出力する。
【0020】
本実施の形態によれば、数値制御装置100は、指令位置が侵入不可領域内にある場合であっても、指令姿勢を修正した修正姿勢を算出及び出力することにより、加工を継続することができる。指令どおりの加工が不可能であっても、一定の範囲内で指令された条件を緩め、加工を行うことができる。
【0021】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上述した実施の形態の例のみに限定されることなく、適宜の変更を加えることにより様々な態様で実施することができる。
【0022】
例えば、上述の実施の形態では、円柱状の侵入不可領域の外表面上に指令位置が乗るよう指令姿勢を修正し、修正姿勢を算出する例を示した。しかし本発明はこれに限定されず、例えば円柱状の侵入不可領域の外側の任意の点に指令位置を置き、修正姿勢を算出しても良い。これにより、何らかの特別な条件に適した工具姿勢を実現できることがある。例えば、ワークに対し工具の芯が当たらないような接触角度を持たせることで、切削能力を担保することなどが可能である。
【符号の説明】
【0023】
100 数値制御装置
110 指令解析部
120 修正指令算出部
130 指令出力部