【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、気泡を低屈折率拡散性要素として閉じ込めた透明高屈折率ガラスマトリックスを有する内部取り出し層(IEL)の分野にある。光拡散性の気泡を含むこのようなIELは、固体粒子を含む同様のIELよりも有利である。と言うのは、大きいサイズの粒子がマトリックスから突出して最終OLED製品において短絡及び/又は電極間漏洩電流を発生するという危険性がないからである。
【0010】
しかしながら、固体粒子が存在しないにもかかわらず、低屈折率ガラス基材上で高屈折率ガラスフリットを単に溶融させることにより完全な表面品質を有する拡散性エナメルを得ることは容易ではない。実際、溶融工程の間に溶融しているマトリックス中で形成されそして捕獲される気泡は表面に向かって上昇し、そこではじけて横ばい状態となる。しかしながら、完全に横ばい状態になる前にIEL表面で固化した、開放のもしくは部分的に開放した気泡は、クレータ状の表面のむらを生じさせ、これらのむらはどちらかと言えば鋭い縁を有し、そして最終のOLEDにおいて電極間漏洩電流及びピンホールを生じさせかねない。
【0011】
欧州特許第2178343号明細書には、高屈折率ガラスマトリックス及び気泡の散乱要素を含む内部取り出し層(散乱層)を有するOLEDのための半透明ガラス基材が開示されている。この文献によると、散乱層の表面に開放気泡のクレータによる表面欠陥はない([0026]〜[0028]、及び
図55参照)。しかしながら、この文献、特に[0202]を綿密に分析すると、この結果はより下方の表面層中の散乱要素の計数方法が不適切であることによる単なる人為的な結果であることが明らかになる。
【0012】
出願人は、最近、本出願の出願日前に公開されていない韓国特許出願第10−2013−0084314号(2013年7月17日)を出願し、低屈折率ガラス基材と高屈折率エナメルとの界面に位置する高度に相互接続された空隙系を有する発光デバイスのための積層基材を開示している。このような散乱層は、開放気泡密度が0.1/cm
2未満である非常に高い表面品質を有するが、積層基材の縁と接触する水又は他の流体が積層体の大面積にわたり相互接続された空隙を通して、またピンホールを通して、蛍光もしくはりん光性色素を含む有機層のスタック中に浸透し、前記層の破壊をもたらしかねないという不都合に悩まされる。
【0013】
それゆえ、サン−ゴバン・グラス・フランスの名義で2013年7月17日に出願された韓国出願第10−2013−0084314号明細書に記載されるものと同様のOLED用積層基材であって、高屈折率エナメル/ガラス基材層における相互接続された空隙系を、互いに接続されておらず、溶融した高屈折率ガラスフリットの表面まで本質的に上昇することなく前記界面にくっついている複数の個別の気泡により置き換えた積層基材を提供することが有利であろう。
【課題を解決するための手段】
【0014】
出願人は、驚くべきことに、ガラスフリットを、ガラス基材と直接接触することなく事前にガラス表面を被覆している薄い金属酸化物層上に適用し溶融させたときに、溶融した高屈折率フリットの下層中に多数の個別の気泡が生じ、本質的に表面へ上昇することなく、下にあるガラス基材にくっつくことを見いだした。
【0015】
本出願の主題は、発光デバイスのための積層基材の作製方法であって、少なくとも下記の4つの工程を含む、すなわち、
(a)屈折率(λ=550nmにて)が1.45と1.65の間であるガラス基材を用意する工程、
(b)前記ガラス基材の1つの面を金属酸化物層で被覆する工程、
(c)前記金属酸化物層を屈折率(λ=550nmにて)が少なくとも1.7であるガラスフリットで被覆する工程、
(d)得られた被覆したガラス基材をガラスフリットのリトルトン温度よりも高い温度で焼成して金属酸化物を溶融しているガラスフリットと反応させ、そしてガラス基材との界面付近のエナメル層の下方部分に埋め込まれた複数の球状空隙を含む高屈折率エナメル層を形成する工程、
を含む、発光デバイスのための積層基材の作製方法である。
【0016】
本出願の別の主題は、上記の方法により得ることができる積層基材であり、
(i)屈折率が1.45と1.65の間であるガラス基材、
(ii)屈折率(550nmでの)が少なくとも1.7である高屈折率ガラスエナメル層、
を含む積層基材であって、
高屈折率エナメル層と下にあるガラス基材との界面付近においてエナメル層中に複数の球状空隙が埋め込まれており、球状空隙の少なくとも95%、好ましくは少なくとも99%、そしてより好ましくは本質的にすべてが、エナメル層の厚さの半分よりも有意に小さい直径を有し、且つ下にあるガラス基材との界面付近において高屈折率エナメル層の下方半分に位置していることを特徴とする積層基材である。
【0017】
工程(a)において用意されるガラス基材は、平らで半透明又は透明な無機ガラスの、例えばソーダ石灰ガラスの基材であり、一般に厚さが0.1mmと5mmの間であり、好ましくは0.3mmと1.6mmの間である。その光透過率(ISO9050標準規格、発光体D65(TLD)、例えばISO/IEC 10527により規定されるとおりの標準比色観察者CIE 1931を考慮してISO/IEC 10526標準規格により規定されるような)は、好ましくはできるかぎり高く、典型的には80%を超え、好ましくは85%を超え、又はさらには90%を超える。
【0018】
本発明の方法の工程(b)において、平板ガラス基材の1つの面を任意の適切な方法により、好ましくは反応性又は非反応性マグネトロンスパッタリング、原子層堆積(ALD)又はゾルゲル湿潤コーティングにより、金属酸化物の薄い層で被覆する。この金属酸化物層は、ガラス基材の片面の表面全体を覆うことができる。別の実施形態では、基材の表面の一部のみを金属酸化物層で被覆する。不均一な取り出しパターンを有する最終積層基材を作製するために、可能性として、基材をパターン化した金属酸化物層により被覆することが特に興味深い。
【0019】
いかなる理論にも拘束されたくないが、出願人は、金属酸化物と上にある高屈折率ガラスフリットの成分との反応により、焼成工程(d)の間に光散乱性の球状空隙が生じるものと考える。この反応の特異性は、未だ完全には解明されていない。O
2ガスが反応生成物として発生しうることが考えられる。球状空隙の大部分は、欧州特許第2178343号明細書に記載されるように溶融固化工程の間にガラスフリット中に捕捉された気泡だけではなく、焼成工程の間に発生された気泡である。
【0020】
実際に、出願人は、球状空隙の密度はガラスフリット層でむき出しのガラス基材を直接被覆した領域よりも金属酸化物層を被覆した領域でずっと高くなることを観察した。
【0021】
得られるエナメル層の下方半分において有意量の球状空隙を発生するために十分な反応性成分を提供するかぎり、金属酸化物層の厚さに特別の制限は存在しない。数ナノメートルのみの金属酸化物層が、所望の球状空隙の形成の誘因となり得ることが分かっている。
【0022】
金属酸化物層は、好ましくは厚さが5nmと80nmの間であり、より好ましくは10nmと40nmの間、さらにより好ましくは15nmと30nmの間である。
【0023】
本願の出願時において、出願人は、少なくとも3種の金属酸化物、すなわちTiO
2、Al
2O
3、ZrO
2が、ガラスフリットの界面付近に球状空隙を生じさせることになることを実験により明らかにした。当業者は、出願人の実験研究を完成しそして本発明の方法において使用するのに適切である追加の金属酸化物を見いだすために、本発明の精神から逸脱することなく、これらの金属酸化物をNb
2O
5、HfO
2、Ta
2O
5、WO
3、Ga
2O
3、In
2O
3及びSnO
2などの異なる金属酸化物又はそれらの混合物で容易に置き換えることができる。
【0024】
したがって、金属酸化物は、TiO
2、Al
2O
3、ZrO
2、Nb
2O
5、HfO
2、Ta
2O
5、WO
3、Ga
2O
3、In
2O
3、SnO
2及びそれらの混合物からなる群より選ぶのが好ましい。
【0025】
パターン化又は非パターン化金属酸化物薄層を支持するガラス基材の面は、その後高屈折率ガラスフリットにより被覆される。
【0026】
前記ガラスフリットの屈折率は、好ましくは1.70と2.20の間に含まれ、より好ましくは1.80と2.10の間に含まれる。
【0027】
高屈折率ガラスフリットは、Bi
2O
3を少なくとも30重量%、好ましくは少なくとも50重量%、そしてより好ましくは少なくとも60重量%含むのが有利である。
【0028】
ガラスフリットは、450℃と570℃の間に含まれる融点(リトルトン点)を有するように選択されるべきであり、そして屈折率が1.8〜2.1であるエナメルをもたらすべきである。
【0029】
好ましいガラスフリットは下記の組成を有する。
Bi
2O
3: 55〜75wt%
BaO: 0〜20wt%
ZnO: 0〜20wt%
Al
2O
3: 1〜7wt%
SiO
2: 5〜15wt%
B
2O
3: 5〜20wt%
Na
2O: 0.1〜1wt%
CeO
2: 0〜0.1wt%
【0030】
典型的な実施形態では、ガラスフリット粒子(70〜80wt%)を20〜30wt%の有機ビヒクル(エチルセルロース及び有機溶媒)と混合する。得られたフリットペーストを、金属酸化物で被覆したガラス基材上にその後スクリーン印刷又はスロットダイコーティングにより適用する。得られた層を120〜200℃の温度で加熱して乾燥させる。有機バインダー(エチルセルロース)を350〜440℃の温度で焼失させ、そして最終的なエナメルをもたらす焼成工程、すなわち高屈折率ガラスフリットの溶融を、530℃と620℃の間、好ましくは540℃と600℃の間の温度で行う。
【0031】
得られたエナメルは、10μm×10μmの面積でAFMにより測定したときに、3nm未満の算術平均偏差R
a(ISO 4287)の表面粗さを有することが示されている。
【0032】
金属酸化物層を被覆する高屈折率ガラスフリットの量は、一般に20g/m
2と200g/m
2の間、好ましくは25g/m
2と150g/m
2の間、より好ましくは30g/m
2と100g/m
2の間、そして最も好ましくは35g/m
2と70g/m
2の間に含まれる。
【0033】
焼成工程(d)において、ガラスフリットをガラスフリットのリトルトン温度を超える温度に加熱して、その結果としてガラスフリットを溶融させ、ガラスフリットの成分を下にある金属酸化物の成分と反応させ、そしてこの反応ゾーンにおいて球状空隙を生じさせる。最終の固化したエナメルコーティングにおいて、当初の金属酸化物層をガラスフリット層と明確に区別するのは一般に不可能である。最も恐らくは、金属酸化物層はガラスフリットにより消化され、局所的に若干異なる組成を有するガラスフリットを生じさせる。それゆえ、これらの2つの層の各々の厚さを特定するのは不可能である。埋め込まれた複数の球状空隙(散乱要素)を含む固化したエナメル層(以下「高屈折率エナメル層」)の全体の厚さは、好ましくは3μmと25μmの間、より好ましくは4μmと20μmの間、そして最も好ましくは5μmと15μmの間に含まれる。
【0034】
本発明の最も驚くべきことの1つは、ガラスフリット層の底部(金属酸化物層との反応ゾーン)で焼成工程の間に形成される気泡は溶融ガラス相中でその表面に向かって上昇せずに、得られるエナメルと下にあるガラス基材との界面にだいぶ近いところに保持されるように見えることが観察されることである。散乱要素のこの「押さえこみ」が、固化した開放気泡によるクレータ状の凹部のない、固化した高屈折率エナメルの優れた表面品質をもたらす。
【0035】
しかしながら、高屈折率エナメル層の底部付近に球状空隙を効率的に保持してそれらが表面に上昇するのを防止するために、工程(d)の焼成温度は過度に高くすべきでなく、焼成工程の時間は過度に長くすべきでない。
【0036】
焼成工程(d)の時間は、好ましくは3分と30分の間、より好ましくは5分と20分の間に含まれる。
【0037】
本発明において使用する高屈折率ガラスフリット及びそれから得られるエナメルは、好ましくは結晶性SiO
2又はTiO
2粒子などの固体の散乱性粒子を実質的に含むべきでないことは言うまでもない。このような粒子は、内部取り出し層における散乱要素として一般に使用されるが、追加の平坦化層を必要とし、それにより取り出し層の総厚さを望ましくなく増加させる。
【0038】
すでに上で説明したとおり、焼成工程の間に形成される球状空隙は、高屈折率エナメル層の厚さ全体にランダムに分布しているのではなく、大部分は「下方」半分に、すなわち該エナメル層と下にあるガラス基材との界面付近に位置する。エナメル層に完全に埋め込まれるためには、球状空隙はもちろんエナメル層の厚さよりも有意に小さくなければならない。球状空隙の少なくとも95%、好ましくは少なくとも99%、そしてより好ましくは本質的にすべては、直径がエナメル層の半分の厚さよりも小さく、そして下にあるガラス基材との界面付近で、高屈折率エナメル層の下方半分に位置している。「高屈折率エナメル層の下方半分に位置している」という表現は、空隙の容積の少なくとも80%がエナメル層の中央平面より下方に位置していることを意味する。
【0039】
球状空隙は、好ましくは平均相当球径が0.2μmと8μmの間であり、より好ましくは0.4μmと4μmの間、そして最も好ましくは0.5μmと3μmの間である。
【0040】
球状空隙は、金属酸化物層により事前に被覆されたガラス基材の表面に対応する領域全体にわたってランダムに分布している。蛍光もしくはりん光性色素を含む有機層のスタックから放出される光を効率的に散乱させるために、球状空隙の密度は、好ましくは10
4/mm
2と25×10
6/mm
2の間、より好ましくは10
5/mm
2と5×10
6/mm
2の間に含まれる。
【0041】
基材の全般平面に垂直な方向から見たときに(投影図)、球状空隙は金属酸化物により事前に覆われた基材の表面の好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも25%を占め、そして最大で80%、より好ましくは最大で70%を占める。
【0042】
本発明による積層基材の断面を示す
図2に見ることができるように、ほぼすべての球状空隙は下にあるガラス基材と接触しており、それにより該ガラス基材と接触している個別の空隙の単層を形成している。該空隙は、互いに非常に接近していてもよく、又はさらには互いに接触していてもよいが、互いに接続はしていない。こうして、本発明の積層基材の周囲から入り込んでくる流体の、例えば液体又は気体形態の水又は他の溶媒などの浸透が、効果的に阻止される。したがって、本発明の積層基材から製造されたOLEDは、韓国特許出願第10−2013−0084314号明細書に記載の積層基材から製造されたものよりも水又は溶媒に対してずっと敏感でない。
【0043】
本発明の積層基材は、底面発光型OLEDの製造のための半透明基材として使用することを意図するものである。底面発光型OLEDは、一般にアノードである半透明電極と、一般にカソードである光反射性電極とを支持する半透明基材を含む。発光性有機層のスタックから放出された光は半透明のアノード及び基材を介して直接放出されるか、又は最初にカソードにより半透明のアノード及び基材に向けて反射され、そしてそれらを通して放出される。
【0044】
それゆえ、発光性有機層スタックを積層する前に、透明導電性層(電極層)で内部取り出し層の上を被覆しなければならない。その結果として、好ましい実施形態では、本発明の積層基材は高屈折率エナメル層の上に透明導電性層をさらに含み、この導電性層は好ましくはエナメル層と直接接触するか、又は中間層を、例えばバリア層又は保護層を、被覆する。
【0045】
それゆえ、好ましい実施形態において、本発明の方法は、高屈折率エナメル層の上を透明導電性層(TCL)で被覆する追加の工程をさらに含む。この層は好ましくは、透明導電性酸化物、例えばITO(酸化スズインジウム)などである。このようなTCLの形成は、マグネトロンスパッタリングなどの当業者によく知られた通常の方法により行うことができる。