特許第6568197号(P6568197)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6568197透明拡散性OLED基材及び該基材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6568197
(24)【登録日】2019年8月9日
(45)【発行日】2019年8月28日
(54)【発明の名称】透明拡散性OLED基材及び該基材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 17/34 20060101AFI20190819BHJP
   C03C 8/02 20060101ALI20190819BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20190819BHJP
   H05B 33/02 20060101ALI20190819BHJP
【FI】
   C03C17/34 Z
   C03C8/02
   H05B33/14 A
   H05B33/02
【請求項の数】13
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-501649(P2017-501649)
(86)(22)【出願日】2015年6月23日
(65)【公表番号】特表2017-528399(P2017-528399A)
(43)【公表日】2017年9月28日
(86)【国際出願番号】EP2015064157
(87)【国際公開番号】WO2016008685
(87)【国際公開日】20160121
【審査請求日】2018年5月28日
(31)【優先権主張番号】14177291.3
(32)【優先日】2014年7月16日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500374146
【氏名又は名称】サン−ゴバン グラス フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100170874
【弁理士】
【氏名又は名称】塩川 和哉
(72)【発明者】
【氏名】リ ヨン ソン
(72)【発明者】
【氏名】ハン チン ウー
(72)【発明者】
【氏名】シン ウイ チン
【審査官】 永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/017035(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/116531(WO,A1)
【文献】 特表2013−518361(JP,A)
【文献】 特表2013−539158(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/187735(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C17/34−17/42
H05B33/00−33/28
H01L51/50−51/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも下記の工程を含む、発光デバイスのための積層基材の作製方法
(a)550nmでの屈折率が1.45と1.65の間であるガラス基材(1)を用意する工程
(b)前記ガラス基材の1つの面を金属酸化物層(2)で被覆する工程
(c)前記金属酸化物層(2)を、550nmでの屈折率が少なくとも1.7でありBiを少なくとも30重量%含むガラスフリット(3)で被覆する工程
(d)得られた被覆したガラス基材を530℃と620℃の間に含まれる温度で焼成して金属酸化物を溶融しているガラスフリットと反応させ、そしてガラス基材との界面付近のエナメル層の下方部分に埋め込まれた複数の球状空隙(5)を含む高屈折率エナメル層(4)を形成する工程
【請求項2】
前記金属酸化物層の厚さが5nmと80nmの間である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記金属酸化物を、TiO、Al、ZrO、Nb、HfO、Ta、WO、Ga、In及びSnO、並びにそれらの混合物からなる群より選ぶ、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記ガラスフリットの屈折率が1.70と2.20の間に含まれる、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記ガラスフリットが少なくとも50重量%のBiを含む、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記高屈折率ガラスフリットの溶融を540℃と600℃の間に含まれる温度で行う、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
(e)前記高屈折率エナメル層(4)を透明導電性層(TCL)で被覆すること,
をさらに含む、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
次のものを含む積層基材、すなわち
(i)屈折率が1.45と1.65の間であるガラス基材(1)、
(ii)少なくとも30重量%のBiを含み、550nmでの屈折率が少なくとも1.7である、高屈折率ガラスエナメル層(4)、
を含む積層基材であって、
高屈折率エナメル層と下にあるガラス基材との界面付近において該エナメル層中に複数の球状空隙(5)が埋め込まれており、球状空隙の少なくとも95%が、該エナメル層の厚さの半分よりも有意に小さい直径を有し、且つ下にあるガラス基材(1)との界面(7)の付近において該高屈折率エナメル層の下方半分に位置していることを特徴とする積層基材。
【請求項9】
前記球状空隙の平均相当球径が0.2μmと8μmの間である、請求項8記載の積層基材。
【請求項10】
前記高屈折率エナメル層の厚さが3μmと25μmの間に含まれる、請求項8又は9記載の積層基材。
【請求項11】
前記球状空隙が下にあるガラス基材と接触している、請求項8〜10のいずれか1項記載の積層基材。
【請求項12】
前記球状空隙が下にあるガラス基材(1)と接触している個別の空隙の単層を形成している、請求項8〜11のいずれか1項記載の積層基材。
【請求項13】
(iii)前記高屈折率エナメル層(4)上の透明導電性層(6)、をさらに含む、請求項8〜12のいずれか1項記載の積層基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機発光ダイオード(OLED)のための半透明な光散乱性ガラス基材を製造するための新規の方法及び該方法により得ることができる基材に関する。
【背景技術】
【0002】
OLEDは、2つの電極の間に挟まれた蛍光性もしくはりん光性色素を含む有機層のスタックを含み、上記電極のうちの少なくとも1つは半透明である、光電子要素である。電極に電圧が印加されると、カソードから注入された電子及びアノードから注入された正孔が有機層内で結合し、蛍光/りん光性層から光を放出するに至る。
【0003】
従来のOLEDからの光の取り出し性はどちらかというと低く、光のほとんどが高屈折率有機層及び透明導電性層(TCL)における全内部反射により捕捉されることが一般に知られている。全内部反射は、高屈折率TCLと下層のガラス基材(屈折率約1.5)との境界で起こるだけでなく、ガラスと空気との境界でも起こる。
【0004】
概算によると、追加の取り出し層を含まない従来のOLEDでは、有機層から放出された光の約60%はTCLとガラスとの境界で捕捉され、さらに20%がガラスと空気との面で捕捉され、そしてわずかに約20%がOLEDから空気中に出ていく。
【0005】
TCLとガラス基材との間の光散乱層によりこの光の捕捉を低減することが知られている。このような光散乱層は、TCLの屈折率に近い高屈折率の透明マトリックスを有し、そして該マトリックスの屈折率とは異なる屈折率を有する複数の光散乱要素を含む。このような高屈折率マトリックスは一般に、低屈折率のガラス基材上で高屈折率ガラスフリットを溶融させ、それにより薄い高屈折率エナメル層を得ることにより得られる。光散乱要素は、溶融工程の前にガラスフリットに添加される固体粒子、溶融工程の間に形成される結晶体、又は溶融工程の間に形成される気泡であることができる。
【0006】
界面を構造化すること、すなわち、例えば低屈折率透明基材をエッチングし又はラッピングしてから高屈折率ガラスフリットを適用しそして溶融させて、ガラスとOLEDの高屈折率層との界面に表面模様を形成することにより、光のアウトカップリングを増加させることも知られている。
【0007】
これらの取り出し手段は両方とも、それらがOLED基材とTCLとの間にあるので、一般に「内部取り出し層」(IEL)と呼ばれる。
【0008】
外部取り出し層(EEL)も当該技術分野において一般に知られており、同じ様に機能するが、ガラスと空気との境界に位置している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、気泡を低屈折率拡散性要素として閉じ込めた透明高屈折率ガラスマトリックスを有する内部取り出し層(IEL)の分野にある。光拡散性の気泡を含むこのようなIELは、固体粒子を含む同様のIELよりも有利である。と言うのは、大きいサイズの粒子がマトリックスから突出して最終OLED製品において短絡及び/又は電極間漏洩電流を発生するという危険性がないからである。
【0010】
しかしながら、固体粒子が存在しないにもかかわらず、低屈折率ガラス基材上で高屈折率ガラスフリットを単に溶融させることにより完全な表面品質を有する拡散性エナメルを得ることは容易ではない。実際、溶融工程の間に溶融しているマトリックス中で形成されそして捕獲される気泡は表面に向かって上昇し、そこではじけて横ばい状態となる。しかしながら、完全に横ばい状態になる前にIEL表面で固化した、開放のもしくは部分的に開放した気泡は、クレータ状の表面のむらを生じさせ、これらのむらはどちらかと言えば鋭い縁を有し、そして最終のOLEDにおいて電極間漏洩電流及びピンホールを生じさせかねない。
【0011】
欧州特許第2178343号明細書には、高屈折率ガラスマトリックス及び気泡の散乱要素を含む内部取り出し層(散乱層)を有するOLEDのための半透明ガラス基材が開示されている。この文献によると、散乱層の表面に開放気泡のクレータによる表面欠陥はない([0026]〜[0028]、及び図55参照)。しかしながら、この文献、特に[0202]を綿密に分析すると、この結果はより下方の表面層中の散乱要素の計数方法が不適切であることによる単なる人為的な結果であることが明らかになる。
【0012】
出願人は、最近、本出願の出願日前に公開されていない韓国特許出願第10−2013−0084314号(2013年7月17日)を出願し、低屈折率ガラス基材と高屈折率エナメルとの界面に位置する高度に相互接続された空隙系を有する発光デバイスのための積層基材を開示している。このような散乱層は、開放気泡密度が0.1/cm2未満である非常に高い表面品質を有するが、積層基材の縁と接触する水又は他の流体が積層体の大面積にわたり相互接続された空隙を通して、またピンホールを通して、蛍光もしくはりん光性色素を含む有機層のスタック中に浸透し、前記層の破壊をもたらしかねないという不都合に悩まされる。
【0013】
それゆえ、サン−ゴバン・グラス・フランスの名義で2013年7月17日に出願された韓国出願第10−2013−0084314号明細書に記載されるものと同様のOLED用積層基材であって、高屈折率エナメル/ガラス基材層における相互接続された空隙系を、互いに接続されておらず、溶融した高屈折率ガラスフリットの表面まで本質的に上昇することなく前記界面にくっついている複数の個別の気泡により置き換えた積層基材を提供することが有利であろう。
【課題を解決するための手段】
【0014】
出願人は、驚くべきことに、ガラスフリットを、ガラス基材と直接接触することなく事前にガラス表面を被覆している薄い金属酸化物層上に適用し溶融させたときに、溶融した高屈折率フリットの下層中に多数の個別の気泡が生じ、本質的に表面へ上昇することなく、下にあるガラス基材にくっつくことを見いだした。
【0015】
本出願の主題は、発光デバイスのための積層基材の作製方法であって、少なくとも下記の4つの工程を含む、すなわち、
(a)屈折率(λ=550nmにて)が1.45と1.65の間であるガラス基材を用意する工程、
(b)前記ガラス基材の1つの面を金属酸化物層で被覆する工程、
(c)前記金属酸化物層を屈折率(λ=550nmにて)が少なくとも1.7であるガラスフリットで被覆する工程、
(d)得られた被覆したガラス基材をガラスフリットのリトルトン温度よりも高い温度で焼成して金属酸化物を溶融しているガラスフリットと反応させ、そしてガラス基材との界面付近のエナメル層の下方部分に埋め込まれた複数の球状空隙を含む高屈折率エナメル層を形成する工程、
を含む、発光デバイスのための積層基材の作製方法である。
【0016】
本出願の別の主題は、上記の方法により得ることができる積層基材であり、
(i)屈折率が1.45と1.65の間であるガラス基材、
(ii)屈折率(550nmでの)が少なくとも1.7である高屈折率ガラスエナメル層、
を含む積層基材であって、
高屈折率エナメル層と下にあるガラス基材との界面付近においてエナメル層中に複数の球状空隙が埋め込まれており、球状空隙の少なくとも95%、好ましくは少なくとも99%、そしてより好ましくは本質的にすべてが、エナメル層の厚さの半分よりも有意に小さい直径を有し、且つ下にあるガラス基材との界面付近において高屈折率エナメル層の下方半分に位置していることを特徴とする積層基材である。
【0017】
工程(a)において用意されるガラス基材は、平らで半透明又は透明な無機ガラスの、例えばソーダ石灰ガラスの基材であり、一般に厚さが0.1mmと5mmの間であり、好ましくは0.3mmと1.6mmの間である。その光透過率(ISO9050標準規格、発光体D65(TLD)、例えばISO/IEC 10527により規定されるとおりの標準比色観察者CIE 1931を考慮してISO/IEC 10526標準規格により規定されるような)は、好ましくはできるかぎり高く、典型的には80%を超え、好ましくは85%を超え、又はさらには90%を超える。
【0018】
本発明の方法の工程(b)において、平板ガラス基材の1つの面を任意の適切な方法により、好ましくは反応性又は非反応性マグネトロンスパッタリング、原子層堆積(ALD)又はゾルゲル湿潤コーティングにより、金属酸化物の薄い層で被覆する。この金属酸化物層は、ガラス基材の片面の表面全体を覆うことができる。別の実施形態では、基材の表面の一部のみを金属酸化物層で被覆する。不均一な取り出しパターンを有する最終積層基材を作製するために、可能性として、基材をパターン化した金属酸化物層により被覆することが特に興味深い。
【0019】
いかなる理論にも拘束されたくないが、出願人は、金属酸化物と上にある高屈折率ガラスフリットの成分との反応により、焼成工程(d)の間に光散乱性の球状空隙が生じるものと考える。この反応の特異性は、未だ完全には解明されていない。O2ガスが反応生成物として発生しうることが考えられる。球状空隙の大部分は、欧州特許第2178343号明細書に記載されるように溶融固化工程の間にガラスフリット中に捕捉された気泡だけではなく、焼成工程の間に発生された気泡である。
【0020】
実際に、出願人は、球状空隙の密度はガラスフリット層でむき出しのガラス基材を直接被覆した領域よりも金属酸化物層を被覆した領域でずっと高くなることを観察した。
【0021】
得られるエナメル層の下方半分において有意量の球状空隙を発生するために十分な反応性成分を提供するかぎり、金属酸化物層の厚さに特別の制限は存在しない。数ナノメートルのみの金属酸化物層が、所望の球状空隙の形成の誘因となり得ることが分かっている。
【0022】
金属酸化物層は、好ましくは厚さが5nmと80nmの間であり、より好ましくは10nmと40nmの間、さらにより好ましくは15nmと30nmの間である。
【0023】
本願の出願時において、出願人は、少なくとも3種の金属酸化物、すなわちTiO2、Al23、ZrO2が、ガラスフリットの界面付近に球状空隙を生じさせることになることを実験により明らかにした。当業者は、出願人の実験研究を完成しそして本発明の方法において使用するのに適切である追加の金属酸化物を見いだすために、本発明の精神から逸脱することなく、これらの金属酸化物をNb25、HfO2、Ta25、WO3、Ga23、In23及びSnO2などの異なる金属酸化物又はそれらの混合物で容易に置き換えることができる。
【0024】
したがって、金属酸化物は、TiO2、Al23、ZrO2、Nb25、HfO2、Ta25、WO3、Ga23、In23、SnO2及びそれらの混合物からなる群より選ぶのが好ましい。
【0025】
パターン化又は非パターン化金属酸化物薄層を支持するガラス基材の面は、その後高屈折率ガラスフリットにより被覆される。
【0026】
前記ガラスフリットの屈折率は、好ましくは1.70と2.20の間に含まれ、より好ましくは1.80と2.10の間に含まれる。
【0027】
高屈折率ガラスフリットは、Bi23を少なくとも30重量%、好ましくは少なくとも50重量%、そしてより好ましくは少なくとも60重量%含むのが有利である。
【0028】
ガラスフリットは、450℃と570℃の間に含まれる融点(リトルトン点)を有するように選択されるべきであり、そして屈折率が1.8〜2.1であるエナメルをもたらすべきである。
【0029】
好ましいガラスフリットは下記の組成を有する。
Bi23: 55〜75wt%
BaO: 0〜20wt%
ZnO: 0〜20wt%
Al23: 1〜7wt%
SiO2: 5〜15wt%
23: 5〜20wt%
Na2O: 0.1〜1wt%
CeO2: 0〜0.1wt%
【0030】
典型的な実施形態では、ガラスフリット粒子(70〜80wt%)を20〜30wt%の有機ビヒクル(エチルセルロース及び有機溶媒)と混合する。得られたフリットペーストを、金属酸化物で被覆したガラス基材上にその後スクリーン印刷又はスロットダイコーティングにより適用する。得られた層を120〜200℃の温度で加熱して乾燥させる。有機バインダー(エチルセルロース)を350〜440℃の温度で焼失させ、そして最終的なエナメルをもたらす焼成工程、すなわち高屈折率ガラスフリットの溶融を、530℃と620℃の間、好ましくは540℃と600℃の間の温度で行う。
【0031】
得られたエナメルは、10μm×10μmの面積でAFMにより測定したときに、3nm未満の算術平均偏差Ra(ISO 4287)の表面粗さを有することが示されている。
【0032】
金属酸化物層を被覆する高屈折率ガラスフリットの量は、一般に20g/m2と200g/m2の間、好ましくは25g/m2と150g/m2の間、より好ましくは30g/m2と100g/m2の間、そして最も好ましくは35g/m2と70g/m2の間に含まれる。
【0033】
焼成工程(d)において、ガラスフリットをガラスフリットのリトルトン温度を超える温度に加熱して、その結果としてガラスフリットを溶融させ、ガラスフリットの成分を下にある金属酸化物の成分と反応させ、そしてこの反応ゾーンにおいて球状空隙を生じさせる。最終の固化したエナメルコーティングにおいて、当初の金属酸化物層をガラスフリット層と明確に区別するのは一般に不可能である。最も恐らくは、金属酸化物層はガラスフリットにより消化され、局所的に若干異なる組成を有するガラスフリットを生じさせる。それゆえ、これらの2つの層の各々の厚さを特定するのは不可能である。埋め込まれた複数の球状空隙(散乱要素)を含む固化したエナメル層(以下「高屈折率エナメル層」)の全体の厚さは、好ましくは3μmと25μmの間、より好ましくは4μmと20μmの間、そして最も好ましくは5μmと15μmの間に含まれる。
【0034】
本発明の最も驚くべきことの1つは、ガラスフリット層の底部(金属酸化物層との反応ゾーン)で焼成工程の間に形成される気泡は溶融ガラス相中でその表面に向かって上昇せずに、得られるエナメルと下にあるガラス基材との界面にだいぶ近いところに保持されるように見えることが観察されることである。散乱要素のこの「押さえこみ」が、固化した開放気泡によるクレータ状の凹部のない、固化した高屈折率エナメルの優れた表面品質をもたらす。
【0035】
しかしながら、高屈折率エナメル層の底部付近に球状空隙を効率的に保持してそれらが表面に上昇するのを防止するために、工程(d)の焼成温度は過度に高くすべきでなく、焼成工程の時間は過度に長くすべきでない。
【0036】
焼成工程(d)の時間は、好ましくは3分と30分の間、より好ましくは5分と20分の間に含まれる。
【0037】
本発明において使用する高屈折率ガラスフリット及びそれから得られるエナメルは、好ましくは結晶性SiO2又はTiO2粒子などの固体の散乱性粒子を実質的に含むべきでないことは言うまでもない。このような粒子は、内部取り出し層における散乱要素として一般に使用されるが、追加の平坦化層を必要とし、それにより取り出し層の総厚さを望ましくなく増加させる。
【0038】
すでに上で説明したとおり、焼成工程の間に形成される球状空隙は、高屈折率エナメル層の厚さ全体にランダムに分布しているのではなく、大部分は「下方」半分に、すなわち該エナメル層と下にあるガラス基材との界面付近に位置する。エナメル層に完全に埋め込まれるためには、球状空隙はもちろんエナメル層の厚さよりも有意に小さくなければならない。球状空隙の少なくとも95%、好ましくは少なくとも99%、そしてより好ましくは本質的にすべては、直径がエナメル層の半分の厚さよりも小さく、そして下にあるガラス基材との界面付近で、高屈折率エナメル層の下方半分に位置している。「高屈折率エナメル層の下方半分に位置している」という表現は、空隙の容積の少なくとも80%がエナメル層の中央平面より下方に位置していることを意味する。
【0039】
球状空隙は、好ましくは平均相当球径が0.2μmと8μmの間であり、より好ましくは0.4μmと4μmの間、そして最も好ましくは0.5μmと3μmの間である。
【0040】
球状空隙は、金属酸化物層により事前に被覆されたガラス基材の表面に対応する領域全体にわたってランダムに分布している。蛍光もしくはりん光性色素を含む有機層のスタックから放出される光を効率的に散乱させるために、球状空隙の密度は、好ましくは104/mm2と25×106/mm2の間、より好ましくは105/mm2と5×106/mm2の間に含まれる。
【0041】
基材の全般平面に垂直な方向から見たときに(投影図)、球状空隙は金属酸化物により事前に覆われた基材の表面の好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも25%を占め、そして最大で80%、より好ましくは最大で70%を占める。
【0042】
本発明による積層基材の断面を示す図2に見ることができるように、ほぼすべての球状空隙は下にあるガラス基材と接触しており、それにより該ガラス基材と接触している個別の空隙の単層を形成している。該空隙は、互いに非常に接近していてもよく、又はさらには互いに接触していてもよいが、互いに接続はしていない。こうして、本発明の積層基材の周囲から入り込んでくる流体の、例えば液体又は気体形態の水又は他の溶媒などの浸透が、効果的に阻止される。したがって、本発明の積層基材から製造されたOLEDは、韓国特許出願第10−2013−0084314号明細書に記載の積層基材から製造されたものよりも水又は溶媒に対してずっと敏感でない。
【0043】
本発明の積層基材は、底面発光型OLEDの製造のための半透明基材として使用することを意図するものである。底面発光型OLEDは、一般にアノードである半透明電極と、一般にカソードである光反射性電極とを支持する半透明基材を含む。発光性有機層のスタックから放出された光は半透明のアノード及び基材を介して直接放出されるか、又は最初にカソードにより半透明のアノード及び基材に向けて反射され、そしてそれらを通して放出される。
【0044】
それゆえ、発光性有機層スタックを積層する前に、透明導電性層(電極層)で内部取り出し層の上を被覆しなければならない。その結果として、好ましい実施形態では、本発明の積層基材は高屈折率エナメル層の上に透明導電性層をさらに含み、この導電性層は好ましくはエナメル層と直接接触するか、又は中間層を、例えばバリア層又は保護層を、被覆する。
【0045】
それゆえ、好ましい実施形態において、本発明の方法は、高屈折率エナメル層の上を透明導電性層(TCL)で被覆する追加の工程をさらに含む。この層は好ましくは、透明導電性酸化物、例えばITO(酸化スズインジウム)などである。このようなTCLの形成は、マグネトロンスパッタリングなどの当業者によく知られた通常の方法により行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】本発明の積層基材の作製方法を示すフローチャートである。
図2】本発明による積層基材の断面図を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図3】本発明による例1、2及び3の各々についての投影図(左)及び断面図(右)である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
図1において、透明な平板ガラス基材1を最初に工程(a)で用意する。工程(b)において、その後この基材の1つの面をマグネトロンスパッタリングにより金属酸化物層2で被覆する。次の工程(工程(c))において、高屈折率ガラスフリットの層3を、例えばガラスフリットと有機メジウム(ポリマー及び有機溶媒)を含むペーストをスクリーン印刷することにより、適用する。
【0048】
その後、金属酸化物層2及びガラスペースト層3を支持している得られた基材を工程(d)で段階的に加熱して、最初に有機溶媒を蒸発させ、次いで有機ポリマーを焼失させ、そして最終的にガラスフリット粉末を溶融させて高屈折率エナメル層4を得る。この最終の加熱工程の間に、金属酸化物とガラスフリットとの反応からガラスフリット層の底部に球状空隙5が生じる。球状空隙は高屈折率エナメル4の界面にくっつき、エナメル層の表面にまで上昇しない。その後、工程(e)において、高屈折率エナメル4の滑らかな表面を透明導電性層6で被覆する。
【0049】
図2のSEM写真で、ダークグレイのガラス基材は高屈折率エナメルのより淡いグレイの層により覆われている。球状空隙の単層がそれに完全に埋め込まれており、そしてガラス基材とその上のエナメルとの界面と接触して位置している。図示した積層基材は、透明導電性層をまだ含んでいない。高屈折率エナメル層の表面が完全に滑らかであり、そしてクレータ状の表面のむらのないことを見ることができる。
【実施例】
【0050】
0.7mmのソーダ石灰ガラスシートに、TiO2前駆体の溶液をスピンコートした。その後、この被覆したガラスシートを溶媒の蒸発のために150℃の温度に10分間さらし、次いでTiO2層の緻密化を行うために400℃の温度に約1時間さらした。
【0051】
得られたTiO2で被覆したガラスシートに、75wt%の高屈折率ガラスフリット(Bi23−B23−ZnO−SiO2)及び25wt%の有機メジウム(エチルセルロース及び有機溶媒)を含むペーストをスクリーン印刷し、そして乾燥工程(150℃で10分)に付した。
【0052】
その後、基材を約10分間570℃で焼成して、複数の球状空隙を含む高屈折率エナメル層(12μm)を得た。
【0053】
球状空隙の平均寸法と被覆率(球状空隙により占められたTiO2被覆表面の面積)を、TiO2層の厚さを増加させた3つの異なるサンプルでの画像分析により測定した。
【0054】
下記の表は、TiO2の量を増加させて得られた基材の球状空隙の平均寸法、被覆率及び曇り度率を、ソーダ石灰ガラスを高屈折率ガラスフリットで直接被覆することにより製作した否定的対照品と比較して示している。
【0055】
【表1】
【0056】
否定的対照品の高屈折率エナメル層は、エナメル層の底部に位置する球状空隙を含んでいなかった。
【0057】
金属酸化物の量を増加させると、ガラス/エナメル界面に形成される球状空隙の平均寸法、空隙により占められる面積、及び得られたIEL層の曇り度率が増加することになった。
【0058】
これらの実験データは、エナメル層の底部の球状空隙が金属酸化物層と上にある高屈折率ガラスフリットとの相互作用により生じることを明確に示している。
【0059】
図3は、本発明による上記の例1、2及び3の各々について投影図(左)及び断面図(右)を示している。
本発明の代表的な態様としては、以下を挙げることができる:
《態様1》
少なくとも下記の工程を含む、発光デバイスのための積層基材の作製方法:
(a)550nmでの屈折率が1.45と1.65の間であるガラス基材(1)を用意する工程、
(b)前記ガラス基材の1つの面を金属酸化物層(2)で被覆する工程、
(c)前記金属酸化物層(2)を、550nmでの屈折率が少なくとも1.7でありBiを少なくとも30重量%含むガラスフリット(3)で被覆する工程、
(d)得られた被覆したガラス基材を530℃と620℃の間に含まれる温度で焼成して、金属酸化物を、溶融しているガラスフリットと反応させ、そしてガラス基材との界面付近のエナメル層の下方部分に埋め込まれた複数の球状空隙(5)を含む高屈折率エナメル層(4)を形成する工程。
《態様2》
前記金属酸化物層の厚さが5nmと80nmの間であり、好ましくは10nmと40nmの間、より好ましくは15nmと30nmの間である、態様1記載の方法。
《態様3》
前記金属酸化物を、TiO、Al、ZrO、Nb、HfO、Ta、WO、Ga、In及びSnO、並びにそれらの混合物からなる群より選ぶ、態様1又は2記載の方法。
《態様4》
前記ガラスフリットの屈折率が1.70と2.20の間、好ましくは1.80と2.10の間に含まれる、態様1〜3のいずれか1つに記載の方法。
《態様5》
前記ガラスフリットが少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも60重量%のBiを含む、態様1〜4のいずれか1つに記載の方法。
《態様6》
前記高屈折率ガラスフリットの溶融を540℃と600℃の間に含まれる温度で行う、態様1〜5のいずれか1つに記載の方法。
《態様7》
(e)前記高屈折率エナメル層(4)を透明導電性層(TCL)で被覆すること,
をさらに含む、態様1〜6のいずれか1つに記載の方法。
《態様8》
態様1〜7のいずれか1つに記載の方法により得ることができる積層基材であり、
(i)屈折率が1.45と1.65の間であるガラス基材(1)、
(ii)少なくとも30重量%のBiを含み、550nmでの屈折率が少なくとも1.7である、高屈折率ガラスエナメル層(4)、
を含む積層基材であって、
高屈折率エナメル層と下にあるガラス基材との界面付近において該エナメル層中に複数の球状空隙(5)が埋め込まれており、球状空隙の少なくとも95%、好ましくは少なくとも99%、より好ましくは本質的にすべてが、該エナメル層の厚さの半分よりも有意に小さい直径を有し、且つ下にあるガラス基材(1)との界面(7)の付近において該高屈折率エナメル層の下方半分に位置していることを特徴とする積層基材。
《態様9》
前記球状空隙の平均相当球径が0.2μmと8μmの間であり、好ましくは0.4μmと4μmの間、より好ましくは0.5μmと3μmの間である、態様8記載の積層基材。
《態様10》
前記高屈折率エナメル層の厚さが3μmと25μmの間に含まれ、好ましくは4μmと20μmの間、より好ましくは5μmと15μmの間に含まれる、態様8又は9記載の積層基材。
《態様11》
前記球状空隙が下にあるガラス基材と接触している、態様8〜10のいずれか1つに記載の積層基材。
《態様12》
前記球状空隙が下にあるガラス基材(1)と接触している個別の空隙の単層を形成している、態様8〜11のいずれか1つに記載の積層基材。
《態様13》
(iii)前記高屈折率エナメル層(4)上の透明導電性層(6)、をさらに含む、態様8〜12のいずれか1つに記載の積層基材。
図1
図2
図3