(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6568265
(24)【登録日】2019年8月9日
(45)【発行日】2019年8月28日
(54)【発明の名称】量子ドット製造装置及び量子ドットの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 29/06 20060101AFI20190819BHJP
B01J 19/00 20060101ALI20190819BHJP
B01J 19/18 20060101ALI20190819BHJP
C01B 19/04 20060101ALI20190819BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20190819BHJP
H01L 33/50 20100101ALI20190819BHJP
C09K 11/88 20060101ALI20190819BHJP
C09K 11/08 20060101ALI20190819BHJP
C09K 11/56 20060101ALI20190819BHJP
【FI】
H01L29/06 601D
B01J19/00 N
B01J19/18
C01B19/04 C
B82Y40/00
H01L33/50
C09K11/88
C09K11/08 G
C09K11/56
C09K11/08 A
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-91083(P2018-91083)
(22)【出願日】2018年5月10日
【審査請求日】2018年5月10日
(31)【優先権主張番号】10-2018-0050702
(32)【優先日】2018年5月2日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】516292742
【氏名又は名称】ラミナー・カンパニー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100166545
【弁理士】
【氏名又は名称】折坂 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ホン、ジョン パル
(72)【発明者】
【氏名】チョイ、キョン ライ
(72)【発明者】
【氏名】ジュン、ミョン グン
【審査官】
杉山 芳弘
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2011/034165(WO,A1)
【文献】
国際公開第2013/079423(WO,A1)
【文献】
中国特許出願公開第105670633(CN,A)
【文献】
特表2015−533632(JP,A)
【文献】
特表2016−521912(JP,A)
【文献】
特表2002−519174(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 19/18
H01L 29/06
B01J 19/00
C01B 19/04
H01L 33/50
C09K 11/08
C09K 11/56
C09K 11/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアを形成するための第1クエット・テイラー反応器、前記第1クエット・テイラー反応器に連結されてコアを形成するコア前駆体を供給するコア前駆体供給源、シェルを形成するための第2クエット・テイラー反応器及び前記第2クエット・テイラー反応器に連結されてシェル前駆体を供給するシェル前駆体供給源を含み、ここで、第1クエット・テイラー反応器から生成されたコアを第2クエット・テイラー反応器へ供給されるように前記第1クエット・テイラー反応器と第2クエット・テイラー反応器が互いに連結され、前記第1クエット・テイラー反応器と第2クエット・テイラー反応器が反応器内部の温度を一定に保持させるための温度調節手段をさらに含むことを特徴とする量子ドット製造装置。
【請求項2】
前記温度調節手段が電気式加熱ジャケットであることを特徴とする請求項1に記載の量子ドット製造装置。
【請求項3】
(1)コアを形成するためのコア前駆体を第1クエット・テイラー反応器へ供給し、テイラー渦流の中で熱処理してコアを合成するコア合成段階と、
(2)合成されたコアをシェル前駆体と共に第2クエット・テイラー反応器へ供給し、テイラー渦流の中で熱処理してコア上にシェルを合成するシェル合成段階とを含み、
ここで、前記熱処理がコア形成温度またはシェル形成温度もしくはコア形成温度とシェル形成温度の両方を基準として±4℃の範囲内の温度差以内で行われることを特徴とする量子ドットの製造方法。
【請求項4】
前記熱処理がコア形成温度またはシェル形成温度もしくはコア形成温度とシェル形成温度の両方を基準として±2℃の範囲内の温度差以内で行われることを特徴とする請求項3に記載の量子ドットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子ドット製造装置及び量子ドットの製造方法に関し、特に、テイラー渦流を利用して均質な発光特性を有する量子ドットを連続的に製造することができる量子ドット製造装置及び量子ドットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
量子ドット(quantum dot)とは、ナノメートルサイズの金属または半導体結晶を指す言葉であって、通常、数百〜数千個程度の原子で構成されている。1980年代初め、コロンビア大学のルイス・ブラス(Louis Brus)教授チームがコロイド状態の量子ドットを発見し、1993年マサチューセッツ工科大学のモウンジ・バウェンディ(Moungi Bawendi)教授チームが効率的な湿式合成法を開発して以来、カドミウム(Cd)、インジウム(In)、鉛(Pb)など多様な材料を利用した量子ドットに対する研究が行われている。一般的に量子ドットは、単一原子とバルク材料との間の中間的物性を示しており、特に、小さい空間に拘束された電子の量子制限効果(quantum confinement effect)によりバンドギャップ(band‐gap)が大きさに反比例する特徴を示す。このような特徴を利用すれば、化学組成の変化なしでエネルギー構造を調節することができるため、太陽電池、発光素子、光触媒、トランジスタ、センサ、バイオイメージングなど多様な分野において応用可能である。
【0003】
また、化学的に合成された無機物であるため、有機物を基盤としたOLED(Organic Light Emitting Diode、有機発光ダイオード)よりも安価で長寿命であり、色再現性が高いというメリットがある。したがって、このような量子ドットを利用してソーラーセル(太陽電池)、発光ダイオードのような光電変換素子を製造する技術に対する研究が活発に行われている。
【0004】
前記量子ドットを産業的に大量生産するには様々な困難がある。例えば、量子ドットの特性に大きな影響を及ぼす要素の一つは、量子ドットの直径であって、現在、量子ドットの主な製造方法として知られている溶液反応法による場合、大量生産において、量子ドットの直径を均一に制御することが難しい。
【0005】
量子ドットを製造する公知の従来方法としては、いわゆる「高熱注入法(hot injection method)」と知られた方法がある。高熱注入法は、原料前駆体の溶液を高温で加熱し、界面活性剤などの溶液に注入して量子ドットを合成する方法であって、主に少量の量子ドットの製造方法として確立されたが、大量生産には適用することが難しく、大量生産へスケールアップ(scale up)する場合、反応溶液内部の温度勾配により半値幅が大きくなり、光発光(PL:Photo Luminescence)グラフの対称性がなくなるという問題点がある。
【0006】
韓国登録特許である登録番号第10‐1084226号(発明の名称:多重クエット・テイラー渦流反応装置)には、「回転する円筒の内部及び外部に流体の流れを、通路を介して円筒の内部及び外部でクエット・テイラー渦流を同時に多重発生させることによって、空間をより効率的に利用することができ、混合、抽出、沈殿(結晶化)、分離、培養、化学及び生化学反応時の効率を向上させることができる多重クエット・テイラー渦流反応装置を開示する。本発明は、一方の端部分に排出口を有する外部固定円筒と、前記外部固定円筒との間に一定の間隔を保持するように外部固定円筒の内部に設置され、前記外部固定円筒の排出口側の一端は閉鎖壁により閉鎖され、他端は外部固定円筒との間に通路を形成して駆動モータにより回転する回転円筒と、前記回転円筒との間に一定の間隔を保持するように回転円筒の内部に設置され、前記回転円筒の閉鎖壁側の一端には閉鎖壁に近接させた流入口を有し、他端は外部固定円筒に固定された内部固定円筒とで構成される。」と記述されている。
【0007】
韓国登録特許である登録番号第10‐1275845号(発明の名称:クエット・テイラー渦流を利用したリチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造装置)には、「混合金属塩から共沈法を利用してリチウム二次電池用正極活物質の前駆体を製造するための装置であって、混合金属塩溶液とアルカリ溶液を含む反応原料が投入されて攪拌されることにより、共沈反応によって前駆体粒子を含む反応生成物が生成されるクエット・テイラー反応器と、前記クエット・テイラー反応器からスラリー供給管を通じて連結された分離槽と、前記スラリー供給管を通じて前記分離槽に供給された前駆体粒子を含むスラリーの凝集された粒子を分散させるための分散装置を備え、分離槽内で前記分散装置によって分散された前駆体粒子と微細粒子が互いに分離される粒子分離部と、前記クエット・テイラー反応器から排出された廃溶液排出管を通じて連結されて、前記廃溶液排出管を通じてクエット・テイラー反応器から排出された廃溶液を冷却してアルカリ金属塩を沈殿、除去した後、排出する沈殿部とを含むことを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造装置を提供する。」と記述されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、テイラー渦流を利用して均質な発光特性を有する量子ドットを連続的に製造することができる量子ドット製造装置及び量子ドットの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る量子ドット製造装置は、コアを形成するための第1クエット・テイラー反応器、前記第1クエット・テイラー反応器に連結されてコアを形成するコア前駆体を供給するコア前駆体供給源、シェルを形成するための第2クエット・テイラー反応器及び前記第2クエット・テイラー反応器に連結されてシェル前駆体を供給するシェル前駆体供給源を含み、ここで、第1クエット・テイラー反応器から生成されたコアを第2クエット・テイラー反応器へ供給されるように前記第1クエット・テイラー反応器と第2クエット・テイラー反応器が互いに連結され、前記第1クエット・テイラー反応器と第2クエット・テイラー反応器が反応器内部の温度を一定に保持させるための温度調節手段をさらに含む。
【0010】
前記温度調節手段は、クエット・テイラー反応器の外部を囲みながら反応器に熱を供給する加熱ジャケットであり得る。
【0011】
本発明に係る量子ドットの製造方法は、(1)コアを形成するためのコア前駆体を第1クエット・テイラー反応器へ供給し、テイラー渦流の中で熱処理してコアを合成するコア合成段階と、(2)合成されたコアをシェル前駆体と共に第2クエット・テイラー反応器へ供給し、テイラー渦流の中で熱処理してコア上にシェルを合成するシェル合成段階とを含み、ここで、前記熱処理がコア形成温度またはシェル形成温度もしくはコア形成温度とシェル形成温度の両方を基準として±4℃の範囲内の温度差以内で行われる。
【0012】
前記熱処理は、コア形成温度またはシェル形成温度もしくはコア形成温度とシェル形成温度の両方を基準として±2℃の範囲内の温度差以内で行われることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、テイラー渦流を利用して均質な発光特性を有する量子ドットを連続的に製造することができる量子ドット製造装置及び量子ドットの製造方法を提供する効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る量子ドット製造装置の構成を模式的に示した図である。
【
図2】
図1の量子ドット製造装置を構成するクエット・テイラー反応器の構成を模式的に示した図である。
【
図3】本発明の実施例1により製造される量子ドットの光発光スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図4】本発明の実施例2により製造される量子ドットの光発光スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図5】比較例1により製造される量子ドットの光発光スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図6】比較例2により製造される量子ドットの光発光スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図7】実施例3により製造される量子ドットの光発光スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図8】実施例3により製造される量子ドットの光発光スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図9】実施例3により製造される量子ドットの光発光スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図10】実施例4により製造される量子ドットの光発光スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図11】実施例4により製造される量子ドットの光発光スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図12】実施例4により製造される量子ドットの光発光スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の具体的な実施例を添付した図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
本発明に係る量子ドット製造装置は、
図1に示したように、コアを形成するための第1クエット・テイラー反応器11、前記第1クエット・テイラー反応器11に連結されてコアを形成するコア前駆体を供給するコア前駆体供給源12、14、シェルを形成するための第2クエット・テイラー反応器21及び前記第2クエット・テイラー反応器21に連結されてシェル前駆体を供給するシェル前駆体供給源22を含み、ここで、第1クエット・テイラー反応器11から生成されたコアを第2クエット・テイラー反応器21へ供給されるように前記第1クエット・テイラー反応器11と第2クエット・テイラー反応器21が互いに連結され、前記第1クエット・テイラー反応器11と第2クエット・テイラー反応器21が反応器内部の温度を一定に保持させるための温度調節手段をさらに含むことを特徴とする。
【0017】
すなわち、本発明は、コア及び/またはシェルをテイラー渦流の中で合成することにおいて、コアとシェルをそれぞれ別のクエット・テイラー反応器を用いて合成することにより、コア及び/またはシェルの形成時、温度調節をより精密にすることを可能とすることにより、量子ドットの大量生産を可能とすると同時に、収得される量子ドットの発光特性、すなわち、半値幅(FWHM:Full Width at Half Maximum)を改善することができる(すなわち、反応溶液内部の温度勾配により半値幅が大きくなり、光発光(PL)グラフの対称性がなくなるという問題を解決することができる)。
【0018】
前記コアを形成するための第1クエット・テイラー反応器11及びシェルを形成するための第2クエット・テイラー反応器21を含めて、本発明において使用可能なクエット・テイラー反応器の基本的な構成を
図2に模式的に示した。すなわち、クエット・テイラー反応器は、テイラー渦流(Tayler Vortex)の流れを形成する反応器であって、基本的に中心軸が同じ長手方向に拡張されたシリンダ31と回転体32、前駆体引き込み口33、生成物排出口34及び前記シリンダ31内に回転可能に固定された回転体32を回転させるための駆動部35を含むシステムで構成されることができる。前記シリンダ31は一水平方向に延長される円筒形状を有する。前記シリンダ31内には前記回転体32が回転可能に固定される。前記回転体32は前記シリンダ31と同じ方向に延長される円筒形状を有することができる。前記シリンダ31の内壁と前記回転体32との間の空間は、量子ドットを形成するコア前駆体がコアとして、そしてシェル前駆体がシェルとして合成される反応空間として定義されることができる。前記反応空間には、流体(反応溶液)が満たされる。前記シリンダ31は、固定された部材であり、前記回転体32は前記シリンダ31内で、水平軸を中心に回転する。この場合、発生した遠心力により前記回転体32に隣接した流体は、前記シリンダ31の方向に進もうとする傾向が生じ、これによって、前記回転体32の回転軸方向に沿って規則的で、かつ互い反対方向に回転しようとするリング対配列の渦流(テイラー渦流)が形成されることができる。このようなテイラー渦流は前記回転体32の回転速度が臨界値以上であると、現れることができる。前記回転体32の回転のために、前記回転体32は、前記シリンダ31の外部に配置された駆動部35に連結されることができる。前記駆動部35は電動モータと減速ギア組立体からなることができる。
【0019】
前記第1クエット・テイラー反応器11と第2クエット・テイラー反応器21を含めてクエット・テイラー反応器内部の温度を一定に保持させるための温度調節手段はクエット・テイラー反応器の外部、すなわち前記シリンダ31の外部を囲みながらシリンダ31に熱を供給する加熱ジャケット36であり得る。加熱ジャケット36は、好ましくはジュール熱を利用する電気式加熱ジャケットであり得る。
【0020】
前記コア前駆体供給源12、14は、前記第1クエット・テイラー反応器11に連結されてコアを形成するコア前駆体を供給する。前記コア前駆体供給源12、14は形成されるコアによって少なくとも一つまたは2つ以上の複数であり得ると共に、前記コア前駆体供給源12、14が2つ以上の複数である場合、前記第1クエット・テイラー反応器11の前駆体引き込み口もそれに対応して複数となり得る。しかし、前記第1クエット・テイラー反応器11の生成物排出口は通常一つであり得る。前記コア前駆体供給源12、14から前記第1クエット・テイラー反応器11内へ導入されるコア前駆体は、第1クエット・テイラー反応器11内でコアとして合成される。
【0021】
同様に、前記シェル前駆体供給源22は、前記第2クエット・テイラー反応器21に連結されてシェルを形成するシェル前駆体を供給する。前記シェル前駆体供給源22は、形成されるシェルによって少なくとも一つまたは2つ以上の複数であり得ると共に、前記シェル前駆体供給源22が2つ以上の複数である場合、前記第2クエット・テイラー反応器21の前駆体引き込み口もそれに対応して複数となり得る。しかし、前記第2クエット・テイラー反応器21の生成物排出口は通常一つであり得る。
【0022】
前記第1クエット・テイラー反応器11から生成されたコアは、第1クエット・テイラー反応器11の生成物排出口を通じて排出されると同時に、直接的に前記第2クエット・テイラー反応器21へ供給されるように前記第1クエット・テイラー反応器11と第2クエット・テイラー反応器21が互いに連結される。したがって、第2クエット・テイラー反応器21へは、第1クエット・テイラー反応器11の生成物排出口を通じて排出されるコアと共にシェル前駆体供給源22からのシェル前駆体が供給されて第2クエット・テイラー反応器21内でコア上にシェルが合成され、それによってコア上にシェルが形成された二重層構造を有する量子ドットが収得される。
【0023】
図1において、コア前駆体供給源12、14は、それぞれポンプ13、15によって加圧されて第1クエット・テイラー反応器11に供給されることができる。前記ポンプは、好ましくは液体定量ポンプであり得る。
【0024】
同様に、シェル前駆体供給源22は、ポンプ23によって加圧されて第2クエット・テイラー反応器21に供給されることができる。
【0025】
また、本発明に係る量子ドット製造装置は、発光特性(すなわち、半値幅及び光発光グラフの対称性)を測定するための測定手段をさらに含むことができ、例えば、
図1に示したように、第1クエット・テイラー反応器11に第1検出器16が、そして第2クエット・テイラー反応器21に第2検出器25が連結されることができる。検出器による発光特性の測定を通じて、本発明に係る量子ドット製造装置による量子ドットの連続合成時、持続的に品質管理(QC:Quality Control)を行うことが可能であり、このような検出器による発光特性の中間結果物の測定が困難であれば、損傷した物質が合成されて生産コストが上昇するという問題点が発生する。容易に測定可能な物性は半値幅と波長であって、光発光測定装備にフローセル(flow cell)を装着して反応器の吐出部に連結した。
【0026】
図1において、識別番号24は、本発明に係る量子ドット製造装置から収得される量子ドットを回収する回収容器である。また、
図1において、識別番号M1及びM2はそれぞれ温度センサを示す。
【0027】
本発明に係る量子ドット製造装置においてクエット・テイラー反応器は、特に好ましくは使用温度を300℃まで使用可能とした。既存の反応器がスケールアップに失敗する理由は、反応器内の反応溶液の温度偏差が発生して不均一な合成が発生する。したがって、本装置を開発することにおいて、温度を高めることのできる装置も重要であるが、温度の偏差を±4℃、より好ましくは±2℃以内に調節することが必要である。本反応器は、温度を高めるために加熱ジャケットを用いて最大350℃まで昇温可能とし、保温材を製作して熱損失が発生することを最小化した。合成する瞬間の温度が重要であるため、注入部分から合成が仕上がる部分まで加熱ジャケットで囲まれるように設計した。量子ドットを合成する物質は酸素に接触すると、火災が発生したり、合成されない可能性があるため、窒素またはアルゴンを注入可能とした。反応器の材質は、ステンレス鋼(鋼種:SUS316L)とし、攪拌速度による結果を確認するために100〜1500rpmまで変化可能とした。
【0028】
本発明に係る量子ドットの製造方法は、(1)コアを形成するためのコア前駆体を第1クエット・テイラー反応器に供給し、テイラー渦流の中で熱処理してコアを合成するコア合成段階と、(2)合成されたコアをシェル前駆体と共に第2クエット・テイラー反応器に供給し、テイラー渦流の中で熱処理してコア上にシェルを合成するシェル合成段階とを含み、ここで、前記熱処理がコア形成温度またはシェル形成温度もしくはコア形成温度とシェル形成温度の両方を基準として±4℃の範囲内の温度差以内で行われる。
【0029】
前記(1)のコア合成段階は、コアを形成するためのコア前駆体を第1クエット・テイラー反応器へ供給し、テイラー渦流の中で熱処理してコアを合成することからなる。
【0030】
前記(2)のシェル合成段階は、合成されたコアをシェル前駆体と共に第2クエット・テイラー反応器へ供給し、テイラー渦流の中で熱処理してコア上にシェルを合成することからなる。
【0031】
特に、本発明によれば、前記(1)のコア合成段階及び/または(2)のシェル合成段階時、熱処理がコア形成温度またはシェル形成温度もしくはコア形成温度とシェル形成温度の両方を基準として±4℃の範囲内の温度差以内で行われることを特徴とし、このような精密な温度調節を可能とすることにより、収得される量子ドットの発光特性、すなわち量子ドットの大量生産を可能とすると同時に、収得される量子ドットの発光特性、すなわち半値幅を改善することができ、反応時、温度勾配により半値幅が大きくなり、光発光グラフの対称性がなくなるという問題点を解決することができる。
【0032】
前記熱処理は、好ましくはコア形成温度またはシェル形成温度もしくはコア形成温度とシェル形成温度の両方を基準として±2℃の範囲内の温度差以内で行われることができる。
【0033】
量子ドットの生産量は反応溶液の濃度と反応時間によって決定され、反応時間は注入される反応溶液の流量によって決定される。すなわち、反応溶液の濃度と流量が分かれば、量子ドットの生産量を下記の数式を利用して予想することができる。ここで、CdとSeは反応に全て参加すると仮定する。
【0035】
ここで、Cは反応溶液内のCdとSeの濃度(g/ml)、MCd、MwCd、MSe、MwSeはそれぞれCdのモル濃度、Cdの原子量(112.41g/mol)、Seのモル濃度、Seの原子量(78.96g/mol)である。Qは反応溶液の注入速度(ml/分)であり、Pは時間当たり合成された量子ドットの生産量(g/h)である。
【0036】
Cdの濃度が0.064mmol/ml、反応時間2分である場合、下記の計算式1のように計算される。
【0038】
反応時間が2分である時、濃度による生産量を計算して下記の表1に示した。
【0040】
以下で、本発明の好ましい実施例及び比較例が記述される。
【0041】
以下の実施例は、本発明を例証するためのものであって、本発明の範囲を制限させるものと理解されてはならない。
【0043】
本発明に係る量子ドット製造装置を利用して量子ドットを連続式で製造した。
【0044】
(1) 量子ドットを構成するコアの合成
【0045】
トリオクチルホスフィン(TOP:Trioctylphosphine)35ml、Se20mmolをマグネチックスターラを用いて全て溶解させ、Se前駆体を準備した。三口フラスコにCdO32〜160mmolとオレイン酸(OA)30〜150mlを入れた後、1−オクタデセン(ODE:Octadecene)を入れて500mlを合わせた。120℃で真空ポンプを利用して30分間真空を保持させた。以後、窒素雰囲気に置換してCdOが全て溶解されるまで加熱した。CdOが全て溶解された後、40℃に冷却してCd前駆体の溶液とSe前駆体の溶液をそれぞれ準備した。第1クエット・テイラー反応器に窒素を置換し、液体定量ポンプを利用してODEを注入し、酸素及び水分を除去した。反応器の温度を反応温度まで加熱しながら温度が安定することを確認した。温度が安定すると、ODE注入を中止し、準備したCd前駆体溶液とSe前駆体溶液をそれぞれ第1クエット・テイラー反応器に注入するが、準備したSe前駆体をCdとSeのモル比率が8:1となるように注入して反応を開始した。この時、一定の温度で注入するために、注入ラインを熱線を用いて40℃に保持させた。コア合成反応は、第1クエット・テイラー反応器内でテイラー渦流の中で275℃±4℃において1〜2分間行ってコアを合成し、合成されたCdSe溶液を遠心分離機を用いて洗浄した。洗浄した量子ドットはトルエンに分散させて発光特性分析を行った。
【0046】
(2) 量子ドットの合成(コア上にシェルを形成する段階)
【0047】
前記(1)で合成された量子ドットを構成するコアを窒素に置換された第2クエット・テイラー反応器内へ投入させ、反応器の温度は225℃に保持させた。80℃オーブンで溶解させたジエチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZnDDTC:Zinc diethyldithiocarbamate)10mmol+TOP30ml溶液をCd:Se:ZnDDTCが重量比で16:2:1の比率となるようにして第2クエット・テイラー反応器へ注入して30分間保持させた。以後、275℃±4℃まで加熱して30分間保持してシェルを合成した後、合成された量子ドットを第2クエット・テイラー反応器から排出させた後、遠心分離機を用いて洗浄した。洗浄した量子ドットはトルエンに分散させて発光特性分析を行い、実施例1によって収得された量子ドットの波長に対する光発光強度を
図3に示した。
図3に示されるように、量子ドットが良好に収得されたことが認められた。また、発光波長領域だけでなく、FWHMが一定であり、光発光スペクトルの強度も大きな変化なく保持することが認められた。
図3において各曲線は、サンプルの獲得時間別に光発光を測定した結果を示している。
【0049】
コアの合成段階における温度を275℃±2℃に、そしてシェルの合成段階における温度を275℃±2℃に保持することを除いては、前記実施例1と同様に行っており、実施例2によって収得された量子ドットの波長に対する光発光強度を
図4に示した。
図4に示されるように、量子ドットが良好に収得されたことが認められた。また、光発光スペクトルの強度及びFWHMと発光波長領域の変化なく保持されることが認められた。
図4において各曲線は、サンプルの獲得時間別に光発光を測定した結果を示している。
【0051】
コアの合成段階における温度を275℃±10℃に、そしてシェルの合成段階における温度を275℃±10℃に保持することを除いては、前記実施例1と同様に行っており、比較例1によって収得された量子ドットの波長に対する光発光強度を
図5に示した。
図5に示されるように、量子ドットが収得されたものの、時間の経過につれて発光波長領域は大きな変化が見えないが、FWHMは偏差を示し、光発光スペクトルにおいても強度が低下し続けることが認められた。
図5において各曲線は、サンプルの獲得時間別に光発光を測定した結果を示している。
【0052】
比較例2.バッチ式量子ドットの製造(高熱注入法)
【0053】
現在広く用いられている、量子ドットを合成する一般的な方法のうち高熱注入法で量子ドットを製造した。Seをトリオクチルホスフィン(TOP)溶液に溶解して準備した後、CdOを高温のオレイン酸(OA)、1−オクタデセン(ODE)に溶解させ、予め準備したSe+TOP溶液を注入してCdSeコアを合成した。以後、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZnDDTC)をTOPに溶解させた溶液を注入し、ZnSシェルをコア上に形成させて量子ドットを合成した。
【0054】
このような高熱注入法は、優れた特性を有した量子ドットを合成することができ、少量の量子ドットを合成するのに主に用いられる。比較例2で、少量の量子ドット合成は50ml反応器で量子ドット0.7gを生産することを基準として実験し、量子ドット合成のスケールアップ実験は1000ml反応器で量子ドット19.5gを生産することを基準として実験した。バッチとスケールアップにより製造された量子ドットの光発光スペクトルを測定して
図6に示した。
図6において、黒色線が少量の量子ドット合成であって、50ml反応器で量子ドット0.7gを生産することを基準として実験した結果であり、赤色線が量子ドット合成のスケールアップ実験であって、1000ml反応器で量子ドット19.5gを生産することを基準として実験した結果である。
図6に示されるように、量産のために大容量で合成する場合、反応溶液内部の温度勾配により半値幅が大きくなり、光発光グラフの対称性がなくなることが認められた。これは、合成された量子ドットのサイズが一定でないことを意味しており、量子ドットの量産工程に適していないことが認められた。
【0055】
実施例3.反応時間を異ならせる連続式量子ドットの製造
【0056】
量子ドットは高温で合成されて成長し、成長する時間が長くなるほど粒子サイズが大きくなって発光波長がさらに赤色偏移(red‐shift)され、FWHMが増加する傾向を示す。しかし、成長時間を短くするために、速い速度で注入すると、却って反応器内部の温度制御が難しくなって温度が一定せず、これは、均一な量子ドットの合成に影響を与えることになる。反応時間をコアの合成時間を1分、2分及び10分に異ならせながら合成(シェルの合成時間は10分で同一)することを除いては、実施例1に準じて合成し、波長変化を測定しており、その結果を
図7(1分)、
図8(2分)及び
図9(10分)に示した。
図7〜
図9に示されるように、一定の温度を保持可能な最も短い反応時間は2分であることが認められ、コアのFWHMが最も小さいことが確認できる。
【0057】
実施例4.攪拌速度を異ならせる連続式量子ドットの製造
【0058】
量子ドットの合成において、攪拌速度の及ぼす影響を調べるために攪拌速度を200〜400rpmに変化させることを除いては、実施例1に準じて合成し、その結果を
図10〜
図12に示した。
図10(200rpm)、
図11(300rpm)及び
図12(400rpm)に示されるように、400rpmで発光波長領域と半値幅の変化が激しいことが認められ、200rpmでは発光波長領域と半値幅が安定的に保持するが、時間の経過につれて非常に大きく変化することが認められた。一方、300rpmでは発光波長領域とFWHMの変化が最も少ないことが分かる。したがって、均一な量子ドットの合成に最も適した攪拌速度は300rpmであると言える。
【0059】
以上のように、本発明は、記載の具体例に対してのみ詳細に説明されたが、本発明の技術思想の範囲内で様々な変形及び修正が可能であることは、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者にとって自明なものであり、このような変形及び修正が添付された特許請求の範囲に属することは当然なものである。
【符号の説明】
【0060】
11:第1クエット・テイラー反応器
12、14:コア前駆体供給源
13、15:ポンプ
16:検出器
21:第1クエット・テイラー反応器
22:シェル前駆体供給源
23:ポンプ
24:回収容器
25:検出器
M1:第1温度センサ
M2:第2温度センサ
31:シリンダ
32:回転体
33:前駆体引き込み口
34:生成物排出口
35:駆動部
36:加熱ジャケット
【要約】 (修正有)
【課題】テイラー渦流を利用して均質な発光特性を有する量子ドットを連続的に製造する量子ドット製造装置及び量子ドットの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の量子ドット製造装置は、コアを形成するための第1クエット・テイラー反応器11、第1クエット・テイラー反応器に連結されてコアを形成するコア前駆体を供給するコア前駆体供給源12、14、シェルを形成するための第2クエット・テイラー反応器21及び第2クエット・テイラー反応器に連結されてシェル前駆体を供給するシェル前駆体供給源22を含む。第1クエット・テイラー反応器から生成されたコアを、第2クエット・テイラー反応器へ供給されるように、第1クエット・テイラー反応器と第2クエット・テイラー反応器が互いに連結される。第1クエット・テイラー反応器と第2クエット・テイラー反応器が反応器内部の温度を一定に保持させるための温度調節手段をさらに含む。
【選択図】
図1