特許第6568340号(P6568340)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6568340内面に不活性の気相コーティングを有する金属部品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6568340
(24)【登録日】2019年8月9日
(45)【発行日】2019年8月28日
(54)【発明の名称】内面に不活性の気相コーティングを有する金属部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/60 20060101AFI20190819BHJP
【FI】
   G01N30/60 Z
   G01N30/60 A
【請求項の数】9
【外国語出願】
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-115869(P2014-115869)
(22)【出願日】2014年6月4日
(65)【公開番号】特開2015-21965(P2015-21965A)
(43)【公開日】2015年2月2日
【審査請求日】2017年6月1日
(31)【優先権主張番号】13/946,942
(32)【優先日】2013年7月19日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】399117121
【氏名又は名称】アジレント・テクノロジーズ・インク
【氏名又は名称原語表記】AGILENT TECHNOLOGIES, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100087701
【弁理士】
【氏名又は名称】稲岡 耕作
(74)【代理人】
【識別番号】100101328
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 実夫
(74)【代理人】
【識別番号】100149766
【弁理士】
【氏名又は名称】京村 順二
(74)【代理人】
【識別番号】100110799
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 温道
(72)【発明者】
【氏名】エリザベス カー
(72)【発明者】
【氏名】ケヴィン ピー.キリーン
(72)【発明者】
【氏名】カレン エル.シーワード
【審査官】 高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−527432(JP,A)
【文献】 特表2008−511993(JP,A)
【文献】 特開昭57−161648(JP,A)
【文献】 特開2011−139033(JP,A)
【文献】 特表2009−503821(JP,A)
【文献】 特開2004−037266(JP,A)
【文献】 特表2007−507721(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0014567(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0118806(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N30/00−30/96
C23C16/44
C23C16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管腔、通路または空洞を有する金属製の物体の内面をコーティングするための方法であって、気相処理により、均一な厚みを有する連続した保護的なコーティングを形成することを含み、
(a)気相中に1つ以上の分子前駆体を供給するステップと、
(b)前記管腔、通路または空洞の内面を、前記気相中で、前記1つ以上の分子前駆体にさらすステップと、
(c)前記さらされた内面で、または、前記さらされた内面の付近で、前記1つ以上の分子前駆体を反応、分解、または、他の仕方で変化させ、次いで、その上に堆積させるステップと、
(d)不活性ガスを流して、それにより、反応しなかった1つ以上の分子前駆体を、および、存在するようであれば、反応の副産物を除去するステップと、
(e)所望の膜厚および/または組成に到達するために必要であれば、前記ステップ(a)〜(d)の1つ以上を選択的に繰り返すステップと、を含み、
前記保護的なコーティングは、Siベース、Tiベース、ZrベースまたはAlベースの無機化合物から選択された材料を含み、
前記Siベースの無機化合物は、SiC、Si3N4、SiOxCy(ここで2x+4y=4)、SiOmNn(ここで2m+3n=4)またはSiCxHy(ここで4x+y=4)である、方法。
【請求項2】
前記管腔、通路または空洞は、約10mm未満の少なくとも1つの寸法および約20mmよりも長い少なくとも1つの寸法により特徴付けられる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属製の部品は、
(A)約10mm未満の内径および約20mmよりも長い長さにより特徴付けられ、前記保護的なコーティングが約10nm〜約5μmの均一な厚みを有する、クロマトグラフィーカラム、または、(B)約1mmよりも小さい、少なくとも1つの内部寸法を有する微小流体素子もしくはその部品である、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記保護的なコーティングは、ZrO2、Al2O3およびそれらの混合物から選択された材料を含む、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記保護的なコーティングは、それぞれが異なる保護的な材料を含む2つ以上の層を含んでおり、または、当該金属製の部品は、ステンレス鋼、チタンまたはチタン合金で形成されている、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記気相処理は化学蒸着または原子層堆積を含む、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記保護的なコーティングは、Tiベースの材料を含む、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記保護的なコーティングは、Zrベースの材料を含む、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記保護的なコーティングは、Alベースの材料を含む、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は全体として、コーティングされた金属部品および関連する方法に関するものである。より詳しくは、本発明は、均一にコーティングされた内面を有する金属液体クロマトグラフィー部品、および、それを実現するための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフィー(LC)は、混合物の個々の成分を識別、定量化または精製する目的を有する、化合物の混合物を分離するために使用されるクロマトグラフ法である。この分離は、移動相および固定相との、試料の相互作用に基づいて起こる。混合物を分離する際に使用できる固定/移動相の組み合わせはたくさんある。最も一般的なクロマトグラフ法である液固カラムクロマトグラフィーは、固体の固定相を通って緩やかにろ過され、それとともに分離された成分をもたらす、液体の移動相を特徴としている。
【0003】
液体クロマトグラフィーでは、液体の輸送のために多くの金属部品を使用する。例として、ポンプ部品、オートサンプラ針および分離カラムが挙げられる。液体クロマトグラフィーにより分析される試料の多くは金属と相互作用しないが、試料の中には(特に、バイオ分析用で用いられるものには)、濾された金属イオンの影響を受けやすい、および/または、金属表面と相互作用しやすいものがあり、分析工程を妨げ、または、分離された成分中に不純物を生じる。
【0004】
従来の解決手段は、これらの用途のための流路用に、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などの不活性の材料を使用するというものである。高価であることに加えて、PEEKは、LC部品で必要とされる多くの形状および寸法に形成することが難しく、所望の形状のすべてで容易に利用できるわけではない。くわえて、PEEKは力学的に金属ほど強くなく、それゆえに、超高圧LC(UHPLC)に使用される圧力(通常、約400バール超)に耐えることができない。他の既存の手法は、金属製の外管内に、生体適合性のある重合体の内管を挿入すること、および、金属の管類を液相の有機層でコーティングすることを含んでいる。(下記特許文献1〜5。)別の手法は、金属またはプラスチックで形成されたジャケットに挿入されたガラス管を使用するものであるが、これは、LC部品に対する用途が制限されている。(下記特許文献6。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5,482,628号明細書
【特許文献2】米国特許第5,651,885号明細書
【特許文献3】米国特許第5,736,036号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2005/0255579号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2011/0259089号明細書
【特許文献6】米国特許第4,968,421号明細書
【特許文献7】米国特許第6,444,326号明細書
【特許文献8】米国特許第6,511,760号明細書
【特許文献9】米国特許第7,070,833号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の手法および既存の代替的な設計は、保護されている金属表面に付着しにくい、小さな管類の長い距離にわたって均一にコーティングすることができない、および、小さなチャネル(例えば5〜10μmの直径)をコーティングすることができないという欠点を示してきた。
【0007】
ゆえに、連続した均一にコーティングされた内面を有する金属液体クロマトグラフィー部品、および、これを実現するための効率的な方法の必要が満たされないままとなっている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は一部、非常に長い、狭い、および/または、絞られた内面を有する金属部品の、制御されていて均一なコーティングのための独特な方法に基づいている。
【0009】
本発明は、試料が金属イオンまたは表面と相互作用する、LC分析用の流路内における、金属部品の腐食または干渉の問題に効果的に取り組んでいる。
【0010】
本発明はまた、金属表面によく付着する不活性の連続したコーティングを有する非常に長い金属管および非常に小さい金属チャネルをコーティングする際の困難を緩和する。金属流路は、例えば、流路内ですべての金属表面を連続して覆うコーティングで内面をコーティングするための気相堆積を使用することによって、コーティングにより不活性とされ、それにより、バイオ分析分離に適合する。
【0011】
一局面では、本発明は全体として、実質的に均一な厚みを有する保護的なコーティングで連続して覆われた内面を有する管腔、通路または空洞を有する金属製の部品に関するものである。この保護的なコーティングは、気相中に1つ以上の分子前駆体を供給するステップと、管腔、通路または空洞の内面を、気相中で、1つ以上の分子前駆体にさらすステップと、さらされた内面で、または、さらされた内面の付近で、1つ以上の分子前駆体を反応、分解、濃縮、または、他の仕方で変化させ、次いで、その上に堆積させるステップと、不活性ガスで流し、または、真空を生じさせて、それにより、反応しなかった1つ以上の分子前駆体を、および、存在するようであれば、反応の副産物を除去するステップとを含む気相処理を介して形成されている。
【0012】
別の局面では、本発明は全体として、管腔、通路または空洞を有する金属製の物体の内面をコーティングするための方法に関するものである。本方法は、気相処理により、実質的に均一な厚みを有する連続した保護的なコーティングを形成するステップを含んでいる。
【0013】
さらに別の局面では、本発明は全体として、本明細書に開示された方法に係る保護的なコーティングでコーティングされた内面を有する金属製の物体に関するものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】2層コーティングした本発明の実施形態を示す模式図である。
図2】ステンレス鋼上のSiコーティングのX線光電子分光組成深さプロファイルの例示的なデータを示すグラフである。
図3】コーティングしていないステンレス鋼から濾されたイオンと比較した、a-Si、シロキサンおよびSi/シロキサン二重膜でコーティングされた2×3cmのステンレス鋼切り取り試片からの、溶液中へ濾されたイオンの比較についての例示的なデータを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
特に定義しない限り、本明細書中で使用される技術的および科学的な用語は、本発明が属する技術の当業者が通常理解するのと同じ意味を有する。
【0016】
本明細書で使用する場合、「コーティング」および「コーティングされた」という用語は、基本的な材料から分離され区別された、材料の層を指している。コーティングされた材料は、コーティング材料と基本的な材料(例えば支持材)との間の識別可能な境界(例えば、拡散した、または、突然の)を示す。
【0017】
本明細書で使用する場合、「実質的に均一な厚み」という用語は、最小の厚みよりも大きい全コーティング領域にわたる厚みを有する基板にわたるコーティングを指している。本明細書で使用する場合、最小の厚みは、約1nm、約5nm、約10nm、約50nm、約100nmまたはそれ以上の厚みを有するコーティングを指している。
【0018】
本明細書で使用する場合、「流体」という用語は、1mm未満の少なくとも1つの断面寸法を、(例えばフローチャネルを通って)流れることのできる液体を指している。この開示の目的として、「流体」という用語はガスを含まない。
【0019】
本明細書で使用する場合、「微小流体素子」という用語は、微小流体リアクタ、微小流体フローチャネルおよび/またはバルブを有する単独のユニットを指している。微小流体素子はまた、ポンプ、カラム、ミキサなどの他の微小流体部品を有していてもよい。
【0020】
本明細書で使用する場合、「化学蒸着」という用語は、薄い膜またはコーティングを生成するのに使用される化学的な処理を指している。通常の化学蒸着(CVD)処理において、基板は1つ以上の揮発性の前駆体にさらされ、前駆体は基板上または基板付近で反応、分解、濃縮、または、他の仕方で変化して、所望の堆積物を生成する。揮発性の副産物もしばしば生成されるが、それらは、ガス流または真空により、反応チャンバを通じて除去される。堆積することになる材料は、単結晶、多結晶、アモルファスおよびエピタキシャルを含むさまざまな形態を取ってよい。通常のCVD処理では、基板は高温まで加熱されるが、これは、前駆体が表面上で反応するのを可能にする際に重要となる可能性がある。しかし、特定のCVD処理では、堆積は室温で行われてもよい。例えば、特定の原子層堆積(ALD)処理は環境温度で行われてもよい。
【0021】
CVD技術は、大気圧での大気圧CVD(APCVD)−CVD処理、大気圧未満の圧力(sub-atmospheric pressure)での低圧CVD(LPCVD)−CVD処理(低減された圧力は、望ましくない気相反応を低減し、基板全体にわたる膜の均一性を改善する)、例えば10-6Pa(10-8トール)といった非常な低圧での超高真空CVD(UHVCVD)−CVD処理を含んでいる。
【0022】
本明細書で使用する場合、「分子前駆体」という用語は、コーティング内に存在することが望ましい1つ以上の要素を含む気相中の分子を指している。これらの前駆体は、所望の要素を表面上に堆積しコーティングに組み込むことができるように、科学的または物理的な変化を受けることができる。分子前駆体は無機化合物または有機化合物であってもよい。
【0023】
例えば、無機的な分子前駆体は、表面上の保護的なコーティングとなるであろう金属ベースの材料を含んでいてもよく、その際、保護的なコーティングは、Siベース、Tiベース、ZrベースまたはAlベースの無機化合物(例えば酸化物、窒化物または酸窒化物)から選択される。無機的な分子前駆体はまた、例えば、酸化物を生成するためにH2Oを、または、窒化物を生成するためにNH3を含んでいてもよい。例えば、有機的な分子前駆体は、表面上の保護的なコーティングとしてのSiベースのポリマー材料となることのできるポリマー材料を含んでいてもよい。分子前駆体はまた、例えばトリメチルアルミニウムといった有機金属材料を、金属(この場合はアルミニウム)をコーティング内に含めるための手段を提供するために含んでいてもよい。前駆体に関する他の多くの可能性が存在し、文献中で明らかとなっており、これから開発されるであろう前駆体も本発明の範囲に該当することになるであろう。
【0024】
本明細書で使用する場合、「原子層堆積」または「ALD」という用語は、薄膜の堆積の層ごとの制御が順次的な自己制御方式の表面反応を使用して達成される種類の熱CVDを指している。2つの前駆体堆積に関連付けられた2つの半反応がやがて分離され、リアクタが不活性ガスにより浄化され、または、排気されて、前駆体の物理的な分離が保証される。各半反応は自己制御方式であり、複雑な形状および高いアスペクト比の構造体上での、多分に等角の制御可能な堆積につながる。
【0025】
本発明は、非常に長い、狭い、および、絞られた内面を有する金属部品の、連続する均一な内部コーティングを実現するための独特な方法を提供する。小さな金属チャネルを有する非常に長い金属管を、不活性のまたは保護的なコーティングなどの連続した均一なコーティングでコーティングすることができる。これらの部品は、分離カラム、針オートサンプラ、ポンプまたは微小流体部品用の金属管または取り付け具などの流れ部品(current part)であってもよい。本発明は、LC分析を損なう、または、LC分析に干渉することがなく、LC系用の流路内で効果的に使用することのできる金属部品を提供する。
【0026】
LC系用の流路用の金属LC部品の気相コーティング(例えばCVD)は、非金属部品またはコーティングされていない金属部品を使用する、以前の技術に対して、いくつかの利点を有している。コーティングされた金属は不活性であり、LC分析に干渉しないが、1,000バールを超える圧力に耐えるだけの強さがあり、UHPLC分析で要求される条件に適合することができる。部品の製造は、PEEKベースの材料などの基板ではなく、金属において行われるため、金属微小流体部品および多孔性の焼結金属フリットを含めて、さらに多くの種類の部品を製造することが可能である。気相コーティングは液相コーティングよりも好ましい。なぜなら、これは、長くて狭いチャネル(例えば、直径が10μm未満)をよりよくコーティングすることができ、金属への強い付着を提供するからである。
【0027】
LC部品は、必要に応じてさまざまな金属から製造することができる(例えば、ステンレス鋼、チタンまたは他の金属もしくは合金)。アモルファスSiは、ガスまたは真空にさらされた金属表面を保護するのに効果的である(上記特許文献7、上記特許文献8、上記特許文献9)が、アモルファスSiは、液体中における高いpHでの攻撃を受けやすい。ゆえに、アモルファスSiは、高いpHを必要とするLC用途における不活性を提供するのに理想的でない。本明細書中に開示するように、不活性のコーティングの堆積用の熱CVDは目下、低いおよび高いpH溶液の両方、高濃度の食塩水ならびに多様な溶媒で安定している材料に、成功裏に拡大されている。くわえて、このコーティングは、コーティング表面への生体分子の付着に耐性がある。開示された発明に係るコーティング方法により、小さな内径を有する金属LC部品の長いカラムを、連続しており金属カラムによく付着するコーティングでコーティングすることができる。
【0028】
一局面において、本発明は全体として、実質的に均一な厚みを有する保護的なコーティングで連続して覆われた内面を有する管腔、通路または空洞を有する金属製の部品に関する。保護的なコーティングは、気相中に1つ以上の分子前駆体を供給するステップと、管腔、通路または空洞の内面を、気相中で、1つ以上の分子前駆体にさらすステップと、さらされた内面で、または、さらされた内面の付近で、1つ以上の分子前駆体を反応、分解、濃縮、または、他の仕方で変化させ、次いで、その上に堆積させるステップと、不活性ガスで流し、または、真空を生じさせて、それにより、反応しなかった1つ以上の分子前駆体を、および、存在するようであれば、反応の副産物を除去するステップとを含む気相処理を介して形成されている。
【0029】
ある実施形態では、気相処理は、所望の膜厚および/または組成に到達するために必要であれば、上記ステップの1つ以上を選択的に繰り返すステップをさらに含んでいる。
【0030】
別の局面では、本発明は全体として、管腔、通路または空洞を有する金属製の物体の内面をコーティングする方法に関する。本方法は、実質的に均一な厚みを有する、連続した保護的なコーティングを、気相処理により形成するステップを含んでいる。
【0031】
ある実施形態では、気相処理は化学蒸着処理を備えている。
【0032】
ある実施形態では、気相処理は原子層堆積処理を含んでいる。
【0033】
ある実施形態では、管腔、通路または空洞は、約10mm未満の少なくとも1つの寸法および約20mmよりも長い少なくとも1つの寸法により特徴付けられる。ある実施形態では、金属製の部品は、約10mm未満(例えば、約5mm、3mm、1mm、500μm、300μm、100μm、50μm、30μm、10μm、5μm未満)の内径および約20mmよりも大きい(例えば、約30mm、50mm、100mm、500mm、1,000mm、5,000mmよりも大きい)長さにより特徴付けられるクロマトグラフィーカラムである。
【0034】
ある実施形態では、保護的なコーティングは、約10nm〜約5μmの範囲(例えば、約10nm〜約500nm、約10nm〜約300nm、約10nm〜約200nm、約10nm〜約100nm、約10nm〜約80nm、約10nm〜約50nm、約20nm〜約800nm、約50nm〜約800nm、約100nm〜約800nm、約200nm〜約800nm、約300nm〜約800nm、約100nm〜約500nm、約100nm〜約300nm、約200nm〜約500nm)の実質的に均一な厚みを有している。
【0035】
ある実施形態では、金属製の部品は、約1mmよりも小さい(例えば、500μm、300μm、100μm、50μm、30μm、10μm、5μmよりも小さい)少なくとも1つの内部寸法を有する微小流体素子またはその部品である。
【0036】
ある実施形態では、金属製の部品は、液体クロマトグラフィーカラム内で固体の固定相であるシリカ粒子を所定の位置に保持するために使用される種類などの多孔性の金属フリットである。コーティングは液体移動相と接触することになる表面を覆い、フリットの内面および/または外面を含んでいる。
【0037】
保護的なコーティングは、例えば、Siベース、Tiベース、ZrベースまたはAlベースの無機化合物(例えば酸化物、窒化物または酸窒化物)から選択される材料といった適切な材料であってもよい。LC用途で使用される金属部品用の、ある実施形態では、保護的なコーティングは、SiO2、SiC、Si3N4、SiOxCy、SiOxNy、SiCxHy、Al2O3、TiO2、ZrO2、Y2O3およびそれらの混合物から選択された材料を含んでいる。
【0038】
コーティングはまた、多層(それぞれが異なる保護的な材料を備える2、3、4またはそれ以上の層)であってもよい。例えば、最初のコーティングが金属への付着が良好なSiコーティング層で、次が、化学的な不活性のためのSiCのコーティングであってもよい。
【0039】
図1は、金属製の管類110と、通路120と、内面上の2つのコーティングされた層130および140とを有するカラム100の断面の模式図である。
【0040】
金属製の部品は、例えばステンレス鋼、チタンまたはチタン合金といった適切な材料で形成されていてもよい。
【0041】
さらに別の局面では、本発明は全体として、本明細書中に開示された方法に係る保護的なコーティングでコーティングされた内面を有する金属製の物体に関する。
【0042】
〈参照による組み込み〉
特許、特許出願、特許公報、雑誌、書籍、文書、ウェブコンテンツなどの他の文献の参照および引用を本開示中で行った。これらの文献はすべて、ここにおいて、その全体が、すべての目的のために、参照により本明細書中に組み込まれる。参照により本明細書中に組み込まれるとされる資料またはその一部で、既存の定義、記述、または、本明細書中に明示的に記載された他の開示資料と矛盾するものは、組み込まれた資料と本開示資料との間で矛盾が生じない程度まで組み込まれるに過ぎない。矛盾が生じた場合、好ましい開示として本開示を優先し、矛盾を解決するものとする。
【0043】
〈均等物〉
本明細書中に開示した代表的な例は、本発明の例示を助けることを意図しており、本発明の範囲を限定することを意図しておらず、または、本発明の範囲を限定すると理解すべきでもない。実際、本明細書中に記述および記載したものに加えて、本発明のさまざまな変形例およびさらに多くのその実施形態が、続く実施例ならびに本明細書中で引用した科学文献および特許文献への参照を含めて、本文献の全内容から、当業者にとって明らかとなるであろう。続く実施例は、本発明の実施に、そのさまざまな実施形態およびその均等物において適用することのできる、重要な追加の情報、例証および案内を収めている。
【実施例】
【0044】
4つの生体不活性のコーティングを形成し、ステンレス鋼およびチタン部品上で試験した。
【0045】
〈実施例1〉アモルファスSiコーティング
第1のコーティングであるアモルファスSiコーティングを、ステンレス鋼切り取り試片、フリットおよびHPLCカラム上、ならびに、チタン切り取り試片上に堆積させた。堆積は、分子前駆体としてSiH4ガスを使用し、閉じたリアクタ内で、熱化学蒸着により行った。堆積のための温度は350℃〜450℃であり、リアクタ内のSiH4の分圧はドライ窒素ガス中で50〜1000ミリバールであった。2つの堆積が連続して行われて、切り取り試片上に550nmのコーティング厚みを実現し、HPLCカラムの内部に100nmを実現した。
【0046】
切り取り試片上のコーティング厚みを、分光反射を使用して測定し、X線光電子分光により検証した。カラム内部上のコーティング厚みを、エネルギー分散型のX線分光からのFe KシリーズおよびSi Kシリーズラインの相対強度から、公知のa-Si厚みを有する平面上での相対強度と比較して概算した。チタン切り取り試片上のコーティングの厚みは、別個に堆積させたところ、200nmであった。
【0047】
生体不活性を提供するためのコーティングの効果性を、部品を0.1%のギ酸に数日間浸し、誘導結合プラズマ質量分析を使用して、溶液中に放出された金属イオンを測定することにより評価した。コーティングしたステンレス鋼切り取り試片およびコーティングしたステンレス鋼フリットの両方が、コーティングしていない類似の部品と比較して、金属イオン濃度が10倍以上減少した。
【0048】
図2は、ステンレス鋼上のa-SiコーティングのX線光電子分光組成深さプロファイルを示している。
【0049】
〈実施例2〉高分子シロキサンコーティング
第2のコーティングである高分子シロキサンコーティングを、化学蒸着を使用して、350℃〜450℃の温度で堆積させた。100nm〜300nmのコーティング厚みが、ステンレス鋼切り取り試片、ステンレス鋼フリット上、および、HPLCカラムの内面上で得られた。
【0050】
0.1%のギ酸に浸したときに、すべての部品が、溶液中に放出された金属イオン濃度について、10倍以上の減少を示した。加えて、シロキサンコーティングされたHPLCカラムには、シロキサンコーティングされた2つのフリットにより所定の位置に保持されたシリカビーズを充填した。このカラムは、金属イオンの影響を受けやすいことで知られる酵素であるシトクロムCの液体クロマトグラフィー分離において、ステンレス鋼フリットを有するステンレス鋼カラムよりも優れた性能を示した。
【0051】
〈実施例3〉二重膜コーティング(Si/シロキサン)
第3のコーティングは、a-Si上の150nmのシロキサンコーティングにより覆われた、ステンレス鋼の上に直接載っている200 nmのa-Siからなる二重膜であった。このコーティングを、上述した化学蒸着処理により、ステンレス鋼切り取り試片上に堆積させた。これらの切り取り試片は、0.1%のギ酸に浸したのちに、金属イオン濃度について10倍以上の減少を示した。類似の二重膜をもHPLCカラムの内面に堆積させたところ、ステンレス鋼カラムと比較して、シトクロムCの液体クロマトグラフィー分離が優れていることを示した。
【0052】
図3は、コーティングしていないステンレス鋼から濾されたイオンと比較して、a-Si、シロキサンおよびSi/シロキサン二重膜でコーティングされた2×3cmのステンレス鋼切り取り試片から溶液中に濾されたイオンの比較を示している。切り取り試片を、50Cで4日間、0.1%のギ酸に浸した。溶液中の金属イオン濃度を、誘導結合プラズマ質量分析により測定した。
【0053】
〈実施例4〉二重膜コーティング(Al2O3/TiO2
第4のコーティングは、原子層堆積により堆積された、TiO2の下のAl2O3の二重膜であった。このAl2O3/TiO2二重膜を、ステンレス鋼切り取り試片およびフリットと、100μmおよび250μmの内径を有する100mmの長さの毛管の内面および外面に堆積させた。コーティングを、トリメチルアルミニウムおよび200Cの水に100回交互にさらし、次いで、テトラキス(ジメチルアミド)チタン(IV)および200℃の水に827回交互にさらすことにより堆積させた。層の最終的な厚みは、Al2O3が約7nmおよびTiO2が40nmとなった。
図1
図2
図3