(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複合金属部材は、前記第1の金属成分を主成分とする金属管の外周に、前記第2の金属成分を主成分とする金属線が巻き付けられて構成されている請求項1記載の電位差式地下水排除施設用集水管。
前記ストレーナを介して集水した地下水を、管本体の排出口付近で一時的に貯留するとともに、貯留された地下水を該排出口の上端部よりも上方位置から排水するエルボ管が、管本体の排出口に接続されている請求項1又は2に記載の電位差式地下水排除施設用集水管。
前記ストレーナを介して集水した地下水を、管本体の排出口付近で一時的に貯留するとともに、貯留された地下水を該排出口の上端部と略同じ高さから排水する蓋部材が、管本体の排出口に接続されている請求項1又は2に記載の電位差式地下水排除施設用集水管。
【背景技術】
【0002】
地すべり対策技術の一つとして、ストレーナを施した地下水集水管を地中に埋設し、この集水管を通じて地中に含まれた地下水を地表に排出して、地下水位を低下させ、地すべりの発生を抑制する方法が知られている。この地下水集水管を用いた地すべり対策は、多数の地域において実施されている。しかし、ストレーナの目詰まりによる地下水排除機能の低下が確認されており、地すべり防止効果への影響が危惧されている。なお、この目詰まりを生じさせている物質は、主に地下水中の鉄分を利用する鉄細菌(鉄バクテリア)が生成するスライムであることが確認されている。
【0003】
そこで、この好気性細菌である鉄細菌の増殖を抑制して目詰まりを防止しようとする装置が提案されている。すなわち、集水管にパイプを接続するとともにこのパイプ内への空気の侵入を阻止して組立てるようにした装置(例えば特許文献1)や、集水管に接続したパイプの排水端部である開口端を水面下に没するように配置した装置(例えば特許文献2)が知られている。しかし、これらの装置では、充分な防止効果が認められない場合があった。
【0004】
このため、これまでは高水圧水によって地下水集水管の内壁を洗浄し、この集水管内に付着・堆積した目詰まり物質であるスライムの除去を行なって、低下した地下水排除機能を回復させていた。しかしながら、高水圧水による洗浄では、地下水集水管の定期的なメンテナンスが必要となる。このため、これに起因して膨大な維持管理費用が生じており、合理的で低コスト化を図れる地下水集水管の機能維持管理技術を開発することが課題となっている。
【0005】
一方、かかる課題を解決するため、本願発明者は、マグネシウム合金の金属材料を用いて集水管へのスライム付着を防止する方法を創案した(特許文献3)。この方法は、マグネシウムの溶解(イオン化)に伴い発生した電子を地下水中の溶存鉄(2価の鉄イオン)に作用させ、鉄イオンの酸化を抑制することで、集水管内におけるスライムの増殖をきわめて簡単に防止するものである。しかし、マグネシウム合金の金属材料が比較的高価であるため、必ずしも低コスト化を図るには十分とは言えず、また、地域によって千差万別である地下水環境に対応するには、マグネシウム合金を用いた方法のみでは困難である事が予想される。
【0006】
また、これらに関連する技術として、含鉄酸性水に触れる暗きょ排水管等の器材に水酸化鉄等が沈着することを防止できる、アルミニウムを主成分とする酸化鉄類沈着防止剤、及びそれを用いた暗きょ排水管等の閉塞防止方法が提案されている(特許文献4)。しかし、この技術が対象とする施設は、火山泥流地域の試験ほ場での含鉄酸性水であり、その水質環境は、pHが5.89〜5.99、SO4イオンが500mg/l、Caイオンも250mg/lときわめて特異的な環境条件での結果であることから、一般的な地下水環境(pH6.0以上、軟水)とは異なっており、その効果も限定的であると考えられる。したがって、合理的で低コスト化を図れるとともに、様々な地下水排除施設の地下水環境にも適用することのできるスライム付着防止対策が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、この発明は、従来必要とされていた定期的なメンテナンスを要することなく地下水排除機能を維持することができ、地下水排除施設における維持管理コストの縮減を図るとともに、様々な地下水環境においても適用することのできる電位差式地下水排除施設用集水管及び
地下水排除施設、並びにスライム付着防止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、地山の斜面に傾斜して埋設される地下水排除施設用の集水管であって、前記地山の地下水を集水するストレーナが外周壁に穿設され、該ストレーナを介して集水した地下水を排水する排出口が下流側の端部に設けられた管本体を具え、この管本体の内部に、所定のイオン化傾向を有する第1の金属成分を主成分とする第1の金属部材と、前記第1の金属成分とはイオン化傾向の異なる第2の金属成分を主成分とし、前記第1の金属部材と電気的に接続された第2の金属部材と、を有する複合金属部材が、地下水の流路を確保して配設され、該複合金属部材が、管本体内に集水した地下水と接触したときに、該地下水を電解液として前記第1及び第2の金属部材間に電位差を生じさせ、該地下水中に含まれる鉄イオンの酸化を抑制する電子を放出することを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1記載の電位差式地下水排除施設用集水管において、複合金属部材は、前記第1の金属成分を主成分とする金属管の外周に、前記第2の金属成分を主成分とする金属線が巻き付けられて構成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の電位差式地下水排除施設用集水管において、前記ストレーナを介して集水した地下水を、管本体の排出口付近で一時的に貯留するとともに、貯留された地下水を該排出口の上端部よりも上方位置から排水するエルボ管が、管本体の排出口に接続されていることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1又は2に記載の電位差式地下水排除施設用集水管において、前記ストレーナを介して集水した地下水を、管本体の排出口付近で一時的に貯留するとともに、貯留された地下水を該排出口の上端部と略同じ高さから排水する蓋部材が、管本体の排出口に接続されていることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の発明は、
請求項1ないし4のいずれかに記載の電位差式地下水排除施設用集水管を複数本並列に装備し、該隣接する集水管の管本体の内部に配設された第1の金属部材と第2の金属部材とは、一方の集水管が先端側から後端側に向けて第2の金属部材と第1の金属部材が交互に接続され、他方の集水管が先端側から後端側に向けて第1の金属部材と第2の金属部材が交互に接続されるように配置されており、かつ各集水管の先端側にある第2の金属部材及び第1の金属部材は、各集水管の管本体の排出口に接続されたエルボ管の孔口から管本体に通した金属線によって相互に接続され、それぞれの集水管内に配設した複合金属部材を相互に接続したことを特徴とする地下水排除施設である。
【0014】
請求項6に記載の発明は、
地山の斜面に傾斜して埋設される地下水排除施設用集水管の閉塞を誘発するスライムの付着を防止する方法であって、前記地山の地下水を集水するストレーナが外周壁に穿設され、該ストレーナを介して集水した地下水を排水する排出口が下流側の端部に設けられた管本体の内部に、所定のイオン化傾向を有する第1の金属成分を主成分とする第1の金属部材と、前記第1の金属成分とはイオン化傾向の異なる第2の金属成分を主成分とし、前記第1の金属部材と電気的に接続された第2の金属部材と、を有する複合金属部材を前記第1、第2の金属部材を金属管として管軸方向に複数交互に配置し、これら金属管を第2の金属部材と同材料の金属線で接続して挿入配置し、管本体内に集水した地下水と接触させ、該地下水を電解液として前記第1及び第2の金属部材間に生じる電位差に起因して発生する電子を、地下水中に含まれる鉄イオンに作用させて鉄イオンの酸化を抑制することにより、管本体内部へのスライムの付着を防止することを特徴とする。
【0015】
削除
【0016】
削除
【0017】
請求項
7に記載の発明は、請求項
6に記載の電位差式スライム付着防止方法において、前記地山に含まれる鉄成分が溶出して集水管の管本体内へ流入するのを抑制する鉄成分溶出抑制材を、前記地山の表面に埋設又は散布することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
この発明は、前記のようであって、請求項1に記載の発明によれば、地山の斜面に傾斜して埋設される地下水排除施設用の集水管であって、前記地山の地下水を集水するストレーナが外周壁に穿設され、該ストレーナを介して集水した地下水を排水する排出口が下流側の端部に設けられた管本体を具え、この管本体の内部に、所定のイオン化傾向を有する第1の金属成分を主成分とする第1の金属部材と、前記第1の金属成分とはイオン化傾向の異なる第2の金属成分を主成分とし、前記第1の金属部材と電気的に接続された第2の金属部材と、を有する複合金属部材が、地下水の流路を確保して配設され、該複合金属部材が、管本体内に集水した地下水と接触したときに、該地下水を電解液として前記第1及び第2の金属部材間に電位差を生じさせ、該地下水中に含まれる鉄イオンの酸化を抑制する電子を放出するので、管本体の内部にイオン化傾向の異なる金属で構成される複合金属部材を配設するというきわめて簡単な構成で、スライム発生の原因となる地下水中の鉄イオンの酸化を抑制することができる。これにより、従来のような定期的なメンテナンスを要することなく集水管の地下水排除機能を維持することができ、維持管理コストの縮減を図ることができる。また、異種金属の種類を選択・変更することで、地下水中に放出される電子量を適宜調整することができ、地下水の性状が異なる様々な地下水環境においても適用することができる。
【0019】
請求項2に記載の発明によれば、複合金属部材は、前記第1の金属成分を主成分とする金属管の外周に、前記第2の金属成分を主成分とする金属線が巻き付けられて構成されているので、複合金属部材をきわめて簡単に構成することができる。また、一方の金属部材を管状とすることで、地下水と接触する範囲が大きくなり、複合金属部材の地下水への接触と電子の放出を長期にわたって持続させることができる。
【0020】
請求項3に記載の発明によれば、前記ストレーナを介して集水した地下水を、管本体の排出口付近で一時的に貯留するとともに、貯留された地下水を該排出口の上端部よりも上方位置から排水するエルボ管が、管本体の排出口に接続されているので、排出口付近の地下水が貯留する部分において地下水中に複合金属部材が含浸し、地下水が複合金属部材と接触する時間を十分に確保することができる。これにより、異種金属部材間における電位差に伴う起電力の発生と、地下水中への電子の放出を長期にわたって持続することができ、スライムの付着防止効果が向上する。また、地下水が外気と接触する範囲が、エルボ管の孔口付近のみに限定されるため、地下水中に含まれる鉄イオンの酸化自体が抑制され、スライムの付着防止効果がさらに向上する。
【0021】
請求項4に記載の発明によれば、前記ストレーナを介して集水した地下水を、管本体の排出口付近で一時的に貯留するとともに、貯留された地下水を該排出口の上端部と略同じ高さから排水する蓋部材が、管本体の排出口に接続されているので、排出口付近の地下水が貯留する部分において地下水中に複合金属部材が含浸し、地下水が複合金属部材と接触する時間を十分に確保することができる。これにより、異種金属部材間における電位差に伴う起電力の発生と、地下水中への電子の放出を長期にわたって持続することができ、スライムの付着防止効果が向上する。また、管本体の排出口上端部より上方のスペースを必要としないため、集水管全体としての省スペース化が可能となる。
【0022】
請求項5に記載の発明によれば、
隣り合う集水管内に配設した複合金属部材同士を電気的に接続することにより、同一の集水管内に挿入された複合金属部材のみならず、隣り合う集水管内に挿入された複合金属部材の間でも電位差が生じる。このとき、隣り合う集水管の間の土壌に含まれる地下水にも当然導通があることから、それぞれの集水管の管本体に設けられたストレーナを介して電子のやり取りが行われる。これにより、集水管内に集水された地下水のみならず、土壌に含まれる地下水に対しても鉄イオンの酸化抑制作用が働き、鉄イオンの集水管内への溶出を抑制することができる。
【0023】
請求項6に記載の発明によれば、
管本体の内部にイオン化傾向の異なる金属で構成される複合金属部材を配設するというきわめて簡単な構成で、スライム発生の原因となる地下水中の鉄イオンの酸化を抑制することができる。これにより、従来のような定期的なメンテナンスを要することなく集水管の地下水排除機能を維持することができ、維持管理コストの縮減を図ることができる。また、異種金属の種類を選択・変更することで、地下水中に放出される電子量を適宜調整することができ、地下水の性状が異なる様々な地下水環境においても適用することができる。
【0024】
削除
【0025】
削除
【0026】
請求項
7に記載の発明によれば、前記地山に含まれる鉄成分が溶出して集水管の管本体内へ流入するのを抑制する鉄成分溶出抑制材を、前記地山の表面に埋設又は散布するので、土壌中に含まれる鉄の溶出自体を緩和し、鉄イオンの集水管内への流入を抑制することができる。これにより、地下水中の鉄イオンの濃度が高まるのを抑制でき、集水管内へのスライムの付着防止効果を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、この発明の一実施の形態に係る電位差式地下水排除施設用集水管を、地下水排除施設である横ボーリングに適用した場合を例示して説明する。
【0029】
図1は、地下水排除施設である横ボーリングの全体構成を示す模式断面図である。
図1において、1は集水管で、この集水管1は、地山Aの地下水面よりも下方位置に、その開口端を下向きにして傾斜した状態で埋設されている。集水管1は、中空円筒管からなる管本体2を有し、その上端が閉塞され、上端から土砂が入らないようになっており、その開口した下端が、地山Aの土壁面Bから突出されている。管本体2の長さ方向には、管本体2の管壁を貫通した孔であるストレーナ3が、所定の間隔で複数個穿設されている。したがって、ストレーナ3が施された管本体2が、地山Aに上端から下端に向け下向き傾斜の姿勢で埋設されているので、地山Aからストレーナ3を介して管本体2内に集水された地下水4が、土壁面Bから突出して開口された下端の排出口へと導かれる。
【0030】
管本体2の排出口には、エルボ管Eが接続されている。エルボ管Eは、図示のように一方の端部が管本体2の排出口に接続され、他端部がこの排出口の上端部よりも上方位置で外方へ開口する孔口となっている。したがって、管本体2の排出口へ導かれた地下水は、直ちに排水されることなく管本体2の排出口付近で一旦貯留され、その高さがエルボ管Eの孔口の下端まで達すると、排水5として排出される。
【0031】
一方、管本体2の内部には、イオン化傾向の異なる2種類の金属部材が互いに接続されて構成された複合金属部材6が、管本体2を流れる地下水の流路を確保して配設されている。具体的には、この複合金属部材6は、所定のイオン化傾向を有する第1の金属成分を主成分とする金属管(第1の金属部材)と、この第1の金属成分とは異なるイオン化傾向を有する第2の金属成分を主成分とする金属線(第2の金属部材)と、を有し、この金属線の一端が金属管の上流側端部の外周表面に複数回巻き付けられて構成されている。
【0032】
複合金属部材6の管本体2への固定方法としては、例えば金属線が巻き付けられた金属管を熱溶着により直接管本体2の底部に固定する方法や、支持部材を介して取り外し可能に固定する方法などを採用することができるが、いずれの方法を用いた場合でも、地下水を管本体2の排出口側へ導くための十分な流路が確保されていればよい。
【0033】
このように構成された集水管1によれば、ストレーナ3を介して内部に集められた地下水4は、管本体2の内部に配設された複合金属部材6に接触しながら、下端の排出口側へ導かれる。複合金属部材6は、上述のとおりイオン化傾向の異なる2種類の金属部材(金属管及び金属線)を互いに接続して構成されているが、このようにイオン化傾向の異なる金属を適当な電解質溶液に浸すと、それぞれの金属部材間に電位差が発生し、イオン化傾向の小さい金属(プラス)からイオン化傾向の大きい金属(マイナス)へ電流が流れる。電気化学的には、イオン化傾向の大きな金属(陽極)が電子を発生し、発生した電子はイオン化傾向の小さい金属(陰極)に流れ込む。このとき、双方の金属間には電圧(起電力)が発生する。起電力は、2種類の金属成分のイオン化傾向の差が大きいほど大きく、その値は溶液の温度や電解質のイオン濃度によっても変化する。また、起電力の大きさは、電流の大きさに比例するとともに、電子の発生量の指標となる。
【0034】
一方、地下水中に生存している鉄細菌(鉄バクテリア)は、同じく地下水中に溶存している2価の鉄イオンを3価の鉄イオンへ酸化し、その際に発生する酸化エネルギーを利用して生存・増殖することが知られている。そして、3価の鉄イオンは赤褐色の水酸化鉄(Fe(OH)
3)となって鉄細菌が生成する有機物とともに集水管の内部に沈殿して固着し、集水管の閉塞の原因となるスライムを形成する。このとき地下水中では、イオン化傾向の大きな金属(陽極)から放出された電子が2価の鉄イオンと反応し、3価の鉄イオンへの酸化を妨げる。
【0035】
すなわち、集水管1ではこのように、管本体2の内部に配設されたイオン化傾向の異なる異種金属部材を有する複合金属部材6が、管本体2内に集水された地下水4と接触することで、この地下水4を電解液としてそれぞれの金属部材間に電位差を生じ、イオン化傾向の大きい金属部材(陽極)から電子が放出される。そして、放出された電子が、地下水中に含まれる2価の鉄イオンと反応し、その酸化を抑制することにより、スライムの原因物質である3価の鉄イオンの生成が抑制される。また、2価の鉄イオンの酸化が抑制されることにより、酸化の際に生じる酸化エネルギーが低減し、このエネルギーを利用して生存する鉄細菌の増殖も抑えられる。これにより、管本体2の内部へのスライムの付着が防止される。また、集水管1ではこのように、イオン化傾向の異なる異種金属を接続して地下水に浸すことにより、陽極金属のイオン化の促進(電食)と陰極金属の防食効果も期待される。
【0036】
なお、管本体2の排出口に図示のようにエルボ管Eを接続することで、排出口付近の地下水が貯留する部分において地下水中に複合金属部材6が含浸し、地下水が複合金属部材6と接触する時間を十分に確保することができる。このため、2種類の金属部材間における電位差に伴う起電力の発生と、地下水中への電子の放出を長時間にわたって持続することができ、スライムの付着防止効果が向上する。また、地下水が外気と接触する範囲が、エルボ管Eの孔口付近のみに限定されるため、地下水中に含まれる2価の鉄イオンの酸化自体が抑制され、スライムの付着防止効果をさらに高めることができる。
【0037】
次に、この発明の一実施の形態に係る集水管への電位差式スライム付着防止方法について説明する。ここでは、横ボーリングなどの地下水排除施設に設置されている既存の集水管に対して、スライム付着防止方法を適用した場合を例示して説明する。
【0038】
(複合金属部材の挿入工程)
まず、地下水排除施設に設置されている既存の集水管の管本体内部に、イオン化傾向の異なる2種類の金属部材が互いに接続されて構成された複合金属部材を排出口側から挿入配置する。複合金属部材は、集水管の管本体の内部に配置されたときに、上端から流れてくる地下水と確実に接触できるように、管本体の底部に沿わせて配置する。複合金属部材としては、上述のように、所定のイオン化傾向を有する金属成分を主成分とする金属管に、該成分とは異なるイオン化傾向を有する金属成分を主成分とする金属線を巻き付けて、両者を接続した態様のものを用いることができる。
【0039】
そして、複合金属部材を地下水中に含浸させて、イオン化傾向の異なる金属部材間に起電力を発生させ、イオン化傾向の大きな金属(陽極)から地下水中に電子を放出させる。放出された電子は、地下水中に溶存する2価の鉄イオンと反応し、この2価の鉄イオンが酸化して3価の鉄イオンになろうとする作用を抑制する。これにより、地下水中で発生する酸化エネルギーを低減させ、鉄細菌の増殖を抑制するとともに、スライムの原因物質となる3価の鉄イオンの生成を抑制し、管本体内へのスライムの付着を防止する。
【0040】
なお、2種類の金属部材間における起電力を持続的に発生させるため、管本体の排出口にエルボ管を接続し、地下水を一時的に貯留させ、貯留部分に複合金属部材を含浸させるようにする。これにより、地下水が複合金属部材と接触する時間を十分に確保することができ、2種類の金属部材間における電位差に伴う起電力の発生と、地下水中への電子の放出を長時間にわたって持続することができる。また、地下水が外気と接触する範囲が、エルボ管Eの孔口付近のみに限定され、地下水中に含まれる2価の鉄イオンの酸化自体が抑制される。したがって、スライムの付着防止効果をさらに高めることができる。
【0041】
(鉄分溶出抑制材の散布工程)
また、スライム付着防止効果を促進させる付加要因として、複合金属部材の挿入工程に加え、周期表の第2族に属する典型元素を主成分とする金属材料(例えば、マグネシウム金属材料やカルシウム含有材料等)を、鉄分溶出抑制材として集水管が埋設された地山の表土に埋設または散布することも有効である。
【0042】
つまり、鉄に比べてイオン化しやすいこれらの物質は、酸性雨中に含まれる原因物質である硫酸イオン、硝酸イオン、塩化物イオンと反応し中和するため、土壌中に含まれる鉄の溶出自体を緩和し、鉄イオンの集水管内への流入を抑制する効果がある。また、カルシウム含有材料は水に溶けやすいことから、酸性雨による鉄の溶出防止効果において高い即効性が期待できる。一方、マグネシウム金属材料は溶解スピードが比較的穏やかであることから、長期に亘って鉄分の溶出効果を持続することができる。このように、集水管内への鉄イオンの流入が抑制されれば、地下水中の鉄イオンの濃度が高まるのを抑制でき、集水管内へのスライムの付着防止効果をさらに向上させることができる。
【0043】
なお、本発明者は、上述の電位差式スライム付着防止方法を実際の地すべり現場で実施し、その効果について確認試験を行った。以下、その試験結果について説明する。確認試験は、泥岩地帯の地すべり地の地下水排除施設である新潟県内の横ボーリングで実施した。
【0044】
なお、試験を行うに際し、複合金属部材を構成する異種金属をどのように選択すべきかを検討するため、実際の横ボーリングに設置された集水管から排出される排水を用いて、異種金属間に生じる起電力がどの程度の大きさになるかを測定した。その測定結果を表1に示す。
【0046】
表1によれば、今回の測定では陽極をマグネシウム、陰極を銅とした場合に起電力が最大(1.6V)となり、陽極をアルミニウム、陰極を鉄とした場合に起電力が最小(0.15V)となった。また、その他の金属を組み合わせた場合の起電力は表1の通りとなった。
【0047】
この測定結果は、地下水排除施設で排出される排水に対して、異種金属間に生じる起電力がどのくらいの大きさになるかを判断する一つの指標となる。すなわち、この測定結果から、未知の地下水排除施設の排水であっても、表1に挙げた異種金属間の起電力であればおおよそ推定することができる。また、異種金属の組み合わせを変えることにより、地下水の性状に適したスライムの付着防止条件を選択することもできる。なお、上記測定結果から、今回の試験ではアルミニウム、銅、マグネシウムを有効成分とする金属部材を用いて複合金属部材を構成し、試験を行った。
【0048】
図2は、試験前の横ボーリングへのスライム付着状況を示したものである。この横ボーリングは、施設設置後1年未満で集水管に大量の鉄細菌によるスライムが付着した施設であり、スライムが大量に集水管に付着していることが分かる。この横ボーリングに設置された各集水管の全長は、下端の排出口から上端までで約60mであるが、試験開始前に集水管の排出口から奥行約20mの区間と、集水管保護壁等をブラシ等で掃除した。
【0049】
確認試験は、
図2中の丸印で示した3本の集水管で実施した。そのうち中央の集水管には、実施例1として、第1の金属部材である長さ2.0mのマグネシウム合金の管(マグネシウム管)の端部に、第2の金属部材である銅線を巻き付け、これを3本連結し銅線の延長部と併せて全長約10mとした複合金属部材を挿入した。また、右端の集水管には、実施例2として、第1の金属部材である長さ2.0mのアルミニウム合金の管(アルミニウム管)の端部に、第2の金属部材である銅線を巻き付け、これを3本連結し銅線の延長部と併せて全長約10mとした複合金属部材を挿入した。さらに左端の集水管には、同種の金属部材で構成される複合金属部材として、長さ2.0mのアルミニウム合金の管(アルミニウム管)にアルミニウム線を巻き付け、これを3本連結し銅線の延長部と併せて全長約10mとしたものを挿入し、これを比較例とした。
【0050】
また、各集水管では、地下水が外気に触れるエルボ管の孔口付近でスライムが発生しやすいため、マグネシウム管を挿入した集水管(実施例1)では、集水管の排出口からエルボ管の孔口までの区間に、短く切断したマグネシウム管を挿入した。同様に、アルミニウム管を挿入した集水管(実施例2及び比較例)では、集水管の排出口からエルボ管の孔口までの区間に、らせん状に形成したアルミニウム線を挿入した。これら実施例1及び2、並びに比較例の複合金属部材の構成例を
図3(a)〜(c)に示す。
【0051】
なお、今回の試験で使用したマグネシウム管は、ASTM規格(American Society of Testing and Materials、米国試験材料協会が定める材料に関する標準化規格)で「AZ31」と標記される、アルミニウム約3%、亜鉛約1%、マグネシウム約96%を含んでなるマグネシウム合金の管を使用した。また、アルミニウム管は、アルミニウム成分がほぼ100%のものを使用し、その表面をサンドペーパーで研磨して、管の表面に形成されている酸化皮膜を十分に除去したものを使用した。
【0052】
表2は、試験開始前の各集水管からの排水の性状を示したものである。なお、ここでは表記を簡単にするため、実施例1の複合金属部材を(マグネシウム管+銅線)、実施例2の複合金属部材を(アルミニウム管+銅線)、比較例の複合金属部材を(アルミニウム管+アルミ線)と表している。表2に示す通り、各集水管からの排水はpHが6.4〜6.6であり、中性かつ軟水である。また、全鉄(T-Fe)は13.0〜20.0mg/lであり、集水管に非常にスライムが付着しやすい水質である。集水管へのスライム付着量は、全鉄(T-Fe)が1mg/l以上で多くなる。また、各集水管の地下水に含まれる鉄イオン(Fe)、硫酸イオン(SO
42-)、カルシウムイオン(Ca
2+)の量は表2に示す通りである。
【0054】
図4は、試験開始から約2週間後の各エルボ管孔口の内部状況を示したものである。
図4において、(a)が(マグネシウム管+銅線)を挿入した実施例1の集水管、(b)が(アルミニウム管+銅線)を挿入した実施例2の集水管、(c)が(アルミニウム管+アルミ線)を挿入した比較例の集水管についての、各エルボ管孔口の内部状況である。
【0055】
図4(a)に示すように、マグネシウム管に銅線を巻き付けて挿入した実施例1では、スライムの付着が認められ、その発生量も著しい。ただし、マグネシウム管を挿入した集水管口では、これまでにも一時的に多量のスライムの発生が観察されていたことから、もう少し時間をかけた試験・調査が必要であると思われる。一方、
図4(b)に示すように、アルミニウム管に銅線を巻き付けて挿入した実施例2では、ほとんどスライムの付着は認められなかった。また、
図4(c)に示すように、アルミニウム管にアルミニウム線を巻き付けて挿入した比較例では、エルボ管の孔口に配置したらせん状のアルミニウム線が全く見えなくなるほど多量のスライムが発生した。
【0056】
図5は、集水管内に挿入されていたそれぞれの複合金属材料の変化状況を示したものである。
図5(a)に示す実施例1の(マグネシウム管+銅線)では、マグネシウム管全体が黒緑色の付着物におおわれ腐食が著しく、また管表面には金属鉄に近い付着物とピンホールが数か所生じていた。また、銅線は、マグネシウム管との接続部分が黒色に変色していたが、直線部分は金属光沢のある物質がところどころメッキ状に被覆していた。
【0057】
一方、
図5(b)に示す実施例2の(アルミニウム管+銅線)では、管表面へのスライムの付着はほとんど確認できなかった。また、銅線は実施例1と同様、アルミニウム管との接続部分が黒色に変色しており、直線部分には金属光沢が確認された。さらに、集水管の貯留排水は濃い黒緑色であった(
図6(a)参照)。また、
図5(c)に示す比較例の(アルミニウム管+アルミ線)では、管表面への赤褐色のスライムの付着は僅かであったが、孔口の水封を解放した際は、赤褐色のスライム状の貯留排水が流出した(
図6(b)参照)。
【0058】
なお、銅線に付着した金属光沢部分について、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)により測定した結果、この金属光沢は、下地の銅や汚れ成分を除くと鉄を主成分とする付着物であることが確認された。その主な成分構成は表3に示す通りであった。
【0060】
以上、各集水管における試験結果をまとめると、表4のようになる。
【0062】
2価の鉄イオンは、酸素が存在する状態で容易に酸化されて、赤褐色の水酸化鉄へと変化するが、酸化の進行に伴い、淡緑色→灰緑色→黒褐色→赤褐色へと色相が変化することが知られている。すなわち、今回の試験では、比較例の集水管内に貯留されていた排水が赤褐色であったのに対し、実施例1及び2の集水管内に貯留されていた排水は、濃い黒緑色や黒灰色であったことから、これらの集水管では鉄イオンの酸化作用が阻害され、鉄イオンの酸化が進行しなかったことが示された。特に、実施例2の(アルミニウム管+銅線)を挿入した集水管では、排水の色相に加え、エルボ管孔口や管表面へのスライムの付着もほとんど認められなかったことから、優れたスライム付着防止効果を発揮したことが示された。
【0063】
一方、実施例1の(マグネシウム管+銅線)を挿入した集水管では、一定のスライム付着防止効果は認められたものの、マグネシウム管の腐食劣化が著しく、持続的防止効果の観点で、今回の試験地での使用には適さなかった。この点については、マグネシウム管との接続金属を銅ではなくアルミニウムや亜鉛とし、起電力を低下させて使用することにより、腐食劣化を緩和することができると考えられる。または、鉄イオン量やその他電解質量の比較的少ない、電気化学的に穏やかな地下水環境においての使用が適しているものと考えられる。
【0064】
以上のように、本発明に係る電位差式地下水排除施設用集水管及びスライム付着防止方法によれば、イオン化傾向の異なる異種金属を有する複合金属部材を集水管内に挿入配置して、管内に集水した地下水と接触させ、この地下水を電解液として両金属部材間に電位差を発生させて、イオン化傾向の大きい金属から地下水中に電子を放出することにより、集水管内でのスライムの付着をきわめて簡単かつ合理的に防止することができる。このため、従来のような定期的なメンテナンスが不要となり、地下水排除施設における維持管理コストの縮減を図ることができる。また、予め地下水排除施設の集水管から排出される排水の性状と起電力を見極め、排水の性状に応じた好適な異種金属部材の組み合わせを選択することにより、様々な地下水環境に対しても本発明を適用することができる。
【0065】
なお、複合金属部材を構成する異種金属部材の接続方法としては、
図3で説明したように陽極となる第1の金属部材(マグネシウム管やアルミニウム管)に陰極となる第2の金属部材(銅線)を巻き付けて接続するほか、
図7に示すように第1及び第2の金属部材をいずれも金属管で構成し、これらを交互に配置して第2の金属部材と同材料の金属線で接続するようにしてもよい。または、これらの金属管を直接接合するようにしてもよい。
【0066】
また、
図8に示すように、地下水排除施設において隣接する集水管について、それぞれの集水管内に配設された複合金属部材を相互に接続することも有効である。すなわち、地下水排除施設において隣接する集水管のうち、一方の集水管(以下、第1の集水管という)の内部には、先端側から後端側へ向かって第2の金属部材→第1の金属部材→第2の金属部材→第1の金属部材・・・の順で接続された複合金属部材を挿入する。また、この第1の集水管と隣り合う集水管(以下、第2の集水管という)の内部には、上記とは金属部材の接続順を逆にした態様、すなわち先端側から後端側へ向かって第1の金属部材→第2の金属部材→第1の金属部材→第2の金属部材・・・の順で接続された複合金属部材を挿入する。そして、それぞれの集水管の排出口に接続されたエルボ管Eの孔口から管本体内に、被覆した銅線やアルミニウム線などの金属線を通し、それぞれの集水管内に配設した複合金属部材を相互に接続する。
【0067】
そして、
図9に示すように、地下水排除施設に設置されているすべての集水管(ここでは6本)について、上記と同様に隣接する集水管内の複合金属部材を接続する。このように、隣り合う集水管内に配設した複合金属部材同士を電気的に接続することにより、同一の集水管内に挿入された複合金属部材のみならず、隣り合う集水管内に挿入された複合金属部材の間でも電位差が生じる。このとき、隣り合う集水管の間の土壌に含まれる地下水にも当然導通があることから、それぞれの集水管の管本体に設けられたストレーナを介して電子のやり取りが行われる。これにより、集水管内に集水された地下水のみならず、土壌に含まれる地下水に対しても鉄イオンの酸化抑制作用が働き、鉄イオンの集水管内への溶出を抑制することができる。
【0068】
また、管本体の排出口に接続されるエルボ管としては、
図1に示した形状のものに限らず、地下水を排出口付近で一時貯留し、一定量が溜まった段階で排水できるものであればどのような形状であっても構わない。例えば、
図10(a)に示す排出口用の蓋部材Rは、正面視円形で、外径が管本体の排出口にちょうど嵌合する大きさに形成された本体Sを有し、この本体正面の高さ方向上端寄りに小円形状の排水孔Tが穿設されている。また、この排水孔Tの背面には仕切りUが設けられ、管本体の排出口から排水孔Tに至る流路が直接連通しないように区画されている(
図11(a)も参照)。また、
図10(b)に示す排出口用の蓋部材R’は、
図10(a)の蓋部材Rに類する形状として、本体正面に排水孔を穿設する代わりに、地下水排出用の小管Vを本体S’の上部に一体形成し、ここから地下水を排水することができる(
図11(b)も参照)。
【0069】
いずれの場合も、地下水は排出口から直ちに排水されずに排出口付近で一旦貯留され、地下水が排出口の上端部とほぼ同じ高さに達したときに排水されることとなる。これにより、前述のエルボ管を接続した場合と同様に、地下水が複合金属部材と接触する時間を確保することができ、2種類の金属部材間における電位差に伴う起電力の発生と、地下水中への電子の放出が長時間にわたって持続し、スライムの付着防止効果が向上する。
【0070】
また、前述のエルボ管と比較した場合、集水管内の貯留水量は少なくなるが、高さ方向のスペースを必要としないため、集水管全体としての省スペース化が可能となる。特に、山間部などの積雪の多い地域に設置された地下水排除施設では、積雪や雪崩により、エルボ管を含む排出口付近が破損するおそれがあるが、これらの蓋部材ではそのような破損のおそれはほとんどなく、本発明に係る付帯設備として有効である。