(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記樹脂組成物は、ポリエステルおよびメラミン樹脂を含むか、ポリエステルおよびウレタン樹脂を含むか、またはポリエステル、メラミン樹脂およびウレタン樹脂を含む、請求項1または請求項2に記載の印刷材の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.印刷材
本発明の印刷材の製造方法によって得られる印刷材は、基材と、基材の上に配置されたインキ受理層と、インキ受理層の上に配置されたインキ層とを有する。また、この印刷材は、インキ層の上に配置されたオーバーコート層をさらに有していてもよい。本発明の印刷材の製造方法によって得られる印刷材は、例えば、建物の内装材および外壁材として使用される建築材料として好適に使用することができる。以下、印刷材の各構成要素について説明する。
【0017】
(基材)
基材の種類は、特に限定されない。基材の例には、金属系基材(金属板)および窯業系基材が含まれる。
【0018】
金属系基材の例には、溶融Zn−55%Al合金めっき鋼板などのめっき鋼板、普通鋼板やステンレス鋼板などの鋼板、アルミニウム板および銅板が含まれる。これらの金属系基材には、エンボス加工や絞り成型加工などを行って、タイル調やレンガ調、木目調などの凹凸加工を施してもよい。さらに、断熱性や防音性を高める目的で、樹脂発泡体や石膏ボードなどの無機素材を芯材としたアルミラミネートクラフト紙などで、金属系基材の裏面を被覆してもよい。
【0019】
窯業系基材の例には、素焼陶板、施釉および焼成した陶板、セメント板、セメント質原料や繊維質原料などを用いて成形した板材が含まれる。また、これらの窯業系基材の表面にも、タイル調やレンガ調、木目調などの凹凸加工を施してもよい。
【0020】
基材は、その表面に化成処理皮膜や下塗り塗膜などが形成されていてもよい。化成処理皮膜は、基材の表面全体に形成されており、塗膜密着性および耐食性を向上させる。化成処理皮膜を形成する化成処理の種類は、特に限定されない。化成処理の例には、クロメート処理、クロムフリー処理、リン酸塩処理が含まれる。化成処理皮膜の付着量は、塗膜密着性および耐食性の向上に有効な範囲内であれば特に限定されない。たとえば、クロメート皮膜の場合、全Cr換算付着量が5〜100mg/m
2となるように付着量を調整すればよい。また、クロムフリー皮膜の場合、Ti−Mo複合皮膜では10〜500mg/m
2、フルオロアシッド系皮膜ではフッ素換算付着量または総金属元素換算付着量が3〜100mg/m
2の範囲内となるように付着量を調整すればよい。また、リン酸塩皮膜の場合、5〜500mg/m
2となるように付着量を調整すればよい。
【0021】
下塗り塗膜は、基材または化成処理皮膜の表面全体に形成されており、塗膜密着性および耐食性を向上させる。下塗り塗膜は、例えば樹脂を含む下塗り塗料を、基材または化成処理皮膜の表面に塗布し、乾燥(または硬化)させることで形成される。下塗り塗料に含まれる樹脂の種類は、特に限定されない。樹脂の種類の例には、ポリエステルやエポキシ樹脂、アクリル樹脂などが含まれる。エポキシ樹脂は、極性が高く、かつ密着性が良好なため特に好ましい。下塗り塗膜の膜厚は、上記の機能を発揮することができれば、特に限定されない。下塗り塗膜の膜厚は、例えば5μm程度である。
【0022】
(インキ受理層)
インキ受理層は、基材または下塗り塗膜の表面全体に配置されている、活性光線硬化型カチオン重合性インキを受理するための層である。インキ受理層は、マトリックスとなる樹脂を含む。
【0023】
マトリックスとなる樹脂の種類は、特に限定されない。マトリックスとなる樹脂の例には、ポリエステル、アクリル樹脂、ポリフッ化ビニリデン、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリビニルアルコールおよびフェノール樹脂が含まれる。マトリックスとなる樹脂は、高耐候性および活性光線硬化型カチオン重合性インキとの密着性の観点から、ポリエステルを含むことが好ましい。なお、マトリックスとなる樹脂は、水性インキ用の多孔質なインキ受理層を形成するものでない。多孔質のインキ受理層は、耐水性および耐候性が悪い場合があり、建築材などの用途に適さないためである。
【0024】
マトリックスを形成するためのポリエステル樹脂組成物は、例えばポリエステルおよびメラミン樹脂を含むか、ポリエステルおよびウレタン樹脂を含むか、またはポリエステル、メラミン樹脂およびウレタン樹脂を含む。また、ポリエステルおよびメラミン樹脂を有するポリエステル樹脂組成物は、触媒およびアミンをさらに含む。このような樹脂組成物の硬化物(インキ受理層)は、架橋密度が高く、活性光線硬化型カチオン重合性インキに対して非浸透性である。なお、インキ受理層(樹脂組成物の硬化物)が活性光線硬化型カチオン重合性インキに対して非浸透性であることは、インキ受理層およびインキ層の断面を100〜200倍の倍率で顕微鏡観察することにより、確認することができる。インキ受理層が非浸透性の場合は、インキ受理層とインキ層との界面を明確に識別することができる。一方、インキ受理層が浸透性の場合は、インキ受理層とインキ層との界面が不明確となり識別することが困難である。
【0025】
ポリエステルの種類は、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、またはこれらの組み合わせと架橋反応を起こすことができれば、特に限定されない。ポリエステルの数平均分子量は、特に限定されないが、加工性の観点からは5000以上であることが好ましい。また、ポリエステルの水酸基価も、特に限定されないが、40mgKOH/g以下であることが好ましい。ポリエステルのガラス転移点は、特に限定されないが、0〜70℃の範囲内であることが好ましい。ガラス転移点が0℃未満の場合、インキ受理層の硬度が不足するおそれがある。一方、ガラス転移点が70℃超の場合、加工性が低下するおそれがある。
【0026】
メラミン樹脂は、ポリエステルの架橋剤である。メラミン樹脂の種類は、特に限定されないが、メチル化メラミン樹脂であることが好ましい。また、メチル化メラミン樹脂は、分子中の官能基に占めるメトキシ基の量が80mol%以上であることが好ましい。メチル化メラミン樹脂は、単独で使用してもよいし、他のメラミン樹脂と併用してもよい。メラミン樹脂の配合量は、ポリエステル:メラミン樹脂=60:40〜80:20(質量比)の範囲内であることが好ましい。
【0027】
触媒は、メラミン樹脂の反応を促進させる。触媒の例には、ドデシルベンゼンスルフォン酸、パラトルエンスルフォン酸、ベンゼンスルフォン酸が含まれる。触媒の配合量は、樹脂固形分に対して0.1〜8.0%の範囲内であることが好ましい。
【0028】
アミンは、触媒反応を中和する。アミンの例には、トリエチルアミン、ジメチルエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、モノエタノールアミン、イソプロパノールアミンが含まれる。アミンの配合量は、特に限定されないが、酸(触媒)に対して当量の50%以上の量であることが好ましい。
【0029】
ウレタン樹脂は、ポリエステルの架橋剤である。ウレタン樹脂の種類は、特に限定されないが、耐候性を高める観点から芳香族ジイソシアネートではなく、脂肪族ジイソシアネートまたは脂環式ジイソシアネートが好ましい。脂肪族ジイソシアネートおよび脂環式ジイソシアネートの例には、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアノメチル)シクロヘキサンが含まれる。ウレタン樹脂は、前述したウレタン樹脂を単独で使用してもよいし、2種以上のウレタン樹脂を併用してもよい。ウレタン樹脂の配合量は、ポリエステル:ウレタン樹脂=60:40〜80:20(質量比)の範囲内であることが好ましい。
【0030】
インキ受理層の、JIS B 0601に準拠して測定した算術平均粗さRaは、400〜3000nmの範囲内であることが好ましい。算術平均粗さRaが上記の範囲内であると、インキ受理層の表面における活性光線硬化型カチオン重合性インキの濡れ広がり性が良好である。また、算術平均粗さRaの条件を満たす微細な凹凸をインキ受理層の表面に形成する方法は、特に限定されない。そのような方法の例には、ナノインプリント法や、ショットピーニング法などが含まれる。
【0031】
ナノインプリント法では、算術平均粗さRaを満たすテクスチャー(凹凸)を付与した型と、基材の上に形成されたインキ受理層とを、加熱しながら押圧する。ナノインプリント法に使用される型は、公知のダイレクト製版または電子彫刻製版を利用することで製造されうる。また、ショットピーニング方法では、酸化物系の研削材を使用する。ショットピーニング法では、研削材の粒径、ショット粒の速度、ピーニング時間などを適宜調整することで、インキ受理層の表面に所定の凹凸を形成することができる。
【0032】
インキ受理層の膜厚は、特に限定されないが、10〜40μmの範囲内であることが好ましい。膜厚が10μm未満の場合、インキ受理層の耐久性および隠蔽性が不十分となるおそれがある。また、膜厚が40μm超の場合、製造コストが増大するとともに、焼付け時にワキが発生しやすくなるおそれがある。また、インキ受理層の表面が柚子肌状となってしまい、外観が劣化してしまうおそれがある。
【0033】
(インキ層)
インキ層は、インキ受理層の上に配置されている。インキ層は、インキ受理層の表面に所望の画像が形成されるように、インキ受理層の表面全体または一部に配置されている。インキ層は、活性光線硬化型カチオン重合性インキをインキ受理層の表面にインクジェット印刷して、活性光線を照射して活性光線硬化型カチオン重合性インキを硬化させることで形成される。活性光線硬化型カチオン重合性インキは、紫外線(活性光線)を照射することにより硬化するカチオン重合型のUVインキであることが好ましい。
【0034】
活性光線硬化型カチオン重合性インキは、カチオン重合性化合物、エポキシ基含有シランカップリング剤、ヒドロキシル基含有オキセタン化合物および光重合開始剤を含む。また、活性光線硬化型カチオン重合性インキは、顔料および分散剤をさらに含んでいてもよい。
【0035】
カチオン重合性化合物の種類は、カチオン重合可能なモノマーであれば、特に限定されない。カチオン重合性化合物の例には、芳香族エポキシド、脂環式エポキシド、脂肪族エポキシドおよびヒドロキシル基含有オキセタン化合物以外のオキセタン化合物が含まれる。芳香族エポキシドの例には、ビスフェノールAまたはそのアルキレンオキサイド付加体のジもしくはポリグリシジルエーテル、水素添加ビスフェノールAまたはそのアルキレンオキサイド付加体のジもしくはポリグリシジルエーテル、およびノボラック型エポキシ樹脂が含まれる。脂環式エポキシドの例には、少なくとも1個のシクロへキセンまたはシクロペンテン環などのシクロアルカン環を有する化合物を、過酸化水素や過酸などの酸化剤でエポキシ化することによって得られる、シクロヘキセンオキサイドまたはシクロペンテンオキサイド含有化合物が含まれる。脂肪族エポキシドの例には、エチレングリコールのジグリシジルエーテルやプロピレングリコールのジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールのジグリシジルエーテルなどのアルキレングリコールのジグリシジルエーテル、グリセリンまたはそのアルキレンオキサイド付加体のジもしくはトリグリシジルエーテルなどの多価アルコールのポリグリシジルエーテルやポリエチレングリコールまたはそのアルキレンオキサイド付加体のジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールまたはそのアルキレンオキサイド付加体のジグリシジルエーテルなどのポリアルキレングリコールのジグリシジルエーテルが含まれる。オキセタン化合物は、成長反応しやすいため、カチオン重合することで高分子量化することができる。オキセタン化合物の例には、特開2001−220526号公報や特開2001−310937号公報などに記載されている既知のオキセタン化合物が含まれる。また、オキセタン化合物は、単独で使用してもよいし、オキセタン環を1個含有する単官能オキセタン化合物と、オキセタン環を2個以上含有する多官能オキセタン化合物とを併用することもできる。
【0036】
活性光線硬化型カチオン重合性インキ中のカチオン重合性化合物の含有量は、60〜95質量%の範囲内が好ましい。カチオン重合性化合物が60質量%未満の場合、硬化成分が少なくなりすぎてインキ層が形成されないおそれがある。一方、カチオン重合性化合物が95質量%超の場合、光重合開始剤の添加量が少なくなりすぎて、インキ層を十分に硬化させることができないおそれがある。
【0037】
エポキシ基含有シランカップリング剤は、カチオン重合性化合物やヒドロキシル基含有オキセタン化合物などとシロキサン結合を形成してインキ層の耐候性を向上させる。エポキシ基含有シランカップリング剤の種類は、特に限定されない。エポキシ基含有シランカップリング剤の例には、(3−(2,3エポキシプロポキシ)プロピル)トリメチルトリメトキシシラン、3−グリドキシプロピルメトキシシラン、エポキシ含有オリゴマー型のシランカップリング剤が含まれる。これらのエポキシ基含有シランカップリング剤は、公知の方法を用いて製造したものでもよいし、市販品を利用してもよい。市販のエポキシ基含有シランカップリング剤の例には、信越化学工業株式会社の「KBM−303;2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン」、「KBM−403;3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン」が含まれる。エポキシ基含有シランカップリング剤は、エポキシ基を有しているため、カチオン重合の開始反応が進みやすい。
【0038】
活性光線硬化型カチオン重合性インキ中のエポキシ基含有シランカップリング剤の含有量は、0.5〜10.0質量%の範囲内である。エポキシ基含有シランカップリング剤が0.5質量%未満の場合、シロキサン結合が不十分となるため、耐候性が低くなってしまうおそれがある。一方、エポキシ基含有シランカップリング剤が10.0質量%超の場合、自己縮合してしまい、インキ受理層に対する密着性が低下してしまうおそれがある。
【0039】
ヒドロキシル基含有オキセタン化合物は、分子内に1または2以上のヒドロキシル基を有する化合物である。ヒドロキシル基含有オキセタン化合物の種類は、特に限定されない。ヒドロキシル基含有オキセタン化合物の例には、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタンが含まれる。ヒドロキシル基含有オキセタン化合物は、公知の方法を用いて製造したものでもよいし、市販品を利用してもよい。市販のヒドロキシル基含有オキセタン化合物の例には、東亜合成株式会社の「OXT−101;3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン」が含まれる。このようなヒドロキシル基含有オキセタン化合物は、開始反応が進みにくいが、重合反応が進みやすい。
【0040】
活性光線硬化型カチオン重合性インキ中のヒドロキシル基含有オキセタン化合物の含有量は、10〜50質量%の範囲内である。ヒドロキシル基含有オキセタン化合物が10質量%未満の場合、活性光線硬化型カチオン重合性インキ中のエポキシ基含有シランカップリング剤の割合が多くなり、インキ層のインキ受理層に対する密着性が低下してしまうおそれがある。一方、ヒドロキシル基含有オキセタン化合物が50質量%超の場合、空気中の水分を吸収するため、活性光線硬化型カチオン重合性インキが硬化しないおそれがある。
【0041】
光重合開始剤は、活性光線の照射によりカチオン重合を開始させる。光重合開始剤の種類は、活性光線の照射によりカチオン重合を開始させることができればとくに限定されないが、活性光線の照射によりルイス酸を発生させるオニウム塩であることが好ましい。光重合開始剤の例には、ルイス酸のジアゾニウム塩、ルイス酸のヨードニウム塩、ルイス酸のスルホニウム塩などが含まれる。これらのオニウム塩は、芳香族ジアゾニウム、芳香族ヨードニウム、または芳香族スルホニウムなどを含むカチオン部分と、アニオン部分がBF
4−、PF
6−、SbF
6−、または[BX
4]−(Xは少なくとも2つ以上のフッ素またはトリフルオロメチル基で置換されたフェニル基)などを含むアニオン部分とを有する。具体的には、四フッ化ホウ素のフェニルジアゾニウム塩、六フッ化リンのジフェニルヨードニウム塩、六フッ化アンチモンのジフェニルヨードニウム塩、六フッ化ヒ素のトリ−4−メチルフェニルスルホニウム塩、四フッ化アンチモンのトリ−4−メチルフェニルスルホニウム塩、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ素のジフェニルヨードニウム塩、アセチルアセトンアルミニウム塩とオルトニトロベンジルシリルエーテル混合体、フェニルチオピリジウム塩、六フッ化リンアレン−鉄錯体などである。
【0042】
活性光線硬化型カチオン重合性インキ中の光重合開始剤の含有量は、3〜15質量%の範囲内であることが好ましい。光重合開始剤が3質量%未満の場合、十分な重合度が得られないため、インキ層が形成されないおそれがある。一方、光重合開始剤が15質量%超の場合、インキ層の表層と深層の硬化度の差が大きくなることにより歪が発生し、密着性が低下するおそれがある。
【0043】
顔料の種類は、有機顔料または無機顔料であれば、特に限定されない。有機顔料の例には、ニトロソ類、染付レーキ類、アゾレーキ類、不溶性アゾ類、モノアゾ類、ジスアゾ類、縮合アゾ類、ベンゾイミダゾロン類、フタロシアニン類、アントラキノン類、ペリレン類、キナクリドン類、ジオキサジン類、イソインドリン類、アゾメチン類およびピロロピロール類が含まれる。また、無機顔料の例には、酸化物類、水酸化物類、硫化物類、フェロシアン化物類、クロム酸塩類、炭酸塩類、ケイ酸塩類、リン酸塩類、炭素類(カーボンブラック)および金属粉類が含まれる。顔料は、活性光線硬化型カチオン重合性インキ中に0.5〜20質量%の範囲内で配合されていることが好ましい。顔料が0.5質量%未満の場合、着色が不充分となり、所望の画像が形成できないおそれがある。一方、顔料が20質量%超の場合、活性光線硬化型カチオン重合性インキの粘度が高くなりすぎて、インクジェットヘッドからの吐出不良を生じるおそれがある。
【0044】
分散剤は、活性光線硬化型カチオン重合性インキの各成分を分散状態にする。分散剤としては、低分子分散剤および高分子分散剤のいずれも使用することができる。分散剤は、公知の方法を用いて製造したものでもよいし、市販品を利用してもよい。このような市販の分散剤の例には、「アジスパーPB822」、「アジスパーPB821」(いずれも、味の素ファインテクノ株式会社)が含まれる。
【0045】
図1は、架橋型シロキサンオリゴマーの概略を示した構造図である。
図1に示されるように、シランカップリング剤は、ケイ素原子上にある複数のアルコキシ基の加水分解により複数のシラノール基を生じる。このシラノール基は、光重合開始剤から発生する強酸を酸触媒として、2重、3重にシロキサン結合を形成して架橋型シロキサンオリゴマーとなる。この架橋型シロキサンオリゴマーは、硬化収縮率が高いためインキ層の密着性低下の原因となりうる。したがって、インキ受理層に対するインキ層の密着性を向上させるためには、この架橋型シロキサンオリゴマーの生成を抑制する必要がある。
【0046】
本発明者らは、以下の(1)〜(3)により、シランカップリング剤同士の3次元架橋反応による架橋型シロキサンオリゴマーの生成を抑制して、インキ層の密着性を向上させうることを見出した。
【0047】
(1)活性光線硬化型カチオン重合性インキ中に、シランカップリング剤中のシラノール基と反応可能なヒドロキシル基含有オキセタン化合物を10〜50質量%を添加する。
【0048】
(2)シランカップリング剤の分子構造内にカチオン重合可能なエポキシ基を導入する。これにより、シランカップリング剤は、カチオン重合ポリマー鎖の一部となる。このため、シランカップリング剤同士が水素結合により近接した後、3次元架橋して架橋型シロキサンオリゴマーが生成するのを抑制することができる。
【0049】
(3)エポキシ含有シランカップリング剤の含有量をヒドロキシ基含有オキセタンの含有量よりも少ない0.5〜10質量%とするとともに、シランカップリング剤に導入したカチオン重合性の官能基をオキセタン環ではなくエポキシ基とする。一般的に、カチオン重合性モノマーであるエポキシ化合物は、硬化反応の開始は速いが、重合率はあまり大きくならない特性を有する。一方、カチオン重合モノマーであるオキセタン化合物は、硬化の開始は遅いが、反応の後半で硬化速度が速くなり、重合率が高くなる特性を有する。エポキシ化合物とオキセタン化合物のカチオン重合特性の違いは、それぞれが有する環状エーテルの環の歪と塩基性とから説明される。すなわち、環の歪はエポキシ基の方がオキセタン環よりも大きく、塩基性はオキセタン環の方がエポキシ基よりも大きい、という逆の特性を有する。
【0050】
上記(1)〜(3)により、カチオン重合ポリマーの重合開始点にエポキシ含有シランカップリング剤が導入されるものの、エポキシ基の特性からシランカップリング剤が連続してカチオン重合する可能性は極めて低くなる。これもシランカップリング剤同士が近接して架橋型シロキサンオリゴマーが生成するのを抑制すると考えられる。なお、エポキシ含有シランカップリング剤の添加量が10質量%超の場合、カチオン重合ポリマーの重合開始点に導入されなかったシランカップリング剤同士が、水素結合により近接して架橋型シロキサンオリゴマーを生成してインキ層の密着性が低下するおそれがあるので好ましくない。
【0051】
(オーバーコート層)
前述のように、本発明の印刷材は、インキ層の上にオーバーコート層をさらに有していてもよい。
【0052】
オーバーコート層を形成するためのオーバーコート塗料の種類は、特に限定されない。オーバーコート塗料の例には、有機溶剤型塗料、水系塗料、粉体塗料が含まれる。これらの塗料に用いられる樹脂成分の種類は、特に限定されない。樹脂成分の例には、アクリル樹脂系、ポリエステル系、アルキド樹脂系、シリコーン変性アクリル樹脂系、シリコーン変性ポリエステル系、シリコーン樹脂系、フッ素樹脂系が含まれる。これらの樹脂成分は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、オーバーコート塗料には、必要に応じてポリイソシアネート化合物、アミノ樹脂、エポキシ基含有化合物、カルボキシ基含有化合物などの架橋剤を配合してもよい。
【0053】
2.印刷材の製造方法
本発明に係る印刷材の製造方法は、基材を準備する工程と、基材の上にインキ受理層を形成する工程と、インキ受理層の上にインキ層を形成する工程と、を有する。また、必要に応じて、インキ層の上にオーバーコート層を形成してもよい。
【0054】
基材を準備する工程では、前述した金属系基材または窯業系基材を準備する。なお、準備した基材の上に化成処理皮膜および下塗り塗膜を形成してもよい。基材の表面に化成処理皮膜を形成する場合、化成処理皮膜は、基材の表面に化成処理液を塗布し、乾燥させることで形成されうる。化成処理液の塗布方法は、特に限定されず、公知の方法から適宜選択すればよい。そのような塗布方法の例には、ロールコート法やカーテンフロー法、スピンコート法、エアースプレー法、エアーレススプレー法、浸漬引き上げ法などが含まれる。化成処理液の乾燥条件は、化成処理液の組成などに応じて適宜設定すればよい。たとえば、化成処理液を塗布した基材を水洗することなく乾燥オーブン内に投入し、到達板温が80〜250℃の範囲内となるように加熱することで、基材の表面に均一な化成処理皮膜を形成することができる。また、下塗り塗膜をさらに形成する場合、下塗り塗膜は、化成処理皮膜の表面に下塗り塗料を塗布し、乾燥させることで形成されうる。下塗り塗料の塗布方法は、化成処理液の塗布方法と同じ方法を使用することができる。下塗り塗膜の乾燥条件は、樹脂の種類などに応じて適宜設定すればよい。たとえば、到達板温が150〜250℃の範囲内となるように加熱することで、化成処理皮膜の表面に均一な下塗り塗膜を形成することができる。
【0055】
基材の上にインキ受理層を形成する工程では、基材(または化成処理皮膜もしくは下塗り塗膜)の表面に、前述の樹脂組成物を塗布し、乾燥(または硬化)させることでインキ受理層を形成する。樹脂組成物の塗布方法は、特に限定されず、公知の方法から適宜選択すればよい。そのような塗布方法の例には、ロールコート法やカーテンフロー法、スピンコート法、エアースプレー法、エアーレススプレー法、浸漬引き上げ法などが含まれる。樹脂組成物の乾燥条件は、特に限定されない。たとえば、樹脂組成物を塗布した基材を到達板温が150〜250℃の範囲内となるように乾燥させることで、基材(または化成処理皮膜もしくは下塗り塗膜)の表面にインキ受理層を形成することができる。
【0056】
インキ受理層の表面には、JIS B 0601に準拠して測定した算術平均粗さRaが400〜3000nmの範囲内の凹凸を、ナノインプリント法や、ショットピーニング法などによって形成してもよい。
【0057】
インキ受理層の上にインキ層を形成する工程では、インキ受理層の表面に、インクジェットプリンターを用いて、前述の活性光線硬化型カチオン重合性インキをインクジェット印刷した後、積算光量が100〜800mJ/cm
2の範囲内となるように活性光線(例えば紫外線)を照射して、活性光線硬化型カチオン重合性インキを硬化させる。前述したように、活性光線硬化型カチオン重合性インキは、カチオン重合性化合物と、0.5〜10.0質量%のエポキシ含有シランカップリング剤と、10〜50質量%のヒドロキシル基含有オキセタン化合物と、光重合開始剤とを含む。紫外線の積算光量は、紫外線照度計・光量計(UV−351−25;株式会社オーク製作所)を用いて、測定波長域;240〜275nm、測定波長中心;254nmで測定することができる。
【0058】
ここで、本発明者らは、活性光線硬化型カチオン重合性インキを硬化させる環境のパラメータを検討した。その結果、本発明者らは、活性光線硬化型カチオン重合性インキを適切に硬化させるためには、活性光線硬化型カチオン重合性インキを硬化させるときの周囲の絶対湿度および気温の関係が重要であることを見出した。具体的には、インキ受理層に塗布された活性光線硬化型カチオン重合性インキを硬化させるために、活性光線硬化型カチオン重合性インキに活性光線(紫外線)を照射している間の絶対湿度VH(g/m
3)および気温T(℃)は、以下の式(1)および式(2)を満たす必要がある。
3.75×VH−25≦T≦10×VH−5 …(1)
15≦T≦40 …(2)
【0059】
絶対湿度および気温が式(1)を満たさない場合、活性光線硬化型カチオン重合性インキが適切に硬化しないばかりでなく、活性光線硬化型カチオン重合性インキがインキ受理層に密着しないおそれがある。
【0060】
絶対湿度VH(g/m
3)および気温T(℃)が式(1)および式(2)を満たすように制御する方法は、特に限定されない。活性光線を照射する領域の雰囲気を一定に維持できるように囲った上で、絶対湿度および気温(温度)を制御することが好ましい。例えば、気温の制御は、エアーコンディショナーで行ってもよい。絶対湿度が高い場合の湿度制御は、除湿器で除湿することにより行ってもよい。また、絶対湿度が低い場合の湿度制御は、加湿器で加湿することにより行ってもよい。
【0061】
また、活性光線硬化型カチオン重合性インキに活性光線を照射している間の絶対湿度VH(g/m
3)は、さらに以下の式(3)を満たすことが好ましい。
5≦VH≦10 …(3)
【0062】
絶対湿度VHが5〜10g/m
3の範囲内であれば、インキ層の密着性およびインキ層の硬化性が特に優れる。
【0063】
インキ受理層の上にインキ層を形成する工程では、活性光線を照射した後に、所定の温度で活性光線硬化型カチオン重合性インキを加熱してもよい。
【0064】
オーバーコート層は、オーバーコート塗料をインキ層の表面に塗布し、乾燥(または硬化)させることで形成される。オーバーコート塗料の塗布方法は、特に限定されず、公知の方法から適宜選択すればよい。そのような塗布方法の例には、ロールコート法やカーテンフロー法、スピンコート法、エアースプレー法、エアーレススプレー法、浸漬引き上げ法などが含まれる。オーバーコート塗料の乾燥条件は、特に限定されない。たとえば、オーバーコート塗料を塗布した印刷材を到達板温が60〜150℃の範囲内となるように乾燥させることで、印刷材の表面にオーバーコート層を形成することができる。
【0065】
以上のように、本発明の印刷材の製造方法の特徴は、エポキシ基含有シランカップリング剤およびヒドロキシル基含有オキセタン化合物を所定量含む活性光線硬化型カチオン重合性インキを用い、絶対湿度および気温を制御された環境で活性光線を照射して活性光線硬化型カチオン重合性インキを硬化することである。このとき、絶対湿度(VH)および気温(T)が3.75×VH−25≦T≦10×VH−5および15≦T≦40を満たすように制御されているため、本発明の印刷材の製造方法によって製造される印刷材は、活性光線硬化型カチオン重合性インキが適切に硬化するとともに、インキ受理層に対するインキ層の密着性に優れる。
【0066】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【実施例】
【0067】
1.印刷材の作製
(1)基材
塗装原板として、板厚が0.27mm、片面当たりのめっき付着量が90g/m
2の溶融Zn−55%Al合金めっき鋼板を準備した。アルカリ脱脂した塗装原板の表面に塗布型クロメート処理液(NRC300NS;日本ペイント株式会社)を塗布し、全クロム換算付着量が50mg/m
2の化成処理皮膜を形成した。次いで、ポリエステル系プライマー塗料(700P;日本ファインコーティングス株式会社)を、バーコーターを用いて化成処理皮膜の上に塗布し、到達板温215℃で焼き付けて、乾燥膜厚5μmの下塗り塗膜を形成した。
【0068】
(2)インキ受理層
次いで、インキ受理層を形成するための樹脂組成物を、バーコーターを用いて下塗り塗膜の上に塗布し、到達板温225℃で1分間焼き付けることで、乾燥膜厚20μmのインキ受理層を形成した。樹脂組成物(白色塗料)は、ポリエステル(数平均分子量5000、ガラス転移温度30℃、水酸基価28mgKOH/g;DIC株式会社)と、架橋剤としてのメチル化メラミン樹脂(サイメル303;三井サイテック株式会社)とを70:30で混合して得られたベース樹脂に、さらに触媒、アミンおよび着色顔料を配合することで調製した。触媒としては、ドデシルベンゼンスルフォン酸を樹脂固形分に対して1質量%添加した。また、アミンとしては、ジメチルアミノエタノールを、ドデシルベンゼンスルフォン酸の酸等量に対してアミン等量として1.25倍の量を加えた。着色顔料としては、平均粒径0.28μmの酸化チタン(JR−603;テイカ株式会社)を樹脂固形分に対して45質量%添加した。
【0069】
(3)インキ層
A.活性光線硬化型カチオン重合性インキの調製
ガラス瓶に、エポキシ化合物(CEL2021P、CEL3000; 株式会社ダイセル)合計10質量%、オキセタン化合物(OXT−221、OXT−212;東亜合成株式会社)合計35.5質量%、エポキシ基含有シランカップリング剤(KBM−403;信越化学工業株式会社)5.0質量%、ヒドロキシル基含有オキセタン化合物(OXT−101;東亜合成株式会社)25.0質量%、黒色顔料(チャンネルブラック RCF♯33;三菱化学株式会社)3.0質量部、顔料分散剤(PB822;味の素ファインテクノ株式会社)3.5質量%との混合物およびジルコニアビーズ(直径1mm)200gを入れて密栓した。次いで、ペイントシェーカーで4時間分散処理した。分散処理後、ジルコニアビーズを除去して顔料分散体を調製した。顔料分散体に、光カチオン重合開始剤(CPI−100P;サンアプロ株式会社)18質量%を混合して、活性光線硬化型カチオン重合性インキを調製した。
【0070】
B.インクジェット印刷
インクジェット印刷は、ノズル径が35μmのインクジェットヘッドを使用した。また、インクジェット印刷時のヘッド加熱温度は45℃、印加電圧は11.5V、パルス幅は10.0μs、駆動周波数は3483Hz、インキ滴の体積は42pl、解像度は360dpiでインキ塗布量:8.4g/m
2(インキ層が隙間なく形成されるべき量)となるように印刷した。
【0071】
C.紫外線照射
インクジェット印刷後の塗装材に対して、高圧水銀ランプ(Hバルブ;フュージョンUVシステムズ・ジャパン株式会社)を用いて、200W/cmのランプ出力で、積算光量:600mJ/cm
2(赤外線光量計UV−351−25;株式会社オーク製作所で測定)となるように、紫外線を照射した。インクジェット印刷後、紫外線を照射している間の塗装材の周囲の温度(気温)および湿度を適宜調整した。
【0072】
気温の制御は、エアーコンディショナーを用いて行った。湿度の制御は、デシカント除湿機(ドライセーブ(登録商標)R−060BP型;株式会社西部技研)で除湿するか、またはPTC蒸気加湿器(ヒュミダス;ユーキャン株式会社)で加湿することで行った。気温および湿度の測定は、温度湿度プローブHMP46を取り付けた湿度指示計HMI41(ヴァイサラ株式会社)を用いて行った。
【0073】
紫外線照射後、自動排出型乾燥機(AT0−101型;株式会社東上熱学)を使用し、70℃の炉温で5分間、後加熱処理を行った。
【0074】
2.インキ層の評価
(1)密着性の評価
印刷材に対して、JIS K5600−5−6に準拠した碁盤目試験を実施した。具体的には、印刷材の表面に、1mm間隔で100個のマス目ができるように基盤目状の切り込みを入れ、当該部分にテープを貼り付けた。テープ剥離後、インキ層の残存率を観察した。インキ層の剥離面積が0%のものを「◎」と評価し、剥離面積が0%超かつ10%以内であったものを「○」と評価し、剥離面積が10%超かつ20%以内であったものを「△」と評価し、剥離面積が20%を超えたものを「×」として評価した。UVインキ層の密着性の評価が△以上であれば実用可能である。
【0075】
(2)硬化性の評価
印刷材に対して、キシレンを含有させた1cm×1cmの脱脂綿で500gの荷重をかけてUVインキ層を50回往復で擦り、UVインキ層の外観を目視により評価した。UVインキ層の外観に変化が認められないものを「◎」と評価し、艶引けが認められるものを「○」と評価し、UVインキ層が素地まで溶解し、素地の露出面積が0%超であって20%以内であったものを「△」と評価し、素地の露出が20%以上であったものを「×」として評価した。UVインキ層の密着性の評価が△以上であれば実用可能である。
【0076】
(3)総合評価
インキ層の総合評価は、前述の密着性の評価および硬化性の評価の評価結果に基づいて行った。密着性および硬化性の評価で×があったものを「×」と評価し、密着性および硬化性の評価で×がなく△があったものを「△」と評価し、密着性および硬化性の評価で×および△がなく○があったものを「○」と評価し、密着性および硬化性の評価がいずれも◎であったものを「◎」と評価した。総合評価が△以上であれば実用可能である。
【0077】
【表1】
【0078】
(4)結果
図2は、表1の評価結果をプロットしたグラフであり、絶対湿度および気温とインクの密着性との関係を示すグラフである。
図2の直線L1は、T=10VH−5を示しており、直線L2は、T=3.75VH−25を示している。また、直線L3は、T=40を示しており、直線L4は、T=15を示している。また、破線は、VH=3,16を示す直線であり、一点鎖線は、VH=4,12を示す直線であり、二点破線は、VH=5,10を示す直線である。
【0079】
図2に示されるように、紫外線を照射している間の絶対湿度VHと気温Tの関係がT<3.75VH−25、またはT>10VH−5であった比較例1〜5の印刷材は、密着性および硬化性のいずれかが劣っていた。
【0080】
一方、紫外線を照射している間の絶対湿度VHと気温Tの関係が3.75VH−25≦T≦10VH−5および15≦T≦40の条件を満たす実施例1〜16の印刷材は、密着性および硬化性が実用に耐えうる範囲内であった。また、絶対湿度VHが4≦VH≦12の範囲内で密着性および硬化性が向上し、絶対湿度VHが5≦VH≦10の範囲内で密着性および硬化性のいずれもが良好であった。
【0081】
以上の結果から、本発明の印刷材の製造方法は、活性光線硬化型カチオン重合性インキの密着性および硬化性に優れる印刷材を製造できることがわかる。