(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6568591
(24)【登録日】2019年8月9日
(45)【発行日】2019年8月28日
(54)【発明の名称】MEMSアクチュエータ、複数のMEMSアクチュエータを備えるシステム、およびMEMSアクチュエータを製造する方法
(51)【国際特許分類】
B81B 3/00 20060101AFI20190819BHJP
B81C 1/00 20060101ALI20190819BHJP
G02B 26/08 20060101ALN20190819BHJP
G02B 26/02 20060101ALN20190819BHJP
【FI】
B81B3/00
B81C1/00
!G02B26/08 E
!G02B26/02 E
【請求項の数】28
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2017-537473(P2017-537473)
(86)(22)【出願日】2016年1月12日
(65)【公表番号】特表2018-503523(P2018-503523A)
(43)【公表日】2018年2月8日
(86)【国際出願番号】EP2016050465
(87)【国際公開番号】WO2016113251
(87)【国際公開日】20160721
【審査請求日】2017年8月22日
(31)【優先権主張番号】102015200626.3
(32)【優先日】2015年1月16日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】500341779
【氏名又は名称】フラウンホーファー−ゲゼルシャフト・ツール・フェルデルング・デル・アンゲヴァンテン・フォルシュング・アインゲトラーゲネル・フェライン
(74)【代理人】
【識別番号】100205981
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 大輔
(72)【発明者】
【氏名】ピーター・ドゥエル
(72)【発明者】
【氏名】デトレフ・クンツェ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス・ノイデルト
(72)【発明者】
【氏名】マルティン・フリードリヒス
【審査官】
飯田 義久
(56)【参考文献】
【文献】
特表平01−502782(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B81B 3/00
B81C 1/00
G02B 26/02
G02B 26/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
MEMSアクチュエータ(100)であって、
基板(102)と、
前記基板(102)へ取り付けられる少なくとも1つのポスト(104)と、
前記少なくとも1つのポスト(104)へ少なくとも1つのばね(108)を介して接続される偏向可能なアクチュエータ本体(106)と、を備え、
前記少なくとも1つのバネ(108)は、前記ポスト(104)から離れる方向に伸びるばねエレメントと前記ポスト(104)へ向かって延びるばねエレメントを備えているか、又は、前記ポスト(104)から離れる方向に伸びるばねエレメントと前記ポスト(104)へ向かって延びるレバーアームを備えており、
静電力、電磁力または磁力を印加する間、前記アクチュエータ本体(106)は、第1の位置を起点としてチルトフリーの並進運動により第2の位置をとり、前記第1の位置と前記第2の位置とは異なり、
前記MEMSアクチュエータ(100)の平面図において、前記アクチュエータ本体(106)の少なくとも90%および前記アクチュエータ本体(106)の重心は領域(110)の外側に配置され、少なくとも2つのポスト(104)を備えている場合、前記領域(110)は前記少なくとも2つのポストによってスパンされる領域であり、1つのポスト(104)を備えている場合、前記領域(110)はそのポスト(104)の領域である、MEMSアクチュエータ(100)。
【請求項2】
前記アクチュエータ本体(106)は、力の印加方向に対して平行なチルトフリーの並進運動を実行する、請求項1に記載のMEMSアクチュエータ(100)。
【請求項3】
前記MEMSアクチュエータ(100)は、偏向可能な前記アクチュエータ本体(106)に静電力、電磁力または磁力を印加させるように構成される駆動手段を備える、請求項1から2のいずれか一項に記載のMEMSアクチュエータ。
【請求項4】
前記アクチュエータ本体(106)が運動する間、個々の運動振幅で重み付けされた前記MEMSアクチュエータの可動エレメントの重心は、力印加の主要な力印加ベクトルに沿って進む、請求項1から3のいずれか一項に記載のMEMSアクチュエータ(100)。
【請求項5】
前記アクチュエータ本体(106)は、前記アクチュエータ本体(106)の主表面(114)の隣接領域(116)において前記ばね(108)のみへ接続され、前記隣接領域(116)は、前記主表面(114)の30%以下である、請求項1から4のいずれか一項に記載のMEMSアクチュエータ(100)。
【請求項6】
前記アクチュエータ本体(106)は、1つのばね(108)のみへ接続される、請求項1から5のいずれか一項に記載のMEMSアクチュエータ(100)。
【請求項7】
前記アクチュエータ本体(106)は、1つのポスト(104)のみへ接続される、請求項1から6のいずれか一項に記載のMEMSアクチュエータ(100)。
【請求項8】
前記アクチュエータ本体(106)は、アクチュエータプレート(106)を備える、請求項1から3のいずれか一項に記載のMEMSアクチュエータ(100)。
【請求項9】
前記アクチュエータプレート(106)は、前記アクチュエータプレート(106)に対する垂直方向に平行なチルトフリーの並進運動を実行する、請求項8に記載のMEMSアクチュエータ(100)。
【請求項10】
前記力印加の方向は、前記アクチュエータプレート(106)に対して垂直に延びる、請求項8または9に記載のMEMSアクチュエータ(100)。
【請求項11】
前記MEMSアクチュエータ(100)は、前記アクチュエータプレート(106)に対向する電極プレート(120)を備える、請求項8から10のいずれか一項に記載のMEMSアクチュエータ(100)。
【請求項12】
前記MEMSアクチュエータ(100)は、前記アクチュエータプレート(106)へ前記電極プレート(120)を介して静電力印加を実行するように構成される、請求項11に記載のMEMSアクチュエータ(100)。
【請求項13】
前記MEMSアクチュエータ(100)は、前記アクチュエータプレート(106)に対向するコイルを備える、請求項8から10のいずれか一項に記載のMEMSアクチュエータ(100)。
【請求項14】
前記ばね(108)は、前記ポスト(104)と前記アクチュエータ本体(106)との間の接続部に沿って可変断面を有する、請求項1から13のいずれか一項に記載のMEMSアクチュエータ(100)。
【請求項15】
前記ばね(108)は、前記ポスト(104)と前記アクチュエータ本体(106)との間の接続部に沿って可変剛性を有する、請求項1から14のいずれか一項に記載のMEMSアクチュエータ(100)。
【請求項16】
前記ばね(108)は、その静止位置の平面内に対称性を持たない、請求項1から15のいずれか一項に記載のMEMSアクチュエータ(100)。
【請求項17】
前記ばね(108)は、渦巻き状である、請求項1から16のいずれか一項に記載のMEMSアクチュエータ(100)。
【請求項18】
前記ばね(108)は、異なる方向へ延びる複数のばねエレメントを備え、
前記複数のばねエレメントのうちの第1の方向へ延びる少なくとも1つの第1のばねエレメント(108_1)は、第1の軸を中心とする前記アクチュエータ本体(106)のチルトを防止するように構成され、
前記複数のばねエレメントのうちの第2の方向へ延びる少なくとも1つの第2のばねエレメント(108_2)は、第2の軸を中心とする前記アクチュエータ本体(106)のチルトを防止するように構成される、請求項17に記載のMEMSアクチュエータ(100)。
【請求項19】
前記ばね(108)は、第1のばねエレメント(108_1)と、前記第1のばねエレメント(108_1)より短い第2のばねエレメント(108_2)とを備え、前記第1のばねエレメント(108_1)は、前記ポスト(104)へ接続されかつ前記ポスト(104)から実質的に離れて延び、かつ前記第2のばねエレメント(108_2)は、前記ポスト(104)から遠位に面する前記第1のばねエレメント(108_1)の端へ接続されかつ前記ポスト(104)へ向かって実質的に延びる、請求項1から15のいずれか一項に記載のMEMSアクチュエータ(100)。
【請求項20】
前記第1のばねエレメント(108_1)および前記第2のばねエレメント(108_2)は、前記アクチュエータ本体(106)の少なくとも1つの偏向状態において互いに平行に延びる、請求項19に記載のMEMSアクチュエータ(100)。
【請求項21】
前記アクチュエータ本体(106)が前記ばね(108)へ接続される、または接続エレメント(112)を介して前記ばね(108)へ接続される接続点は、前記アクチュエータ本体(106)の重心または前記アクチュエータ本体(106)へ印加される力の重心と一致する、請求項1から20のいずれか一項に記載のMEMSアクチュエータ(100)。
【請求項22】
前記ばね(106)は、少なくとも1つのばねエレメントを備え、前記ばねエレメントは、前記アクチュエータ本体(106)の重心または前記アクチュエータ本体(106)へ印加される力の重心と、前記アクチュエータ本体(106)が前記ばね(108)へ接続される、または前記アクチュエータ本体(106)が接続エレメント(112)を介して前記ばね(108)へ接続される接続点との間のレバーアームの2倍の長さである、請求項1から15のいずれか一項に記載のMEMSアクチュエータ(100)。
【請求項23】
請求項1から22までのいずれか一項に記載の複数のMEMSアクチュエータ(100)を備え、前記MEMSアクチュエータ(100)は、共通の基板(102)を備える、システム。
【請求項24】
前記MEMSアクチュエータ(100)のうちの少なくとも1つのMEMSアクチュエータのアクチュエータ本体は、前記MEMSアクチュエータ(100)のうちの異なる1つのMEMSアクチュエータのポストを配置するための窪みを備える、請求項23に記載のシステム。
【請求項25】
MEMSアクチュエータを動作させるための方法(180)であって、前記MEMSアクチュエータは、基板と、基板に取り付けられる少なくとも1つのポストと、前記少なくとも1つのポストへ少なくとも1つのばねを介して接続される偏向可能なアクチュエータ本体とを備え、前記少なくとも1つのバネ(108)は、前記ポスト(104)から離れる方向に伸びるばねエレメントと前記ポスト(104)へ向かって延びるばねエレメントを備えているか、又は、前記ポスト(104)から離れる方向に伸びるばねエレメントと前記ポスト(104)へ向かって延びるレバーアームを備えており、前記MEMSアクチエータの平面図において、前記アクチュエータ本体の少なくとも90%および前記アクチュエータ本体の重心は領域の外側に配置され、少なくとも2つのポスト(104)を備えている場合、前記領域は前記少なくとも2つのポストによってスパンされる領域(110)であり、1つのポスト(104)を備えている場合、前記領域はそのポスト(104)の領域(110)であり、前記方法は、
偏向可能な前記アクチュエータ本体へ静電力、電磁力または磁力を印加すること(182)を含み、静電力、電磁力または磁力を印加する間、前記アクチュエータ本体は、第1の位置を起点としてチルトフリーの並進運動により第2の位置を取り、前記第1の位置と前記第2の位置とは異なる、方法(180)。
【請求項26】
MEMSアクチュエータを製造するための方法(200)であって、
基板を提供すること(202)と、
少なくとも1つのポストを提供すること(204)であって、前記少なくとも1つのポストは、前記基板に取り付けられることと、
偏向可能なアクチュエータ本体を提供すること(206)と、
少なくとも1つのばねを提供すること(208)、を含み、
前記少なくとも1つのバネ(108)は、前記ポスト(104)から離れる方向に伸びるばねエレメントと前記ポスト(104)へ向かって延びるばねエレメントを備えているか、又は、前記ポスト(104)から離れる方向に伸びるばねエレメントと前記ポスト(104)へ向かって延びるレバーアームを備えており、
偏向可能な前記アクチュエータ本体は、前記少なくとも1つのばねを介して前記少なくとも1つのポストへ接続され、前記MEMSアクチュエータの平面図において、前記アクチュエータ本体の少なくとも90%および前記アクチュエータ本体の重心は領域の外側に配置され、少なくとも2つのポスト(104)を備えている場合、前記領域は前記少なくとも2つのポストによってスパンされる領域(110)であり、1つのポスト(104)を備えている場合、前記領域はそのポスト(104)の領域(110)であり、かつ静電力、電磁力または磁力を印加する間、前記アクチュエータ本体は、第1の位置を起点としてチルトフリーの並進運動により第2の位置をとり、前記第1の位置と前記第2の位置とは異なる、方法(200)。
【請求項27】
前記MEMSアクチュエータのシミュレーションを実行することをさらに含み、前記MEMSアクチュエータの前記シミュレーションを実行するとき、前記MEMSアクチュエータの運動関連パラメータのうちの少なくとも1つは、前記アクチュエータ本体が、静電力、電磁力または磁力を印加する間に前記第1の位置を起点としてチルトフリーの並進運動により前記第2の位置をとるまで適応され、
前記アクチュエータ本体はアクチュエータプレートを備え、前記ポスト、偏向可能な前記アクチュエータプレートおよび前記ばねのうちの少なくとも1つは、前記運動関連パラメータに依存して提供される、請求項26に記載の、MEMSアクチュエータを製造するための方法(200)。
【請求項28】
前記MEMSアクチュエータの前記運動関連パラメータは、偏向可能な前記アクチュエータ本体の幾何学的形状、前記アクチュエータ本体に対する前記ポストの位置、前記ばねの幾何学形状、前記ばねと前記ポストとの間の接続点の配置、および/または前記ばねと偏向可能な前記アクチュエータ本体との間の接続点の配置を含む、請求項27に記載の、MEMSアクチュエータを製造するための方法(200)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、MEMSアクチュエータ(MEMSは微小電気機械システム)に関する。さらなる実施形態は、複数のMEMSアクチュエータを備えるシステムに関する。さらなる実施形態は、MEMSアクチュエータを製造する方法に関する。幾つかの実施形態は、片側サスペンションを有する平行偏向MEMSアクチュエータに関する。幾つかの実施形態は、MEMSアクチュエータの設計に関する。
【背景技術】
【0002】
MEMSアクチュエータは、例えば、MEMSアクチュエータに接続されるマイクロミラーを移動させ、かつこれを所望される通りに位置合わせするために用いることができる。このようなアクチュエータは、空間光変調器、スキャナミラー、光クロスコネクト、マイクロバルブ、電気マイクロスイッチ、およびその他の広範な用途に使われることが多くなっている。
【0003】
通常、アクチュエータ可動部の位置は、印加される電気信号によって制御される。多くの場合、物理的効果として静電気引力が使用されるが、電磁気力ならびに圧電または熱膨張を用いることもできる。本発明は、静電的または電磁的に制御される、静的平衡偏向のための個々の反作用力を加えるリセット弾性サスペンションを有する微小機械アクチュエータにとって特に効果的である。
【0004】
実施されるべき運動の種類により、回転/傾動アクチュエータおよび並進アクチュエータ、ならびに両方の種類の運動を可能にするアクチュエータを区別することができる。後者の場合は、運動コンポーネントをある種類のサスペンションによりしっかりと結合でき、あるいは、幾つかの制御信号(例えば、ピストン−チップ−チルト)によって個々に調整することができる。運動の種類ならびに必然的に生じる偏向は、通常、アプリケーションの物理的パラメータおよび境界条件によって予め決定される。これは、例えば、変調されるべき光の波長またはスキャナの角度範囲であってもよい。
【0005】
多くの場合、上述のアクチュエータは、特にこれらがマイクロミラーへ結合される場合、キャリア基板上に多数が密集して詰め込まれる。ミラーの形状およびサイズは、通常、アプリケーションおよび光学的境界条件によって限定される。これらは、各々がアクチュエータの弾性サスペンションおよびばねの構造設計に利用可能なスペースを決定する。ばね以外にも、そのマウント、すなわちポストも、この限られた領域に収容されなければならない。
【0006】
並進運動のための従来のMEMSアクチュエータでは、偏向の間に望ましくないチルトが発生し得ないことが明らかな対称性を有する幾何学的形状のばねが使用される。正方形(または長方形)の配置では、通常4つ、時には単に2つの類似するばねが使用され、六角形のミラーでは多くの場合3つ、時には6つの類似するばねが使用される。これらのばね配置は、各々、マニホルドの回転対称性も有し、多くの場合、1つまたは幾つかの鏡面対称性も有する。従来は、少なくとも二回回転対称性が存在する。これにより、少なくとも1つのばねの一端が接続されるアンカポイントまたはポストが少なくとも2つ存在することも誘導される。
【0007】
この場合、基本的には、各ポストに幾つかのばねが取り付けられる得るが、その場合、これらのばねは電気接続される。ばねは、アクチュエータ可動部への配電線をも形成することから、アクチュエータは全て同じ電位を有するが、この場合、それは望ましくない。アクチュエータを個々に電気的にアドレス指定するためには、アクチュエータ毎に幾つかのポストが必要となる。製造可能な最小の構造的サイズおよび層厚さに関連して、残りの空間は、多くの場合、実現可能なアドレス指定力よりも比較的剛性のあるばねしか許容しない。
【0008】
アクチュエータが幾つかのポストにおいてばねで懸架されれば、製造によりばね面に誘発される応力または熱応力がばね定数に大きく影響する可能性がある。この効果は、ばねが半径方向および直線状に伸びる場合に特に強い。この場合、導入された、または熱的に引き起こされた応力は、緩和することができない。加えて、ポストサスペンションとアクチュエータとの距離は、偏向の増大と共に増加し、よってばねが伸びることから、ばね力は、強く非線形式に作用する。この非線形性は、有利である可能性もある(Peter Durr、Andreas Gehner、Jan Schmidt、Detlef Kunze、Michael Wagner、Hubert Laknerによる「Micro−actuator with extended analog deflection at low drive voltage」、Proceedings of SPIE、第6114巻(2006)を参照されたい)が、このばねの幾何学的形状は、層応力への同時的依存性によって制御不能になることが多い。したがって、従来技術では、通常、並進ミラーには折り畳まれた、若しくは曲がったばねが、またはより方位角方向寄りのばねが使用される(例えば、Andreas Gehnerらによる「MEMS analog light processing−an enabling technology for adaptive optical phase control」、Proc.of SPIE、第6113巻、61130K(2006)を参照されたい)。これにより、ばね定数ならびに非線形性の応力依存性はより小さくなるが、完全になくなるわけではない。また、ばねが、ばねから懸架されるミラーよりさらに伸張されることも可能である(例えば、D.Lopezらによる「Two−dimensional MEMS array for maskless lithography and wave−front Modulation」、Proc.of SPIE、第6589巻、65890S(2007)を参照されたい)が、1ピクセル当たりの利用可能領域は、その影響を受けない。
【0009】
米国特許第4566935号明細書からは、非対称のばね配置が知られるが、これらは、傾斜運動モードのためのものであって、単なる平行移動には不適である。さらに、平行移動がチルトによって重畳されるアプローチが、Richard Stahlらによる「Modular sub−wavelength diffractive light modulator for high−definition holographic displays」Journal of Physics、Conference Series 415(2013)から知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第4566935号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Peter Durr、Andreas Gehner、Jan Schmidt、Detlef Kunze、Michael Wagner、Hubert Laknerによる「Micro−actuator with extended analog deflection at low drive voltage」Proceedings of SPIE、第6114巻(2006)
【非特許文献2】Andreas Gehnerらによる「MEMS analog light processing−an enabling technology for adaptive optical phase control」Proc.of SPIE、第6113巻、61130K(2006)
【非特許文献3】D.Lopezらによる「Two−dimensional MEMS array for maskless lithography and wave−front Modulation」Proc.of SPIE、第6589巻、65890S(2007)
【非特許文献4】Richard Stahlらによる「Modular sub−wavelength diffractive light modulator for high−definition holographic displays」、Journal of Physics、Conference Series 415(2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明の目的は、より柔軟なばね設計を可能にすると同時に、アクチュエータ本体がチルトフリーの並進運動を行うことを保証する概念を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的は、独立請求項によって解決される。効果的なさらなる展開は、従属請求項に見出すことができる。
【0014】
本発明の実施形態は、基板と、基板に取り付けられる少なくとも1つのポストと、少なくとも1つのポストへ少なくとも1つのばねを介して接続される偏向可能なアクチュエータ本体とを備えるMEMSアクチュエータを提供し、静電力、電磁力または磁力を印加する間、アクチュエータ本体は、第1の位置を起点としてチルトフリーの並進運動により第2の位置をとり、第1の位置と第2の位置とは異なり、かつMEMSアクチュエータの平面図において、アクチュエータ本体は、少なくとも1つのポストによりスパンされる領域の外側に配置される。
【0015】
さらなる実施形態は、複数のMEMSアクチュエータを備えるシステムを提供し、MEMSアクチュエータは、共通基板と、各々が基板に取り付けられる少なくとも1つのポストと、少なくとも1つのばねを介して、当該少なくとも1つのポストへ接続される偏向可能なアクチュエータ本体とを備え、静電力、電磁力または磁力を印加する間、アクチュエータ本体は、第1の位置を起点としてチルトフリーの並進運動により第2の位置をとり、第1の位置と第2の位置とは異なり、かつ個々のMEMSアクチュエータの平面図において、アクチュエータ本体は、少なくとも1つのポストによりスパンされる領域の外側に配置される。
【0016】
さらなる実施形態は、MEMSアクチュエータを製造する方法を提供する。本方法は、基板を提供することと、少なくとも1つのポストを提供することであって、当該少なくとも1つのポストが、当該基板に取り付けられることと、偏向可能なアクチュエータ本体を提供することと、少なくとも1つのばねを提供することを含み、偏向可能なアクチュエータ本体は、少なくとも1つのポストへ少なくとも1つのばねによって接続され、MEMSアクチュエータの平面図において、アクチュエータ本体は、少なくとも1つのポストによってスパンされる領域の外側に配置され、かつアクチュエータ本体は、静電力、電磁力または磁力を印加する間、第1の位置を起点としてチルトフリーの並進運動により第2の位置をとり、第1の位置と第2の位置とは異なる。
【0017】
添付の図面を参照して、本発明の実施形態をより詳細に論じる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1a】本発明の一実施形態による、1つのばねのみを介して1つのポストのみへ接続されたアクチュエータ本体を備えるMEMSアクチュエータの略平面図である。
【
図1b】本発明の一実施形態による、
図1aに示されているMEMSアクチュエータの略断面図である。
【
図2a】本発明の一実施形態による、2つのポストへ1つのばねを介して接続されたアクチュエータ本体を備えるMEMSアクチュエータの略平面図である。
【
図2b】本発明の一実施形態による、
図2aに示されているMEMSアクチュエータの略断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態による、一方向に懸架されたアクチュエータ本体を備えるMEMSアクチュエータの略断面図である。
【
図4a】本発明の一実施形態による、1つのばねのみを介して1つのポストのみへ接続されたアクチュエータ本体を備えるMEMSアクチュエータを示す略斜視図である。
【
図4b】FEMシミュレーション環境における、
図4aに示されているMEMSアクチュエータの概略図である。
【
図5a】本発明の一実施形態による、1つのばねのみを介して1つのポストのみへ接続されたアクチュエータ本体を備えるMEMSアクチュエータを示す略斜視図である。
【
図5b】FEMシミュレーション環境における、
図5aに示されているMEMSアクチュエータの概略図である。
【
図6】本発明の一実施形態による、MEMSアクチュエータの製造または設計方法のフロー図である。
【
図7】本発明の一実施形態による、渦巻ばねを介して1つのポストのみへ接続されたアクチュエータ本体を備えるMEMSアクチュエータの略平面図である。
【
図8a】本発明の一実施形態による、渦巻ばねを介して1つのポストのみへ接続されたアクチュエータ本体を備えるMEMSアクチュエータの略斜視図である。
【
図8b】FEMシミュレーション環境における、
図8aに示されているMEMSアクチュエータの概略図である。
【
図9】本発明の一実施形態による、2つのポストへ1つのばねを介して接続されたアクチュエータ本体を備えるMEMSアクチュエータの略斜視図である。
【
図10】本発明の一実施形態による、MEMSアクチュエータの動作方法のフロー図である。
【
図11】本発明の一実施形態による、MEMSアクチュエータの製造方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態に関する以下の説明では、図中の同じまたは同等の要素に同じ参照数字を付している。よって、その説明は、異なる実施形態において互換的である。
【0020】
図1aは、MEMSアクチュエータ100の略平面図を示し、一方で
図1bは、
図1aに示されているMEMSアクチュエータ100の略断面図を示す。MEMSアクチュエータ100は、基板102と、基板102に取り付けられるポスト104と、1つのばね108のみを介してポスト104へ接続される偏向可能なアクチュエータ本体106とを含み、静電力、電磁力または磁力を印加する間、アクチュエータ本体106は、第1の位置を起点としてチルトフリーの並進運動により第2の位置をとり、第1の位置と第2の位置とは異なり、かつMEMSアクチュエータの平面図では、
図1aから分かるように、アクチュエータ本体106は、
図1aにおいて点線で限定されているポスト104によりスパンされる領域110の外に配置される。
【0021】
MEMSアクチュエータ100は、例えば、偏向可能なアクチュエータ本体に静電力、電磁力または磁力を印加するように構成される駆動手段を備えてもよい。
【0022】
図1aおよび
図1bに示すMEMSアクチュエータ100は、1つのばね108のみを介して1つのポスト104のみへ接続されるアクチュエータ本体106を備えているが、本発明がこのような実施形態に限定されないことに留意すべきである。
【0023】
実施形態において、MEMSアクチュエータ100は、n個までのポスト104_1から104_nを備えることができ、nは1以上の自然数、n>1である。したがって、MEMSアクチュエータ100は、基板に取り付けられる少なくとも1つのポストと、少なくとも1つのポストへ少なくとも1つのばねを介して接続される偏向可能なアクチュエータ本体とを備えてもよく、MEMSアクチュエータの平面図において、アクチュエータ本体106は、ポスト104_1から104_nによってスパンされる領域110の外に配置される。
【0024】
例えば、
図2aおよび
図2bに示すように、MEMSアクチュエータ100は、2つのポスト、104_1および104_n(n=2)を備えてもよい。
図2aから分かるように、この場合もやはり、アクチュエータ本体106は、点線で限定されている2つのポスト、104_1および104_n(n=2)によってスパンされる領域110の外に配置される。
【0025】
アクチュエータ本体106は、1つのばねを介してn個のポストのうちの各々、104_1または104_nへ接続されてもよい。この場合、ばね108は、幾つかのばねエレメント(またはばね部分)を備えてもよく、アクチュエータ本体106は、異なるばねエレメントを介してn個のポスト、104_1または104_nへ接続されてもよい。
【0026】
図2aおよび
図2bにおいて、アクチュエータ本体106は、2つのポスト104_1および104_n(n=2)の各々へばね108を介して接続され、ばね108は、例示的に4つのばねエレメント(または、ばね部分)108_1から108_4、を備え、第1のばねエレメント108_1は、ポスト104と、接続ばねエレメントとして実装される第4のばねエレメント104_4との間に直列接続され、第2のばねエレメント108_2は、第2のポスト104_2と第4のばねエレメント104_4との間に直列接続され、かつ第3のばねエレメントは、接続ばねエレメント108_4とアクチュエータ本体106との間に直列接続されている。
【0027】
図1aおよび
図1bにおいても、ばね108は、例示的に4つのばねエレメント108_1から108_4を備えているが、ここでは、第1のばねエレメント108_1および第2のばねエレメント108_2の双方が(同じ)ポスト104へ接続されている。
【0028】
アクチュエータ本体106は、MEMSアクチュエータ100の平面図において少なくとも1つのポストによりスパンされる領域110の外に配置されるが、アクチュエータ本体106は、静電力、電磁力または磁力を印加する間、第1の位置を起点としてチルトフリーの並進運動により第2の位置をとる。ここで、チルトフリーの並進運動とは、チルト(傾斜軸を中心とする)が3°、1°、0.5°または0.1°未満の並進運動を意味する。さらに、チルトフリーの並進運動は、アクチュエータ本体の個々のポイント毎の運動振幅が、平均運動振幅から最大で10%、5%または2%異なるという事実に関連し得る。さらに、チルトフリーの並進運動は、静電力、電磁力または磁力の印加によって引き起こされる振動および振動運動の各基本モードに関連し得る。
【0029】
アクチュエータ本体106は、例えば、力の印加方向に平行なチルトフリーの並進運動を実行してもよい。例えば、アクチュエータ本体106は、アクチュエータプレートであってもよく、力の印加方向は、アクチュエータプレート106に対して垂直に延びる。この場合、アクチュエータプレート106は、アクチュエータプレート106に対する垂直方向に平行なチルトフリーの並進運動を実行してもよい。
【0030】
これは、MEMSアクチュエータ100の運動関連パラメータの適切な寸法設定によって可能となる。例えば、解析的計算またはシミュレーションが実行されてもよく、MEMSアクチュエータ100の運動関連パラメータのうちの少なくとも1つは、アクチュエータ本体100が、静電力、電磁力または磁力を印加する間、第1の位置を起点としてチルトフリーの並進運動により第2の位置へ移動するまで適応される。MEMSアクチュエータ100の運動関連パラメータは、例えば、とりわけ、偏向可能なアクチュエータ本体106の幾何学的形状、アクチュエータ本体106に対するポスト104の位置、ばね108の幾何学形状、ばね108とポスト104との間の接続点の配置、ポスト104の位置、アクチュエータのばねへのレバーアームアクチュエータ力の接続、および/またはばね108と偏向可能なアクチュエータ本体106との間への接続点の配置である。
【0031】
ばね108は、例えば、アクチュエータ本体106とポスト104との接続部に沿って一定または可変の断面のコースを含んでもよい。さらに、ばね104は、アクチュエータ本体106とポスト104との間の接続部に沿って可変的な剛性を含んでもよい。
【0032】
図1bから分かるように、アクチュエータ本体106は、アクチュエータ本体106の主表面114と比較して小さい領域において、(例えば、接続エレメント112を介して)ばね108へ接続されてもよい。また、明らかに、アクチュエータ本体106は、1つまたは幾つかのばねへ幾つかの接続エレメント112を介して接続されてもよい。実施形態において、アクチュエータ本体106は、少なくとも1つのばね108へ、アクチュエータ本体106の主表面114の30%(または20%、または10%)以下である、アクチュエータ本体106の主表面114の隣接領域116においてのみ接続される。隣接領域106は、例えば、正方形または円形であってもよい。さらに、隣接領域106の中心は、アクチュエータプレート106の中心と一致してもよい。
【0033】
以下、アクチュエータ本体106が1つのポスト104のみへ1つのばね108のみを介して接続される本発明の実施形態について説明する。
【0034】
本発明の実施形態は、明細書の導入部分で述べた課題を、1つのアクチュエータ106につき1つのアンカポイントまたはポスト104のみを用いること、および各々ばねおよび/またはアクチュエータの非対称的な幾何学的形状の使用によって解決するが、この形状は、アクチュエータ106が依然として、望ましくないチルトのない純粋な並進運動を実行するように設計される。1つのポスト104のみによる懸架によって、ばね108における製造により誘発される可能性のある層張力を緩和することができ、かつ偏向の増大に伴うばね108の硬化が防止される。偏向された状態において、ポスト104へ接続されるばね108の部分は、まず、ポスト104からの距離と共に増加する傾き(静止位置平面に対する角度)を有する。ばね108のさらなる過程において、この傾きは、ばね108の端に作用する力が個々のトルクを伝達する際に再び減少し得る。
【0035】
本発明の一実施形態によれば、これは、アクチュエータ106を非対称に配置する結果として生じ得るものであり、その力の印加点は、
図3に示すように、ばね108へのその接続部よりポスト104の方に近い。
【0036】
詳細には、
図3は、片側に偏向されたアクチュエータおよびアクチュエータ本体106が各々懸架されている、チルトのないMEMSアクチュエータ100の略断面図(概略図)を示している。
図3に例示されているように、アクチュエータ本体106は、アクチュエータプレートであってもよく、MEMSアクチュエータ100は、アクチュエータプレート106に対向する電極プレート120(またはアドレス電極)をさらに備える。この場合、MEMSアクチュエータ100は、電極プレート120を介してアクチュエータプレート106上へ静電力印加121を加えるように構成されてもよい。また、MEMSアクチュエータ100は、電極プレート120の代わりに、アクチュエータプレート106に対向するコイルを備えてもよい。
【0037】
ばね108は、アクチュエータ本体106の重心またはアクチュエータ本体106に作用する力の重心と、アクチュエータ本体106がばね108へ、または接続エレメント112を介してばね108へ接続される接続点との間のレバーアーム107の2倍の長さのばねエレメントを備えてもよい。
【0038】
レバーアームが短い場合、アクチュエータ106は、偏向の間、ポスト104から離れて傾き(正のチルト)、レバーアームがかなり長い場合、アクチュエータ本体106は、ポスト104へ向かって傾く(負のチルト)。チルトの所望のゼロ点は、連続性に起因して必然的にこれらの間に存在する。
【0039】
長さに渡って一定した正方形の断面を有する単純なばね108の場合、ばねの長さの半分に対応するレバーアームでこのゼロ点に達することが分かる。ばね108の断面が必ずしも一定でない場合、ポスト104とアクチュエータ106との相対的な位置決めに対する付加的な自由度を得ることができる。概して、アクチュエータ106のチルトの所望のゼロ点の位置は、ばね108の正確な幾何学的形状およびその両端における取り付けに依存する。また、これは、数値シミュレーションによって所望の精度まで限定されてもよい。
【0040】
チルトのこのゼロ点は、ばね108がその線形範囲内で荷重される限り、様々な偏向に対して保持される(フックの法則)。
【0041】
本発明のさらなる実施例は、アクチュエータ106を、ばね108とのその接続部に対して対称的に配置すること、または結果として生じるアクチュエータ力がその接続部に作用するように配置することを可能にする。すると、アクチュエータ106は、ばね108への界面におけるトルクを伝達しないが、その適切な設計に起因して、なおもチルトの防止が可能である。しかしながら、そのためには、ポスト104を起点とする少なくとも1つの第1のばね部分の他に、第1の部分の端から多かれ少なかれポスト104の方向へと逆に方向づけられる少なくとも1つのさらなる部分が必要とされる。2つの例示的な実装を、
図4a(第2のばね部分を2つ有する)および
図5a(第2のばね部分を1つだけ有する)に示す。FEMシミュレーション(ANSYS、有限要素ソフトウェア)の結果は、所望通りに、偏向とは無関係の無視し得るチルトになる。
【0042】
図4aは、アクチュエータ本体106が、1つのばね108のみを介して1つのポスト104のみへ接続されているMEMSアクチュエータ100の詳細な斜視図を示している。ばね108は、少なくとも1つの第1のばねエレメント108_1と、第1のばねエレメント108_1より短い第2のばねエレメント108_2とを備え、第1のばねエレメント108_1は、ポスト104へ接続されかつポスト104から実質的に離れて延び、かつ第2のばねエレメント108_2は、ポスト104から遠位に面する第1のばねエレメント108_1の端へ(例えば、接続ばねエレメント108_4を介して)接続されかつポスト104へ向かって実質的に延びる。ばね108は、さらに、同じく第1のばねエレメント108_1より短い(または、各々、ばねエレメント108_2と全く同じ長さの)第3のばねエレメント108_3を備えてもよく、第3のばねエレメント108_3も、ポスト104から遠位に面する第1のばねエレメント108_1の端へ(例えば、接続ばねエレメント108_4を介して)接続されかつポスト104へ向かって実質的に延びる。
【0043】
図5aは、アクチュエータ本体106が1つのばね108のみを介して1つのポスト104のみへ接続されている、MEMSアクチュエータ100の斜視図を示している。ばね108は、少なくとも1つの第1のばねエレメント108_1と、第1のばねエレメント108_1より短い第2のばねエレメント108_2とを備え、第1のばねエレメント108_1は、ポスト104へ接続されかつポスト104から実質的に離れて延び、かつ第2のばねエレメント108_2は、ポスト104から遠位に面する第1のばねエレメント108_1の端へ(例えば、接続ばねエレメント108_4を介して)接続されかつポスト104へ向かって実質的に延びる。さらに、ばね108は、第3のばねエレメント108_3を備えてもよく、第3のばねエレメント108_3も、ポスト104へ接続されかつポスト104から遠位へ実質的に延び、かつ第2のばねエレメント108_2は、ポスト104から遠位に面するばねエレメント108_3の端へ(例えば、接続ばねエレメント108_4を介して)接続される。
【0044】
図4aおよび
図5aにおいて、第1のばねエレメント108_1および第2のばねエレメント108_2(並びに第3のばねエレメント108_3)は、アクチュエータ本体106の少なくとも1つの偏向状態において(例えば、アクチュエータ本体106の非偏向状態において)、互いに対して平行に延びてもよい。
【0045】
図3におけるアクチュエータのレバーアームと同様に、第2のばね部分108_2は、第1の部分108_1との界面でトルクを発生し、第1の部分108_1の端部の傾斜を減少させる。さらに、休止位置平面に対する角度は、第2のばね部分108_2に沿って減少する。個々の軟質の第2のばね部分108_2の場合、角度が(ポスト104へ向かって)負になる可能性もある。ばねパラメータ(これらの部分の双方の長さ、幅および厚さ)を適切に選択すれば、アクチュエータ106のチルトのゼロ点を再び求めることができる。所望の構成において、例えばポスト104から遠位のアクチュエータ106のチルトが決定される場合に、これは、第2の部分108_2がより柔らかいばね108によって、例えば幅の低減によって、なくすことができる。
【0046】
概して、複雑な形状寸法を有するアクチュエータ100を設計する場合、その運動がチルトフリーであるかどうかは明らかでないことがある。以下に
図6に基づいて論じるように、これは、FEMシミュレーションの助けを借りて試験されてもよく、かつ設計は、体系的に最適化されてもよい。
【0047】
図6は、静電力、電磁力または磁力を印加する間に、第1の位置を起点としてチルトフリーの並進運動により第2の位置を取るMEMSアクチュエータ100を製造および設計するための方法のフロー図を示し、第1の位置と第2の位置とは異なる。第1のステップ140では、MEMSアクチュエータ100の第1の設計を作成することができる。第2のステップ142では、力を印加する間のMEMSアクチュエータ100およびMEMS100のアクチュエータ本体106の、各々の偏向のFEMシミュレーションを実行することができる。第3のステップ144では、シミュレーション結果からチルトを決定することができる。MEMSアクチュエータ100の第1の設計に対してチルトが決定されない限り、チルトフリーのMEMSアクチュエータ100の設計は終了される。
図6における第4のステップ146はこれを示す。MEMSアクチュエータ100の第1の設計に対してチルトが決定される限り、第5のステップ148において、運動関連パラメータのうちの少なくとも1つを変更することができ、第6のステップ150において、シミュレーションを再度実行することができる。第7のステップ152では、シミュレーション結果からチルトを決定することができる。MEMSアクチュエータ100の第2の設計に対してチルトが決定されない限り、チルトフリーのMEMSアクチュエータ100の設計は終了される。
図6における第4のステップ146はこれを示す。MEMSアクチュエータ100の第2の設計に対してチルトが決定される限り、第8のステップ154において、シミュレートされたチルトの変更から、先に変更された運動関連パラメータに新しい値を内挿(または、結果的な符号に依存して外挿)することができ、これにより、無視できる程度のチルトが保証される。続いて、MEMSアクチュエータ100の第3の設計およびさらなる任意の設計について、ステップ148、ステップ150、ステップ152および場合によってはステップ154を、チルトがゼロになるまで繰り返すことができ、ステップ146において、チルトフリーのMEMSアクチュエータ100の完成した設計が得られる。これにより、結果的に、数回の反復ステップで所望の特性を有する設計が得られる。
【0048】
上記の第1のばね部分108_1および第2のばね部分108_2について言及したが、これらの2つの部分が明確な分離を示すことは、本発明の機能を決定づけるものではない。これらは、互いに融合し合ってもよい。明らかに、
図4a、
図4b、
図5aおよび
図5bから分かるように、単なる2つより多くのばね部分を有する実装も可能である(1、ポストから離れている(第1のばねエレメント108_1)、2、対称軸を横断する(接続ばねエレメント108_4)、3、ポストの方向にある(第2のばねエレメント108_3))。上記の例は、なおもポストと、アンカとばねとの接続部とを通る線に沿って鏡面対称を有する。この対称性に起因して、上記のようなこの方向を横断するチルトは不可能であり(安定した平衡が想定される)、よって論じていない。可能な限り柔らかいばね108を実現するためには、この対称性は、第1のばね部分108_1または第2のばね部分108_2による二重の実装の場合、結果的に生じるばね108がより硬くなることから不都合である。さらに、これらの二重ばね部品にスペース要件がないことから、個々のばねがより長く、よってより柔らかくなるよう実装される可能性もある。第1および第2のばね部品が2つの異なる製品平面に存在するという可能な解決策は、通常、製造の複雑さおよびコストが追加されることから望ましくない。
【0049】
実際には、この対称性を含まない解決策もある。これにより、必要に応じて、利用可能な空間を、可能な限り柔らかく長いばねのために最適に使用することができる。以下、
図7に基づいて、非対称の場合の単純な具体的事例について論じる。
【0050】
図7は、1つのばね108のみを介して1つのポスト104のみへ接続されるアクチュエータ本体106を備えるMEMSアクチュエータ100の略平面図を詳細に示す。ばね108は、その静止位置の平面内に対称性を有していない。これは、鏡面対称性および回転に関連し得る。しかしながら、ばねの水平中心平面における鏡面対称性は、許容される可能性があり、表面微小力学においてはほぼ不可避である。
【0051】
図7に見られるように、ばね108は、渦巻き状であってもよい。さらに、ばね108は、異なる方向へ延びる複数のばねエレメント108_1から108_4を備えてもよく、複数のばねエレメント108_1から108_4のうちの、第1の方向へ延びる少なくとも1つの第1のばねエレメント108_1は、第1の軸(例えば、x軸)を中心とするアクチュエータ本体106のチルトを防止するように構成され、かつ複数のばねエレメント108_1から108_4のうちの、第2の方向へ延びる少なくとも1つの第2のばねエレメント108_2は、第2の軸(例えば、y軸)を中心とするアクチュエータ本体のチルトを防止するように構成される。
【0052】
言い替えれば、
図7は、一例として、その部分108_1から108_4の各々が互いに直角である4部分から成るばね108を示す。上記論証と同様に、
図7に示す幾何学的形状においては、第2のばね部分およびばねエレメント108_2(ポストから数えて3番目のばね部分)の各々の適切な剛性(幅/長さ)を選択することによって、y軸を中心とするチルトをゼロまで減らすことができ、同様に第1のばね部分およびばねエレメント108_1(ポストから数えて4番目のばね部分)の各々の剛性を独立して選択することにより、x軸を中心とするチルトをゼロまで減らすことができる。第2のばね部分およびばねエレメント108_2および第3のばね部分およびばねエレメント108_3(ポストから数えて2番目および3番目の部分)の間の角の両軸を中心とするチルトがポスト104より遠くを向いている場合には、確実にソリューションが存在する。少なくともこれは、長さを無視し得る限定的な事例において容易に考え得るように、第1のばね部分およびばねエレメント108_1および第2のばね部分およびばねエレメントおよび108_2(ポストから数えて3番目および4番目のばね部分)の各々が比較的短い場合に当てはまる。
【0053】
図8aおよび
図8bは、より現実的な実施例を示す。これは、上述の考え方に類似するFEMシミュレーション(ANSYS)を用いるジオメトリ最適化の結果であるが、この場合は、ばねの幅および厚さが一定であって、製造に関して利点を有する。この場合も、結果として生じるチルトは、偏向とは無関係に、所望に応じて略ゼロである。
【0054】
先の記述は全て、アクチュエータ106の静的偏向に関連し、典型的には静電または電磁制御力がばね力と(安定した)平衡状態にある。実質的なチルトが生じないように、新しい静的平衡状態に達するまでに偏向が高速で動的に変化しても、全可動部の質量は、適切に分配されることが可能である。ここでは、ばねの質量を無視できる場合が最も容易な事例となる。すると、全可動部の質量中心が、アクチュエータに作用する力の重心へのその接続線が偏向方向に対して平行であるような場合に、動的チルトのない所望の事例が生じる。第1の設計においてこれが満たされない場合、アクチュエータまたはアクチュエータへ接続される部分(例えばミラー)における適切な窪みまたは付属物によって、またはこれらの部分の横方向変位によっても、これを達成することができる。
【0055】
ばね108の質量を無視できない場合は、上述の状態を維持する際に、アクチュエータへの片側接続に起因して不均衡が生じることになる。必要な補正を計算する場合、ばね108の質量要素は、その運動の個々の振幅で重み付けされることも可能である。この振幅の決定に際しても、精巧な形状のばね108に関してはほとんどの場合に直接的計算が完全には可能でないために、やはり静的偏向のFEMシミュレーション(FEM=有限要素法)が使用されてもよい。
【0056】
したがって、アクチュエータ本体106が運動する間、その個々の運動振幅で重み付けされたMEMSアクチュエータ100の可動エレメントの重心は、力印加の主要な力印加ベクトルに沿って進むことができる。ここで、主要な力印加ベクトルは、アクチュエータ本体へ加えられる力および力ベクトルをそれぞれ重ね合わせることによって得られる。さらに、主要な力印加ベクトルは、アクチュエータ本体に加えられる力の重心を介して進む。
【0057】
基本的に、アクチュエータ106は、動的なチルトを含む一部のモードの中で、他の振動モードへも励起されてもよい。しかしながら、静的に安定して偏向可能なアクチュエータの場合、これらのモードは、典型的には著しく高い周波数におけるものであり、よってほとんどの場合、実際には適切でない。加えて、このような振動モードは、既知の従来技術によるMEMSアクチュエータでも生じる。
【0058】
単純化の理由から、上述の実施例は各々、その中央でばね108へ接続される正方形のアクチュエータプレート106を示している。これは、明らかに、本発明の機能にとって必須ではなく、かつ複数のこのようなアクチュエータの配置が可能な限り密であるという意味では、ポストが常にスペースを必要とすることから不利でもある。当然ながら、アクチュエータは、アクチュエータがポスト104と共に基板平面を寄せ木様にすることができるエリアを占有するように、窪みをつけられてもよい。上記に関しては、適切な最適化によって、なおも静的および動的なチルトの双方を防止できることは明らかである。特に、ある効果的な様式においては、アクチュエータ106のこの窪みは、ばね108の質量による不均衡を補正するために、その固有のポスト104に関連して実行されてもよい。隣接するアクチュエータのポストは、その後、この窪みの中へ配置されてもよい。
【0059】
ばね108は、アクチュエータプレート106の下に配置されてもよいのは明らかである。また、この場合、アクチュエータプレート106は、直にミラーとしても使用されてもよい。
【0060】
以下、アクチュエータ本体106が2つのポスト104_1から104_n(n=2)へ1つのばねを介して接続される、本発明の一実施形態について述べる。
【0061】
図9は、2つのポスト104_1から104_n(n=2)へ1つのばねを介して接続されたアクチュエータ本体106を有するMEMSアクチュエータ100の略側面図を示す。ばね108は、第1のばねエレメント108_1と、第3のばねエレメント108_3と、第1のばねエレメント108_1および第3のばねエレメント108_3より短い第2のばねエレメント108_2とを備え、第1のばねエレメント108_1は、第1のポスト104_1へ接続されかつ第1のポスト104_1から実質的に離れて延び、第3のばねエレメント108_3は、第2のポスト104_2へ接続されかつ第2のポスト104_2から実質的に離れて延び、かつ第2のばねエレメント108_2は、第1のポスト104_1より遠くに面する第1のばねエレメント108_1の端へ(例えば、接続ばねエレメント108_4を介して)接続され、かつ第2のポスト104_2より遠くに面する第3のばねエレメント108_3の第2の端と(例えば、接続ばねエレメント108_4を介して)接続されかつポスト104_1および104_2へ向かって実質的に延びる。
【0062】
図10は、MEMSアクチュエータ100を動作させるための方法180のフロー図を示す。方法180は、偏向可能なアクチュエータ本体106へ静電力、電磁力または磁力を印加するステップ182を含み、静電力、電磁力または磁力を印加する間、アクチュエータ本体106は、第1の位置を起点としてチルトフリーの並進運動により第2の位置をとり、第1の位置と第2の位置とは異なる。
【0063】
図11は、MEMSアクチュエータ100を製造するための方法200のフロー図を示す。方法200は、基板102を提供するステップ202と、少なくとも1つのポスト104を提供するステップであって、当該少なくとも1つのポスト104は、当該基板102に取り付けられるステップ204と、偏向可能なアクチュエータ本体106を提供するステップ206と、少なくとも1つのばね108を提供するステップ208とを含み、偏向可能なアクチュエータ本体106は、少なくとも1つのばね108を介して少なくとも1つのポスト104へ接続され、MEMSアクチュエータ100の平面図において、アクチュエータ本体106は、ポスト104のうちの少なくとも1つによってスパンされる領域110の外に配置され、静電力、電磁力または磁力を印加する間、アクチュエータ本体106は、第1の位置を起点としてチルトフリーの並進運動により第2の位置をとり、第1の位置と第2の位置とは異なる。
【0064】
方法200は、さらに、MEMSアクチュエータ100のシミュレーションを実行するステップを含んでもよく、MEMSアクチュエータ100のシミュレーションを実行するとき、MEMSアクチュエータ100の運動関連パラメータのうちの少なくとも1つは、アクチュエータ本体106が静電力、電磁力または磁力を印加する間に力の印加方向に平行なチルトフリーの並進運動を実行するまで適応される。ここで、ポスト104、偏向可能なアクチュエータプレート106およびばね108のうちの少なくとも1つは、運動関連パラメータに依存して提供されてもよい。
【0065】
実施形態は、1つのポスト104のみにおけるMEMSアクチュエータ100の非対称懸架を可能にし、しかもなおチルトフリーの平行な偏向を達成する。これにより、多くの場合極めて限定的であるスペース(特に、ピクセルサイズが極小の場合)をソフトサスペンション用に最適に用いることができる。通常幾つかのポストでの懸架の間に発生するようなストレススティフニングを防止することにより、線形ばね特性(フックの法則)の領域を特に大きくすることができる。
【0066】
実施形態は、微小機械アクチュエータに、特に、(製造可能な機械的構造のサイズに比べて、および所望の偏向に比べても)極小のピクセルを有する位相シフトSLM(SLM=空間光変調器)に適する。このようなSLMは、特に、将来のホログラフィックディスプレイ、ならびに光ファイバネットワークの一般的なレーザピンセットおよび高速光スイッチ等の(より幾分か明白な)用途の双方のためのデジタルホログラフィに適し、このようなSLMは、レーザ光線の同時的な分割ならびにレーザ光線の方向、発散および強度の制御を可能にする。しかしながら、パターン生成のための他のデバイスにおける使用も有用であると思われる。それに加えて、マイクロアクチュエータ技術(マイクロミラーがない場合も)ならびにセンサ技術における他の複数の用途も可能である。
【0067】
実施形態において、ポストおよびばねは、アクチュエータが純粋な並進運動で案内され、同時にばねが可能な限り柔らかく、かつこれが偏向の大きい場合でも保たれるように設計されてもよい。さらに、実施形態において、隣接するピクセルのアクチュエータ間に電気的接続は存在しない。
【0068】
実施形態において、MEMSアクチュエータは、基板と、基板に取り付けられる少なくとも1つのポストと、少なくとも1つのばねを介してポストのうちの少なくとも1つへ接続される偏向可能なアクチュエータ本体と、偏向可能なアクチュエータ本体へポストによりスパンされる領域の外側に作用する静電力、電磁力または磁力を印加させるように構成される駆動手段とを備えてもよく、アクチュエータ本体は、前述の力の印加に対する反応として、その静止位置からの実質的に純粋な(チルトフリーの)平行移動から生じる新たな平衡位置をとる。ポストによってスパンされる領域より外側の効果は、駆動力の作用線(この力の方向でアクチュエータ本体に作用する駆動力の重心を通る直線)が上述の領域と交わらないという事実に関連づけられる。2つの(理想的には薄い)ポストの場合、この領域は、一経路へと縮退し、ポストが1つである場合に一点に縮退するが、これらは、前述の作用線上には存在しない。より詳細には、ばねのそれらのポストにおける当接領域が考慮されてもよい。したがって、駆動手段の作用線は、これら全ての点/領域エレメントの凸包絡の外側にあるべきものである(概して、チルトとなる)。
【0069】
実施形態では、駆動手段の作用線上に加重重心が配置されてもよい。駆動力の作用線は、アクチュエータ本体へこの力の方向に作用する駆動力の重心を通る直線であってもよい。
【0070】
幾つかの態様を装置に関して説明してきたが、これらの態様が対応する方法の説明をも表していることは明らかであって、装置のブロックまたはデバイスは、個々の方法ステップまたは方法ステップの特徴にも対応している。同様に、方法ステップに関して説明されている態様は、対応する装置の対応するブロックまたは詳細または特徴の説明をも表す。方法ステップの一部または全ては、例えば、マイクロプロセッサ、プログラム可能コンピュータまたは電子回路のようなハードウェア装置によって(または、ハードウェア装置を用いて)実行されてもよい。幾つかの実施形態において、最も重要な方法ステップのうちの一部または幾つかは、このような装置によって実行されてもよい。
【0071】
上述の実施形態は、本発明の原理を単に例示したものである。本明細書に記述されている配置および詳細の変更および変形が他の当業者に明らかとなることは理解される。したがって、本発明は、本明細書における実施形態の記述および説明として提示された特定の詳細ではなく、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されることが意図される。