(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の茶抽出物の製造方法は、第1の工程、第2の工程及び第3の工程を含むものである。以下、各工程について詳細に説明する。
【0010】
<第1の工程>
第1の工程は、上方に開口を有する抽出装置内で茶葉と水とを混合して茶抽出液を得る工程である。
【0011】
(抽出装置)
抽出装置は、鉛直上方に開口を有するものである。開口の形状は、開口から収容物の出し入れが自在であれば特に限定されず、例えば、円形、楕円形及び方形のいずれでもよい。また、開口には、脱着自在の蓋体を備えていてもよい。
抽出装置の容量は抽出スケールにより一様ではないが、通常1.0〜4,000L、好ましくは50〜3,000Lであり、抽出装置内に撹拌手段を有していてもよい。また、抽出装置は、抽出温度を一定に保つために、加熱又は冷却可能な構造(例えば、電気ヒーター、あるいは温水、蒸気、冷水が通液可能なジャケット)を有していても構わない。
抽出装置としては、例えば、ニーダー抽出機、カラム抽出機、多機能抽出機等を挙げることができる。中でも、抽出効率の観点から、ニーダー抽出機が好ましい。
【0012】
(茶葉)
茶葉としては、例えば、Camellia属、例えば、C. sinensis var.sinensis(やぶきた種を含む)、C. sinensis var.assamica及びそれらの雑種から選択される茶葉(Camellia sinensis)が挙げられる。茶葉は、その加工方法により、不発酵茶、半発酵茶、発酵茶に分類されるが、これらのうちの1種又は2種以上を適宜選択して使用することができる。
【0013】
不発酵茶葉としては、例えば、煎茶、番茶、碾茶、釜入り茶、茎茶、棒茶、芽茶等の緑茶葉が挙げられる。また、半発酵茶葉としては、例えば、鉄観音、色種、黄金桂、武夷岩茶等の烏龍茶葉が挙げられる。更に、発酵茶葉としては、ダージリン、アッサム、スリランカ等の紅茶葉が挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、タンニンの含有量の点から、不発酵茶葉が好ましく、緑茶葉が更に好ましい。ここで、本明細書において「タンニン」とは、非重合体カテキン類、そのエステル(例えば、没食子酸エステル)及びそれらの縮合物を包含する概念である。
【0014】
(水)
水としては、例えば、水道水、蒸留水、イオン交換水、天然水等を適宜選択して使用することができる。中でも、イオン交換水が好ましい。
水の温度は通常50℃以上であるが、抽出効率の観点から、55℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、65℃以上が更に好ましく、また温度制御の容易さの点から、95℃以下が好ましく、90℃以下がより好ましく、85℃以下が更に好ましい。水の温度の範囲としては、好ましくは50〜95℃、より好ましくは55〜90℃、更に好ましくは60〜90℃、殊更に好ましくは65〜85℃である。
【0015】
水の使用量は抽出スケールにより適宜選択することが可能であるが、茶葉に対して、5質量倍以上が好ましく、10質量倍以上がより好ましく、20質量倍以上が更に好ましく、そして80質量倍以下が好ましく、60質量倍以下がより好ましく、40質量倍以下が更に好ましい。水の使用量の範囲としては、茶葉に対して、好ましくは5〜80質量倍、より好ましくは10〜60質量倍、更に好ましくは20〜40質量倍である。
【0016】
(混合)
茶葉と水を抽出装置内に投入し混合することで茶抽出液が調製される。
茶葉と水との混合順序は特に限定されず、両者を任意の順序で投入して混合しても、両者を同時に投入して混合してもよい。また、茶葉と水とを混合する際には撹拌しても構わない。
混合時間は抽出スケールにより一様ではなく、適宜選択することが可能であるが、抽出効率の観点から、2分以上が好ましく、3分以上がより好ましく、4分以上が更に好ましく、そして30分以下が好ましく、20分以下がより好ましく、10分以下が更に好ましい。混合時間の範囲としては、好ましくは2〜30分、より好ましくは3〜20分、更に好ましくは4〜10分である。
【0017】
<第2の工程>
第2の工程は、開口が水平方向に対して傾斜角をなすように、角速度0.0073〜0.06rad/sで抽出装置を傾け、開口から茶殻を含む茶抽出液を、多数の孔を含む有孔板からなるスクリーンに排出する工程である。
【0018】
(傾動)
第2の工程では、先ず開口が水平方向に対して傾斜角をなすように抽出装置を傾けるが、通常開口が鉛直下方を向くように抽出装置を傾ける。
抽出装置の傾動は、手動で行っても構わないが、傾動速度を一定に保つために抽出装置に駆動モータを装着し、それを電気的に制御してもよい。
抽出装置は、採液率の観点から、1/2πrad以上の傾斜角をなすように傾けるのが好ましく、1.75rad以上がより好ましい。また、傾斜角は、装置制約上の観点から、4rad以下が好ましく、特にスクリーン上への茶殻の排出を抑える観点から、πrad以下が好ましく、2.6rad以下がより好ましい。
【0019】
抽出装置の傾動速度は、角速度0.0073〜0.06rad/sであるが、分離効率(採液率)とタンニン回収率の観点から、0.008rad/s以上が好ましく、0.01rad/s以上がより好ましく、そして0.03rad/s以下好ましく、0.025rad/s以下より好ましい。角速度の範囲としては、好ましくは0.008〜0.03rad/s、より好ましくは0.01〜0.025rad/s、である。ここで、本明細書において「角速度」とは、抽出装置の傾動速度をラジアン毎秒(rad/s)で示したものであり、単位時間(sec)当たりに抽出装置が傾く角度を表している。
【0020】
(排出)
傾斜した状態の抽出装置の開口から抽出装置内の茶殻を含む茶抽出液を、鉛直下方に設置されたスクリーン上に排出する。
スクリーンは、多数の孔を備える有孔板である。スクリーンの形状は、平板状、円錐状、角錐状等の種々のものが挙げられるが、分離効率の観点から、平板状が好ましい。また、スクリーンの平面形状は、例えば、円形、楕円形及び方形のいずれでもよい。スクリーンの材質は、腐食防止、強度の観点から、ステンレス等の金属製であることが好ましい。孔の形状は、円形、楕円形及び方形のいずれでもよく、適宜選択することができる。
スクリーンの開口径は、茶殻より小さい目開きであれば特に限定されないが、孔の形状が円形である場合、内径は通常1.5〜2.5mmである。スクリーンの開孔率は、分離効率の観点から、好ましくは20〜50%、より好ましくは25〜50%、更に好ましくは30〜50%である。ここで、本明細書において「開孔率」とは、スクリーンの全面積(孔の面積も含む)に占める、孔の面積の割合(百分率)で定義される。
スクリーンとして、例えば、メッシュサイズが、好ましくは16〜100メッシュ、より好ましくは18〜100メッシュ、更に好ましくは20〜80メッシュである金属製フィルタを使用することができる。
【0021】
<第3の工程>
第3の工程は、スクリーン上で、茶殻と茶抽出液とを分離する工程である。茶殻はスクリーン上に堆積し、スクリーンの孔を通過した茶抽出液がスクリーン下方に配置されたタンクに回収される。
分離時間は抽出スケールにより一様ではなく、適宜選択することが可能であるが、製造効率の観点から、1分以上が好ましく、2分以上が更に好ましく、そして10分以下が好ましく、8分以下がより好ましく、5分以下が更に好ましい。分離時間の範囲としては、好ましくは1〜10分、より好ましくは1〜8分、更に好ましくは2〜5分である。
なお、本発明においては、スクリーン上の茶殻を洗浄することを必ずしも要しない。茶殻を洗浄する場合には短時間で行うことが好ましく、例えば、洗浄時間は4秒以内である。なお、茶殻の洗浄には、通常前述した水が用いられる。
【0022】
また、第3の工程後、回収した茶抽出液を必要により固液分離してもよい。固液分離としては、食品工業で通常使用されている固液分離手段を採用することが可能であり、例えば、遠心分離、液体(ハイドロ)サイクロン、膜ろ過等が挙げられる。固液分離は、2種以上組み合わせて行うこともできる。
【0023】
遠心分離は、分離板型、円筒型、デカンター型などの一般的な機器を使用することができる。遠心分離条件は適宜選択可能であるが、例えば、温度は、好ましくは5〜70℃、更に好ましくは10〜40℃であり、回転数と時間は、例えば、分離板型の場合、好ましくは4000〜10000rpm、より好ましくは5000〜10000rpm、更に好ましくは6000〜10000rpmであって、好ましくは0.2〜30分、より好ましくは0.2〜20分、更に好ましくは0.2〜15分である。
液体サイクロンは、重力の代わりに遠心力を利用して液体中の粒子を沈降分離する装置である。分離条件は、例えば、装置内でらせん状の水流を発生させ、回転軸垂直方向に働く力(遠心力)を利用して比重差により茶抽出液中の夾雑物を沈降分離できれば、適宜設定することができる。また、茶抽出液を液体サイクロンに複数回通過させてもよい。
膜ろ過を行う場合、膜ろ過条件としては、例えば、温度が、好ましくは5〜70℃、更に好ましくは10〜40℃である。膜孔径は、ろ過効率及び不溶物の分離性の点から、0.1〜10μm、更に0.1〜5μm、更に0.1〜2μmが好ましい。膜孔径の測定方法としては、水銀圧入法、バブルポイント試験、細菌ろ過法等を用いた一般的な測定方法が例示されるが、バブルポイント試験で求めた値を用いることが好ましい。膜ろ過で使用する膜の材質としては、高分子膜、セラミック膜、ステンレス膜等が挙げられる。
【0024】
このようして、タンニンを収率よく回収し、かつ香味に優れる茶抽出物を製造することができる。タンニンの回収率は、好ましくは40質量%以上、より好ましくは45質量%以上、更に好ましくは50質量%以上である。なお、「タンニンの回収率」は、後掲の実施例に記載の方法に供して分析するものとする。
【0025】
茶抽出物の形態としては、例えば、液体、スラリー、半固体、固体等の種々のものが挙げられる。茶抽出物は、そのまま使用しても構わないが、濃縮することもできる。濃縮方法としては、例えば、減圧濃縮、逆浸透膜濃縮等を挙げられる。また、茶抽出物の製品形態として粉体が望ましい場合は、例えば、噴霧乾燥や凍結乾燥等により乾燥し粉体化することが可能であり、濃縮と組み合わせて行うこともできる。
【0026】
本発明の茶抽出物は、飲食品、とりわけ飲料の調製に好適に使用することができる。
飲料中への茶抽出物の配合量は、適宜選択することが可能であるが、例えば、20℃における飲料のBrixが、好ましくは0.40±0.1%、更に好ましくは0.30±0.1%となるように、茶抽出物を配合することができる。この場合、飲料中のタンニンの含有量は、好ましくは0.5〜0.9質量%、更に好ましくは0.6〜0.8質量%である。また、飲料を調製する際には、水、他の茶抽出物等で希釈することも可能である。水としては、前述と同様のものが挙げられる。
【0027】
本発明の飲料は、茶飲料でも、非茶系飲料であってもよい。茶飲料としては、例えば、緑茶飲料、烏龍茶飲料、紅茶飲料が挙げられる。また、非茶系飲料としては、例えば、果汁ジュース、野菜ジュース、スポーツ飲料、アイソトニック飲料、エンハンスドウォーター、ボトルドウォーター、ニアウォーター、コーヒー飲料、栄養ドリンク剤、美容ドリンク剤等の非アルコール飲料、ビール、ワイン、清酒、梅酒、発泡酒、ウィスキー、ブランデー、焼酎、ラム、ジン、リキュール類等のアルコール飲料が挙げられる。なお、飲料の形態は特に限定されず、摂取しやすい形態であれば、液体、ゲル状、スラリー状等のいずれであってもよい。
【0028】
更に、本発明の飲料には、香料、ビタミン、ミネラル、酸化防止剤、エステル、色素類、乳化剤、保存料、調味料、甘味料、酸味料、果汁エキス、野菜エキス、花蜜エキス、品質安定剤等の添加剤を1種又は2種以上を組み合わせて配合することができる。これら添加剤の配合量は、本発明の目的を損なわない範囲内で適宜設定することができる。
【0029】
本発明の飲料のpH(20℃)は、タンニンの安定性の点から、好ましくは2〜7、より好ましくは3〜6.5、更に好ましくは3〜6である。
【0030】
また、本発明の飲料は、ポリエチレンテレフタレートを主成分とする成形容器(いわゆるPETボトル)、金属缶、金属箔やプラスチックフィルムと複合された紙容器、瓶等の通常の包装容器に充填して提供することができる。また、容器詰飲料は、加熱殺菌されていてもよく、加熱殺菌方法としては、適用されるべき法規(日本にあっては食品衛生法)に定められた条件に適合するものであれば特に限定されるものではない。例えば、レトルト殺菌法、高温短時間殺菌法(HTST法)、超高温殺菌法(UHT法)等を挙げることができる。また、容器詰飲料の容器の種類に応じて加熱殺菌法を適宜選択することも可能であり、例えば、金属缶のように、飲料を容器に充填後、容器ごと加熱殺菌できる場合にあってはレトルト殺菌を採用することができる。また、PETボトル、紙容器のようにレトルト殺菌できないものについては、飲料をあらかじめ上記と同等の殺菌条件で加熱殺菌し、無菌環境下で殺菌処理した容器に充填するアセプティック充填や、ホットパック充填等を採用することができる。
【実施例】
【0031】
1.タンニンの分析
茶抽出物中のタンニン量の測定は酒石酸鉄法により、標準液として没食子酸エチルを用い、没食子酸の換算量として求めた(参考文献:「緑茶ポリフェノール」飲食料品用機能性素材有効利用技術シリーズNo.10)。
試料5mLを酒石酸鉄標準溶液5mLで発色させ、リン酸緩衝液で25mLに定溶し、540nmで吸光度を測定し、没食子酸エチルによる検量線からタンニン量を求めた。
酒石酸鉄標準液の調製:硫酸第一鉄・7水和物100mg、酒石酸ナトリウム・カリウム(ロッシェル塩)500mgを蒸留水で100mLとした。
リン酸緩衝液の調製:1/15mol/Lリン酸水素二ナトリウム溶液と1/15mol/Lリン酸二水素ナトリウム溶液を混合しpH7.5に調整した。
【0032】
2.タンニンの回収率
タンニンの回収率は、以下の方法で算出した。
(1)実施例又は比較例で得られた茶抽出液について、茶葉1gあたりのタンニン量を求めた。
(2)茶葉10gを90℃の熱水430mLに1分間浸漬し、得られた茶抽出液について、茶葉1gあたりのタンニン量を求めた。
(3)上述の(2)のタンニン量に対する、上述の(1)のタンニン量の比率を求めた。
【0033】
3.官能評価
各実施例又は比較例で得られた茶抽出液を、Brix(20℃)が0.3±0.1%、かつタンニン量が69〜79mg/100mLとなるように蒸留水で希釈し茶飲料を調製した。次いで、各茶飲料を専門パネル3名が飲用し、下記の基準で評価し、その後協議により最終スコアを決定した。
【0034】
評価基準
評点5:緑茶本来の香りと旨みがある。
4:緑茶本来の香りと旨みあるが、飲み口の後半にやや苦味がある。
3:緑茶の香りと旨みが薄い、又は出涸らし感が強い。
2:苦味が強い、又は旨みが少ない。
1:苦渋味が強い。
【0035】
実施例1
(1)第1の工程
ニーダー抽出機(SKN型、三友機器社製)に温水26.07kgを投入し69℃に調節した後、これに緑茶葉(国産やぶ北2番ブレンド荒茶)869gを添加して21rpmで6.5分間撹拌混合することにより抽出した。
(2)第2の工程
次いで、ニーダー抽出機を2.01radの角度まで角速度0.033rad/sで傾動させ、開口から茶殻を含む緑茶抽出液をスクリーンに排出した。なお、スクリーンとして、方形のステンレス製フィルタ(80mesh、岩井機械工業社製)を用いた。
(3)第3の工程
スクリーン上で、茶殻と緑茶抽出液とを分離した。なお、分離時に茶殻の洗浄は行なわず、スクリーンを通過した緑茶抽出液を回収した。回収した緑茶抽出液を遠心分離により澱成分を除去し清澄な緑茶抽出液を得た。
そして、得られた緑茶抽出物について分析、官能評価を行った。その結果を表1に示す。
【0036】
実施例2〜4及び比較例1〜3
第2の工程において、表1に示す角速度に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作により緑茶抽出物を得た。そして、得られた緑茶抽出物について分析、官能評価を行った。その結果を表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
表1から、上方に開口を有する抽出装置内で茶葉から茶抽出液を得た後、抽出装置を一定速度で所定方向に傾け、抽出装置の開口から茶殻を含む茶抽出液を排出することにより、茶殻と茶抽出液との分離が高効率になり、茶殻洗浄を要することなく、タンニン回収率が良好で、かつ香味に優れる茶抽出物が得られることが分かる。