【実施例】
【0022】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0023】
参考例1
粘着性テープであるアズフロンテープ(アズワン製、TF15−02、粘着力:0.32N/mm(=8N/25mm)、厚さ0.08mm)の赤外線吸収スペクトルを測定した。その結果を
図1に示す。
図1に示すように、用いた粘着性テープには、1500〜1700cm
-1に吸収ピークを有さないことを確認した。なお、粘着性テープの粘着力はJISC2107−11(2011年)に基づいて測定された数値である。
【0024】
試験例1
豚皮をアセトン:エーテル=1:1の混合溶媒に20分浸漬した後、混合溶媒を除去し、次いで、水に20分浸漬させた(「アセトン/エーテル+水処理」)。その後、水を除去し、この豚皮に粘着性のテープ(アズワン製、TF15−02、粘着力:0.32N/mm(=8N/25mm)、厚さ0.08mm)を貼り付け、テープの粘着面に角層を採取した。その後、テープ上に付着した角層を窒素気流雰囲気下に3分間静置し、乾燥させ、その後、角層のIRスペクトルを測定した(スペクトル1)。次いで、その角層を重水湿度50%(気相中)のデシケーター内に10分間静置して重水処理を実施した。その後、角層をデシケーター内からとりだし、再度IRスペクトルを測定した(スペクトル2)。取得したスペクトル1、2を、アミドIを標準ピークとして補正し補正スペクトル1、2を得た。次に解析対象ピークとしてアミドII(ケラチン由来)に検出されるピークを用い、補正スペクトル1、2における吸収強度を読み取った。[{(重水置換後の吸光強度−重水置換前の吸光強度)/重水置換前の吸光強度}×100]を計算し、解析対象ピークの吸光強度変化率を求めた。求めた吸光強度変化率の値を、角層を重水処理したときの角層構成成分への重水素置換率(D化率)の目安として比較した。
また、上記の方法において、スペクトル1測定後の重水湿度を30〜100%とし、デシケーター内に載置する重水処理時間を5〜60分とした場合についても測定した。その結果を表1に示す。
【0025】
【表1】
【0026】
そして、重水湿度50%処理時間10分と100%処理時間10分について、角層を未処
理、「アセトン/エーテル+水処理」した場合の重水素置換率(D化率)を
図2に示した。
この
図2からわかるように、角層は「アセトン/エーテル+水処理」されて乾燥状態にあるにもかからず、重水湿度100%で処理した場合には重水素置換前後に差が見られないのに対して、重水湿度が50%で処理した場合には、重水素置換率(D化率)の差を明確に確認することができる。
【0027】
ケラチンの分散に関しては、ケラチンが凝集しているとケラチン間の距離が狭まり、−NH基の水素が水素結合あるいは他の分子間結合(疎水結合等)に関与しているものが多くなり(水素重水素交換反応におけるアミドIIのピークの変化量が小さい)、ケラチンが分散しているとそうした分子間結合に関与している−NH基が少なくなる(水素重水素交換反応におけるアミドIIのピークの変化量が大きい)と考えられる。従って、アミドIIのピークの変化量がケラチン間の距離に関与していると考えられており、重水処理によるアミドIIのピークの変化の度合いを評価することが、ケラチンの分散性の指標として正確であると考える。この関係を
図3に示す。
【0028】
50%重水湿度での処理時間と重水素置換率(D化率)との関係を
図4に示す。
図4より、50%重水湿度下での処理時間が7分以上40分以下の場合に、水分を保持したケラチンと水分を保持しないケラチンとの間における、アミドII/アミドIのピーク強度比を明確に判定できることがわかる。
【0029】
試験例2
各種化粧料による、豚皮のケラチン分散状態の評価と、実際に人で使用した保湿感の評価。
[1:各化粧料による豚皮のケラチンの分散状態の測定試験]
「アセトン/エーテル+水処理」を行った豚皮に粘着性のテープ(アズフロンテープ)を張り付け、テープの粘着面に角層を採取し、表2記載の化粧料に20分浸漬させた。浸漬後、化粧料をティッシュで押さえて吸収させ、テープ上に採取した角層を窒素気流雰囲気下に3分間静置することにより、乾燥させた。その後、乾燥させた角層のIRスペクトルを測定した(スペクトル1)。次いで、その角層を50%重水湿度下に10分間静置し(50%重水湿度のデシケーター内に静置し)、重水処理を実施した。重水処理後、再度IRスペクトルを測定した(スペクトル2)(例として、水に浸漬した場合の重水処理前と後におけるIRスペクトルを、
図5に示す。
図5に示すように、重水処理の影響を受けにくいアミドIの吸収ピークは重水処理の前後でほとんど変化しないのに対し、アミドII付近の吸収ピークは、重水処理の前後で強度が変化していることがわかる)。取得したスペクトル1、2を、アミドIを標準ピークとして補正し補正スペクトル1、2を得た。次に解析対象ピークとしてアミドII(ケラチン由来)に検出されるピークを用い、補正スペクトル1、2における吸収強度を読み取った。[{(重水置換後の吸光強度−重水置換前の吸光強度)/重水置換前の吸光強度}×100]を計算し、解析対象ピークの吸光強度変化率を求めた。求めた吸光強度変化率の値を、角層を重水処理したときの角層構成成分への重水素置換率(D化率)の目安として、各種化粧料間で比較した。その結果を表2に示す。
【0030】
[2:各化粧料による人で使用したときの保湿感の評価]
専門パネラー5名により、洗浄後の前腕屈側部に各化粧料0.05〜0.1gを適用し、人差し指の指先で1秒間に1回転、約直径4cmの円を描くように20秒間マッサージし、その直後の肌を触り、以下の基準で、しっとり感を評価した。結果を5名の合計点で示す。その結果を表2に示す。
4:非常にしっとりする。
3:しっとりする。
2:あまりしっとりしない。
1:しっとりしない。
【0031】
【表2】
【0032】
表2より、保湿性能の高い化粧料を用いた場合は、重水素置換率(D化率)が高く、本発明方法により角層の保湿状態、化粧料の保湿能が評価できることがわかる。
【0033】
試験例3
健常女性20〜50代の8名を2群に分け(各4名)、表3記載の実施例4と比較例3の化粧水を2週間連用し、連用前に対する連用後の皮膚の重水素交換率(D化率)の変化量と水分量の変化量について試験した。なお、試験は、試験前に顔を洗顔料にて洗顔後、20℃/湿度10%の環境下で10分間馴化してから行った。
【0034】
【表3】
【0035】
[1:人の角層に対する各化粧料の保湿性の測定試験(D化率)]
人の右頬部に粘着性のテープ(アズフロンテープ)を張り付け、テープの粘着面に角層を採取し、テープごとIRスペクトルを測定した(スペクトル1)。その後、その角層とテープを50%重水湿度下に10分間静置し、重水処理を実施した。重水処理後、再度IRスペクトルを測定した(スペクトル2)。取得したスペクトル1、2を、アミドIを標準ピークとして補正し補正スペクトル1、2を得た。次に解析対象ピークとしてアミドII(ケラチン由来)に検出されるピークを用い、補正スペクトル1、2における吸収強度を読み取った。[{(重水置換後の吸光強度−重水置換前の吸光強度)/重水置換前の吸光強度}×100]を計算し、解析対象ピークの吸光強度変化率を求めた。求めた吸光強度変化率の値を、角層を重水処理したときの角層構成成分への重水素置換率(D化率)の目安として、各種化粧料間で比較した。
【0036】
[2:人の角層に対する各化粧料の保湿性の測定試験(水分量)]
コルネオメーター(Courage+Khazaka社製)にて右頬部の水分量を測定した。
【0037】
なお、D化率、水分量は、化粧料の連用前を100%とし、連用後の数値は連用前の数値に対する比率(%)で表す。また、2週間後のD化率、水分量の値も示した。なお、数値は4名の被験者の平均値である。結果を表3及び
図6、7に示す。
図6、7より、水分量を高める化粧料を用いた場合、重水素置換率(D化率)が高くなり、本発明方法により人の角層の保湿状態を評価できることがわかる。
【0038】
試験例4
[各化粧料による豚皮のケラチンの分散状態の測定試験]
表4に示す組成の皮膚化粧料を製造し、ケラチン分散状態を評価した。結果を表4に併せて示す。なお、表4の各化粧料は以下のように製造した。
【0039】
(製造方法)
(1)化粧料2−1a〜2−3a、2−1b〜2−3b:
25℃にて、全成分を混合し、20分間撹拌して、化粧料を得た。
(2)実施例2−4a〜2−8a、2−4b、2−5b:
非イオン性界面活性剤以外の全成分を混合し、撹拌しながら80℃まで加熱し、80℃で加熱溶解した非イオン性界面活性剤を加え、20分間撹拌し、その後、25℃まで冷却して、化粧料を得た。
【0040】
(測定方法)
豚皮をアセトン:エーテル=1:1の混合溶媒に20分浸漬した後、混合溶媒を除去し、次いで、水に20分浸漬させた(「アセトン/エーテル+水処理」)。その後、水を除去し、この豚皮に粘着性のテープ(アズフロンテープ;アズワン社製、TF15−02、粘着力:0.32N/mm(=8N/25mm)、厚さ0.08mm)を貼り付け、テープの粘着面に角層を採取し、表1記載の化粧料に20分浸漬させた。浸漬後、化粧料をティッシュで押さえて吸収させ、テープ上に採取した角層を窒素気流雰囲気下に3分間静置することにより、乾燥させた。その後、乾燥させた角層のIRスペクトルを測定した(スペクトル1)。次いで、その角層を50%重水湿度下に10分間静置し(50%重水湿度のデシケーター内に静置し)、重水処理を実施した。重水処理後、再度IRスペクトルを測定した(スペクトル2)。
取得したスペクトル1、2を、アミドIを標準ピークとして補正して、補正スペクトル1、2を得た。次に、解析対象ピークとしてアミドII(ケラチン由来)に検出されるピークを用い、補正スペクトル1、2における吸収強度を読み取った。[{(重水置換後の吸光強度−重水置換前の吸光強度)/重水置換前の吸光強度}×100]を計算し、解析対象ピークの吸光強度変化率を求めた。求めた吸光強度変化率の値を、角層を重水処理したときの角層構成成分への重水素置換率(D化率)の目安として、各種化粧料間で比較した。
【0041】
【表4】
【0042】
試験例5
[各化粧料による人角層におけるケラチンの分散状態、皮膚形状変化抑制の測定試験]
表5に示す組成の皮膚化粧料を製造し、人の角層のケラチンの分散状態、皮膚形状変化を評価した。結果を表5に併せて示す。なお、表5の各化粧料は以下のように製造した。
【0043】
(製造方法)
(1)2−9a:
水にキサンタンガムを添加し、80℃にて撹拌し、キサンタンガム含有水溶液1を調製した。さらに、水に、ポリエチレングリコール(分子量1540)及びポリオキシエチレン(20)イソセチルエーテルを添加し、80℃にて撹拌し、ポリエチレングリコール(分子量1540)及びポリオキシエチレン(20)イソセチルエーテル含有水溶液2を調製した。また、水にエクトインを添加し、25℃にて撹拌し、エクトイン含有水溶液3を調製した。水溶液1、2、3、及びオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体を除く残りの全成分を25℃にて撹拌後、80℃に加熱した水溶液1、2及び水溶液3、ポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体を混合し20分撹拌して、化粧料を得た。
(2)2−6b:
エクトインを配合しない以外は、2−9aと同様にして、化粧料を製造した。
【0044】
(評価方法)
(1)ケラチンの分散状態の測定試験:
健常女性20〜50代の8名を2群に分け(各4名)、化粧料2−9a又は2−6bを2週間連用(1日に朝、夜1回使用。0.8g/回使用)し、連用前に対する連用後の皮膚の重水素交換率(D化率)の変化量を評価した。なお、テープストリップによる角層採取は、洗顔料にて洗顔後、20℃/湿度10%の環境下で10分間馴化した後に行った。
人の右頬部に粘着性のテープ(アズフロンテープ)を張り付け、テープの粘着面に角層を採取し、テープごとIRスペクトルを測定した(スペクトル1)。その後、その角層とテープを50%重水湿度下に10分間静置し、重水処理を実施した。重水処理後、再度IRスペクトルを測定した(スペクトル2)。取得したスペクトル1、2を、アミドIを標準ピークとして補正して補正スペクトル1、2を得た。次に解析対象ピークとしてアミドII(ケラチン由来)に検出されるピークを用い、補正スペクトル1、2における吸収強度を読み取った。[{(重水置換後の吸光強度−重水置換前の吸光強度)/重水置換前の吸光強度}×100]を計算し、解析対象ピークの吸光強度変化率を求めた。求めた吸光強度変化率の値を、角層を重水処理したときの角層構成成分への重水素置換率(D化率)の目安として、各化粧料間で比較した。
なお、D化率は、化粧料の連用前を100%とし、連用後の数値は連用前の数値に対する比率(%)で示す。なお、数値は4名の被験者の平均値である。
【0045】
(2)皮膚形状変化抑制の測定試験:
健常女性20〜50代の8名を2群に分け(各4名)、実施例9又は比較例5の化粧料を2週間連用(1日に朝、夜1回使用。0.8g/回使用)し、連用前に対する連用後の皮膚形状変化抑制能を評価した。
人の左頬部の形を、レプリカ(シリコーン系印象材、ジーシー社製)にて転写し、レプリカの表面形状粗さSaを、レーザー顕微鏡(型番VK-X250、キーエンス社製)を用いて計測した。
・洗顔後、30℃/70%RH室内に入室し、3分後にレプリカを転写した。
・その後、20℃/10%RH室内に移行し、入室から3分後にレプリカを転写した。
・30℃/70%RHにおける表面形状粗さ[Sa(30℃/70%RH)]。
・20℃/10%RHにおける表面形状粗さ[Sa(20℃/10%RH)]。
・それらの差分(ΔSa=|[Sa(30℃/70%RH)]−[Sa(20℃/10%RH)]|)を、外部環境変化により生じた表面粗さの大きさとした。
・この評価の化粧料の使用前と2週間使用後の値をそれぞれ、ΔSa(使用前)、ΔSa(2週間使用後)とし、それらの差の値である表面形状粗さの変化率
ΔSa(2週間使用後−使用前)={[ΔSa(2週間使用後)]−[ΔSa(使用前)]}
を計算することにより、2週間連用の皮膚形状変化抑制の目安とした。
・ΔSa(2週間使用後−使用前)の数値が小さいほど皮膚形状の変化が小さいことを示す。
【0046】
(3)各化粧料による乾燥感及びつっぱり感の評価試験:
化粧料2−9a、2−6bについて、Visual Analogue Scale(VAS)法を用いて、乾燥感及びつっぱり感を評価した。
長さ10cmの横軸直線(右端が「乾燥感を感じない」、左端が「乾燥を感じる(最大)」)を紙面上に提示し、現在の乾燥感がどの程度かを直線上に垂直な線を引いてもらい評価を行った(
図8)。
・洗顔後、30℃/70%RH室内に入室し、3分後に評価を行った。その後、20℃/10%RH室内に移行し、同様に入室から3分後に評価を行った。
・30℃/70%RHにおけるVAS値(VAS(30℃/70%RH),mm)
・20℃/10%RHにおけるVAS値(VAS(20℃/10%RH),mm)
・その差分(ΔVAS=|{VAS(30℃/70%RH)−VAS(20℃/10%RH)}|)を、外部環境変化により生じた乾燥感の大きさとした。
・この評価の使用前と2週間使用後の値をそれぞれ、ΔVAS(使用前)、ΔVAS(2週間使用後)とし、それらの差の値
ΔVAS(2週間使用後−使用前)={[ΔVAS(2週間使用後)]−[ΔVAS(使用前)]}
を計算することにより、乾燥感を評価した。
・ΔVAS(2週間使用後−使用前)の数値が、小さいほど乾燥感を感じなくなったことを示す。
つっぱり感に関しても同様に評価した。
【0047】
【表5】
【0048】
表5より、本発明により、ケラチン分散効果が高い化粧料を用いた場合、角層の重水素置換率(D化率)が高くなり、皮膚の形状変化抑制性能や乾燥感・つっぱり感の抑制性能が向上することが評価できる。
乾燥等によるつっぱり感は、角質細胞内の水分量が少なる結果、ケラチンが凝集し、それにより皮膚形状が収縮変化することで生じるものと考えられる。また、このケラチンの凝集は、電荷反発の減少によるものと考えられる。ケラチン分散効果が高い化粧料は、重水素置換率(D化率)が高くなっていることから、電荷反発効果を高め、ケラチンを分散させ、乾燥などの外的環境の変化においても、ケラチンを分散した状態に維持することができるために、皮膚の形状変化が抑制され、乾燥感・つっぱり感も改善されていると考えられる。