特許第6568800号(P6568800)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6568800
(24)【登録日】2019年8月9日
(45)【発行日】2019年8月28日
(54)【発明の名称】有機トランジスタ製造用溶剤
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/30 20060101AFI20190819BHJP
   H01L 51/05 20060101ALI20190819BHJP
   H01L 51/40 20060101ALI20190819BHJP
   C07C 49/403 20060101ALI20190819BHJP
   C07C 43/205 20060101ALI20190819BHJP
   C07C 211/35 20060101ALI20190819BHJP
   C07C 43/184 20060101ALI20190819BHJP
【FI】
   H01L29/28 220A
   H01L29/28 250G
   H01L29/28 100A
   H01L29/28 310J
   C07C49/403 Z
   C07C43/205 Z
   C07C211/35
   C07C43/184
【請求項の数】2
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2015-549092(P2015-549092)
(86)(22)【出願日】2014年11月13日
(86)【国際出願番号】JP2014080031
(87)【国際公開番号】WO2015076171
(87)【国際公開日】20150528
【審査請求日】2017年9月28日
(31)【優先権主張番号】特願2013-241096(P2013-241096)
(32)【優先日】2013年11月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 陽二
(72)【発明者】
【氏名】横尾 健
(72)【発明者】
【氏名】赤井 泰之
【審査官】 脇水 佳弘
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−508967(JP,A)
【文献】 特開2006−066294(JP,A)
【文献】 特開2003−238286(JP,A)
【文献】 特開2009−135422(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/136436(WO,A1)
【文献】 特表2012−521462(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/084757(WO,A1)
【文献】 特表2009−541548(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/150005(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第103304780(CN,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0240792(US,A1)
【文献】 特表2016−518721(JP,A)
【文献】 特表2014−534606(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/00
H01L 27/28
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1-1)
【化1】
(式中、R3〜R12は同一又は異なって、水素原子、置換基を有していてもよいC1-24アルキル基、アリール基、及びヘテロアリール基から選択される基を示す。R5とR6、R7とR8、R9とR10、R11とR12は、それぞれ互いに結合して、チオフェン環を構成する炭素原子と共に環を形成していてもよい)
で表される構成単位を有する有機半導体材料と、下記式(a)
【化2】
[式中、環Zは芳香族炭素環、5〜7員の脂環式炭素環、及び5〜7員の複素環から選択される環を示す。R1はオキソ基(=O)、チオキシ基(=S)、−ORa基、−SRa基、−O(C=O)Ra基、−RbO(C=O)Ra基(RaはC1-7アルキル基、又はアリール基、又は前記基が単結合又は連結基を介して結合した基を示し、RbはC1-7アルキレン基、又はアリーレン基、又は前記基が単結合又は連結基を介して結合した基を示す)、及び置換又は無置換アミノ基から選択される基を示し、R2は水素原子、C1-7アルキル基、アリール基、及び−ORa基(Raは前記に同じ)から選択される基を示す。R1とR2は互いに結合して環Zを構成する炭素原子と共に環を形成していてもよい]
で表される溶剤A(メトキシベンゼンを除く)を1種又は2種以上含む有機半導体材料溶解用の溶剤とを含むトランジスタ製造用組成物。
【請求項2】
溶剤Aが2−メチルシクロペンタノン、2−メチルシクロヘキサノン、シクロヘキシルメチルエーテル、シクロヘキシルアミン、1,2−ジメトキシベンゼン、2,3−ジヒドロベンゾフラン、及び2,3−ジヒドロ−3−メチルベンゾフランから選択される少なくとも1種である請求項1に記載のトランジスタ製造用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体材料の溶解性に優れた有機トランジスタ製造用溶剤、及び該有機トランジスタ製造用溶剤と有機半導体材料を含む有機トランジスタ製造用組成物に関する。本願は、2013年11月21日に日本に出願した、特願2013−241096号の優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
有機トランジスタはディスプレイやコンピュータ機器を構成する重要な半導体電子デバイスとして広く活用されており、現在、ポリシリコンやアモルファスシリコン等の無機物を半導体材料として使用して製造されている。このような無機物を用いた薄膜有機トランジスタの製造においては、真空プロセスや高温プロセスを必要とし、製造コストが嵩むことが問題であった。また、高温プロセスを含むため使用できる基板に制限がありガラス基板等が主に使用されてきた。しかし、ガラス基板は耐熱性は高いが衝撃に弱く軽量化が困難であり、柔軟性に乏しいためフレキシブルな有機トランジスタを形成することは困難であった。
【0003】
そこで、近年、有機半導体材料を利用した有機電子デバイスに関する研究開発が盛んに行われている。有機半導体材料は、印刷法、スピンコート法等のウェットプロセスによる簡便な方法で容易に薄膜形成が可能であり、従来の無機半導体材料を利用した有機トランジスタと比較し、製造プロセス温度を低温化できるという利点がある。これにより、一般に耐熱性の低いプラスチック基板上への形成が可能となり、ディスプレイ等のエレクトロニクスデバイスの軽量化や低コスト化が実現できるとともに、プラスチック基板のフレキシビリティーを活かした用途等、多様な展開が期待できる。
【0004】
有機半導体材料としては、例えばペンタセン等の低分子の半導体材料を使用することで高い半導体デバイス性能を発現することが知られている。しかし、ペンタセンに代表される無置換のアセン系化合物の多くはπ共役系による強い分子間相互作用により溶剤への溶解性が乏しい。その為、濃度が高い有機トランジスタ製造用組成物を調製することができず、印刷法で形成された有機半導体は結晶グレインが小さくなり高い電圧をかけないと通電しない、さらには高い電圧をかけると絶縁膜が剥れる等の問題があった。
【0005】
その他、非特許文献1、2では有機半導体材料としてチオフェン骨格をもつドナーアクセプター型コポリマー化合物を使用することが記載されている。前記化合物は強固なπ−πスタッキングにより、高いπ電子の重なりから、高い移動度を示す。しかし、強固なπ−πスタッキングにより結晶性が高く、溶剤への溶解性に乏しいことが問題であった。そして、前記文献には1,2−ジクロロベンゼンに代表されるハロゲン化溶剤を使用して加熱溶解することが記載されている。しかし、1,2−ジクロロベンゼン等で溶解させた場合は室温でゲル化することが多く、印刷法による薄膜形成には適しないものであった。また、ハロゲン化溶剤は生態毒性の懸念があり、作業安全上の問題も存在した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Adv. Mater. 2012, 24, p 4618-4622
【非特許文献2】Adv. Mater. 2012, 24, p 6457-6461
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、有機半導体材料の溶解性に優れ、結晶性が高い有機トランジスタを形成することができる有機トランジスタ製造用溶剤を提供することにある。
本発明の他の目的は、前記有機トランジスタ製造用溶剤を含む有機トランジスタ製造用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、特定の溶剤を用いると、比較的低温でも高い有機半導体材料溶解性を発現することができ、ガラス基板に比べて耐熱性の低いプラスチック基板上にも印刷法により有機トランジスタを形成することができることを見いだした。また、前記溶剤を含有する有機トランジスタ製造用組成物は、基板上に塗布すると有機半導体材料が自己組織化作用により結晶化することを見いだした。更に、必要に応じて、前記溶剤に一般的に電子材料用途に使用される溶剤を混合すると、塗布性、乾燥性をさらに向上し得ることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0009】
すなわち、本発明は有機半導体材料溶解用の溶剤であって、下記式(a)
【化1】
[式中、環Zは芳香族炭素環、5〜7員の脂環式炭素環、及び5〜7員の複素環から選択される環を示す。R1はオキソ基(=O)、チオキシ基(=S)、−ORa基、−SRa基、−O(C=O)Ra基、−RbO(C=O)Ra基(RaはC1-7アルキル基、又はアリール基、又は前記基が単結合又は連結基を介して結合した基を示し、RbはC1-7アルキレン基、又はアリーレン基、又は前記基が単結合又は連結基を介して結合した基を示す)、及び置換又は無置換アミノ基から選択される基を示し、R2は水素原子、C1-7アルキル基、アリール基、及び−ORa基(Raは前記に同じ)から選択される基を示す。R1とR2は互いに結合して環Zを構成する炭素原子と共に環を形成していてもよい]
で表される溶剤Aを1種又は2種以上含む有機トランジスタ製造用溶剤を提供する。
【0010】
本発明は、また、溶剤Aが2−メチルシクロペンタノン、2−メチルシクロヘキサノン、シクロヘキシルメチルエーテル、シクロヘキシルアミン、メトキシベンゼン、1,2−ジメトキシベンゼン、2,3−ジヒドロベンゾフラン、及び2,3−ジヒドロ−3−メチルベンゾフランから選択される少なくとも1種である前記の有機トランジスタ製造用溶剤を提供する。
【0011】
本発明は、また、有機半導体材料が、下記式(1)で表される構成単位を有する化合物である前記の有機トランジスタ製造用溶剤を提供する。
【化2】
(式中、L1、L2は同一又は異なって、芳香族炭素環又はヘテロ芳香族炭素環から2個の水素原子を除去した基、ビニレン基、エチニレン基、及び前記基の2以上が組み合わせられた2価の基から選択される基を示す。R3、R4は同一又は異なって、水素原子、置換基を有していてもよいC1-24アルキル基、アリール基、及びヘテロアリール基から選択される基を示す。Y1、Y2は同一又は異なって、酸素原子又は硫黄原子を示す。p、qは同一又は異なって0以上の整数を示し、且つ(p+q)は1以上の整数である。p個のL1は同一であってもよく、異なっていてもよい。また、q個のL2は同一であってもよく、異なっていてもよい)
【0012】
本発明は、また、式(1)中のL1、L2が、同一又は異なって、下記式(L-1)〜(L-22)から選択される基である前記の有機トランジスタ製造用溶剤を提供する。
【化3】
【化4】
(式中、R’は同一又は異なって、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、チオアルキル基、トリアルキルシリル基、ハロゲン原子、シアノ基、及びニトロ基から選択される基を示す。L1、L2がR’を2個以上含む場合、2個以上のR’は互いに結合して、L1、L2を構成する炭素原子と共に環を形成していてもよい)
【0013】
本発明は、また、有機半導体材料が、下記式(1-1)で表される構成単位を有する化合物である前記の有機トランジスタ製造用溶剤を提供する。
【化5】
(式中、R3〜R12は同一又は異なって、水素原子、置換基を有していてもよいC1-24アルキル基、アリール基、及びヘテロアリール基から選択される基を示す。R5とR6、R7とR8、R9とR10、R11とR12は、それぞれ互いに結合して、チオフェン環を構成する炭素原子と共に環を形成していてもよい)
【0014】
本発明は、また、有機半導体材料と、前記の有機トランジスタ製造用溶剤とを含む有機トランジスタ製造用組成物を提供する。
【0015】
本発明は、また、有機半導体材料が、下記式(1)で表される構成単位を有する化合物である前記の有機トランジスタ製造用組成物を提供する。
【化6】
(式中、L1、L2は同一又は異なって、芳香族炭素環又はヘテロ芳香族炭素環から2個の水素原子を除去した基、ビニレン基、エチニレン基、及び前記基の2以上が組み合わせられた2価の基から選択される基を示す。R3、R4は同一又は異なって、水素原子、置換基を有していてもよいC1-24アルキル基、アリール基、及びヘテロアリール基から選択される基を示す。Y1、Y2は同一又は異なって、酸素原子又は硫黄原子を示す。p、qは同一又は異なって0以上の整数を示し、且つ(p+q)は1以上の整数である)
【0016】
本発明は、また、式(1)中のL1、L2が、同一又は異なって、下記式(L-1)〜(L-22)から選択される基である前記の有機トランジスタ製造用組成物を提供する。
【化7】
【化8】
(式中、R’は同一又は異なって、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、チオアルキル基、トリアルキルシリル基、ハロゲン原子、シアノ基、及びニトロ基から選択される基を示す。L1、L2がR’を2個以上含む場合、2個以上のR’は互いに結合して、L1、L2を構成する炭素原子と共に環を形成していてもよい)
【0017】
本発明は、また、有機半導体材料が、下記式(1-1)で表される構成単位を有する化合物である前記の有機トランジスタ製造用組成物を提供する。
【化9】
(式中、R3〜R12は同一又は異なって、水素原子、置換基を有していてもよいC1-24アルキル基、アリール基、及びヘテロアリール基から選択される基を示す。R5とR6、R7とR8、R9とR10、R11とR12は、それぞれ互いに結合して、チオフェン環を構成する炭素原子と共に環を形成していてもよい)
【0018】
すなわち、本発明は以下に関する。
[1]有機半導体材料溶解用の溶剤であって、式(a)で表される溶剤Aを1種又は2種以上含む有機トランジスタ製造用溶剤。
[2] 溶剤Aがシクロペンタノン、C1-7(シクロ)アルキルシクロペンタノン、シクロヘキサノン、C1-7(シクロ)アルキルシクロヘキサノン、シクロヘキシルメチルエーテル、シクロヘキシルアミン、アニソール、1−メトキシ−2−メチルベンゼン、ベンゾフラン、2,3−ジヒドロベンゾフラン、ジヒドロメチルベンゾフラン、シクロヘキシルアセテート、ジヒドロターピニルアセテート、テトラヒドロベンジルアセテート、ベンジルアセテート、テトラヒドロフルフリルアセテート、ジメトキシベンゼン、エトキシベンゼン、ジプロピレングリコールシクロペンチルメチルエーテル、及びN−メチルピロリドンから選択される少なくとも1種である[1]に記載の有機トランジスタ製造用溶剤。
[3] 溶剤Aが2−メチルシクロペンタノン、2−メチルシクロヘキサノン、シクロヘキシルメチルエーテル、シクロヘキシルアミン、メトキシベンゼン、1,2−ジメトキシベンゼン、2,3−ジヒドロベンゾフラン、及び2,3−ジヒドロ−3−メチルベンゾフランから選択される少なくとも1種である[1]に記載の有機トランジスタ製造用溶剤。
[4] 有機トランジスタ製造用溶剤全量における溶剤(A)の含有量が50重量%以上である、[1]〜[3]の何れか1つに記載の有機トランジスタ製造用溶剤。
[5] 有機半導体材料が、式(1)で表される構成単位を有する化合物である[1]〜[4]の何れか1つに記載の有機トランジスタ製造用溶剤。
[6] 式(1)中のL1、L2が、同一又は異なって、式(L-1)〜(L-22)から選択される基である[5]に記載の有機トランジスタ製造用溶剤。
[7] 有機半導体材料が、式(1-1)で表される構成単位を有する化合物である[1]〜[4]の何れか1つに記載の有機トランジスタ製造用溶剤。
[8] 有機半導体材料と、[1]〜[7]の何れか1つに記載の有機トランジスタ製造用溶剤とを含む有機トランジスタ製造用組成物。
[9] 有機半導体材料が、式(1)で表される構成単位を有する化合物である[8]に記載の有機トランジスタ製造用組成物。
[10] 式(1)中のL1、L2が、同一又は異なって、式(L-1)〜(L-22)から選択される基である[9]に記載の有機トランジスタ製造用組成物。
[11] 有機半導体材料が、式(1-1)で表される構成単位を有する化合物である[8]に記載の有機トランジスタ製造用組成物。
[12] 有機半導体材料が、式(1-1a)で表される構成単位を有する化合物及び/又は式(1-1b)で表される構成単位を有する化合物である[8]に記載の有機トランジスタ製造用組成物。
[13] 有機トランジスタ製造用溶剤100重量部に対して、有機半導体材料を0.01〜10重量部含有する[8]〜[12]の何れか1つに記載の有機トランジスタ製造用組成物。
[14] 有機トランジスタ製造用溶剤100重量部に対して、有機半導体材料として式(1-1a)で表される構成単位を有する化合物及び/又は式(1-1b)で表される構成単位を有する化合物を0.01〜10重量部含有する[8]〜[13]の何れか1つに記載の有機トランジスタ製造用組成物。
[15] 有機トランジスタ製造用溶剤を、有機トランジスタ製造用組成物全量の90.00〜99.99重量%含有する[8]〜[14]の何れか1つに記載の有機トランジスタ製造用組成物。
【発明の効果】
【0019】
本発明の有機トランジスタ製造用溶剤は、比較的低温でも高い有機半導体材料溶解性を有する。そのため、ガラス基板に比べて耐熱性は低いが、衝撃に強く、軽量且つフレキシブルなプラスチック基板等にも有機トランジスタを直接形成することができ、衝撃に強く、軽量且つフレキシブルなディスプレイやコンピュータ機器を形成することができる。また、印刷法、スピンコート法等のウェットプロセスによる簡便な方法で容易に有機トランジスタの製造が可能であり、コストの大幅な削減が可能である。
そして、本発明の有機トランジスタ製造用組成物は基板上に塗布されると有機半導体材料が自己組織化作用により結晶化するため、高い結晶性を有する有機トランジスタが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[有機トランジスタ製造用溶剤]
本発明の有機トランジスタ製造用溶剤は、有機半導体材料を溶解するための溶剤であって、下記式(a)で表される溶剤Aを1種又は2種以上含むことを特徴とする。
【化10】
[式中、環Zは芳香族炭素環、5〜7員の脂環式炭素環、及び5〜7員の複素環から選択される環を示す。R1はオキソ基(=O)、チオキシ基(=S)、−ORa基、−SRa基、−O(C=O)Ra基、−RbO(C=O)Ra基(RaはC1-7アルキル基、又はアリール基、又は前記基が単結合又は連結基を介して結合した基を示し、RbはC1-7アルキレン基、又はアリーレン基、又は前記基が単結合又は連結基を介して結合した基を示す)、及び置換又は無置換アミノ基から選択される基を示し、R2は水素原子、C1-7アルキル基、アリール基、及び−ORa基(Raは前記に同じ)から選択される基を示す。R1とR2は互いに結合して環Zを構成する炭素原子と共に環を形成していてもよい]
【0021】
(溶剤A)
本発明の溶剤Aは、上記式(a)で表される、ヘテロ原子を少なくとも1個含む化合物である。式(a)中、環Zは芳香族炭素環、5〜7員の脂環式炭素環、及び5〜7員の複素環から選択される環を示す。前記環としては、例えば、ベンゼン環等の炭素数6〜14の芳香族炭素環;シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘプタン環等の5〜7員の脂環式炭素環(特に、5〜7員のアルカン環);ピロリジン環、オキソラン環、チオラン環等の5〜7員の複素環を挙げることができる。
【0022】
式(a)中、R1はオキソ基(=O)、チオキシ基(=S)、−ORa基、−SRa基、−O(C=O)Ra基、−RbO(C=O)Ra基(RaはC1-7アルキル基、又はアリール基、又は前記基が単結合又は連結基を介して結合した基を示し、RbはC1-7アルキレン基、又はアリーレン基、又は前記基が単結合又は連結基を介して結合した基を示す)、及び置換又は無置換アミノ基から選択される基を示す。また、R2は水素原子、C1-7アルキル基、アリール基、及び−ORa基(Raは前記に同じ)から選択される基を示す。
【0023】
前記C1-7アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル基等の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基や、シクロペンチル基等の炭素数3〜7のシクロアルキル基を挙げることができる。
【0024】
前記C1-7アルキレン基としては、例えば、メチレン、メチルメチレン、ジメチルメチレン、エチレン、プロピレン、トリメチレン基などの直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基等を挙げることができる。
【0025】
前記アリール基としては、例えば、フェニル基等のC6-14アリール基を挙げることができる。
【0026】
前記アリーレン基としては、例えば、フェニレン基等のC6-14アリーレン基を挙げることができる。
【0027】
前記連結基としては、例えば、アルキレン基、カルボニル基(−CO−)、エーテル結合(−O−)、エステル結合(−COO−)、アミド結合(−CONH−)、カーボネート結合(−OCOO−)、及びこれらが複数個連結した基等を挙げることができる。前記アルキレン基の炭素数は1〜18が好ましく、メチレン、メチルメチレン、ジメチルメチレン、エチレン、プロピレン、トリメチレン基などの直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基や、1,2−シクロペンチレン、1,3−シクロペンチレン、シクロペンチリデン、1,2−シクロへキシレン、1,3−シクロへキシレン、1,4−シクロへキシレン、シクロヘキシリデン基などの2価の脂環式炭化水素基(特に、シクロアルキレン基)等を挙げることができる。
【0028】
前記置換又は無置換アミノ基としては、例えば、アミノ基;メチルアミノ基、エチルアミノ基、イソプロピルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のモノ又はジ(C1-3)アルキルアミノ基等を挙げることができる。
【0029】
1とR2が互いに結合して環Zを構成する炭素原子と共に形成していてもよい環としては、例えば、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、ベンゼン、メチルベンゼン、チオフェン、メチルチオフェン、フラン、メチルフラン、ジヒドロフラン、メチルジヒドロフラン等を挙げることができる。
【0030】
式(a)で表される溶剤Aの重量平均分子量としては、例えば350以下程度、好ましくは70〜250、特に好ましくは80〜200である。
【0031】
本発明の溶剤Aとしては、例えば、シクロペンタノン、C1-7(シクロ)アルキルシクロペンタノン(例えば、2−メチルシクロペンタノン、2−エチルシクロペンタノン、2−プロピルシクロペンタノン、2−ブチルシクロペンタノン、2−ペンチルシクロペンタノン、2−シクロペンチルシクロペンタノン、2−ヘキシルシクロペンタノン、2−ヘプチルシクロペンタノン)、シクロヘキサノン、C1-7(シクロ)アルキルシクロヘキサノン(例えば、2−メチルシクロヘキサノン、2−エチルシクロヘキサノン、2−プロピルシクロヘキサノン、2−ブチルシクロヘキサノン、2−ペンチルシクロヘキサノン、2−ヘキシルシクロヘキサノン、2−ヘプチルシクロヘキサノン、4−ペンチルシクロヘキサノン)、シクロヘキシルメチルエーテル、シクロヘキシルアミン、アニソール(=メトキシベンゼン)、1−メトキシ−2−メチルベンゼン、ベンゾフラン、2,3−ジヒドロベンゾフラン、ジヒドロメチルベンゾフラン(例えば、2,3−ジヒドロ−3−メチルベンゾフラン)、シクロヘキシルアセテート、ジヒドロターピニルアセテート、テトラヒドロベンジルアセテート、ベンジルアセテート、テトラヒドロフルフリルアセテート、ジメトキシベンゼン(例えば、1,2−ジメトキシベンゼン)、エトキシベンゼン、ジプロピレングリコールシクロペンチルメチルエーテル、及びN−メチルピロリドン等を挙げることができる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。尚、前記(シクロ)アルキルは、アルキル又はシクロアルキルを示す。
【0032】
特に、有機半導体材料として次に記載の式(1-1)で表される構成単位を有する化合物(なかでも式(1-1a)で表される構成単位を有する化合物)を溶解する場合、溶剤Aとしては、2−メチルシクロペンタノン、2−メチルシクロヘキサノン、シクロヘキシルメチルエーテル、シクロヘキシルアミン、アニソール(=メトキシベンゼン)、1,2−ジメトキシベンゼン、2,3−ジヒドロベンゾフラン、及び2,3−ジヒドロ−3−メチルベンゾフランから選択される少なくとも1種が、前記有機半導体材料の溶解性に優れる点で好ましい。
【0033】
有機トランジスタ製造用溶剤中(100重量%)における溶剤Aの含有量(2種以上を組み合わせて含有する場合はその総量)は、50重量%以上(例えば50〜100重量%)が好ましく、70重量%以上(例えば70〜100重量%)が特に好ましい。溶剤Aの含有量が上記範囲を下回ると、有機半導体材料の溶解性が低下する傾向がある。
【0034】
(溶剤B)
本発明の有機トランジスタ製造用溶剤は、上記溶剤A以外にも、一般的に電子材料用途に使用される溶剤であって、上記溶剤Aと相溶する溶剤(=溶剤B)を併用してもよい。
【0035】
溶剤Bとしては、例えば、(モノ,ジ,トリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテル、(モノ,ジ)アルキレングリコールジアルキルエーテル、(モノ,ジ)アルキレングリコールアルキルエーテルアセテート、(モノ,ジ)アルキレングリコールジアセテート、アルキルアセテート、C3-6アルコール、C3-6アルカンジオール、C3-6アルカンジオールモノアルキルエーテル、C3-6アルカンジオールアルキルエーテルアセテート、C3-6アルカンジオールジアセテート、グリセリントリアセテート、ヒドロキシカルボン酸エステル、ヒドロキシカルボン酸ジエステル、アルコキシカルボン酸エステル、環状ケトン、ラクトン、環状エーテル、アミド類、ピリジン類、芳香族アセテート、アミン類等を挙げることができる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0036】
前記(モノ,ジ,トリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテルとしては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールn−プロピルエーテル、エチレングリコールn−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールn−プロピルエーテル、ジエチレングリコールn−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールn−プロピルエーテル、プロピレングリコールn−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールn−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールn−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールn−ブチルエーテル等を挙げることができる。
【0037】
前記(モノ,ジ)アルキレングリコールジアルキルエーテルとしては、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールメチルエチルエーテル、プロピレングリコールメチルn−プロピルエーテル、プロピレングリコールメチルn−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルn−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールメチルn−ブチルエーテル等を挙げることができる。
【0038】
前記(モノ,ジ)アルキレングリコールアルキルエーテルアセテートとしては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート等を挙げることができる。
【0039】
前記(モノ,ジ)アルキレングリコールジアセテートとしては、例えば、エチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールジアセテート等を挙げることができる。
【0040】
前記アルキルアセテートとしては、例えば、メチルアセテート、エチルアセテート、n−プロピルアセテート、イソプロピルアセテート、ブチルアセテート等を挙げることができる。
【0041】
前記C3-6アルコールとしては、例えば、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、n−ペンチルアルコール、n−ヘキシルアルコール、2−ヘキシルアルコール等を挙げることができる。
【0042】
前記C3-6アルカンジオールとしては、例えば、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等を挙げることができる。
【0043】
前記C3-6アルカンジオールモノアルキルエーテルとしては、例えば、3−メトキシブタノール等を挙げることができる。
【0044】
前記C3-6アルカンジオールアルキルエーテルアセテートとしては、例えば、3−メトキシブタノールアセテート等を挙げることができる。
【0045】
前記C3-6アルカンジオールジアセテートとしては、例えば、1,3−ブチレングリコールジアセテート、1,4−ブタンジオールジアセテート、1,6−ヘキサンジオールジアセテート等を挙げることができる。
【0046】
前記ヒドロキシカルボン酸エステルとしては、例えば、乳酸メチル、乳酸エチル等を挙げることができる。
【0047】
前記ヒドロキシカルボン酸ジエステルとしては、例えば、乳酸メチルアセテート、乳酸エチルアセテート等を挙げることができる。
【0048】
前記アルコキシカルボン酸エステルとしては、例えば、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル等を挙げることができる。
【0049】
前記環状ケトンとしては、例えば、4−ケトイソホロン等を挙げることができる。
【0050】
前記ラクトン類としては、例えば、β−ブチロラクトン、γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−バレロラクトン、α−アセチル−γ−ブチロラクトン等を挙げることができる。
【0051】
前記環状エーテルとしては、例えば、テトラヒドロフラン、テトラヒドロフルフリルアルコール等を挙げることができる。
【0052】
前記アミド類としては、例えば、ジメチルホルムアミド等を挙げることができる。
【0053】
前記ピリジン類としては、例えば、ピリジン、メチルピリジン等を挙げることができる。
【0054】
前記芳香族アセテートとしては、例えば、酢酸フェニル等を挙げることができる。
【0055】
前記アミン類としては、例えば、ジエチルアミン、トリエチルアミン等を挙げることができる。
【0056】
本発明では、上記溶剤Aと溶剤Bを併用することにより、有機半導体材料を高濃度に含有し、且つ、塗布性、乾燥性、安全性、分散性、溶解性等に優れる有機トランジスタ製造用組成物を形成することができる。
【0057】
塗布性をより向上するためには、前記(モノ,ジ,トリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテル、(モノ,ジ)アルキレングリコールジアルキルエーテル、(モノ,ジ)アルキレングリコールアルキルエーテルアセテート、(モノ,ジ)アルキレングリコールジアセテート、及びアルコキシカルボン酸エステルから選択される溶剤を1種又は2種以上併用することが効果的である。
【0058】
顔料分散性をより向上するためには、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のモノC3-6アルキレングリコールアルキルエーテルアセテート、及びC3-6アルカンジオールアルキルエーテルアセテートから選択される溶剤を1種又は2種以上併用することが効果的である。
【0059】
染料溶解性をより向上するためには、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のモノC3-6アルキレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のモノC3-6アルキレングリコールアルキルエーテルアセテート、C3-6アルカンジオールモノアルキルエーテル、C3-6アルカンジオールアルキルエーテルアセテート、ヒドロキシカルボン酸エステル、ヒドロキシカルボン酸ジエステル、C3-6アルコール、及びC3-6アルカンジオールから選択される溶剤を1種又は2種以上併用することが効果的である。
【0060】
エポキシ樹脂やアクリル樹脂の溶解性をより向上するためには、(モノ,ジ,トリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテル、(モノ,ジ)アルキレングリコールジアルキルエーテル、(モノ,ジ)アルキレングリコールアルキルエーテルアセテート、(モノ,ジ)アルキレングリコールジアセテート、環状ケトン、ラクトン類、環状エーテル、アミド類、ピリジン類、芳香族アセテート、及びアミン類から選択される溶剤を1種又は2種以上併用することが効果的である。
【0061】
乾燥性をより向上するためには、プロピレングリコールメチルn−プロピルエーテル、プロピレングリコールメチルn−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルn−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールメチルn−ブチルエーテル等の(モノ,ジ)C3-6アルキレングリコールC1-2アルキルC3-4アルキルエーテル、及びアルキルアセテートから選択される溶剤を1種又は2種以上併用することが効果的である。
【0062】
溶剤Aと溶剤Bとを併用する場合、その混合比(前者/後者(重量比))は、例えば95/5〜50/50、好ましくは95/5〜70/30である。溶剤Aに比べ溶剤Bの割合が多くなると、有機半導体材料の溶解性が低下する傾向がある。尚、溶剤Aとして2種類以上の溶剤を組み合わせて使用する場合にはその合計量である。溶剤Bについても同様である。
【0063】
本発明の有機トランジスタ製造用溶剤は溶剤Aを含有するため、比較的低温でも高い有機半導体材料溶解性を有する。例えば、100℃における前記式(1)で表される構成単位を有する化合物の溶解度は、有機トランジスタ製造用溶剤100重量部に対して、例えば0.02重量部以上、好ましくは0.03重量部以上、特に好ましくは0.04重量部以上である。溶解度の上限は例えば5重量部、好ましくは3重量部、特に好ましくは2重量部である。
【0064】
(有機半導体材料)
本発明の有機トランジスタ製造用溶剤は、有機半導体材料溶解用の溶剤である。前記有機半導体材料としては特に限定されないが、本発明においては、下記式(1)で表される、置換基を有していてもよいジケトピロロピロール基を含む構成単位を有する化合物が、前記構成単位がアクセプター基として働き、ドナー基に対しドナーアクセプター間の分子間電子的相互作用による強いπ−スタッキングにより、秩序よく配列・配向した構造をとることができる点で好ましい。下記式(1)で表される構成単位の繰り返し数としては、例えば2〜5000程度である。
【0065】
【化11】
(式中、L1、L2は同一又は異なって、芳香族炭素環又はヘテロ芳香族炭素環から2個の水素原子を除去した基、ビニレン基、エチニレン基、及び前記基の2以上が組み合わせられた2価の基から選択される基を示す。R3、R4は同一又は異なって、水素原子、置換基を有していてもよいC1-24アルキル基、アリール基、及びヘテロアリール基から選択される基を示す。Y1、Y2は同一又は異なって、酸素原子又は硫黄原子を示す。p、qは同一又は異なって0以上の整数を示し、且つ(p+q)は1以上の整数である。p個のL1は同一であってもよく、異なっていてもよい。また、q個のL2は同一であってもよく、異なっていてもよい)
【0066】
式(1)中、R3、R4は同一又は異なって、水素原子、置換基を有していてもよいC1-24アルキル基、アリール基、及びヘテロアリール基から選択される基を示す。前記C1-24アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基、イコシル基等の炭素数1〜24の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を挙げることができる。前記アリール基としては、例えば、フェニル基等のC6-14アリール基を挙げることができる。前記ヘテロアリール基としては、例えば、2−フリル基、3−フリル基、2−チエニル基、3−チエニル基、2−ピロリル基、3−ピロリル基、2−オキサゾリル基、2−チアゾリル基、2−イミダゾリル基、2−ピリジル基、3−ピリジル基、4−ピリジル基、2−ベンゾフリル基、2−ベンゾチエニル基、及び2−チエノチエニル基等を挙げることができる。前記基が有していてもよい置換基としては、例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基等を挙げることができる。
【0067】
1、L2は同一又は異なって、芳香族炭素環又はヘテロ芳香族炭素環から2個の水素原子を除去した基、ビニレン基、エチニレン基、及び前記基の2以上が組み合わせられた2価の基から選択される基を示す。
【0068】
前記芳香族炭素環としては、例えば、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、テトラセン、クリセン、ピレン、トリフェニレン、ペンタセン等を挙げることができる。
【0069】
前記ヘテロ芳香族炭素環としては、例えば、ピロール、ピリジン、フラン、チオフェン、セレノフェン、イミダゾール、ピラゾール、オキサゾール、1,3−チアゾール、イミダゾリン、ピラジン、モルホリン、チアジン、1,3,4−チアジアゾール等を挙げることができる。
【0070】
本発明におけるL1、L2としては、なかでも、下記式(L-1)〜(L-22)から選択される基であることが好ましい。
【化12】
【化13】
【0071】
上記式中、R’は同一又は異なって、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、チオアルキル基、トリアルキルシリル基、ハロゲン原子、シアノ基、及びニトロ基から選択される基を示す。上記式で表される基がR’を2個以上含む場合、2個以上のR’は互いに結合して、前記基を構成する炭素原子と共に環を形成していてもよい。
【0072】
前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の炭素数1〜24の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を示す。
【0073】
前記アリール基としては、例えば、フェニル基等のC6-14アリール基を挙げることができる。
【0074】
前記ヘテロアリール基としては、例えば、2−フリル基、3−フリル基、2−チエニル基、3−チエニル基、2−ピロリル基、3−ピロリル基、2−オキサゾリル基、2−チアゾリル基、2−イミダゾリル基、2−ピリジル基、3−ピリジル基、4−ピリジル基、2−ベンゾフリル基、2−ベンゾチエニル基、2−チエノチエニル基等を挙げることができる。
【0075】
前記アルコキシ基としては、例えば、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、t−ブトキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ基などのC1-24アルコキシ基等を挙げることができる。
【0076】
前記チオアルキル基としては、例えば、チオメチル基、チオエチル基、チオプロピル基、チオイソプロピル基、チオブチル基、チオイソブチル基、チオsec−ブチル基、チオ−tert−ブチル基、チオペンチル基、チオヘキシル基等のチオC1-24アルキル基を挙げることができる。
【0077】
前記トリアルキルシリル基としては、例えば、トリメチルシリル、tert−ブチルジメチルシリル、トリベンジルシリル、トリフェニルシリル基等のトリ(C1-24)アルキル及び/又はアリールシリル基等を挙げることができる。
【0078】
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等を挙げることができる。
【0079】
前記基が有していてもよい置換基としては、例えば、保護基で保護されていてもよいヒドロキシル基、保護基で保護されていてもよいヒドロキシメチル基、保護基で保護されていてもよいアミノ基、保護基で保護されていてもよいカルボキシル基、保護基で保護されていてもよいスルホ基、ハロゲン原子、オキソ基、シアノ基、ニトロ基、複素環式基、炭化水素基、ハロアルキル基などが挙げられる。前記保護基としては有機合成の分野で慣用の保護基を使用できる。
【0080】
2個以上のR’が互いに結合して、L1、L2を構成する炭素原子と共に形成していてもよい環としては、例えば、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、ベンゼン、メチルベンゼン、チオフェン、メチルチオフェン、フラン、メチルフラン、ジヒドロフラン、メチルジヒドロフラン等を挙げることができる。
【0081】
上記式中、rは、例えば1〜3の整数を示す。
【0082】
前記式(1)で表される構成単位を有する化合物としては、なかでも、置換基を有していてもよいジケトピロロピロール基と共に、チオフェンから2個の水素原子を除去した基、及びビニレン基を有する有機半導体材料が、ドナーアクセプター間の分子間電子的相互作用による強いπ−スタッキングにより、秩序よく配列・配向した構造をとる点で好ましく、例えば、下記式(1-1)で表される構成単位を有する化合物を挙げることができる。
【0083】
【化14】
【0084】
上記式中、R3〜R12は同一又は異なって、水素原子、置換基を有していてもよいC1-24アルキル基、アリール基、及びヘテロアリール基から選択される基を示す。R5とR6、R7とR8、R9とR10、R11とR12は、それぞれ互いに結合して、チオフェン環を構成する炭素原子と共に環を形成していてもよい。R3〜R12における置換基を有していてもよいC1-24アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、及びチオフェン環を構成する炭素原子と共に形成していてもよい環としては、上記R’における例と同様の例を挙げることができる。
【0085】
本発明の有機半導体材料としては、上記式(1-1)中のR5〜R12が水素原子であることが好ましく、特に、下記式(1-1a)及び/又は下記式(1-1b)で表される構成単位を有する化合物を使用することが、高い配向性の有機トランジスタが得られる点で好ましい。
【0086】
【化15】
【0087】
前記式(1)で表される構成単位を有する化合物の重量平均分子量としては、例えば500万以下程度、好ましくは1000〜100万、特に好ましくは5000〜50万である。
【0088】
[有機トランジスタ製造用組成物]
本発明の有機トランジスタ製造用組成物は、上記有機半導体材料と有機トランジスタ製造用溶剤とを含むことを特徴とする。
【0089】
本発明の有機トランジスタ製造用組成物は、例えば、上記有機半導体材料と、上記有機トランジスタ製造用溶剤とを混合し、大気下で、70〜150℃程度の温度で0.1〜2時間程度加熱することにより調製することができる。
【0090】
本発明の有機トランジスタ製造用組成物中の有機半導体材料の含有量は、例えば、有機半導体材料として前記式(1)で表される構成単位を有する化合物を使用する場合は、有機トランジスタ製造用溶剤100重量部に対して、例えば0.02重量部以上、好ましくは0.03重量部以上、特に好ましくは0.04重量部以上である。上限は、例えば5重量部、好ましくは3重量部、特に好ましくは2重量部である。
【0091】
有機半導体材料として、前記式(1-1a)及び/又は(1-1b)で表される構成単位を有する化合物を使用する場合(2種以上を混合して使用する場合はその総量)は、有機トランジスタ製造用溶剤100重量部に対して、例えば0.01重量部以上、好ましくは0.05重量部以上、更に好ましくは0.1重量部以上、特に好ましくは0.2重量部以上である。上限は、例えば10重量部、好ましくは7重量部、特に好ましくは5重量部である。
【0092】
本発明の有機トランジスタ製造用組成物中の有機トランジスタ製造用溶剤の含有量は、例えば99.99重量%以下である。その下限は、例えば90.00重量%、好ましくは93.00重量%、特に好ましくは95.00重量%であり、上限は、好ましくは99.95重量%、特に好ましくは99.90重量%である。
【0093】
本発明の有機トランジスタ製造用組成物に含まれる有機トランジスタ製造用溶剤含有量は、有機半導体材料の自己組織化作用による結晶化を促進することができる点で、有機半導体材料(例えば、前記式(1)で表される構成単位を有する化合物)に対し、例えば10倍(重量)以上が好ましく、更に好ましくは13倍(重量)以上、特に好ましくは20倍(重量)以上である。上限は、例えば10000倍(重量)、好ましくは2000倍(重量)、更に好ましくは1000倍(重量)、特に好ましくは500倍(重量)である。
【0094】
本発明の有機トランジスタ製造用組成物には、上記有機半導体材料と上記有機トランジスタ製造用溶剤以外にも、一般的な有機トランジスタ製造用組成物に含まれる成分(例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、セルロース樹脂、ブチラール樹脂等)を必要に応じて適宜配合することができる。
【0095】
本発明の有機トランジスタ製造用組成物は、比較的低温でも有機半導体材料を高濃度に溶解することができる。そのため、ガラス基板に比べて耐熱性は低いが、衝撃に強く、軽量且つフレキシブルなプラスチック基板にも有機トランジスタを直接形成することができ、衝撃に強く、軽量且つフレキシブルなディスプレイやコンピュータ機器を形成することができる。また、本発明の有機トランジスタ製造用組成物は本発明の有機トランジスタ製造用溶剤を含むため、基板上に塗布されると有機半導体材料が自己組織化作用により結晶化するため、高い結晶性を有する有機トランジスタが得られる。更に、印刷法、スピンコート法等のウェットプロセスによる簡便な方法で容易に有機トランジスタの形成が可能であり、コストの大幅な削減が可能である。
【実施例】
【0096】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0097】
実施例1
有機半導体材料として式(1-1a)で表される構成単位を有する化合物(商品名「PDVT−8」、1−Material(株)製)を使用し、20℃環境下、有機トランジスタ製造用溶剤として2,3−ジヒドロベンゾフラン(DHBF)を使用して、有機半導体材料濃度が0.05〜0.40重量%の有機トランジスタ製造用組成物を調製した。
得られた有機トランジスタ製造用組成物を窒素雰囲気、遮光条件下、120℃で2時間程度加熱し、溶解の可否を目視で確認した。尚、溶解性は、目視にて不溶物が確認されなかった場合を「○:溶解」とし、不溶物が確認された場合を「×:不溶解」とした。以下も同様である。
また、完全に溶解した有機トランジスタ製造用組成物について、20℃、窒素雰囲気、遮光条件下で静置して、析出物が出現するまでの時間を測定した。
【0098】
実施例2〜7(実施例4は参考例とする)、比較例1
2,3−ジヒドロベンゾフラン(DHBF)に代えて、表1に示した溶剤を使用した以外は実施例1と同様にして有機トランジスタ製造用組成物を調製し、有機半導体材料の溶解性を評価した。
【0099】
【表1】
【0100】
O−DCB:1,2−ジクロロベンゼン(東京化成工業(株)製)
DHBF:2,3−ジヒドロベンゾフラン(東京化成工業(株)製、分子量:120.15)
CHXME:シクロヘキシルメチルエーテル(和光純薬工業(株)製、分子量:114.19)
MANON:2−メチルシクロヘキサノン(和光純薬工業(株)製、分子量:112.17)
MOB:メトキシベンゼン(東京化成工業(株)製、分子量:108.14)
DHMDF:2,3−ジヒドロ−3−メチルベンゾフラン(東京化成工業(株)製、分子量:134.18)
DMOB:1,2−ジメトキシベンゼン(東京化成工業(株)製、分子量:138.16)
CHA:シクロヘキシルアミン(和光純薬工業(株)製、分子量:99.17)
【0101】
実施例8、比較例2
有機半導体材料として式(1-1b)で表される構成単位を有する化合物(商品名「PDVT−10」、1−Material(株)製)を使用し、20℃環境下、表2に示した溶剤を使用して、有機半導体材料濃度が0.10重量%の有機トランジスタ製造用組成物を調製した。得られた有機トランジスタ製造用組成物を窒素雰囲気、遮光条件下、120℃で2時間程度加熱し、溶解の可否を目視で確認した。
また、完全に溶解した有機トランジスタ製造用組成物について、20℃、窒素雰囲気、遮光条件下で静置して、析出物が出現するまでの時間を測定した。
【0102】
【表2】
【0103】
O−DCB:1,2−ジクロロベンゼン(東京化成工業(株)製)
DHBF:2,3−ジヒドロベンゾフラン(東京化成工業(株)製、分子量:120.15)
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明の有機トランジスタ製造用溶剤は、比較的低温でも高い有機半導体材料溶解性を有する。そのため、ガラス基板に比べて耐熱性は低いが、衝撃に強く、軽量且つフレキシブルなプラスチック基板等にも有機トランジスタを直接形成することができ、衝撃に強く、軽量且つフレキシブルなディスプレイやコンピュータ機器を形成することができる。また、印刷法、スピンコート法等のウェットプロセスによる簡便な方法で容易に有機トランジスタの製造が可能であり、コストの大幅な削減が可能である。
そして、本発明の有機トランジスタ製造用組成物は基板上に塗布されると有機半導体材料が自己組織化作用により結晶化するため、高い結晶性を有する有機トランジスタが得られる。