(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6568807
(24)【登録日】2019年8月9日
(45)【発行日】2019年8月28日
(54)【発明の名称】乗員保護装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
B60R 22/28 20060101AFI20190819BHJP
B60R 22/46 20060101ALI20190819BHJP
B60R 21/0136 20060101ALI20190819BHJP
B60R 21/015 20060101ALI20190819BHJP
B60R 21/203 20060101ALI20190819BHJP
【FI】
B60R22/28 107
B60R22/46 166
B60R21/0136
B60R21/015
B60R22/46 128
B60R21/203
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-13661(P2016-13661)
(22)【出願日】2016年1月27日
(65)【公開番号】特開2016-165994(P2016-165994A)
(43)【公開日】2016年9月15日
【審査請求日】2018年10月17日
(31)【優先権主張番号】特願2015-41486(P2015-41486)
(32)【優先日】2015年3月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】503175047
【氏名又は名称】オートリブ株式会社
(74)【復代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【復代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】多田 辰雄
【審査官】
小野田 達志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−301569(JP,A)
【文献】
特開2013−82334(JP,A)
【文献】
特開2002−347568(JP,A)
【文献】
特開2007−290489(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 22/00−48
B60R 21/0136
B60R 21/015
B60R 21/203
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアバッグの作動及びシートベルトにより乗員の体格に応じて拘束する力を示す拘束荷重の切り替えを第1荷重値と該第1荷重値より小さい第2荷重値の間で行う乗員保護装置において、
前記乗員の体格を取得する体格取得部と、
該体格取得部で取得された乗員の体格が所定の体格以上であるか否かを判定する体格判定部と、
車幅方向の加速度値を検出する加速度検出部から該加速度値を取得する加速度取得部と、
該加速度取得部で取得した加速度値に基づいた値が所定の値以内であるか否かを判定する加速度判定部と、
前記体格判定部および前記加速度判定部の結果に基づき、前記シートベルトの拘束荷重を第1荷重値と該第1荷重値より小さい第2荷重値の間で切り替える切替部とを備え、
前記切替部は、前記体格判定部が前記乗員の体格が所定の体格以上であると判定し、前記車幅方向の前記加速度判定部が前記所定の値以内であると判定した場合、前記シートベルトの拘束中に、前記シートベルトの拘束荷重を前記第1荷重値より少ない第2荷重値に切り替え、前記体格判定部が前記乗員の体格が所定の体格以上であると判定し、前記車幅方向の前記加速度判定部が前記所定の値より大きいと判定した場合、前記シートベルトの拘束荷重を前記第1荷重値に維持する乗員保護装置。
【請求項2】
エアバッグの作動及びシートベルトにより乗員の体格に応じて拘束する力を示す拘束荷重の切り替えを第1荷重値と該第1荷重値より小さい第2荷重値の間で行う乗員保護装置において、
前記乗員の体格を取得する体格取得部と、
該体格取得部で取得された乗員の体格が所定の体格以上であるか否かを判定する体格判定部と、
前記乗員が車幅方向に移動したか否かを判定する移動判定部と、
前記体格判定部および前記移動判定部の結果に基づき、前記シートベルトの拘束荷重を第1荷重値と該第1荷重値より小さい第2荷重値の間で切り替える切替部とを備え、
前記切替部は、前記体格判定部が前記乗員の体格が所定の体格以上であると判定し、該移動判定部が前記乗員が車幅方向に移動しないと判定した場合、前記シートベルトの拘束荷重を前記第2荷重値に切り替え、前記体格判定部が前記乗員の体格が所定の体格以上であると判定し、前記車幅方向の前記移動判定部が前記乗員が車幅方向に移動すると判定した場合、前記シートベルトの拘束荷重を前記第1荷重値に維持する乗員保護装置。
【請求項3】
車内を撮像する撮像部を備え、
前記移動判定部は、該撮像部で撮像した画像を画像処理することにより前記乗員が車幅方向に移動したか否かを判定する
請求項2に記載の乗員保護装置。
【請求項4】
エアバッグの作動及びシートベルトにより乗員の体格に応じて拘束する力を示す拘束荷重の切り替えを第1荷重値と該第1荷重値より小さい第2荷重値の間で行う乗員保護装置に用いられるプログラムにおいて、
該乗員保護装置に、
前記乗員の体格が所定の体格以上であるか否かを判定し、
車幅方向の加速度値に基づいた値が所定の値以内であるか否かを判定し、
前記体格判定部が前記乗員の体格が所定の体格以上であり、前記車幅方向の前記加速度判定部が前記所定の値以内であると判定した場合、前記シートベルトの拘束中に、前記シートベルトの拘束荷重を前記第1荷重値より少ない第2荷重値に切り替え、
前記体格判定部が前記乗員の体格が所定の体格以上であり、前記車幅方向の前記加速度判定部が前記所定の値より大きいと判定した場合、前記シートベルトの拘束荷重を前記第1荷重値に維持する
処理を実行させるプログラム。
【請求項5】
エアバッグの作動及びシートベルトにより乗員の体格に応じて拘束する力を示す拘束荷重の切り替えを第1荷重値と該第1荷重値より小さい第2荷重値の間で行う乗員保護装置に用いられるプログラムにおいて、
該乗員保護装置に、
前記乗員の体格が所定の体格以上であるか否かを判定し、
前記乗員が車幅方向に移動したか否かを判定し、
前記体格判定部が前記乗員の体格が所定の体格以上であり、前記車幅方向に乗員が移動しないと判定した場合、前記シートベルトの拘束中に、前記シートベルトの拘束荷重を前記第1荷重値より少ない第2荷重値に切り替え、
前記体格判定部が前記乗員の体格が所定の体格以上であり、前記車幅方向に乗員が移動すると判定した場合、前記シートベルトの拘束荷重を前記第1荷重値に維持する
処理を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に装備される乗員保護装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の衝突時においてエアバッグが作動した場合、シートベルトの拘束を強めた後、乗員の体格に応じてシートベルトの拘束を緩めることで乗員を適切な拘束力(拘束荷重)で保護する技術が知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−103603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に開示された技術では、車両の前面から衝突する前面衝突のみを仮定しているため、車両の前面の一部のみに衝突されるような斜め衝突等の、車両に車両前後方向の加速度が生じる状態で車幅方向(横方向)の加速度が加わるような衝突があった場合、シートベルトを緩めることで乗員がエアバッグにより保護される範囲から逸れてしまうという問題がある。
【0005】
一つの側面では、車両の前方の斜め方向からの衝突、または車両の前方の左右いずれかの端部に前方から衝突(スモールオーバーラップ衝突)等の衝突時に車両が回転するような力が生じる衝突や、車両の前方方向の衝突が発生している状態で車幅方向の加速度が生じた場合、もしくは車幅方向の加速度が生じた状態で前面衝突をした場合、乗員を適切に保護することができる乗員保護装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様の乗員保護装置は、エアバッグの作動及びシートベルトにより乗員の体格に応じて拘束する力を示す拘束荷重の切り替えを第1荷重値と該第1荷重値より小さい第2荷重値の間で行う乗員保護装置において、前記乗員の体格を取得する体格取得部と、該体格取得部で取得された乗員の体格が所定の体格以上であるか否かを判定する体格判定部と、車幅方向の加速度値を検出する加速度検出部から該加速度値を取得する加速度取得部と、該加速度取得部で取得した加速度値に基づいた値が所定の値以内であるか否かを判定する加速度判定部と、前記体格判定部および前記加速度判定部の結果に基づき、前記シートベルトの拘束荷重を第1荷重値と該第1荷重値より小さい第2荷重値の間で切り替える切替部とを備え、前記切替部は、前記体格判定部が前記乗員の体格が所定の体格以上であると判定し、前記車幅方向の前記加速度判定部が前記所定の値以内であると判定した場合、前記シートベルトの拘束中に、前記シートベルトの拘束荷重を前記第1荷重値より少ない第2荷重値に切り替え、前記体格判定部が前記乗員の体格が所定の体格以上であると判定し、前記車幅方向の前記加速度判定部が前記所定の値より大きいと判定した場合、前記シートベルトの拘束荷重を前記第1荷重値に維持する。
【0007】
一態様の乗員保護装置は、エアバッグの作動及びシートベルトにより乗員の体格に応じて拘束する力を示す拘束荷重の切り替えを第1荷重値と該第1荷重値より小さい第2荷重値の間で行う乗員保護装置において、前記乗員の体格を取得する体格取得部と、該体格取得部で取得された乗員の体格が所定の体格以上であるか否かを判定する体格判定部と、前記乗員が車幅方向に移動したか否かを判定する移動判定部と、前記体格判定部および前記移動判定部の結果に基づき、前記シートベルトの拘束荷重を第1荷重値と該第1荷重値より小さい第2荷重値の間で切り替える切替部とを備え、前記切替部は、前記体格判定部が前記乗員の体格が所定の体格以上であると判定し、該移動判定部が前記乗員が車幅方向に移動しないと判定した場合、前記シートベルトの拘束荷重を前記第2荷重値に切り替え、前記体格判定部が前記乗員の体格が所定の体格以上であると判定し、前記車幅方向の前記移動判定部が前記乗員が車幅方向に移動すると判定した場合、前記シートベルトの拘束荷重を前記第1荷重値に維持する。
【0008】
一態様の乗員保護装置は、車内を撮像する撮像部を備え、前記移動判定部は、該撮像部で撮像した画像を画像処理することにより前記乗員が車幅方向に移動したか否かを判定する。
【0009】
一態様のプログラムは、エアバッグの作動及びシートベルトにより乗員の体格に応じて拘束する力を示す拘束荷重の切り替えを第1荷重値と該第1荷重値より小さい第2荷重値の間で行う乗員保護装置に用いられるプログラムにおいて、該乗員保護装置に、前記乗員の体格が所定の体格以上であるか否かを判定し、車幅方向の加速度値に基づいた値が所定の値以内であるか否かを判定し、前記体格判定部が前記乗員の体格が所定の体格以上であり、前記車幅方向の前記加速度判定部が前記所定の値以内であると判定した場合、前記シートベルトの拘束中に、前記シートベルトの拘束荷重を前記第1荷重値より少ない第2荷重値に切り替え、前記体格判定部が前記乗員の体格が所定の体格以上であり、前記車幅方向の前記加速度判定部が前記所定の値より大きいと判定した場合、前記シートベルトの拘束荷重を前記第1荷重値に維持する処理を実行させる。
【0010】
一態様のプログラムは、エアバッグの作動及びシートベルトにより乗員の体格に応じて拘束する力を示す拘束荷重の切り替えを第1荷重値と該第1荷重値より小さい第2荷重値の間で行う乗員保護装置に用いられるプログラムにおいて、該乗員保護装置に、前記乗員の体格が所定の体格以上であるか否かを判定し、前記乗員が車幅方向に移動したか否かを判定し、前記体格判定部が前記乗員の体格が所定の体格以上であり、前記車幅方向に乗員が移動しないと判定した場合、前記シートベルトの拘束中に、前記シートベルトの拘束荷重を前記第1荷重値より少ない第2荷重値に切り替え、前記体格判定部が前記乗員の体格が所定の体格以上であり、前記車幅方向に乗員が移動すると判定した場合、前記シートベルトの拘束荷重を前記第1荷重値に維持する処理を実行させる。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、一つの側面では、車両の前方の斜め方向からの衝突または車両の前方の左右いずれかの端部に前方から衝突(スモールオーバーラップ衝突)等の衝突時に車両が回転するような力が生じる衝突や、車両の前方方向の衝突が発生している状態で車幅方向の加速度が生じた場合、もしくは車幅方向の加速度が生じた状態で前面衝突をした場合等において乗員を適切に保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図3】乗員保護装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図4】車両前方において衝突が発生した場合の、乗員保護装置の動作の一例を示すタイミングチャートである。
【
図5】本実施形態における制御部の処理手順を示したフローチャートである。
【
図6】本実施形態における制御部の処理手順を示したフローチャートである。
【
図7】乗員保護装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図8】本実施形態における制御部の処理手順を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施の形態1
以下本実施の形態の一例を、図面を参照して説明する。
図1は乗員保護装置1の概要を示す説明図である。乗員保護装置1は、乗員Aを座席Cに拘束するためのシートベルト10と、シートベルト10を引き出し可能に巻き取るリトラクタ12と、乗員Aを衝撃から保護するエアバッグ13とを備える。エアバッグ13は例えばステアリングホイールに設けられている。シートベルト10は例えば2点式又は3点式等である。以下、本実施形態では、3点式のシートベルトを備える乗員保護装置1について説明する。
【0014】
シートベルト10の一端部は、リトラクタ12に接続されている。リトラクタ12から引き出されたシートベルト10は、例えばセンターピラーBの上部に配設されたスルーアンカー11で折り返され、他端部がセンターピラーBの下部に固定されたアンカー14に接続されている。またシートベルト10の中途部分には、タングプレート15が移動可能に挿通してある。タングプレート15は、座席Cを挟んでリトラクタ12の反対側に配設されたバックル16に装着される。
【0015】
図2は、リトラクタ12の構成を示す模式図である。リトラクタ12は、金属製のフレーム12a内に回転自在に設けられた巻取軸12bと、巻取軸12bの下部に設けられ、リトラクタ内に巻かれているウエビングの量を検出する巻き取り残量センサ12iと、巻取軸12bの中心部から軸方向の外側へ突出した軸部12cと、軸部12cの一端部に接続されたガス発生剤式のプリテンショナ12hと、軸部12cの他端部に接続された動力伝達機構12gと、駆動軸12fを介して動力伝達機構12gに接続されたモータ12dを備える。巻取軸12bはシートベルト10の一端部に接続され、図示しない巻き取りばねによってシートベルト10が巻き取られる回転方向へ付勢されている。
【0016】
モータ12dは、後述する制御部111の制御により駆動軸12fをシートベルト10の巻取方向に少なくとも回転させる。モータ12dは巻取り方向と引出方向へ正逆回転させるようにしてもよい。動力伝達機構12gは、例えばクラッチであり、モータ12dの駆動軸12fの回転を軸部12cに伝達し、伝達したモータ12dの駆動力により巻取軸12bを回転させる。
【0017】
プリテンショナ12hは、ガス発生剤と、該ガス発生剤を着火させる着火剤と、該ガス発生剤から発生したガスの圧力を巻取軸12bの回転力として巻取軸12bに伝達する機構とを有する。後述する制御部111は車両の衝突を検知した場合、もしくは衝突予知制御において衝突回避が不可能と判断された時の衝突の直前において、着火剤に電流が流れ、ガス発生剤からガスが発生し、発生したガスの圧力によって、巻取軸12bがベルト巻取り方向に回転される。
【0018】
巻き取り残量センサ12iはシートベルト10の巻き取り量に応じて進退する進退棒(図示せず)の進退位置からベルトの巻き取り量を検出し、検出した巻き取り量を後述する制御部111へ出力する。制御部111は取得した巻き取り量からシートベルト10を使用する乗員Aの体格を算出し、算出した乗員Aの体格を取得する。体格とは例えば、乗員Aの重さ、荷重又は胴回りもしくは身長等の体の大きさであり、本実施形態における体格は乗員Aの身長と体重、または体重のみを示す。制御部111は座席にとりつけられた圧力センサ(図示せず)から乗員Aの体格を取得してもよい。シートベルト10のフォースリミッタ荷重(拘束荷重)は、車両衝突時に乗員Aをシートベルト10で拘束する際に、乗員Aにベルトから加えられる最大荷重を表し、体格に応じて異なって設定される。フォースリミッタ荷重(拘束荷重)はウエビング張力(引張力)として検出される。
【0019】
図3は乗員保護装置1のハードウェア構成を示すブロック図である。乗員保護装置1は制御部111、リトラクタ12、エアバッグ13、RAM113、加速度検出部114及び計時部115等により実行される。ECU(electronic control unit)等の制御部111は、CAN(Controller Area Network)により伝送線を介してハードウェア各部と接続されており、それらを制御すると共に、RAM113に格納されたプログラム13Pに従って、種々のソフトウェア的機能を実行する。
【0020】
リトラクタ12は巻取軸12bの内部に設けられたフォースリミッタ機構120及びスイッチ(切替部)121を備える。フォースリミッタ機構は図示されていないが、当該フォースリミッタ機構は一例として、巻取軸12b(スピンドル)内部で、一端が当該巻取軸に結合され、他端が車両緊急時にフレーム12aに対してロック可能に設けられるトーションバーを備える。トーションバーは、例えば、太さ(外径)が異なる少なくとも2種類の円柱状部分を備える。太さ(外径)が異なるということは、ねじり力(拘束荷重)が異なる。フォースリミッタ機構120はシートベルト10に所定値以上の荷重が作用した場合に、トーションバーの太さに応じた拘束荷重(ねじり力)で、シートベルト10の引き出し方向の回転力を吸収する。前述のプリテンショナが作動した後、フレームに巻取軸12bが一旦ロックされる。巻き取り軸がロックされた状態で、フォースリミッタ機構120は、スイッチ121の切り替えにより、トーションバーの異なる円柱のうち適切な太さを(拘束荷重)選択できる。所定の条件下において、フォースリミッタ機構により、シートベルト10の拘束荷重(フォースリミッタ荷重)を第1荷重値又は第1荷重値よりも小さい第2荷重値に切り替える。なお、スイッチ121は制御部111の指示に基づいて動作する。フォースリミッタ機構120は、スイッチ121の切り替えにより、体格の大きな乗員の荷重に耐えるトーションバーが作用する第1荷重値、又は第1荷重値よりも低い耐荷重値をもつトーションバーが作用する第2荷重値のいずれかが択一的に選択される。本実施の形態の例では、スイッチ121が作動しない初期状態では、高い拘束荷重を有する第1荷重値になるように設定されている。スイッチ121の作動により、低い拘束荷重を有する第2荷重値に切替可能に設計されている。
【0021】
エアバッグ13は通信により制御部111から制御信号が入力される。エアバッグ13は制御信号が入力された場合、エアバッグ13内部に設けられたインフレータ(図示せず)の電熱部を発熱する。発熱された電熱部は電熱部近傍の火薬を点火させ、火薬と隣接するガス発生剤に引火する。引火したガス発生剤はガスをエアバッグ13に備えられた緩衝袋の内部に充填する。緩衝袋は例えば塩化ビニル又は布等の素材で形成されており、内部にガスが充填された場合、膨張することができる。
【0022】
緩衝袋はエアバッグ13内部に折り畳んで収納してある。エアバッグ13は緩衝袋を膨張させることにより乗員Aの正面に展開する。このことにより、エアバッグ13は乗員Aに与えられる前方向の衝撃を軽減し、かつ乗員Aがフロントウィンドから放出されたり、ステアリングホイールやインパネに衝突することを防止する。
【0023】
加速度検出部114は車両に加わる加速度を検出するセンサである。加速度検出部114は例えば、車両の前方のバンパーの後方や車両の両側面のセンターピラーBに設けられる。なお、加速度検出部114が設けられる位置は車両前方のバンパー後方やセンターピラーBに限られない。加速度検出部114は制御部111に設けられていてもよい。加速度検出部114は例えば、静電容量型加速度センサ又はピエゾ抵抗型加速度センサ等であり、車両の前後方向及び車幅方向の加速度値を検出する。加速度検出部114は通信により検出した加速度値を所定の周期で制御部111へ出力している。所定の周期とは例えば、1マイクロ秒である。計時部115は例えば現在の時点における時刻を計時し、制御部111の要求に従って、計時結果を制御部111に出力する。
【0024】
図4は、車両前方において衝突が発生した場合の、乗員保護装置1の動作の一例を示すタイミングチャートである。
図4Aは乗員Aの体格が所定の体格(例えば胴部分の大きさ、重さ又は荷重)未満である場合におけるシートベルト10の拘束荷重(フォースリミッタ荷重又はウェビング引張力)の変化を示す図である。縦軸は拘束荷重の値であり、単位はN(ニュートン)である。横軸は衝突してからの時間であり、単位はミリ秒である。
図4Bは乗員Aの体格が所定の体格以上である場合におけるシートベルト10の拘束荷重(フォースリミッタ荷重又はウェビング引張力)の変化を示す図である。
図4Cは乗員Aの体格が所定の体格(重さ又は荷重)以上であり、かつ車幅方向の加速度値が所定の加速度値を超える場合におけるシートベルト10の拘束荷重(フォースリミッタ荷重又はウェビング引張力)の変化を示す図である。以下、
図4を参照しつつ、乗員保護装置1の動作の詳細を説明する。
【0025】
制御部111は加速度検出部114から加速度値を取得する。制御部111は取得した加速度値を所定の時間で積分する。所定の時間とは例えば2ミリ秒である。制御部111は積分した加速度値が所定の衝突閾値以上であるか否かを判定することで、車両が衝突したか否かを判定する。所定の衝突閾値とはエアバッグ13を作動させるべき外力が加えられた場合の車両前後方向の加速度値である。なお、本実施形態の制御部111は取得した加速度値を所定の時間で積分したが、これに限られない。例えば、制御部111は所定の時間における加速度値の平均値を算出してもよい。
【0026】
制御部111は加速度検出部114が積分した加速度値が所定の衝突閾値以上であると判定した場合、エアバッグ13の緩衝袋を膨張させる。制御部111は巻き取り残量センサ12iの巻き取り量から算出した乗員Aの体格(胴部分の大きさ等)又は圧力センサが検出した乗員Aの体格(重さもしくは荷重等)を取得する。その体格が例えば、ダミーのAF05(身長145cm、体重45kg)に示されるような体重40kg〜50kgである場合、乗員Aの体格は所定の体格未満であるため、制御部111は、スイッチ121によって拘束荷重(フォースリミッタ荷重)を第2荷重値に切り替える。拘束が始まると、リトラクタ12のフォースリミッタ機構によりシートベルト10の拘束荷重(フォースリミッタ荷重)が、第2荷重値に上昇する。すなわちリトラクタ12は乗員Aの体格が所定の体格未満である場合、シートベルト10の拘束を第2荷重値に強めることで乗員Aを適切に拘束する(
図4A)。
【0027】
また乗員Aの体格が例えば、ダミーのAM50(身長175cm、体重78kg)に示されるような所定の体格以上である場合、拘束の初期では、制御部111はスイッチ121を作動させず、拘束荷重(フォースリミッタ荷重)が、第2荷重値よりも大きい第1荷重値で乗員Aを拘束する。すなわちリトラクタ12は乗員Aの体格が所定の体格以上である場合、シートベルト10のフォースリミッタ荷重を第1荷重値に強めて乗員Aを拘束する。第1荷重値によるシートベルト10の拘束は強いため、シートベルト10で拘束された場合、衝突の後半にシートベルト10から受ける荷重が大きく上昇して、乗員Aに問題が発生する可能性がある。このため、エアバッグ13を作動してから所定の時間が経過した後、制御部111はスイッチ121により拘束荷重を第1荷重値から第1荷重値より低い第2荷重値へ切り替える。所定の時間とはエアバッグ13の緩衝袋が作動してから乗員Aの正面に展開し、乗員Aにエアバッグによる拘束が開始されるまでの時間であり、例えば、30ミリ秒から50ミリ秒程度である。リトラクタ12はシートベルト10の拘束荷重を第2荷重値まで下降させ、シートベルト10はそのまま乗員Aが車両の内装部分に衝突しないように第2荷重値の値で拘束を維持する(
図4B)。
【0028】
車両の前方方向の衝突が発生している状態で、車幅方向に受ける加速度により乗員Aが車幅方向に移動することが想定される場合、シートベルト10のフォースリミッタ荷重(拘束荷重)を緩めることで、衝突方向によってはシートベルト10から乗員が抜け出してしまうことがある。その場合、乗員Aは、エアバッグ13により保護される範囲から逸れてしまう。これを防ぐために、乗員保護装置1は以下の動作を行う。エアバッグ13の緩衝袋が十分に乗員Aの正面に展開した場合、制御部111は車幅方向の加速度値に基づいた値(加速度、速度、または距離)が所定の値(加速度、速度、または距離)以内であるか否かを判定する。制御部111は車幅方向の加速度値に基づいた値(加速度、速度、または距離)が所定の値(加速度、速度、または距離)以内でないと判定した場合、すなわち車幅方向の加速度値に基づいた値(加速度、速度、または距離)が所定の値(加速度、速度、または距離)を超えると判定した場合、所定の体格(例えば、NHTSA(National Highway Traffic Safety)の規格にて決められた前面衝突試験用人体ダミーHybridIIIAM50、身長175センチメートル、体重78キログラムの平均的な米国成人男性相当)以上の乗員に対してシートベルト10の拘束荷重を、衝突の時間的に後半であっても、第1荷重値に維持する(
図4C)。車幅方向の所定の値(加速度、速度、または距離)とは、シートベルト10から乗員が抜け出して、且つ、エアバッグ13の乗員正面の拘束面から乗員Aの体が逸れる可能性のある値(加速度、速度、または距離)である。
【0029】
図5〜6は本実施形態例における制御部111の処理手順を示したフローチャートである。制御部(加速度取得部)111は加速度検出部114から前後方向の加速度値を取得する(ステップS11)。制御部111は取得した前後方向の加速度値を所定の時間で積分する(ステップS12)。制御部111は積分した前後方向の加速度値が衝突閾値以上であるか否かを判定する(ステップS13)。すなわち制御部111は加速度値に基づいて車両が衝突されたか否かを判定する。制御部111は積分した前後方向の加速度値が衝突閾値以上でないと判定した場合(ステップS13:NO)、処理をステップS11に移し、加速度値が衝突閾値以上になるまで処理を繰り返す。制御部111は積分した前後方向の加速度値が衝突閾値以上であると判定した場合(ステップS13:YES)、エアバッグ13を作動させ(ステップS14)、処理を終了する。
【0030】
一方シートベルトの制御において、衝突を検知すると、制御部(体格取得部)111は巻き取り残量センサ12iの巻き取り量から算出した乗員Aの大きさ又は圧力センサが検出した乗員Aの体重または荷重から体格を取得する(ステップS15)。制御部(体格判定部)111は乗員Aの体格が所定の体格以上であるか否かを判定する(ステップS16)。制御部111は乗員Aの体格が所定の体格以上でないと判定した場合(ステップS16:NO)、すなわち乗員Aの体格が所定の体格未満であると判定した場合、スイッチ121により拘束荷重を第2荷重値に切り替え(ステップS17)、処理を終了する。
【0031】
制御部111は乗員Aの体格が所定の体格以上であると判定した場合(ステップS16:YES)、スイッチ121は作動させず拘束荷重を第1荷重値のまま維持する(ステップS18)。制御部111は計時部115により所定の時間が経過したか否かを判定する(ステップS19)。制御部111は計時部115によりエアバッグ13を作動してから所定の時間が経過していないと判定した場合(ステップS19:NO)、所定の時間が経過するまで待機する。ここで所定の時間とは、例えばエアバッグ13の展開がほぼ完了する時間である。制御部111は計時部115により所定の時間が経過したと判定した場合(ステップS19:YES)、加速度検出部114から車幅方向の加速度値を取得する(ステップS20)。制御部111は取得した車幅方向の加速度値を所定の時間で積分する(ステップS21)。制御部(加速度判定部)111は積分した車幅方向の加速度値が所定の値(速度または距離)以内であるか否かを判定する(ステップS22)。すなわち制御部(移動判定部)111は、積分した車幅方向の加速度値が所定の値(速度または距離)以内であるか否かを判定することにより、乗員Aが車幅方向に移動する可能性があるか否かを判定する。制御部111は積分した車幅方向の加速度値が所定の値(速度または距離)以内でないと判定した場合(ステップS22:NO)、すなわち乗員Aが車幅方向に移動したと考えられる場合、処理を終了する(
図4Cに相当)。制御部111は積分した車幅方向の加速度値が所定の値(速度または距離)以内であると判定した場合(ステップS22:YES)、すなわち乗員Aが車幅方向に移動しないと考えられる場合、スイッチ121により拘束荷重を第2荷重値に切り替え(ステップS23)、処理を終了する(
図4Bに相当)。
【0032】
一つの側面では、車両の前方の斜め方向からの衝突又は車両の前方の左右いずれかの端部に前方から衝突(スモールオーバーラップ衝突)等の衝突時に車両が回転するような力が生じる衝突や、車両の前方方向の衝突が発生している状態で車幅方向の加速度が生じた場合、もしくは車幅方向の加速度が生じた状態で前面衝突をした場合、乗員Aを適切に保護することができる。
【0033】
一つの側面では、車幅方向の加速度値を取得することで乗員Aに車幅方向の移動(速度または距離)が生じたことが的確に解る。なお、上記シートベルト10の制御では、積分した加速度の値から速度又は距離を閾値として使用したが、積分せずに加速度の値をそのまま閾値として使用しても良い。また、エアバッグ13の展開制御とシートベルト10の拘束制御は、上記例のように衝突信号をトリガとして同時にスタートしても良いし、レーダー等を用いる衝突予知が可能で衝突回避が不可能な場合には、シートベルト10の拘束制御を衝突直前からスタートするようにしてもよい。いずれにせよ、衝突の前後において、乗員を最大限保護できるように、シートベルト10とエアバッグ13それぞれが適切に制御される。
【0034】
実施の形態2
実施の形態2は車載カメラ116により乗員Aが車幅方向に移動しているか否かを判定する実施の形態に関する。以下本発明の実施の形態2をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。
図7は乗員保護装置1のハードウェア構成を示すブロック図である。本実施形態における車両は車載カメラ(撮像部)116を備える。車載カメラ116は車内を撮像するための撮像装置であり、例えばCCD(Charge-coupled device)カメラ又はCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)カメラ等である。車載カメラ116は撮像した動画をCAN通信により制御部111へ出力している。
【0035】
制御部111は車載カメラ116から動画を取得し、取得した動画に画像処理を行うことにより乗員Aが車幅方向に移動しているか否かを判定する。画像処理は例えば差分検出又はパターンマッチングである。差分検出とは画像の差分を検出することにより、画像内の物体が移動しているか否かを判定する手法である。パターンマッチングとは画像内にパターン画像と一致する画像が含まれているか否かを判定する手法である。本実施形態では画像処理としてパターンマッチングを用いる。制御部111は動画内の画像を所定の時間毎にパターンマッチングを行うことで乗員Aのパターン画像と一致する画像があるか否かを判定する。制御部111は乗員Aのパターン画像と一致する画像が所定の時間間隔毎に一方の車幅方向に移動していた場合、乗員Aが車幅方向に移動していると判定する。所定の体格以上の乗員Aを第1荷重で拘束中にエアバッグ13の緩衝袋が十分に乗員Aの正面に展開した後、当該乗員に対して制御部111は乗員Aが車幅方向に移動していると判定した場合、制御部111は拘束荷重を減じないように切り替えず、第1荷重を維持する。
【0036】
図8は本実施形態における制御部111の処理手順を示したフローチャートである。ステップS20〜S23以外の処理は上述の実施の形態1に係る情報処理システムと同様であるので、簡潔のため説明を省略する。制御部111はステップS19がYESであった場合、車載カメラ116から乗員のリアルタイムの画像(動画)を取得する(ステップS31)。制御部111は取得した画像に画像処理を実行する(ステップS32)。制御部(移動判定部)111は取得した画像を画像処理することにより乗員Aが車幅方向に移動したか否かを判定する(ステップS33)。制御部111は取得した画像の画像処理により乗員Aが車幅方向に移動しなかったと判定した場合(ステップS33:NO)、スイッチ121により拘束荷重を第2荷重値に切り替え(ステップS34)、処理を終了する(
図4Bに相当)。制御部111は取得した画像の画像処理により乗員Aが車幅方向に移動したと判定した場合(ステップS33:YES)、拘束荷重を維持し、処理を終了する(
図4Cに相当)。
【0037】
一つの側面では、車載カメラ116から動画を取得することで乗員Aが車幅方向に移動していることが的確に解る。なお、エアバッグ13の展開制御とシートベルト10の拘束制御は、上記例のように衝突信号をトリガとして同時にスタートしても良いし、レーダー等を用いる衝突予知が可能で衝突回避が不可能な場合には、シートベルト10の拘束制御を衝突直前からスタートするようにしてもよい。いずれにせよ、衝突の前後において、乗員を最大限保護できるように、シートベルト10とエアバッグ13それぞれが適切に制御される。
【0038】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。また、各実施の形態は、処理内容を矛盾させない範囲で適宜組み合わせることが可能である。例えば、乗員Aが車幅方向に移動しているか否かを検出するのは、エアバッグ13の展開が完了する前に、エアバッグ13の展開と平行して行われても良い。
【符号の説明】
【0039】
10 シートベルト
12P プログラム
111 制御部(体格取得部、体格判定部、加速度取得部、加速度判定部、移動判定部)
114 加速度検出部
116 車載カメラ(撮像部)
121 スイッチ(切替部)